鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 3

 身内の恥という言葉がある。それは、果たして別世界の自分がやらかした事にも適用されるのだろうか。そんな経験をした事がある人など、どの次元世界においても彼女――胡蝶しのぶ以外にありえないだろう。

 

 本当に、人生ナニ(・・)があるか分からないとは、よく出来た言葉だ。

 

 目を覆いたくなるような知らない自分が、知らない男性と肌を重ねてエンジョイする画像を見せ付けられて、胡蝶しのぶがタブレットを破壊せずに耐えきったのは奇跡に等しい。タブレットなる未来道具の仕様が分からない為、これ以上の大惨事になる可能性も考えて、ぐっと堪えたのだ。

 

 そして、本日、柱全員が集められ、鬼に関する情報が裏金カナエより伝えられる事になっていた。胡蝶しのぶが、裏金カナエは一定以上の信用が置ける存在だと認識したからだ。

 

「ママの席はこっち。ママの膝の上じゃないと、みんなに教えてあげないよ~」

 

「はいはい」

 

 諦めの境地に達した胡蝶しのぶは、座席を移動した。産屋敷耀哉と柱達の中間……俗に言う誕生日席的な位置に座る。胡蝶しのぶと裏金カナエ――、やはり並ぶと親子だなと柱の全員が思った。

 

「これで全員が揃ったね。今日、集まって貰ったのは他でもない。裏金カナエ……未来から来た彼女がもたらす情報は万金にも匹敵する。お願いできるかな」

 

 今日を迎えるに当たり、事前準備は万全であった。

 

 産屋敷耀哉がカリスマ性を最大限に利用し、普段コミュニケーションも困難な柱達に懇切丁寧に説明を行っていた。産屋敷耀哉からの重大な話となれば耳を傾けて、柱達も必死に理解に務める。

 

 そのお陰もあり、別世界線の未来から来たという所まで全員が理解していた。

 

「えぇ、元よりそのつもりだから問題無いわ。誤解が無いように、先に伝えておくけど……私も輪廻転生するまでの間の情報は断片的だから、分からない事は分からないと応えるわ」

 

「わかった、だが、話を始める前に君が未来から来たと証明できる物はあるかい。私から説明して納得はしてくれたが、前例が無い事でね。それが、あればこれからの話し合いも円滑に進むだろう」

 

 確かにその通りであった。未来人など、産屋敷耀哉の言葉が絶対な柱といえども、騙されているのではないかと言いたくなる。だからこそ、この場で未来人である事を証明させる必要がった。

 

 そして、嬉しそうにタブレットを取り出そうとする裏金カナエ。だが、その行動は彼女の母親である胡蝶しのぶによって止められる。ひ弱で鬼の頸が落とせないと言う事が信じられない程のパワーで裏金カナエの腕を押さえ込んでいる。

 

 その凄まじい力に裏金カナエもビックリだ。誰だよ、鬼の頸が落とせないとか自慢げにいっていた人はと心底思っていた。

 

「ママ、手を離してくれないとみんなに証拠を見せられないよ」

 

「いいえ、大丈夫です。この子……裏金カナエは間違いなく未来人です。私が保証します。命を賭けても良いわ」

 

 子供が、何かを荷物から取り出そうとするのを必死に止める母親。微笑ましい様にも思えるが、母親の方は本気で必死だ。

 

 鬼を―姉の仇を殺す為ならば、恥も外聞もないと意気込んでいた胡蝶しのぶであったが……恥はかきたくなかった。だが、それを責めてはいけない。それが正常な反応だ。例えば、誰々のためだったら死んでも良いとプロポーズするとしよう。だが、本気で死ぬ気がある奴なんて、いない。

 

「しのぶちゃん、何もそんなに必死にならないでも……私も未来の道具を見てみたいわ」

 

「私の保証だけでは駄目なんですか!? 道具なんてなくても、この子がその証拠ですよ。よく見てください、私の子供だけあって面影があるでしょ!! それで十分ですよね、はい終了!!」

 

 必死!! 圧倒的必死!!

