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大正時代の結婚式と言えば、和式が殆どだ。洋式の結婚式などは華族などの上流階級でもなければ手が出せない。その為、竈門一門で初めての洋式結婚式が今開かれようとしていた。
開催に際し、我妻善逸は奔走した。裏金銀治郎と裏金しのぶの洋式結婚式が、女性陣営に大変好評であった為だ。そして、神からの信頼を取り戻すため、大親友である竈門炭治郎に一矢報いるため、コネをフル活用している。
式場確保から、招待客の選別、料理の手配まで全てを日常業務を滞りなく行った上で、僅か一週間で実現までこぎ着けたのは素晴らしいと言うほかない。当然、職場同僚も色々と業務調整には協力してくれており、風通しの良い職場として十分機能している。
そして、式当日。
新婦の控え室では、ウエディングドレスに身を包んだ美しい女性――竈門禰豆子。新郎である竈門炭治郎は、隣室で覚悟を決めている。そして、男としての心構えを大先輩の宇髄天元から懇切丁寧に説明を受けている。万が一ここで逃げるようなら、両足の骨をへし折ってでも止めるためにも、柱級は必須であった。
そんな、隣室とは異なり新婦の控え室は裏金夫妻と我妻善逸も居る。
「本当にこのウエディングドレスを返さないで宜しいのでしょうか?裏金しのぶ様」
「構いませんよ、善逸君。それは、私が結婚式で使用した物じゃなくプレイ…じゃなかった。予備の物なので汚しても問題ありませんので差し上げます。大丈夫です、何時もクリーニングしていますから綺麗なはずです」
そろそろ、新しいプレイ用衣装を買うにしてもお古が残っていては、勿体なくて買えない庶民派を自称する裏金しのぶ。プレイ用のウエディングドレスなんて、持っている女性なんて日本で両手で足りるだろう。その少ない数に、我妻善逸も含まれる。稼ぎの良い旦那を持つ者の特権だ。
「そう言う事でしたら、今度新しいウエディングドレスでも見に行きましょう。しかし……お店の人にどんな顔をされるかな~。あの店、鬼滅隊の元隊士がやっているんですよ」
裏金銀治郎は、信じて付いて来てくれた者達にしっかりとお金を落とす男であった。裏金銀治郎は、我妻善逸に後の段取りを任せた。そして、裏金しのぶを連れて控え室を後にする。
これから来場する客を抑えるには、裏金夫妻が出る必要がある。何も知らずに来て、会場を見た瞬間に大暴れでもしたら折角の式が台無しだ。式は、準備するのは大変だが、壊すのは簡単である。
………
……
…
竈門カナヲと神崎アオイが披露宴の席に案内される。ネームプレートに第一婦人、第二婦人と書かれており、座る席は確定済み。そして、着席を確認すると裏金銀治郎が、両名を血鬼術で大人しくさせた。
ここに来て勘の良い竈門カナヲが気が付くが、既に遅い。もはや、彼女の力では席を立つことすら出来ない。大人しく出される料理を食べるだけしか、行動は許可されていない。
「申し訳ありませんね、竈門カナヲさん、神崎アオイさん。今日は、
「私は、裏金さんの義理の娘です。なんで、こんなことをするんですか? タダでは動きませんよね?それに、竈門禰豆子さんの気配が鬼になっています」
実に勘の良い女性に成長した竈門カナヲ。いち早く動きを止めなければ、大暴れは必須だっただろう。だからこそ、初手で裏金夫妻が両脇を固めている。
「便利な血鬼術を幾つか頂いた程度ですよ。安心してください、事が終われば竈門炭治郎君を煮るなり焼くなり好きにして構いません。後、これが最後では無いとだけお伝えしておきます」
「最後じゃない?……私達から一番席が遠いあの子達ですか?全員、微妙にお腹が大きい気がします。師範もその事を知っていたんですか?」
「そんな目で見ないでカナヲ。私だって知ったのは、最近だったのよ。あ、でも子供に罪は無いから、腹パンはダメよ。貴方が本気で殴ったら、あの子達が死んじゃうからね。フリじゃ無いわよ」
納得いかない竈門カナヲ。だが、当然の事だ。招待状の場所に来てみれば、誰かの結婚式場であり、見知った顔が幾人も居る。案内されれば、席にネームプレートもあり、雰囲気に流されて座ってしまったのが彼女の現状だ。
「とりあえず一安心みたいですので、私は炭治郎君から頂いた血鬼術のテストをしてきます。ここは、しのぶさんにお任せしますよ」
