鬼滅の金庫番   作:新グロモント

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なかなか、執筆が進まず…一週間以上経ってしまい申し訳ありません。


外伝:第二次竈門炭治郎の乱(2)~お兄ちゃん、一緒に死んでくれる~

 裏金銀治郎の『失望した』という言葉は、本気の言葉だった。

 

 竈門善治郎の父親については、実の父親を除きこの場の全員が誰の子か理解している。それなのに、この状況になってしまっている。身内に甘い裏金銀治郎の大事な時間に割り込んできて、スタイリッシュな托卵を決められるとは想像の斜め上だった。

 

 ここまでの過程で誰一人、竈門炭治郎の勘違いに気がつく事ができなかった事に大きな問題があるとすら考えていた。それに加え、今まで様々な面で世話をしていた部下に、「女性関係で不貞を働いている男」だと思われていたのは心外としか言い様がない。

 

 裏金しのぶは内心面白がっており、今後の展開をワクワクして見ていた。これで夜のプレイの幅が広がり、今まで以上に搾り取られる未来が裏金銀治郎に待っている。

 

 そんな周囲の異変に匂いで気が付く竈門炭治郎。

 

「え、どうしたんですか? 子供には父親が必要だって、みんな納得して応援してくれましたよね。そうだろう、善逸。一緒に、神に進言する手伝いをしてくれただろう。……善逸?顔が真っ青だぞ、今にも自殺しそうな程だ」

 

「炭治郎。あの世で待ってるからな」

 

 我妻善逸の怒りの矛先は、竈門炭治郎ではなかった。竈門炭治郎の事を理解していたつもりだった自分自身だ。育ての親が助かったのも神のおかげ、妻達と出会えたのも神のおかげ、今の生活があるのも神のおかげ……人生で生きる上で必要な大半を得る機会を与えてくれた恩人に対して、最低の裏切りに荷担してしまった。

 

 雷の呼吸を使った、神速の切腹術。集まった柱達の反応速度を上回る。その刃が、我妻善逸の腹を割く寸前で裏金しのぶによって止められる。刀身を指で掴む神業。日本刀をポッキーのように折ることが出来る彼女の握力で掴まれてしまったら、どうにかできる人類は存在しない。

 

「こんな事で未来のフィードバックを受けたくないんですけどね。善逸君、父親が簡単に死んではダメですよ。子供の花嫁姿を観て、順風満帆の人生を送った末に老衰してください。私から銀治郎さんに言っておきますから」

 

 裏金しのぶ……この件では若干の引け目を感じている。竈門禰豆子が睡眠不足と言う事で無色無臭の効果抜群睡眠薬を処方したのが彼女である。鬼滅隊では、『恋は薬をキメてでも成就させる』というパワーワードを生み出した責任が裏金しのぶにはあった。

 

 裏金しのぶとて悪気があった訳ではない。まさか、睡眠○プレイを思いつく同士が居たとしても夫婦間以外で使われるとは想定外だった。その為、裏金しのぶ印の睡眠薬は、滋養強壮が抜群である事は当たり前だ。

 

 そのような彼女の心境を何となく察する裏金銀治郎。

 

「しのぶさんが、そう言うならば名誉挽回の機会をあげますよ、我妻善逸君。君には、竈門禰豆子さんの結婚式を計画してもらいます。費用は私が全額持ちますので、期待(・・)しています。それと式には、私が力を使ってご母堂様もご招待します。当日までは竈門カナヲさんや神崎アオイさん達には内密ですよ。みなさんもそれでいいですよね?」

 

「(言っておくが、俺は炭治郎に善治郎の父親について教えていない。だから、契約を破ったわけではないからな。俺も、金柱には世話になっているから裏切るような事はしない。いすず嬢を紹介してもらった恩もある。俺のような無口な男であっても受け入れてくれる女性との縁を結んでくれた恩は決して忘れない。当然のことだが、俺は炭治郎が勘違いしていた事については、今初めて知った。勘違いしないで欲しい……つまり、俺が言いたいことは、)俺には関係無い」

 

「はぁ、金柱さぁ~。ちゃんと、社員の手綱を握ってよね」

 

「全くだぜ、裏金さん。俺等は解散するぜ、後は本人達だけいればいいだろう。解散解散。昼飯時間にばからしいわ」

 

