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刀同士がぶつかり火花を散らす。
蛇のようにうねる太刀筋……刀身も特殊であり、その軌道は非常に読みにくい。だが、胡蝶しのぶは、初見で蛇の呼吸の型を全て防いでみせた。それだけなら、伊黒小芭内も納得できた。相手より技能が劣るだけだと。
だが、現実は違う。
胡蝶しのぶの圧倒的なパワー。刀がぶつかりハッキリした……まるで岩壁でも攻撃しているかのような手応え。
「伊黒さん、貴方ほどの人なら分かっているでしょう。銀治郎さんが人を食べていない事くらい。それに、変だとは思わないんですか? 何故、元・炎柱がいきなり現れたのか。隠居している人と裏方で鬼滅隊を支えた人、どちらの言葉が重たいか分かるでしょう?」
「五月蠅い。鬼討伐の邪魔をするなら、誰であっても容赦しない」
本気では無いとはいえ、胡蝶しのぶの攻撃をぎりぎりのタイミングで回避し続ける蛇柱は、有能である。だが、それも長くは続かない。
伊黒小芭内の息が上がってきたからだ。
「はぁ~、何故貴方達は理解してくれないんです。銀治郎さんが、何故鬼になる必要があったのか、少しは考えた事がありますか? 貴方達が着ている服や食事のお金は誰が稼いだ物だと思っているんです?」
「お館様のお金だ。それがどうした?」
胡蝶しのぶは、柱であってもその程度の認識かと落胆した。
裏金銀治郎は可能な限り表に出ないように手を尽くした。その為、過去に類を見ない功績を挙げても、全て無かった事にしている。よって、自ら率先して情報収集しない限り、彼の功績を見つける事は不可能だ。
蟲柱のようにどっぷり裏方に居ない限り、知り得ないのだ。
「いいえ、もう結構です。甘露寺さんに恨まれたくないので、避けてくださいね。本気で攻撃します。ココを狙いますからね」
胡蝶しのぶは、額をコツコツと叩き狙う場所を教えた。
伊黒小芭内は生まれて初めて背筋が凍るという感覚を理解する。上弦であっても対等以上に戦えるという自負を完全に打ち砕かれるレベルであった。胡蝶しのぶの挙動に全神経を集中した。気づかぬうちに"痣"まで覚醒させている。そうまでしなければ、次の攻撃を回避すらできないと本能が理解していた。
眼前から胡蝶しのぶが消えた瞬間、伊黒小芭内は反射的に頭部を右にズラした。
だが、胡蝶しのぶの日輪刀の先端は、的確に額の皮を刺している。少しでも胡蝶しのぶが前に刀を突き出せば、それで脳天がぶち抜かれる。
「なんだ、その速さ!! 一体、どんな手品だ」
「いえいえ、伊黒さんが遅すぎるだけですよ。――今の一撃は、同僚のよしみで止めました。ですが、次は止めません」
"痣"に目覚めていない胡蝶しのぶと"痣"に目覚めた伊黒小芭内。その力量の差は、客観的に見ても歴然であった。甘露寺蜜璃は、既に勝敗が決まったと判断する。元々、どちらかが殺される前に手を出すつもりでいた。
「伊黒さん、これ以上は無理です。しのぶ様も謝ればきっと許してくれるわ!! 裏金さんには、私からも頭をさげるから。なんだか、分からないけど絶対に勝てない気がするのよ」
「分かっている甘露寺。だから、他の柱が来るまで時間稼ぎをしている」
その時間稼ぎすらできないと、彼は分かっていない。
胡蝶しのぶは、透き通る世界を感じ取っている。服の上からでも的確に裏金銀治郎の急所を責める事で目覚めてしまった力であった。普段は夜の生活で重宝している能力であり、まさに能力の無駄遣いである。それを戦いに転用した結果、彼女を更に強くする。
「伊黒さん。私の私見では、銀治郎さんを討伐しようと考える柱は不死川さんと伊黒さん。黙認が宇髄さん、煉獄さん、時透さん、甘露寺さん。読めないのが、悲鳴嶼さんと冨岡さんです」
「だからどうした。それでも、やる事は変わらない」
伊黒小芭内は、懐から柱専用の緊急活性薬を取り出した。鬼との戦闘で負傷した際に利用する薬だが……下弦の鬼を材料に使った薬だ。治療だけでなく、肉体を強化するにも十分使える。
