鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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いつもありがとうございます。
感想も本当に執筆意欲が沸き嬉しい限りです。




66:恥を知れ

 裏金銀治郎は、この上なく機嫌が良かった。彼の鬼滅隊時代に、色々と頭を悩ませてくれた筆頭の風柱・不死川実弥。戦闘力という面では、歴代最高の柱の名に恥じない。だが、鬼滅隊の中でも物損額が一桁違う男であった。

 

「不死川実弥さん、母親の次は弟ですか。あなたは、罪な男だ。おや、いつもの憎まれ口が聞こえないとは……さすがに、心がへし折れましたか。貴方は、稀血ですから無惨に食われる前に外で死んでください。ここで死なれたら迷惑です」

 

「俺が弟を……俺が弟を」

 

 最後の肉親に手をかけてしまい不死川実弥の心は、へし折れてしまった。

 

 肉体を再生した鬼舞辻無惨が稀血と聞いて、栄養補給を試みる。ラスボス戦で敵側がパワーアップなんて展開を許してはならない。鬼舞辻無惨は、異常者である鬼滅隊の柱を可能なら食べたくなかった。元仲間を纏めて殺そうとするわ、無関係な仲間を巻き込む攻撃をするわで、食ったら腹を壊すんじゃないかと思うほどであった。

 

 だが、栄養価の高い稀血は消耗を回復させる最高の食事である事は変わりない。

 

「最期は自宅に送って差し上げます。毒で死ぬか、自害するかお好きにどうぞ」

 

 裏金銀治郎が指をパチンと鳴らし、地上に不死川実弥を送った。

 

 蛇柱と風柱が無惨戦から抜けた。その負担は、岩柱と水柱にのしかかる。中立派の柱は、後方に退避を始め、裏金銀治郎と一緒に戦う為、準備を始めていた。緊急活性薬や新しい隊服、水分補給なども完璧である。戦う前より万全な状態へとなりつつあった。

 

「ちっ!! 貴様がぁぁぁ!! 貴様が無限城を奪ったのか。それは、私の物だ。死ねぇぇぇぇぇ」

 

「この能力は、鬼舞辻無惨には勿体ない。私の方が有効活用できます。それに、貴方の呪いが、私に効くはずないでしょう」

 

 鬼舞辻無惨は、裏金銀治郎に対して呪いを発動させた。だが、その効力は発動しない。新しい鬼の始祖であるとは、想像する事ができない。

 

「貴様も呪いを外したのか……いいや、そもそも貴様を鬼にした覚えはない!!」

 

「まさか、無惨以外にも人を鬼にする事ができる者がいるのか!! 裏金殿、あなたは、誰に鬼にされた」

 

 悲鳴嶼行冥が鬼舞辻無惨の言葉に反応した。悲鳴嶼行冥は、裏金銀治郎の後輩にあたる。その為、先人の柱である男に対して敬意を忘れない……それは、鬼であってもだ。

 

 残りの命がほとんど残っていない悲鳴嶼行冥としては、人間を鬼にできる存在こそ危険だと理解していた。裏金銀治郎がただの鬼であるなら、鬼は増えない……ならば、本当に倒すべきは裏金銀治郎を鬼にした存在である。

 

「え、しのぶさんだけど。身動き取れないように拘束されて、地下室に何日も監禁されました。検査と称して、色々搾り取られ死にかけました」

 

「どうして、そんな誤解されるような言い方をするんですか!? 悲鳴嶼さん、確かに私が銀治郎さんを鬼にしましたが、それは事情があったんです。鬼がいないと鬼滅隊の人達が路頭に迷ってしまいます。だから、銀治郎さんが必要悪になる必要がありました。ちなみに、銀治郎さんからの提案だったんですよ」

 

 胡蝶しのぶにとって、悲鳴嶼行冥は命の恩人であった。彼がいなければ、胡蝶カナエと胡蝶しのぶは鬼に食われて人生を終えていただろう。だからこそ、彼女は、真実を教えた。だが、人を鬼にできる技術を持つと認識され、胡蝶しのぶの危険度は一気に跳ね上がる。

 

 もちろん、それは冨岡義勇や鬼舞辻無惨も同じく危険度の認識を改めた。

 

「胡蝶しのぶ先生が人を鬼に!? 本来、殺すつもりだったが気が変わった。貴方がいれば、竈門禰豆子に頼らずとも太陽を克服できる可能性がある。私と一緒に来い!! そうすれば、鬼滅隊の者達を全員助けても構わない」

