ソードアート・レジェンド外伝ゼルダの伝説編 作:にゃはっふー
『諦めないで』
――誰だ――
片腕を掴まれ、どんどん海の深淵へと向かう激流の中で、その声が心に響く。
『あなたにはまだ手がある。それをせずに諦めるの?』
――だけどこれは――
ユウキたちが待っているのに使わないでどうする。
―それでも使ってはいけないんだ。俺の為にある物ではないのだから、使って良いはずがない―
『私にとって、あなたも大切な仲間』
――ッ!?――
悲しそうに呟かれた言葉に、ユウキやレインたちの顔を思い出し、シーカーストーンを強く握りしめる。
『忘れないで、あなたにはあなたの守るべき人がいることを。あなたは私の……私たちの仲間なのだから』
全ては飲み込まれる激流の中、俺の意識はシーカーストーンを操作し出した………
荒れ狂う海の上、波に揺れる巨大な幽霊船の上で高笑いするキュバスたち。
『邪魔者偽者をやっつけたわ~♪』
『これで遊びの邪魔はされないわ♪ もうあれはもういらないのぉ♪』
笑い合う幽霊たちの中、一人の青年が海の中に飛び込んだ。
『ッ!? なんなのデス?!』
それは黒い服が目立つゾーラ族の青年であり、アスナが甲板の淵まで来て、海を覗き込む。
「キリト君ッ!」
「任せてくれ!」
海の中を進むゾーラキリトに対して、いまだにあざ笑うキュバス四姉妹。
『無駄デス無駄デス、もうおしまいデスーーーッ!』
『手負いの偽物はここでおしまいデス』
『それでも遊んでほしいのなら』
『相手してやるデスッ!!』
ビームのように光を吐きだすキュバス四姉妹。甲板にいる者たちは必死に避ける中、ユウキはマリンの縄を斬り、共に海の中を覗き込む。
「テイルッ!」
「テイルーーーーーッ!!」
二人の叫び声は風にかき消された。かに見えた。
突然海の中に光が迸る。
『ッ!?』
しばらくして何かが海の上を跳ねあがる。
「キリト君?」
キリトだけではなく、何かを抱えている。それは青で統一された鎧を身に纏う、どこかの騎士のような姿。
「はあはあ……死ぬかと思った。助かったぜキリト」
「ああ、こっちこそ食われたと思ったぞテイル」
その鎧を着こむのはテイルであり、その姿を見てキュバス四姉妹は驚愕した。
『『ゾーラの鎧』ッ!? な、なんで……なんで彼奴が装備しているのデス?!』
『あの荒れ狂う海の中、兜や足だけじゃ身動きできずにお陀仏のはずデス!?』
『鎧に手を出すなんて、考えられないのデスッ!!』
それに驚く中、銃声が一人を貫き、一人を落とす。
『ッ!?』
「あんたたちの相手は私たちよ」
「みんな行くよッ!」
シノンはリロードしながら走り出し、ユウキも剣を構えて走り出す。
甲板の様子に勘付きながら、テイルは海の中で顔を出したグヨークに剣を向けながら、キリトに捕まる。
「さすがにゾーラの装備でも、この中を自在に泳ぐことはできない。タイミングはいいなキリト」
「ああ、バリアの張り方分かったぜ。問題ない!!」
「なら、グヨークを倒してさっさと次に行こうかッ!」
◇◆◇◆◇
『偽物の癖に本物のおこぼれをもらうなんて意地汚いデスッ!』
「テイルは時の勇者じゃなくても、勇者さんと同じだよッ!」
吐き出されたビームの中で玉の形をした物を見つけ出し、ユウキは叫び、その玉を跳ね返した。
『ギャアアアアアッ!?』
『姉さん?!』
『妹をよくも』
「食らいなさいッ!」
銃弾が何度も鳴り響く中、ビームを吐き出すキュバスたち。だがそれを避けながら、狙いの玉を見つけ、リーファが剣で弾く。
「リズさんッ!」
「はいよッ! シリカ!」
「トドメです!」
『ギャアアアアッ?!?』
リズへパスするように玉を弾き、シリカが空に浮かぶキュバスを一人撃ち落とす。
『末っ子ッ!?』