「へぇ、その薬を使うんですか。ご存じだと思いますが、鬼を材料にして作った薬ですよ。その原材料は、下弦の肆――私と銀治郎さんで捕獲した鬼です。伊黒さんが知らない所で、上弦だけでなく、下弦も討伐していたんですよ、私達」
「えぇーーー!! このお薬の材料って鬼だったの!?」
「当たり前でしょ。重傷の怪我を即座に治す薬が存在する訳ないじゃないですか~。伊黒さん、言っておきますけどその薬を使ったところで私には勝てませんよ。私は、毎日それより強い鬼を食べていますから」
伊黒小芭内は、裏金銀治郎を殺す為、目の前の障害を排除すべく刀を振るう。全ての型が先読みされたかのように防がれる……ならば、誰にも見せた事がない型で挑むしかないと考えた。未知の型ならば、胡蝶しのぶの守りを突破できると考えた。
だが、それは甘い考えだ。
胡蝶しのぶの血鬼術――"胡蝶の夢"。それは、数秒先の自分を今の自分に上書きする能力だ。未来の経験を自分にフィードバックさせる事ができる。つまり、あらゆる攻撃が彼女にとって既知になる。
「生け捕りは中止だ……蛇の呼吸 終ノ型 ――」
「あらあら、勝手に糞野郎の指示を無視するんですか。無理だと思いますよ~……だって、その攻撃
蛇のようにうねる軌道の刀。
防ぐ事が困難なその攻撃は、伊黒小芭内の絶対的な自信の象徴だ。だからこそ、音柱に上弦の陸程度を倒して負傷したことに文句を言ったのだ。確かに、それを言うだけの実力が彼には備わっている。
だが、相手が悪い。
胡蝶しのぶは、伊黒小芭内の日輪刀を指で白羽取りした。そして、力を込める。
「ば、バカな」
「酷いですね。お馬鹿さんは、伊黒さんの方じゃありませんか。どうしたんですか? 早く刀を引き戻さないとへし折っていきますよ」
胡蝶しのぶが親指に力を入れていく、刀身が軋む音と共にパキンと折れる。
その出来事に、甘露寺蜜璃までも息を飲んだ。筋力数倍の特異体質の彼女でも、指だけで日輪刀をへし折る事などできないからだ。
それからもパキンパキンとまるでカッターナイフの刃を折るかの如く、伊黒小芭内の日輪刀が短くなった。そして、付け根まで到達する。その様は、伊黒小芭内の心をへし折った。
「胡蝶、貴様も鬼になっていたのか」
「鬼は、貴方達でしょ。人でなし」
胡蝶しのぶは、その豪腕を振るう。
トラックに衝突したかのように、襖を何枚も吹き飛ばし三つ先の部屋で倒れ込んだ。ピクピクとカエルのように痙攣している事から、生きている事だけは分かる。胡蝶しのぶが、甘露寺蜜璃に配慮して情けを掛けたのだ。
「伊黒さーーーん!! 生きてる!? 生きてますよね!!」
「安心してください、甘露寺さん。当分は、入院生活でしょうが殺していません。後で、隊士が回収するでしょうから、貴方は予定通り鬼舞辻無惨を殺しに行きなさい。私達の目標はその男だけのはずです」
甘露寺蜜璃は、胡蝶しのぶの提案に乗った。
婚活目的で鬼滅隊にいる彼女にとって、美味しいご飯を沢山食べるシステムを用意してくれる人こそ正義である。なにより、裏金銀治郎が鬼であっても、大した問題だとは彼女は思っていない。
◇◇◇
上弦の壱……黒死牟を相手に柱達は善戦していた。
伝達された情報があったからこそ、最小の被害で対応できたといって過言では無い。だが、誤算があるとするならば、戦闘中に煉獄槇寿郎からもたらされた情報だ。
その衝撃的な情報のお陰で、煉獄杏寿郎は上弦の壱を目の前にして棒立ちしてしまう失敗をやらかしてしまった。そして、利き腕を失う大失態を晒してしまう。
「何をやっている煉獄!! 早く、腕を繋げてこい」
風柱が腕を回収して、後ろへ投げ飛ばす。柱専用の緊急活性薬ならば、再結合が可能だと分かっていた。それが例え鬼由来の物であっても使える物は使うという考えだ。
だが、煉獄杏寿郎の眼は死んでいた。
