鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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 岩柱・悲鳴嶼行冥……彼の死に様は、鬼滅隊の柱として恥じない物であった。

 

 相打ち覚悟の特攻で無惨の脳と心臓を同時に潰す。だが、既に臓器が回復している為、倒すには至らない。それで十分だ。

 

 鬼舞辻無惨の体力は、確実に低下している。再生速度が目に見て落ちてきていた。

 

「悲鳴嶼と言ったな。貴様は、誇ってよい。この私をここまで手負いにさせたのは、二人目だ」

 

「無念」

 

 崩れ落ちる悲鳴嶼行冥。

 

 裏金銀治郎は、悲鳴嶼行冥でなければ液体窒素や爆弾を抱えて死ねと平然と言っただろう。そして、敵に接近したところでリモート爆破。それを機に徹底的に攻め倒す。その程度はやってのける男である。鬼を殺す為に死ぬなら本望だろうと、言える男だ。

 

「悲鳴嶼行冥さん、あとは我々に任せてください。お疲れ様」

 

 裏金銀治郎の言葉を聞き、安心した顔で息を引き取った。

 

 悲鳴嶼行冥が稼いだ時間は決して無駄ではない。その間に、戦闘で傷ついた柱は全快し、装備も充実。裏金銀治郎の血液から作った特製の緊急活性薬のおかげで身体能力まで向上した。

 

 流星刀、赫刀、爆血刀――鬼相手のメタ装備を前に鬼舞辻無惨も血の気が引き始めた。特に、流星刀は彼女としても嫌な予感がヒシヒシするほどだ。鬼としての本能が、アレはまずいと感じ取っている。事実、裏金銀治郎も殺せる数少ない兵器である。

 

「ようやく真打の登場といったところか。貴様等は、血も涙もない異常者の集団だな。仲間を助けもしないとは、あきれて言葉が出ない」

 

「私はその異常者から追放された身なので、仲間とは言えないでしょう。ですが、元同僚であったことは事実ですので、先ほどの戦いで色々と無様な所を見せてしまった事はお詫びします」

 

 頭を下げて謝罪する裏金銀治郎。

 

 鬼を前にしても礼儀を忘れない。先ほどまでの、鬼なら絶対殺すと粋がる柱と違い理性的な相手だと思った鬼舞辻無惨。だからこそ、対話の余地があると考えた。

 

「貴様達に提案だ。私は、貴様が鬼であっても殺す事ができる。貴様も、私を殺す手段を持っている。お互いが全力で戦えば、どちらかが死ぬまで戦う事になる。ここは、痛み分けで終わらせようじゃないか」

 

「実に、素晴らしい提案です。ですが、一つ勘違いをされています。戦いとは同じレベルの者同士でしか起こらないという事です。本来ならば、私はこの場に来なくても貴方を処理する事は造作もありませんでした。朝日が昇ると同時に外に投げ出せばいい。それなのに、なぜここに来たかわかりますか?」

 

 生殺与奪の権を裏金銀治郎が握っている状態。無限城を押さえている限りこれは不変。それは、この場にいる全員が疑問に思っている事であった。裏金銀治郎の性格からして、最後まで正体を明かさず相手を殺す事の方が性に合っている。

 

「私に会いに来たのだろう」

 

 髪をかき上げて乳房を強調する仕草にイラっとする裏金銀次郎。女体化した鬼舞辻無惨は、世間一般的に見ても美人だ。だが、声が男という恐ろしい存在。

 

 だが、その答えは正解であった。

 

「その通り。私は、感謝を伝えに来たんです。貴方が作った鬼は、本当に役に立った。食らえば、不老長寿と身体能力強化。すり潰せば、薬になる。鬼滅隊の隊士の食事なり様々なことに役になった。鬼滅隊は、産屋敷耀哉の認可の下で鬼を材料にした薬を売りさばいて運営費に充てていた」

 

