裏金銀治郎は、両親の元に娘――裏金カナエを預けてから妻とデートに向かう。裏金両親は、可愛い孫娘を歓迎しており、裏金実家におけるヒエラルキーが変わる。最下位に位置するのは、裏金銀治郎。身内最弱の男になってしまった。
裏金銀治郎と裏金しのぶは、血なまぐさい事件が起きそうなレストランではなく一見様お断りの料亭でお祝いをした。その帰りには、腕を組んで繁華街でウインドウショッピングをして回る。
可愛い服やアクセサリーなどを見て嬉しそうにしている裏金しのぶを見て、裏金銀治郎も満足する。愛する女性が幸せならば自分も幸せという男だ。
そんな男でも、女性の下着売り場に連れて行かれるのだけは、嬉しさより止めて欲しいと思う気持ちが上回る。周りからのヒソヒソと言われる小声が心に突き刺さる。しまいには、店員から他のお客様のご迷惑になるので男性の方は…などと注意される。試着室からは『銀治郎さんは、いけない子ですね。こんな場所まで付いてきて。後で見せてあげますからね』なんて、連れてきた張本人が煽ってくる始末……店員にも聞こえてドン引きされている事を彼女は知らなかった。
「楽しかったですね。それに、こんなに一杯買って貰っちゃって~」
「構いませんよ、私はしのぶさんが買い物をしているのを見ていることも好きですからね。そろそろ、カナエを迎えに行きましょう。このお土産も渡さないといけませんから」
手を繋いで繁華街を歩く男女。
そんな幸せの時間を邪魔する騒動が近くでは起こっていた。ホワイトクリスマスの日が騒がしいのは当然だが、別ベクトルの騒がしさだ。鬼である二人が血の臭いに気がつく。
「事故でもあったんでしょうか」
「路面も凍結しているでしょうからね。案外、痴情のもつれで刃傷沙汰かもしれませんよ。クリスマスの日にご愁傷様です」
事故や事件など毎日どこかで起きている。そんな事にいちいち首を突っ込んでいては身体がもたない。近場で起きた事件に興味を持つ輩は、他人の不幸をみて自分の幸せを噛みしめたいといった連中が大半だ。
「すげーー美人が日本刀を持って浮気男を追い詰めてたぞ。その女の服なんて、もう男の返り血で真っ赤だったな」
「あんな美人がいるのに、愛人らしき女性を背負って逃げていたな。どっちも、美人でけしからんかったわ。それに、俺は悪くないとか叫んでいるとかね、浮気しておいて悪く無いはず無いだろうに」
「本当かよ!俺も見に行きたかったわ」
と、通行人達が裏金夫妻の横を歩きながら話していた。
この時、裏金しのぶの脳に電流走る。日本刀、痴情のもつれ、クリスマス……それに加えて、負傷しても大人の女性を担いで逃げれるような根性のある男。
「ねぇ、銀治郎さん。確か、カナヲのお願いでレストランを予約していましたよね?店名って、何でしたっけ?」
「Nice boat」
「じゃあ、銀治郎さんにそのお店の予約をお願いしたもう一人って誰ですか?」
「Nice boat…じゃなかった、神崎アオイです」
その言葉を聞いた裏金しのぶは、頭を抱えた。なんで、その二人を同じ店に集めたのかと。だが、裏金銀治郎としては頼まれたからやっただけだ。まさか、両方が竈門炭治郎を誘うなど想定外だ。仮にそうだったとしても、竈門炭治郎が常識的に考えて妻の方を優先すると思っていた。それが夫という者だからだ。
裏金しのぶは、夫の手を取り、騒ぎの方向へと進んだ。どうか、早まったことはしないで欲しいと。
◇◇◇
逃げられない竈門炭治郎。
出血量もさることながら、寒さで手足がマトモに動かない。だが、竈門カナヲは何も問題無く動ける。一歩一歩距離を縮めている。そして、ずぶりと竈門炭治郎の足に日本刀を突き刺した
