どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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自分が・・・

 ケヤキモールを歩く綾小路と佐倉は周囲からの視線にさらされながら目的地に向かっていた。

 

 見られている原因は間違いなく綾小路にあるものの一緒居る佐倉にも少なくない好奇はあった。

 

 綾小路は全く気にしない振りをしながらも周囲への警戒を怠らず自分を見ている野次馬の中に嫉妬や殺意(・・)を持つ者がいないかを見定めていた。

 

 しかし下世話な好奇や僻みを向けてくるが殺意と呼ぶほどの嫉妬心はどうにも感じない。

 

(嬰児の言っていた最悪を念頭に見てみたがどうにもしっくり来ないな……一番いいのが考えすぎだが)

 

 楽観的思考に流れてしまいそうになるが、そう言う訳にもいかない。

 

 何故なら隣にいる佐倉もそんな視線にさらされ、いつも以上に縮こまっているがそれには恥ずかしさだけじゃなく、どうにも何かを誰かを恐れている様子が見て取れる。

 

 元来、気が小さくて引っ込み思案であり人目のあるところが苦手だとしてもただ歩いているだけでここまで怯えるのは普通ではありえない。

 

(明らかに昨日以上に怖がっている。思い過ごしである線は消えたか)

 

 ならば問題がどの程度のものなのか、深刻具合を確かめる段階に移そうと考えていたら目的地であるアクセサリーショップに着いた。

 

 見るからにファンシーな外見と店外にも商品が並んでおり、男――とくに綾小路一人では敷居が高くて二の足を踏んでいただろう。

 

(ま、一番の問題は予算なんだが……)

 

 ポイントが入るのは七月であり今の手持ちは出来うる限り節約したいから余り高い買い物はしたくないが、より佐倉を安心させて被害状況を聞き出すためにはケチな所を見せるのは得策ではない。

 

 こうなるとやはり嬰児に必要経費だとせびるのも有りだったと思うが、櫛田同様に能力でポイントを補充されるのも先々を考えるとリスクが高い。

 

 よって一番無難な方法を取るしかなかった。

 

「佐倉……言い出しといてなんだが、あんまり高い物は無理だから――――」

 

「あ、うん――その辺りは私もよく分かるから大丈夫」

 

 同じDクラスであり懐事情はある程度は共通している。

 

 実際問題、佐倉もかなりの倹約を余儀なくされているのだ。

 いくら大事な娘(おさななじみ)へのプレゼントだからと言って、そこまで見栄を張って更なる極貧生活なんて送りたくない世知辛い事情も十二分に理解できた。

 

 佐倉にフォローされるもどうにも格好がつかない事情に綾小路も恥による照れが表層に出てしまい頬をかく。

 

 そんな仕草に苦笑しながら二人は店に入って行った。

 

 外観同様にファンシーな店の模様に佐倉は若干目を輝かせ、綾小路は物珍しそうにあちこちを見渡した。

 

 オシャレなカバンやリボン、傘などが並びカップや文房具と言った物も可愛らしくアレンジされており、学生向けの安物ではあるがネックレスや指輪の類も豊富にあった。

 

(マジな話、オレじゃホントにどれを選んでいいか分からないな…………)

 

 色々と目移りしながら素直にそう思っていると佐倉はかつら付きのマネキンに飾られているリボン付きのカチューシャに目が行っていた。

 

「佐倉はこういうのを貰ったら嬉しいか?」

 

「え……あ……ご、ごめんなさい。私じゃなくて坂柳さんだったのに」

 

「いや、まずは佐倉が良いと思うものを選んでくれたなら、オレも楽だから遠慮しなくていいぞ」

 

 店に来た目的を忘れてしまい佐倉は申し訳なさそうに謝ってくるが、綾小路は気にした風でもなく今度は自分がとフォローを入れる。

 

「ポイントが入ったらお礼もかねて佐倉にも――――」

 

「綾小路くん!それは流石に不味いから絶対に遠慮する!」

 