裏金銀治郎は、席を立ちピアノの前に座る。結婚式でBGMが無いのは悲しいと思い、彼が自ら演奏をする事になっていた。裏金銀治郎は、音楽の才能など持っていない。だが、無いなら持っている人から買えば良いだけのことだ。それを可能にしたのが、竈門炭治郎が新たに生み出した等価交換の血鬼術。知識、才能などあらゆる物を両者合意の元、金で取引出来るという素晴らしい血鬼術であった。
両名に相応しい披露宴に相応のBGM……炭治郎のテーマソングが流れる。テーマソングどころか処刑ソングといえる今現在。
披露宴……で一体ナニが披露されるのだろうか。そんな、ドキドキワクワクの時間が始まった。ウエディングドレスに身を包んでヴァージンロードを歩む竈門禰豆子。本来なら、父親が付き添うのだが、代役として立候補をして来たのが……裏金銀治郎の大親友にして、悪友。
『きちゃった、皆元気そうで何よりだね』
「「「「おやかたさまぁぁぁぁぁぁぁーーー」」」」
想定外の人物の登場に、会場がざわめく。特に、柱達が開いた口が塞がらないといった感じで驚愕していた。鬼滅隊のまとめ役にしてトップであった産屋敷耀哉。ホログラムのように透けて見えており、幽霊と言うに相応しい。
元部下達の前だから、くそ真面目な面構えの産屋敷耀哉に違和感しか覚えない裏金銀治郎。だが、親友の顔を立てるのも友の役目だ。
このサプライズは、裏金しのぶですら知らない。本当なら、この機会に胡蝶カナエとも会わせてあげたかったのだが、叶わなかった。最近は夢にも出なくなったので、成仏して輪廻転生の輪に乗ったのだと裏金銀治郎は思っている。
だが、それならそれで安心もしていた。夢の中とは言え、関係を持っていた事がばれないのは良い事だ。つい最近、偉そうに竈門炭治郎に女性関係について色々と言ったばかりでもあり事が露見するのは体裁が悪い。
「皆様には常日頃色々とお世話になっていますからね。こう言う特別な日くらいは、血鬼術を使って社員を慰労するのも雇い主の務めという物です。ですが、今日は特別にもう一人来ております」
逃げることも出来ない閉鎖空間。竈門炭治郎は、全てを悟った。
これから誰と再会する事になるのか。美しいウエディングドレスに身を包んだ娘の姿を見られるのは親として嬉しい事だろう。更には、子供までいるのだから親としてこれ以上の喜びは無いはずだ。
子供が立派に育って、結婚し、所帯を持つ。
子供が親を泣かしても許される数少ない場面……それが、涙の結婚式だ。
◇◇◇
竈門炭治郎。妹に刺されて以来、妻達のご機嫌取りに奔走した。下半身で女を泣かせ、鳴かせる。竈門禰豆子の結婚式で暴露される事態の被害を僅かでも低減するため、努力をした。
だが、今回ばかりは努力する方向が間違っているといえる。事前に自首して、煮るなり焼くなりされていれば、当日の被害は少なかっただろう。だが、当日まで自らの口で、竈門禰豆子の問題を一切伝えなかった。
言えなかったというのが正しい。正直に言えば、命の保証はない。ならば、問題を先延ばしにして延命をしたいと思うのが人間の性だ。竈門炭治郎は、竈門禰豆子と違い人間に戻っている。刺し傷ですら致命傷になる為、裏金銀治郎という回復剤が居ない場面で素直になるのは命取りだと理解している。
そして、迎えた結婚式当日。
ウエディングドレスに身を包んだ竈門禰豆子が現れてから、刺すような視線が竈門炭治郎に突き刺さる。その視線を送っているのが、彼の第一婦人と第二婦人。事が終わってから本気で生き残れるだろうか、どうすれば助かるか高速で思考を巡らせる。
だが、問題はそれだけではなかった。裏金銀治郎が死人を呼び寄せ、更に一人を呼び寄せると言っている。それが誰なのか……ご母堂という言葉を今になって思い出す。
そして、産屋敷耀哉同様に新郎新婦の母親が浄土から呼び戻される。
『炭治郎。禰豆子。どうして、どうして……あああぁぁぁぁぁぁ』
泣き崩れる母親。竈門母は、泣きながら竈門炭治郎の頬を叩く。だが、所詮は実態の無い虚像であり、その手はすり抜けてしまう。その様子に、会場に集まった者達も竈門母の心の内を察して涙を流してしまう。
この時、竈門炭治郎は物理的に刺されるより痛い精神ダメージを負ったのは言うまでも無い。
「お母さん……」