 

 胡蝶しのぶは、鬼滅隊でも替えが利かない。鬼の生態に一番詳しい彼女がいれば、時間をかけて研究する事で太陽を克服する方法も発見できるだろう。それを本能的に理解して、鬼に誘う鬼舞辻無惨は、女になってから無駄に冴えていた。

 

「そんな誘いに乗るはずないでしょう。私は、銀治郎さんにどこまでも着いて行くって決めています」

 

「蟲柱、人を鬼にできる技術……それは、秘匿可能なのか」

 

「安心してください。私と銀治郎さんで隠匿します。露見するようなら手段は選びません」

 

 その言葉に、悲鳴嶼行冥は安堵した。技術は日進月歩。永遠の存在となった二人が、その技術を守ると宣言した。だが、裏金銀治郎は鬼の始祖として鬼を増やす事ができるとまでは、伝えない。

 

「安心した。裏金殿、鬼は討たねばならない……だが、私の命もここまでのようだ。柱としてではなく、あなたの後輩として最後のお願いをしてもよろしいですか、裏金先輩(・・)

 

「全く、都合の良い時だけ先輩と言う男だとは知りませんでした。ですが、最後くらい先輩らしい事をするのも悪くありません。いいですよ、どんな願いでも一つだけ叶えてあげましょう」

 

 裏金銀治郎と悲鳴嶼行冥は、先輩と後輩の間柄である。スタートが早かった裏金銀治郎は、悲鳴嶼行冥より先に柱になった。それは鬼討伐にも恵まれ、下弦と運よく巡りあったことも起因している。

 

「小夜という女性がいる。彼女に私の資産を譲り渡してほしい」

 

「確か、生き残りの少女でしたね。彼女の証言で、無実の罪で捕まったのに人が良いですね。探し出して譲り渡しましょう。てっきり、無惨を殺してくれというかと思っておりましたが、違うんですね」

 

「それは、頼まなくてもやってくれるのでしょう。お館様の仇が死ぬところを見れないのは残念です。後は、頼みます」

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥、彼こそ継国縁壱を除けば最強であった。だが、人間の枠を出ない限り毒に侵されて死ぬ。その命を使って鬼舞辻無惨の急所を潰す覚悟は、素晴らしい。途中で心が折れた風柱も見習うべきである。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶは、冨岡義勇の最後の言葉を確認していた。文字通り最後の命を燃やして頑張る岩柱。その陰で、見逃しやすいが冨岡義勇も奮戦している。

 

「冨岡さん、貴方はどこで死にたいですか? 悲鳴嶼さんは、ここで無惨と刺し違えるつもりです。それなりに長い付き合いなので最後くらい言葉を聞いてあげますよ。でも、愛の告白とかはやめてくださいね。私は、銀次郎さん一筋なので」

 

 自意識過剰ではないかと思われる発言をする胡蝶しのぶ。だが、鬼滅隊の柱で女性は二人だけ……口下手である事を理解してくれている女性である胡蝶しのぶは、冨岡義勇にとって最も身近な女性であったのは間違いない。

 

「手伝え」

 

 鬼舞辻無惨は、裏金一派にはまだ攻撃の手を伸ばしていない。手を出せば、それをきっかけに新たな勢力との開戦の幕が開く可能性があるからだ。その為、鬼舞辻無惨としてもまずは、岩柱と水柱を潰す事に専念している。

 

「そういう言葉足らずのところが嫌われるんですよ。どうせ、『鬼は、殺す』といった言葉も、真意は他にあるんでしょう。そういうの止めた方がいいです」  

 

「俺は、嫌われてない」

 

「冨岡さーーーん!! それじゃダメです!! (裏金さん)は、その真意がわかっていても正しく口にしないと絶対に助けてくれません。特に、しのぶさんに近い男性ならなおのことです。俺は、冨岡さんに死んでほしくありません。どうか、正しく伝えてください」

 

 見るに堪えなくなり竈門炭治郎が声を荒立てた。竈門炭治郎は、冨岡義勇に返せないほどの恩がある。鬼であった竈門禰豆子を守る為に命をかけてくれた事、鬼滅隊に入隊を勧めてくれた事、那谷蜘蛛山で命を助けてくれた事など沢山の事がある。

 

 だが、今の竈門炭治郎には守るべき者が増えすぎた。生まれてくる子供の為にも、最大限の助力はするが、身を守ることを最優先にする大人だ。

 

