鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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いつもありがとうございます。

これで本当に最後の最後!!

アンケートの外伝になります^-^


外伝:その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~

 平成最後の年。

 

 裏金銀治郎は、裏金しのぶが帰宅するタイミングに合わせて昼食を作っていた。彼女は、ミッション系の女子高に通っている。学力向上といった目的ではない。長い人生の為、新しい人間関係を構築している。寿命という概念がない鬼なので、過去の人間関係とは死別している。

 

 だからこそ、学校に通っている。学力を満たしている以上、多少経歴が怪しくても札束で経営者の頬を叩けば、入学に困る事はない。これが、資本主義の裏口入学手段だ。

 

「カナエ、そろそろママが帰ってくるからテーブルにお皿を並べて」

 

「はーい、パパ

 

 裏金カナエ……裏金銀治郎と裏金しのぶの間に生まれた一人娘だ。今は亡き、裏金両親からも多大な愛情が注がれ、スクスク育ったかわいい子である。年齢は50歳を超えているが、成長が遅いのか容姿は5歳程だ。

 

 現在は、近所の幼稚園に通う園児である。その可愛らしさの為、幼稚園でもモテモテであった。だが、彼女は「将来、パパと結婚するの」という可愛らしい謳い文句で全ての男を振っている。

 

 裏金銀治郎としても、可愛い一人娘がそんな事を言ってくれるので嬉しさが極まっていた。実に、親馬鹿である。時々、獰猛な肉食獣のような視線を感じていたが、気のせいと思っている。

 

 ガチャリと扉が開く音がする。

 

 そして、制服に身を包んだ女性……裏金しのぶが帰ってきた。子持ち人妻女子高生を素でやっている彼女。学校でもその事は周知の事実であり、奇異な目で見られる事もしばしばあった。

 

 だが、良好な人間関係を築き上げていた。

 

「銀治郎さん!! うちのプールについて、絶対に知っていましたよね!! 友達から画像を見せてもらったら、完全一致したんですから」

 

「もしかして、例のプールですか? 違いますよ、しのぶさん。このデザインは、うちが最初です。そのデザインを基にHOTELのプールを作ったのは事実ですけど」

 

 裏金一家が住む家は、一般住宅とは異なる。高級マンションの複数階をぶち抜いて作られている。そこには、プールだけでなく、ジム、簡易映画館などがある。

 

「ママ~、パパをいじめちゃダメ!!」

 

「いい子だね、カナエ。ほら、抱っこしてあげよう」

 

「うぅ~、銀治郎さんもカナエを甘やかしすぎです。それで、友達とのカラオケ大会を辞退してまで夜の予定を開けたんですが、今日はイベントごとありましたっけ? 会社の幹部会議も明後日ですし、お偉いさんとの会合もまだ先でしたよね?」

 

「それは申し訳ありませんでした。知らない方が楽しめるでしょうから、内緒です」

 

 裏金しのぶは、不安であった。

 

 往々にして、裏金銀治郎がこういうセリフをいう時は、実害こそないが碌な事が起こらないと分かっているからだ。

 

 夜まで家族で水入らずの時間を過ごし、運命の時が来た。

 

 

◇◇◇

 

 居間の大きなテレビに映し出されるNHK番組。

 

 裏金しのぶは、血鬼術を発動させて未来のフィードバックを図ろうとするが、発動しないで終わる。つまり、裏金銀治郎の手で既に対策はうたれていた。

 

『その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~ 』

 

「アイエーー!! ナンデ!? ドウシテーーー」

 

 嫌な予感が的中した裏金しのぶは、思わずアンブレラ・コーポレーション諜報部のニンジャみたいな口調になっていた。

 

 だが、ここで幾ら叫ぼうとも無慈悲に番組は進行する。

 

「あれ?これ、ママの番組?」

 

「そうだよ、カナエ。これは、ママの特別番組だよ。ママの偉業をよく覚えるんだぞ」

 

