二話→一話→三話、四話→五話→六話
視点がコロコロかわります、ご注意ください。
とある料亭の一室、招かれた酒呑は一人で酒を嗜む。
相手は未だ訪れず、只々待ちぼうけるだけ。腹がたつのでこの店で一番高い酒を頼み、一番高い料理を出してもらって食事を進める事に。
ふと時間が経つにつれ、辺りから人の気配が消えていく事に気づく。
(人払いか……? はたまた本当に消えていっているのか?)
この場所は名を出せぬ者達にとっては恰好の密会場所、だが顔や名前を知られる事を嫌う鬼舞辻無惨にとってはそれも嫌悪の一つに含まれるだろう。
(まぁ、これで料理は食べ納めかな)
可哀想に、そう思いながら一口、また一口と酒呑は料理を食べる。数日もすればこの場所すら消えて無くなり、全ては闇の中に消える。
──襖が開かれ、人食い鬼の祖、鬼舞辻無惨が現れた。
【鬼舞辻無惨視点】
「うちを待たせるなんて、いい度胸やね」
私の眼前で憎たらしい顔をして、笑みを浮かべるコイツが嫌いだ。
生きていることすら許したくない、すぐにでも殺してその血肉を踏み台にして私は完全になってやりたい。
だが、私もこいつも闘う事になれば相応の犠牲が伴う。賭ける価値に対して見返りが返ってくる確率が低すぎる。
「刻は指定していない、そもそも指定していたらお前は私を待たせていただろう?」
「あら、バレとった?」
わざとらしい態度、わざとらしい言葉、わざとらしい存在。
このまま話をしても時間の無駄になる、なので早々にこちらが言いたいこと告げる。
「下弦が欠けた」
「そうなん? 度々替わるさかい気にしてへんかったわ」
「
部屋が揺れる程の威圧を発しても、悠々とした態度でお猪口で酒を呑んでいる。どこもまでも面が厚い女だと最早感服してしまう。
猪口を置いたアイツは惑わすように妖艶な目で此方を見て、口元をつりあげて嘲笑う始末。
「えらい可愛いこだったからついな。おぼこやったけどいいもん貰ったわ、おおきにな」
欠けようが、死のうが、醜かろうが、そんな事は私にとってはどうでもいい。どれもこれも、全てはどうでもいい事だ。
だが、私の為に動く駒をこいつに取られる事は腸が煮えくり返るぐらいに腹が立つ。
死ね、醜く死ね、惨たらしく死んでくれ。
「
鬼なのか、人なのか。鬼と言いながら人を守るのか、鬼と言いながら人を喰らうものなのか。
何方側にもいて何方にもいない、蝙蝠のようにふらふらと飛び回る様は最早捨て置けぬ。
──瞬間、こいつの雰囲気ががらりと変わった。
『私は楽しい方の味方』
私が初めてこいつに出会った時を思い出す。
こいつは喰らいたい物を喰らい、欲しい物を欲しいがままにして、張り付いたような笑みを何時も周りに振りまいていた。
その時と同じ様な笑顔で、その時と同じ様に語りかける。
『奪い奪われ、喰らい喰らわれ。人は鬼を殺し、鬼は人を喰らう。しかしな、臆病者。鬼は人がいなければいけない、だが人は鬼がいなくても生きていける。お前は、尾を踏み過ぎた、報いが何れくる』
『私も報いを受け何れ死ぬ。殺したのだから恨まれるのは当然、恨みが消えようが何れ廻り廻って報いを受ける──』
『その時に嗤って死ぬか、怯えて死ぬか。それが
理解しがたい言葉。やはりこいつは死ぬべきだ、殺すべきだ、今すぐ死んでくれと言葉を投げかけると、私の帽子を奪い頭に被りながらこう言ってきた。
「あんたも死ね」
【酒呑童子視点】
密会は無事(?)に済んだ。これで私と
あいつが人食い鬼になる時、私は荒れに荒れていた時期。
確かにあいつにも出会ったし、会話もした事がある。
しかし、決定的にあいつとは反りが合わない。硬貨の表と裏のように、永劫に交わることは無いのだ。
(腹にたまらない料理だったな……そうだ、確かこのあたりにはうどん屋の屋台をやっている親父がいたな)
昔を思い出しながら街の中を進んでいく、記憶だよりなので迷ったりもするが、行きあたりばったりの散策は面白い事に出会える切っ掛けになる。
(あったあった……んっ?)
