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執筆意欲がモリモリ沸きます^-^
京都……歴史的建造物が建ち並ぶ日本が誇る都である。
観光客も多く訪れるため、人の出入りが激しい都市であった。人口も多く、人が多少行方不明になったとしても誰も気にとめない。そもそも、情報化が進んでいないこのご時世、行方不明なんぞ身内でもなければ、騒ぐ者はいない。
新聞で掲載されたとしても誰かの記憶に残らない。人は、他人に無関心だ。
そんな場所へ向かう列車の中、洋服を着た男女が一等客室に乗っていた。裏金銀治郎と胡蝶しのぶである。だが、見るからに不機嫌な胡蝶しのぶが裏金銀治郎を顎で使う。
「胡蝶さん、お茶を買って参りました」
「ご苦労」
列車の乗車前後で色々とやらかした裏金銀治郎が原因である。彼自身も調子に乗りすぎたと反省していた。
――5時間前。
下弦の肆に不意打ちを食らわせるため、鬼滅隊の隊服は相応しくないと説得した裏金銀治郎。効率よく鬼を倒すためならばと、デパートに洋服を買いに行った時に事件は起こった。
「同性としても羨ましいほどのスタイルと美しさです。それに、素敵な旦那様で美男美女とは、この事ですね」
裏金銀治郎は、胡蝶しのぶのファッションセンスを疑っているわけでないが、店員に一式揃えてくれるように依頼した。それに、今回の鬼捕獲は、秘密裏に行う必要があった。そんな状況で隊服では問題がある。
元が良いと何を着ても似合うのは、当たり前だ。店員が胡蝶しのぶをべた褒めする。
「私は、未婚ですがなにか?」
胡蝶しのぶの眉間がピクピクと動く。
一流デパートの店員は、動じない。名誉挽回のため、即座に二人の関係を脳内でシミュレートした。この洋服売り場は海外からの輸入品も扱い華族の方にも好評なお店だ。その為、利用客の大半は富裕層の夫婦だ。
愛人関係、親子関係、恋人関係の三択に絞られた。
「失礼を致しました。デパートを出て、南に三つ進んだ十字路を左に曲がると、ご休憩ができるホテルがございます。お詫びに無料券をお納めください」
「――へぇ~、そういう風に見えますか」
店員が選んだ選択肢は、愛人でも恋人であっても問題ないベターな選択肢だ。青筋の数が倍増する胡蝶しのぶである。
裏金銀治郎はそのやり取りをみるだけで吹き出しそうになった。
実に面白い物が見られたと、代金を支払い早々にお店を出た。その間、胡蝶しのぶは不機嫌で「二度とお店に来ません」と言うほどだ。
――1時間前。
そして次の事件があったのが、列車に乗車してからだ。
列車の一等客席という事で、金に余裕のある者か品格のある人達しか乗ってこない。一組の老夫婦が乗り合わせてきた。偶然にも二人の横の座席に座る。
お年寄りとは何かとお節介好きが多い。
「綺麗なお嬢さんですね。よかったら、みかんでもいかが?」
「ありがとうございます、おばあちゃん」
お嬢さんと言われ、胡蝶しのぶはご機嫌であった。
鬼滅隊では、お母さんなど年齢以上の扱いしか受けていないから、新鮮に感じていた。それに、孫を可愛がるような口調で品の良い人から言われれば誰だって、気分は良いだろう。
愛情に飢えている胡蝶しのぶには、それが染み渡る。
「
「ぶほっ!!ごほっほほごほ」
お父さんとは、誰のことだろうと思考を巡らす裏金銀治郎。思わず、左右を見渡してみた。当然誰もいない。子持ちでもないのにお父さんとは地味にショックを受けていた。彼は、呼吸法と下弦の鬼を食べた影響で老化が抑えられている。そのおかげもあり、年の割には若く見えると評判だったが、お年寄りは鋭い。
だが、実年齢で計算しても胡蝶しのぶみたいな大きな子供がいる年齢ではない。居たとしたら、それは10代前半でやらかした性犯罪者だ。
悩む裏金銀治郎の顔をみて、胡蝶しのぶがミカンの果肉を鼻から吹き出すほどの勢いで咳き込む。美人が台無しになっていた。一度、笑いのツボに入ってしまった人は、そこから中々抜ける事はできない。
「御婦人……
老夫婦が勘違いしている親子という設定で話に乗ることにした裏金銀治郎。
裏金銀治郎が自らを「パパ」というあたりが更にツボに入り、胡蝶しのぶが「お願いですから、もう止めてください」と、笑いを必死に堪えて懇願していた。
その顔をみて、加虐心がそそられると思ってしまった彼である。
この時、二人は知らなかった。一等車両に鬼滅隊事後処理部隊『
後藤は、蟲柱と金柱が想像の遙か上をいく関係であったと勘違いする事になる。後藤は、酒に酔うと口が軽くなるタチであり、その誤った情報が拡散するのは、時間の問題だ。
◆◆◆
京都に到着した。
裏金銀治郎の根回しの良さを信じていた胡蝶しのぶは、酷い裏切りに会うとは思わなかった。鬼を倒すのは柱の役目で間違いない。つまりは、鬼を探索するのは別の者が担当するのが常識であった。
「で、裏金さんの私兵の皆様は?」
「何を言っているんですか? 勤め人の私に私兵なんているはずないでしょ。それに、発想を変えましょう。
信じられないという顔をする胡蝶しのぶであった。
今までの仕事ぶりを見ているからこそ、秘密裏に動かせる部隊を作っていると確信があったのだ。何かあれば鬼滅隊もろとも自爆するだろうとも。
だが、事実は全く違う。裏金銀治郎は、正しく職務を全うする隊士の鑑のような存在である。胡蝶しのぶは、そのあたりが理解できていない。