「あ゛あああぁぁぁぁぁ」
「大丈夫です、炭治郎さん。この程度では死にません。入院したら、ずーーと付き添って看病してあげます。それにこの足じゃあ、もうアオイには会いに行けませんよね。でも、アオイが会いに来るかも知れません。だったら、この手も動かないようにしておかないと」
足に刺した日本刀を無造作に引き抜き、今度は竈門炭治郎の手を貫く。男―竈門炭治郎は、今度は悲鳴すら上げずに耐えた。だが、背負っていた神崎アオイが地面に倒れた。その衝撃で目が覚める。
実に最悪な状況だ。
「痛った!? ここは、外?カナヲに炭治郎さん!?なんで、カナヲが炭治郎さんを刺しているんですか!炭治郎さん、今手当を」
全ての元凶でもあるシーフこと神崎アオイ。状況を理解した上で、竈門炭治郎の手当てを始めた。私は、貴方の事をいつも大事にしています的な雰囲気が、竈門カナヲの逆鱗に触れる。
「アオイのそういう所が汚くて嫌い。私の方が先に好きになったのに横から奪っていく。泥棒猫……死んじゃえ」
竈門カナヲの本気…花の呼吸 終ノ型 彼岸朱眼。常人には目視できない程の斬撃が、神崎アオイの頸動脈を切った。切られた本人にも認識させない程の神業。
だが、常人で無い者達からは、それがはっきりと見えていた。
「おやおやおやおやおや、何の騒ぎかと思ったら君達でしたか。腕は衰えてないようですね、竈門カナヲさん」
「銀治郎さん!! ここでは、人目があります」
次の瞬間、神崎アオイの首筋から血が噴き出した。
パチン
同時に裏金銀治郎が、無限城へと関係者達を飛ばす。天下のアンブレラ・コーポレーショントップの義理の娘が殺傷事件を起こしては困る。会社には支えるべき社員が大勢いるのだから、やるなら見えないところでして欲しいと裏金銀治郎は思っていた。
「しのぶさんは、竈門カナヲさんを落ち着かせてください。私は、こっちの面倒を見ておきます。まったく、人前で血鬼術を使わせないでください。この時代くらいまでですよ誤魔化せるのは」
「カナヲ、お話があります。こっちにきなさい」
「師範。………わかりました」
別室に連れて行かれる竈門カナヲ。女性の事は女性に任せるのが一番だ。それも母親的な存在ならば尚更だ。
「あぁ、神よ」
「世話が焼けます。義理の息子に死なれては、竈門カナヲさんが悲しむでしょう。口をあけなさい。私の血を飲んで鬼となり傷を癒やしておくといい」
裏金銀治郎が拳を強く握り、血を竈門炭治郎に飲ませた。
鬼の始祖の血は、直ぐに竈門炭治郎の肉体を鬼へと変化させた。そして、重傷であった傷が回復する。更には失った血液まで戻っていた。怪我する前以上に元気を取り戻す事に成功する。
死にかけている神崎アオイの首筋を必死に押さえ続ける竈門炭治郎は、これで助かったと思った。竈門カナヲは、裏金しのぶが取りなしてくれる。残っていた問題がみるみる解決へと向かっていたのだ。誰だってそう思う。
「神!!アオイにも血をお分けください」
「私にとって、神崎アオイさんは他人だ。しのぶさんの戸籍上の娘である竈門カナヲさんの夫だからこそ、竈門炭治郎君は助ける。私としても、義理の娘が悲しむのは心苦しいのでね。だから、その悲しむ要素である彼女を私が何故救わねばならない」
「それは……」
裏金銀治郎としては、神崎アオイを救う理由が全く無い。それどころか、義理の娘が悲しむ要素を取り払う方向に動く男だ。
「このような事態を避ける為、私としても竈門炭治郎君には色々と配慮したはずだ。それに、一時は両親の頼みで彼女を匿ったことすらあった。だというのに、私はいつまで君達夫婦の面倒を見なければいけない。自分のケツは自分で拭けないのかね。君の下半身が緩いから誘われても断れずズルズルと肉体関係をもって今に至っているのではないのかね」
