どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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事件は起きないほうがいい。

 ああ、ようやく完全に日が暮れたか。

 

 梅雨が近づいているからか僅かに湿気のこもった夜風を感じながら俺は暗い夜道を歩いていた。

 

 綾小路から明朝にはと言う明確な時間を提示されたから、こっちも約束に備えて寝ようと思っていたが寝るには流石に早すぎた。

 

 と言うか俺も俺で張り切りすぎて返って目が冴えてしまった。

 

 気晴らしに歩いているが、どこに向かう訳でもない--そのつもりだったが、いつも以上に気が張っている警備員たちを見たら、どうにも気になって後をつけてしまった。

 

 学生が殆ど近づかないと言うか用のないエリアに向かって行く中で警備員たちは無線連絡を取りながら待ち伏せするように道に陣取っていた。

 

 俺は周囲に気を配りながら気付かれないように様子を窺うと何処となく見覚えのある男が真っ青な顔して全力で走ってきた。

 

 やや離れて見ている俺からも明らかに普通でなく、ついさっき思い出したストーカーと合致するため綾小路の仕事が上手くいったと悟った。

 

 それから金髪の男子生徒もやってきて俺と同じように身を潜めた--綾小路の協力者だろうがⅮクラスの生徒じゃない、なぜ他クラスの生徒を?

 

 警備員たちはゆっくりと近づいていき、男の冷や汗は増え背を向けて逃げようとしたが肩を掴まれて取り押さえられた。

 

 これはもう解決も同然だな……しかし俺のいる位置は都合よく風下であり、同じく見ている金髪も巻き込まれる心配のない位置にいるから俺はダメ押しの一手を放つ。

 

 毒殺師である『戌』の裏技『破傷風』--毒を『申』の仙術による気体操作を用いてターゲットを狙う。尤も今回使うのは毒ではなく自白剤、それもかなり弱目の物だ。

 

「悪いのは、僕の愛を踏み躙ったあの女だ!」

 

 予想通り、相当追い込まれていたのか--それとも自ら追い込むように仕向けられたのか、少ない量でも十分だったな。

 

 金髪も端末を取り出し律義に報告しているみたいだし何はともあれ、これで完全に決着だな。

 

 さて、学生が出歩くのもそろそろ厳しい時間だし帰るとするか。

 

 

 

 ***

 

 

 翌日、教室に入った綾小路は佐倉の姿を探すが見当たらず事情を知っている可能性のある長谷部の席に向かって行った。

 

 そこには三宅と幸村もおり用件を言うまでもないようで、綾小路が揃ったことで話を始める。

 

「佐倉さん。今朝、先生たちに呼び出された。授業に遅れるかは分かんないけど、心配するようなことじゃないって確かに聞いた」

 

「まぁ、事実確認か証拠の手紙の提出ってとこだろうな」

 

 幸村の見解に皆が肯く中で綾小路は、もう一人の目当ての人物に目を向ける。

 

 嬰児はいつもと変わらずにいて依頼の結果を聞きに来る気配はない。

 

(ここに居るのは関係者だし話題的には問題ないんだが……流石に知る由もないか)

 

 もしかしたら全てお見通しで成果を聞きに会話に割り込んで来るかと思っていたが、嬰児の異能も万能ではないのか--はたまた本当に全部任せてくれるほど信じてくれたのか。

 

 色々と考えているうちに佐倉愛理が教室に入って来た。

 

「佐倉さん、どうだった?」

 

 皆が佐倉に近づいて行き長谷部が訊くと、佐倉は満ち足りた顔で肯いた。

 

「あの男の人、昨日の内に逮捕されて数日以内には裁判所から接近禁止命令がでるから安心ていいって」

 

 完全決着になったことで一同は安堵と歓喜の表情を浮かべ、その中で綾小路は端末を取り出して、この結果を依頼者である嬰児に手早くメールした。

 

 会話に入ってきてくれたなら直に伝えられるが、事情を話せない以上はこの方法しかない。

 

 そして事情を知らない面々からすれば綾小路がメールを送る相手は一人しか思いつかず、その仕草に微笑ましさを隠そうせずに佐倉が言う。

 

