どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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 設定では五分しか生きられず、ドロドロに溶けてしまうとのことですが『願い』の影響で学校を卒業するまで、もしくは退学するまでは生存可能。



願いは叶えられた。

 春の入学式、高度教育高等学校にバスで向かう者、電車で向かう者、徒歩で向かう者も居る中でそれは宛ら妖怪のように海の()から現れた。濡れた黒髪がべったりと顔面に張り付いて目を隠しており、徐々に現れる肉体は細身ではあるが適切に鍛えられた筋肉でできていた。

 

 人工島に施設された校舎並びに生活施設の端にある堀に手を掛けて上がってくる一糸纏わぬ姿は通報必死であるが、幸いにも見咎める者(・・・・・)は誰も居らず上がりきり地面に足を付いた瞬間に声をかけられた。

 

「ようこそ牛井嬰児(うしいえいじ)

 

 シルクハットを被った老人、十二大戦の審判役ドゥデキャプルが慇懃無礼に頭を下げ、タオルと下着、制服を差し出した。

 

 無言のまま身体を拭き着衣を済ませると嬰児は若干濡れている髪をかき上げて醜くも整ってもいない顔と黒い目が表れ口を開いた。

 

「……まあ一応、別の牛から生まれたとは言え、あの天才の名を使うのは正直恐れ多いぞ」

 

「それは失礼しました。しかしもう戸籍も用意しておりますので」

 

「手遅れって訳ね」

 

「理解が早くて助かります。それでは貴方様は1-Dに配属で教室はあちらになります」

 

 紳士風にお辞儀をしながら腕を伸ばして方向を指し嬰児は歩き出す。

 

「ああ、分かっているとは思いますがこの学校のルール及びこの国の法律に違反した場合はどんな些細なことであっても問答無用で退学になりますのでご注意を」

 

 嬰児は足を止めて向き直る。

 

「その方がそちら側には好都合じゃないのか?こんなことするのなんて所詮は体裁の為なんだし…………なんなら今から罪を犯そうか?」

 

 殺意を込め構えようとするもドゥデキャプルは煙のように消えた。

 

 なんとも不毛で実りのないと嘆息しながら嬰児は改めて教室に向うのだった。

 

 ***

 

 俺、僕、私……一人称はどうしようと考えながら指定された教室1-Dに向う。そして扉を開けるが誰も居ない。実はもう入学式で置いていかれたのかと考えていると廊下からうじゃうじゃと人の気配がやって来た。

 

 つまり一番乗りなのか。机にあるネームプレートから自分の席を探すと廊下際の一番前、要するに今目の前の席がそうだ…………出直そうかな。

 

 と考える間もなく気配は直ぐそこまで来ていたので嘆息しながら席に着く。

 

 案の定、入ってきたクラスメイトたちはまず初めに俺を見て来た。あ、一人称が確定した。

 

 無視する者、適当な挨拶だけする者が殆どだが柄の悪い赤い短髪からメンチを切られ、目を逸らすと不機嫌な顔のままスルーしていき、逆に爽やかな感じの男女二人には満面の笑みで挨拶された。

 

 ホント、色んな人が居るんだなぁ。しかし折りしも……かどうかは分からないがいきなりクラスメイトのほぼ全てを見れた。これで『子』の戦士の能力があれば一人ひとりに声を掛けられるんだけど、生憎とそれは受け継いでいない。大戦が始まる前に既に死んでいたからなぁ……『子』から受け継いだのはチーズが好きと言う好みだけ、ああ、ホントに惜しい。

 

 見た限りかなり容姿のいい女子ばかりだし手当たり次第に声をかければ一人くらいは当たりが見つかったかもしれないし、さっきの赤髪にしても不遜な態度で爪を研いでいる金髪くんにしても聴くだけ聴いて分岐を消滅させれば今後の学校生活を円満に出来るかもしれないのに。

 

 などと無いモノねだりの妄想に没頭していたら、いつの間にか担任と思われる女教師が壇上に立っていた。

 タイトスーツを何とも色っぽく着込み目つきは悪いものの整った顔に長い黒髪をポニーテールにし如何にも規律を重んじるといった印象を抱かせる。

 

 ただ、それだけの印象だ。勘の類ではあるが監視役ではなさそうだ。

 

「えー新入生諸君、私はDクラスを担当する茶柱佐枝だ」

 

 と自己紹介からはじまり担当教科やクラス替えが無いこと、この学校だけのローカルルールの説明に入った。

 

