どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
(――――なんでこうなったんだ?)
綾小路は日暮れ前の空を眺めながら思った。
放課後のカフェ、外のテラスでクラスメイト達とお茶を飲みながら呑気に会話する――綾小路が当初求めた普通の学生生活の中でも上位にあるのに余り楽しいとは感じられない。
はっきり言って晒し物にされている気分だった。
「それでさ、綾小路くんと坂柳さんって、いつ再会したの?」
向かいに座っている長谷部が興味津々で問いかけて来る。
長谷部の隣にいる佐倉も遠慮がちに綾小路の隣の幸村も興味ないと言う態度を取りながらも気になるようでチラチラと目線を向けて来る。
「入学したその日の夕方だ……ちょうど今ぐらいの時間かな」
「うわ~、正に運命って感じ!」
「うん。私もそう思う――神様っているんだなぁ」
長谷部に同調するように乙女心全開で佐倉も会話に入ってくる。
普段や最初に話した時とは打って変わった姿は何もなかったなら良い傾向だろうが、現時点では無視できない問題があるため素直にそう思えない。
「あー、神だの信仰だのを否定しないが、物事をあまり美化して考えるのはどうかと思うぞ」
そこに幸村が如何にもな調子で茶々を入れる。
「幸村くん――それで幸せ?」
「神様を信じないの?」
「嬰児の真似つもりか……全然似てないし、似合わないぞ」
女子二人は嫌な顔ひとつせずに返し、呆れたように指摘するも幸村は幸村で今の会話は不快ではないようだ。
それは皆の共通認識になったようで長谷部を進行役にして話は和やかに進んでいく。
「ハハハハハ――意外に乗り良いよねぇ。
でもキョーちゃんがこの手のことに否定的なのも意外だったよね」
「キョーちゃん?」
「桔梗ちゃん――櫛田ちゃんのこと。
綾小路くん、そのことで喧嘩したんでしょ?ハッキリ言って、そんなのとは無縁なイメージだったから」
長谷部に話題を振られ綾小路も話に混ざっていく。
「櫛田は神を信じるよりも
この手の質問もいつされてもいいように答えを練っておいたので淀みなく言った。
実際には櫛田が神に対してどんなイメージを持っているかなど全く知らないが、いつかの夜に吐き出していた愚痴の数々から神を信じるよりも取って代わって自らが信仰されたいとか考えていても不思議ではない。
なんであれ命が掛かっていた極限状態とはいえ、あっさりと
「はぁ~、それはキョーちゃんらしいね。けどそんな意見も有りだろうし、喧嘩するほどなの?やっぱり坂柳さんとのことバラされたのがそんなに嫌だったの?」
長谷部は納得できないと踏み込んでくる。
普段は物静かで誰かと絡むことが殆ど見受けられないが、やはり女子だけに色恋には普遍的に強い興味を持っているようだ。
「まぁな。有栖とのこと当時は本当に覚えてなくてな――もっと時間を掛けて思い出していきたかったのに、それを………………」
言いながら不機嫌を演出するが、透かさず軌道修正が入る。
「いや~、でもキョーちゃんって、そんなにホイホイと他人との内緒話を漏らすようには見えなかったんだけどな」
「ああ、オレもそう思ったから話したんだ。
後から聴いたら気付いた時には嬰児に言わされたそうだが――それでその際に神じゃなくてみんなでって話に持って行って強引に話題をそらそうとしてな――開き直るなとオレも頭に血が上っちまったんだ」
考えていた作り話を終えて思案する。
(嬰児なら神なんて存在が本当にいるかどうかも知っているかな?)
