まいひめ―姫子IF―   作:どんタヌキ

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今思うと新道寺の小説は少ない気がする。
新道寺はかなり好きなのに……


2,変化

「おはよーございますっ、せんぱい!」

「ん、おはよ」

 

 寮生活がスタートし、一つ屋根の下二人で生活する事となった姫子と哩。

 姫子は自分より先に目覚めていた哩に、元気に挨拶をした。

 

 

 

「今日は朝食作っちゃる、やけん今ん内に顔ば洗ってきんしゃい」

「ありがとーございます!」

 

 まだ寮生活の細かいルールなどはお互いに決めていない。

 料理当番もいずれは決めようとしているが、今日くらいはまあいいだろうと哩が率先して現在朝食を作っている。

 

 

 

「んっ、つめたかー」

 

 洗顔クリームで顔を洗ってから冷水をバシャバシャと何度か顔にかける。

 泡を完全に洗い落としてからタオルで顔を拭き、その後化粧水、乳液と肌の手入れは欠かさない。

 

 そして洗面所から出てきた姫子の鼻が感じ取ったのは、部屋に広がるいい匂い。

 

 

 

「お、終わったか。簡単な物しか作っとらん、勘弁な」

「……十分すぎますよ!」

 

 テーブルに広がるはハムと卵のサンドイッチ、ワカメとオニオンスライスのスープ。

 部屋のいい匂いはこのスープによるものだった。

 

 

 

「スープとってもおいしそうですっ、いい匂いが広がって……」

「それ、インスタントやぞ」

「……サンドイッチ、おいしそうですね!」

「おい」

 

 こんなコントのようなやりとりもあって。

 お互いに笑いあいながら両手を合わせ。

 

 

 

「「いただきます!」」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 本日は新道寺の入学式である。

 朝食を取った後、姫子と哩は二人で学校に向かい、現地で一度別れた。

 

 

 

「んー、こん光景も懐かしか」

 

 ほぼ変わらないこの入学式の光景。

 校内に入り、自分の割り振られたクラスを確認する。

 

 

 

「……三組」

 

 掲示板を見て自分の名前を見つける。

 それは前と変わらない、一年三組であった。

 

 クラスを確認した姫子は他の生徒とは違い慣れた足取りで教室に向かい、そして入って自分の席を見つける。

 

 

 

(そういえば、隣には花田がおったなあ……)

 

 いきなり隣に標準語を喋る、逆に浮いていた存在。

 後に打ち解けあい、同じ麻雀部という事もあり親友となった花田煌という人物だ。

 

 そんな親友をまた久々に見る事が出来るだろうと、少しワクワクしながら座って待つ姫子。

 

 

 

(……あれ?)

 

 だが、隣には別の女子生徒。

 おかしいな、と姫子は周りを見るが煌の姿は無い。

 

 

 

「よーし、全員揃ったなー」

 

 そのまま煌は教室に来る事は無く、クラス全員の席が埋まるのであった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 夜になり、部活を終えた哩が帰宅する。

 まだ一年生は入部していないため、姫子は先に寮に戻っていた。

 

「おかえりなさいですー……」

「ん?テンション低かね、何かあったと?」

 

 元気が無い、という訳では無いが少し声が沈んでいる姫子の様子を見て哩は尋ねる。

 入学式、面白くなかったのかな?という的外れな疑問を持ちながら。

 

「んー、何かあったという訳ではなかとですがー……」

「……よし!」

 

 入学したのにも関わらず、いまいちテンションの上がりきっていない姫子を見て哩は何かを決意したかのように声を出す。

 

「夕食、美味いもん作っちゃる!座って待っとれ!」

「え?先作って食べちゃいましたけど……」

「……うっさい、食え!高校生の胃袋は強か!」

「ちょっ、食べれなくは無いですけど……太りたくなかとですー!ぶちょー……ぶちょー!」

「先輩と呼べ!」

 

 意地でも二人分の夕食を作ろうとする哩と、止めようとはするがいずれ諦め何だかんだ座って二度目の夕食を待つ姫子。

 食べた時は哩の作ってくれた夕食のおかげでテンションが上がってはいたものの、その後カロリーを気にし逆にテンションが下がってしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 少し日は経ち、この日は新一年生が様々な部活動に入部する日。

