どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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住所が・・・

 久しぶりに浴びる陽光、潮を含んだ風、そしてあれが学校の所有する無人島かぁ--公式の予定ではペンションに泊まるとのことだが何処にもそれらしき物なんて見えない。

 

 分かり切っていたことだが、これからやらされる(・・・・・)事の内容が少し見えてきたな。

 

 船がゆっくりと島全体を回る不自然な航路を行き、デッキにはまだバカンスがと勘違いしている輩--その全員が制服か洒落た服を着ていて一人ジャージの俺はどうにも悪目立ちしてしまう。

 しかしそれも束の間--再度のアナウンスでジャージ指定、端末と所定の荷物以外の一切の私物の持ち込み禁止、トイレも済ませよと指示されると既に準備万端の俺は別の意味で浮いて注目されてしまった。

 

 必然的に一番乗りになってしまい生徒全員が着替えてデッキに戻ってくるまでの間、一年の全担任たちと一緒になってしまった--まぁ辞退の申し出を却下された時からこんなことになるのは予想していたし、担任たちもそれは同じであろうから予定通りの展開かな。

 

 全員が揃うには時間が掛かるから柵に背を預けて座っていると陽気な感じの女先生が近づいて来る。

 

「やっほ~、調子はどうかな--牛井嬰児くん?」

 

 見かけ通りのフレンドリーに来られたな--さてポーズなのか本心で心配してくれてるのか?

 

 どちらにせよ後ろで目を険しくさせてる茶柱先生の様子からして何と答えても結果は同じだろうから、ここはひとつ――。

 

「最悪の気分だって言ったら、帰して貰えますか?」

 

「ハハハ……ごめんねぇ。私も流石にやり過ぎだとは思ったんだけど―――――」

 

「星乃宮先生、私のクラスの生徒にちょっかいを掛けないで貰いたいだが」

 

 思っていた以上に早く割り込んで来たなぁ……そんなに俺とこの人が話すのが嫌なのか?

 

「え~、ひどいなサエちゃん。私、これでも歴とした保険医なんだから生徒の体調を気遣うぐらい当然でしょ」

 

 至極真っ当な言い分だ。

 

 だが星乃宮先生よ……俺をほったらかして茶柱先生とじゃれついてちゃ、結局台無しだよ。

 

 尤もそもそも体調なんかどこも悪くないし、無駄な時間を取らされるたくもないから別にいいけど。

 

 俺は目の前のじゃれあいを意識から消して『地の善導』を発動させる。

 

 一人また一人と戻ってくる気配が増えて、うじゃうじゃとまたデッキに人が湧いてくる。

 

 葛城を始め真っ先に来た連中は俺を一瞥だが、それなりの人数になったらそれもなくなってきたが、完全ではなかった。一之瀬や椎名と言った何人かの他クラスの生徒は俺の様子を気に掛けて何かしら聞きたそうだが近づかずに自分のクラスの方に行った。

 

 ま、余計な事をするなって、すぐそこに居る担任連中から目があるんだから当然と言えば当然だな。

 

 そしてⅮクラスの連中は表向きの理由を鵜呑みにしていて、

 

「凄い船酔いって聞いたけど、大丈夫?」

「折角の旅行に何やってんだよ」

「いっぱい遊べたのに勿体ないことしたなぁ」

 

 と気遣いや冷やかしばかりで………………ホント、どうしょうもないな。

 

 しかし最近の傾向から綾小路が一瞥だけなのは分かるが、堀北の奴は随分と遅いな。

 制限が解除された端末には昨日の日付で呼び出しのメールがあり、真っ先に来て色々と訊かれると思ってたんだが--そう言えば船が島を回っている時も見かけなかったし、まさか呑気に寝てたりとか?