 だが話があらぬ方向に行きそうになって珍しく大きな声で綾小路の申し出を拒絶した。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 直ぐに我に返り目を丸くしている綾小路や他の客や店員の注目を受けて、いつも通りに戻った。

 

「いや、オレの方こそ配慮したつもりだったが考えが足りなかった」

 

(この気迫をストーカーにもと思ったが――それで逆上でもされた日には取返しなつかない事態もありえるし…………)

 

 そう単純に事態が解決できない要因にドツボに嵌りそうになってしまう。

 

 そんな思考を切り替えようと綾小路は陳列している商品を見回すと大きめのツバの白いリボンハットが目に入った。

 

有栖(あいつ)の髪の色とも合いそうだな)

 

 容姿は清純な色がどこまでも似合う娘であり、特に白がよく似合いそうでしっくりくるイメージに帽子と合わせて白いワンピースもセットだと更に良い感じになりそうだと思考がどんどん深まっていく。

 

 しかし綾小路自身がそう思っていても坂柳有栖自身の好みなど全く知らないのでは有難迷惑になりかねない――これでは佐倉を怖がらせているストーカーと変わらないと思考を止める。

 

 そもそもこの買い物は佐倉に被害状況を確かめるための建前であり、そこまで力を入れる必要性は全くない。

 

 だからと言って手を抜いて怪しまれるかも知れないが、目的と手段を間違えては元も子もない。

 

(建前に固執してどうする。目的は佐倉のストーカー問題の解決とそれにより嬰児の機嫌を取ること…………そしてオレの願いを叶えて貰うことだ)

 

 既に嬰児への要求は決まっており、出来るかどうかは別にしても嬰児の異能を測るいい機会でもある。

 

 その為にも依頼は完璧にこなす。

 

 どうにも定まらない思考に改めて目的をハッキリさせる。

 

「佐倉、この帽子どう思う?」

 

 白のリボンハットを手に取って話を振ると佐倉は遠慮がちながらもじっくりと見定めて口を開く。

 

「うん。いいんじゃないかな」

 

「本当か?オレに気を使ってないか?」

 

「ううん。そんなことないよ――私も坂柳さんに似合うと思う」

 

 佐倉のニュアンスは自然な物であり、ひとまず安心を得る。

 

「そうか。なんとなくだからオレの独りよがりだったり、有栖の趣味に合わなくて邪魔になったりしないかと不安があったりしたが、佐倉みたいなセンスのいい娘のお墨付きが得られたなら大丈夫そうだな」

 

 綾小路は本心でありながらも佐倉への過度の期待感を演出して自分のペースに持っていこうとする。

 

「そこまで信頼されても……」

 

 と返されると綾小路は予想しており、そんな佐倉に〝自信を持て〟とフォローする形で繋げて話を弾ませる算段だった――しかし佐倉に満面の笑みで迷うことなく言った。

 

「あはは――綾小路くんがそこまで悩んで選んだんなら坂柳さんもきっと喜んでくれると思うよ」

 

 完全に予想が外れて困惑する綾小路――やはり対人関係、特に女心についてはまだまだだったな――と心の中で自嘲する。

 

「お、おう……そうか。じゃあ、買って来るから待っててくれ」

 

 ペースをつかみ損ねてしまい、帽子を持ってレジに向う。

 

 そんな綾小路の背中を見ながら佐倉の心中では改めて坂柳への羨ましさと憧れが込み上げてくる。

 

 綾小路は坂柳(あいて)が本当に喜んでくれるかを真剣に考えており、自分がそう思うだけでなく彼女が困らないかの配慮もしっかりしているように見えた。

 

(私にもあんな風に想ってくれる人が居たらなぁ)

 

 グラビアアイドル『雫』として人気を獲得し多くのファンを持つもその中には歓迎できない輩も混じっており、正に今の佐倉を悩ませている。

 

 自分にも頼りたい友達や恋人がいたら――また彼女自身もそんな人に頼られ必要だと言われたら、どんなに嬉しいだろうと綾小路と坂柳(ふたり)の関係を思い描きながら憧れが膨らんでいく。

 

 そして、そんな二人を巻き込んではいけないと佐倉は心の中で決意した。

 

