鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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57:ずっと俺のターン

 裏金銀治郎は、無限城内部を駆け抜ける。

 

 徐々に、鳴女による転移も限界に達し、追い詰めるまであと一歩まで迫っていた。そして、その道中に懐かしい顔と再会を果たした。

 

「おや、これは珠世さん。ご無沙汰ぶりですね。お元気そうでは……なさそうです」

 

「裏金銀治郎、やはり鬼になったのですね。さぁ、早く私ごと無惨を殺してください。今しか、あの男を倒すチャンスはありません」

 

 珠世は、運が良いと思った。

 

 この場に最初に辿り着いたのが元・柱であり鬼舞辻無惨を殺せる力を持つ男だったからだ。それが鬼であっても、些細な問題であった。それに、鬼であれば鬼舞辻無惨を殺せば死ぬのだから、裏金銀治郎が鬼であっても問題では無いと考えている。

 

 だが、現実は違う。新たな鬼の始祖であり、鬼舞辻無惨が死んでも裏金銀治郎は滅びない。そんな事実を彼女は知らない。

 

「やはりって、失礼ですね。それに、貴方も聞こえていたでしょう。私は、鬼滅隊から切り捨てられました。鬼舞辻無惨が、どうなろうと知ったことでは無い。そうですよね、産屋敷輝利哉(・・・・・・)

 

 裏金銀治郎は、長年付き添った鎹鴉の頭を撫でながら問いかけた。彼の鎹鴉は、頭が良く、鬼滅隊ではなく甲斐甲斐しく世話をしてくれていた裏金銀治郎へ鞍替えしている。

 

 愈史郎の血鬼術も既に手中に収めている裏金銀治郎は、自らが作った交信用の札を鎹鴉に取り付けていた。

 

『裏金さん!! 父の仇を』

 

「あぁ、耀哉君との約束は果たそう……だが、それは今では無い。全てが終わったら、しのぶさんと一緒に挨拶に行くから楽しみに待っていろ」

 

 裏金銀治郎は、交信用の札を破壊した。

 

 そして、珠世に手を振って部屋を退出する。遠くで、「お願い戻ってきて!! 」など美人さんからのお誘いがあるが、無視する男であった。そもそも、鳴女の確保前に鬼舞辻無惨を殺しては、血鬼術が確保できない。だから、できない相談なのだ。

 

………

……

 

 ベベンと琵琶の音が鳴り響く時間が終わった。

 

 そして、畳の上に靴で立つという日本人にあるまじき行為をしている裏金銀治郎。彼の目の前に、黒い和服を着た鬼女が一人……上弦の弐である鳴女が、静かに時を待っていた。

 

「初めまして、鳴女。私は、裏金銀治郎と言う者だ。詳しい紹介は必要かね?」

 

「いいえ、元上弦の弐様からお話は聞いておりました。無惨様からも……貴方が本物なのですね」

 

 勝手に偽物を用意して、本物に本物ですかとは失礼極まりない。そもそも、裏金銀治郎自身も偽物を用意するなら、獪岳ではなくもう少しマシな駒を用意できなかったのかと文句が言いたいほどであった。

 

 あれでは、自分の品格が落とされると。

 

「逃げないのかね鳴女。鬼とはいえ、無抵抗の女性を殺すのは些か心苦しい」

 

「顔が笑っていますよ、裏金銀治郎。逃がす気が無いのに酷い男です」

 

 誰だって笑顔になる。

 

 最高の血鬼術が手に入るのだ。これで、将来安泰になるだけでなく、鬼舞辻無惨への切り札にもなる。誰もが油断する今だからこそ、裏金銀治郎は鳴女の挙動を見逃さないように注意する。

 

 彼女は有能だ。最後に手を抜いては痛手を被る可能性がある。

 

「鬼舞辻無惨が解毒を終えるまで時間があるだろう。助けは来ない……遺言があるなら聞いておこう」

 

「来世は、芸者になりたいわ」

 

 鳴女の本音であった。

 

 鬼舞辻無惨に目を付けられ、鬼となった彼女。本来であれば、音楽の道を進んで生計を立て普通の人生を送っただろう。平凡な人生こそ彼女の願いであった。

 

「生まれ変わってもアンブレラ・コーポレーションがあれば、訪ねてくるといい。歓迎しよう。では、鳴女……恨みは無いが死んで貰おう」

 

 裏金銀治郎の手が女の胸を貫いた。鳴女の能力と血を回収する。みるみるうちに鳴女が崩れていく、その最中、彼女が一枚のチケットを差し出してきた。裏金銀治郎は、最後の贈り物と思い受け取ってしまう。

 

「ありがとう、受け取ってくれて。使う機会が無かったのよ――それ、捨てられない呪いが掛かっているから」

 

 安らかな死を迎えた鳴女。

 