 勿論、姫子は麻雀部に入部するわけである。

 

 

 

(クラスは違う、ばってん恐らく麻雀部に入ってくるであろう花田とようやく顔合わせ出来ると)

 

 恐らく今日煌と出会えるのではないかと姫子は楽しみにしていた。

 自分のクラスにはいない、だがどこかにはいるだろうという安易な考えで姫子は他クラスの名簿には全く目を通していない。

 

 

 

 そして授業が終わり、いよいよ放課後の部活が始まる時間帯。

 

 

 

「生立ヶ里中学校から来ました、鶴田姫子です。よろしくお願いしますっ!」

 

 新一年生はそれぞれ自己紹介をする所から始まる。

 五十音順で自己紹介が進んでいき、姫子は真ん中よりもやや後の方で出番が来た。

 

 

 

「お、哩の後輩かー。インターミドルでも大活躍しとったな、期待してると」

「はい!」

 

 現在の部長から声をかけられ、元気よく応える姫子。

 自己紹介のため立っていた姫子はそのまま座り、チラリと哩がいる方向を見る。

 

 

 

「姫子ちゃん、やっぱ期待されっとねー。やっぱり、かなり実力持っとるん?」

「当たり前やけん、姫子は強か。私も負ける時は普通にあると」

 

 姫子には聞こえないくらいの声ではあるが、自分が褒められているわけではないのに何故かドヤ顔をしている哩を姫子の目からは確認できた。

 

 

 

(……あれ?)

 

 そのまま自己紹介は普通に進行されていく。

 何も違和感は無い――――が、姫子だけが感じ取った違和感があった。

 

 花田、という名前を聞く事も無く、は行の新入生の自己紹介は終了した。

 

 

 

(何で……おらんと?)

 

 おかしい、といるはずだった親友の姿を確認できないまま自己紹介は終了する。

 今までは何事も無くほぼ同じ世界を自分が回っているつもりだった。だが、この時姫子は僅かではあるが改変された世界である、という事を確信する。

 

 

 

(……辛いなあ)

 

 冷静に受け入れはするものの、それでもその親友がいないという事実を受け入れるのは辛いのであった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(うーむ……)

 

 何があったかはわからないが、見るからに落ち込んでいる姫子を見て哩は悩む。

 

 朝の時点ではついに部活が始まる、という事でテンションも高かった姫子であるが終わってみれば何故かそのテンションは真逆へ。

 その原因を探るべく、哩は考える。

 

(部員と合わない……なんて事は考えられんしなあ、でも落ち込んどるんは部活が終わった後……いや、途中か)

 

 特別部員が姫子を嫌っていたわけでもなく、むしろ歓迎ムードだった。

 故に部活で落ち込んでいる訳ではないと考えるが、落ち込んだのは明らかに部活の途中なので矛盾しているのだ。

 

 

 

(……わからん!)

 

 現在哩は学校のすぐ近場のコンビニにいる。

 一緒に帰宅してから、姫子を元気付けるために甘いお菓子でも買おうと考え、一人で行ったという模様だ。

 

(……ん?)

 

 その時、たまたま一つの雑誌が哩の目に入る。

 

(Weekly麻雀TODAY……今週は宮永照特集か)

 

 麻雀の雑誌、表紙を飾っているのは同じ高校生である宮永照であった。

 

 

 

(こいつも買っとくか、姫子も読むと思うし)

 

 そして哩はそのまま雑誌もかごに入れ、レジに向かうのであった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「姫子ー、お菓子買ってきたと」

「あっ、わざわざ……えっと、今お代出しますね」

「よか、こいは私んおごりやけん」

 

 そして様々なお菓子が入ったコンビニのレジ袋を手に持ちながら、哩は帰宅する。

 お金を出そうとした姫子を制止し、そのままテーブルに袋を置いた。

 

 

 

「わー、プリンおいしそーです!」

「よくあるコンビニんやけどな」

 

