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蝶屋敷は、最終決戦に参加できなかった隊士が入院している。"柱稽古"で思わぬ重傷を負わされた者達が殆どだ。人によって、剣士としての腕前はマチマチなのに、一部隊士が柱級や準柱級の実力者であり、それを基準に厳しい訓練をした結果であった。
特に、風柱と蛇柱の訓練での負傷者が多い。
「なんじゃ、若いもんが痛い痛いと喚きおって!! こんなの唾でも付けていれば治るわい」
「やめろーー!! 唾なら、鹿島さんの唾とかにしてくれよ。というか、誰だよ!! このじいさん」
一人の老人が蝶屋敷をウロウロと徘徊している。
その老人も何故、ここに居るかは理解できていない。気がつけば、居たというのが正しい表現であった。どうしてここに居るかは分からないが、誰のせいでここにいるかは察していた。
「儂か、元・鳴柱の桑島慈悟郎じゃよ」
「……だれ?」
若い世代では、流石に知らない柱であった。何十年も前の柱の名前なんて普通知らない。だから、知らない隊士に罪は無い。
「しらんのか!! ほら、えーーーと裏金銀治郎や我妻善逸の師匠じゃよ。どちらかなら、知っているじゃろう? ほら、一人は何かと胡散臭い男で、もう一人は泣き虫のヤツじゃ」
「――!! それは、失礼致しました。まさか、そのようなお方だとは知らず、私、臼井仙道といいます。元・柱の貴方が何故このような場所に?」
手のひら返しをする隊士。
彼の中では、実に美味しい巡り会いだと感じていた。どのような場面でも構わないが、裏金銀治郎に名前を覚えられる可能性がある機会に恵まれたのだ。勝ち組への仲間に入れるチャンスが転がってきたのだから、誰だって見逃さない。
「なんじゃ、気持ち悪い位下手にでおって。まぁ、いいか。それがの~、気がついたらここにおったんじゃ。狸に化かされた気分じゃよ……で、ココは何処じゃ?」
「ここは、蟲柱様が保有されております蝶屋敷になります。主に怪我をした隊士達の治療を行う場所です。知らずにココに来られたのですか?」
「つまり!! ここは、善逸の嫁が居る場所か!! なるほどな、裏金も気が利くの~。……で、どのくらい美人なんじゃ、その嫁達は?」
「控えめに言って、絶世の美少女、美女です。お二人のお師匠様相手に言いたくはありませんが……呪いで人が殺せるなら我妻善逸は、毎日100回は死んでいます」
隊士から漏れる憎しみの殺意に桑島慈悟郎は、本気で心配をしてしまった。
それほどまでに恨まれるのかと。一体、どれほどまでの女性を手込めにしたのかと恐ろしくすら感じていた。だが、同時に楽しみでもあった。『おじいちゃん』と呼ばれるのも悪くないと。
「イヤァーーー!! だれかぁぁぁぁ」
蝶屋敷に幼い女性のが響く。
怪我人ばかり居る蝶屋敷が襲われるなど、考えられるのは鬼の襲撃だ。鬼滅隊の拠点は藤の花で守られており、並の鬼では近付く事が困難である。つまり、それ相応の鬼である事を示していた。
「小僧!! 刀をよこせぇ!!」
「コレを使ってくれ」
日輪刀を受け取り、現場へ足を運ぶ。
義足である彼の実力は、全盛期の三分の一程度だ。だが、その肉体には活力が満ちあふれている。切腹後に緊急活性薬を使用した事で肉体が活性化していた。
………
……
…
叫び声がする場所に辿り着いた桑島慈悟郎は目を疑った。
隊士達が、血を流しうめき声を上げて倒れている。幸い、致命傷でないが放置すれば危険な状態であるのは間違いなかった。彼等は、目の前の惨状を止めようと身を挺したのだ。
「お願い、きよちゃんを離して!! 本当に知らないんです」
「俺は子供のお使いで来ているわけじゃないんだ。先刻まで、我妻善逸の嫁達がここに居たのは他の隊士に確認がとれている。隠し立てするとは、良い度胸だな」