 完全に目的とは真逆に進んでいるとも気付かないままで綾小路はレジでの精算を済ませ丁寧に梱包された帽子を持って戻ってきた。

 

「済まない、待たせたな」

 

 二人は店を出て道を歩いていくも用件が済み、このままサヨナラでは何も収穫が得られないので当たり障りのなく話しかける。

 

「ありがとな。買い物付き合ってくれて」

 

「私も役に立てて嬉しいよ。坂柳さんはもっと喜んでくれると思うよ」

 

「ああ――そうだな。

 それじゃあ、お礼に今度は佐倉の方に付き合うが何かあるか?」

 

「そんなこと気にしなくていいから早く行ってあげて」

 

(この僅かな時間に何があったんだ?)

 

 当初の怖がっていたのから一転して嬉しそうな声で返してくる佐倉の姿に綾小路の理解が追い付かない。

 

 そもそも引っ込み思案で目立つことを好まない佐倉愛里。

 

 進学による外部との接触禁止によって活動休止しているが、グラビアアイドル『雫』としての活躍はそんな彼女の唯一の自尊心(プライド)と言えた。

 

 ファンの応援や復帰の要望は励みだったのが、それが今や日常生活を脅かすものになってしまった。

 

 そんな中で初めて美しく綺麗な場面を目に出来たことは佐倉の心にとって堪らなく救いだった。

 

『運命って言葉を信じる?僕は信じるよ。これからはずっと一緒だね』

『いつも一緒にいるよ』

 

 恐怖が始まったブログへの書き込みを思い出す。

 

『今日は一団と可愛かったね』

『目が合ったことに気づいた?僕は気づいたよ』

 

 運命と言う言葉を初めて呪いたくなった。

 

『ほら、やっぱり神様はいたよ』

 

 こんな出会いを仕組んだ神に文句を言いたかった――しかし、たった今の出来事で気持ちが変わった。 

 

『実は有栖とは八年振りに再会した幼馴染なんだ』

 

 教室で聞いた綾小路の台詞を思い出す。

 

 その再会から見ることの出来た一幕と巡り合わせてくれた運命と言う言葉の美しい一面に感動を覚えた。

 

 この美しくも甘美と感じる心は佐倉が運命のおぞましくも苦い一面を知ったからこそ得られた代物だった。

 

『こんな再会、神の思し召しかと思った――――』 

 

 何も知らないままであったなら、古典的なラブコメのような展開だと流したままであったろうし、そもそも綾小路の頼みを引き受けたかも分からない。

 

 この気持ちを知識としてだけでなく確かな実感として知るための道筋であったなら神の意地悪な意思もそこまで悪いものではないと思えた。

 

(だから私の問題に巻き込んじゃダメ――あんな人に関わらせ(けがされ)るなんてイヤ)

 

 美しいと感じた気持ちを守りたい、譲りたくない。

 

 佐倉の中で憧れが使命感へと置き換わり、根拠のない強気と楽観が無自覚なまま増長されていった。

 

「いや……しかし…………」

 

「大丈夫、きっと喜んでくれるって。さぁ、早く」

 

(まずいな……しくじった)

 

 綾小路に焦りが浮かぶ。

 

 ストーカーへの恐怖をゆっくりと緩和させて被害状況を話してもらい、大義名分を片手により堂々と捜査して被害報告を学校に提出して佐倉の安全を確実に確保した上で厳正な処罰を回すように手を回すか、或いは影ながら自らが脅しをかけるかを考えていた。

 

 しかし綾小路の建前に感化された佐倉は自分で決着をつける決意を固めてしまい話を切り込む隙が見当たらない。

 

(このままでは依頼が達成できない……いっそのこと、さっきまでの態度から何か困っていることがと訊いてみるか)

 

 よりストレートにストーカーにあってないかと聞ければいいが、そうなると何故そう思ったのか知っているのかを説明せねばならず、嬰児の異能を口外することもできないし綾小路自身もその理由を全く知らないから結局何も言えない。

 

 言ったところで綾小路の頭が可笑しくなったと思われるのが関の山だろう。

 