 

 今、胡蝶しのぶの腕に掛けられている力は、煉獄杏寿郎が猗窩座を死にものぐるいで押さえ込んだ時に匹敵するレベル。あまりの必死さに、怪しさが増していく。もしかして、血鬼術で何かしらの操作をされているのではないかと。

 

「おちつけ、蟲柱。派手に焦る様子をみると、怪しさが増すぞ。いいじゃねーか、別にへるもじゃねーだろう?」

 

「その通りだよ、ママ。いや~忍者の割にイイ事をいいます。パパが音柱は、できる男だと絶賛していましたからね。今度のは、本当に大丈夫。日本中、いいえ世界中に配信されたママの偉人伝だから。未来の倫理機構が承認した由緒正しい映像だよ~」

 

 嘘などは言っていない。

 

 その言葉に誰もが耳を傾ける。仲間が偉人として未来で称えられた。その傍らに、自分達もいるのではないかと思ってしまう。

 

「――本当に、個人的な映像じゃなくて世界中で見られた映像なんでしょうね?」

 

「ママは、疑い深いな~。もし、嘘だったら、無惨以外の鬼を全部私が処理してあげるわ。それじゃあ、皆さんこれにご注目!!」

 

 そして流れ出す『その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~ 』。未来の道具と言うだけでも興味津々であり、集まった者達はこの日の事を生涯忘れないだろう。

 

□□□

 

 胡蝶しのぶが、裏金カナエを抱きしめたまま嘆いていた。そんな母親の頭をなでる娘――微笑ましいが、コイツが元凶である。

 

「あ゛ぁぁぁぁぁ。どうじでーーー、どうじてそうなるのよ!! 未来の私の馬鹿~、アホ~、変態!! いっそ、殺して~」

 

「よしよし、ママは何も悪くないわ。いい子いい子」

 

「未来は随分と楽しそうだね。それじゃあ、彼女が未来人である事はこれで証明された。では、そろそろ教えて貰えるかな。十二鬼月の情報を」

 

 産屋敷耀哉のスルー力は、半端なかった。胡蝶しのぶに絡むと時間を浪費すると理解し、放置する事にした、どうせ、裏金カナエが勝手にフォローするだろうと察している。その神がかった判断は正しい。

 

「えぇ、この時期だと……鬼舞辻無惨が女装して、下弦の壱を残し下弦を全員殺しているはずね。後、上弦の鬼達は、吉原の遊郭で働いていたり~、芸術家だったり~、格闘家だったり~、教祖だったり~、元鬼殺隊の隊士だったり…そんな感じだったはずよ」

 

 鬼の情報を教えただけだというのに白い目で見られて心外だと思う裏金カナエ。そりゃ、信じられないかも知れないけど本当の事だ。父親である裏金銀治郎もかつては通った道だ。そう考えれば、親子揃って実に仲が良いことだ。

 

「な、なるほど衝撃的な事実のようだね。だが、嘘は言っていない……信じたくは無いがね。では、他にも知っている情報を教えてくれないかな。代わりになるか分からないが、君の安全は私が保障しよう。他の者達も知りたい情報があるならば、聞くといい」

 

 真っ先に質問をしたのは煉獄杏寿郎だ。

 

「うむ!! では、俺から質問しよう!! 鬼舞辻無惨の血鬼術は何だ!?」

 

「あ~、うん。えっとね、"おめこ券"だったかな。パパとママが本気を出しても破れない絶対防御を誇っていたらしいよ。未来の世界じゃ、頭退魔忍と並んで頭無惨様というのが双璧をなす、パワーワードになっている程よ」

 

「じ、事実だよ、皆の者」

 

 場の空気が重くなる。

 

「はいはい!! 私から質問!! ……私って、将来結婚できてた!? 子供とか居たりしたかな?」

 

「いるいる。二人の子孫が、パパの会社で働いているよ。血筋もかもしれないけど、なかなかの好青年だよ」

 

「おめでとう、蜜璃。どうやら、良縁に巡り会えたみたいだね、心から祝福するよ」

 

 甘露寺蜜璃は、婚活が見事成功したと知り喜んだ。その傍らにいる蛇っぽい人が何かソワソワしている。だが、相手が誰だったかは教えてあげる気がない裏金カナエだ。

 

 そんな質問に苛立ちを隠せなかった不死川実弥が質問をだす。

 

「関係ねー質問してるんじゃねーぞ。今の隊士の質から考えて、無惨を簡単に倒せたとは思えねーな。どんな訓練をやってた?何か特別な事があるんだろう?」

 

「この世界じゃ、パパが居ないからあの方法は難しいかな。そうね~、日輪刀って第二形態があるのよ。赫刀って呼ばれてね、上弦の鬼であっても再生困難な致命傷を与える事が出来るわ。熱と圧力を加えると刀身が赤くなるから試してみたら? 他にも寿命を対価に驚異的な身体能力を手に入れる痣覚醒ってのもあるわ」

 

 鬼を材料にした食事や緊急活性薬などの情報は伝えられる事は無い。

 

 だが、心優しい裏金カナエは万が一に備えて母親である胡蝶しのぶにだけは後ほどその事を伝授する。そして、心労が溜まる彼女は数年ぶりに熱を出し寝込む事になる。 




うーーん、次話あたりで劇場版あたりでいくね。


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