鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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外伝:第一次竈門炭治郎の乱(2)~Nice boat~

 繁華街の中にあるレストラン"Nice boat"。極めて珍しい異国の料理が楽しめるレストランとして、知名度を上げていた。その為、日頃混雑しているレストランだが、クリスマスというイベント時期においては、予約を取る事などコネでもないと不可能。

 

 そんな大人気のレストランには恩人が居た。異国の香辛料の入手ルートを教えてくれたり、異国の料理を教えてくれるだけでなく、経営に関するアドバイスまでしてくれた人。更には、開店資金をポンと無期限無利息で貸してくれた男――その名は、裏金銀治郎。

 

 恩人から、クリスマスに二組分の席を用意してくれと言われれば、断る事など出来ない。最高のおもてなしをするつもりで、その日を待った。恩人からは、見知った顔が行くからよろしく頼んだと言われる。

 

 レストラン"Nice boat"のオーナーシェフを務める村田。嘗ては、鬼滅隊の一隊士として、各地で鬼退治をしていた。柱稽古でもそれなりに上位に食い込む隠れた猛者。鬼舞辻無惨との戦いにおいて、沈まない船にさくっと乗り換えた判断力は、あの鱗滝左近次にも匹敵する。

 

「オーナーシェフ!予約のお客様です」

 

「わかった!今行く」

 

 勝ち組村田。来年には、結婚も控えており…幸せの絶頂と言えた。その結婚相手も金柱プロデュースであり、この幸せを誰かに分けてあげたいとすら思っていた。

 

 

◇◇◇

 

 不可能を可能にする男となるか、ギリギリのチャレンジに挑む男がいる。

 

 その男の名前は、竈門炭治郎。

 

 そもそも、クリスマスの日にどうやったら、ダブルデートをバレずに乗り切れるのか。そんな方法があるならば、金が取れる。普通ならどちらかを断る。常識的に考えて、本命をクリスマスにして、予備をクリスマスイブや別日にするのが常套手段。

 

 だが、許されない状況であった。

 

 毎年毎年、愛人相手にそんな常套手段を使い続けており、昨年のクリスマスに『来年は、私とクリスマスを過ごしてくださいね。約束ですよ』と言われて、承諾してしまっていた。ムスコを握られており、断れる状況ではなかったとはいえ失策だったと言える。

 

 そうなれば、本妻との日程を変更できるかと言えば難しい。そもそも、二重生活をしているのだから、常に危険な橋を日々渡っていた。どんなに頑張っても年単位でそんな生活をしていれば少なからず怪しまれる。それを払拭するためにもクリスマスというイベントは逃げられない。

 

 竈門炭治郎は、今年こそ死んだと思った。しかし、本妻と愛人から同じ店での食事と言われて、閃く。これは、ひょっとするといつも通りヤり過ごせるかもしれないと。いいや、破滅を回避する為に、成し遂げると意気込んだ。

 

 そして、当日。本妻である竈門カナヲには、デートの雰囲気を出すために、お店で待ち合わせしようと言って家を先に出る。そして、現地で愛人である神崎アオイと合流して、レストラン"Nice boat"に来店を果たした。

 

 竈門炭治郎の考えは、先にお店の店員を買収して、色々と取りはからって貰おうと決めていた。アンブレラ・コーポレーションで営業成績がずば抜けており、ボーナスで財布も分厚い。お金の使い方も炭色へと染まり始めた。

 

 そこへ、お店のオーナーシェフが現れる。

 

「む、村田さん?」

 

「もしかして、炭治郎!?いやーー、久しぶりだな。なんだよ、金柱様の紹介だと聞いていたから誰だと思ったら、炭治郎じゃん。元気にしてたか」

 

 勝った!! 少なくとも竈門炭治郎は、心の中でガッツポーズをしていた。裏金銀治郎の紹介という言葉も相まって、事前に事を察知して頑張り次第でどうにか出来るように取り計らってくれたと勘違いする。

 

 彼もまた、世界は(裏金銀治郎)が七日で作ったと言っても信じるレベルへと昇華しつつあった。

 

「あぁ、村田さんこそ元気そうでなによりだよ。こんな大きなレストランのオーナーシェフなんて大出世じゃないか」

 