 色々なお菓子の中から、プリンを選択する姫子。

 哩は杏仁豆腐を取り出し、ついてきたプラスチックのデザート用スプーンを手にとってお互いに食べ始める。

 

 

 

「あれ、そういえばこん雑誌何です?」

「麻雀ん奴と、姫子も読むか?」

 

 今度は最初に食べていた物を交換して姫子が杏仁豆腐を頬張っていた所、哩の読んでいた雑誌が気になり始める。

 そして表紙を見て照の姿を確認し、やっぱり化け物と改めて感じた後に、姫子は何か違和感を覚えた。

 

「宮永照は本当に凄か、清澄なんて普通ん高校に進学したんが信じられん」

「清……澄?」

「ああ、長野ん所……せめて長野なら風越とか行けばよかと思うが、まあ無名ん高校から出てくるチャンプっちゅうんも一種ん格好良さば感じるっちゃ感じるが」

 

 哩からすれば清澄の照は凄い奴だ、というだけの話なのだが姫子からすれば違う。

 何故、白糸台にいないのか。これもまた変化なのか、と。

 

 

 

「……姫子?」

「……え?あ、はい!」

 

 少しボーっとしていた姫子に哩は呼びかける。

 その言葉に対しハッと目覚めるかのように姫子は返事をした。

 

「元気出すと……何があったかは知らん、ばってん部活ん途中から見るからに元気無くなってた。私じゃ相談に乗れんかもしれんが……」

「……せんぱい」

 

 姫子は哩に心配をかけさせていた事に気づく。

 

(確かに内容が内容やけん、相談は出来ん……ばってん、だからといって心配かけさせてよかかと言えば、違う)

 

 前の世界にいた親友がいなくなっていましたなどと、相談は出来ない。

 だからと言って、ここまで自分に親身になって接してくれる哩に心配をかけさせていいのかといえば違う、と姫子は考えた。

 

 

 

「心配かけさせて申し訳なかとです、ばってんもう大丈夫です、吹っ切れました!」

「ん……無理しとらんか?」

「無理しとらんですよ、というか何か一つ目標が生まれました!」

 

 突如芽生えた姫子の新たな目標。

 それは絶対に達成したい目標であった。

 

 

 

(全国ば行って花田に会う……きっとどこかで花田も麻雀やっとるはず、だったら会う事が出来る機会なんていくらでもあると!)

 

 今まで持っていた全国優勝という目標と完全に被ってはいるが、それでも新たな目標である。

 麻雀をやっている以上、そこの繋がりは必ずあると姫子は思っていた。だったらより麻雀に打ち込んで、必ずどこかにいるはずの親友に出会うんだ、という決意。

 

 

 

「必ず全国優勝しましょう、せんぱい!」

「お、おう……というか、それ前も言っとらんかったか?」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ロン、12000!」

 

 更に少し日が経ち、ある日の新道寺の麻雀部。

 姫子は絶好調で、この日はほぼ部内での対局は一位であった。

 

 

 

「ここんとこん姫子ちゃん、絶好調とね」

「お、美子……ああ、元々ん実力に加え……麻雀に勢いがあると」

 

 そんな姫子の対局を見ていた二人の二年生部員――――安河内美子と、哩。

 周囲から見ても、ここの所の姫子の強さというのは上級生にも引けを取らない、それどころか部内でもトップクラスの成績であった。

 

「流石哩ちゃんの後輩とー……これなら、今年んインターハイのメンバーにも選ばれるんじゃ?」

「まだわからん……ばってん、最近ん姫子は他んメンバーに比べても麻雀に対する熱が段違いと。私は団体戦に入ってくると、信じとる」

 

 強豪校という事もあり、部員の麻雀に対する打ち込みっぷりというのはかなり高い。

 その中でも今の姫子は、際立って高いのだ。

 

 

 

(……姫子は素の実力もかなり高い。ばってん、それだけじゃなか……)

 

 哩の目から見ても、中学二年生の時に見た姫子よりも相当強くなっていると感じ取れるほどであった。

 素で打っても、一年生でありながら全国でもかなり通用するクラス。だが、姫子の強さというのは――――否、自分と姫子の強さというのは、素の強さだけではない。

 