「あ、綾小路くん。私からも坂柳さんに改めてありがとうって、伝えてくれないかなぁ」

 

「悪いがもう送信した。有栖にはオレが直接伝えておく」

 

 綾小路としてはこれで話を打ち切って、本当に終わりにしたかったが、

 

「あー。それなら私が直接、お礼を言うから……それとお昼一緒にどうかな?綾小路くんにも言いたいことがあるんだ」

 

「ああ、それなら私たちもいいかな。私も皆に提案があるんだ」

 

 佐倉が喰い付いてきて、それに長谷部が続いてくる。

 

「俺は全然いいよ」

「別に断る理由もないし、俺も構わない」

 

 三宅と幸村が快諾してどうにも断り辛い空気になってしまった。

 

 綾小路としては非常事態の対応に集まっただけ、だからこの場を持って解散として依頼者である嬰児と報酬の話に切り替えるつもりであったから、

 

(都合が悪いから、また今度――にするのが良いんだが)

 

 どうにも頭で考える打算的部分とは別にこの誘いを受けたいと言っていた。

 

 ただ空気に飲まれているだけなのか……それとも嬰児が約束した報酬とは別に自分が何かを求めているのか?

 

 どうにも答えの出ない自問自答が心中を巡り、程なくして結論を出す。

 

「分かった。オレもいいぞ」

 

 申し出を承諾した。

 

 その時、見計らったように端末からメール着信がされ〝約束は放課後に――楽しんできな〟との内容が届いた。

 

 綾小路はさり気なく嬰児を見たが特に隠す気もないのか堂々と端末をいじっており、再度の着信でサムズアップの記号が届いて何とも言えない気持ちのままホームルームを終えた。

 

 

 ***

 

 

 滞りなく授業は進んでいき昼休みになった。

 

 綾小路は今朝集まっていたグループと一緒に教室を出ていく中で俺にも視線を寄こしたが元よりあの輪に入るつもりなどないし、話をしておきたい相手は別にいるので流して見送る。

 

 あいつの隣の席の堀北なんかは相変わらず澄まし顔だが内心はどんなものなのか?

 

 別にそれが訊きたい訳じゃないが、今後の為に俺は堀北に近づいて問いかける。

 

「なぁ、堀北。ひとつ訊きたいんだが」

 

「なにかしら?」

 

「生徒会長さん、お前と同じ苗字だが親戚なのか?」

 

 俺の問いが意外だったのか、堀北は一瞬固まり棘のある口調で聞き返してきた。

 

「…………なんでそんなことを?それは答えなければいけない質問なのかしら?」

 

「いや~、知り合いに似てたもんだから気になっただけ。別に無理して答えなくてもいい」

 

 俺がそう言うと堀北が顔をそらす。

 

「そう……」

 

 そこから黙り込んでしまうが俺としても長々と話がしたい訳じゃないし、本当に何となく聞きたかっただけだから、さっさと退散するとしようか。

 

「邪魔したな」

 

 俺は踵を返して立ち去ろうとしたが、

 

「……兄さんよ」

 

 背後からの堀北の小さな声に振り向く。

 

「その人は私の兄さん――これで満足かしら」

 

 言葉の棘は些か収まってるが、それでも触れられたくない事なのか不機嫌さはなくならない。

 

「おお、そうか。ありがとう」

 

 それだけ言って俺は歩を進める。

 

「――――ちょっと、ホントにそれだけなの?」

 

 堀北の不満そうな声を発すが足を止めることなくドアに向かう。

 

 背後から睨みつけるような視線も感じる。

 

 ま、大体、予想通りの展開だな。

 堀北が望む内容としては先日のAクラスへ上がることの協力とその主導権をどっちが取るかだろうから、これからその話になると期待したんだろうが()そんな話をする気はない。

 

「悪いけど俺と組みたいのはお前だけじゃない。実際についこの前にあいつは俺の期待に応えてくれた――だから、まずはそっちに報いてやらないとな」

 

「なに、それ?」

 

