裏金カナエからもたらされた情報を即座に鬼殺隊は取り込んだ。取り急ぎ、お手軽に日輪刀を第二形態にする事から始められた。
脳筋揃いの柱達は、実演した裏金カナエを真似て己の腕力でそれの実現を試みる。鬼のスペックである彼女の身体能力は、見た目から乖離している。よって、見るに見かねた裏金カナエが、万力を使った方法を提示した。
たった、それだけの事で天才扱いされるのは侮辱にも等しい。
熱に関しても同じだ。蝋燭の火を使ったりと様々な方法を頑張った柱達。だが、考えて欲しい。鬼との戦いの最中、蝋燭の火を用意して刀身が暖まるのを待ってくれる様な鬼は居ない。
そこで、またまた裏金カナエが知恵をもたらす。カイロの原理だ。化学反応を使って、刀身を必要温度まで暖める方法である。そのお陰で、一般隊士でもお手軽に赫刀を手に入れた。
「あの~、裏金カナエ様。こちらの決裁書にサインをお願いします。先日、融資した企業ですが……」
「ねぇ、馬鹿なの? ママの看病で忙しいんだから、いちいち私に聞きに来ないでよ」
現在、裏金カナエは赫刀をお手軽に手に入れる方法を伝授したという事で、鬼殺隊の相談役ポジションに昇格していた。本人も何が何だか、理解できない。トントン拍子で昇進していった。
………
……
…
裏金カナエが、なぜか鬼殺隊の運営支援をしている最中。
胡蝶しのぶは、布団にはいりタブレットを手に暇つぶしをしている。頭脳派の彼女は、タブレットの使い方を大まかに理解していた。大事な事だが、別にプレイ動画を見る目的では無い。
普通の写真や動画……タブレットに納められている日記や書物を読みあさっていた。中には、旅行先の写真や裏金カナエの誕生日を祝う動画など微笑ましい物も多い。
「はぁ~、悪い人じゃないんでしょうね。私が好きになるくらいですから――。胡散臭そうですが」
そして、彼女はそのままタブレットの情報を閲覧し、裏金銀治郎の日記を見つけた。そこには、無限列車で炎柱・煉獄杏寿郎がローションが無ければ死んでいたという台詞について、草も生えないと記述があった。
ローション……その存在は、柱達の前で見せられた偉人伝でも聞いた言葉だ。
つまりは、そのローションが無ければ炎柱・煉獄杏寿郎が死ぬ可能性が濃厚であるという事実だ。これには、彼女も焦りが生じる。こんな所で寝ている場合では無い。直ぐにでもローションなる物を開発して、煉獄杏寿郎に装備させる必要があると。
彼女の中では、ローションが武器か防具の類いという位置づけだ。事実は、夜のお供に使われる潤滑油である事など想像すらできていない。寧ろ、そんな道具でなぜ、命が助かるのか場面すら想像できないだろう。
ローションとは何であるかを知り、その開発者として未来永劫語り継がれている事を知る。結果、彼女は心労で再び寝込む事になる。
そんな不甲斐ない母親に代わり、娘が現場に駆り出される。
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無限列車。何人もの隊士が行方不明になったこの場所……鬼の滑稽な術中に見事に嵌まる。それは、鬼退治のプロであり脳筋の柱も同じであった。だが、一人だけ、意図的に術中に嵌まる者もいた。
その名は、裏金カナエ。
夜景が見えるホテルのスイートルーム。常に監視の目を光らせている母親……裏金しのぶは、修学旅行で今頃はベネチアだ。つまり、この場には健全な親と娘の二人だけ。いいですね、健全ですよ。
『カナエ、今日は貴方の為にこの部屋を用意しました。気に入って頂けましたか?』
『うん!! でも、パパも悪いパパですよね。ママが居ない時にこんなホテルに……これから、ご無体されちゃうの?』
『さぁ、どうでしょう。ですが、カナエが望むのでしたら――おいで』
『パパ~』
これから、楽しい時間が始まると思った矢先に夢が終わりを迎えた。列車を揺るがすほどの衝撃が生じた。それが原因で、夢から覚醒する。思わず舌打ちする裏金カナエ。
「ちっ、折角良いところだったのに目覚めが悪いわ。それにビジュアルも最悪です。しかし、この鬼って馬鹿なんでしょうかね。無機物……列車と融合とか夜が明けたら、どうするつもりなんでしょう」
裏金カナエは、襲いかかってくる触手をあしらった。
下弦の壱は、自らの体内に異変を感じる。後部車両にいる謎の
実に的確な判断だ。柱と言えども、列車の速度に追いつく事は不可能。だが、人間を遙かに超越した存在は、切り離された列車から別の車両に乗り移るなど造作もない。
そして、先頭車両に近付くと良い具合に竈門炭治郎とかち合う。
「げぇ、カナエさん!?」
「あらあら、なんで人の顔をみて げぇ って言うんですか。ピュア治郎君、今の私は機嫌が悪いんです、邪魔にならない程度に下がっていてくださいね」
「でも、日輪刀がないと鬼は!!」
「この強紫外線LEDライトがあれば、鬼なんてイチコロです。日本の科学力は世界一!!」
鬼なんて、身体能力と再生能力とちょっとした特殊能力があるだけの人間だ。それらを得るために致命的な弱点を背負っているため、総合的にみれば人間の方が圧倒的に優れているとも言える。
