鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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68:鬼舞辻無惨

 火薬と硝煙の匂いが充満する。

 

 鬼特攻の弾丸は、その威力を発揮し鬼舞辻無惨の再生力を著しく落とす。鬼滅隊1000年の怨敵がボロぞうきんだ。鬼舞辻無惨は、防御に専念する。しかし、所詮は血鬼術―赫弾の前には意味をなさなかった。

 

 "おめこ券"こそが最強の防御術だと気がつけば未来は変わっていただろう。

 

(裏金銀治郎)、俺達は何をすればいいんでしょうか」

 

「無惨は、肉片からその身を再生した過去があります。飛び散った肉片を流星刀や赫刀で完全に抹消してください。後は、銃を持った隊士を守るのが我々のお仕事です」

 

 鬼舞辻無惨は、想定外の攻撃に死の恐怖を感じていた。

 

 彼女は、鬼として生きた長い時間で銃という存在を脅威と感じた事はない。その理由が、日輪刀の様な鬼を殺す道具ではない事、連続使用が出来ない事、銃口から当たる箇所が予測できる事などだ。

 

 しかし、文明は発達した。威力も連射性能も日進月歩だ。唯の人間が銃を使うだけで、上弦の硬い外皮すら破壊出来る。それだけなら良かった。そこに、貴重な日輪刀を溶かして弾丸とする男がいるとは、鬼舞辻無惨も想像できない。

 

「ねぇ、金柱……お館様の仇をこの手で殺したいんだけど」

 

「先ほどまで、命がけで闘っていたじゃありませんか。一応、お気持ちは理解できます。弾幕をかいくぐって無惨までたどり着ける自信があるなら構いません。攻撃の手は止めませんから、自己責任でお願いします」

 

 時透無一郎が赫刀を片手に苦情を伝える。

 

 他の柱達も同様な思いを抱いていた。男として、柱として、自らの刀で鬼舞辻無惨の頸を落としたいという気持ちでいた。しかし、彼等だけではそれが叶わない事も事実。先ほどまで、鬼滅隊最強の岩柱、蛇柱と風柱まで居ても倒せなかった。

 

 裏金銀治郎の勢力が居なければ、お館様の仇を殺せずに終わっていた可能性が高い。

 

「そこを何とか頼む、裏金殿!! なんでもやるぞ!!」

 

「うん!? 何でもやるっていったよね!? 本当なら頼むのは心苦しかったんですが、煉獄杏寿郎さんはコレを投げ込んでください。肉片となっている無惨には効果的です。更に逃亡妨害の効果も見込めます」

 

 裏金銀治郎がパチンと指を鳴らすと、業務用ローション2Lのボトルが大量に現れた。"藤の毒"が配合されており、普通の鬼ならば即死レベル。本来の鬼舞辻無惨ならば、この程度をものともしないが飛び散った肉片には効果的だ。

 

 更に、細かい肉片が集合し大きくなる事も阻害できるという実に有能な道具だ。

 

「わかった、任された!!」

 

 何かとローションに縁がある煉獄杏寿郎は、快く引き受けた。ローションに命を救われ、ローションで鬼舞辻無惨を殺す。

 

 炎柱がせっせとローションを投げ込む様子をみて、いたたまれなくなった他の柱も手伝いを申し出た。鬼舞辻無惨の触手攻撃は、時間が経つにつれてドンドン手数が減り、かまぼこ隊だけでも十分対応できるレベルになっていた。

 

………

……

 

 カチャカチャと軽機関銃が弾切れを告げる。

 

 鬼舞辻無惨の姿は、本当に肉塊であった。散り散りになった肉片が脳に向かって集まるあたり、生命力の凄まじさが窺える。だが、それだけだ。集まった肉は、結合しようと努力するがローションによってそれが拒まれる。

 

「金柱様、任務完了です」

 

「ご苦労。君達は、とても優秀。では、地上に送り届けます。仕事の報酬は、私の屋敷で渡すので、訪ねてきてください。希望者は、今後の職斡旋もして差し上げます。少なくとも生活に困らない程度の給料は期待して良いです。それでは、また後で」

 

 俗物有能隊士達は、勝ち馬に乗った事を喜んでいた。

 

 彼等は、分かっていた。鬼が居なくなった世の中で、一体どうやって金を稼いで暮らしていけば良いのか。今まで助けた人達の伝手で再就職すら考えていた。学歴的にも再就職に不安があったが、その不安まで一気に解決した。

 

 俗物有能隊士達は、感謝の言葉を述べ地上へと送られる。

 

「鬼を殺すぞ」

 

 冨岡義勇が、やっと出番かと思い肉片となった鬼舞辻無惨を相手に意気込む。他の柱達も、やるせない気持ちでいた。こんな肉片を相手にする為、今まで死ぬほど訓練し何度も死線をくぐり抜けてきたのかと。

