鬼滅の金庫番   作:新グロモント

7 / 100
07:そうだ京都、行こう

 隔離施設に絶叫が響き渡る。

 

 それを気に留めないほど調教された鬼達は、胡蝶印のバイアグラの製造に従事する。隔離施設に新たに搬入されてくる鬼は、その様子を見て絶句する。人間など餌にしか思っていない鬼が、同胞である鬼を解体して機械に放り込んでいるのだ。

 

 目の前で繰り返される惨状を前に自らの行く末を心配するのは、正常な反応だ。

 

 普通の刀で首だけにされた鬼が、裏金銀治郎を前に脂汗をかく。

 

「楽にしたまえ。私は、(こうべ)を垂れなかったからと言って、無為に貴様等を殺すような事はしない」

 

 この時、鬼は、頭だけにしておいて(こうべ)を垂れるも糞もないだろうと思っていた。事実、その通りである。

 

「なんなんだ!! ここは!? これが人間のやることか」

 

 鬼が声を荒立てた瞬間、一閃が走る。

 

 その瞬間、鬼の頭部の半分から上が床に落ちて赤いしみを作る。鋭い切れ味で、鬼は床に落ちた物が何かを認識するまで痛みすら感じていなかった。

 

「よいか、貴様が今やるべき事は、いかに私の機嫌をとるかという一点に尽きる。私が満足できる答えを持っていたときのみ貴様は解放されるのだから」

 

 裏金銀治郎は、どこぞの上司のモノマネをしてみたが、効果は抜群であった。

 

 鬼視点では、鬼舞辻無惨の陰が見えるほどに冷酷で、絶対的な恐怖を感じ取った。裏金銀治郎の実力は、雑魚鬼と比較すれば遙か高みにある。だからこそ、そのように感じてしまったのだ。実際は、鬼舞辻無惨の方が更に雲の上だ。

 

「知っていることは何でも話す!! いいや話させて頂きます。どうかお慈悲を!!」

 

「素直な鬼は、好感が持てます。実は、探している鬼がいるのでその所在を知っているか確認したい。なーに、鬼の中では有名のはず」

 

 誰のことかを察したのか、鬼の顔は青ざめる。

 

 前門の裏金銀治郎、後門の鬼舞辻無惨であった。黙っていれば、生き地獄。しゃべればあの世――鬼は、生涯通じて、これほどまで理不尽な状況はないと確信していた。

 

「あ、あの方の所在は――」

 

「そっちじゃない。下弦の肆――二本の角を生やした女の鬼だ。名を零余子という」

 

 隔離施設は、一言でいって花がない……外で咲き誇る藤の花が~とか意味では無く、女性的な意味の花がないのだ。胡蝶しのぶという女性を除いてと言う意味でだ。そこで、むさ苦しい環境に花を飾りたいというのが、目的の一つだ。ただ、チヤホヤされるのではなく、生け花の如く飾られる。

 

 施設にいる鬼達には、全員同じ事を確認していたが誰も情報を持っておらず、殺して貰えるという報酬を手にする鬼は誰もいなかった。

 

「その方なら、一ヶ月前京都で見かけました!!」

 

「――真実か?」

 

 鬼は、必死に情報を伝える。

 

 人を見る目がある裏金銀治郎は、鬼の表情、口調や仕草などからそれが真実であったと考えた。嘘であった場合には、大型のミキサー機で生涯ハンバーグの材料を生成し続ける、リアル増える肉状態になる。

 

「本当だ、だからお慈悲を!!」

 

 裏金銀治郎は、日輪刀を構えた。

 

「勿論だ。下弦の肆を捕まえて戻ってきたら、真っ先に殺してやろう。この私に囚われたことを感謝するといい。慈悲をくれてやる――金の呼吸 弐ノ型 金縛り!! 苦しむのは、僅かな時間だ」

 

 鬼の脳髄に針金を打ち込み活き締めにした。

 

 持っている情報を嘘偽り無く伝えたにも関わらず、地獄に送られるのは何故だ!! と、声を荒立てたかったが、もはやそれも叶わない。だが、鬼は知らない。己がどれだけ恵まれているのかを。

 

 隔離施設において、殺して貰えるというのは何よりも幸せなことなのだ。

 

………

……

 

 それから、その日のうちに裏金銀治郎は、産屋敷耀哉に面会を求めた。

 

