鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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69:パパですよ、ひなき

 鬼滅隊の当主産屋敷輝利哉は、無限城に潜った隊士達が誰一人帰ってこない事に焦りを覚える。愈史郎が死んだせいで、内部の状況が不透明であり鬼滅隊側が有利なのか、鬼側が有利なのか読めないでいた。

 

 だが、彼としては鬼滅隊側が有利と信じていた。歴代最高の柱達と鍛えられた隊士達をほぼ全投入した殲滅戦。これで負ければ、後が無い。

 

 産屋敷一族は、有能な血筋である。それぞれ得意分野がある。産屋敷耀哉は、人心掌握が神がかっていた。勿論、産屋敷輝利哉も優れている。10歳に満たない子供が仕事効率はどうあれ、裏金銀治郎が行っていた事務作業が出来ていたのだ。彼の能力は、裏方特化であった。後数年も彼の下で学べば、十分通用しただろう。

 

「お兄様、朝日が昇りました」

 

「分かっている。このままでは、埒があかない。裏金さんが、入り口を開放したままにしていたので、そこから残った隊士を投入する。ひなきお姉様には……いない」

 

「お姉様でしたら、だいぶ前に部屋を退出しました」

 

 産屋敷ひなきは、胡蝶しのぶの下に養子に出された彼の(胡蝶ひなき)だ。数居る子供の中で、彼女が選ばれた。その理由は、実に単純明快だ。彼女が一番理性的で有能であったからだ。

 

 そして、その事を今、産屋敷輝利哉も察した。

 

◇◇◇

 

 朝日が照らす産屋敷の別宅前に、裏金一派が勢揃いしていた。

 

 鬼滅隊の悲願を達成した英雄達の帰還だが、その迎えは警備をしている隊士だけ。当然、その隊士は目を疑いたくなる。煉獄槇寿郎によって、殺害命令が出された裏金銀治郎と柱達が一緒に帰ってくる。しかも、太陽が照らす場所を平気で歩いているのだ。

 

 騒がれる前に宇髄天元が警備の意識を刈る。

 

「随分と派手な別宅じゃねーか。よく、こんな金があったな。鬼滅隊って金欠じゃなかったのか、裏金さん」

 

「耀哉君が自爆特攻するからというので、別宅を建設しておりました。ですが、これは些か贅沢し過ぎです。一般家庭並にすると言う事で認可したのですが――いつから、一般家庭は日本庭園や錦鯉がいるまで生活水準があがったんでしょうね」

 

 産屋敷輝利哉の中での一般家庭は、自分にとっての一般家庭という意味であった。つまり、今まで暮らしていた家や神職である母方の実家が基準となっている。世間の学校に行っていないため、常識が備わっていなかった。

 

 裏金銀治郎達は、新築された別宅に足を踏み入れる。広い屋敷内を彼が先頭に進む。

 

「銀治郎さん、ひなき様に手荒な事はしないであげてください。恐らく、何も知らなかったんでしょう。ですから、慈悲の心を持ってくださいね」

 

「しのぶさん、私は家族を大事にする男です。義理とは言え、しのぶさんの娘。つまり、私の娘でもあります。見ていてください、私の溢れんばかりの父性をもって娘を許し、迎え入れる姿を」

 

 殆どの者が思った……不安しかないと!!

 

 今までやってきた事を鑑みて、裏金銀治郎の口から出た父性だとかが信じられる筈も無い。寧ろ、率先して折檻する姿が映る。だが、嗅覚や聴覚が優れた者にはその言葉が真実だと分かる。だからこそ、素晴らしい大人だと認識した。

 

(裏金さん)は、立派な人です。でも、家族とはいえ、血のつながりはありませんでしたよね」

 

「炭治郎君、家族とは血の繋がりのみを言うのでしょうか?私はそうは考えていません。慈しみ合う心がヒトを家族たらしめるのです」

 

 まるで聖人君子の様な言葉を平然と言う男……裏金銀治郎。

 

 だが、その言葉はあまりにも素晴らしくその場に居る誰もが感動した。疑ってしまった汚い大人であったと自己嫌悪し始める。

 

「銀治郎さん。ひなき様の事を任せても良いのですね?」

 

「勿論です」

 