そもそも単に嬰児に合わせただけで綾小路は神が居ても居なくてもどうでもいい。
だが嬰児自身が言った言葉であるなら喰い付いて話が弾むかも知れないと脳内に会話のストックをひとつ追加した。
「へぇ~~。キョーちゃんもやっぱり人間なんだね~」
「ああ、嬰児も言ってた通り、偶には息抜きや気晴らしをしてやった方が絶対に良いだろうな」
いつかのストレスをぶちまけている姿を思い出し、それが櫛田にも周りにとっても最良であり、その果てに表の顔が本心になってくれたなら…………それでもやはり心の中のしこりが取れる気がしないと内心で自嘲する。
「で、綾小路くんにとってのそれは坂柳さんって訳ね」
「そうだな――最初は戸惑ったが今は有栖と会ったり話したりするは少し楽しい」
絶妙に話を元に戻しつつ更に踏み込んでくる長谷部だが、綾小路は慌てることもなく如才なく答えた。
「「「…………………」」」
綾小路の惚気にしか聞こえない台詞に――その似合わないギャップに三者三様に胸が詰まってしまい何も言えない。
そんな中で綾小路は目を閉じながらお冷を口に運んでゆっくりと飲む。
(嬰児に習ってみたが、下手に否定するよりかは効果的だな)
しかし綾小路の目的は冷やかしをかわすことでなく佐倉のストーカーの被害を聞き出して対応することだ。
幸村が何か言いたそうにしているが、その前に主導権を取って今度こそと思ったのだが――――
「お~い!待たせたな」
「ああ、来たね。みやっち」
またしても第三者による横槍で流れがあらぬ方向に行ってしまった。
近づいてくるのは細長い弓袋を肩に担いだクラスメイト、三宅明人だった。長谷部が振り返り手を振る。
彼女が招いたもう一人に間違いないようだが、相手が男子だったのは少し意外だった――しかし思い返せば長谷部も三宅も物静かで誰かと絡むような様子はなかったので知らない所で繋がりを持ったのか。
「それじゃ、面子は揃ったしそろそろ行こっか」
「えー、俺にも何か注文させろよ」
息こそ切らしていないが、そこそこ急いできたようで、立ち上がる長谷部に三宅から文句が出る。
「もう直ぐ日が暮れる。暗くなる前に帰りたいんだが」
幸村も文句を切るように立ち上がり、三宅は不満顔になるが直ぐに諦めたように溜息をついた。
「うあー、冷たいな、っとに…………」
「アハハ」
佐倉も苦笑しながら同じく綾小路も席を立ち、一同はカフェを出た。
***
一之瀬と別れ俺は寮の自室に戻った。
窓から空を見上げるが日が沈むにはもう少し掛かりそうで『天の抑留』で空に繰り出すのも出来ない。
ああ、しかし何もやることがないと綾小路に任せた案件が気になるな――上手くやっているとは思うがアクシデントが起こって苦戦しているかもしれない。
仕返し半分な気持ちで手伝わないと言ったが、やっぱり俺も何かしら捜査に加わったほうがよかったかな?
しかし、こんなことを今更思っても仕方ない。
窓の外を見るのも飽きたし適当に栄養補給して綾小路からの朗報を待とう。
ああ、それと綾小路に支払うと約束した
***
風に揺られる木々を背景にして綾小路と坂柳は向かい合っていた。
場所も時間帯も入学初日と同じなれども月日が進んで昼の時間が長くなってきている為に当時よりもまだ明るく、更には二人の背後にはそれぞれの連れが待機しており二人の様子を各々の興味でしっかりと見ていた。
「すまないな。突然呼び出して」
「いいえ、私としては寧ろ嬉しいぐらいです」
少なからず照れている綾小路に対して坂柳は淀みなく即答。言っていることが紛れもない本心であると確信を抱かせ照れが増して綾小路は頬を少し掻いた。
綾小路の後ろにいた佐倉と長谷部は乙女心満載に目を煌めかせており、直ぐそばにいる幸村と三宅は呆れ半分とリア充ぶりへの嫉妬が混じった目で見ていた。
一方、坂柳の後ろにいた神室をはじめ両サイドを借り上げた金髪を後ろ髪で結んだ男子と肩まで伸ばした長髪に強面の男子が一堂に滅多に見られない坂柳の乙女な姿を珍しそうに見ていた。
「この前、葛城と会ったんだが、思っていた以上にこじれてるみたいだな」
「おや、何か清隆くんにご迷惑を?」
「別に取り立てて言うようなことじゃない」