 

 それから暫らく待ってやっと来たが、遅かった理由が完全に予想外で考えるよりも早く立ち上がり、念のために目を『魚』に切り替えて確証を得た--何やってんだよ、一体。

 

 俺は早足で堀北に近づいていき問答無用に腕を取った。

 

「ちょ、ちょっと……いきなり何よ?」

 

 当然のように困惑しながらも抗議してくるが問答してる時間も惜しく、無言のまま無理矢理に腕を引っ張って歩き出す。

 

「痛い、離して!ホントになんなのよ、説明してよ!?」

 

 流石に周囲からも注目され始めたが、今はそんなことはどうでもいい。

 

「おい、嫌がってるだろうが!」

 

 須藤が正義面して前に立ってきたが、空いている手を肩に置いて下げると簡単に尻もちをついた。

 

「…………」

 

 間抜け面のまま何が起きたか一瞬分からないようだが、何をされたかを理解すると顔を真っ赤にして俺に何か叫ぼうとしたが、構ってはやれないから先に行く。

 

「ハッ、無様だな」

 

 目つきの悪い長髪の男子が言うと側に居た取り巻きたちがクスクスと笑いだし、それは周りに伝播していった。

 

「て、てめぇぇ………………」

 

 須藤はさらに顔を赤くしたが、それ以上は言わずに我慢する--今、喚き散らしても恥の上塗りだし、これくらいの自制心はついたか。

 

 

 と、そんな益体の無いことは良い。俺は堀北を星乃宮保険医の前に連れていく。

 

「体調不良--かなりの熱があるから今すぐに医務室に連れて行ってください」

 

「ちょっと、何を勝手に!?私なら―――――」

 

「この状態で無人島にほっぽり出されたら、最悪命に関わります--それともこれからやるのは生徒の命よりも重いものなんですか?」

 

 堀北を無視して話を進めると担任たちは顔を見合わせ、星乃宮先生が堀北の額に手を当てて熱を測り首を横に振る。

 

 茶柱先生も無念そうにしながらも目をつぶり、プロレスラー並みの体格の教師――Aクラスの担任にして学年主任の真嶋先生が指示を出す。

 

「スタッフに連絡してすぐに医務室に--残念だが今回の特別試験は棄権とする」

 

 隠し通せないと見たのかもう必要がないと判断したのか、その宣言と展開の唐突さに殆どの生徒は唖然としていた。

 

「ま、待ってください。確かに体調は思わしくありませんが、私はやれます!やらせて下さい!!」

 

 堀北は懇願するが正式なドクターストップが出た以上は覆る訳もない--恨みがましく俺を睨んでも何も変わらないぞ。

 

 でも今のままじゃ大人しく行きそうもないし--仕方ない。

 

「心配するな。お前が居ない分はちゃんと俺がフォローしてやる--お前が居なくても全然大丈夫だから」

 

「なぁ?!!」

 

 始めの方にはキョトンとしそうだったのが、最後まで聞くと屈辱的な顔に変貌した。

 

 

 そのまま文句が来そうだが、その前に指を鳴らすとあっさりと崩れ落ち直ぐ近くに居る星乃宮先生が慌てて支えた。

 

 突然の事態に再び熱と呼吸を確かめてるが、寝てるだけだと分かると珍しいものを見る目で見られた。

 

「話には聞いてたけど、本当に凄い特技を持ってるんだぁ~」

 

 いや今は俺のことより患者(ほりきた)の方だろ--とか思ってたが同じ目があちこちと言うかデッキに居る全員から浴びせられ、それは堀北を運ぶ担架が来るまで収まることはなかった。

 

「ではこれよりAクラスの生徒から順に下船、その際に携帯を担任に預けること」

 

 真嶋先生が拡声器越しに指示すると生徒たちは素直に降りていき、その際の荷物検査もスムーズに自然と整列していった--流石にあそこまで見せられて夏のバカンスが始まるなんて思う奴はいないよな。

 

 呑気だったⅮクラスの連中もこれから何が始まるのかと不安と緊張感に点呼も整列も驚くほど従順だった。

 

 全クラスの準備が終わり、真嶋先生が前に出ると全員の気がより一層に引き締まる空気を感じる--そして原因を作った俺に対して船での措置はやはり正解だったと言うような目を向けられた。

 

「まずは今日、この場に無事に到着できたのを嬉しく思う。病欠で参加できなかった一名と新たに病欠で参加できない一名についてはとても残念に思う」

 

 前置きは良いから早く本題に入ってよ--普段はちゃらけてる三バカどもでさえ真面目な顔して聞いてるんだから。

 

 そんな生徒全員の様子から改めて気を取り直して宣言が出された。

 

