やはり、あの名言は言わせたいよね~と思って^-^
上弦の弐…最強の血鬼術の一つを持つ鬼だと裏金銀治郎が賞賛する程だ。その能力を十全に操る事で、血戦で順調に序列を挙げてきた存在。正面切って殺し合えば、裏金カナエともそれなりに戦えるだろう。だからこそ、馬鹿正直に戦うなどしない。
よって、計画された作戦が毒により弱体化させて一気に殺す方法だ。
それを聞いて、胡蝶しのぶは出番かと心を躍らせていた。姉の仇を遂に討つ時が来たと……だが、目の前に居る裏金カナエの存在が原因で、微妙な感情が彼女の中を巡っていた。姉の仇を討つのに、目の前にいるのは姉の生まれ代わりだ。
何より問題なのは、裏金カナエ自身が上弦の弐に殺されたのを恨んでいない事だ。寧ろ、そのおかげで、思い人の娘として転生できたと感謝すらしている。生前よりイキイキしている。
「はぁ~、気にしたら駄目ね。じゃあ、姉さん……毒の準備も出来ましたのでいきましょうか」
「藤の毒じゃ~、効果は薄いと思うわ。既に、信者を使って食事に毒を仕込んだから、安心して良いわ。ママは、その赫刀で乱れ突きでもする準備をしておいてね」
悲しい事に藤の毒の出番はなかった。
胡蝶しのぶがこの日のために、高濃度の毒を用意したというのに残念な事だ。だが、そうなると、鬼に効く毒とは何なのか胡蝶しのぶは疑問に思った。長い歴史の中で、鬼に有効な毒の開発に成功したのは自分だけだったはずと。未来では、そうではないのかと。
「そうなのね……で、一体どんな毒かしら? 毒を使う私としても気になるわ」
「強力だよ~。あのパパですら、30分もお手洗いで苦しんだからね。上弦だったら、丸一日は出てこれないかしら」
鬼の始祖である裏金銀治郎を30分も苦しめた毒。毒に精通する胡蝶しのぶだからこそ、恐ろしいと感じた。未来で開発された未知の毒による未曾有の大被害がでるのではないかと。
「一体、どんな毒なの?」
「貝毒よ。以前にパパが生牡蠣を食べて当たってね~。信じられる?鬼の始祖でもあり、核や水爆が直撃しないと死なないようなパパがお手洗いで苦痛の悲鳴をあげていたのよ」
その話を聞いた胡蝶しのぶは、悲しい気持ちになった。不死身(笑)の鬼が貝毒でもがき苦しんでいる。鬼の始祖が苦しむ毒ともなれば、並みの鬼などそれだけで死ぬ。十二鬼月だって無事では済まないのは明白だ。
せめて、藤の毒関連で苦しんだなら、まだ納得が出来た。貝毒が鬼にとって致命傷になる毒だなんて、悲しすぎる。今までの苦労を返せと胡蝶しのぶは言いたくなった。
「つまり、今頃、上弦の弐は厠に篭もって苦しんでいると」
「お館様のカリスマと金で信者を買収したのよ。夕食の痛んだ生牡蠣を食べたと情報がきているわ。そして、いまは厠に篭もっているという情報もね。ママ、人間も鬼も出している時が一番隙があるのよ」
これから行われるのは、 上弦の弐である童磨が教祖を務める拠点に忍び込む。そして、厠で苦痛の悲鳴をあげて糞をしいている最中にズバッと殺すと言う事だ。つまりは、見たくも無い、文字通り糞みたいなシーンを目撃する事になる。
下手したら、糞が身に降りかかるかも知れない。
「確か、上弦の弐は胡蝶カナエの仇だったな。派手に譲ってやるぜ蟲柱」
「そうだね、僕もちょっと…」
「俺には関係ない」
気が回る柱達は、一番槍を胡蝶しのぶに譲る。そもそも、怨敵を殺す絶好の機会だ。柱達からしたら譲って当然、胡蝶しのぶからしても譲られて当然である。こんな時だけ団結力がある柱達であった。
「がんばれ、がんばれ。ママ、早く私の仇を討って欲しいわ」
………
……
…
万世極楽教にある教祖部屋近くで、うなり声が響く。
「腹がぁぁぁぁ……あああああ」
