まいひめ―姫子IF―   作:どんタヌキ

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知る人ぞ知るあの人。


4,新しい風

 時は過ぎ、春。

 姫子達のいる新道寺は春季大会に挑み、見事結果を残す。

 

 先鋒というエース区間を任された哩は強敵相手でもかなりの点数を稼いで後ろに繋ぎ、一年生ながら大将に抜擢された姫子はその実力で荒稼ぎ。

 準決勝で敗れはしたものの、その実力は優勝してもおかしく無いと周りに言わせるほどの物であった。

 

 そしてここ最近の好成績が重なり合い、今では新道寺は全国ランキング五位まで上昇する。

 強豪校と言われ続けながらしばらくいい結果を残してこれなかった新道寺ではあるが、今のチームは歴代でもトップクラスと充実した戦力である。

 

 

 

 春季大会が終わり少したった今。

 一つずつ学年が上がる時期でもあり、そして新一年生が入学してくる時期でもある――――

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ぶちょー?」

「ど、どどどうしたと姫子?」

 

 既に入学式も終わり、姫子と哩はそれぞれ学年が一つずつ上がっていた。

 そして今日は、新入生が入部する日でもあった。

 

「……どうしたはこっちんセリフですよ。さっきからそわそわして……」

「べ、別にそわそわ何かしとらん!いつも通りばい」

(……今日ぶちょーが作った卵焼きに殻入っとるけど黙っとこ)

 

 現在二人は寮で朝食を食べている時間帯。

 そして明らかに様子のおかしい人物がいた。哩である。

 

 この様子、昨夜から続いているのである。そして今日の朝食でも卵の殻を入れるという初歩的なミスをしてしまうやらかしっぷり。

 姫子はその明らかに動揺している哩に対し、思い当たる節が会った。

 

 

 

「今日から新入生が来る日ですねー、ぶちょーはやっぱり緊張しとります?」

「……そんなもんはしとらん。いつも通り、堂々としてればいいだけの話と」

(明らかに緊張してて真顔で強がって箸震えさせておかずポロポロこぼすぶちょーかわいい)

 

 要するに、今日の部活に対し昨夜から緊張していたという事だ。

 哩は緊張をしている、とは自分の口からは言わないがその様子は誰の目から見ても明らかに緊張していた。

 

 元々、哩は意外と物事に対し緊張してしまうタイプである。故にこのような場面もあまり得意ではない。

 普段は割と何でも出来る哩の、数少ない苦手分野と言えるだろう。

 

 

 

「仁美に散々言われた、部長で一年生を前にしたら絶対に何かやらかすと。……そげな事はせん、一年生に完璧に見られるように振舞うっ……!」

「……ぶちょー、何か頑張る方向性若干間違っとりません?」

 

 自分でいつも通りと先ほど言っておきながら、どこか変に意識してしまう強豪新道寺の部長の姿がここにあった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「えー、新入部員の皆様……あー、私達麻雀部は皆様を歓迎します。……あー、その、これだけの多くの部員が入部してくれた事に対し非常に嬉しく思い……」

(……ぶちょー、あがりすぎばい)

 

 大勢の新入部員を前に、麻雀部を代表して部長である哩が挨拶をする。だが、その話す言葉というのは非常に歯切れが悪かった。

 三年生は一部が笑いを堪え、姫子達二年生は心配そうにその様子を見つめ、新一年生はイメージとの違いに複雑そうな表情を見せる者も。

 

 しばらくそのテンポの悪い挨拶という物が続いていき、監督がため息をついた所でようやく終盤を迎える。

 

 

 

「……うちは全国優勝を目指しとる。練習も勿論並の高校に比べ相当きつか。ばってん、きつさ故に辛か思い持っても……各々が麻雀を打ち始めた時の気持ち、それだけは忘れるな。以上!」

 

 最後は哩が思っている事を素直に新入部員、いや、全体に伝える。

 その言葉に惹かれるように、部員全てが拍手で哩の挨拶に応えた。何だかんだ、しっかりと最後は締めるのが部長である。

 

 

 

「じゃあ、今日は特別な内容の部活動だ。一軍メンバーはそれぞれが別卓に移り、そこに二軍以下も混ざるように。三人一組になり、そこに新入部員はガンガンぶつかっていけ!肌で新道寺の強さを感じ取れるいい機会にしよう」

 

 監督から今日の練習内容が指示される。

 元々内容を知っていた二年生以上の部員達はすぐにバラつき、三人一組を作り新入生を待ち構える体勢になる。

 

 その中で青いリボンをつけたポニーテールの一年生が真っ先に――――哩のいる卓へと向かっていった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ロン、12000……おつかれさまでしたっ!」

 

 姫子のいる卓。

 実力を遺憾なく発揮し、三軍の二年生部員を飛ばして終了。

 

 対局した一年生はその打ちっぷりに感心しながら、ありがとうございましたとお礼を言って別の生徒と交代する。

 

 

 

(さーて、ぶちょーがいる卓はっと……ん?)