 外部への接触禁止など俺には関係ない部分は聞き流していたが、学生証をかねたSシステムと言う現金代わりのポイント端末には耳を疑った。学校の敷地内とは言えひと月に10万もの金額をくれるとは……もしかしてこの学校自体、過去の大戦の優勝者が願った結果なのか?進学率、就職率100%もそれなら分かる気がする……俺がここに居るのも込みで。

 

 そんなこんなで説明も終わり茶柱先生が出て行くと教室がざわつく、俺も俺で有意義な学生生活を思い描きながら端末を眺めていると、

 

「皆、少しいいかな。僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから自発的に自己紹介をして――――」

 

「あー、だったらいいかな」

 

 笑顔で挨拶をしてくれた爽やか男子の言葉を遮って席を立つとクラスみんなの注目を一斉に浴びた。

 

「俺の名は牛井嬰児。俺は苗字で呼ばれるのが好きじゃなくてな。出来れば俺の事は名前で呼んで欲しい……それに抵抗があるなら適当なあだ名でも結構だが『丑』が付くのだけは勘弁して欲しい」

 

 言いたい事を言い切った後で一瞬沈黙が起きるが、茶髪ポニーテールのギャル風女子が声を上げる。

 

「ええー、自分の苗字が嫌ってちょっと変」

 

「そうだね。そこまで可笑しな苗字じゃないのに」

 

「何か訳あり?ってか今からカミングアウトとか?」

 

 似たような気質の女子たちが続いて嫌な意味で面白がられそうな雰囲気に流れそうだが……さて、どうしようか。

 

「別にいいだろう」

 

 助け舟を出してくれたのは爽やかくんではなく、眼鏡を掛けたいかにも真面目そうな男子だった。

 

「人にはそれぞれ事情があるんだ。無理に聞き出すなんて悪趣味だ。

 それとついでだから言う。俺は幸村輝彦と言うが俺は嬰児とは違い名前で呼ばれることが嫌いだ。だから俺の事は幸村と苗字で通してもらいたい」

 

 幸村が黙り俺への追求はなくなりそうだが、嫌な空気が漂い始めた。もうちょっとタイミングを計るべきだったかな……こんな時、『子』の能力があれば――――。

 

「うん、分かった。確かに本人が嫌がるのを無理に聞くのは良くない。

 ちなみに僕の名前は平田洋介。中学では普通に名前で呼ばれてたから嬰児くん同様に洋介って呼んでくれて構わない」

 

 そもそも言いだしっぺである爽やかくんこと平田が絶妙に場の空気を引き戻し、それを皮切りにクラスでは自己紹介が始まった。

 

 取り留めてインパクトが強かったのは爽やか女子こと櫛田桔梗の、

 

「ここにいる全員と仲良くなりたいです。自己紹介が終わったら是非私と連絡先を交換してください」

 

 で、赤髪は不機嫌な態度で名乗らずに教室を出て行き、不遜な態度の金髪は、

 

「私は高円寺六介。いずれこの日本を背負って立つ男だ」

 

 だった。まぁ何はともあれ良かった、良かった。幸村と平田には後で礼を言っておこう。

 

 

 ***

 

 

 その後、特に語ることも無く入学式は終わりその日は解散。

 

 俺はそのまま寮に直帰した。

 

 与えられた部屋は最低限の家具が揃っており水も問題なく出る。しかし、こと俺に関してプライバシーが護られる道理など通じるはずも無い。教室や廊下、敷地内のいたる所にある監視カメラからしてこの部屋にもある可能性は大だ。

 

 目耳鼻全てを使って隈なく探したがカメラはおろか盗聴器の類もなかった。

 

 考えすぎだったか。

 

 国家もとい十二大戦を運営する者たち力は侮れないが、この学校を出たら直ぐに消える俺如きにそんな労力は無駄とか?

 

 しかしそうなると通る場所、居る場所にあったあのカメラはなんだったんだ。もしかして俺は早速間違えたのか?十二大戦なんか関係ない事情があるのか?確かめる必要ありか。

 

 ベランダに出てまだ明るい空を見上げると鳥が群れを成して飛んでいた。一先ずは運が味方したかな。

 

『鵜の目、鷹の目』で鳥と同調。敷地内に散らせてまずは手当たり次第に場所の情報を送らせる。

 

 敷地内の至る所、異様な数の監視カメラのように思えたが……よくよく見ると死角とも呼べる場所もそれなりにある。

 

 しかも明らかに不自然な形で。

 

 モールの方に意識を向けてみると豪く意気消沈としている者たちと陽気な者たちがかなり目に付いた。

 

 なんとも甘い学校だと思っていたが認識を改める必要がありそうだな。

 

 おや、なんだかコンビニで赤髪が揉めているようだ……見た感じ相当しょうもない事で…………ホントに高校生か、コイツ?