(さて……どうするか)

 

「あれー、綾小路くんじゃん」

 

 突然の呼び声に振り向くと緑色の長髪を腰まで伸ばしたスタイル抜群で美人と評判のクラスメイト長谷部波留加がいた。

 

「なになに、幼馴染を差し置いて別の娘とデート?」

 

「ううん、坂柳さんへのプレゼントの買い物だよ。私はただ付き添い」

 

 綾小路が答える前に佐倉が答えた。

 

「へぇ、そうなんだ――プレゼントってことは誕生日とか?」

 

 好奇心丸出しで質問を続ける長谷部に普段の綾小路なら〝違う〟と短く否定して終わらせるのだが――佐倉が食い付き具合からして利用できると感じ丁寧に応じることにした。

 

「いや再会を祝してと、Aクラスのリーダーになろうとしてるようだから激励も兼ねてな」

 

 言いながら佐倉に目配せすると笑顔で小さく肯いた。

 

 何処も彼処も噂になっていて何もなしの手ぶらじゃ足が重いから――と言う佐倉を誘う口実を鵜呑みにしているのは間違いなさそうなので、この際だからこのまま話題を広げて目的と切り替えようとしたが―――

 

「それはちょっと聞き捨てならないぞ」

 

 新たな声に顔を向けると同じクラスの幸村輝彦がいつも以上に目を鋭くさせて近づいて来た。

 

「いつから居たんだ?」

 

「偶々通りかかっただけだ――いや、そんなことはいい」

 

 不本意な形で目論見を阻害された綾小路が煩わしそうに尋ねて歓迎できないと言外にアピールしているのも構わずに幸村は疑惑と憤怒の目を向けてくる。

 

「幼馴染は別にいいが、倒さなきゃならない最大の敵(Aクラス)のリーダーへの激励とはどういう了見だ?

 堀北とも裏切らないと誓ったのをいきなり反故にするつもりか?」

 

「有栖とはちゃんと戦う――堀北以前に有栖自身とそう約束したからな。

 だからと言ってそこまで邪険にするつもりはない。

 何よりこの程度のことで何が変わると言うんだ?」

 

「個人の交流に口出しなんかしたくないが、その果てにお前が彼女の為にDクラスを裏切らないと言い切れるか?裏切らないと言ってすぐに敵に激励を送るんじゃ、お前の言うことなんて何も信じられない」

 

 幸村も堀北に劣らずAクラスへ上がることへの拘りが分かり易いほどに示している。

 敵に付入れられる隙が僅かでもあることは許容できないのだろう。

 

(この頭の固さがDクラスの由縁か?)

 

 漠然とした感想を抱きながら――その前にもっと目を向けるべきことがあるだろう――と正論を返そうとする――それが火に油を注ぐ結果になっても話が発展していけば求めている情報(わだい)に繋げる目論見はまだ有効だと。

 

「幸村くん。綾小路くんはやって良い事と悪い事が分からない人じゃないよ」

 

 だがその前に佐倉が庇うように言って、またしてもペースを掴み損ねた。

 

「え、なになに――綾小路くんって堀北さんや嬰児くんと一緒ってイメージだけど佐倉さんとも仲いいの?」

 

 長谷部も便乗して面白そうな目と声で話に入ってくる。

 

「さっきも言ったが俺は個人の交流に口を出す気はない。でも自クラスじゃないのは――――――」

 

「そんなにオレと有栖の交友が気になるならお前()も一緒に来ればいいじゃないか」

 

 言い募ろうとする幸村だが、綾小路の提案に今度は皆が揃って顔を向けてきた。

 

「オレは別にやましいことをしようしてる訳じゃない。

 ここであれこれ言い合いするよりも直接見て聞いた方が手っ取り早いだろ」

 

 益体のない会話を続けるのは目的のあるなしに関係なく不本意であり、打ち切る意味でもまた本来の目的が流れそうになったのを再び手繰り寄せる意味を込めて言った。

 

「百聞は一見に如かずか……いいだろう、確かにその方が建設的だ」

 