ライトからの光線を浴びると鬼が崩壊していく。その様子を脇目に、竈門炭治郎は手に持っている日輪刀の必要性を考える事になった。第二形態となった日輪刀ではあるが、鬼に近接戦闘を挑む事には変わりが無い。
あの蝶屋敷での地獄のような訓練を乗り越えて今があるというのに、それをあざ笑うかのようにお手軽に鬼を討伐する裏金カナエ。少しは、竈門炭治郎達の苦労を分かってあげるべきだ。
それから、数分とせず下弦の壱は、未来の道具によって跡形も無く消されてしまった。これが科学の力だ。脳筋の柱達による力業では無い。人間、頭を使ってなんぼである。
………
……
…
全てが円満解決し、列車の乗客が近くの駅まで徒歩移動を開始した。その護衛に、鬼殺隊達も同行する。何事も無く平和に物事が進んでおり、日が昇るまであと少しの所で第二の刺客が登場した。
「ぜぇぜぇ、やっと追いついたぞ」
鬼だというのに、息を切らせている。余程、大急ぎで走ってきたのが窺える。もはや、強者としての風格はない。まるで、通勤列車にギリギリのタイミングで乗り込んできたサラリーマンみたいな感じしかしなかった。
それもそのはず、彼……猗窩座は、鬼舞辻無惨より特命を受けている。無限列車に乗っている柱を殺してこいと。だが、無限列車がいつまでも来なかったので、彼は線路を走ってきた。
鬼側には、朝日が昇るまでという、タイムリミットがある。本来であれば、時間を考慮して日が当たらぬ場所に隠れるのだが、何もしないで帰れば癇癪で殺されかねない。だから、死にものぐるいで追いかけてきたのだ。
「上弦の参か……先ほどは、物足りないと思っていたところだ。俺が相手になろう」
猗窩座が息を整える。
そして、雰囲気が一変し、煉獄杏寿郎と猗窩座の戦闘が始まった。戦闘狂の猗窩座は、戦いの邪魔となる者の排除を優先する。それから、じっくりと戦いを楽しむ。その為ならば、多少の手傷を負っても構わないという姿勢が致命的であった。
煉獄杏寿郎が持っている刀が普通の日輪刀なら問題ない。だが、今は違っている。全ての隊士が既に赫刀持ちだ。つまり、それで切られれば治癒不能となる。治すためには肉体の大部分をそぎ落として、そこから再生させる必要があった。
それに気がついた猗窩座は、戦略的撤退も視野にいれる。
「カナエさん!! あいつ逃げる気です!! 俺には匂いで分かります。煉獄さんの手伝いを」
「面倒だけど、仕方ないわね~。ママ直伝の呼吸法を見せてあげるわ、あの手の輩には効果的だから」
煉獄杏寿郎が死ななければ、どうでもよい裏金カナエではあった。
しかし、この場で上弦の参を始末すれば、裏金カナエの株があがり、未来から来た目的である父親と<<放送禁止用語>>する許可が貰えるとも考え手伝う事にする。
「ざぁ~こ、ざこ鬼、甲斐性無し、そんなのだから鬼になっても上弦の弐にも負けて降格するのよ。恥ずかしくないの? ねぇねぇ、それにさ自分より若い子にズタボロにされて逃げ帰るってさ~」
煽りの呼吸……女版。その名もメス●キの呼吸。
実に、活用の幅が広い呼吸だ。近代日本において急速に勢力を拡大しつつある呼吸法で、どれだけの人間の性癖を曲げただろうか。その開発者たる裏金しのぶは、どれだけの人生を狂わせただろうか。
「もう一度言ってみろ、ガキ。その首へし折ってやるぞ」
「何度でも言ってあげるわ、ざぁこ。あっれ~、もしかして本当の事を言われて怒っちゃった? そんな、ざぁこに付き合わされる煉獄さんが可哀相だわ。それに、その顔の入れ墨かっこいいとでも思っているの?ねぇ、ねぇ、私が 縦線だけじゃなくて横線も入れてあげましょうか。きっと、方眼紙みたいになって使い道が増えるわよ」
ブチブチ
武人として女子供には手を掛けない事を基本とする猗窩座。だが、それも今日までであった。血鬼術を発動させて、最初から全力で裏金カナエを殺しにかかった。
「破壊殺・滅式」
「単純よね~。ピュア治郎君、日輪刀借りるわよ。はぁ~、この姿になるのは好きじゃないんだけどね。――伍ノ型・徒の芍薬」
裏金カナエが幼女から大人に変貌していく。日輪刀を扱うのに最適な肉体へと成長を遂げた。その姿は、生前の胡蝶カナエそのものである。
彼女が、大人の姿にならないのは単純に裏金銀治郎に甘えるプレイをいつまでも楽しみたいからという業が深いものだ。その気になれば、止めていた成長を再開出来るし、元に戻る事も出来る。だが、一度この姿を親に見られれば、甘やかして貰えないと考えていた。
武人としてのプライドをケチョンケチョンにされた猗窩座。肉体の再生が完璧で無いにも関わらず、自らより遙かに格上の存在に挑む姿勢は素晴らしい。最も、その事に気がついたのは、裏金カナエに首を飛ばされる瞬間であった。
「っ!! なぜ、それほどまでの力を持ちながら隠す」
「私、この姿嫌いなのよ。パパに甘えにくいからね。それと貴方は、まぁまぁ強かったわよ。うちの警備隊にいる自称、地上最強の生物 竈門勇次郎君 並みにはね」
幼女姿に戻り、猗窩座が滅びる様をしっかりと確認する。
鬼殺隊の者達は、普段馬鹿げた発言する幼女だがその実力は折り紙付きだとハッキリと認識した。そして、怒らせるのは止めようと同時に思った。
ヨシ!!
煉獄さんの無事を確認。
そろそろ、外伝の終了が近付いてきました^-^