「き、貴様は何を言っている」

 

 鬼舞辻無惨も馬鹿ではなかった。そこまで言われれば、柱達が使っていた謎の薬の正体に気が付く。そして、人間の醜悪さを改めて認識した。ただ食うより遥かに業が深い。鬼を家畜か何かと勘違いしているとすら感じる狂気である。

 

「鬼を倒すべき鬼滅隊は、実は鬼によって財政を支えられていた。資金源となる鬼を大量に作ってくれた貴方に心からの感謝を。色々と不幸な事もあったが、結果的に、私は胡蝶しのぶという最愛の女性と結ばれたのも鬼のおかげであろう」

 

「昨日の敵は、今日の友という諺がある。ここは、過去の事は水に流して、目の前の鬼を倒すべきではないだろうか。ハッキリいって、裏金金太郎(・・・)の異常性は、群を抜いている。それが分からない者達ではあるまい」

 

 冴えわたる鬼舞辻無惨は、裏金銀治郎の異常性をネタに柱達を勧誘する。

 

 その程度で動じる隊士はここにいない。そんな事を鬼舞辻無惨に言われなくても今更である。だが、その気持ちは重々わかると誰しもが言いたくなった。

 

「おぃおぃ、なんか無惨のいう事に派手に同意したくなってきたぞ。確かに、裏金さんがやってきた事は……緊急活性薬、ローション開発や新しい隊服、鬼を酩酊させる薬とかか。なんで、これだけの事をやっているのに評価されてねーんだ」

 

「鬼滅隊では、鬼を殺す能力が問われますからね。鬼滅隊では、評価されない項目ですからね。それに成果のほとんどは、しのぶさんにツケていました。目立つと、色々と目を付けられますので」

 

 鬼の討伐数で給料と昇格が決まる組織だ。つまり、その手助けをする道具を開発したところで評価対象にはならない。

 

「まて!! 貴様等の隊服素材は、鬼を使っているな」

 

「はい、下弦の肆を生きたまま捕獲しましたので薬の材料だけでなく、皮を剥いで隊服の裏地にさせてもらいました。鬼の皮膚組織は、硬い上に何度も取れる極上の素材です。上弦級の攻撃でなければ、この服を貫通させる事はできませんよ」

 

「流石、(裏金銀治郎)!! 俺達には、思いつかないような事を普通にやってのけるなんてすばらしい」

 

 人の皮を被った鬼と言った方が適正な存在である裏金銀治郎。

 

 だが、その程度は表に出せる序の口の実験であった。鬼の不死性解明実験、鬼の交配実験、分裂実験などなど様々だ。当然その研究の責任者は、鬼の生態と薬学に詳しい胡蝶しのぶである。裏金銀治郎は、アイディアと資金準備をするという分担作業をしていた。

 

 泣いて許しを請う鬼を切り刻む女医姿の胡蝶しのぶに、裏金銀治郎もタマヒュンであった。

 

「そろそろ、脳と心臓の再生も終わったでしょう。言い残す事があるなら、聞き届けます。貴方達、鬼という存在のおかげで人は進化した。その恩は、感謝しきれません」

 

 呼吸法がそのよい例である。人間の限界を超えた力を引き出す事が可能となった。後世にまで残れば、更に改良が進められる。そして、誰もが呼吸法を極める世界が間もなく訪れる。通勤時間往復2時間超え、勤務時間12時間超えという一日の大半を仕事で拘束されても、呼吸法のおかげで死ねない世界ができる。

 

 そう、21世紀の人間は、みな誰しも呼吸法を極めている。そうでなければ、過酷な労働でみな死ぬ。つまり、鬼舞辻無惨という鬼が生まれなければ、日本人……ひいては、全人類の大半が過労死している。彼は、殺した人間以上の人を救った英雄なのだ。

 

「私を倒せるチャンスをふいにした事を後悔させてやる。先ほどまでのようには、いが……なっゴッホゴホ」

 