「そんなこと無いよ。これも、全部金柱様のお陰だよ。それと、そっちは……蝶屋敷にいた神崎さんだっけ?………言っておくが、この店で問題を起こすなよ!絶対だからな、俺は何も見てないからな

 

 既婚者である竈門炭治郎が妻である竈門カナヲ以外とクリスマスデートをしているなど、見なかったことにしたいと思うのが正常な反応だ。だが、その村田の願いは叶わない。神崎アオイに見えないように、竈門炭治郎は現金が入った分厚い封筒を村田に渡した。その中には、料理を出すタイミングや従業員への取り計らいの依頼があった。

 

 村田は、追い出したい…正直そう思った。だが、裏金銀治郎からの客で有り、簡単には追い出せない。どうせ受け入れるしか無いなら、金を貰って受け入れるほか無かった。

 

「俺、そういう諦めが早い村田さんの事好きですよ」

 

 清々しい顔をして、従業員に案内され奥の部屋にいく竈門炭治郎を涙目で見送る村田。神崎アオイと腕を組む竈門炭治郎……戦友の店で不倫デートをするような男にまで成長を果たしている。

 

 読めなかった村田の目をもってしても。

 

 疲れて調理場に戻ると、クリスマスに助っ人に来てくれた……圧縮言語使い冨岡義勇。アンブレラ・コーポレーションの社員食堂に勤務する最中、料理研究にも手を抜かない。その為、休みの時にレストランの手伝いを兼ねて色々と学んでいた。

 

「どうした村田」

 

「あぁ、冨岡さん。実は、炭治郎が来てて……ちょっと、込み入った事情があるみたいでさ。申し訳ないけど炭治郎のところを冨岡さんにお願いできませんか。給仕とかが余計な事言うと困るから冨岡さんなら最適かなと」

 

「任せておけ」

 

 元柱の任せておけなどという頼もしいお言葉に村田は感激した。そして、村田は竈門炭治郎から渡された指示書と金を全て渡す。

 

………

……

 

 全てが順調に進みつつあった。

 

 神崎アオイと個室に移動してから、直ぐにお店の入り口に戻り竈門カナヲを待って別個室に入っていく。その様子は、従業員達から不思議に思われる。なぜ、別々の女性と同じ店にくるのだろうかと。

 

 だが、オーナーシェフより助っ人の冨岡義勇以外関わらないように注意をされていたため、素直に従う。実に教育が行き届いたスタッフ達だ。

 

 神崎アオイ及び竈門カナヲの両名は、ご機嫌であった。雰囲気の良いレストランでのクリスマスデート。個室には、国外からの観光客に受けが良いオーナーシェフの私物であった日本刀が飾ってある。

 

 しかし、そんなご機嫌も長くは続かない。度々離席する竈門炭治郎。何でここに居るのか謎の元水柱の冨岡義勇……アンブレラ・コーポレーションの食堂勤務をしており、お互い知らない者同士じゃないのに何を聞いても無言を貫く。元から無口だが、ここまで無口なのも気味悪がられる。

 

「いや~、ごめんごめんカナヲ。なんか、トイレが混んでて」

 

「さっきからトイレだの何だのって席を外してばっかり。そんなに私と一緒に居るのがつまらないんですか。最近は、帰りも遅いし。あんなに働いているのにボーナスだって……やっぱり、私から裏金さんや師範に言いますか」

 

 竈門炭治郎は、年収はそこら辺のサラリーマンより遙かに高い。中堅企業の本部長クラスは貰っており、確実に年収が労働者全体からみて上位5%に入っている。だというのに、お金が無いのは、二重生活で神崎アオイの所にもお金を入れているからだ。

 

 その為、毎月自作の給与明細も作っている。それに伴う各書類の偽造も怠らない徹底ぶりだ。

 

「ダメだよカナヲ。給料が少ないのは、俺の力が足りてないからだ。だから、俺を信じて待っていてくれ」

 

「わかりました」

 

 竈門カナヲは、胡蝶しのぶの秘書的なポジションだ。下手に給料の事を聞かれては大変よろしくない事態になる。それだけは、避けなければならなかった。実際は、十分以上な金を貰っている。だが、その使い道が問題だ。

 

 妻の手を握り、信じ込ませる。そして、頃合いを見計らい竈門炭治郎は、また隣の部屋へ移動する。

 

 そんなやり取りを見た冨岡義勇は、懐にある札束を見た。そんなに生活が苦しいのに、これだけの金を受け取っていいのだろうか。いいはずがあるまいと、冨岡義勇の良心が痛み始めた。そして、やらかしてしまう…要らぬ気遣いを!!