「すでに察しているだろうが、今回の旅の目的--本年度最初の特別試験を開始する」

 

 驚く生徒など一人としていない。目下の注目は試験内容、俺にとってもそれこそがメインだ。

 

「期間は一週間、この無人島で集団生活して過ごすことが試験となる」

 

 いきなり希望を打ち砕かれた……折角、堀北を退場させたのに…………。

 

 若干のショックを受けつつも説明は続いていく。

 

「寝泊りも島で行ってもらい、正当な理由なく船に戻ることは出来ない。

スタート時点でテントと懐中電灯が二つにマッチがひと箱、各自に歯ブラシがひとつを支給。日焼け止めと女子用の生理用品は無制限に許可している。以上だ」

 

「はああ!?ガチの無人島サバイバルって―――」

 

 池よ、文句は話が終わってからにしてくれ。

 

「今回の特別試験のテーマは『自由』だ。花火、海水浴、バーベキュー、キャンプファイヤー、あらゆる夏の楽しみを謳歌するのも構わない。

 その為に300の試験専用ポイントが支給される--日用品から娯楽品まで使用範囲は広く、計画的に使用すれば無理なく一週間を過ごせるようになっている」

 

 難易度が一段下がったが、安心できるものじゃないな。それにこれだけじゃ試験になってないし--兎に角まだ話は終わっていない、考えるのはそれからだ。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で夏休み明けに反映する」

 

 間違いなく生徒全員に衝撃が走った一言だ……もしこの場に堀北が居たら這ってでも試験に参加しようとしただろう…………早めに降ろさせて、いや降ろさせないでよかった。

 

「後の詳しいルール、ポイントで買える物は、配布するマニュアルに記載されている。再発行にはポイントを使うので注意するように。

 今回の特別試験では体調不良などでリタイアした者は30ポイントのペナルティとなる。よって旅行を欠席したAクラスと開始前にリタイアしたⅮクラスは共に270ポイントからのスタートとする」

 

 真嶋先生の話は終わり解散となり各クラスの担任による補足説明へと移るため移動する。

 

 その間にも男女問わず3万近いポイントが手に入るとはしゃいでいた--俺としてはもう少しでいいから上乗せが欲しい。

 

「これより全員に腕時計を配布する。一週間後まで身に付けておくように、許可なく外した時はペナルティが課せられる。防水使用だが万が一故障した場合は直ちに交換となる。

 この時計は把握するための体温・脈拍に人の動きを計測するセンサーにGPS、非常時を知らせるボタンを搭載している。もしもの時は迷わず押せ」

 

 安全に関する説明に不備はない--船で待機しているヘリもその一環か、結構なことだ。

 

 しかし後は自分たちで何とかしろ、自給自足かポイントで賄うか。

 尤も前者の場合はマイナス査定があり、とことんまで我慢するのは逆効果だ。

 具体的には大きく体調を崩したり、大怪我をしたりして続行不可能と判断された場合はマイナス30ポイント、そしてリタイア--堀北と坂柳がこれだな。

 環境を汚染する行為を発見したら、マイナス20ポイント。

 午前午後8時の1日2回ある点呼に遅れた場合、1人につきマイナス5ポイント。

 最後に他クラスへの暴力、略奪行為、器物破損を行なった場合、そのクラスは即失格、対象者のプライベートポイントを全て没収か。

 

 A、Ⅾクラスだと9人リタイアすれば、もう終わりか。

 

「つまりさ、ある程度のポイント使用は仕方ないってことじゃない?」

 

 うん、篠原の意見は至極もっともだ。

 

「最初から妥協する戦い方は反対だぜ。やれるところまで我慢すべきだろ」

 

 池の態度からしてサバイバルを乗り切る確かな自信があるようだから、経験があるんだろうが……。

 何を聞いてたんだよ。支給された装備と課せられた制約、それを素人以下の集団で一週間乗り切れると?