 膝の上に娘を抱いて、NHK特番を家族と眺める幸せを享受する裏金銀治郎。横で、『嘘でしょ!?』と言って、頭を抱える美しい嫁もおり、理想的な家族であった。

 

『大正XX年〇月◇日、胡蝶しのぶがアンブレラ・コーポレーションを設立。同年、ローションとコンドームを発売。今までにない画期的な商品であり、性産業に多大な貢献をすると同時に感染症防止にも貢献した。それにより、命が助かったものは数万人に及んだと言われております。これを第一次胡蝶しのぶの変と言います』

 

「へぇ~、今ではそう言われているんですね。懐かしいですね、しのぶさん」

 

「こんなの絶対おかしいよ。なんで、NHKが人目がある時間に放送禁止ぎりぎりの用語を連発して大丈夫なのよ。それに、胡蝶しのぶの変って!? 第一次ってどういう事よぉぉぉ」

 

 夫と娘の前だというのに、子供みたいにバタバタと暴れる可愛い女性がそこにはいた。だが、彼女はまだ気が付いていなかった。アンブレラ・コーポレーションの名前が出てきているのに裏金銀治郎の存在が影も形も出ていないことを。

 

 裏金銀治郎は、裏金しのぶの頭を撫でて落ち着かせる。その手は、そのまま彼女に絡めとられた。

 

『その後に、バイアグラを開発し特許を取得しております。現代においても、このバイアグラを上回る薬が開発されていない事から、奇跡の薬とも言われております。これ以上ないと言われるほどの完璧な配合だと各製薬会社も太鼓判を押すほどであり、現在世界に出回っているバイアグラは、これの後発医薬品です』

 

 テレビに映し出される、当時発売していた胡蝶印バイアグラの現物。もちろん、政府高官達に販売していた鬼由来の物ではなく普通の方だ。大正時代の現物がよく残っていたと誰しもが思うが、その提供元はアンブレラ・コーポレーションであった。

 

 そのテロップが出た瞬間、握られている手に万力の如き力が加わった。

 

『それで一財産を築いた胡蝶しのぶは、今日に至るまで様々な薬を開発し特許を取得していきました。そして、『子作りから墓場まで』というキャッチフレーズの世界を()にかける大企業へと成長したのです』

 

「ははは、見ましたか、しのぶさん。股にかけるとは、NHKもうまい事を言いますね」

 

「馬鹿じゃないの!? 馬鹿じゃないの!! 絶対、制作陣営に馬鹿しかいませんよ。ほら~、カナエも別の番組みたいわよね」

 

「えぇーー、ママの番組を見てみたい~。ダメ~?ママァ」

 

 母親の膝の上に移動し、甘ったるく甘える娘を前に母親は折れるしかなかった。どのみち、学校に通い出したら嫌でも知ってしまう。いいや、ネット社会なのだから、スマホでポチポチ母親の名前を検索するだけでいろいろな情報が手に入ってしまう。

 

 主に、エロ画像が。最近では、スマホゲームのおかげで、そちらの方が多く検索にかかるが、エロ画像には変わりなかった。三次元から二次元に変化したに過ぎない。

 

『他にも数々の素晴らしい偉業があります。実は、胡蝶しのぶは多彩な才能を持つ女性としても有名なんです。その一つが、彼女の文才です。大正の世に世界的なベビーブームの火付けとなった『正しい華の呼吸全集』。当時の編集者がこの本を読み大変感銘を受けて、翻訳版を作成し、海外で販売した所、出生率を大きく向上させました。胡蝶しのぶがサイン会で直にサインした物が先日ニューヨークのオークション会場に出品されましたが、全シリーズセットで250万ドルの値段が付きました。その内容は、大正時代とは思えない程の内容で、当時の最先端……現代でも十分通用する実用性の高い資料です。今の日本が出生率2.0を保っているのは、これのおかげというお声も強くあります』

 

