鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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※しのぶさんが、二人いて混乱するので、一応以下の形で区別をお願い致します。


『』:裏金しのぶ

「」:胡蝶しのぶ


外伝:裏金カナエ~afterstory~ 7

 裏金カナエが現れて僅かな期間で100年以上も討伐されていなかった上弦が四体も倒された。残りの上弦は、黒死牟と半天狗。そして、首魁である鬼舞辻無惨だけとなった。無論、有象無象の雑魚鬼達はいるが、赫刀を持つ隊士達で十分に対処可能。

 

 だが、急激な変化は、リスクがつきまとう。それが、敵側の行動方針の転換だ。

 

 鬼の被害報告がほぼ無くなり、足取りが全くつかめなくなった。これには、裏金カナエも困ってしまう。半天狗などは場所が割れていない。更には、無限城という異次元に引き籠もられては、彼女が持つ血鬼術では手の出しようがない。

 

 鬼舞辻無惨が、完璧な鬼である裏金カナエの存在を知っていれば無理にでも動いただろう。だが、気づけていない。

 

 そして、本日、これからの活動方針を決めるため緊急の柱合会議が開催される事となった。裏金カナエも胡蝶しのぶの膝の上から参加する。産屋敷耀哉が鬼事情に一番詳しい、裏金カナエに質問をした。

 

「全国の鬼が一斉に隠れてしまった。これは、歴史的に見ても今までに無いことだ。何か情報は持っていないかい、裏金カナエ」

 

「血鬼術で作られた異次元――無限城に隠れたとみて間違いないわ。私の血鬼術に同種の能力があれば、無理矢理でもこじ開けるんだけどね。無限城は、パパのお気に入りの能力の一つよ。元々の持ち主は無惨配下の鬼で、パパが最高で最低の鬼だと褒めていた事があるわ」

 

 鬼をあと一歩まで追い詰めているこの状況。打開策を求めて、裏金カナエから情報を手に入れた鬼殺隊。だが、その彼女ですら、どうしようもないという。ここまで、追い詰めて時間切れまで鬼が隠れるなど許せないと憤怒する柱達。

 

「ここまできたんだから、何とかしろ!! お前も鬼だろう」

 

「あれ? でも、カナエちゃんのお父さんなら、干渉できるって事じゃ無いかしら」

 

「流石、甘露寺だ。今すぐ、裏金の父親とやらを呼べ」

 

 風柱、恋柱、蛇柱が何も考えずに発言する。

 

 そもそも、彼等は忘れているのでは無いか。裏金カナエは、この世界を無償で救いに来た訳ではない。次元を渡って来たのには、浅い理由がある。この場に両親が到着したら、裏金カナエの企みが終わる。

 

 と、思うのが普通だ。

 

 だが、有能な裏金カナエはピンチをチャンスに変える。

 

「えぇ~、じゃあ、ママがお預けにしているご褒美を先にくれるなら、パパに頼んでもいいわ。今度は、考えてあげるとかじゃなくて、確実に、今この場で明言してねママ」

 

 胡蝶しのぶは、上弦を倒したご褒美として裏金銀治郎と<<放送禁止用語>>する許可を結局あげなかった。考えたけど、やっぱり駄目と言い切った。一応、他にも上弦が残っている事や無惨が残っている事など当たり障りのない理由をあげた。それが、本当の理由かは、胡蝶しのぶ本人にしかわからない。

 

 胡蝶しのぶの膝の上にいる裏金カナエ。満面の笑みでご褒美プリーズと両手を広げる。この場で胡蝶しのぶが、許可を出せば確実に裏金銀治郎が処理をする。

 

「早く許可出しちゃってよ、僕忙しいんだから」

 

「いいじゃねーか、蟲柱の一言で鬼が滅びるんだぞ。派手に許可してやれ」

 

「いいではないか!! カナエ殿は、上弦の鬼を討伐など様々な事で貢献した!! 少しくらい目を瞑ろうではないか」

 

 霞柱、音柱、炎柱が無責任にも許可を出せと賛同する。

 