 絶対的な自信を見せる裏金銀治郎。

 

………

……

 

 胡蝶ひなきは、産屋敷の家に残った金品を一箇所に集めていた。母親の着物や宝石類、土地や建物の利権証など彼女が知る限りの物全てだ。だが、これだけ集めても所詮は二束三文にしかならない。勝手に使い込んだ裏金銀治郎の私費分にも満たない。

 

 足りない分は、どうするか……幼い彼女に残された手は、身売りしか無かった。幸い、両親が美形のお陰で、容姿は約束されている。吉原に売った場合でも、良い値段がつくのは間違いない。

 

 両親より託された産屋敷一族の存命。今回の出来事で、弟妹の生存を当てに出来ない以上、頑張れるのは胡蝶ひなきを除いて誰もいなかった。

 

 屋敷の中に複数の足跡が響く。一直線に部屋に向かってくる足音とリズム……彼女の中で恐怖が募る。

 

 彼女は、胡蝶しのぶが崩壊した倫理観を持ち、裏金銀治郎の為ならば、鬼にも悪魔にもなれる女だと知っている。

 

 彼女は、裏金銀治郎が敵対者には容赦しない崩壊した倫理観を持ち、胡蝶しのぶの為ならば鬼にも悪魔にもなれる男だと知っている。

 

 本来であれば、もっと良い面にも眼を向けるべきだが難しかった。彼女の置かれた状況は、それほどまでに窮地である。今の彼女の心境は、死刑台を上る受刑者に等しい。

 

 カタと音を立てて襖が開かれた。そこには、何事も無かったかのような顔をする裏金銀治郎とその仲間達がいた。裏金銀治郎が胡蝶ひなきにゆっくりと近付き両手を広げる。

 

「パパですよ、ひなき」

 

 人の皮を被った鬼とも揶揄される裏金銀治郎の口から、『パパ』という想像の斜め上をいく言葉を耳にした胡蝶ひなき。裏金銀治郎と胡蝶ひなきの接点は、限りなく薄い。戸籍上の娘とはなったが、会話した事すら殆ど無い。

 

 そんな男性から、いきなり『パパ』と言われ混乱した胡蝶ひなきは、心を開くどころか。SAN値を振り切り、食べた物が逆流した。

 

「う゛ぉぉぉえぇぇぇ」

 

 まるで、腹を思いっきり殴られて嘔吐したかの如く胃液を撒き散らす彼女。集められた衣服に掛かり酷い惨状だ。

 

「裏金殿!! いくら何でもその仕打ちはあんまりだ!!」

 

「金柱、やっぱり鬼だね」

 

「裏金さん、もうちょっと自分の立場を分かって発言しようぜ。忍者の俺だって恐怖したくらいだ、子供には……」

 

「やはり、鬼か」

 

 炎柱、霞柱、音柱、水柱が言いたい放題だ。

 

 裏金銀治郎としては、くそ真面目だった。慈愛の心をもって、義理の娘を優しく抱擁するつもりでいた。

 

「おかしいですね。しのぶ、パパですよ~」

 

「パパ!! ……って、なにやらすんですか!?」

 

 裏金銀治郎の胸に飛び込みそうになったが、ココが何処なのかを思い出し我に返る。胡蝶しのぶは、父性に飢えていた。幼い頃に両親を亡くし、母親代わりの姉はいたが父親代わりは居ない。

 

 だからこそ、そういうプレイにド嵌まりしたのは仕方が無い事だ。その頻度は週に2、3回ほどだ。おかげで、色々と捗っていた。

 

「私の想定では、ひなきもこうなる筈だったんですがね。やはり、一人で心細かったんでしょう。もう大丈夫ですよ、これからは私がついていますから」

 

 裏金銀治郎が吐瀉物で汚れたひなきを抱きしめた。

 

 胡蝶ひなきが、裏金銀治郎に得体の知れない恐怖を感じる瞬間だ。

 

 

◇◇◇

 

 胡蝶ひなきと金品を無事に回収した裏金銀治郎。

 

 最後の最後で裏切りを見せてくれた、産屋敷の当主に会うべく裏金銀治郎は足を進めた。だが、その道中を拒む者が一人。

 