 

 いっそ〝お友達〟にしてしまった方がいいんじゃないか。まぁ殺人罪で即退学、俺の命も終わりだからやれない。

 

 ああ、面倒臭いぞ。三年しかないんだから平穏無事に過ごせぬもんかなぁ…………!!?

 

 そんなこんなで敷地内を流し見していたら杖を着いた一人の少女が目に留まった。

 

 小柄で可憐な顔立ち、銀髪のショートカットにベレー帽。目を『魚』式に切り替えるとどうやら怪我による障害でなく先天性の病気のようだ。それにしても、なんだろうこの気持ちは?

 

 ああ是非お近づきになりたい。

 

 よしならば膳は急げだ。しかしこんなことなら帰る前に服ぐらい買っとけばよかったなぁ。

 

 まぁ、今日はみんな似たようなものだろうし別にいいか。

 

 

 

 

 件の彼女の元へは割りと早く辿り着いたが………………さて、なんと声を掛けたものか?

 

 って言うか美少女をジッと見続ける俺って見るやつが見たらまんま変質者だな。

 

…。

 何か話題、話題、あの娘……じゃなくてもこの際いいから、興味を持たれる話題を…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も浮かばないまま目当ての娘はどんどん行ってしまう--どうしようかと考えてたら、後ろの方から別の気配がして、

 

「なにかお困りですか?」

 

 白いロングヘアを腰までなびかせた、おとなしそうな印象の女子が声をかけられた。

 

 目当ての銀髪の娘から意識を切らないまま振り返る--心配そうに……それとも怪訝そうに俺の顔を見ている。

 

 さっきまで視線の先には無防備な女子が居たからな……やっぱ傍から見れば怪しいよな。

 

 ただずっと口ごもってたら、本当に誤解されかねない。

 

 俺もだが、銀髪の娘もしっかりと視界に入れてる--このままだとあの娘にまで警戒されてしまう。

 

 

「ああ、いや…………その『どんな願いでもひとつだけ叶えられる』としたら、何を願う?」

 

 咄嗟にそんな言葉が出てきてしまった。

 

「え、なんでもですか?」

 

「そう、何でも」

 

 問われた女子はますます怪訝な顔をしながら聞き返し、俺は反射的に答えると目線を上に向けて「う~ん」と少し唸りながら、

 

「そうですね。私なら絶版になってしまった小説の続きが読みたいですね」

 

「へぇ~、本好きなんだ」

 

「はい。とっても」

 

 満面の笑みでの即答――このまま話を切り上げてさっきの女の子にと思ったのだが――

 

「ちなみにSFとかではこの手の話はお話には、悪質な裏や落とし穴があったりするのが定番(セオリー)なんですけど……そう言う小説とかのお話ですか?」

 

 思いのほか食い付かれてしまった――適当に濁しても良かったが、何故だか言っておかなければならないという情動が込み上げてきて、

 

「この『願い』は全てが終わった後の報酬であり、支払う側も払うだけの意義があり、受け取る側も願いによって生じるリスクや責任を全うできる実力者であり、もし負い切れなかったとしてもキチンと処理する仕組みが備わっている……と言うか、自身に負い切れない責任とか以前にそこに思慮が行き届かない奴なんざ、権利とか資格以前の話、論外の更に外だ」

 

 と偉く饒舌に一気にまくし立ててしまった。

 

「ははぁ~~、なるほど」

 

 白髪ロングの少女は感心したように聞き入っており――そしていつの間にか目当ての杖を突いた銀髪ショートにベレー帽の少女も声の届く範囲に来ていた。

 

 なんだろう凄くばつが悪い。

 

「まぁそういう奴が願いについて苦悩する『お話』について、俺ならどうするかなとか考えてたんだ。仮に願いを百個に増やすのも有りだけど、人の欲望が百で終わるとも思えないし、小さな自己満足で済ますのがベターかなって」

 

 上手く誤魔化せたか自信がなく相手の顔をうかがうと、

 

「……私の願いは譲れませんが、その『お話』の人がどう思うか中々、気になりますね」

 

 面白そうに興味深そうな顔をしていた――視界の端にいる目当ての少女も顎に指を当てて何かしら考え込んでいるようだ。声をかけたいが目の前の少女をほっぽり出す無礼を第一印象にするのは避けたい。

 

「ああ――出来ればもう少しその『お話』について聞きたいですが、それはまたの機会にした方が良さそうですね。

 自己紹介が遅れましたね。私は1-C、椎名ひよりです。」

 

 躊躇していたのを読み取ったのか椎名の方から切り上げを申しだされてしまった……ちょっと格好悪いな――とか思っていたら目当ての少女は既に歩き出して遠くに行こうとしていた。