 

 ああ、逃げ出したくなってきた--だから訊いておこう。

 

「先生、ポイントを使い切った後でリタイアした場合はどうなります?」

 

「ポイントが0ならそこからの変動はない」

 

「つまりこの試験にマイナスはないと」

 

 先生は肯定し時間を観ながら説明を続ける。

 

「支給されるテントは8人用で重さは約15キロ、紛失や破損した場合の保証はない。新たなテントはポイントで購入するしかないので注意するように。ほかの支給品も同様だ」

 

「先生、僕からもひとつ。点呼は何処で行うのですか?」

 

「担任は各クラスと行動を共にする。ベースキャンプが決まったら報告しろ、私はそこに拠点を置き点呼を行う。そして全クラスは一度ベースキャンプを決めたら正当な理由なく変更はできない。例外は認めないからよく考えるように」

 

 次に先生は段ボール……俺が機関室で使ってた簡易トイレを取り出した。

 組み立てた段ボールに青いビニールをセットし吸水ポリマーシートという白いシートをいれる。これは汚物を保護し固めるもので包んで汚物を隠すとともに、消臭する。その上にシートを重ねれば、1つのビニールにつき5回ほど使用可能。という説明書の内容を思い出しながら、またかという気分になる。

 

 それは俺だけじゃなく--いや特に女子たちは俺以上のようで説明を聞き終わり、

 

「絶対無理!」

 

 篠原の叫び声に他の女子たちも同調する。

 

「トイレくらいそれで我慢しようぜ」

 

 池のまたもやの反論に篠原をはじめとした女子たちは断固拒否の構えに……これは長引きそうだ。

 

 それも自分たちで決めろと先生は淡々と説明を続ける。

 

「これより追加ルールの説明に入る」

 

「まだあるんですか」

 

「まもなくお前らにはこの島を自由に移動する時間が与えられる。

 島の各所にはスポットという場所が設けられている。そこには占有権が存在し、占有したクラスにのみ使用権が与えられ自由にできる。

 ただし占有権の効力は8時間、それが過ぎると自動的に権利は取り消され。他クラスにも占有の権利が復活する。

 一度占有するごとに1ポイントのボーナスポイントが与えられる。ただしこのポイントは前提的なもので試験中に使用できず、試験終了時にそのボーナスポイントは加算される。

 学校側は常に監視しているので不正の余地がないので注意するように。」

 

「おお、スゲェ美味しいじゃん、それ。よし、俺たちで全部取ってやろうぜ」

 

 池が目を輝かせ山内たちに声を掛けるが待ったがかかる。

 

「焦るな、これにはリスクがある。詳細はマニュアルにあるからよく考慮してからにしろ」

 

 茶柱先生の言う通り箇条書きでしっかりと書いてある。

 

・スポットを占有するには専用のキーカードが必要である

・1度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用することができる

・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、50ポイントのペナルティを受ける

・キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物に限定される

・正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない

 

 以上が大まかなルールで、8時間おきのリセットや複数同時で同じクラスが抑えられるなど先生の説明とここまでは一致する。

 

 重要なのは最後の7日目にあるリーダーを言い当てる権利。

 的中させた場合はクラスひとつに付き50ポイントを獲得し、逆に的中させられた場合は50ポイントを支払う。更にリーダーを外した場合は50ポイントの喪失だけでなく稼いだボーナスポイントがすべて無効。

 

「リーダーは一人必ず決めて貰う。参加するかは自由だ--欲を出さなければ見破られることもないだろう。

 今日の点呼までに私に報告しろ、名前を刻印したキーカードを支給する。決まらない場合はこちらで決めることになる。以上で説明を終了する」

 

 名前の刻印--つまり見ることが出来れば間違う可能性は無い訳だな。

 

「リーダーをどうするかは時間もあるし後で考えよう。まずはベースキャンプをどこにするかだね」

 

 平田がマニュアルをめくり島の形が大きさだけ記された白紙同然の地図の載ったページを開く。

 

 必要な情報は足で集めろってか。

 

「それよりもトイレ……流石にあんなのじゃ絶対無理」

 

「つっても我慢するしかねぇじゃん」

 

 篠原の再度の訴えを池はあっさりと否定したが、マニュアルを読み進めている平田が言った。

 

「いや方法はあるよ。マニュアルにはポイントで購入できる物の中に仮設トイレが設置可能って書いてある」

 

 篠原たちはこぞってマニュアルを覗き込む。

 機能的には家庭用トイレと変わらずだが、問題は設置に20ポイント必要なことか。

 