 

 だが、それが現実だ。

 

「意気込んでいるところ悪いですが、隊士達がいないので肉片の掃除はもう結構です。小さい肉片は、彼等にとって危険な物でしたからね~。集まった塊には、近付かずにこの液体を掛けて凍らせてください」

 

「ほら、冨岡さん。水柱なんですから、液体を掛ける仕事もお似合いですよ。その液体窒素……間違っても人に掛けたらだめですからね。壊死します」

 

 胡蝶しのぶから液体窒素を受け取り、変顔をしながら液体窒素を肉片に掛けていく冨岡義勇。彼が望んだ鬼退治への協力はこんな形ではなかった。もっと、熱く激しい戦いであった。

 

「なぁ、裏金さんよ。凍らせてどうするんだ? まさか、喰ったりしないよな?」

 

「宇髄天元さん、いくら私が鬼喰いをした事があるからって怒ります。あんなの食べたら食あたりするでしょう。凍らせたら太陽の下で灰にします。赫刀でも殺せると思います。ですが、耀哉君が太陽でしか殺せないと勘で言っていたので念の為ね。天国に居る耀哉君もその方法で鬼舞辻無惨を殺したのなら安心でしょう」

 

 先代お館様を耀哉君と呼ぶ裏金銀治郎。

 

 その事に首を傾げる者もいた。だが、自分達と同じかそれ以上に仲が良かったのだろうと察する。

 

◇◇◇

 

 胡蝶しのぶは、甘露寺蜜璃の容態を確認した。

 

 鬼舞辻無惨の毒で死ぬ寸前だった彼女を胡蝶しのぶは、助けた。中立であったが、裏金銀治郎を害する気持ちが全くない彼女であったから救われたのだ。勿論、完全な慈善活動では無い。

 

 甘露寺蜜璃の特異体質である筋肉数倍という特性は、失うには惜しい。神に愛された肉体だ。その神秘は解明されるべきである。勿論、知り合いである為、人道的に研究が行われる。研究される彼女としても、美味しいご飯を食べて胡蝶しのぶの診察を受けるだけで食うに困らない給料が貰えるのだ。お互い幸せになれる。

 

 ペチペチと胡蝶しのぶが彼女の頬を叩く。

 

「う~ん、もう食べられません」

 

「……なんてベタな寝言を言うんでしょうね。彼女らしいと言えば、彼女らしいけど」

 

 胡蝶しのぶは、凍結された鬼舞辻無惨の成れの果てを確認した。

 

 その無様な姿は、ハッキリ言って惨いの一言だ。だが、一切の同情はわかない。この程度の報いは当たり前だ。

 

「産屋敷一族の方は、もっと早く銀治郎さんみたいな人を採用すべきだったと思うんですよ。そうすれば、1000年も鬼舞辻無惨と闘うなんて事は無かったでしょうに」

 

「えっ、イヤだよ!! あんなのが、他にも居たらそれこそヤベェーーーだろ!! しのぶが居なかったら、制御不能だぞアレ」

 

 嘴平伊之助は、産屋敷一族同様に勘が非常に優れている。その勘は、正しい。胡蝶しのぶや産屋敷耀哉が居なければ、裏金銀治郎は今以上に制御不能であった。誰しもが危惧した通り、第二の鬼舞辻無惨となっていた可能性は大きい。

 

 しかも、鬼舞辻無惨より遙かに倒しにくい存在になっていたのは明白だ。

 

「伊之助君、私の旦那をアレ呼ばわりしていると……潰しますよ」

 

「ア、ハイ。ごめんなさい」

 

 蛇に睨まれたカエルの如く萎縮する嘴平伊之助。

 

 口は災いの元である。素直な彼は、言って良い事と駄目な事の区別が付いていない。怒られる事で彼は学び同じ失敗は繰り返さない。

 

 我妻善逸が刀から手を離した。信仰する神に対する侮辱は、例え同期であっても許されない行為である。嘴平伊之助は、確かに強い。独自の呼吸法を編み出し、勘も優れている。だが、勘で攻撃されると察知しても肉体の反応速度がそれに追いつかなければ意味をなさない。

 

 

◇◇◇

 

 無限城の外で夜が明ける。

 

 液体窒素で名前の通り無残な姿に変えられた鬼舞辻無惨。人の姿で死ぬ事も出来ない。上弦や下弦の誰かが生き残っていれば、助けてくれたかも知れない。だが、そんな仲間は何処にもいない。

 

 氷漬けにされ一箇所に集められた残骸に近付く、裏金銀治郎。

 

『ア゛アァ』

 