戦場のキャパ的に予備兵力として待機していた竈門炭治郎達が救護班の働きをする。
「煉獄さん!! 直ぐに止血の呼吸を」
「あぁ、竈門少年か。――悪いが、死なせてくれ。俺は、死んで詫びなければならない男だ」
その言葉で竈門炭治郎は、理解した。
先ほど全隊士向けに伝達された『裏金銀治郎の討伐命令と胡蝶しのぶの確保命令』。この場にいる者達は、目の前の上弦の壱討伐で手一杯だ。その命令に関して考えるのは後回しにしていた。
だが、後回しにできなかったのが煉獄杏寿郎だ。
「煉獄さんが、詫びる必要はないです。そんな事は、裏金さんも望んでいません!! 大丈夫です。俺とカナヲは、あんな命令に従う気はありません。よく分かりませんが、煉獄さんにとっても、裏金さんは恩人なのでしょ? だったら、生きてください」
「生きてくださいか。聞いてくれるか、俺の父親は……胡蝶しのぶの姉である胡蝶カナエを酔いつぶしホテルに連れ込もうとした。それを殴って止めたのが裏金殿だ。それから――」
心が弱っている煉獄杏寿郎は、洗いざらいをぶちまけてしまった。それを聞く側となった救護班組。誰もが少なからず裏金銀治郎と接点があり、彼が切腹を止めたことをよくやったと思っていた。
「大丈夫です。煉獄さん、切腹すべきはその糞野郎です。裏金さんからは、無惨を倒して欲しいと言われているんですよね。だったら、それで恩を返しましょう!! 大丈夫ですよ、裏金さんは、俺が知る限り最高の大人ですから」
竈門炭治郎は、妹である竈門禰豆子を人間に戻してくれた最大の功労者への恩を忘れない。
狂信者ほどではないにしろ、誰についていくかと言われれば答えは一つしかない。今まで全ての問題を完璧にクリアしてきた男の実績を正しく評価しているのだ。
「……そうだったな!! スマン竈門少年!! この俺が引導を渡してやらずしてどうする。これでは柱失格だな。穴があったら入りたい!!」
竈門炭治郎は、柱一人のやる気を取り戻し現場復帰させるという偉業をやり遂げた。
裏金銀治郎に恩を返したいと思う竈門炭治郎。だが、それにはもう一つ理由があった……神崎アオイの一件について、鎹鴉経由で連絡があったのだ。手紙の送り主は、当然裏金銀治郎だ。
内容は、『竈門炭治郎君へ、神崎アオイが君の子供を妊娠している。今は、私の実家で匿っているが栗花落カナヲに知られたら、どうなるだろうか。私としのぶさんの説得なら、彼女も受け入れてくれるだろう。君には期待しています、竈門炭治郎君』であった。
その手紙を見た瞬間、竈門炭治郎の運命は裏金銀治郎のさじ加減一つで決まる事が決定した。裏金銀治郎を信仰する信徒が新たに誕生していたのだ。
「そうです!! 煉獄さん、一緒に頑張りましょう!!」
どんな手を使ってでも味方を鼓舞して鬼を倒す。清らかな心を持った昔の竈門炭治郎は何処にもいない。
"胡蝶の夢"は、しのぶさんの夢的な意味じゃなく……中国の思想家による説話を元ネタにしています。エッチな夢じゃないのですよ!!
そろそろ、鳴女とエンカウントしそうです。
完結後に外伝的な話を投稿を計画しております。読者の皆様がどれを読んでみたいか是非教えてください。言うまでもないかもしれませんが、全て、しのぶさんが絡んできます!! 基本的に数話程度に纏める予定です。※アンケートの〆 1/5日(日)24:00までになります。 ※アンケート結果で一番投票数が多い一つを執筆予定です。同数近い場合は、一考しますが2)と3)の両方投稿はありません。
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2)時間跳躍のバイアグラ(50話後書き)
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3)時空淫界のドグマ(52話後書き参照)
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