「……」
「無惨との戦いの最中に発覚した君達の関係が、今まで精算できずに続いていた事に驚く。一体何年の時間があったと思っている。その間に精算が出来なかったのは完全に竈門炭治郎君の不手際。君の同僚である我妻善逸君の様になれとはいわないが、複数の女性と関係を持つなら隠すな」
困った事があれば大人が助けてくれる…そんな生ぬるい思考が許されるのは子供までだ。社会人にもなり、会社で働く立派な成人にもなった男が、いつまでも下事情を他人任せにするなど言語道断。
「何か言いたいことはあるかね?」
「俺は、まだお役に立てます。アオイにもご慈悲を頂けるのならば必ずお役に」
首の頸動脈が切断され、今にも死にそうな神崎アオイは長くは持たない。神崎アオイは隊士として挫折し後方支援に回った者だ。呼吸法を極めた炭治郎とは事なり、止血の呼吸など使えない。
「具体的にどれほどの慈悲を?竈門炭治郎君はどのように役に立てる?今の竈門炭治郎君の能力・財力などでどれ程の事ができる?」
「血を…!!神の血を分けて頂ければ、私は必ず"神が望む血鬼術"に目覚めて見せます。そして、神をより高みへと導く礎となってみせます」
正しい回答であった。だが、聞き覚えのあるフレーズでの回答は、無惨配下にいた下弦の弐を彷彿とさせる。
裏金銀治郎が持っておらず、竈門炭治郎が提供できるものは多くない。竈門炭治郎には、確信があった。彼の妹である竈門禰豆子は、血鬼術に目覚めるだけで無く太陽を克服した。ならば、同じ血縁である自分も最低限血鬼術に目覚めることは可能だと。生まれや育ちで目覚める能力は異なると言われているが、そんな些細な事は彼には関係ない。
なぜなら、目覚めなければならない。
「なかなか、良い回答です竈門炭治郎君。ですが、彼女は血を飲む力も無い。だから、君が今すぐ目覚めるんです。彼女の"怪我や病すら引き受ける治癒の血鬼術"に。その為に更に血をあげましょう。あいにく、私はその手の血鬼術は所有していません。彼女の生死は君次第ですよ。自分で言ったのですから、やり遂げてください。それが大人の責任です」
「頑張れ炭治郎頑張れ!!俺は今までよくやってきた!!俺はできる奴だ!!そして今日も!!これからも!!鬼になっても!!俺が血鬼術に目覚めない事は絶対にない!!」
「そうだ、目覚めなければ神崎アオイが死ぬぞ。私の観察眼だと、持って1分程度だ。血を流しすぎた」
裏金銀治郎には、確信があった。
主人公というのは、往々にして都合良く出来ている。欲しいと思ったときに欲しいモノが手に入る。だからこそ、裏金銀治郎は、彼に治癒系の血鬼術を要求した。
怪我の治療に鬼にして戻すという方法は確かに有効だ。だが、鬼になった瞬間何かの間違いで超越者みたいな者が産まれても困る。今後に備える意味も含めて、治癒系の血鬼術は必要だと考えている裏金銀治郎。
仮に、神崎アオイが死んだとしても裏金銀治郎は何ら困らない。裏金銀治郎の守るべき者に彼女は入っていない。
「うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつってよ!今うつってくれなきゃ、今うつらなきゃ、アオイが死んじゃうんだ。もうそんなのやなんだよ!だから、うつってよ!」
竈門炭治郎の必死の願い。彼女を救いたいと思う心からの願いが、必然の奇跡を生む。この世で彼以外不可能な行為。この土壇場で彼は引き当てた…いいや生み出したといって過言でない。
神崎アオイの怪我が塞がっていく。傷は治り、元通りになった。