「絶対いるって!っていうか、それじゃないと無理!」

 

「まてよ!20ポイントだぜ!?」

 

 篠原の意見に女子たちが賛同するが池が異を唱え、それには少なからず賛同者が居るようだ--男子だけでなく女子の中にも。

 

 仕切っていた平田も仲裁に入るが、やっぱり長引くかな、こりゃ。

 

 

 俺は空を見上げ陽光を手の影で遮りながら、呑気に飛んでいる鳥たちが視界に入る--こっちと違いなんとも平和そうだ。

 

「嬰児はどう思う--さっき、あれだけ啖呵切ったんだ。是非に意見が聞きたい」

 

 綾小路よ、さっきのあれは堀北を大人しくさせるのと変な誤解が生じないようにと出た出任せ同然のものだったんだが…………口にしたのは事実であり一同の注目が集まってしまった……………………仕方ない。

 

「取り合えず、ここは暑くて嫌だから涼しい所に行かないか」

 

 問題を最初の方に戻す--誤魔化すなとか言われる前に、

 

「水場があることは絶対だ。可能ならスポットも含めて、どういう風に活かせる拠点かで何が必要かも見えてくるだろう。

 トイレもそうだが、ここにずっと居たって結論は出ないだろ--もう他のクラスは行っちまってるし」

 

 最後の指摘で皆が一斉に振り返ると浜辺に居るのはⅮクラスだけなのにやっと気付いた。

 

 文字通りにスタートに出遅れた--新たな事実に遅い焦りが浮かび、その中でも特に池が先陣を切る。

 

「ああ、くそ!悠長にトイレの話なんてしてられない!俺はスポットとキャンプ地を探しに行く!」

 

 須藤と山内も一緒に行くつもりのようだ--大層な自信からして止めても無駄だろうな。

 

「おい、ポイントを勝手に使うんじゃねぇぞ」

 

「言われるまでもない」

 

 森に入っていく三人を見送りながら、テントを始め支給品を確認し移動の準備を始めた。

 

 

 ***

 

 

 青々と生い茂った森の中をあるくⅮクラス--前を歩いている中でテントを苦も無く運んでいる嬰児の背を綾小路はさり気なく見ていた。

 

(乗り気でなかったから何かしら苦手なのかと思ったが実情は逆のようだな)

 

 屋上での問答曰く--堀北を棄権させたのは〝正しいこと〟で、出た台詞はその場での方便。

 

(だが確かに口にした--それは最大限利用させて貰う)

 

 綾小路は歩きながらも脳内ではクラスをいかに煽って、嬰児を動かそうかの算段を練っていた。

 

 そして使えそうなカードに目を向けると、少々辛そうであり声を掛ける。

 

「大丈夫か、愛里?」

 

「あ、うん。ありがと――――?!」

 

 佐倉は空元気をみせてくるが慣れない道に足を取られ躓きそうなるのを何とか踏みとどまる。

 

「無理はしないほうがいい。なんならオレが前に行ってもう少しゆっくり―――――」

 

「大丈夫だから。頑張ってついてくよっ」

 

 健気な姿に本当なら「偉いな」と感心するだろうが、前回のことから佐倉をダシにすればと言う目論見は駄目になった。

 

「きよぽ~ん--しんどそうな女子は他にも居るんだけどな~」

 

「愛里が頑張るって言ってんのに、お前がへばってちゃ台無しだぞ」

 

「お、みやっち流石!いいツッコミ」

 

 されどグループの空気は格段に良くなった。

 幸村にしてもやれやれと言いたげに首を振るも表情は悪いものではなかった。

 故にそれに便乗することに決めた。

 

「啓誠はどう思う?さっきは嬰児が上手く話を逸らしたが問題はすぐぶり返すぞ」

 

「単純に考えればポイントの無駄使いはするべきじゃない。女子が欲しいのも分かるが男子のものでもある、我慢すべきところはすべきとか考えてたら--あのストーカー同様、独りよがりの押し付けのような気がしてな。正直、何が正解なのか分からない」

 

「じゃあ、落ち着いたら一緒に嬰児たちと話してみないか?言ったからには責任はとことんやって貰うべきだ」

 