 事情を全く知らない堀北からすれば、さっぱり訳が分からないところだろう。

 

 もっと分かるように説明しろと言ってきそうな感じがしたが、その前に俺は教室を出てドアを閉めて無理矢理に話を終わらせた。

 

 

 ***

 

 

「だからさ大事にしてるなら、もっと坂柳さんの気持ちも考えてあげなきゃ」

 

「そうそう。デリカシーに欠けるよ」

 

 昼の食堂、五人で囲ったテーブルで綾小路は女子二人に昨日の坂柳を前にしての言動について駄目だしされていた。

 

 あと二人の男子は安い定食を食べながら無言ながらも同意見だと言うように肯いており助けは期待できない。

 

 無論、客観的に見てあの時の言動が駄目に映ったのが解らないほど綾小路は鈍感ではない。

 

(だがそう思われてるなら、いっそ――――)

 

「オレはそんなに不味いことをしたのか?」

 

 あえてそのまま進めることにした。

 

 まだ分からない女心--恋心について少しでも学ぶことが出来る機会、非難は甘んじて受けてでも知りたいと。

 

「うわ~、ホントに駄目だね……」

 

 長谷部は額に手を当て、

 

「はぁ…………助けてくれたことは今でもすごく感謝してるけど……その為に幼馴染の娘と喧嘩になっちゃ、やっぱり参っちゃうよ」

 

 佐倉も残念な顔をしながら小さく溜息をつく。

 

 そこから先はやれ帽子を渡すときに自分の名前を出すのは論外。

 

(あれがなきゃ、佐倉(おまえ)の被害を聞き出せなかったんだがな)

 

 危険性を示唆するのはいいが、その前でも後でもクラスメイトだから等のフォローを付け加えるべきだなど。

 

(寧ろ、危険(もんだい)から遠ざけたかったんだけどな)

 

 黙って聞きながら内心で反論しつつ、どうにも期待したような話は聞けない。

 

 綾小路としては表面的な礼節や配慮ではなく、もっと内面的なことを聞きたかったのだが話を聞いていく中で目の前にいる二人も自身が恋をした経験がある訳でなく、恋に対する憧れや綺麗な上澄みしか知らない--ある意味で自分と同じなのかと親近感のようなものが湧いてくる気がした。

 

「お~い。綾小路への愚痴を言うだけなら俺たちもう行っていいか?」

 

「同感だ。いい加減に飽きてきたぞ」

 

 同席していた三宅と幸村がここでようやく会話に入ってくる。

 

「え~、連れないなぁ。つい昨日、力を合わせて犯罪に立ち向かった仲なのに」

 

 長谷部が茶目っ気ながらの返しに二人は冷ややかな目を向ける。

 

「ああ、俺もそう思ったから誘いを受けたんだが、それでも実りがなさすぎるぞ」

 

「俺も年がら年中、真面目な話をしろと言う訳じゃないが--他人の恋路(じじょう)をあれこれ弄るのはやっぱり趣味が良いとは言えない」

 

 三宅と幸村の不満を隠さずに行ってくる態度に長谷場はニヤニヤしながら言った。

 

「うん。やっぱ、いいよね。こんな風に言いたいこと言える関係っての」

 

 話の流れが変わり二人の溜飲が下がり続きを待つ。

 

「私やみやっちもそうだけど、ここに居る全員クラス内じゃ一人でやって来た系じゃない。昨日の一件もそうだけど、その前にカフェで話したときもさ。話しててどうにも居心地よくて良い感じだなって思ったんだ~。だからこの機にさ、私たちのグループ作れないかなって」

 

 漸くの本題、長谷部からの提案に綾小路と幸村は答えに詰まったが、佐倉は笑顔で言った。

 

「うん。私もここに居るみんなとなら」

 

「そうだな。ちょっと強引な気もするがそれも込みでこの集まりは悪くないし、馴染んでる気がする」

 

 この意見に三宅も続いた。さっき出た不満、それを隠すことなく言える気安さや何より今自分が感じている気持ちを語る。

 