パチパチパチと、拍手して新たな血鬼術の誕生を祝う裏金銀治郎。奇跡を目の当たりにした彼としては、竈門炭治郎の価値を一段階上げた。
「素晴らしい。まさか、本当に望んだ血鬼術に目覚めるとは。竈門炭治郎君、神崎アオイさんは、貧血状態だ。安静にしていれば回復する」
「よかったーー。これで全部……」
解決などしていない。
生きている事を知れば、また竈門カナヲに殺されるかもしれない。竈門炭治郎は、この後に妻である竈門カナヲを死に物狂いで説得して、愛人関係を納得させなければならない使命が残っている。
身体を張って説得以外道はない。
「では、約束通りその血鬼術は回収させてもらいます。肉体も人間に戻します。鬼なんて生命体は、私達だけで十分だ」
竈門炭治郎から回収した血鬼術が遠い未来で、親友であるエロイ男を救う事になる。
そして、裏金しのぶが竈門カナヲを連れて戻ってきた。目は真っ赤に腫れており、余程泣いた事が窺える。刀で切られるより、よっぽど心に来る攻撃だ。事実、竈門炭治郎は鬼であるにもかかわらず、心の痛みで倒れそうになる。
「なんで、炭治郎君が鬼になっているんですか。まぁいいですけど。とりあえず、カナヲを
「……え!? 待ってください!!せめて、カナヲを説得してくれたんじゃないんですか」
浮気を容認させる説得を竈門炭治郎は、義理の母にあたる裏金しのぶにやらそうとしていた。それは、期待する方が間違っている。何処の世の中に、浮気を容認させる説得を義理の母にやらす男がいる。
「馬鹿ですか。炭治郎君……私、怒っているんですよ。カナヲを悲しませている事、私達のデートを邪魔した事。いい加減大人になりなさい」
「そう言うことなら、我々は帰るとしよう。子供のことならば心配するな。コチラで、人を回しておく。炭治郎君、勝てばいいんだよ。全てを丸く収める為に、妻に認めさせればいい、一人で受けきれないと。まさか、できないんですか?」
夫の性欲を二人で受けなければならない体勢を作れば自ずと活路は見えてくる。流石は淫柱様だ。下事情を下で解決させるなど、常人の考えではない。
「出来らぁ!!」
幸せ家族計画を実現するためにも、竈門炭治郎は一肌脱ぐ。
………
……
…
年明けの始業日。
げっそりと痩せこけた竈門炭治郎が出社する。まるで、末期の竈門炭治郎の父親と瓜二つだ。
その様子に彼の同士である我妻善逸が声を掛ける。
「生きてたんだな炭治郎。良かったじゃん、これで子供とも一緒に暮らせるな」
「俺は、ヤればできる男だからな。善逸、下世話な事で悪いんだが嫁を満足させるテクニックを教えてくれないか。このままじゃ、俺本当に死ぬ」
「俺達親友だろう。その位お安いご用だ…だって、次も控えているんだしな」
「え?今なんて言った?最後の方が聞き取れなかったんだけど」
クリスマスの夜から年末年始を無限城で過ごし、嫁を分からす事に成功した竈門炭治郎。透き通る世界まで習得し、生き残った。これが彼の才能だ。
だが、彼の苦難はまだ続く。
頑張れ炭治郎、負けるな炭治郎、モゲロ炭治郎。
エロは、世界だけで無く家庭も救う。
ふぅ、第一次が終わった。
ここでいったん休憩です!
年末年始のお休みタイム~。
読者の皆様良いお年を!!
本作品が年末の良い時間つぶしになっていたのでしたら幸いです。
PS:
だ、第二次炭治郎の話はそろそろ飽きちゃいますよね?_?
第二次は、ねずことの関係が表沙汰に。
妹「お兄ちゃん、一緒に死んでくれる」
全部の乱の外伝やると本作品の主人公より外伝多くなるからな…
第二次以降はちょっと検討中。
※実は、第二次以降の原稿が脳内に浮かんでないってのもありますが。