 綾小路の言に納得した幸村は了承する。

 

「えー、私たちも行っていいの――ならお言葉に甘えようかな~」

 

 長谷部も面白そうに話を受けた。

 

「けど……折角のプレゼントなのに私たちが居ちゃ…………」

 

 佐倉は歯切れが悪く、いつも通りに縮こまってしまうが――

 

「いいじゃん。本人が良いって言ってるんだし――それに佐倉さんだって買い物に付き合った手前、気にはなるでしょ」

 

「え~、あ~、うん」

 

 長谷部が押し切るような形で頷いた。

 

「よし決まり!あ、それでもう一人誘いんだけど、いいかな?」

 

「ああ、別に構わないがあんまり大人数はよしてくれよ」

 

「問題無し。一人だけだし同じクラスだから幸村くんの心配するようなことも無し」

 

 了承を得た長谷部は端末を取り出してメールを送る。

 

「よし――部活が終わったら来るって。それまで待ってて欲しいんだけど」

 

「急ぐ訳じゃないから構わないぞ」

 

「ふん。注文の多い女だ」

 

「それじゃ、来るまでどっかで時間潰そっか」

 

 終始楽しそうな長谷部はどこか適当なカフェでもないかと足を進める。

 幸村は悪態をつきながらも佐倉は無言なれども決して嫌そうでもなく続いていった。

 一緒に歩きながら綾小路はひとまず安堵し、どうにか目的を果たせそうだと心の中で気を引き締めた。

 

 

 ***

 

 晴れ渡る青空を眺めながら俺は何をするでもなく道端のベンチに座っていた。

 

 昨日訊いた龍園とやらのことをどうしようか――ひと晩ずっと考えたことがまだ脳内でぐるぐると回っている。

 

 堀北や綾小路に伝えて出方を見るのも一興ではあるが、それは今でなくてもいい気もする。

 

 だからと言ってちょっかいを掛けて来るまで放って置くことはしたくない。

 

 いっそのこと俺自身が正面から挨拶に行くかとも思ったが、クラス争いなんてどうでもいいのに一時の感情で動き、目を付けられるのはやっぱり嫌だ。

 

 さてそうなると伝えるべき相手は絞られる――Cクラスの位置関係からしてDクラスと同じく共通の敵と言えるBクラスのリーダー格である一之瀬帆波だ。

 

 だが綾小路のお陰で堂々と会いに行くのは邪推を助長させかねない。

 

 この原因である綾小路に責任を取らせようにも今は別の依頼の最中であり、比べるまでもなくそっちの方がより重くて急を要すから詰まらない茶々は入れられない。

 

 ああ、なんでこんなタイミングで、せめて事が解決した後かもっと早くに聴いていれば…………いや椎名が俺に話をしようと決めたのが今の依頼をした際の騒動なのだから無理な相談か。

 

 お、あれこれ考えてる間に一之瀬が来たか。

 

 『鵜の目鷹の目』は餌代も切り詰めないといけないし『天の抑留』で視認した方が確実だったが、この晴天じゃあ出来ないから『地の善導』で一之瀬の歩くテンポを探し出して出来るだけ自然な接触を装うように先回りした…………図書館での僅かな時間での記憶は朧気だったので本当に苦労したな。

 

「おやおや、なんとも不景気な顔してるねぇ」

 

 ああ、ついこの前も同じことを言われたな……俺って他に言われようがないような顔してんのか?

 

「実際に不景気なことを考えてたからな――出来るなら話を聞いて欲しいんだが?」

 

「うん、いいよ」

 

 嫌な顔ひとつせずに即答か……予想通りだな。

 

 笑顔のままに俺の隣に腰を下ろして優しい顔としか表せない表情で訊いてきた。

 

「それで何があったの?」

 

 それに俺は少し真剣さを添えて目を合わせる。

 

「………………」

 

 瞬間に一之瀬は一気に緊張した顔になり息を呑んだ。

 

 ああ、それでいい。これからするのはBクラスのリーダーとの会話だからな。

 