「ああ、別にいいが……何かされたのか?」

 

「ちょっとしたアクシデントで有栖を―――――」

 

「分かった、もういい。あとで一緒に行こう」

 

 それだけでもう十分だと言わんばかりに幸村は話を切って僅かにペースを上げる--他のメンバーも同様に。

 

(嘘はついてないよな)

 

 心の中で呟きながら綾小路も歩調を合わせた。

 

 

 ***

 

 

 程よい日陰と開けた場所で皆はいったん腰を下し、周りの気配を探るが問題はない。ひと息つこうとなってるが悠長なことは言っていられそうもないな。

 

 綾小路と幸村が近づいて来るが相手にしてはいられん。

 

「平田、トイレ込みで無理なく一週間乗り越えるポイントの見積もりを出してくれ。正確な数字が出れば話もし易いだろう」

 

「そうだね、分かった。早速始めるよ」

 

「それ、俺も手伝う」

 

 平田がマニュアルを出したタイミングで幸村の声がかかった。協力的なのは結構なことだ。

綾小路は俺の方を見て更に何か言ってきそうだが、今は本当に時間が惜しい。

 

「俺は周りを探索してくる。池たちだけじゃ効率的じゃないからな」

 

「ならオレも一緒に行こう。一人じゃ危険だろう」

 

「整備された森でしくじったりはしない。ましてや素人なんて足手纏いだ」

 

 申し出を拒否して俺は森に入る--文句は後で聞いてやるから、これ以上は引き留めるのはよしてくれよ。

 

 

 俺は早足で森を進んでいくと綾小路が追いかけてきたが待ってはやれん。

 

 クラスから完全に見えなくなる距離に来たと同時に走り出す--急がないと先を越されかねない。

 

 ああ、くそ。環境への配慮なんて項目がなきゃ『午』モードにして一直線に進めるのに。

 

 木をなぎ倒したくなるのを我慢しながらもどうにか森を抜けて人が切り開いた道に出た。

 

 道の先にはぽっかりと空いた洞窟が見えた--どうにか間に合ったか。『蠍』モードとなり暗殺者の気配立ちと周囲への同化を行い近づいていくと洞窟内から二人の人影。

 

 目を細めてみるとAクラスの葛城と戸塚だ--何とも不用心なことに葛城の手にはカードキーが。

 

 二人の視界に入らないように隠れて様子を窺う。

 

「運も俺たちの味方ですね、この大きさならテント二つでいけますよ葛城さん。しかもスポットでもあるなんて」

 

「運?お前は何を見ていた。ここに洞窟があるのは上陸前から分かっていたことだ」

 

「上陸前から?」

 

「そうだ。奇妙なアナウンスから始まり不自然な旋回速度で島を一周、全ては学校がからのヒントだ。ならば最短ルートで確保するのは必定--ここの他にも見えた道にも何かしらあるはずだ」

 

「流石です!学校側の意図を全部見抜いてたなんて、これで坂柳も――――」

 

「お喋りはそこまでだ。誰が聞き耳を立てているのか分からないんだ--俺にはリーダーとしての監督責任がある。あまり手を掛けさせるな」

 

 カードを見せつけながら注意してる--うん、おっしゃる通りだよ葛城。

 

 俺はその手からカードを摘まんで取り読み上げる。

 

「トツカヤヒコ--葛城ってのは偽名だったのか?」

 

「「!!??」」

 

 驚いてる間に距離を取って向き直ると冷や汗を浮かべた葛城が訊いてきた。

 

「いつから居た?」

 

「運も俺たちの味方ってところから」

 

 つまりは最初からだと分かると葛城の冷や汗は増え、失態を犯した戸塚の顔は真っ青になった。

 

 男と見つめ合う趣味は無いからとっとと行こうかな。

 

「待て!他クラスへの略奪は即失格だぞ……分かってるのか!?」

 

「そ、そうだ!俺たちが訴え出れば――――――」

 

 苦し紛れにしては中々いい所を突いてきたが全然駄目だね。

 

「俺はただ落とし物を拾っただけだ。だから落とし主を確認しなきゃ返すわけにはいかないね」

 

「何言ってやがる。俺の名前があるだろうが」

 