煉獄槇寿郎は、血塗られた日輪刀を片手に幼い子供の胸ぐらを掴み持ち上げていた。寺内きよは、打たれた頬が真っ赤に腫れ上がっている。そして、涙を流しながら知らないと言う。
彼の元には、幼女が泣いてすがりついている。当然、他の幼女達も少なからず酷い有様であった。衣服が乱れており、怪我を負った隊士達が命がけで止めに入らなければ、彼女達は、嫌な経験で大人になっていただろう。
怒りが頂点に達した桑島慈悟郎の毛細血管がブチブチと切れる。
「き、きさまぁぁぁぁ!! こんな事をして恥ずかしくないのかぁぁぁぁ、煉獄槇寿郎!!」
「さっきから、次から次へと邪魔ばかり入る。……誰かと思えば、鳴柱か。悪いが、取り込み中だ後にしろ。あぁ、そうだ。我妻善逸の嫁達を知っているなら、居場所を教えて貰おう。そうすれば、これ以上はしない」
煉獄槇寿郎の眼にとっては、刀をもった老人が一人増えたに過ぎなかった。緊急活性薬のおかげで全盛期に近い能力を取り戻した彼は、全能感に浸っている。実力だけでいえば、平時の柱に通用するレベルだ。
「おじいさん、逃げてください!! この人、何をいっても分かって貰えないんです」
「きよちゃんと言ったかい。少し、待ってなさい。直ぐに、おじいちゃんが助けてあげるからね」
桑島慈悟郎は、裏金銀治郎に感謝した。
切腹して死んでいたら、この場に駆けつける事は出来なかった。今この時の為に、自分は生き残ったのだと。全身にみなぎる力を感じる桑島慈悟郎。今こそ、己の全てを燃やし尽くす時だと。
刀を構えて臨戦態勢を取る。
「老いぼれ、死ぬぞ」
「ここで立ち向かわねば、死んだも同然。
全盛期には程遠い攻撃。
だが、命を捨てても構わないという心構えが技の切れを何倍にもする。その攻撃は、煉獄槇寿郎であっても片手で対処する事は難しい。
◇◇◇
蝶屋敷に転移した煉獄一行は、蝶屋敷の異様な雰囲気に直ぐに気がついた。
「血の臭いがする。道場の方からです!!」
「この音は――!!」
真っ先に反応したのは、竈門炭治郎と我妻善逸であった。
それからの行動は全員早かった。勝手を知る蝶屋敷の中を最速で駆け抜ける彼等。道中に倒れる隊士達から、『頼んだ』と声が掛けられる。
道場に辿り着いた彼等は、息をのんだ。泣き叫ぶ幼女達。片手を失いながらも幼女の前に立ち一歩も引かない老人に無慈悲な刃が迫る。
「流石は、元・柱だった。義足で無ければ、良い勝負ができただろう」
「もう止めて!! 鹿島さん達は、本当に居ないんです。早く、おじいちゃんを治療しないと死んじゃう」
「いい子達じゃの~。あぁ、善逸の幻が見え始めたわい」
怒りの限界点を突破した煉獄杏寿郎とかまぼこ隊。"痣"覚醒の力で、刀の柄を握りつぶす。今の彼等ならば、腕力だけで鬼をねじり殺す事もできるだろう。
「煉獄さん、俺……ここに来るまでは、
「きよちゃん、すみちゃん、なほちゃん。もう大丈夫だよ。絶対に、俺が助けるから。煉獄槇寿郎、お前は存在しちゃいけない生き物だ」
「噛み殺してやる塵が」
露骨にフラグを建築する。彼は知らなかった。女性は男より遙かに精神的な成長が早い。そして、初恋は実らないという格言がある。だが、初恋とは、薬を使ってでも実らせる物だ。その先駆者がいるのだから、続く者が出ても不思議では無い。
「はっはっは、鬼滅隊の基本ルールは知っているか? 鬼退治は早い者勝ちという事を!! 俺は俺の責務を全うする」
ここに、絶対鬼殺すマンが誕生した。
「杏寿郎と我妻善逸、それと……その耳飾り!! 日の呼吸の使い手か!! お前等、そこから一歩も」
「雷の呼吸 漆ノ型 火雷神」
不利を悟った煉獄槇寿郎。手頃な人質を使おうとしたが、日輪刀を持つ腕が手首から先が綺麗に消えていた。それどころか、人質となる予定の幼女達と桑島慈悟郎までもが突如消える事態に陥る。
「おせーんだよクズ」
「見えなかった。っ!! こんなガキに、俺が!?」