 

 そこで姫子は哩のいる卓が何やら騒がしい事に気がつく。

 それも同学年部員の茶化し、といったあまりいい内容の物ではなかった。

 

 

 

(えー……ぶちょー、何やってるとですか。情けなかー……)

 

 その卓を見ると現在東四局、何と哩は全然稼げておらず三位であった。

 二軍の選手が一位、三軍の選手が二位、新入部員が四位といった現在の状況。

 

 ちなみに、現在全ての部員が対局しているわけではない。

 設備が優れている新道寺ではあるが、かなりの量の部員がいる為に全員が打てるほど余裕は無いのだ。

 

 姫子も打ち終えてから卓を離れ、現在は周りの様子を見ている状態である。

 

 

 

(うわー……)

 

 同じく一軍の三年生部員、仁美が部長が二軍落ちするぞー、などと言い放題であった。

 それほどまでに、今の哩の対局内容というのはピリッとしないものがある。

 

 

 

(……ッ!?)

 

 東四局が流れたと同時に、姫子は違和感を覚える。

 

(なんなん、今ん風は……?あんポニテの一年生部員から……?)

 

 南場に突入したと同時に、姫子は暖かい風を感じた。

 それと同時に、この対局はまだまだこんな物では終わらないと悟る。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(まずか、完全に頭ん中真っ白で打ちがブレブレと……)

 

 哩は対局に突入してもその悪い意味での緊張感が抜けきっていなかったのか、いつもの力を発揮出来ていなかった。

 東四局、自分よりも格下の部員にリードされる現状。

 

 

 

(あん羊毛、うるさか……ばってん、言っとる事は事実なんが……姫子までそいな目でこっちを見んでほしか……)

 

 仁美の茶化しに苛立ちを感じていながらも、全てを否定出来ずにいる哩。

 そして姫子にまで情けない、と言わんばかりの目で見られていたため余計に落ち込む。

 

 

 

 そして南場に突入しようとした時、異変は起きた。

 

 

 

(……ッ!?)

 

 哩は力を肌で感じ取った。

 それは他の二、三年生の新道寺の部員ではなく新入生である部員から。

 

 

 

(……なるほど、これは面白か)

 

 哩の長い事麻雀をやってきたからこそわかる強い者が出す独特の感覚、それをこの一年生部員は出していた。

 それこそこのままだと、本当に負けてしまうくらいの。

 

 

 

(こっちもこんなグズグズしとる場合じゃなか。こん一年を……全力で叩き潰す!)

 

 先ほどまでの固い表情で対局していた哩は既におらず、相変わらずポーカーフェイスながら獲物を狩るべく闘志を秘めた戦士へと変貌していた。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(……東場は耐えました。後は南場、この点差なら十分に逆転は可能)

 

 新一年生、南浦数絵――――哩のいる卓へと真っ先に向かっていった人物である。

 ここまでの対局は四位ながら、新道寺の先輩部員相手に勝ちをほぼ確信していた。

 

 

 

(新道寺部長、白水哩――――ここのエースでもあり、全国でもトップクラスの打ち手と言っても過言ではない、はずなのですが……全く持ってそれを感じさせない現在までの流れ)

 

 数絵もその実力を知っているからこそこの卓に誰よりも早く向かっていったのだが、現在まではその期待を裏切られたかのような流れ。

 

(このままなら本当に、私が大差で勝ってもおかしくない……よし、聴牌)

 

 南一局六順目、数絵は聴牌。

 そこからすべき事は決まっている。ダマなどしない、この流れのまま押せ押せで、リーチをかけ和了るだけ。

 

 

 

「リー……」

「通らんな。それロン、3900」

「ッ!?」

 

 しかしその数絵の切った牌が哩に刺さってしまう。

 数絵としてもこれはかなり予想外の事であった。

 

 

 

(南場の私を……軽々と上回ってきた?和了られて気がつきましたが、この人の気迫が東場とは全然違う……!やはり、強い)

 

 南場の数絵というのはかなり手が進み、聴牌速度、和了率共に相当の物である。

 だからこそ、数絵は南場に入ってからはよっぽどの相手が来ない限りはほぼ勝てると自負していた。それにも関わらず、哩はあっさりと南場で和了。

 

 その、よっぽどの相手であると数絵は認めざるを得ない――――否、再確認させられたと言うべきか。

 

 

 

(でも、相手が強いからといって私が弱くなったわけではない……南場の私は自分でも強者であると自覚している。だったら……引く理由などどこにも無い!)