「この集まりはあの時と今この場限り--俺はそう思っていた。

 Aクラスに上がるためにはもっと勉強に精を出して他のことにかまけてる暇なんてない」

 

 肯定的な流れになったが幸村は目を険しくして流されないと言った態度で言った。

 

 その否定的な言葉に残念な結論が皆の頭に浮かぶ。

 

「だが昨日の一件は俺が一番の役立たずだった。そして事態を解決したのは殆ど綾小路の力だ。勉強が出来るだけじゃ、あんな発想はできない。学ぶべきものがここにあるなら認めても構わない」

 

「なにそれ、すごく屈折してる--でも、ありがと。それで綾小路くんはどうなの?」

 

 長谷部の問いに対して綾小路は成り行きを見ながら整理した己の気持ちを口にする。

 

「オレもこのメンバーでいるのは思いのほか楽でいい」

 

 綾小路にとって最も篭絡したいのは牛井嬰児で、その為の最有力の駒として並びに自分の過去を知り本音を隠さずに済む坂柳有栖がこれまでの関心の全てだった。

 だが、そのことを考え続けるのは疲れもする。その点でいえばこのグループは気負わず、無理せずで休息の場と時間としてあるのは悪くはなかったので本心ではある。

 

 更に幸村とは違うが思わぬことで何かを学ぶことが出来るかもしれないという小さな期待感もあった。

 

「じゃ、決まりね。それじゃ私たちはこれから綾小路グループってことでヨロシク」

 

「おい、オレ中心なのか?言い出しっぺである長谷部が――――」

 

「それを言うなら、そもそも切っ掛けは綾小路だろ」

「私も大賛成だよ」

「異議なし」

 

 長谷部の音頭に異を唱えようとした綾小路だが、他の面々に押し切られた。

 

「それで早速なんだけど、これからは皆、名前かあだ名で呼ぶってのどうかな?ちなみに私は波瑠加、好きに呼んでくれていいよ」

 

「わ、私のことは愛里で……」

 

 佐倉は若干照れながら言う姿に男子たちは一瞬、見惚れて頭が真っ白になった。

 

 その中でいち早く持ち直した綾小路は考察した。

 

 当初、買い物に誘ったときに感じた引っ込み思案な娘と言う印象--ストーカー男への恐怖心もあっただろうが、あの姿が佐倉愛理の素であった筈。

 問題解決に尽力し守ってくれた感謝と信頼感もあるだろうが、同じ女性として怒り気さくに接してくれた長谷部の存在、更には坂柳有栖の為と言う大義により言いたいことが言える状況が前向きに自信をつけることが出来たのだろう。

 

 そんな綾小路にお構いなく長谷部が話を進めていく。

 

「綾小路くんは清隆で--みやっちって下の名前は何だっけ?」

 

「明人だ」

 

 しかし、このやり取りに幸村は浮かない表情であり、綾小路は嬰児関連の記憶から原因に当たりを付ける。

 

「そう言えば、幸村は名前で呼ばれるのが嫌なんだったか」

 

「……覚えてたのか。まぁ、その通りだ。ちなみに俺の名前は輝彦だが、俺はこの名前が心底嫌いだ」

 

「理由は聞かないほうが?」

 

 再び幸村により話の流れが曇っていきそうになり、意を決したように続けた。

 

「色々と勘繰られたくないから白状すると、この名前は俺たち家族を捨てた母親が付けた--だからと言って謝ったりはいい。俺だってこの場を壊したくはない。だから名前で呼ぶなら俺のことは啓誠と呼んでほしい」

 

「なんだ、幸村には名前が二つあるのか?」

 

「啓誠は父が付けようと考えていた名前だ。違和感があるなら幸村で通してほしい」

 

「そっかぁ--じゃあ、私はゆきむーかな」

 

 幸村の締めに間髪入れず長谷部が彼女らしいあだ名を提示して曇りが晴れていく。

 

「俺はあだ名とかは無理だな--だから改めてよろしくな啓誠」

 

 三宅も気にせずに希望の名前を呼ぶ。

 

「明人に啓誠、波瑠加と愛里だな。オレも覚えた」

 

