鬼は嘲笑う、鬼が嘲笑う   作:ねこのふすま

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鬼と父蜘蛛・弐

 猛々しい叫び声が聞こえてくる。先程投げ捨てた蜘蛛の鬼が再度此方に向かって走ってくる。

 痛みから回復していない伊之助は身動きが出来ず、どう対処するかを必死に考えていると袖頭巾の剣士は伊之助の前まで近寄って声をかける。

 

「あんた、刀はどうしたん?」

「あぁっ?! 刀ならアイツの頸を斬る時に折れちまった!!」

「あらま」

 

 鬼を倒すのには日光を浴びさせるか、鬼殺の剣士が帯刀している日輪刀で頸を斬らなければ鬼は死なない。今の口ぶりから袖頭巾の剣士も日輪刀を持っておらず、どうやって蜘蛛の鬼を倒すか悠々と顎に手を当てて考え始めた。

 

「うち刀ないわ、どないしよう?」

「はぁっ?! そのでけぇヤツ使わねぇのかよ!!」

 

 何を呑気に考えてやがる、そう言おうとした瞬間に蜘蛛の鬼の拳が袖頭巾の剣士の頭を殴りつけた。

 

「■■■■ッ!!」

 

 小柄な体躯は紙のように吹き飛ばされ、近くの幹へと打ち付けられる。

 脱皮して伊之助を殺しかけた時よりもその動作は早く、蜘蛛の鬼が怒りに満ち溢れて怒気を発している事が瞬時にわかった。

 最悪な展開、あれでは息もしていないだろう。頭巾の中身は潰れてぐちゃぐちゃになっているのかもしれないと、悪い考えだけが頭を過る。

 

 しかし心配とは裏腹に、幹に打ち付けられた剣士はゆっくりとまるで椅子から腰を上げるように立ち上がる。

 身体についた汚れを手で払い落とし、蜘蛛の鬼を見据える。

 

「まったく、いらちやなぁ……」

 

 放つ言葉からは怒りは感じない、それどころかどうやって楽しむかと声が上擦っているようにも聞こえる。

 身体が少しずつ動くようになってきた伊之助は身体をゆっくりと起こす。

 

「おいっ! お前生きてるのか?!」

「死んどった方がよかった?」

「ちげぇよっ!!」

 

 揶揄ってくる相手に次第に怒りが溜まってくる。手足が不自由なく動くのならば、伊之助はすぐにでも掴みかかりたかったが既に満身創痍。気を抜いたら気を失ってしまう程の重傷を負っている。

 その姿を察してか、やれやれと大きく溜め息を吐くと隊服の袖を捲り上げる。露出された腕は綺麗な細腕、どうやってあの巨体を投げ飛ばしたのか疑いたくなる伊之助を置いて深呼吸をする。

 

「効くかわからへんけど、一つおもろいもの見せたる」

 

 言い終えた瞬間、剣士の姿が一瞬で掻き消えた。そして次に姿を視認した時には蜘蛛の鬼は動かず立ち呆け、剣士は鬼の後ろで大きな頭蓋を右手で掴んで遊んでいた。

 そして力なく蜘蛛の鬼は膝をつき、巨体がゆっくりと地面に倒れていく。

 何をしでかしたのかはわからない、しかし何かをやったのかは伊之助でも理解できた。

 

「何したんだ、おめぇッ!!」

 


 

 神便鬼毒の実験はした事があったが、骨を抜いた事は無かった。そもそも、骨を抜いた所で死ぬ確率はそう高くないと思っていたから。

 なのに骨を抜いたのには理由がある、それは……。

 

(猪頭の前でやったら、驚くだろうな)

「何したんだ、おめぇッ?!」

 

 ただ、驚かせたかっただけ。その姿や態度を見れればとても満足。

 流石に全身の骨を抜いたので動かなくはなったが、何れは再生を繰り返して立ち上がるであろう。

 頸に刺さっている折れた日輪刀を抜き取り、満身創痍な猪頭の方に投げ渡しておく。流石にこれでは頸は斬れない、それにもうそろそろここから退散しないと自分が襲われかねない。

 

「骨抜いただけや、そらぁっ」

 

 再生を遅らせる為に一足で頭を踏み潰し、雑草でも毟るように腕を引きちぎっておいた。

 

「これで暫くは動けへん、そのうちにあんたは山を下りたらええ」

「はぁああっ?! 俺は下りねえからな!!」

 

 喋る事、為す事全てにおいて反発してくるので実に面白い。揶揄いがいがあるとはまさにこの事。

 しかし、全身の傷と首を握り締められていた所を見ると治療をしなければ身体に悪影響を与えるだろう。

 

「あっ……鬼や」

「なにぃ!?」

 

 鬼がいると言うと愚直に後ろを向く。何処に鬼がいるとは言っていない、私が鬼だからこの蜘蛛の鬼以外に鬼がいるよと教えてあげただけ。

 隙だらけの後頭部に向けて、それなりに手加減をして小さな瓢箪を投げ捨てる。

 

「……ぐおっ!?」

 

 討伐成功、お見事! 

 冗談はここまでにして、投げた瓢箪は猪頭の後頭部に直撃。猪頭はそのまま地面へと倒れて気を失った。これで怪我が増えても私は知らない、悪くない。

 これでこのあとの光景を知るものは私と蜘蛛の鬼だけ。もう手加減はいらない、そろそろ相手をするのも面倒になったので全身全霊で向こう側(地獄)へ送ってやろう。

 倒れている鬼の身体を持ち上げ、宙に放り手加減なしの一撃を放つ。

 

「ほな、さいなら」

 


 

 ──その日、那田蜘蛛山の木々の葉が一斉に散った。

 




父親の鬼は退場いたしました、ミンチより酷えや……。
あ、ここにハンバーグあるんですけど食べますか?

親方様と酒呑ちゃんが対話したら、周りの人達は大変やろなぁ…。
どうなるんだろう……?????頭ぽかぽかして蕩けるのかな……子供はいちゃいかん!!

追記:筋力A表現すると地形変わるね、これ。

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