切り落とされた腕からの流血を抑える煉獄槇寿郎。
実力差を考えれば当たり前の結果。胡蝶しのぶを除けば、我妻善逸の神速に付いていける者は居ない。元・炎柱が全盛期の実力を取り戻した所で、今の時代では井戸の中の蛙だ。
「あれだけでかい口で、腕の一本か!! 俺は、二本落としてやるぜ!! 獣の呼吸 参ノ牙 喰い裂き」
「ぐああああぁぁぁ」
すんでの所で倒れて回避行動をとる煉獄槇寿郎。それが功を成し、左足一本の犠牲で彼の攻撃を凌いだ。実に見苦しいが、その咄嗟の判断は理にかなっている。
「無惨を殺したのに、鬼がココにもいるなんて。鬼は殺さないと―ヒノカミ神楽 円舞」
竈門炭治郎の攻撃が、煉獄槇寿郎から光を奪う。眼球を綺麗に横薙ぎに切り裂く。現代医学では、もはや治療不可能な致命の一撃。手足をもぐより、えげつない攻撃だ。
「眼がぁぁぁぁ!! 眼が!? なぜだぁ。なぜ、お前達は分からない。裏金銀治郎こそ、最悪の鬼だと。アイツは、疫病神だ。杏寿郎、お前なら裏金を殺せる。今からでも遅くは無い」
煉獄槇寿郎にしてみれば、その通りであった。
「言い残したい事はそれだけか。今この時、煉獄の姓を捨てた。俺は、人として恥じない生き方をする!! せめてもの手向け 炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄」
見苦しい実の父親をその手で処断する煉獄杏寿郎。
『立派になりましたね』
彼の耳には、確かに母親の声が聞こえていた。
………
……
…
その後、裏金銀治郎達が到着し、桑島慈悟郎は一命を取り留めた。
裏金銀治郎の血液から作り上げた特別製の緊急活性薬。それのおかげで、腕どころか足まで生えてしまう。師匠の無事を祝う善逸をみて、『鬼は滅んだ』と裏金銀治郎という新しい鬼の存在を桑島慈悟郎は黙認した。
裏金銀治郎の師匠であり、我妻善逸の師匠という事で淫魔三人衆が是非ご挨拶したいと顔合わせする事になった。評判通りの美少女、美女が並び桑島慈悟郎も眼を疑った。
「えーーと、シルヴィちゃん、月村すずかちゃん、鹿島ちゃん。全員が善逸の嫁?」
「その通りですよ。私が、紹介しました。それと、来月にはもう一人増えます。万世極楽教という悪い宗教に嵌まってしまった殺生院キアラという女性です。少し年齢が高いですが、十分美しい」
これ以上増えるのかと、温厚な桑島慈悟郎も眉間がピクピクしていた。おじいちゃんと呼ばれるのは嬉しいが、嫉妬しか湧かなくなってきたのだ。
「あ、あの~裏金様。もしかして、元尼だったりしますか?」
「おや?鹿島さんのお知り合いですか?前情報では、その通りですね」
「……たぶん、母です」
裏金銀治郎は、納得してしまった。
「
「善逸君、神は君の全てを許します。君が頑張った成果です。それを誰が妨げるというのです」
だが、それを妨げる者が存在していた。通称、我妻善逸ブッコロし隊。可愛さ余って憎さ100倍という言葉があるように、愛弟子が新しい嫁を娶る事に嫉妬してしまう師匠がいた。
だが、彼の反応は正常である。翌日には、我妻善逸ブッコロし隊に元・柱が入隊する事になった。師匠とはいえ、男である。そして、独身だ。なるべくしてなったとしか言えない。
ふぅ、これでほぼ本編が完結した^-^
いやーー、ここ数ヶ月、作者的には頑張ったと思っております。
竈門炭治郎、我妻善逸のエピローグ的な事を入れてる
そして、裏金銀治郎と胡蝶しのぶのエピローグを入れて良い感じに終わらす!!
最後に、NHK特番という流れかしらね^-^
風柱の行方や、恋柱も触れていく予定です。
PS:
本作品を書ききる事だけを考えているので、今後の予定は全くありません。
語呂が良かったので、こんなのもありかと思ってしまった。
ダンジョンに
→紐神様と仲よくなれそうな博愛主義者^-^