 水柱、霞柱、音柱からの今回の一件に対する回答だった。集まった全員が、呆れて社長室を退室していき残ったのが、竈門炭治郎と竈門禰豆子。当然の事だが、仲間を使って竈門禰豆子の件を認知させようと動いていた竈門炭治郎にとっては誤算だった。

 

 竈門禰豆子に至っては、涙を流して呼吸すら乱れている程に気が動転している。だが、誰も助けはしない。

 

「冨岡義勇さんは、相変わらず行間がありますよね。まぁ、それが個性でしょうから仕方がありません。で、本題に戻る前に幾つか質問をさせてください、鬼舞辻無惨に殺されてしまった竈門一家のお墓を建てて供養したのは、誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

 胡蝶家と同じく、竈門家の墓代から供養まで全て、私費で賄っていた裏金銀治郎。全ては、恩を売るため、打算的な行動だ。だが、相手からの心象は計り知れない。

 

「竈門炭治郎君。鬼滅隊時代、鬼である竈門禰豆子の立場を守る為、尽力したのは誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

 鬼を殺すという組織で、竈門禰豆子という鬼を匿うのは組織崩壊の切っ掛けにすらなる。だが、元・柱であり金庫番であった裏金銀治郎が守る立場を表明すれば、柱未満の連中は大体大人しくなる。

 

「鬼を人間に戻す薬を作ったの誰でしたっけ?」

 

「神の奥方、裏金しのぶ様です」

 

「鬼舞辻無惨討伐後、行き場を失わないように生活基盤を提供したのは誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

「神崎アオイさんが妊娠中、身の安全を確保してあげたのは誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

「あのクリスマスの夜、竈門炭治郎君と神崎アオイさんの両名の命を救ったのは誰でしたっけ?」

 

「か、神です。その節はお世話になりました」

 

 挙げれば切りがないほど、竈門炭治郎は裏金銀治郎から恩を売られていた。だが、鬼滅隊時代の恩は、全て取引で有る。言うならば、win-winの関係であり対等な関係だ。だが、裏金銀治郎を神と崇めている竈門炭治郎にとっては、その当時は対等な関係でしたよね?など口が裂けてもいえなかった。

 

「つまりですね、私が言いたい事は。私は、君達兄妹の身の安全を守る為、将来を守る為、それなりに尽力したと自負しています。それに、私はしのぶさん一筋ですよ。過去も未来も、そうで有り続けたい 。いいえ、そうでいる自信があります。竈門炭治郎君は、私が本当に善治郎君の父親だと思っているのですか?」

 

「う、嘘を言っていない。そんな、じゃあ、善逸なのか!?」

 

 大事な時に役に立たない竈門炭治郎の嗅覚。裏金銀治郎の言葉が真実だとかぎ分けて、次なるターゲットが我妻善逸へと向かった。だが、愛妻家で妻達を不公平感無く愛する男である事は周知の事実である我妻善逸。

 

 だが、流石にここに来て竈門禰豆子に限界が来た。

 

 恩人である裏金銀治郎、善治郎の事を知っていても父親になってもいいと言ってくれた我妻善逸。両名に多大な迷惑を掛けてしまい、責任を取るしか無かった。

 

「お兄ちゃん、もういいの……」

 

「いい訳ないだろう!禰豆子や善治郎の事なんだぞ。俺はお前が辛い顔をするのを見ていられないんだ」

 

面白くなってきたわ

 

 裏金しのぶ。彼女も女性であるため、自分と関係が無い他人の痴情のもつれというのは大好物であった。だが、彼女も大事な事を忘れている。竈門炭治郎は、義理の息子のポジションであり、竈門カナヲはその気になれば誰にも感知されずに人間一人を殺して埋めるくらい簡単にできる柱級の力があることを。

 

 そんな、ワクワク感満載で竈門兄妹の行く末を見守る裏金しのぶと裏金カナエ。この母にして娘あり。

 

 そして、竈門禰豆子が意を決して、竈門炭治郎との距離を詰める。

 

「ねぇ、お兄ちゃんは何も分かってない。私達が今ここに何不自由なく暮らしていられるのは裏金さん達のおかげなの。それに、お兄ちゃんなら分かるでしょう。万が一、善治郎が裏金さんの子供なら、見て見ない振りなんてするはず無いでしょう。善逸さんだって、そうだよ」

 