 だが、蟲柱は一言も喋らない。空気を察して、産屋敷輝哉が対話を試みる。

 

「どうしたんだい、しのぶ。何か困っている事があるなら、口に出すといい。何か思うところがあるのだろう」

 

「―ぃゃです」

 

 小さな声ではあったが、確かに皆に聞こえた。胡蝶しのぶが明確な拒絶を示した言葉を。誰しもが何故?と疑問に思った。話の流れや胡蝶しのぶの性格からして、『仕方ありませんね、今回だけですよ』と軽く許可が出るだろうと予想していたが、完全に覆った。

 

「あ゛ぁぁぁ~、やっぱりこうなるのね。だから、早く許可が欲しかったのよ。どうせ、映像や写真を見て、感情移入したんでしょ!! 考えても見なさいよ、別次元の自分が惚れた男なのよ、この世界のしのぶが惚れない道理がないじゃない。こんな事なら、タブレットを無理矢理にでも回収すべきだったわ」

 

「ち、違います!! 私は、ただ別世界の私に迷惑を掛けたくないだけです。別に、私の一言で、銀治郎さん(・・・・・)に迷惑が掛かると申し訳ないなんて思っていませんよ。本当ですからね」

 

 真の敵は身内にいた。しかも、強力無比だ。実力行使になどでれない、穏便に解決する為に思考を巡らす。男との出会いがないから、こんなに拗らせる結果になったのだ。つまり解決策は、男を紹介する事だ。

 

 裏金カナエは、周囲に居る男達を確認する。

 

 表世界にも裏世界にも顔が通じて、世界的な大富豪だったり、世界への影響力を持つ男になれる人がいるだろうか……そんな都合の良い人間が、実は一人だけいる。産屋敷耀哉、その人だ。彼ならば、裏金銀治郎も納得して胡蝶しのぶを託せると太鼓判を押す。

 

 しかし、この世界において、産屋敷耀哉と胡蝶しのぶのカップリングが成功する可能性は、0%だ。

 

「ないわ~。誰よ、こんな脳筋ばかり集めた人は――仕方ないわね。パパを共同管理する方向で手を打ちましょう。大丈夫よ、パパはママを愛しているから、例え増えたとしても問題無いわ」

 

 ごくりと、胡蝶しのぶの喉が鳴る。

 

 一人の男性を共同管理するなど倫理的にどうなのかと思うところは、胡蝶しのぶの心にもあった。それでも構わないと思う心もどこかにあった。

 

 だが、その時、柱合会議の部屋に乱入者出現。

 

 部屋の襖を開けて現れる男女二人。柱達は瞬時に臨戦態勢に移行する。二人の存在感が、出会った上弦など比較にならないほど大きかった。話題の人物達と柱達の初会合。

 

 裏金カナエが移動先に母親を選んだように、移動先のマーカーに裏金カナエを利用していた。

 

『カナエ、とーーーっても楽しそうな話をしているのね。ママも混ぜて欲しいわ』

 

「そんな、後一歩まできたのに、こんな所で。――血鬼術"ザ・ワー……」

 

 裏金カナエが血鬼術を発動し、逃亡を謀ろうとした。だが、裏金しのぶの方が一枚上手であった。瞬時に未来を経験し、行動を止めた。血鬼術とて、発動前に止めてしまえば障害にならない。勿論、それが出来る者の方が希有だが。

 

 母親に羽交い締めにされた裏金カナエは、敗北を認めた。

 

「おやおや、私にとっては懐かしい顔ぶれですね。この度は、娘が大変ご迷惑をおかけ致しました。娘には私からキツく言っておきます。もし、私に出来る事がありましたら何なりと言ってください。この度の謝罪も兼ねて、誠意を持って対応させていただきます」

 

「パパ、カナエは悪くないわ。ママがパパを独り占めするから~。ねぇ、何でパパとカナエが結婚しちゃいけないの?」

 