「結論を先に言う――Cクラスが遠くない内に仕掛けて来る。狙うのがDクラス(こっち)Bクラス(そっち)は分からないが」

 

「へぇ――それはわざわざありがとう。

 それで、動き出す前に一緒に倒しちゃおうってこと?」

 

 一之瀬の纏う空気がより一層重くなり、こちらの真意を見定めようとしてきた。

 

 そして出てきた推測は順当ではあるが本人はどうにも乗り気じゃないニュアンスだった。

 自分たちから手を出すようなことはしたくないか――これが『申』並みの実力を有しているなら実に正しいが、そうでないのなら甘いと言わざるえない。

 

 さて一之瀬帆波の場合はどっちかな?

 

 

「いいや、逆だ。Dクラスが何かされても手を差し伸べず、協力を求められても拒否して欲しい」

 

「にゃはははは――それはまた随分とドライだね。余計なことはするなってこと?」

 

 まぁ半分はその通りだ。近い内に綾小路と堀北あたりにも話してどう対応するかを見るためには外側からの干渉は邪魔だ。

 

 そしてもう半分は――――

 

「――――仕掛けて来るって言っても小手調べか挨拶程度だろうからな。それしきの事態、自分たちで乗り越えられなきゃ先行きが悪すぎる」

 

「う~ん。正しいかも知れないけど……今のDクラスじゃ、それかなりの難題じゃないの?」

 

 おお、ズバリと言ってくれる。

 

 底辺の不良品クラスってレッテルを鵜呑みにする差別的思想とは無縁に見えるが、それを差し引いても敵と呼べない……寧ろ助けなきゃいけないとか同情から来てそうだな。

 

「それに何だか同じDクラスよりも敵であるCクラスの方を信じてる風に見えるけど」

 

 さらにはクラスを裏切るのかと糾弾するような目で見てきた……中らずと雖も遠からずではあるからここは丁寧にいかないとな。

 

「実は昨日、Cクラスの親切な知り合いに教えて貰ってな。

 龍園って中々のやり手がリーダーに名乗りを上げてるんだと、方法は強引で褒められたものじゃないらしいから、お前と対極な奴とのことだ」

 

「人から聞いただけなのに随分と確信めいて言うね」

 

「そこそこの才気を感じさせる娘だったからね――そいつが認めてるならとりあえず(・・・・・)は信じてみようかなってな」

 

「へぇー、とりあえずね…………その知り合いのことも信じてるって訳じゃないんだ」

 

「信じたいとは思ってるよ」

 

 偽りなく本心を言ったが、それでも一之瀬にはお気に召さないみたいで表情から笑みが完全に消えてしまった。

 

「教えてくれことを確かめる為だけにクラスメイトを見捨てるのも有りだって言うんなら、あまり好きになれないな」

 

 ジト目で俺を見て来るが軽蔑や怒りは感じられない。

 

 平田同様に人間をモルモット扱いするのは間違っていると訴えているのは伝わってくるが……

 

「……別に俺が言ったからどうしろとは言わん。ただ自分(・・)の為に俺を利用してくれればいい」

 

「へぇ~、Bクラス(わたしたち)の為じゃなくて()の為だけに、もしかして私、挑発……ううん、試させてるのかな?」

 

「さてね。どう解釈する(ききたい)かは一之瀬の自由だ」

 

 実際の所、俺の頼みなんか無視してDクラスを助けるのも先んじて一緒にCクラスを攻めようと話を持っていっても全然構わない。

 

 それでも仕掛けるのが気乗りしないなら何らかの備えをしておくだけでも別にいいさ。

 

 何も知らないままCクラスに良いようにされたりせず、その過程で俺を使おうとしてくれば綾小路の気も多少はそれてくれるだろう。

 

「そう。ならひとまず話は持ち帰ることにする。どうするかは私たち(・・・)で決めるから、じゃ」

 

 立ち上がり去っていく一之瀬――どうせだったら情報の対価に誕生日でも訊いとけばよかったかな。

 

 まぁ、なんにせよお膳立てするべき相手はまだ居る、伝えるべき時が来るまで待つか。

 

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