「ごふっ。う、嘘でしょ。あれから100年も経っているのに何で新品同様な本が残っているのよ」

 

「本当に懐かしいですね。覚えていますか? 無惨が女装して買いに来た時を……あれは、気持ち悪かったわ」

 

「あれ~?あの本ってパパの書斎にあったのと同じだね。この間みたら、何冊かなくなっていたけど、あの本じゃない?パパ」

 

 裏金銀治郎は、冷汗をかいてしまった。当然、手を握っている裏金しのぶもそれを理解した。ここに犯人がいたと。だが、彼がオークションに出したのは、鬼舞辻無惨から回収した物である。だから、彼女が裏金銀治郎の為にサインした物ではないので、セーフである。

 

「カナエは、物覚えがよくていい子ですね。銀次郎さん、後で詳しい話を寝室で聞かせてもらいますからね」

 

 裏金銀治郎は、なぜ体力は無尽蔵なのに精力は無尽蔵でないのかと不完全な鬼を呪いたくなった。

 

 それからも番組は、胡蝶しのぶ特集として噂から事実まで様々なことを紹介していった。なかでも、大正に刀を持って暴れていたなど鬼滅隊の存在に掠りそうな話もあった。

 

『それでは、来月公開予定の胡蝶しのぶ記念館をご紹介したいと思います。ここには、アンブレラ・コーポレーションに残されていた、胡蝶しのぶが実際に使っていた資料や机、書籍などが収められております。中でも目玉なのが、胡蝶しのぶ写真集です。実は、歴史の教科書にも載っている近代偉人なのに、写真が一枚も残っていない事で有名だったんです』

 

 番組のカメラが胡蝶しのぶ記念館を公開していく。この建造費は、オークションで売られた本の代金と裏金銀治郎のポケットマネーで賄われている。その目的は、ただ一つ……横で青筋を立てた美しい嫁の顔を見たいという、欲望を満たすためだった。

 

 当時の戸籍標本復元版も用意されており、30歳で二人の子持ち。夫不明という怪しさ抜群の情報まで公開された。裏金銀治郎と結婚する前の情報としては正しいのだから間違ってはいない。

 

 裏金しのぶがついに我慢できなくなり、ソファーに座る彼に馬乗りになった。そして、首根っこを掴み、待ちに待ったセリフを、青筋を立てながら言い放つ。

 

「この男はぁぁぁぁ!! 何ですか、アレ!! 私に対する嫌がらせですか!? そりゃ、銀治郎さんの初めて(アッーー)を強引に奪ったのは悪かったと思っていますよ。だけど、その仕返しのつもりですか!!」

 

「その件は、恨んでないといえばウソになりますが、これはしのぶさんの偉業を称えているんです。決して悪意なんてありません。私の嫁は、これだけすごいんだぞって自慢したいじゃありませんか」

 

しのぶ(・・・)に先を越されたなんて」

 

 二人の愛娘も聞きたくもない夫婦の営みを聞かされて唖然としていた。

 

………

……

 

『見てください!! これは、『正しい華の呼吸全集』が展示されております。しかも、サイン番号にNo.001と書かれております。彼女が初めてサインした本と紹介文が残されております。歴史的価値が非常に高いのは疑いようがありません』

 

『あ、これは皇居にお住いの方から直々に頂いた感謝状です。そう!! 第二次世界大戦で敗戦した当初、アンブレラ・コーポレーションは私財を投げ売って国民を支援し、地域復興に尽力しました。その栄誉を称えて送られた物です。これは、歴史の教科書に載っておりました。性産業で人を救い、戦争被害者を助けた事から聖(性)女と呼ばれ、東洋のジャンヌダルクの異名で呼ばれるようになったのです』

 

 そのおかげで支援した何倍も稼いでいた。土地の買収が実にスムーズに進み再開発されるタイミングで高額で売りさばいた。土地転がしは実に儲かった。

 