 無限城は、そのまま裏金銀治郎へと主導権が譲渡され、崩壊せずに済んだ。だが、裏金銀治郎の手に残る一枚のチケット……"おめこ券"。裏金銀治郎は、一瞬、鳴女が相手かと思ったが、チケットの詳細をよくよく確認したら相手が鬼舞辻無惨だと知り、今朝食べた朝ご飯が逆流してきた。

 

「オオォォォエエエ!! 鳴女ーーー!! 貴様、謀ったなぁぁぁぁぁ」

 

 最高の血鬼術という贈り物をくれた彼女、だが同時に最低の贈り物をくれた彼女……裏金銀治郎の中では、最高に有能から最低の女へと評価が一新される事になる。

 

 

 裏金銀治郎の叫びを聞いて、神の下へ参上する狂信者が一人……我妻善逸である。上弦の参を相手に無傷で勝利を収め、獪岳の血液を持ってきた有能だ。

 

(裏金銀治郎)、神の名を騙る愚か者を処理して参りました。これは、回収した獪岳の血液でございます。雷を強化する血鬼術でしたので回収して参りました。それと、ご命令を頂けるのでしたら、地上へ赴き煉獄槇寿郎と産屋敷一族をこの手で討ち滅ぼしましょう」

 

 我妻善逸の怒りは鎮まらなかった。鬼滅隊にあれほど尽力した裏金銀治郎を、このタイミングで切り捨てるなど許しがたい所行である。勿論、世間一般的に神の所行は一般人には理解できない所がある事実も分かっている我妻善逸。

 

 だからといって、鬼舞辻無惨との最終決戦の場で味方の戦力を削る愚行をする組織など見限るべきだと結論づけていた。幸い、嫁達に関しても神の力があれば安全地帯に避難できる事も分かった今、鬼滅隊という悪の組織に未練など一つもなかった。

 

「よくやりました、善逸君。私は、これから無限城の完全掌握に入ります。5分程、ココを動けないでしょう。私が能力を十全に行使するため、この伸ばした縄を回収してください。部屋と部屋の境界にあると転移ができません。後、可能であれば上弦の壱が使っている刀身の一部を回収してください。まだ、持っていない血鬼術です」

 

「承知致しました、神!! それと、鬼滅隊の隊士達はいかが致しましょう」

 

 "痣"に覚醒した我妻善逸ならば、隊士が束になっても敵わないのは明白だ。裏金銀治郎が、道中に出会った隊士を全て殺せと言ったら喜んでその刃を振るう。それでは、有能な俗物隊士まで殺されてしまう。

 

 この時、一部隊士の中で鬼滅隊に見切りを付けて裏金銀治郎に乗り換えようとする動きが水面下であった。そもそも、元・炎柱とか産屋敷とか一般隊士からしてみれば誰だそれレベルだ。現場レベルで知り得る人の中で、権限が一番高い裏金銀治郎の方が何倍も信頼がある。

 

「放っておきなさい。彼等の中にも、私に賛同する者達がいます。見た目で判断する事は、難しいでしょう。一人一人問いかけて回るには時間の無駄です」

 

「はっ!! では、吉報をお待ちください」

 

 我妻善逸が神速の速度で縄の回収を始める。

 

 徐々に転移先が解放されていくのが裏金銀治郎には手に取るように分かった。これが、無限城を管理していた血鬼術なのかと。

 

 

◇◇◇

 

 地上にある産屋敷輝利哉がいる拠点では、今も無限城の図面が引かれていた。だが、ある時を境に、一部隊士達が一箇所に固まって籠城の構えを見せ始めた。いち早く、鬼舞辻無惨の場所へ赴き殺さなければならないのに何をしているのだと考えていた。

 

「あそこで固まっている隊士で一番位が高いのはだれだ?」

 

「近衛幸村隊士です、お兄様」

 

 付近の鬼を殲滅したにも関わらず何をしているのか、問いただす事にした産屋敷輝利哉。

 柱級では無いにしろ、これだけの一線級の実力者が鬼舞辻無惨の下へ辿り着けば、倒しきれないにしても十分なダメージが与えられると確信があった。

 

 "柱稽古"は、無駄では無かったと自らの英断を内心で褒めていた。

 

『近衛幸村隊士、廊下を出て右に進んでください。二つほど進んだ先の部屋を――』

 

『悪いが、お断りだね。今更だが、誰だよ。子供の声じゃん。後、さっきの伝達でも元・炎柱? 安全地帯から良いご身分だね。元・柱でも現場で鬼退治をして俺達を助けてくれた人だっているのにな~』

 

 命がけの現場で突然子供からの命令だ。今の今まで必死すぎて疑問に思わなかったが、落ち着いたら色々と変だと気がついた有能な俗物隊士達。有能だからこそ、気がついてしまった。下弦級の鬼を倒した際に支払われる特別報償金の存在について。

 

『僕は、産屋敷輝利哉です。産屋敷耀哉に代わり鬼滅隊を纏めている者です。ですから、指示に従ってください。貴方達の近くに鬼舞辻無惨がいます』

 