「――あれ? 裏金さん、もしかして下弦の鬼とお知り合いだったりしますか?」
裏金銀治郎が口にした彼女という言葉が胡蝶しのぶは、気になった。隔離施設で血も涙も無いような事を行う人が、下弦の鬼に対して一瞬でも優しい声になった。
胡蝶しのぶが真っ先に考えたのが、裏金銀治郎の身内の誰かではないかという事だ。それならば捕獲したいのも納得がいく。他の柱に見つかれば殺害しか選択肢はないからだ。
「知っている情報なんて殆どありませんよ。そうですね……鬼に同情する訳ではありませんが、不憫な鬼です。何年かぶりに上司に呼び出されたら、
「ちょっと、何を言っているか分かりませんよ」
「そうでしょうね。真面目に知っている情報を共有します。下弦の肆で二本の角を生やした女の鬼。名前を零余子という。能力は不明ですが、柱との戦闘を極力避けている事から戦闘向きの能力ではない可能性も高い。容姿は、こんな感じの鬼です」
裏金銀治郎は、知りうる限りの情報を提示した。似顔絵だって、絵師に依頼して何度も修正し、ほぼ完璧に再現している。下弦の鬼相手にそれだけの情報を持っているだけでも普通ならあり得ない事だ。
十二鬼月を相手にする場合、普通は初見なのだ。
「詳しいですね。まるで、見てきたかのようです。もしかして、裏金さんって鬼側のスパイだったりしますか?」
もちろん、冗談で言っている胡蝶しのぶである。そもそも、裏金銀治郎が鬼ならば、勝手に自滅していた鬼滅隊で裏方を頑張ったりしない。
「違いますよ。鬼滅隊に
裏金銀治郎は、胡蝶しのぶに嘘はつかない。大前提として、聞かれなければ答えない。
裏金銀治郎の意味深なセリフを問いただそうとした時、二人の前に外車が停車する。中から運転手がおりてきて深く頭を下げる。
「裏金銀治郎様と胡蝶しのぶ様でございますね。府知事がお待ちです。どうぞ、お車にお乗りください」
「あぁ、お迎え感謝する。さぁ、お手をどうぞ」
裏金銀治郎は、私兵など持っていない。だけど、権力者とのコネを最大限活用する術を知っている。胡蝶印のバイアグラと多額の賄賂を携えこの場にもきていた。大正の世で世渡りするには、こういう男が必要なのだ。
その夜、府知事主催の真っ黒いパーティーへの出席を余儀なくされた二人。当然、立場はアンブレラ・コーポレーションとして、胡蝶印のバイアグラの販路拡大にも努める事になった。
◆◆◆
裏金銀治郎は、府知事という特権階級の協力を得ることに成功した。
下弦の肆を隠れ家からあぶり出すため、行方不明者が多発している地区で、ある放送を流して貰う事と人気の無い倉庫のレンタルを依頼した。その依頼内容が、簡単であったため、府知事側としてはお安いご用だと快諾した
念のため、大きめの建物にも同様の放送を流された。とあるデパートでは――
「お客様のお呼び出しを致します。零余子様、上司の無惨様が二日後の17日の19時に京都海運17番倉庫でお待ちしているとの事です。繰り返し、お伝え致します――」
デパート内の放送にも関わらず、海際の倉庫への呼び出しとか理解に苦しむ内容であった。その為、一般人にしたら悪戯だと考える。
だが、偶然にもデパートという快適な空間を拠点としている鬼がいた。日陰の空間、品揃えなど便利の一言に尽きた場所であった。
「お呼び出し!? そんな馬鹿な!! 今まで、強制移動させられていたのに何故!? 」
彼女――下弦の鬼である零余子が考えたのは、罠という線だ。今までは、いつの間にか鬼舞辻無惨が現れ、パワハラプレーをして帰るという事が常であった。だというのに、唐突の呼び出しである。
しかし!! 鬼舞辻無惨という名前が出てきた以上、無視できないのも事実であった。
真実であった場合、呼び出しに応じなかったらどうなるかと言われれば、100%殺されるのだ。つまりは、100%嘘だという確証がない限り、この呼び出しに応じる他なかった。
零余子側からは、コンタクトは取れない。彼女の上司は、上弦の鬼ならばまだしも、入れ替わりの激しい下弦の鬼に連絡方法など教えていないのだ。
「どうすれば……でも、私の名前を」
館内放送で呼ばれた「零余子」という名前が、この呼び出しが嘘だと言い切れないポイントになっていた。彼女の本名を知る者など、鬼舞辻無惨以外にあり得ないのだ。
そんな出来事があった為、彼女の精神に多大な負荷がかかった。そして、彼女の思考は迷走し、一種の回答に至った。
今までの働きが認められて遂に上司のお気に入りに成れたのではないかと、ポジティブな発想へとシフトしていた。上司とて、男である――女である自分の方が下弦の伍の子供より何倍も役に立てると考えた。
「間違いないわ!! 綺麗な服を用意しないといけないわね」
彼女は、自らの先見の明を褒め称えていた。
デパートならば、望む品が全て揃う。だが、彼女は知らない……パワハラ上司は女にもなれるという事実を。そして、女になった時は、「その格好はなんだ?私への当てつけか?」と、己より高級な身なりをしていたら、殺されるという事実を。
裏金銀治郎が、怪盗キッドみたいに変声機なしで無惨のマネをできたら、こいつなら操れるんじゃねと思ってしまった。
さぁ、狩りの時間だ。
モンハン的に言えば、閃光玉と罠を現地調合分まで持ち込んでのスタートである。