「いつまで茶番を続ける気でいる!! 貴様等は、命をかけてこの私を倒しに来たのではないのか。それなのに、途中乱入してきた者達ばかりに目を向けおって!! 戦いにおける最低限の礼儀も知らぬのか」

 

「本当にその通りだと思いますよ。戦うと決めたからには最後まで付き合うべきですよね。あぁ、私達は今戦っている柱が死んだら挑みますので。その位がちょうどよい時間(・・)ですから」

 

 鬼舞辻無惨の言葉に賛同する裏金銀治郎。

 

 後ろに退避した柱達も思わず鬼舞辻無惨の意見に賛同しかけた。こんなグダグダな最終決戦になるなど誰も予想できない。しかも、半分は女になって現れた鬼舞辻無惨のせいだが、残り半分は仲間割れをしている鬼滅隊が原因だ。

 

「俺は、討伐派ではない。裏金銀治郎と対話をした後に討伐すべき鬼であるかを判断すべきだと言った。理解していたはずの不死川が、なぜあのような蛮行に及んだのかはいまだに理解できない。だから、裏金銀治郎……貴様に問いたい。貴様は、人を食う鬼か?」

 

「違いますよ。鬼を食い物にした人間ではありましたけどね。別に人間を食わなくても生きていくすべはあります。この平和の世に鬼という存在は必要ないとすら思っているほどです。だから、私としのぶさんが最後の鬼となり世間の陰でひっそりと暮らす予定です」

 

 裏金銀治郎の計画では、胡蝶しのぶも鬼の始祖として生まれ変わる予定である。あの地下室で行われた淫靡な日々を胡蝶しのぶに行う事だけが今から楽しみで仕方がないとすら思っていた。胡蝶しのぶも存外楽しみにしている。

 

 そして、裏金銀治郎が収集した血鬼術の中に、戦闘では全く役に立たない見た映像を鮮明に残しておく事ができる絶対記憶能力的な物がある事を胡蝶しのぶは、まだ知らなかった。

 

「ならば、鬼を討伐!!」

 

「つまり、この期に及んでも敵対すると」

 

 理解してもらえたと思っていた裏金銀治郎。だが、冨岡義勇からいまだに鬼を討伐するという返答が返ってきた。現状の戦力でも裏金銀治郎は、鬼舞辻無惨を滅ぼせる。だが、柱という戦力は多いに越した事はない。

 

「人の話をよく聞け!! 何度も同じ事を言わすな!! 鬼であっても人を食わない鬼ならば、討伐する必要はない。鬼になったのもそれなりの理由があるのも理解した。確かに、鬼滅隊という特殊な環境にいる我々だ。鬼がいなくなった世では生きにくいだろう。それを考慮して、鬼にまでなった自己犠牲の精神は感服する。貴様のせいではないかもしれないが、一部隊士を手にかけた事実も存在する。その者達に家族がいる場合は、必ずそれ相応の償いをするならば、俺から手を出す事はない。そして万が一、裏金銀治郎が人を食う鬼となる可能性も否定できない。ならば(・・・)こそ()俺は生き残る必要がある。だから、俺もお前達と一緒に()舞辻無惨を討伐(・・・)する」

 

「分かるわけないだろう!! 貴様等、鬼滅隊の柱は、みんなこうなのか。戦闘力だけで柱に抜擢されるからこうなるんだぞ。恥ずかしくないのか、お前等の同僚がこんなので!? なぜ、敵側の私がこんなツッコミや指摘を入れてやらねばならん。恥を知れ」

 

 キレッキレの鬼舞辻無惨。

 

 だが、それに反論できる鬼滅隊の者は誰もいなかった。冨岡義勇は、裏金銀治郎の味方である事を宣言し、命が助かる事になる。だが、同時に、柱としての尊厳は落ちる結果となった。

 




冨岡義勇が生存した。だが、これだと岩柱が一人死ぬ……かわいそうだけど、これも運命だ。
一緒に死ぬはずだった風と蛇があんな死に方になったからね。




PS:
メイドインアビスの劇場版を見てきた作者、そして簡単に感化されたしまう。裏金銀治郎とボンドルドって仲良くなれそうな気がする。同じくらい、胡散臭さから!! 同族嫌悪で仲たがいもあり得るけどね。
裏金卿……ふむ、次回作の候補にしておこう。

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