その時、銃声が鳴り響き、悲鳴も響き渡る。
『ああお姉ちゃんッ!? よくも姉妹たちをッ!』
悲鳴のようにビームを放とうとすると気、何かが自分の頭上を取った。
『なっ………』
「これで終わりだよッ!」
UFGを使い、マットとマットを飛び回っていたユウキが近づき、その剣で真っ二つに切り裂いた。
『そんな……バカな………ッ!?』
叫び声を上げ、四姉妹が消えると共に甲板の幽霊たちが消え、いつの間にか統率していたアスナが勝利宣言をする。
甲板にいる冒険者がアスナの声に喝采を上げ、リズたちはそれに苦笑した。
「あの子本物の世界で騎士団やってるわよ」
「道理で静かだったのね」
甲板の上にいた甲冑幽霊たちを倒し切り、アスナは仕切っている。その様子に仲間たちは呆れる。周りの傭兵らには勇ましく見えるが、リズたちには自暴自棄になっているようにも見えた。
「アスナさんらしいですね……」
「途中から幽霊が怖くなくなってましたねシークさんも」
苦笑し合う仲間たち。その中でユウキとマリンは、海の中を覗き込む。
閃光が時々光り、まだ海の中で戦いは終わっていない。
「テイル………」
◇◆◇◆◇
ゾーラの鎧のおかげで、激流の中でもある程度動けるようになったテイル。キリトに捕まり、グヨークの攻撃を避けながら斬りかかる。
その中でキリトがバリアを張った時、テイルはシーカーストーンを操作した。
金色の鎖が突然現れ、グヨークを捕らえた。時を止められ、動けなくなったところでキリトが一気に近づく。
激流の中でテイルはソードスキルを放ち、グヨークを切り裂いた。
◇◆◇◆◇
「ぷっはーーー」
グヨークを倒したからか、巨大な腕と足を見ながら、穏やかになる海に魚たちが舞い戻ってきた。途中で大亀に助けられ、こうして海面から顔を出すことができた。
『大丈夫かい?』
「あ、ああありがとう。途中で助けてくれて」
「テイル、無事でよかったよ」
テイルがキリトに話すのは、海中に引きずり込まれた時のこと。
「生身のままじゃ、あの激流の中じゃ動くことができなかったが、シーカーストーンの操作だけはできた」
「それで例の、対象の時を止める機能を使ったのか?」
「まあ、深いところだったから、そのままだったらキリトが来る前にまた捕まってたが………」
そう言いながら鎧を優しく撫で、鎧が作られた想いを感じ取りながら感謝する。
「この鎧は激流だろうと滝だろうと泳ぐことができる。こいつのおかげで激流の中も動けた」
「そんな便利な物、どうして最初から使わなかったんだ?」
「こいつは勇者を想って作られた鎧だ。俺に着る資格なんて無い。着る直前まで使うことなんて考えられなかったし、使う気も無かったが」
『忘れないで、あなたにはあなたの守るべき人がいることを。あなたは私の……私たちの仲間なのだから』
その言葉で使うことを決め、力を借りることにした。キリトはそれを聞き、苦笑する中で安心する。
「それより、この後が大変だ」
「大変?」
そう思っている時、視線を船に向けると、大声を上げている仲間たちの他に、ゾーラ族の娘が大きく手を振る。
「クラインの気持ちが分かるかも………」
「ギターの弾き方は教えてやるよ」
そう苦笑し合い、彼らは崩れていく幽霊船を見ながら、大慌てで船の仲間たちにそれを伝えた。
◇◆◇◆◇
キリトの方は元々引けたのか知らないが、バンドは問題なくできるため、ゾーラキリトとして人気バンド、ダル・ブルーの手伝いに出ている。
港町は祭りの前夜祭と言わんばかりに大盛り上がりであり、アスナたちは町を見に出向いている中、俺だけがここにいた。
「………インパ」
「なりません姫様」
ゼルダはいまだ、俺たちと協力してスタルキッド、引いてはムジュラの仮面の事件を解決したいと思う中、護衛のインパの説得に時間をかける。
