全国大会というより、全国に出るためのそこそこ大きい大会といった感じ。
「失礼します、鶴田です……監督、何か呼んでいると聞いて……って、せんぱい?」
「おお、来たか。じゃあ、早速話したい事があるんだが」
同級生に呼ばれ、職員室を尋ねた姫子。
そしてそこにいたのは監督だけではなく、哩の姿もあった。
「入学したばかりの一年生にとっては本当に急な話になってくると思うが、近いうちに他校との合同練習試合があるのは知ってるな?」
「はい、スケジュール表にも書いていましたし……」
まだ四月は始まったばかりではあるが、近いうちに何校かが集まっての練習試合が組み込まれている。
というのも、地区予選は六月から。早い所ではオーダーを五月までには固めたい高校もあるので、この他校との実戦形式で実力を見極め、ある程度構成を考えていく所も少なくは無い。
「そこでだ。練習試合というのは時間も限られている、つまりレギュラー候補を絞って連れて行くことになるが……」
(……あ、何となく思い出して来たと)
何校かが集まるといっても場所と卓の数には限りというのがあるので、たくさんの人数を連れて行けるわけではない。
レギュラー陣、補欠、それにプラスアルファで数名、つまり多くても十人程度がいい所であろう。
「鶴田、お前も連れて行くからな」
「……はいっ、ありがとうございます」
姫子はその限られた人数の枠に、堂々と抜擢される。
大勢の部員がいる強豪校で、一年生で既に選ばれるという事自体がかなり凄い事なのだ。
「何か質問とかはあるか?」
「……えっと、何で自分はわざわざ呼ばれたんですか?失礼かもしれませんが、部活の時に全員がいる前で発表すればいいのでは……」
姫子は既に、これから何を言われるのかを知っていた。
何故全員のまで発表すればいい事をこうして個人的に呼ばれたのか、そして哩がこの場所にいる理由もだ。
「……鶴田には、特別な力があるらしいな」
監督が言う、姫子の特別な力。
「白水が中学校時代の牌譜を持ってきて私に多少説明してくれた。まあ言われなくても団体戦時の異常な火力というのは気になっていたがなるほどな、繋がっている、か……」
リザベーション。
哩と姫子が団体戦で同じチームにいて初めて発揮される力。
「二翻の時は四翻、三翻の時は六翻……なるほどな、これは成立すれば強力だ」
これは哩が姫子よりも先に対局をする事が前提の条件としてある。
哩が仮に東一局に二翻で和了ったとしよう。そうすると姫子は自身の東一局の際にその二倍、四翻になるような好配牌、好ツモになるのだ。
そしてこれは絶対ではないがほぼ確実に和了れるといったかなり強力な能力である。
「デメリットは?何も無しに白水が和了った時だけ発動するといった都合のいい物には思えないが」
監督は全ての牌譜を見直してからこのような質問を哩に対してする。
哩が和了った時でも姫子が和了っていなかったり、和了っていたとしても二倍にはなっていない対局もちらほらとあった。
つまり、絶対にこの能力が発動されるわけではないと監督は感じていた。
「……発動するかしないかは、配牌時に私の任意で出来ます。最初に翻数を決めて……いや、縛るという表現が正しいでしょうか。条件を設定して、クリアしなければなりません」
まず哩は配牌時に見てから能力を発動するかしないかを決める事が出来る。
そして翻数を縛る――――例えば、二翻に設定したとしよう。
その時哩は必ず二翻以上で和了らなければならない。以上なので、三翻や四翻でも可能ではあるが。
そしてその条件を達成して初めて、姫子はその二翻の二倍である四翻での和了が可能になってくるのだ。
「もし能力を発動した時に私が和了れなかったり決めた翻数未満だったら……姫子はほぼ和了れません。出来たとしても一翻の手がやっとです」
そして監督が予想していた通り、その能力には大きなデメリットもあった。
哩が能力を発動した時に和了れなかったり、三翻縛りで二翻の手だったりすると姫子はほぼ和了する事が出来なくなる。
二翻程度の縛りならそこまで気にする必要は無いかもしれないが、三翻、四翻となってくると手を進めるのが難しくなってくる。
というのも配牌時で全てを見極めなければならないからだ。その縛りはドラを含んでもいいという条件ではあるが、ツモの良さというのはやってみなければわからない。和了れる手であっても思ったように火力が伸びない手で縛り未満であったならばどうしようもない。
故にこの能力は任意発動が可能とはいえ、かなりのハイリスクハイリターンとなり難しい物である。
「なるほどな……だが、お前達は中学生の時はこれを武器に、暴れまわっていたんだな」
だがそこは哩の相当高い麻雀センス、上手く能力を発動させ全国でもかなりの成績を残してきた。
生立ヶ里のまいひめコンビというのは、全国でも有名なコンビであった。
「よし……今度の練習試合の団体形式の時にはお前達二人には出てもらう。そしてその能力を実際にこの目で見させてもらう」
(あー……やっぱ、そうなるとですか)
以前もそうであった。
練習試合は午前中は用意された数卓で自由に他校と打ち合うといった感じで、午後からは団体形式で五名を選び、一つの卓で順番に打っていくといった模様だ。
この団体形式の練習試合で姫子は哩と共に能力を初披露する。
そしてそのままずっとそれを武器に戦ってきていた。
だが今の姫子は少し考え方が違う。
以前ならその能力を誇りにし、そして頼ってきた。
しかしそれだけでは勝つ事は出来ないと、全国の舞台で身をもって知ってきた。
化物クラスに対抗するには、まずは自分が本当の意味で強くなる事が一番の道。そう姫子は考えを改め直した。
故に、この練習試合で能力に頼りきって打つのはあまり喜ばしくないと姫子自身は感じていた。
「だが、能力は東場だけに限定する」
(……あれ?)
