「炭焼きのぼん、相変わらずちいさいなぁ」
年に何度か訪れる紫の着物を着た綺麗な女の人。
何時も此方を
どんなに熱くても、寒くても何時も頭巾を被って着物姿で山を歩いてくる。夏の暑い日にも汗一つかかず、冬の寒い日にも羽織らずに現れる姿は子供の自分でも疑問に思う事があった。
「のんべえさん、あせかいたことあるの?」
残暑の日に訪れた女の人、何時も名前を教えてくれない。
常に酒の匂いが彼女から香り漂っているので、勝手にのんべえさんと
のんべえさんは俺の言葉を聞いてかんらかんらと高らかに笑いながら手招きしてきた。
側に寄るとまるで
「うちはな、お酒好きな鬼なんや。人やないから汗もかかへん。ほら見てみ、お角があるやろ?」
何時も被っている頭巾を捲り上げると、人には無い二本の角が生えていた。
それが人間ではない証拠、人ならざる者が持つ幻想の一部である。
恐怖はなかった。それよりも、逆に人でない事が分かった事で腑に落ちた事があるぐらい。
「じゃあ、ぼくをたべちゃうの?」
「ぼんじゃ美味くはないやろなぁ……。もっともっと成長したら考えたる」
優しくまるで硝子細工でも触るように自分の頭を撫で、せせら笑いをしながら手の中に飴玉を一つ手渡してくれる。
その様子を弟妹が見られていて、のんべえさんを囲う様に取り囲んで飴玉欲しいとねだり始めた。
止めようとしたけれど、のんべえさんが手で止めて弟妹達に着物袖から取り出した紙袋を手渡す。
「金平糖、皆で仲良う分けるんやで」
甘味に喜んだ弟妹達は紙袋を貰って駆け出していってしまう。その後ろ姿を見ながらのんべえさんはまた笑う。
その視線、その言葉、その四肢、その体躯、全てが夢現の様に自分の身体や心が蕩く。
「ぼん、鬼に惚れたらあかんえ」
「っ!?」
おでこにデコピンをして揶揄う。
鬼が笑う、鬼が嗤う、鬼が嘲笑う。
その後の事は覚えていない。いつの間にか眠っていて母に起こされて目が覚めた。
のんべえさんの事を聞いてみても、そんな人はここに来たことはないと言われた。
あれは夢だったのだろうか……?
空き家となった家の前の五人が眠る墓の前で持って来た酒を開け、盃を満たしていく。
助けようと思えば助けられた。あの鬼擬きの手からこの子達を匿う事なぞ赤子の手をひねるよりも簡単だ。
ならば何故それをしなかったのか。何故あの子達の苦しむ姿を見なければならなかったのか?
酒が不味い。今までの中で一番の不味さに顔を顰めてしまうぐらいに。
(名前は……覚えてなかったな)
金平糖を美味しく食べていた子達の顔は思い出せるが名前は覚えていない。
自分の生きる中では一瞬の出来事であり、人間が生まれてから死んでいくまでの過程なぞ瞬きするほどの時間にしか過ぎない。
(この世界に生まれ落ち、この姿になって、何百年、何千年と生きてきた。最初は何だこの痴女みたいな格好と気恥ずかしさに外も歩けなかったなぁ……今じゃあ照れの一つも感じない)
生まれ落ちた
思考は自分、容姿は他人、喋る言葉は鬼の言葉。
中身は自分で皮は
「ほんまに腹立つ糞男、早うあの面歪む姿が見たいなぁ」
酒が残った盃を墓の前に供え、何処かで見ているだろう鬼に対して笑いながら布告をする。
うちは鬼、あんたらは人から鬼のような化物になった鬼擬き。
本当の鬼はもっと怖くて、もっと恐ろしくて、もっと潔い。
醜くも世界に纏わりついて生きている事に必死になっている、あの腐れ顔を歪ませたい。
まあ、これは達成できるものだからついでにでいいや。
(ぼんには悪いことしたな。けど君が行かなければ救われない人がいる、救えない人がいる。あくまでもうちは脇役、あんたが主役なんだ)
角を隠す為に被っていた頭巾も供え、気配を消してから来た道を引き返す。
もうすぐ日が昇ろうとしている。日には弱い鬼達が行動できなくなる時間が刻々と迫っている。
うちは元から鬼なので、そんなの関係はない。
(しかし、日にも当たれないなんて不自由極まりないな。いやまてよ……あんた日の下に行けないの? って揶揄うのも楽しそうだ)
今度鬼にあったらやってみよう、そうしよう。
楽しみが一つ増えたので悠々とした足で山を降りていく、そういえば町で新しい酒が出来たと親父さんが言っていた。
後で寄り道がてらに顔を出していこう、おっと角を隠すのも忘れないようにしないと。
(続きは)無いです。
※転生TS鬼痴女とか業深くない?
タイトルは適当。
この酒呑はあのCV悠木碧の酒呑童子です。
(面だけ)