 

 強者との対局を喜ぶかのように、数絵の闘志も上昇していくのであった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「今日の部活も終了、お疲れ様でした」

「お疲れ様でしたっ!!」

「あー……二年生部員は一年生に部活が終わってからの事とか色々教えるように」

 

 一年生部員が入部してから初の部活も無事終了、哩は締めの挨拶と共に二年生達に指示する。

 一年生達は疲れきった表情の者やこれからの部活も楽しみ、と笑顔の者など色々な表情を見せる。二年生達は指示通りすぐに一年生達の下へと向かい指示を出していく。

 

「ふいー、今日もつっかれたー……ん?あの子は……」

 

 一軍メンバーであっても、二年生である以上姫子もその指示していく立場というのは例外ではない。

 適当に目がついた一年生に教えようと姫子は考えていたら、一年生の中で一番興味を持った人物がすぐ近くにいた。

 

 

 

「えっと……南浦さんだっけ?お疲れ、これからやる事教えるとー」

「鶴田先輩、お疲れ様です。別に私はさんとかつけなくても大丈夫ですよ」

「じゃあ、下の名前の確か……数絵でいい?」

 

 流石にいきなり下の名前で呼ばれるとは数絵も思っていなかったので、少し面食らったような表情の後に了承の頷きをする。

 

「ん、今日は一年生は空いている更衣室自由に使ってって言われたと思う、ばってん今後はちゃんと個人で分けられるばい、一応頭に入れといて」

「はい」

「後は……んー、牌磨きとか部室掃除とか、そのうち一年生で何組かに分けられて、当番制になると思う。今は二年生……つまり私達がやっとるから、後でやり方とかしっかり見とって」

「了解です」

「他には……」

 

 姫子はこれから一年生がやっていくべき事を次々と教えていく。

 今はそれを二年生がやってるから、見て学んでと言葉をしっかり付け加えて。

 

「自動販売機ん場所はわかる?部室出て、角ば右に曲がった所に」

「それは見てきました。思ったのですが……凄く種類多くなかったですか?」

「……種類豊富、ばってん地雷も多か。私ん個人的おススメはアセロラジュースやけどね」

「珍しいものもありますよね、ドリアンジュースって……」

「……あれだけは飲むな。江崎先輩っていう人がおいしそうに飲んでるけど、あれだけは飲んだらいかんと」

 

 一年生が義務付けられる事以外にも、利用するものなど姫子は教えていく。

 多少くだらないような豆知識的な事も含まれて入るが。

 

 

 

「そういえば数絵はどこ出身?明らかに地元出身ではなかよね」

「えっと、長野です」

「長野?わざわざそんな所から……あ、でも二年にも長野出身が」

「本当ですか?ちなみに名前は?もしかしたら私も聞いた事のある名前かもしれません」

「名前はは……あっ」

 

 言おうとして、止まる。

 その者は確かに長野出身ではあったが、今のこの場所にいるわけでは無いと。

 

 

 

「ゴメン、勘違いだったと」

「はあ……まあ、長野から九州に行く人なんて家庭の事情とかで引越し以外では中々無いですよね」

「そういう数絵も、引越しとか?」

「いえ、私は……」

 

 今の流れからてっきり数絵も親の都合で引越しで九州に移ってきたのかと姫子は思ったが、そうでは無いらしい。

 だったら何なのかと、それはそれで疑問を抱く。

 

 

 

「こんな理由で来る人も珍しいかもしれませんけど、お祖父様に勧められて新道寺に来たんです」

「お祖父様?数絵のお祖父様は新道寺に何か関わりでも持っとるん?……ばってん、男で女子高に関わりを持っとるんもそれはそれで」

「いや、そういうわけじゃ……数ある高校からここがいいと言われただけで、他は特に何も」

「ふーん、そうやって言われるんは嬉しいけど……ちなみに数絵んお祖父様は麻雀には詳しいん?」

「まあ、有名とまでは行かないですけどプロですから」

「プ、プロ!?」

 