 

 

「……哩ちゃん?」

「美子、監督って今どこにおる?」

「え、職員室にいる……あ、ちょうど来たと」

 

 哩がどこにいるのか美子に尋ねるタイミングとほぼ同時に、監督は部室に顔を出してきた。

 そして哩はその監督の下に真っ先に向かい――――

 

 

 

「監督!」

「お、白水か。どうした?」

「……ちょっと、話したい事があります」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「んー、うまか!」

 

 部活終了後に自動販売機でジュースを買い、誰の目から見てもおいしそうに飲む姫子。

 本人としても、疲れた後に飲むジュースというのはより一層おいしさを感じる所があるのだ。

 

 

 

「お、そんジュースに目をつけるとは中々ばい」

「あっ、江崎先輩おつかれさまです!」

 

 そこに、姫子と全く同じジュースを手に持っている仁美が現れる。

 

「部活は慣れたか?」

「勿論です、いいせんぱいと同級生がおって恵まれてますー!」

「中々嬉しい事言っとくれるね、ばってんその先輩ってのはほとんど哩やろ?」

「な、なな何言っとるですか!?みんなです、みーんーなー!」

 

 先輩である仁美にいじられる姫子は、少し焦りながら否定する。

 最も、姫子の中の先輩という言葉の7割以上は哩なのであるが。

 

 

 

「それにしても姫子は強かね、団体メンバーにも選ばれるんじゃ?」

「ありがとーございますっ、そうだと嬉しかですね……」

 

 仁美は実力から姫子が選ばれるであろう事を確信しているが、姫子は控えめに応えるだけであった。

 前の世界でも姫子はこの時期で既に団体メンバーに組まれてはいたが、それでも何が起こるかわからない。意外と姫子は謙虚であった。

 

 

 

「実はまだ、必殺技を隠し持っとーですよ」

「必殺技?麻雀で?」

「はい、ただ……」

 

 姫子には素の力だけではなく、まだ他に力を秘めている。

 そしてそれはかなり強力なもので、プロでも破る事は出来ないほどのレベルだ。

 

 

 

「それに頼り切るんは、もう止めようかと思っとるんです」

「……何で?強か技じゃないんか?」

「んー、強力ですけど……ばってん、それに頼ったら自分が成長しない気がするとです。ある程度までなら勝てる、ばってん本物ん実力者には届かんと」

 

 姫子はその技をしばらくは使う事は避けようと考えていた。

 理由としては確かにその技自体は強力であるが、本物の実力者と当たった場合通用するかと言われたら微妙なのだ。

 

 発動してしまえばこっちの物なのだが、その発動条件というのが中々難しい。

 本物のエースクラスの実力者と当たった場合、その発動条件が成立するかと言われたら、チャンスは少ない。

 

 だったらまずは素の実力をもっと伸ばそう、今の姫子はそう考えている。

 

 

 

「ふーん、見た事ないけんよくわからんが……ま、姫子がそう思っとるんならそれでよかじゃなかと」

 

 仁美はその姫子の能力という物を直に見た事が無いためよくわかってはいないが、これだけ麻雀に対し打ち込んでいる姫子が考えて出した結果ならば間違ってはいないだろうと勝手に結論付ける。

 

「というか、あれか?それに頼ったらという事は、普段はナメプしとると?生意気な後輩やね」

「ち、違います!私一人じゃ成立しないってだけで」

「……?ますます訳がわからんと」

 

 一人じゃ成立しない、じゃあどうやったら成立するんだよと仁美は突っ込もうとして止める。

 

 

 

「あ、姫子ちゃんこんな所におったと?」

「ん、どうしたと?」

 

 その時、姫子を探していたであろう同級生が声をかけて来る。

 もう部活は既に終了しているので、何で自分を探しているのか姫子は検討がついていなかった。

 

 

 

「監督が呼んどると、職員室に来いって」




今回のまとめ

煌がいない新道寺
姫子、徐々に変化を受け入れる

ここの新道寺にはすばらなお方はいないようで。
姫子は姫子で新たな方向に成長しようとしています。
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