竈門禰豆子としても、母親という立場を考えれば当然の状況だと分かっていた。だが、娘の結婚式だけでなく、孫にも会えたのも事実。裏金銀治郎は、別に他人の不幸は蜜の味だと思うために、この場に竈門母を呼んだわけでは無い。
安眠を守る為でもあるが、子を持つ父親として娘の結婚式や孫に会えないのが可愛そうだという心があった。だから、演奏を止めて、裏金銀治郎は竈門母にだけ聞こえるように小声である事を言う。
「
裏金銀治郎の一言を聞き、驚いた顔をする竈門母。裏金銀治郎は、竈門炭治郎に恩を売る為、竈門父や竈門母の親戚情報もしっかりと調査している。つまり、そう言うことだ。
『炭治郎。禰豆子の事を幸せにしてあげるんだよ』
「ぇ!? さっきまでと180°意見が変わってる!?一体、神はどんな手品を使ったんですか」
「裏金さんって、やっぱり神だったんですね。ありがとう、お母さん。私、幸せになります」
大荒れ予感の結婚式。竈門母がどう考えても、猛反対すると思われたが予想外の応援に会場の皆も内心驚いていた。血鬼術を使った催眠術を疑いたくなるこの状況を、裏金銀治郎が何かを伝えただけで全てを丸く収めたのだ。
これにより、竈門禰豆子も狂信者の仲間入りとなる。
それ以降は、式はつつがなく進行していく。両名をよく知る者達からの有り難い言葉では、冨岡義勇が
「いつか、ヤると思っていた」
と、とんでもない言葉を贈り、会場が騒然とした。この時、竈門炭治郎は冨岡義勇との関係を本気で見直そうと思った。
そして、なぜか、産屋敷耀哉が神父を始めて、新郎新婦に誓いのキスをさせた。
………
……
…
豪華絢爛、参列者には死者までいる前代未聞、新郎新婦も他とは色々な意味で違うとんでもない結婚式が終わり、竈門炭治郎の死期が迫ってきた。
裏金銀治郎が守るのは結婚式の時だけ。事が終われば、後は大人が責任を取る時間だ。だが、天才竈門炭治郎はこの時名案を思いついていた。裏金銀治郎に売り渡した等価交換の血鬼術。
両者の合意があれば何でも金で解決出来る。つまり、竈門カナヲや神崎アオイに対して、全てを許し承知させる事すら可能。だからこそ、竈門炭治郎は裏金銀治郎に土下座外交をして、この場に留まって貰っていた。
「炭治郎さん、何か言いたい事はありますか?」
「酷いですよね、炭治郎さん。私達という者が有りながらね」
「カナヲ、アオイ。二人とも落ち着いて聞いてくれ。禰豆子の事を認めてくれ!代わりに、俺は……」
竈門炭治郎、問題を先延ばしにしてとりあえずの解決を図るためある物を売り渡した。その結果、取引が成立し、等価交換の血鬼術が無事に発動する。
そんな竈門炭治郎に裏金銀治郎はある言葉を贈る。
「炭治郎。恐怖はまさしく過去からやってくる……それを将来実感する事になりますよ」
◇◇◇
令和の世では、竈門一門の一人である竈門炭彦。彼には
竈門炭彦は、『その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~ 』や『NHK大河ドラマ~胡蝶しのぶは認めない~』を視聴して、とてつもない既視感に襲われた。
そして、覚醒する。
「神は、健在だった」
周囲に身内が要るにもかかわらず、いきなり「神は、健在だった」とか言い出せば心配をさせてしまう。だが、それからの行動は早かった。親戚の竈門シノアを通じて彼は神へと辿り着く。
………
……
…
裏金銀治郎と対面した竈門炭彦。一介の学生が、世界的大企業のCEOと直接面会を果たす。竈門一門でなければ、実現する事は難しかっただろう。
「お久しぶりとでも言いましょうか。どうですか、後先考えずに未来を売った竈門炭治郎君」
「神!……助けてクレメンス」
芸術的な土下座を決めて、裏金銀治郎に助けを請う。竈門炭治郎は、女性関係を認めさせるために自らの未来を切り売りした。そして、今そのツケを精算している。
過去も未来も鬼に人生を左右され続ける。
頑張れ、炭治郎、頑張れ!!
君は今までよくヤってきた!!
ヤればデキる奴だ!!
そして今日も!!
これからも!!
(ムスコが)折れていても!!
君が挫ける事は絶対に無い!!
第二次竈門炭治郎の乱…完結!!
一旦は、これで一段落かなと思っております^-^
また、鬼滅の第三期があるみたいですので充電期間をとって、気が向いたらまた投稿予定です。