鬼は嘲笑う、鬼が嘲笑う   作:ねこのふすま

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むかし、昔の話。


鬼は心奪う

 その鬼の言葉には誘惑がある。その鬼の視線には蠱惑がある。その鬼の仕草には魅惑がある。

 常に酔い痴れたようにふらふらと漂うように生きながらも、楽しむ事だけを第一に色々な事へと首を出す。それが自分の命を狩る為に来たものだとしてもそれもまた一興だと笑い飛ばす。

 長い事人を喰らわずに生きていても鬼には飢餓は無く、美味い酒に美味い料理、食べ頃の女(性的な意味)を楽しむ。

 人を喰らう事もできるが必要もないし、喰えば喰ったで面倒が転がり込んで来る事も目に見えている。その面倒も楽しそうではあるが、先を見据えるならば我慢しなければならない事もあるのだ。

 

 横ですやすやと眠る女を置いて、生まれた姿のまま部屋の中を歩く。

 用意されていた着物を纏って部屋から出て外へ行くと日は丁度頭の上、お腹空く昼間になっていた。

 興が乗りすぎてまぐわい過ぎたのが仇となったか、先程まで傷んでいた腰を軽く叩きながら欠伸をする。

 不意にうどん屋の屋台が目についたのでそのまま屋台の椅子へと座る。

 

「おっちゃん、うどん一つ」

「あいよっ!」

 

 鬼の身体からは何時も酒の香りが漂う。それで人を酔わせて蕩かす事も出来るが日常生活を送るためには人を一々誑かしていれば何時か背中から刺されかねない。

 必死に抑える事に専念をして、こうやって日常生活を送る分には支障を来さない様に出来る様になった。

 面倒なので、食べ終えればまた直ぐに酒の香りがするのはご愛嬌。

 今日はまだ酒を呑んでいない、素面姿に近いのでさっさと何処かで一献したいものだとうどんの汁まで飲み干してお代を置く。

 

「ごちそうさま、美味しかったで」

 

 食い終えればゆっくりとした足取りで人混みの中に消えていく。

 ふらり、ふらりと常に夢現の中を歩んでいくように当てもなく進んでいく。

 前を見ずにふらふらと軽い足取りだったせいか、誰かの背中にぶつかってしまう。鬼は三尺八寸二分(145cm)と小柄、対してぶつかった相手は四尺二寸(約160cm)ぐらいの身長と鬼よりも高い。

 

「かんにんな、前見てへんかってん」

 

 鬼がぶつかった相手は黒髪の美しい少女。

 名を胡蝶カナエ、後の花柱となる鬼殺隊の剣士であった。

 


 

 あの人の第一印象は、とても可愛い人だった。

 任務が無いのでしのぶの髪を結うための髪留めを町に買いに出た時、あの人は私の背中にぶつかってきた。

 その顔を見て、視線と視線がぶつかった時に妙な高揚感を感じた。

 ほわほわと宙を舞うような、親が呑んでいたお酒の匂いで酔った幼い時の事を思い出してしまう。

 

「かんにんな、前見てへんかってん」

 

 ゆっくりと背中から離れてはんなりとしながら笑みを浮かべた。

 心が吸い寄せられる、自分よりも身長が小さくて触ってしまえば壊れてしまうような小さな身体に心が惹かれていた。

 これはいけないと呆けていた心に鞭を打ち、笑顔を取り繕う。

 

「大丈夫ですよ、こちらこそ立ち止まってすみません。それよりもお怪我は無いですか?」

 

 私の言葉に少し間を開けてから口元に手をやり、くすくすと笑いながら口を開く。

 

「お人好しどすなぁ、うちがぶつかったんやさかいうちが心配するのが普通やのに」

 

 一歩、また一歩と近寄ってくる。

 その度に心臓の鼓動が高まって胸が波打つのが自分でも分かるほどになっていた。

 身長の差があるので顔の近くまでとはいかないが、本当に目の前で含み笑いを魅せながら手に何か握らせてきた。

 

「ええ子にはご褒美や、妹はんと食べや」

 

 まるで子供をあやすように言って彼女は踵を返して歩いていってしまう。このまま呆けていればもう二度と会えない、そんな気がして思わず彼女の腕を握ってしまっていた。

 そこには先程までの笑みは無く、驚いたかのように目を点としていた。

 

「お名前、お名前を教えていただけますか?」

 

 精一杯、今聞ける精一杯の言葉がこれだった。汗が流れる、言葉につまる、呼吸が苦しい。

 間の後に唐突に彼女から手を引かれ、しゃがみこむ形で彼女によりかかる。

 耳元に口を当てて周りに聞こえないように小さな声で囁く。

 

「うちはな、酒呑って言うんや。可愛いお嬢はん、また何処かで」

 

 腰が抜けた囁きだけでだ。最初に言った可愛い人と言ったのは前言撤回、とても恐ろしい人。心を骨抜きにするような蠱惑の塊の様な人だ。

 周りの人に起こして貰えなかったらそのままへたり込んでいただろう。恥ずかしい……。

 

(あれっ? 私に妹がいるって……言ったっけ?)

 

 胡蝶カナエは頭を捻り、考える。

 そういえばと思いだして彼女が手に握らせてくれた物を確認する為に手を開いてみた。

 そこには飴玉が紙に包まれて二個入っていた、それを見て私は子供扱いされていたのだと少しだけムッとした。

 次会ったら、子供扱いされないようにしっかりしないと!




「しのぶ……お姉ちゃん恋したかも」
「え」
「しかも、しのぶよりも小さな背丈の女の人に」
「はっ?」
「応援してくれる……?」
「……????」


こんなチャンス無かったよ?(次話)
ブルッちゃうよ……。

(続きは)またチャンスがあったらねぇ!

あ、京言葉は難しいので変換で変換してからやってます。
許し亭、ゆるしてね。

頭巾は被っています、女の子は誑すものです。
男の子……?それと誑すものですね、間違いない……。
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