 報連相――それは、社会人として常識である。部下の行動を常に上司が把握する必要がある。勿論、責任を押しつけられないようにする為の施策でもあった。

 

「先日ぶりだね銀治郎。なにかあったのかい?」

 

 穏やかな声の産屋敷耀哉だったが、心の中では、何が報告されるか不安に思っていた。基本的に、吉報が届くがそのどれもが単純に喜べない物が多かったからだ。だが、確実に成果を上げる裏金銀治郎の手腕を評価していた。

 

「二つございます。一つは、ここ最近、蝶屋敷で新しい治療法を行うようになってから隊士の質が改善されております。その証拠に、蝶屋敷に入院しに来る患者の大半は、入院経験が無い者達でございます」

 

「そのようだね。私の所にも、鬼討伐の報告が多数挙がってきている。しかも、重傷者の数も激減している。良いことだね」

 

 実戦経験を積み、肉体能力が向上した隊士達は、一皮むけた大人になったのだ。

 

 鬼滅隊として、喜ばしい限りである。

 

「その通りでございます。しかし、それが思わぬところで悪影響がありました。隊士の質が向上し、鬼を順調に狩る事から階級を上げる者が多数おります。つまりは、人件費に多大な負担が発生してしまいました。急減速した赤字が、加速度的に以前の水準にまで数字が戻りつつあります」

 

 裏金銀治郎としても、笑えない事態であった。良かれと思い、隊士を強化したら人件費にそれが直撃するなど考えられなかったのだ。問題というのは、往々にして後から見つかる物だ。今までは、死人が多く出る事で組織のピラミッド構造が維持できていたのだ。

 

 それが裏金銀治郎と胡蝶しのぶの手により、平成時代の人口統計みたいな歪な形へと変わりつつあった。これでは、破産の危機に陥るのは時間の問題だ。

 

「一難去ってまた一難。銀治郎の事だから、何か対策も考えてきているのだろう」

 

「勿論でございます。まず、鬼滅隊の隊服……特許申請して、警察や軍に売りましょう。雑魚鬼の爪や牙を防げる時点で、現代において画期的な技術です。許可を頂けるのでしたら、各方面との調整などは全てお任せください」

 

 実現すれば、赤字を黒字に変える事ができる素晴らしいものである。

 

「あれは一族の秘伝の技術だが――そうもいってられないか、許可しよう」

 

「ありがとうございます。技術というのは、いつか発見されます。誰かが漏洩するかもしれません。機会を逃さず英断してくださった事に感謝致します」

 

 感謝どころか、そういう技術があるなら早く金にしておけと内心思っていても口にしないのが裏金銀治郎の良いところである。

 

「構わないよ。それで、二つ目は?」

 

「下弦の鬼を京都で見たと口走る鬼がございました。是非とも、私と蟲柱の胡蝶しのぶを派遣して頂きたくお願いいたします。是が非でも、下弦の鬼を捕獲したい所存でございます」

 

「下弦の鬼を捕まえて何をするのかな?まずは、それを聞いてから判断したい」

 

 裏金銀治郎は、厚めの資料を机に置いた。

 

 それを産屋敷耀哉の子供が手に取り、読み上げる。そこには、予てより計画していた柱専用の緊急活性薬のメイン素材として使われる事が書かれていた。鬼との戦闘中での使用が前提となるため、即効性が求められる品物だ。その為、材料となる鬼にも品質が求められる。

 

 詰まるところ、材料は、十二鬼月しかいない。十二鬼月を倒すために、そいつの素材を……とか、矛盾も甚だしいが、ゲームではよくある事だ。

 

「何度も言いますが、備えあれば憂いなしといいます。用意できたとしても最終的に使用するか否かを判断するのは当事者達です。現柱達は、私と異なり代えが利かない実力者達です。失う可能性を少しでも下げておくのが責務かと存じます」

 

「分かった、許可しよう。ところで、鬼を利用した壁屋という遊郭を作ると書かれてあったが、ちょっと、私には理解できなかったので説明をして貰えるかな」

 

 ちなみに、産屋敷耀哉はちょっとどころでは無く、全く理解できなかったのだ。それもそのはず……気立ての良い美人の妻を持ち、子供もいる。理想的な家庭を築き上げている勝利者からしてみれば、独身貴族の気持ちなど推し量る事が難しいのだ。