実際には葛城に引っ付いいた戸塚が無礼を働いたのだが、少なくとも坂柳が気にしたり、ましてや謝ったりする様なことでは無い。
「オレよりも有栖の方が面倒になってるんじゃないか?」
「心配してくれているんですか――だとしたら、ちょっと複雑ですね」
もとより葛城など敵ではないし、綾小路との関係が知れた程度でマイナスになるようなことなど一切ない。
もっと自分の力を信じて欲しいが綾小路は坂柳の実力を全く知らないのだから仕方ないとも言えるが、それでも感情が不服を訴えっている。
寧ろその手のマイナスは綾小路の方が被っているのではと思っていたし、ほとぼりが冷めるまでは会えないかと思っていた矢先での呼び出しに心が躍りもしたが、その動機が先のような心配によるものだったら素直に喜べない。
「いいや、
綾小路は手にしていた包みを開いてと白いリボンハットを差し出す。
「あっ」
坂柳は目を小さく開きながら受け取ると何とも言えない表情を造る。
「気に入らないか?やっぱり他の物が良かったか?」
「いいえ。これがいいです――凄く嬉しい。ありがとうございます、清隆くん」
「そうか」
いつぞやの――二人が初めてを交わした時と同様に幸せそうにしながらベレー帽を取ってリボンハットをかぶる。
「ああ、佐倉にもお墨付きを貰っただけあってよく似合う」
綾小路のストレートな褒め言葉の前に出た名前に更なる笑みを浮かべそうだった坂柳の顔が凍り付いたようになった。
「ちょっと、綾小路くん!私のことはいいから」
引き合いに出された佐倉は狼狽えて、その周りや坂柳の取り巻きたちも綾小路のデリカシーのない言葉に何をしているんだと言う視線を向けていた。
そんな周りに構うことなく坂柳は佐倉に近づいて行き凍り付いた笑みのまま言った。
「佐倉さんですか――はじめまして、1-Aの坂柳有栖です」
「あああ……え、えっと、佐倉愛里って言います。は、はじめまして」
挨拶を交わしただけなのにやたらと重苦しい空気が蔓延し異常な緊張感を皆が感じていた。
「よろしければ、一緒にお茶でもしませんか?」
「い、いえ……それは、さっ、さっき済ませてて」
坂柳の申し出を必死に断る佐倉だが、それで終わりになる筈もなく更に続く。
「では一緒にお食事でも――――」
「ご、ごめんなさい!私、この後……人と会う予定なんです」
申し出を遮りながら断りを入れるが、出てきた理由はその場しのぎにしか聞こえず、聞いていた面々は
「でしたら、その方も一緒に――――」
「駄目!!」
それまでの気弱な拒絶から一転して攻撃的に拒絶する佐倉に坂柳の目は鋭く細めた。
綾小路が佐倉を引き合いに出した時点で目当ては彼女であることは察せられた。しかもあれだけ無理矢理な形をとった事と、今の佐倉の返答からも考慮するとかなり急を要する事態であること導き出す。
「佐倉さん――ひょっとしてですが、何か危ないことをしようとしてません?」
「!?」
問われた佐倉は何故と言う顔になって固まった。
「「「――――――」」」
全くの予想外の展開に皆、訳が分からないと顔に書いてあった。
そして、やっと望んでいた展開にこぎ着けた綾小路は佐倉に近づきながら坂柳に横目を向けて心の中で礼を言う。
(すまない。恩に着る)
(ひとつ貸しですよ)
綾小路の視線を受けて坂柳は目を閉じて一歩引きながら無言で返した。
「そうなのか、佐倉?」
「え、えっと……そう言う訳じゃ。
坂柳さんが大袈裟に解釈しただけで――――」
再び弱気になり目を逸らしながら否定する。
普通ならそれを肯定して話は終わるが、確信を抱いている綾小路は構わずに踏み込む。
「本当にそうなのか?」
「事と次第によっては私も手を貸しますが」
「だ、だから大丈夫だよ!」
綾小路を援護するように坂柳も続くが、それは佐倉の決意に反する事であり更に必死に拒絶するが、その姿は他の面子にも思い過ごしかとも思っていた気持ちを払拭させた。
「ねぇ、佐倉さん。困ってるなら私も力になるよ」
「俺もだ」
「ああ、一人で抱え込むな」
長谷部、三宅、幸村が申し出て、
「ま、アイツがそう言うなら」
「俺も異存はない」
「ああ」
Aクラスの面々も続いた。
「う~~~」
ある意味で多勢に無勢の状況になってしまい、佐倉は観念して自らの置かれていたストーカー被害について話し出した。