『では、そろそろ次へ向かいましょう。近代偉人胡蝶しのぶのご尊顔を大公開します。本来、持ち物検査が行われます。写真や撮影は禁止されておりますので、来られる方はご承知おきください。今回に限り特別に許可を頂きました。ただし、この写真集が置かれているブースは、18歳以上しか入れません。その為、我々撮影スタッフが選び抜いた写真を撮影してまいりました』

 

「なんですか、人様の顔をまるで18禁みたいに!? ちょっと、テレビ局に電話してクレームを言ってやります。失礼だと思いませんか、銀治郎さん」

 

「しのぶさん。未使用のゴムを口に咥えた写真やメイド服を着て嫌な顔をしてパンツを見せている写真とか色々とキワドイ物ばかりだから仕方ないでしょう。ですが、安心してください。ガラスの上から目線を入れるなどして、顔ばれはしない様に加工しております」

 

「えっ……そうだったぁぁぁ!!イヤァーーーーー!! なんて物を公開するんですか!! この男はぁぁぁぁーーー」

 

「だって!! 聖杯をめぐる人気の携帯ゲームじゃ、しのぶさんの魅力を完全に表現できていないんですよ。他のゲームもそうです!! だからこそ、ここはしのぶさんの魅力を皆に理解してもらう必要があります」

 

 もちろん、そんなのは建前である。

 

 美しい青筋。その顔を優しくなでる裏金銀治郎。首元を掴まれて、ガンガン前後に振られているが気にも止めない男であった。

 

『それでは、全世界の皆様!! この方が近代日本が誇る偉人……胡蝶しのぶその人です!!』

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

 

 その日、メイド服を着た美少女が嫌な顔をしながらパンツを見せる画像が全世界に流れる事になった。誰しもが思った……こいつ、絶対に未来人であると。そして、変態大国日本と褒めたたえる声が止まらなかった。

 

 その月のNHKの集金率は、過去最高を誇った。こんな番組を作ってくれるなら喜んで金を払うとNHKもホクホクである。そして、大河ドラマの作成が決定した。

 

………

……

 

 エンドロールのテロップが流れる。燃え尽きたかのようにソファーでぐったりと倒れこんでいる裏金しのぶ。先ほどから、彼女のスマホが鳴りっぱなしであった。彼女の友達から、しのぶさんって胡蝶しのぶと激似じゃない!? 的なメッセージが大量に送られていた。

 

 激似どころか本人である。

 

「大丈夫、ママ?」

 

「大丈夫じゃなーーい。お水を頂戴、カナエ」

 

 裏金しのぶは、馬鹿ではなかった。

 

「あぁ、そうそう姉さん(・・・)、氷もいれてね」

 

「はいは……あっ」

 

 見つめ合う母親と娘。いいや、姉と妹。

 

 裏金しのぶも確信があったわけではなかった。だが、自分の事をしのぶと呼ぶ存在は数えるほどしかいない。よって、一番高い可能性に賭けた。

 

「パパ~~、ママがいじめるの。怖いから今日は一緒に寝て~。いいでしょう?」

 

 裏金銀治郎も混乱していた。まさか、輪廻転生という事が本当に起こるとは思わなかった。最近夢に出てこないと思ったら、まさか自分の娘に!? とは誰が想像できるだろうか。

 

 だが、裏金銀治郎はパパである事実は変わらない。娘に愛情を注ぐ事こそ父親の務めである。

 

「いいですよ~、ただしママも一緒ですからね」

 

 娘を抱き上げ、追いかけてきた裏金しのぶを抱きしめる裏金銀治郎。その姿には、愛があふれていた。

 

 その深い愛を受けた娘は、より父親を求めるようになるとは思わなかったのが、彼の誤算であった。彼が罪深い男へクラスチェンジする日は遠くないだろう。

 

 頑張れ銀治郎、天国にいる両親を泣かすような行為をするんじゃないぞ!!

 

 




最後までありがとうございました!!

それでは、またお会いする日までお元気で!!

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