 

 その為、裏金銀治郎は懇切丁寧に説明した。首から上を隔離施設で管理、首から下を吉原以外の遊郭で働き手として活用するという物だ。首から上がない事を不審がられないように、壁から……と、未来を先取る遊郭を作るという物だ。男なんぞ、顔が見えなくても綺麗な肉付きの体があれば、それで十分だと考える獣だ。しかも、自動修復機能までついているから、ぞんざいな扱いもできる。

 

 時代が時代ならセクサロイドと呼ばれるだろう。

 

「ごめんね銀治郎。それは不許可」

 

「そうですか……ならば、隊士専用にして福利厚生を手厚くするというのはいかがでしょうか!? 利用料を多少取れば、財政にも!!」

 

「却下」

 

 鬼滅隊から魔法使いの誕生を良しとする当主であった。

 

 そのおかげで、裏金銀治郎が、喪男の救世主になる事はなくなった。

 

 

◆◆◆

 

 蝶屋敷へと足を運んだ裏金銀治郎。

 

「そうだ、京都へ行こう」

 

「なんですか、いきなり部屋に来たと思えば~」

 

 それだけの会話で、胡蝶しのぶはクローゼットにしまい込んであった。ドレスに手を掛ける。アンブレラ・コーポレーションの代表として、今までに数々のパーティーへと連れ出され、染みついてしまった行動であった。

 

「何をやっているんですか、胡蝶さん」

 

「なにって、衣装ケースにドレスを……」

 

「有りか無しかで言えば、有りですが~。隊服なんぞ、有っても無くても同じようなものだからね」

 

「――!! もしかして、鬼ですか?」

 

 京都へ向かう目的を理解した胡蝶しのぶは、何事も無かったかのようにクローゼットを閉じた。そのクローゼットの中には、代わり映えしない隊服が何着もあるのを見つけてしまった。裏金銀治郎は、出かけ先で服を何着かプレゼントしようと考えた。

 

「別にドレス姿でも構いませんよ。相手は、下弦の肆です。隊服なんぞ、紙切れみたいな物。むしろ、あんな目立つ服を着ていては、相手が逃げてしまう可能性もある」

 

 これから向かう先は、下弦の鬼が居る場所だ。例のパワハラ上司曰く……柱を見ると常に逃げることを前提に行動すると指摘された鬼だ。

 

 つまりは、私服で一般人に紛れ込んだ方が遭遇率は高い。

 

「ですが、京都ですと冨岡さんが担当じゃありませんか?」

 

「殺すだけなら、彼一人でも十分でしょう。だけど、目的は生け捕りです。勿論、お館様から許可も頂いております」

 

 現役柱である胡蝶しのぶ、加えて元柱である裏金銀治郎……この組み合わせを派遣する時点で、表に出せない仕事であるのは明白であった。しかし、相手の戦力も考慮すれば、これが最適解でもある。

 

「生け捕りって、正気ですか!? 施設で管理している鬼達とは別格ですよ」

 

「正気なら、鬼滅隊に所属していません。ですが、これはチャンスです。予てより計画していた柱専用の緊急活性薬。材料に相応しいと思いませんか?」

 

 柱専用の緊急活性薬については、目下研究中だが成果は芳しくなかった。求められるのは即効性だ。全治一ヶ月が一日で治りますとかそんなレベルでは無い。全治一ヶ月が、1分で治るといったそういうレベルが求められる。

 

 数百体の鬼を活き締めして管理できる施設が用意できるのならば、実現できる。集めた鬼の血肉をひたすら煮詰めていくという地味な作業をこなすことで。だが、そのような大規模な施設は現実的でない。

 

「相応しいですが、他に手が無いのも事実ですよね」

 

 そういい、胡蝶しのぶは、刀を手にし、出かける準備を始めた。着替えを持たないことから、裏金銀治郎が「ドレスをお忘れですよ」と、からかっていた。

 

 

 




哀れな鬼の子に救いの手をさしのべる。

鬼滅隊に所属にも関わらず、仏のような裏金銀治郎です。

皮膚が硬い鬼とかはぎ取れば、防具の素材になるよね^-^
鬼っ子の角だって粉末すれば漢方薬みたいに滋養強壮にいいはず。

まっててね!!迎えに行くから。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。