 

 俺は嫌われていない…そう、俺は気遣いができる奴なんだと。

 

「これを」

 

「なんですか、冨岡さん…お金?こんなの受け取れません」

 

 いくら知り合いだからと言って、これだけ纏まった金額を受け取るわけにはいかない。それに、賞与と書かれている給与袋だ。だが、その給与袋に夫の名前が書いている事に気がつく。

 

 不思議な事だ。既にボーナスの給与袋は、受け取っている。だというのに、アンブレラ・コーポレーションの給与袋。

 

「これ、炭治郎さんの名前が書いてあります。なんで、冨岡さんが持っているんですか?」

 

()(る途中で拾った。)

()(ょうどいいので、後で渡してくれ。)

()(うか、炭治郎を責めないでやって欲しい。)

()(でたいこの日に、根掘り葉掘り聞くのは野暮だからやめておけ。)

()(んしつにいた神崎アオイに頼んでも良かったが、君が適任だ。)

()(ろしく頼む。)

()(わさで聞いたが、第二子をご懐妊したそうだな。おめでとう)

 

「なるほどなるほど。いま、炭治郎さんは何処で何をしているんですか?冨岡さん、正直に教えてください」

 

()(わてなくても直ぐに戻ってくる。)

()(つだって、あいつはそうだっただろう。)

()(かんが長く思えるのは、炭治郎を愛しているからそう思えるだけだ。)

()(ジャナバーの炒め物でも食べて待っていてくれ。)

()(ても苦いので、飲み物があるといいだろう。)

()(ければ、詫びとして俺の奢りで酒を用意する。)

()(っ甲山)

()(ば田)

()(ろ霧島)

()(はり、女性は日本酒より洋酒の方が好みか。)

()(いているな、金柱がキープしていた30年物のロマネ・コンティが倉にあった。)

()(んかのアンブレラ・コーポレーションのトップだ。金柱の義娘ならば、出しても問題あるまい)

()(す中に飲みきると金柱に悪いから、飲みきらないようにしてくれ)

 

「へぇ、そうなんですか。はははは」

 

 壁に掛かっている日本刀を手にする竈門カナヲ。

 

 その様子をみて、一体なにごとかと思う冨岡義勇。だが、このお店…海外のお客様も来ることが多く、日本刀を手に取る人も多い。危険だから、制止するのだが元鬼滅隊の隊士で継子でもあった彼女なら何も問題が無いと思い見送る無能店員がそこにはいた。

 

「冨岡さん、一応聞いておきますが貴方もグルですか?」

 

「俺には関係ない」

 

 大事な所だけは、はっきりと正確に自分の言葉で伝える。

 

 その結果、日本刀を持った怒り心頭の女性を生み出した。隣の部屋から悲鳴が聞こえて冨岡義勇は駆け込んだが全ては遅かった。そこには、竈門カナヲの刀が、竈門炭治郎の脇腹に突き刺さっていた。

 

 その横に、神崎アオイが倒れており、彼女を庇って刺されたのが窺える。

 

「冨岡さん!! たすけ」

 

「生殺与奪の権を身内(・・)に握られるな!!」

 

 数年前は、他人にと言って、今は身内という冨岡義勇。じゃあ一体、誰になら握られていいんだよと竈門炭治郎は思った。その怒鳴り声で、竈門カナヲがぽかんとしている隙をついて、竈門炭治郎は神崎アオイを背負い窓から脱出した。

 

 だが、血痕が残っており、ホワイトクリスマスのこの時期…追うのは簡単であった。

 

「そうですか、炭治郎さん。逃げるんですね。なんで、なんでアオイが」

 

 竈門カナヲの深淵の瞳から涙が流れていた。愛する男がクリスマスに実は愛人と裏でこっそり会っていましたでは誰だってそうなる。

 

 だが、竈門炭治郎――その先は地獄だぞ。

  




やっぱり、竈門炭治郎には、冨岡さんが絡まないとね!!

次話…外伝:第一次竈門炭治郎の乱(3)~悲しみの向こうへ~

クリスマスまでに第一次すら終わらなくて済まぬ。


皆様、メリークリスマス。

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