いまだけはゼルダとしてのドレスを着こむ彼女だが、中身は変わっていない。他人に全てを押し付ける気は無い、おてんば姫だ―――
「いまなにか考えましたかテイル?」
「イエナニモ」
椅子に座り、振り返りながら睨むゼルダ。目の前に立つインパはため息を吐き腕を組む。
「姫様、あなたの気持ちは分かります。この事件には少々謎が多いです。ですが、マリン様を巻きこんだ時点、これ以上彼女に影武者を任せるつもりですか?」
「それは」
「………はあ、わかりました。マリン様が攫われたのはわたくしどもにも責任があります。ですが気になる点があります」
「気になるとは」
腰に下げている剣に手を振れて俺を見るインパ。
「わたくしはまだ、彼のことについて何一つわかっていません。彼の腕を見せてはくれませんか?」
どうしてこうなるんだろうね………
◇◆◇◆◇
インパが納得するまで試合をしたテイル。いまは祭りの光から離れ、ゼルダが泊まる屋敷から見守っていた。
バルコニーから見える港町は坂の上に立つ屋敷から見れば、光の海と言わんばかりに明かりが灯り、賑やかな音楽が流れて来る。
「こんな祭り日和に、ここにいていいのかマリン?」
そう独り言を言うと、扉の奥から物音が聞こえ、しばらくしたら開く。
「えへへ。まあ攫われた身だから、少しお休みもらったんだ」
そう言い現れるマリン。少しだけオシャレをしていているが、島にいた頃の服装と変わらない服を着こむ。
テイルの隣に立ち、同じように町を見下ろす。
「テイルこそ久しぶり。助けてくれてありがとう」
「別に構わない。俺は俺にできることをしただけだし、最後に助けてくれたのは、未来か異世界の勇者の仲間のおかげだ」
そう言い、ゾーラの姫君を思い出し、感謝の念を抱く中、マリンはその顔を見て微笑む。
「それでも、テイルが選んで、決めたことで助かったんだから、テイルのおかげだよ」
「俺は勇者なんていうものじゃないんだが」
そう苦笑する中、マリンもまた苦笑する。
「うんそうだね。君はどちらかと言えば、物語で出て来る騎士とかかも」
「そうか?」
「うん。そんな感じ」
そう笑い合いながら会話する中、しばらくしたらテイルは沈黙する。
「………町から避難する気は無いのか?」
「無いよ。カーニバルで歌わないといけないし、それに、あなたたちが助けてくれるんだもん。きっと大丈夫」
そう優しく言う彼女に対して、テイルは複雑な顔をする。
それに微笑みながら、マリンは夜の空気を胸いっぱいに吸う。
謳われるは目覚めの歌。優しい子守歌のように奏でられる歌に、耳を傾ける。
(俺は俺にできることをするだけ)
やらなければいけないことが増えた。そう考えながら町を見守る。
自分の記憶には無い町。そこは現実にここにあると言わんばかりに、人の活気と熱を持つ、実在する町。
記憶の中のゲームでも何でもない街並みを見ながら、テイルは決意する。
(やるべきことを成せ)
そう思う時、視界がズレた。
「?」
急になんだろうと思う中、歌が途切れ、マリンが心配そうに見つめる。
「なんでもない。疲れただけだろう」
「本当?」
「ああ、もう寝ることにするよ」
そう話し合い、彼は屋敷へと戻っていく。
◇◆◇◆◇
手負いと言われた偽物が廊下を歩く。姫君が与えた薬によって、火傷の跡も無くなり、腕は元通りに治る。
傷は癒え、十全に戦えるよう体調を整え、最後の場所へ思いをはせていた。
だが本当に………本当に彼は傷は癒えただろうか……?
廊下を歩く彼に誰も気づかず、本人も気づかず血は流れる。
心に撃たれた黒い矢が窓ガラスに映る中、彼は明日へと向かって歩いていた………
次回谷を終え町に戻ります。テイルがどうなるか。
お読みいただきありがとうございます。