 氷漬けにされた内部から必死に声を上げる鬼舞辻無惨。だが、声帯の復元が完全で無い為、醜い鳴き声にしか聞こえない。

 

「おやおや、まだ意識が保てるなんて素晴らしい生命力です。ですが、そんな状態で意識があるのは、さぞ辛いでしょう。しかし、もう大丈夫です」

 

「銀治郎さん!!」

 

 突然、胡蝶しのぶが声をあげた。

 

 彼女の血鬼術が未来をフィードバックさせた。その未来には、裏金銀治郎の全身に半ば復活した鬼舞辻無惨が取り付いている姿が見えた。

 

「分かっていますよ、しのぶさん。無限城の内部は、既に私のテリトリーです」

 

 床板を突き破り、再生途中の鬼舞辻無惨が飛び出てきた。そして、裏金銀治郎に抱きつく。目的はただ一つ、このまま裏金銀治郎を取り込み無限城ごと手に入れる算段だ。

 

 彼女は、軽機関銃で攻撃される中、不利を悟り肉体の一部を床下に避難させていた。そして、少しずつ再生を繰り返し時を待っていた。

 

「油断したな!! これで、私を排除する事は出来なくなったぞ!!」

 

 太陽を浴びれば鬼は死ぬ。

 

 鬼舞辻無惨の発想は正しかった。密着してしまえば、外に転移させられる事は防げる。転移すれば、裏金銀治郎ごと灰になる――太陽を克服していなければ。

 

 太陽を克服している事実を知らない者達は焦った。裏金銀治郎が取り込まれてしまえば、今度こそ勝機が失われる。裏金銀治郎を救うには、赫刀で鬼舞辻無惨だけを綺麗に切り離す必要がある。だが、少しでも手元が狂えば、鬼の始祖である裏金銀治郎を傷つける。

 

「分かりました。では、共に夜明けを見ましょう」

 

 裏金銀治郎は、鬼舞辻無惨と一緒に太陽をみるイベントを実行する事を決意。

 

 裸のラスボスと朝日を見るなど……濡れ場だ。ただし、血液でヌルヌルというのが難点であった。

 

「ダメだ、裏金殿!! 幾ら強くても太陽の前じゃ!! 絶対に俺が助ける。まだ、恩を返せていない」

 

「そうだぜ、裏金さん。あんたが死んだら、再就職先を探すのが大変なんだから困るぜ。直ぐに、無惨を切り落としてやる」

 

「全く、詰めが甘いよ金柱。いいよ、動かないでね」

 

 炎柱、音柱、霞柱が今度こそ!! と、思い刀を握りなおす。

 

 その様子に、胡蝶しのぶは同僚の柱達が盛大に思い違いして、恥ずかしい台詞を言っている事に申し訳ないと心苦しかった。裏金銀治郎が指を弾こうとする様子をみて、柱達が『早まるな!! 絶対に助ける』と叫ぶのを聞くと耳を塞ぎたくなる彼女であった。

 

 パチン

 

………

……

 

 美しい太陽の光が周囲を照らす。見渡す限り何もない平野。逃げも隠れも出来ない場所に、裏金銀治郎と鬼舞辻無惨と肉片、柱達の全員がこの場に転移した。

 

「ギャーーーーー」

 

「綺麗な朝日ですね。折角、私がこうして付き合ってあげたんです。喜んでください」

 

 鬼舞辻無惨が太陽に焼かれて崩れ落ちていく。

 

 激しい痛みと苦痛が鬼舞辻無惨を襲う。だが、彼女は疑問だった。同じ鬼であるなら、裏金銀治郎も太陽のもとで焼かれるはずだと。なのに、一切の変化がない。何故なのか……有能となった彼女は気がついてしまった。

 

「貴様貴様貴様ぁぁぁぁーーー!! 太陽を克服しているな!!」

 

「弱点を克服しておくのは種として当然の行いです。貴方の夢も力も私が引き継ぎます。どうぞ、安心して死んでください」

 

 鬼舞辻無惨は、生まれて初めて悔し涙を流した。

 

 最初から最後まで完全に弄ばれていたのだ。それに気がついた今、彼女の心は悔しさで一杯であった。だが、手も足も出ない……死ぬまで時間も残されていない。

 

「くそぉぉ!! くそぉぉーー………」

 

 1000年の時を生きた鬼舞辻無惨。鬼の始祖にして、日本に多大な迷惑と貢献をした鬼がこの時滅びを迎えた。そして、連鎖的に無惨産の鬼が滅びる。

 

「耀哉君、約束は果たしましたよ。では、引き続き、()退治をしにいきましょう」

 

 裏金銀治郎達は、産屋敷の別宅に移動した。

 

 

 




今、パパが迎えに行きますからね~。

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