 坂柳を名前で呼んでる為か彼女たちの名前も淀みなく、改めて異性に名を呼ばれて最後に佐倉が緊張しながらも名前を呼ぶ。

 

「えぇっと、啓誠くん、明人くん、波瑠加さん…………それに清隆、くん」

 

 綾小路の名だけにある間と遠慮が混じった声に長谷部がフォローするように、

 

「清隆くんは--きよぽんが私にはしっくり来るなぁ。愛里もどう?」

 

「は、はひゅっ!」

 

 佐倉から漏れた謎の擬音に全員が注目し顔を赤くなっていく。

 

 その姿はある種の目の保養になりそうだが、放っておくのもなんなので、この場では綾小路が折れることにした。

 

「あー、あだ名は好きにしていいし、抵抗があるなら清隆でいい。もしそれで有栖が何か言うならオレが有栖を怒る」

 

「「「「…………………」」」」

 

 最後のダメ押しとも惚気とも取れる台詞に昨日以上に胸が一杯になる一同。そして--

 

「うん--よろしくお願いいたします。清隆くん」

 

 佐倉は優しい笑みを受け場ながらしっかりと綾小路の目を見て言った。

 

「実りがないってのは撤回だな……ちょっと面白くないけど」

「ただこれ以上のメンバーはよしてくれよ。騒がしいのは勘弁だ」

 

 三宅と幸村は辟易交じりがあるものの、満更でもない様子で、

 

「じゃ、この五人は〝きよぽんグループ〟ってことで、ヨロシク」

 

 最後に長谷部が元気よく新グループ結成を宣言した。

 

 

 ***

 

 

 放課後になり堀北が詰め寄ってくる前に早々に教室を出て、綾小路に報酬を渡す場所をメールする。

 

 あえて時間を掛けて目的地である屋上まで遠回りしながら行ってみると綾小路は待機しており、表情はいつも通りのポーカーフェイスで読み取れないが、待たされた不満か報酬への期待のどちらが上かな?

 

「昼間の集まりに行くかもと思ってたが」

 

「好きな時に集まり無理強い無し--そんな堅苦しいグループじゃない」

 

 おお、即答か--しかし予想よりも馴染んでるみたいだな。良き哉、良き哉。

 

「……既に結果は伝えたが、お前の依頼は完璧に果たしたつもり(・・・)だがどうだろうか?」

 

 おやおや、ひょっとして俺が犯人(あいて)を殺すことを望んでると……思われても不思議じゃないな。

 

「ああ、十分な結果だ」

 

「それじゃあ、約束通り――――――」

 

 俺は口に人差し指を当てて目線で右背後を促すと綾小路も気付いたようだ。

 

 そこには物陰に隠れて俺たちを窺う堀北がいる。

 

 無論、偶然ではない。

 

 昼間の会話はこの場面を整える為の布石、彼女の欲を刺激して喰い付かせるまで話を続けるつもりだったが、いきなり地雷を踏んだのは幸か不幸か……。

 

 俺からは完全に見えないが『地の善導』によって位置は常に把握しており、遠回りしたのも追いかけてくる堀北をここに連れてくる為。

 

 綾小路には偶然に映るか、はたまた何かを察するか?どっちにしろ異能に関する話題は不味いと話を切り替える筈だ。

 

「何故、こんな依頼をしたのか教えてくれないか、やっぱり一之瀬同様に佐倉みたいな娘が好みだからか?」

 

 う~ん、俺の期待した展開ではないが……まあ、いいか。

 

「簡単な話だ。見て見ぬ振りしたら顔向けできない相手がいるだけ」

 

「顔向けできない相手…………嬰児の親か何かか?」

 

「そうだな--名付け親のようなもの(・・・・・)だ」

 

 実際には恐れ多くも不相応に名前を貸して貰っている--正直、今この時でも重すぎる名だ。

 

「名付け親--嬰児がそこまで肩入れするなら相当な人物なんだな」

 

 開き直ってるのか、調子に乗っているのかグイグイと来るな。

 