 

「俺は牛井嬰児、1-Dだ。

 初対面で変に思うだろうが、俺のことは牛井と苗字では呼ばないて貰いたい」

 

「ええ、構いません。では今度はゆっくり出来る時に『お話』を聞かせてください」

 

 軽く挨拶して椎名も去っていく。

 

 杖を付いている分、目当ての少女はまだすぐ近くにいるが、どう声をかけようか余計に分からなくなってしまった…………どうしよう?せめて名前だけでも知りたいんだが――

 

 とか考えている間にどんどん離れて行ってしまう――――仕方ない日を改めよう。

 

 なんだか喉も乾いたし、気の利いた話をできそうにもなさそうだしな。

 

 すぐ近くの自販機でミネラルウォーターを買って一気飲みすると、ふと道の反対側の先にあるごみ箱が目に入った。

 

「………………」

 

 特に意味があるわけもなく俺は飲み干したペットボトルを投げ、それはごみ箱に向かってキレイな放物線を描きながら入った。

 

 うん、身体機能に不備はなさそうだ。今日生まれたてのほやほやであるが心配はない――それが確かめられたし、何も初日からあれこれする必要はない。

 

 時間が欲しいと思うほど窮している訳じゃない、また明日にしよう。

 

 

 ***

 

 

 嬰児が情けない言い訳で自分を収めて帰っていくのをケヤキモールの職員は眺めていた。

 

 その場にいたのはただの偶然であり、本来は台車にある荷物を届ける途中に嬰児の仕草が目に入り足を止めた。

 

 そこまで長い距離があるわけではないが、見た目ほど簡単じゃないコントロールが要求されそうなことを簡単にやってのけた。

 

(今年の新入生もまた面白そうだな)

 

 と益体のないことを思ったが直ぐに仕事の途中だと急いで届け先の店舗に向かったが、慌てたのがいけなかったのか危うく一般生徒とぶつかりそうになってしまった。

 

 幸い相手は気にしていないと言ってくれたが迷惑をかけてしまったと謝罪し心中で反省しながら仕事に戻っていった。

 

 一方、ぶつかりそうになった生徒である綾小路清隆は止めた足を動かそうとせず、目に入った風に揺れている木々に感じ入っていた。

 

 普通の何気ない光景だが彼にとってはどうにも新鮮であり、

 

(少し遠回りになるが――)

 

 と進路を変えた。

 

 ***

 

(たったひとつの願い‥‥‥私なら――)

 

 杖を付きながら反対側の手で風になびく銀髪ショートを抑えながら彼女、坂柳有栖はついさっき耳に挟んだ会話を思い出し、そして連想していた。

 

 約8年前に父親に連れられた白い施設で、彼女がチェスを始める切っ掛けになったガラス越しに見た一人の少年を思い出していた。

 

 彼ともう一度会いたい――出来るならチェスでも何でもいい気が済むまで戦いたいと懐かしい思い出に触発されて気持ちのいい妄想が駆け巡り、彼女の口に心底楽しそうな笑みが浮かぶ。

 

 が、それは一瞬だった。

 

 何故なら――

 

「どうかしたのか?」

 

 彼女の歩は止まり目を丸く見開きながら反対側から歩いてきた綾小路清隆を見ていた。

 

 あまりの展開に流石に唖然としてしまったが、すぐに持ち直して嬉しそうに口を開いた。

 

「お久しぶりです。綾小路清隆くん」

 

「……………」

 

 ただでさえ初対面のはずの相手にすれ違いざまに不可解な顔をされ、更にはいきなり名乗ってもいないのに名前を言われ今度は綾小路が唖然とした。

 

 そして、直ぐに記憶を思い出そうとするが全く見たこのない少女に困惑を隠せない。

 

「ふふ、無理もありません。あなたは私を知りません。

 私だけが一方的に知っているだけ、なので名乗ります」

 

 綾小路の正面に立ち真っ直ぐに顔と目を合わせる。

 

「私の名前は坂柳有栖と申します」

 




氏名 牛井嬰児(うしいえいじ)

クラス 1-D
部活動 無所属
誕生日 12月12日(戸籍上)

学力 -
知性 -
判断力 -
身体能力 -
協調性 -

・・・コメント
 本校初、母体である政府による直接の推薦で入学が決まった生徒。その為、試験も面接も免除。一切の情報開示が禁止されており真っ当な判断基準がないためDクラスへの配属とする。

 担任メモ
 
 ―――公式記録を残すことを禁じられているので特例として不問。尚、上記の記述も本校を去った後に消去する事は確定である――― 

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