「止まれぇぇぇ!! この先の部屋には、お館様がおられる。一体、何用だ」

 

「これは、元・水柱鱗滝左近次さん。私は、元・金柱の裏金銀治郎です。お見知りおきを。てっきり、煉獄槇寿郎さんも居ると思っていましたが、いずこに?」

 

 別宅には、元・柱が二人居ると裏金銀治郎は思っていた。

 

 だが、気配を探っても近くに居るのは彼一人。既に逃亡したと考えるのが妥当である。

 

「お主が……鬼だな。だが、煉獄なら、蝶屋敷へ向かった。あそこには、戦えない隊士が多く居る。守れる者が必要だ。安心しろ、元柱がいれば並の鬼など相手にならぬ。それよりもなぜ、冨岡と炭治郎がそちら側にいる。無惨は、どうした?」

 

「鱗滝さん!! 今は、それどころじゃありません。蝶屋敷には、きよちゃん、すみちゃん、なほちゃんがいる!! (裏金さん)

 

 焦る竈門炭治郎。

 

 今までの煉獄槇寿郎の行動から、碌でもない事になる可能性は否定できない。寧ろ、碌でもない事が起こっている可能性の方が高かった。大変お世話になった女性を守るべく立ち上がる男達がいる。竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助だ!!

 

 そして、もう一人名乗りを上げる者がいる。炎柱の煉獄杏寿郎。

 

「分かっています、転移させますので頼みましたよ。それと、煉獄さん、貴方にアレが討てますか? 少しでも躊躇するようなら邪魔になります」

 

「見損なうな、裏金殿!! 俺の血縁者は弟だけだ!! 鬼は、狩る。それだけだ」

 

 良い眼をする煉獄杏寿郎。

 

 蝶屋敷がどのような惨状なのか定かでないが、事態に関係なく鬼を討つことを心に決める。これ以上、罪を重ねる前に討つ事が彼にできる最後の親孝行であった。

 

「万が一に備えて、保険(・・)は配置しておりましたが……頼みましたよ、みなさん」

 

 彼等を送り出す裏金銀治郎。

 

 それを見た鱗滝左近次は、最大限の警戒をする。指を弾くだけで何処へでも人を飛ばせるならば、今この瞬間に頸を落とさなければお館様を守れないからだ。だが、勝ち目がある戦いでないのは明白だ。

 

 歴代最高の柱が何人も裏金銀治郎側にいる。自らの刃が届く前に殺されるのが関の山である事も彼は承知している。

 

「鱗滝さん、そこに裏金さんが来ているんですね!! 通してください」

 

「分かりました」

 

 産屋敷輝利哉が裏金銀治郎との対話を望む。

 

………

……

 

 堂々とした態度で裏金銀治郎と対面する産屋敷輝利哉と彼の妹達。お高い座布団は、ずいぶんと座り心地が良さそうであった。

 

「無惨は、どうなりました?」

 

「私が、それを君に教える必要も義理も無い。もしかして、私がまだ鬼滅隊の一員で元・金柱とでも思っているなら、一度死んだ方が良い。もはや、君と私は何ら関係ない他人だ」

 

 産屋敷輝利哉が助け船を求めて、裏金銀治郎側にいる柱達に眼をやる。

 

 だが、それに呼応する者は誰も居なかった。あの水柱でさえ沈黙を守っていた。

 

「では、裏金さんは、私に何を望みますか? 可能な限り、お応えします」

 

「てっきり、謝罪の一つでも頂けると思ったのですが……まぁ、良いでしょう。私は、鬼滅隊を首になった身です。正直、最終決戦で切り捨てられるだけではなく、味方であった隊士に斬りかかられる気持ち、貴方達には理解できないでしょう。それに、人様が居ない時に勝手に私費を使い込むとか、軽く犯罪です。寧ろ、どう責任を取るつもりか聞かせて頂きたいですね」

 

 鬼滅隊の状況は、控えめに言っても最悪である。

 

 明日食う飯にも困る惨状だ。しかも、これから生き残った隊士が続々戻ってきて、怪我の治療や給料を求める。現状の鬼滅隊に、その対応は不可能だ。無い袖は振れない。

 

「産屋敷が保有している土地や家の権利を売って……足りるでしょうか」

 