だが、ここで初めて以前とは違う台詞が監督の口から発せられた。
「確かに、能力を使った二人の麻雀というのは強力かもしれない。だが私は、鶴田。お前の素の実力も高く評価している。それこそ既に団体のメンバーを張れる程のな」
「……え?あ、その……」
「そしてそれを評価しているのは白水、お前もだろう?」
「そうですね、姫子は強いです。中学生の時も中々でしたが、ここまで伸びているとは思ってもいませんでした。お世辞抜きで」
以前には無かった、素の姫子を褒める言葉。
姫子はそこまで自覚はしていなかったが、この時間軸に来てから自身の実力を伸ばすべく、相当ストイックに練習してきた。
そしてそれは周りからもこのように認められるほど、高い物へとなっていたのだ。
既に、能力だけを認められるような存在ではない。
「能力も勿論この目でしっかりと見たい。だが、鶴田自身の麻雀というのも見たいんだ。練習試合、楽しみにしているぞ」
「……はいっ!ありがとうございます!」
そんな姫子の姿を自分が褒められたかのように嬉しそうに見る哩、そして褒められた張本人は言わずもがな笑顔であった。
―――
時は過ぎ、季節は秋。
既にインターハイは終えている。
「ロン、11600!」
「あっ!うう……今日も姫子ちゃん強かー……」
「最近はずっと絶好調ばい!ふっふーん、いっぽんばー♪」
夏の大会では、新道寺は中々の健闘を見せベスト8入りした。
強豪校、と言われても恥じない成績、そして対局内容だったと言えるであろう。
特に哩と姫子は二年生と一年生ながら、最もチームを引っ張っていたといっても過言ではない。
以前よりも要所でしか能力を使わず、必要以上に無理に攻めようとはせず堂々とした打ちを見せた哩は他のエース格とも先鋒戦で互角以上に戦い合い、姫子は要所でのリザベーションによる和了、そして素の爆発力を武器に次鋒戦で荒稼ぎした。
元々全国的に有名な存在であった哩と共に、姫子は期待の新一年生としてマスコミや雑誌にも以前よりも取り上げられるようになった。
「はい、一度手を止めて注目!今からオータムのメンバーを発表するからな」
オータムは全国を北海道東北、関東、関西、中国四国九州と四つにブロック分けし、春季大会に出る高校を選考するための大会だ。
ブロック分けといっても中々大きいブロックに分けられるため、新道寺が出場するブロックには全国でも強豪と言われる出場校も多数ある。
九州方面では永水女子、九州赤山、さらには中国、四国方面から鹿老渡、讃甘、更には沖縄から真嘉比といった全国でも実力のある高校ばかりだ。
永水に限っては今年のインターハイで決勝まで進出しており、新道寺よりも格上と周囲からは見られている高校である。
当然ここでも哩と姫子はメンバー入りし、オータムへと挑むのであった。
―――
「あー、対局した後は喉が渇くばい」
オータムの一回戦を難なく突破した後、姫子は会場内にある自動販売機を探しにうろついていた。
いくつか高校の控え室はあるが、新道寺の控え室のそばには自動販売機が無かったのだ。
「……って?なんなん、いくらなんでも人気が無さ過ぎる気が……」
会場にはたくさんの高校生が大会に参加しているため、適当な廊下とはいえここまで人気が無いのもおかしい、と姫子は軽く違和感を覚えた。
だが、向かいから一人姫子のいる方向へと歩んでくる人物が出てくる。
(……ん?あん巫女服と容姿……神代小蒔?)