「ああ、彼は天才と呼ばれ恐れられ尊敬に値する…………強者(つわもの)だった」

 

 本当は戦士と言いたかったが、ややこしくなりそうだからこの辺が妥当かな。

 

「えらく間を使って出した言葉が強者か?」

 

「まず①に正しいことしようと決める。②に正しいことをする。を信条とし実行する心身ともに強い男だったからな」

 

「それは確かに典型的な強者の理屈だな」

 

「別に理解しなくてもいい。

 ただ、意思がなくては正しさはない。正しい行動はしようと思わなきゃ出来ない。正しいことをしていない人間は出来ないではなく、しないだけだ--なんて台詞を普通な顔していう人だ。

 名前を貰った手前、犯罪を見過ごすなんて正に泥を塗るようなもの。けど俺には綺麗に解決する手段が思いつかない。だから出来そうな奴を頼った--それだけのことだよ」

 

 名前に対する本心に付け加えて少し持ち上げてみたが綾小路はどうでもいい顔のまま、俺を見る振りをしながら後ろの堀北を見ていた。

 

 そう言えば似たような心証の男(せいとかいちょう)が兄貴だったな--なら何かしら感じるものがあるのか--表情を見る手段が今ないのが残念だ。

 

 しかし、それは今の本題ではないから話を続けるとしよう。

 

「無論、俺とて遊んでた訳じゃない。他クラスの情報はちゃんと集めて来た」

 

 お、ここに来て綾小路の目の色が変わった。全く考えなかった訳じゃないだろうが、堀北のいる状況が俺の企図したものだと確信を持ったようだ--そして堀北には出し抜かれて不覚を取ったとか思ってるといいな。

 

「Cクラスでは龍園って男がリーダーに名乗りを上げ、近いうちにクラスを纏め上げるそうだ。しかし、そのやり方は褒められたものじゃなく、飾らずに言えば下劣で野蛮なものらしい」

 

「その龍園とやらが何かしら仕掛けてくるってことか?」

 

「話が早いね。聞いた話では退学による影響に目下の興味があるようだが、自クラスでやるリスクを考慮すれば他クラスを罠に掛けるって方策が妥当だろうな」

 

「嬰児ならどうする?」

 

「俺だったなら、分かり易い弱点を徹底的につくな。弱点(それ)が目に見えてあるなら尚更にな」

 

「…………言い方が悪かったな。龍園の立場じゃなく、攻撃を受けたらどう対応する?」

 

「今のⅮクラスにまともな対応ができると本気で思ってるのか?」

 

 この切り返しに綾小路は何も言えない。現状を理解できてるな、Ⅾクラスに力を合わせるなんて無理強いしなけりゃ成立しない。

 

 少数のグループを作ったみたいだが、やはり割合としては綾小路一人の力が大半だろう。

 

 そしてこの状況は一朝一夕で覆らない--それくらいにⅮクラスは出遅れている。

 

 と、ここでもうひとつダメ押しも追加しとくか。

 

「ちなみに協力してくれそうなのは丁重にお断りしておいた。外に援軍を求めるのは諦めた方がいいぞ」

 

「これからは嬰児が協力してくれるって訳じゃないよな」

 

「ああ、いずれは戦わなきゃいけないんだ。戦えるレベルにならなきゃ組むに値しないだろう」

 

 Ⅾクラス(こっち)がな。

 

「戦わなきゃ、か--なるほど確かに()はそれが最適だな」

 

 うん。綾小路は結論を得たようだ。

 

 それは堀北も同じようで離れて行く--どんな顔してどんな結論を得たのかは教えてほしいな。

 

 と、完全に行ったみたいで綾小路がひと息ついて改めて言って来た。

 

「こんな面倒なことしないで堀北に直接、伝えてやればいいんじゃないのか?」

 

 ダシにされたからか言葉に恨み節が籠っている。

 

「それで際限なく甘えてこられたら堪らん。誰かの影響を経て自ら悟るのと、誰かに言われるがまま流されるのは違うぞ」

 

 納得した顔をしてこの件の追及する気はなくなったようだ。同じような考えが綾小路もあるのか。

 