「難しい質問です。カナエは私の娘はイヤですか? 私は、カナエが娘として産まれてきてくれて毎日が幸せです。貴方と会えた事があの世界で私が生きた証明でもあります。ですから、カナエが私の娘である事を否定したいという事がとても悲しい。――カナエ、いつまでも私の娘でいてくれませんか。いつまでも、娘である貴方を愛させて貰えませんか」

 

 ちなみに、大事な事だが……凄く良い事を言っている雰囲気だが、父親と娘で<<放送禁止用語>>したらいけませんとか、一言も言っていない。何となく、良い事を言って綺麗に終わらそうとしているだけだ。

 

 別に、愛があったら育んでもいい。

 

 そんな言葉の綺麗さに誤魔化された柱達は、裏金銀治郎が鬼でありながら良い父親であるというポジションを得た。裏金銀治郎への先入観などが、無ければ脳筋柱達なぞこんなものよ。

 

「うぅ~うぅ~、わかったわパパ。今回(・・)は、諦めるわ。これ以上、ママの仲間だった人達に迷惑も掛けられないしね。じゃあ、少し無惨を殺すのだけ手伝って~。無限城に逃げ込まれちゃってね」

 

 まるで、部屋の掃除のお手伝いを依頼するかの如く、鬼の首魁退治がお願いされる。そして、それを快諾する裏金銀治郎であった。

 

 だが、親子のやり取りをにらみ付ける一人の女性がいる。胡蝶しのぶであった。

 

『ねぇ、銀治郎さん。なんか、こっちの私が凄く睨んできているんですけど~。一体、私に何をやったんですか? 早めに謝ってくださいね』

 

「スケベ、変態、淫乱」

 

『ねぇねぇ。銀治郎さん、一体、コッチの私にナニをしたんですか? 私があんな反応をするって事は、手を出しちゃったんですか。ここに来たのは、今日が初めてだと言いましたよね?』

 

 完全に無実である裏金銀治郎。だが、裏金しのぶはその言葉が裏金銀治郎へ向けられた物であると信じて疑わなかった。

 

「違います!! 銀治郎さん(・・・・・)じゃなく、貴方に言っているんです。裏金しのぶ、同じ存在として恥ずかしいですよ。何ですか、あんな形で歴史に名前を残して恥ずかしいとは思わないんですか?」

 

『はぁ? 一体、私の何処がスケベで変態で淫乱だって言うんですか? 言っておきますが、世界は違えど鏡に悪口を言っているようなものですよ』

 

 同じ顔、同じ見た目の二人が争う様子は、楽しいものだ。他の者達も静観している。こんな場面が見られるなど、そうそうにない。

 

「へぇ~、じゃあ文化祭の真っ最中に保健室でメイドの躾プレイをするのはなんて説明するんですか?」

 

『……ぎ、銀治郎さん。あのタブレットって厳重保管してセキュリティも完璧って話じゃありませんでしたっけ?』

 

「えぇ、私としのぶさんとカナエの指紋でしか解除できませんよ。充電中にカナエが間違って持ってきたんでしょう。流石の私も、別次元のしのぶさんが解除するなど想定外です」

 

 己の長年の痴態が知られていた。

 

 これで言い訳できない変態のレッテル。流石の裏金しのぶも否定できなかった。世間一般的には変態行為と言える事も色々やっていたからだ。

 

「まぁ、色々と積もる話もあるだろう。今日は、ゆっくりと休んでくれ。しのぶは、裏金夫妻と裏金カナエのおもてなしを頼んだよ」

 

 裏金銀治郎は、何故こんな展開になったのか理解出来ていなかった。

 

 家出娘を探しにきたら、胡蝶しのぶと裏金しのぶが険悪なムードなのだ。しかも、その中心にいるのが自分であるとは……人生にはモテ期が何度かあるというが、同じ女性に対してのモテ期も回数にカウントしてよいか悩んでいた。




次回、純情な胡蝶しのぶが迫る。

「ねぇ、銀治郎さん。すこし、寒いので暖めて貰えませんか。大丈夫です、私も胡蝶しのぶですよ。浮気にはなりません」

と、布団に誘う一人の女性がいるとかいないとか。





嘘ですけどね。

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