そして、汚い音が響く。それだけでセクハラ案件だ。更には、微妙に漂うウンコ臭。
その発信源に近付く胡蝶しのぶ――この日をどれだけ待ったことか。と、先日までなら思っただろう。今の彼女は、今すぐにでもこの場を離れて帰りたいとすら思っていた。
ぶりぶりぶり
「あぁ、そこにいる信者の人。紙をもってきてくれない」
苦しそうな声で紙を求める童磨。厠の扉を僅かに開けて手だけを差し出している。紙を求める手だ。
胡蝶しのぶは、意を決した。狙うは頸!! 力が無い胡蝶しのぶでも、赫刀で頸を突けば十分殺せる。扉を開けた瞬間、彼女は名言を口にする。
「え、変態かな?そう言う人はちょ…」
「とっととくたばれ糞野郎」
その瞬間、怒りのボルテージが天元突破した胡蝶しのぶは、九頭龍閃を発動する。全身九箇所をほぼ同時に突いた。そして、崩れ落ちる上弦の頭部を粉々に踏み砕く。
□□□
裏金カナエがいない事を良いことに、娘の部屋で夫婦の営みを楽しむ親が居るとは誰も思わないだろう。だが、そんな背徳的なプレイも終わりを迎える。
幼女の姿の裏金しのぶが、娘の服を脱ぎ捨てる。そして、大人の姿へと変貌を遂げる。着替える姿を楽しそうに見つめる裏金銀治郎。
長期家出をしている娘を探す為、娘の部屋から痕跡を辿っていた。そうしたら、どこぞの淫柱が娘の服を着てパパと迫ってくるのだ。誰が悪いかは言うまでもないだろう。
「そうそう、しのぶさん。カナエを見つけました」
「無事なんですよね? 銀治郎さんが、焦ってないところをみるに……どうせ、面白おかしな事をやっているんでしょう」
裏金しのぶも母親である。実の娘が生粋の鬼で、世界最強のポテンシャルを秘めている存在であっても心配だ。だが、それと同時に裏金銀治郎と同様に愉悦属性をもっている事も理解している。
その為、どこで何をしているか不安でいっぱいであった。
「しのぶさんの所ですよ」
「うん? 私の所? もしかして、この家の中にいるとかですか?」
裏金しのぶの知覚能力からも隠匿できるとは、彼女も信じがたい事であった。
「いいえ、そうじゃありません。正確に言えば、胡蝶しのぶさんのところです……別世界のね。カナエの血鬼術は、どうやら世界線を越えられるようです。いや~、探すのに苦労しました」
「べ、別世界ですか~。先日、夢でカナエに会った気がしましたが、関係しているのかしらね」
「その可能性は、あります。別次元であっても、しのぶさんはしのぶさんです。カナエが側に居ればその影響が及んだ可能性を考えています。だから、一時的に別世界のしのぶさんとチャンネルが繋がった。しかし、不思議なのは、何故カナエがそんなところに居るのかです……なにか、心当たりはありませんか?」
「うーーん、そう言われましても――っ!! そう言うことですか!!」
裏金しのぶは、理解した。なぜ、娘が世界を越えてまで遠くに行ったのか。あのパパ大好きの娘が、自ら父親と離れるなど余程の事だと思っていた。その理由が、ようやく繋がった。
別世界の私から、裏金銀治郎と<<放送禁止用語>>する許可を取りにいったと。別世界の私が許可を出しただけでも、自らに約束を履行させる事が可能である事を察した。
「銀治郎さん!! 今すぐに、カナエを連れ戻しにいきます。どうせ、私に報告をしたと言うことは、世界を渡る算段もついているんでしょ? 出来ないとは言わせませんよ」
「もちろんです。娘に出来て、父親に出来ないなんて事はありませんよ。こう見えて、私は中々できる男なんです」
転生者である裏金銀治郎。平行世界というより上位世界の出身者だ。そんな存在の娘なのだから平行世界を行き来できる血鬼術が発現したとしても可笑しくない。
さて、家で娘を心配した両親が動き始めました。