「俺はな! 俺が言いたいのはな!! 金じゃねぇんだ!! お前が俺のうどんを食わねって心づもりなのが許さねぇのさ!!」
親父さんが座っている女の子に対して何か文句を言っているようだ。しかし女の子はそれを理解出来ていないのか、呆然としているだけ。
これは面倒な事が起きていると本能が告げるが、女の子の顔を見て私は思わず口を開いたままにしてしまった。
(あれは、ぼんの妹の禰豆子?)
思わず駆け出して、うどん屋の親父さんの肩をつついて意識を此方に向かわせる。
「なぁ、どうしたん?」
「あぁっ?」
事情を聞いてみると、炭治郎は禰豆子を置いて誰かを追いかけて行ってしまった。そして残された禰豆子は食べる事が出来ない、それをワザと食べないと勘違いされて食えと言われていた。
やれやれとため息を吐き、着物の裾から小銭を取り出して親父さんに渡す。
「……うちが食べるわ、その子はうちの知り合いやから許してや?」
「……まぁ、食べるならいいけどよ」
出来上がったうどんを受け取り、禰豆子の隣に腰を下ろす。
禰豆子は何も言わず只々じっと此方を見てくる。鬼舞辻の血で鬼になってしまえば、人以外は食べられなくなる。
そして人を喰う事を禁じている為、禰豆子は竹の口枷をしているだろう。
なので私が食べる姿じっと、じーーっと、見つめているのでとても食べづらい。何か与えられる物は無かったかと食べ終えた丼を置いて裾の中をまさぐってみる。
飴、飴、飴、お金、無惨の帽子、飴、飴、おっ……?
「ええのがあったわ」
「むっ?」
【竈門炭治郎視点】
置き去りにしてしまった禰豆子を迎えに行き、うどん屋の店主さんに詫びを入れる。頼んだうどんを食べますと言ったが。
「あんたの知り合いとやらが代金払って、食べていったぞ」と言われてしまい、頭を捻る。
(誰だろう、俺の知り合い……?)
微かに残る酒の香り。何処かでこの香りを嗅いだことがあるような気がするけれど、思い出せない。
さらに頭を捻っている時、禰豆子の髪型が何時もと違う事に気がつく。
「禰豆子、どうしたんだそれ?」
「むぅっ!」
紫の水引によって禰豆子の後ろ髪が一つに纏められていた。
水引からも漂う酒の香り、香りを嗅ぐ度に何かを思い出せそうな気がした。
けれど路地の角に人影を見つけてしまい、思考が中断してしまって誰かの事を思い出すことは出来なかった。
「はい、零余子。土産」
「帽子ですか……? けど、これ男物ですよね?」
「無惨から貰って(奪って)きたわ」
「ひえっ……」
視点がコロコロ変わってセンセンシャルッ!
許してや……城之内、現在は二巻後半辺りの時系列になってまふ……。
そろそろ零余子ちゃんにも出番を与えないといかんな……しかし、しのぶさんにも刺されたい。
ま、ま……ええわ。
※補足…水引
水引(みずひき)は祝儀や不祝儀の際に用いられる飾りで贈答品の包み紙などにかける紅白や黒白などの帯紐。 贈答品や封筒に付けられる飾り紐のことで、その形や色により様々な使い分けを行う。 もしくは、飾り紐などに使われる紐。 また飾り紐としてだけでなく、鶴や船などの置物や髪飾りとしても使用される。