『……分かった、詳しい場所を教えてくれ』

 

  産屋敷輝利哉は、一時はどうなるかと思ったが、話が通じて良かったと思っていた。そして、鬼舞辻無惨の位置や復活が近い為、なるべくダメージを与えて欲しいと伝えることに成功した。

 

『恐らく、珠世という女性の鬼が取り込まれようとしております。可能であれば助け出してください』

 

『おぃ、みんな聞いたか!? 裏金様は切り捨てて、珠世という鬼は助けろだってさ。怖い怖い、無惨が復活する前にさっさと離れよう。場所は聞いたから逆に行けば良いだろう』

 

 産屋敷輝利哉は、理解できず硬直してしまった。

 

 鬼滅隊の隊士は、鬼舞辻無惨という巨悪を打倒する為、命を懸けて闘う者ではないかと本気で思っていた。俗物は、裏金銀治郎のようなごく一部だけだと思っていたのだ。だが、事実は違う。

 

『待ってください!! 今が、絶好のチャンスなんです。身動きが取れない鬼舞辻無惨が直ぐそこにいるんです』

 

『だからに、決まっているだろう!! 鬼舞辻無惨が万が一目覚めたら俺達が全滅するのは確実だ。現地に向かわせるなら柱にしろ。その位も分からないのか』

 

 現場隊士と総指揮官は完全に話が平行線となってしまった。

 

 指示を出す側としては、今がチャンスというのは間違いない。だが、柱到着までの時間稼ぎの捨て駒になれと命じられ、分かりましたと命を捨てられる程、彼等は従順な犬ではない。

 

『今、動ける柱が居ません。お願いします』

 

『居たけど、あんたらが金柱様と蟲柱様を切り捨てたからだろう!! 本当にいい加減にしてくれよ。悪いが、命あっての物種だ。だが、仕事だから貰う物は貰う。下弦級の討伐報酬は、家一軒か3万円だったよな。この場に居る20人で100体近く倒しているから精算を期待している』

 

 12鬼月の撃破は、柱になる条件の一つだ。本来、滅多に支給されないこのシステム……それが、無限城では大盤振る舞いとなる。当然、現状の鬼滅隊の財政で支払えるはずもない。

 

 産屋敷輝利哉は、そんな制度を知らない。だが、事実存在している。

 

 救いを求めるかのように煉獄槇寿郎を見る産屋敷輝利哉。それに応えるかのように、頼もしい大人がお館様に代わり、隊士へありがたい一言を贈る。

 

『全隊士に連絡する。鬼滅隊の隊士でありながら、鬼側に与する不届き者が居る。これから名を上げる隊士は、鬼として処理するように。なお、彼等を一人倒せば報償金1万円を煉獄槇寿郎の名で約束しよう。近衛幸村、天堂サクラ、伊集院栄司、神薙命――』

 

 挙げられる名前は、一般隊士ならば一度は聞いた事があるような者達であった。その者達の殆どが、"柱稽古"の突破上位達通過者達であった。

 

 煉獄槇寿郎が司令塔に居る限り、煉獄のターンは、終わらない。

 

………

……

 

 竈門炭治郎は、必死に煉獄杏寿郎を止めている。

 

「落ち着いてください、煉獄さん!!」

 

「竈門少年、やはり俺は切腹して詫びるべきだろう」

 

「いい加減にしろ、煉獄!! あの化け物は頸を落としても死んでないんだぞ。さっさと持ち場につけ!!」

 

 またしても、全隊士向けの放送を耳にして煉獄杏寿郎が自決に走っていた。しかも、頸を落としてもまだ動く上弦の壱を目の前に棒立ちになる。そして今度は両足を失う大失態をやらかす。柱専用の緊急活性薬がなければ、死んでいただろう。

  




おや、そろそろ無惨さんが目を覚ます!!

呪われたアイテム……"おめこ券"。捨てても何故か懐に戻ってくる人知を超えたアイテム。裏金銀治郎の血界でも消し去れない程のパワーが秘められている。これを消滅させるには、作った本人を殺すしか無い。

コレを頸に巻けば、日輪刀で切られる事も無いでしょう……生き恥をさらす覚悟が必要ですけどね。

年末年始はちょっとだけお休み予定。
ここ数日頑張ったから許してクレメンス。

完結後に外伝的な話を投稿を計画しております。読者の皆様がどれを読んでみたいか是非教えてください。言うまでもないかもしれませんが、全て、しのぶさんが絡んできます!! 基本的に数話程度に纏める予定です。※アンケートの〆 1/5日(日)24:00までになります。 ※アンケート結果で一番投票数が多い一つを執筆予定です。同数近い場合は、一考しますが2)と3)の両方投稿はありません。

  • 1)NHK特番(東洋のジャンヌダルク)
  • 2)時間跳躍のバイアグラ(50話後書き)
  • 3)時空淫界のドグマ(52話後書き参照)
  • 4)キメツ学園~JK3年生の夜の部活動~

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