「おやおや、ようやく効いてきましたか。やはり、鬼の始祖ともなれば、効力を発揮するまでに時間がかかりましたね。あらあら、目玉が取れていますよ。早く治さないと」

 

 鬼舞辻無惨の目玉が溶け落ちた。それをきっかけに、髪の毛が抜け落ち、歯もボロボロと崩れ落ち始める。すぐに再生を始めるが、崩壊は止まらない。

 

 その様子を確認して、煽る胡蝶しのぶ。彼女が開発した"藤の毒"が鬼の始祖でも十分効果がある事が証明される。その様子に開発者としても気分がいいものであった。例え、その毒を摂取させる方法が非人道的であったとしても、尊い犠牲で終わる。

 

「あれは、どうなっているんだ!! 一体、無惨に何が起こっている、胡蝶」

 

「簡単ですよ、煉獄さん。隊士達には、"柱稽古"の際に錠剤にした"藤の毒"を食事後に服用させていました。つまり、隊士の肉体は鬼にとっては猛毒です。並みの鬼なら即死。上弦であっても、数人分も食べれば殺せるでしょう。無惨は、いったい何人の隊士を食べたんでしょうね」

 

 煉獄杏寿郎も聞いたのはいいが、ドン引きであった。

 

 最初から食われる前提で隊士の肉体を毒にしておくなど、悪魔の所業。その話を聞いて、柱達も不安に駆られた。自分達が食べていた食事も"藤の毒"が混ぜられており、知らない間にホウ酸団子にされていたのではないかと。

 

「貴様等は、味方を餌にそんな事までしていたのか!! だが、この程度の毒、すぐに解毒してやる」

 

「できるものならどうぞ。ですが、再生と解毒を同時にやるのは貴方でも厳しいですよ。さぁ、出番ですよ!!」

 

 体力を回復した柱達が、この機会を逃さないと刀を強く握る。

 

 その柱達を迎え撃つ為、鬼舞辻無惨も触手を伸ばす。近づけるわけにはいかない。解毒に体力を持っていかれている時に、赫刀で肉体を削られると再生にごっそりと力を持っていかれる。

 

 ガチャン

 

 銃に弾が込められる音が無数に響く。聞き覚えのない音に、事情を知らない柱達が首を傾げた。誰もいない場所から確かに音が聞こえた。裏金銀治郎が転移してきたと同時に、目くらましの術が使われた俗物有能隊士達が軽機関銃を携えて時を待っていた。

 

 二丁だけでも、かなりのダメージを与えた軽機関銃が、20台近くが配備されたこの状況。鬼一匹をひき肉にするには十分な物量であった。

 

「あ、これ派手にやべーやつじゃねーか!! 」

 

「あぁ、皆さん。アレを倒せばボーナスをさしあげましょう。鬼滅隊の維持は不要ですから、期待してよいです。そうそう、今回の弾は日輪刀を溶かして作りました。数が少ないので最終決戦でしか試し撃ちもできませんでした。ここで、問題です――熱と圧力で変化する特性が分かった今、この弾を食らえばどうなるでしょう」

 

 暫定的に命名するならば赫弾と呼ぶにふさわしい。やはり、銃は刀より強い。何の手も加えずに赫刀と同じ属性が付与できる。

 

 裏金銀治郎が腕を振り上げる。そして、『放て』という一言で一斉に銃口が火を噴いた。狭い空間で耳を覆いたくなるような銃声。鬼特攻の凶弾が無惨に放たれた。

  




21世紀では、呼吸法は一般的になっています。
だから、長時間働いても滅多に働いても死なないんですよ。



無惨を討伐した後、鬼滅隊へのお礼参りが始まる。
当然、産屋敷ひなき 改め 胡蝶ひなきを迎えに行く。

裏金「パパですよ、ひなき」

よし、これでいこう!!


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