「なにはともあれ、依頼を果たした以上は約束のものを貰いたい」

 

「元よりそのつもりだ。だけど前にも言ったが、どんな願いでも叶えられる訳じゃないからな」

 

「嬰児は、だろ?」

 

「それを聞きたいなら構わないが」

 

「又の機会でいい。今のオレの願いは、ある男がこの学校に接触して来るからそれを知る方法が欲しい。できるか?」

 

 来ると言い切るあたり、ちょっと気になるがこの場では触れないでおこう。

 

「端末を」

 

 綾小路は素直に渡して興味を極限まで込めて俺を凝視する。

 

 俺はそんな視線を意識から外して異能を選定する。

 まずは『亥』の『湯水のごとく(ノンリーロード)』で限定介入させて大本のシステムを僅かに不安定化、続いて『双子』の特異体質である精神の大部分の共有を応用して適合させた。

 

 処置が完了すると綾小路の端末に新たならアプリが表示された。

 

「終わったぞ。あとはその男の名前や身体的特徴を入力すれば知らせてくれる」

 

「そうか」

 

 綾小路はそれだけ言って端末を受け取る。

 

 疑うそぶりを見せないのは信頼してるのか、信頼しているというポーズをとっているのか?

 

「じゃあ、もうひとつの報酬の方も」

 

 おおっと、寧ろこっちがメインだったか。

 

 当てにならない願いごとよりも確実な情報を--その使い方も自分で模索するほうがってところか。

 

 ま、約束は約束だし、

 

 辺りに人がいない事、誰も空を見てないことを確認して隠していたスチールのお盆を出して座り『乙女』の能力を用いてゆっくりと宙に浮いて見せた。

 

「へぇ、空も飛べるのか--佐倉のこともこれで」

 

「ま、そう言うことさ」

 

「………………」

 

 綾小路は何かを考え込むと言うか疑う目で俺を見てくる。

 

 学校中から注目された一件、その輪郭が見えてきたのか……糾弾されたなら素直に謝るしかないか。

 

「嬰児--また何かあれば言ってくれ、条件次第で力を貸す」

 

 そのまま屋上から去っていく。

 

 う~ん。ちょっと不気味と言うか不吉だな。

 

 

 

 

 そのまま六月に入ったが別段、何かある訳ではない。

 

 期末テストは七月だし、体育祭なんかも秋……祝日も連休もなく変わり映えしない日が続き、一か月が終わると思ってたんだがな。

 

 蒸し暑い日の夕方、上空で涼んでいたら須藤が他クラスの生徒数人と一緒に人気のない--防犯カメラもない場所に向かっている。

 

 須藤は元よりだが相手の男たちもガラが悪そうでこの後の展開が容易に想像つくな。

 

 綾小路はグループで集まりカフェで談笑してる--佐倉もいい笑顔をするようになったな、隣のテーブルには白のリボンハットの坂柳が優雅に紅茶を飲んで取り巻きたちも満更でない様子だ。

 

 一方、堀北は一人で散歩してる。

 

 こりゃ駄目だな--と思ったがよく見ると向かったのは防犯カメラのない死角と呼ぶべき場所、少し見回ったら歩き出しその方向の先にはまた死角がある。

 

 ほほう。一応、危機感は持ってるみたいだな。

 

 しかし、肝心な須藤たちとはこのままではすれ違ってしまう。

 

 仕方ない。明日には入るはずのポイントがなくなるのも困るしな。

 

 『申』の仙術を持って気流を操作、タイミングを見て堀北の近くに強めの風を送り須藤たちを視界に居れる。

 

 お膳立てはここまでだよ。

 

 

 

 ***

 

 

 全ては順調だった。

 

 バスケ部の練習後、ターゲットのⅮクラスの不良生徒(すどう)を呼び出し挑発、殴り合いの流れを作り出して仕掛け敢えて一方的にやられる。

 

 全ては自分たちのボスのシナリオ通り--になる筈だった。

 

「何をしてるの!」

 

 想定外の乱入者による一喝。

 