制服を着ている者が多いこの会場では一際異色である巫女服を身に纏った人物、このオータム優勝候補の一角である永水女子のエース、神代小蒔。
姫子と同学年であり、そして全国でも数少ない魔物と呼ばれる実力者の内の一人であった。
(ん?なーんか、目がうつろ……ッ!?)
その時、姫子は感じ取ってしまった。
目の前の人物――――否、人と呼べるのかわからない存在が放つ気を。
「ほう……気づいたか、人の子よ」
(声も違うっ……!?女の子が出すような声じゃなか、なんなんこん存在は!?)
とても女の子が出すような声ではない、明らかな異質の目の前の存在。
「……時を超え再び頂を目指す強き熱き者の一人よ」
(ッ!?こいつ、今何て……!?)
姫子は小蒔の口から出てきた言葉に驚く事しか出来なかった。
何故なら、そんなありえない事を知っているのは本人である姫子しかいないはずなのだから。なのにも関わらず小蒔は、姫子がタイムリープしている事を知っているかのような口ぶりである。
「非常に力が上昇しているのがわかる、本当に人の子という者は面白い。だがまだ足りぬ」
「さっきから黙って聞いてれば……神代だったら失礼かも知れん、ばってん……神代の皮を被った誰かにしか見えん。誰だ、お前は」
姫子は語気を強めて小蒔にそう言い放つ。
姫子には何故かはわからないが、この者が人間以外の何かではないのかと確信を持っていた。
「もうわかっているのだろう?」
小蒔から返ってきた答えは言わなくてもわかるだろう、と言ったような内容。
姫子はその言葉に反応するように目力を強める。
「次の夏……原点の地、全ての強き力が集結する。だからもっと実力を上げ、我を楽しませよ。それが自身の為にもなる」
「なっ……!?こっちはまだ、聞きたい事が山ほど……って?」
それだけを言い残し、小蒔は消えるようにどこかへと移動した。同時に重苦しい空気も無くなっていく。
少し経った後に、廊下にもちらほらと他校の生徒が出入りするようになる。
(あん存在……実際に対局した訳でもなか、ばってん過去に戦った事がある宮永照と同等……いやそれ以上……!)
同じ卓で麻雀を打っている訳でもないのに、姫子はその強さを肌で痛いほど感じ取っていた。
それは過去にかつて戦った事のある高校生チャンピオンである照を超えるほどの物であった。
(神代が常にあん力を発揮出来とるかと言えば違か……過去ん牌譜では打ち筋がとにかくぶれてたと。ばってん、瞬間最大風速は恐ろしいという言葉一つじゃ足りん……!)
小蒔はあの小蒔ではない状態を維持出来るわけではない。それは姫子の目からもわかる事であった。
そしてこの会場を覆っていた気が雲散した事を考えると、今日の対局では小蒔はその力を発揮する事は無いのではないかと、姫子は何となくではあるが予想した。
「っと、いたいた。姫子、どこ行ってたと?もうすぐミーティング始まる……ってなんなんそん汗は!?」
「……え?あ、ぶちょー……いや、ちょっとですね」
帰ってくるのが遅かった姫子を探しに、哩がやってきた。
ただうろついていただけでは掻くはずの無い姫子の尋常な量の汗を見て、哩は心配する。
「色んな意味で、世界は広かー……って思ったとです。そしてまだまだ、私は弱か……」
「……?」
小蒔の特別な気に圧倒させられた姫子は、本当の実力者には勝てないと痛感させられる。
この年、新道寺はオータムで優勝するのであった。
今回のまとめ
哩と姫子、相乗効果で強化
ラ ス ボ ス(違)
新道寺、オータム見事優勝!(キンクリ)
新道寺は徐々に結果を残し全国でもかなり上位のチームになってきています。やったぜ。
姫子の実力が飛躍的に伸びていくことで、哩が無理やり和了りにいく事が少なくなる。
哩は原作よりもどっしり且つ高火力(新道寺って皆高火力なイメージ)、姫子に関しては言わずもがな。強いですね。
というか照が姫子の素の実力も評価しているくらいだから、個人的には能力なしでも強キャラだと思うんですよね。原作のあの点差で無理やり攻めなければならなくて振込が多かったから、少し過小評価されてるのかなーと思います。
また、今までタイムリープ→努力→強化的な流れでしたが、その根本的な所に初めて触れていますね。本編ではまだ触れて無いんですけど。