「なら他に誰が………いやいやいやいやいやいや、無いって無い。絶対にないって、身に覚えない。ないないない、絶対にない。………念のための確認だが、禰豆子。善治郎って父親から名前を貰っている認識であっているよな?」

 

 今まで見て見ぬ振りを続けてきた男―竈門炭治郎。今にしてようやく気が付いてしまう。善治郎の『治郎』の部分を持つもう一人の男の影を。その男の影は、ありえないという事から無意識で排除していた。

 

 だが、現実は非常であった。

 

 更には、神に認知しろだとか、親友を無自覚に貶めた罪まで今になって理解する。竈門炭治郎の目の前は真っ暗になった。どのような許しを請えば良いのかすら分からない。

 

「おやおや、お顔が真っ青ですよ。竈門炭治郎君、君が私をどういった眼で見ていたか分かりました。大変残念に思っております」

 

「か、神……こ、これはですね」

 

 右往左往する竈門炭治郎。昔有った、澄んだ心を持ち誠実だった男が今ではこれだ。昔から言われている事がある。十で神童十五で才子二十過ぎればただの人……つまり、彼もただの人へと成り代わったと言う事だ。

 

「お兄ちゃん!!もう手遅れだよ。このままじゃ、私きっとカナヲさんに殺されちゃう。それに、裏金さんにも見捨てられたら、もう生きていけないよ。だから……お兄ちゃん、一緒に死んでくれる?」

 

 竈門禰豆子も当然、第一次竈門炭治郎の乱については知っている。この大正の世であっても、恋愛は戦争(ガチ)を決め込む戦乙女の竈門カナヲ。戸籍上の母親である裏金しのぶの教育方針がダメであった証拠でもある。

 

 実の妹が意を決して「一緒に死んでくれる?」と宣言する最中、竈門炭治郎はチラチラと裏金銀治郎に視線を送る。だが、都合の良いときだけ神を崇めても救う神はいない。一度失った信頼を取り戻すに彼はまだ至っていないからだ。

 

 一向に返事を返さない竈門炭治郎に対して痺れを切らした竈門禰豆子が隠し持っていた小刀で無理心中を図る。小刀が竈門炭治郎の腹部に刺さり、腎臓を破損させた。

 

「ね…ずこ。ごめんな、駄目なお兄ちゃんで。そこまで禰豆子を追い詰めていたなんて、ごめんよ。一緒に死のう」

 

「ありがとう、お兄ちゃん。後で、私も追いかけるから」

 

 アンブレラ・コーポレーションの社長室での無理心中。裏金銀治郎だけでなく、裏金しのぶや裏金カナエが見守る最中での血なまぐさい事件が今起こっている。

 

 この時、裏金銀治郎は、無理心中するのは構わないが他でやってくれと本気で思っている。竈門炭治郎の腹部に三つ、四つと刺し傷が出来た頃にやっと彼は倒れた。無駄に鍛えられた肉体は伊達ではない。

 

 そして、竈門禰豆子が自らの首に小刀を当てたタイミングで裏金銀治郎が凶器を没収する。無論、善意からの行動ではない。

 

「世話が焼けますね君達も。我妻善逸君の名誉挽回の機会を失わせるわけにもいきません。それに、お二方のご母堂様からもよろしくと頼まれた事もありますからね……いい加減、成仏してくれないと安眠できません。それに、今回の一件はしのぶさんが処方した薬が原因でもあるみたいですからね。ですから、助け船を出してあげます」

 

 裏金銀治郎は、社長室に備え付けられたコップを二つ用意した。そして、そこに自らの血を注ぐ。この血を飲めば、竈門炭治郎は完全回復する。竈門禰豆子も竈門カナヲに簡単に殺されることは無くなるだろう。

 

「かぁ、神……次は何の血鬼術に目覚めれば?」

 

 今にも出血多量で死にそうな竈門炭治郎。彼は、二度目であるからよく分かっていた。新たな鬼の兄妹が誕生し、数日後に控えた両名の結婚式という名の死地へと向かう事になる。

 




次話、涙の結婚式。
結婚式って娘から親への言葉で泣くとかあるあるよね。

何も知らずに二人の結婚式に参加する事になる、竈門第一婦人と第二婦人。炭治郎君の末路は如何に!?


大惨事改め第三次竈門炭治郎の乱の切っ掛けの結婚式です!

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