「あ、なんだよ。邪魔すんな堀北、これは俺の問題だ!」

 

 興奮している須藤が叫び返すが堀北の目は別に移っていて更なる苛立ちを募らせる。

 

「あなたたちCクラスの生徒かしら?」

 

「だ、だったら何だってんだ」

 

 混乱してるのか一人が答えると残りの二人が責めるような目を向け委縮してしまった。

 

 堀北はその様子を見てある種の確信を得る。

 

「……ホント、嫌になるくらい分かり易い画ね」

 

「訳分かんねぇこと言ってねぇで、どっか行けよ!」

 

 蚊帳の外に置かれた須藤が怒鳴り散らすと射殺すような眼で堀北が睨み返した。

 

「行くのはあなたの方よ。その手を引っ込めてさっさと帰りなさい」

 

 その上から目線の言葉に須藤の目が血走る。

 

「ふざけんな!一体何様のつもりだ!!突然割ってきて好き勝手――――」

 

「その手を出したら最悪退学よ。いえ、それどころかクラス全体にどんなペナルティがあるかもしれないのよ」

 

「はぁ、なんでだよ。言いがかり付けてきたのも仕掛けてきたのもこいつらだ。なるなら向うの方だろうが」

 

「私が来なければ誰がそれを証明したと言うのかしら?寧ろ同じクラスの私の証言じゃ、採用されない可能性だってあるわ」

 

「じゃあ、このまま黙って俺に引き下がれと―――」

 

「これが罠だってまだ分からないの!」

 

 このシンプルな説明に初めて須藤が瞠目した。

 

「は、女に言われて大人しくなるなんて無様だな」

 

「見え見えの挑発……律義ね。そんなに龍園君が怖いのかしら?」

 

「!!?」

 

 Cクラスの策に堀北が乗る訳もなく出てきた名前に驚き、続く言葉に戦慄する。

 

「丁度いいから伝えてくれないかしら、こんな幼稚な作戦しか思いつけないなら、敵と呼ぶ価値もない--そんな雑魚の相手なんてするつもりはないわ」

 

「ざ、雑魚って……」

 

「龍園さんに向かって……」

 

 慄いている二人を押しのける形で尤もガタイの良い男が前に出る

 

「言うじゃねぇか。龍園さんが聞いたら大笑いしそうだ……俺は石崎、お前の名は?」

 

「堀北よ」

 

「確かに覚えた。だが調子に乗るなよ、こんなのは小手調べ。龍園さんはスゲエ男

--最後に勝つのは俺たちだ」

 

 無駄を悟った石崎に続き去っていくCクラスを見ながら、須藤は冷静さを取り戻し堀北に礼を言おうとしたが、

 

「須藤くん、あなたはバスケのプロになりたいのよね?それがどれだけ大変か分かったうえで、茨の道を行く覚悟で」

 

「あ、ああ。そうだ……周りにどれだけバカにされようが、バイト以上の極貧生活になろうが俺はやり遂げて見せる」

 

「だったら、その情熱を正しい方向に向けてくれないかしら。ここで退学になったら元も子もないでしょ」

 

 それだけ言って去っていく堀北の背を見送りながら、須藤は一人呟いた。

 

「やべぇ……俺、惚れちまったよ」

 

 

 ***

 

 

 おお危うい賭けだったが、どうにかなったな。

 

 出てきた堀北を目で追っていくと再び死角となるエリアに足を運んでいる。

 

 ただの散歩かと思ってたが、ちょっとした見回りだったのか。迷いなく歩いている姿は昨日今日でない日課だと語っている。

 

 情報を流しても何もしない可能性もチラついたが、やはり根本は自分だけが良ければってタイプじゃないみたいだな。

 

 しかし、それを素直に認めるほど心の硬さは取れてない--さて、一体何があって自分に合わない枠をはめようとしてるんだか?

 

 それにしても今回は戦いを回避できたがいつまでもと言う訳にも行くまい。

 

 クラス全体で戦うことの出来る何か--あったりせんもんかね。

 




 異能の使い方は強引と思いますが、何卒目をつぶっていただきたいと思います。
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