「足りませんね。それに、土地や家の権利は既にひなきから貰いました。恐らく、君が探しても、金になりそうな資産は残っていないでしょう。で、足りない分の補填は?」

 

 どう考えてもお金の捻出は不可能。

 

 そもそも、鬼滅隊は、誰かの依頼でお金と引き替えに鬼を殺していたわけでは無い。完全な慈善事業で鬼退治をしていた。

 

 今のスポンサーは、アンブレラ・コーポレーション一社のみ。そのトップ二人を勝手に切り捨てて、命まで狙ったのだ。どう考えても、スポンサーを続けてくれるわけがない。

 

「ぶ、分割で返済する方向でお願い致します」

 

「分割? 面白い冗談を言いますね。一体、どこから分割支払いするお金を調達するんですか? まさか、返済すべき相手に借金の申し込みでもするんですかね? あまり、大人を舐めない方が良い」

 

 人生経験の足りない彼には、それ以上のアイディアは出てこなかった。

 

「……助けてもらえませんか」

 

「イヤですよ。貰う物を回収したら、私は引き上げます。この手で貴方へ引導を渡す事は容易い。ですが、それだと楽すぎて欠伸が出る。刀鍛冶の支援金、育手の支援金、隊士や『隠』への給料、政府への賄賂、我々への退職金……どう考えても首が回らない。そして、間もなく各方面からの突き上げが始まります」

 

 金の切れ目が縁の切れ目。強靱な肉体を持つ隊士を前に子供など、赤子の手を捻るより簡単にねじ伏せられる。

 

「ですが、私も鬼ではありません。君達が唯一生存できるルートを教えてあげましょう。ご両親が美形だったことに感謝するんですね。吉原にその身を堕としなさい。そうすれば、すぐには死なない。君達をお館様と敬愛してくれる隊士がいるならば、必ず身請けを申し出てくれるでしょう」

 

「貴方に、人の心はあるんですか!! 」

 

「鬼ですから、人の心は持っていませんね。それに、先ほどから鱗滝左近次さんも見て見ぬふりをしているじゃありませんか。彼も今の鬼滅隊を支えられないから雲隠れする気ですよ」

 

 仮面がなければ、図星を突かれた顔が露見していた。

 

「そうだ!! 鱗滝左近次さんの催()術があれば、お金なんて」

 

「催()術です、お館様。残念ですが、あの技術を悪用する気はございません。それだけは、やってはいけない事なのです」

 

「人望がありませんね。人との信頼関係は、積み重ねが大事です。ただ、座って命令するだけでは人は付いてきません。最後に、煉獄家は当てになりませんよ。古い名家ですが、煉獄杏寿郎さんは私側の人間です」

 

 裏金銀治郎は、用事を終えた。本来であれば、この手で八つ裂きにしてやりたい気持ちもあったが、生きて絶望を味わって貰う方がより苦痛が長引くと判断した。大の大人達が毎日子供相手に金の催促と罵声を繰り返す日々がこれから始まる。

 

「1000年の歴史を誇る産屋敷も遂に終わりか……名家とはいつ落ちるか分からねーな。これからは、派手に稼がせて貰うからな!! 嫁が三人も居て、子供だって作るから金がいるんだ」

 

「よかった、金柱が殺そうとするなら流石に止めた」

 

「鬼」

 

「そう言って、誰もお館様の元に残ろうとしていませんよね。では、蝶屋敷に寄ってから、撤収しましょう。銀治郎さんの話だと、警察のガサ入れがあるみたいです」

 

 来た道を引き返していく裏金銀治郎達。

 

 その後ろで、待ってくださいと止める声がするが誰も足を止めなかった。あちら側は沈む船だ。

 

「そうじゃの、蝶屋敷にいる隊士達が心配だ。儂も煉獄を送った責任としてこの目で安全を確かめなければならない」

 

 そして、沈まない方の船に乗客が一人増えていた。

 




生きて苦痛を味わって貰う方向にしました。
女子供を殺さない紳士なのでね!!

代わりに、生き地獄を味わって貰いましょう



本編完結までもうすぐだ!!
正直、見切り発進でよくここまで辿り着いたと思う作者がいる。
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