 まさかの数絵のお祖父様がプロ雀士である事に姫子は驚く。

 

 姫子はプロにこの高校に進学しろ、と勧められたという事実が嬉しいと思った反面、何故新道寺なのかという疑問も抱いた。

 確かにここ数年実力はかなり上がってきているが、悔しい事にまだトップではない。東京や大阪の強豪校を勧めるならまだしも、わざわざ九州の学校を勧めるのか?と。

 

 そして、その疑問を持っているのは姫子だけではなかった。

 

 

 

(確かにこの高校は強い、白水先輩や鶴田先輩にもいい流れで南場に突入しても勝てなかった……やりがいはあります、けど)

 

 今日の対局で哩との熱戦は結局競り負け、後に当たった姫子にも負けた。

 強い先輩がいるからいい環境は整ってはいるだろう。

 

(お祖父様がいる地元の平滝高校に勧めなかったというのは部員がいなかったのでまだわかります。別に私はお祖父様の指導が受けれれば個人戦だけ出れればよかったのですけどね)

 

 数絵の地元の長野、そして一番近い高校の平滝。

 そこは南浦プロとの関わりのある高校であり実際に指導しに行ける場所ではあったのだが、他に部員がいなかった。

 

(ならば何故地元の強豪である風越、東京や大阪の強豪校を勧めずにここ、新道寺を勧めたのか。……個人的にはチャンピオンのいる清澄も少し興味がありましたが)

 

 その勧めた真意というのを、勧められた数絵本人もわかってはいなかった。

 数ある中で新道寺に行けと言われただけで、何故とまでは聞かされていない。自分で探せ、という事なのだろうかと数絵は考える。

 

 

 

(……まあ、改めて思いますが環境はいい。自分を高める場所、という点では悪くはありません)

 

 まだ掴みきれてはいないが、なるようになるしか無いだろうと数絵はとりあえず一生懸命頑張る事を強く思ったのであった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「はふぅー……」

 

 時刻は深夜、間もなく寝る時間。

 ボフッ、と姫子は自分のベッドの枕に顔をうずめる。

 

 

 

「数絵……か」

 

 以前は見る事のなかった面白い一年生が入ってきたと姫子は楽しみな部分を持ちつつも、複雑な気持ちであった。

 まさか、長野出身で煌と入れ替わるように入ってくるとは思ってもいなかったからだ。

 

 

 

(今日、対局してて思ったと……まだまだ未熟やけど、それでも強か。数絵が全国までに実力ば伸ばす事が出来れば……メンバー入りもあるばい。そしてそいが、新道寺の実力の底上げに繋がると)

 

 何故これだけの実力なのにインターミドルでは何も名前を聞く事が無かったのか、と感じるくらい数絵の実力は高かった。

 それこそ、新道寺の秘密兵器になる可能性だって秘めている。

 

 

 

(……全国ん舞台が楽しみと。数絵が育ち、全てのピースがはまれば本当にトップば狙える)

 

 この一年でメキメキと実力を伸ばし、全国でもかなりの強豪になれた新道寺に更にプラスアルファが加算されれば、本当にトップの可能性があると姫子は考えた。

 そしてその為にこれからすべき事も全て頭の中に入っている。

 

 

 

(自身の底上げ、後輩達ん指導……燃えてきたと。よし!)

 

 明日も部活を必死に頑張ろう、そう決心した姫子は一日の終わりである言葉を口にする。

 

 

 

「おやすみなさいー……」

 

 新道寺の麻雀部に新しい風が吹いた一日も、こうして終わりを迎えた。




今回のまとめ

哩、あがりっぱなし
新入生、加入

南浦さん加入。実は一期のアニメ見ていなかったので、南浦さんが出てる部分の所全部見ました。
煌が抜けた穴、どう埋めようかずっと考えていたんですよね。候補としては帰国子女の森垣友香、元々いた友清(オリキャラっぽくなってしまう)、更には憧や穏乃何かも。後者二人は、すぐに違うなと却下しましたけど(笑)

まだ書けて無いですけど、多分この話もあと一話か二話程度で終わるかな?って感じです。



話の本筋には関係ないですけど、最初ドリアンジュースをドドリアジュースって書いていて、それを投稿しかけた。危なかった……

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