「俺、お前のこと葛城の手下その1としか覚えて無くてな。この名前がそうだと言われてもちょっとね。ひょっとしたらⅮのかも知れないし、BCの可能性もあるから聞いてみないと」

 

「何をぬけぬけと!」

 

「よせ、弥彦」

 

 怒り形相で俺に向かってきそうなのを葛城が止める--こいつは逆に頭が冷えたか。

 

「こいつの名前は戸塚弥彦だと俺が言っても通じないな?」

 

「当たり前でしょ。ひょっとしたら洞窟の中に潜んでるのが居たりとか、確かめようとして背後から襲われちゃ堪らないし」

 

「ふざけるな!お前みたいのが早々居るわけねぇだろ!」

 

「いい加減、黙れ弥彦」

 

 葛城のドスの利いた声に悔しそうに引っ込む。

 改めて俺に向き直った葛城からは冷や汗もなく落ち着いた声で言った。

 

「屁理屈の応酬は止めにして提案がある。口止め料として100万prポイント支払うと約束するから、見聞きしたことは忘れて欲しい」

 

 金で解決を図るか--妥当だがちょっと違うよ。

 

「120だ」

 

「120万ポイントだな。分かった口約束ではお互いに心持たないだろから正式な書面を―――――」

 

「違う。試験ポイントを120寄こせって言ってるんだ」

 

 交渉が成立したと思ったんだろうが一転して違う方向となり、かつ吹っ掛けられた金額に再び二人は固まってしまった。

 

 復活するまで待つのもなんだしストレートな交渉をお望みとのことだから、

 

「嫌ならいいよ。BとCにそれぞれ40で交渉するから」

 

「…………俺たちの三分の一だと足元見るのも大概に――――」

 

「さっき黙れと言ったぞ」

 

 暴走しそうな戸塚を再び止める葛城……随分と苦労してそうだ。

 

 頭の中でそろばんを弾いてみればどっちがマシかは明らかなのに。

 

 俺がこの情報をAでなくBとCに売れば、120は支払わなくても3クラスのリーダー当てにより150の損失、しかもボーナスポイントは無効だからスポットをいくつ占有したって無意味。

 更に生活に必要なポイントを引けばひと桁もいけばいい方だろう。

 

 それでもすぐにウンとは言わないあたり何かしらの打開策を見いだせないかと藻掻いてるのか?それなら――

 

「受けるならリーダーは俺の胸にしまっておくし、スポットもⅮはひとつだけしか占有しないことを約束させる。他のスポットは手を出さないから頑張れば巻き返せるかもよ」

 

 俺の提案に葛城の目尻が少し動いた--ま、よく考えてくれや。

 

「その条件でいいなら正式な書面を用意してくれ、2時間後にまた来るから」

 

 じゃあ、と俺はその場を後にしてクラスに合流することにするがルートは来たのとは違いやや遠回りする。

 すぐさまに視界には須藤を笑った他クラスの生徒が入った。

 こっちに気付かれる前に隠れたようだが最初から居るのを知っていた分、見つけるのは容易だった--あれが龍園か。

 その手には一枚の書面--『鵜の目鷹の目』で鳥に覗き見させた内容を大雑把にすると、Aクラスに全面協力する代わりに坂柳を除くクラス全員が毎月2万ポイントを卒業まで龍園に支払い続けると言う契約書。

 尤も額面通りにするとは思えないからプラスアルファ何かしそうな気もするけど流石に情報不足で見当は付かない。

 それでもこの契約が結ばれたら葛城も流石に自棄を起こしてたかも知れない……間に合ってよかった。

 

 見るものを見て用件を終わらせて元の場所に戻るとそこには綾小路しか居らず直ぐに説明を受けた。

 

「池が水源のスポットを発見したそうだ。依頼してた見積もりも出来たから直ぐに合流してくれとのことだ」

 

 無言のまま肯き案内されると綺麗な川が静かに流れる場所に着いた。

 機械が埋め込まれた大岩があり、周囲は深い森と砂利道に囲まれているが、どう見ても人の手が入っているな。

 

「お、やっと来たか嬰児。どうだよ、リクエスト通りの場所見つけたぞ」

 

 池が胸を張って自慢してくるが、ここは素直に関心だな。

 良質な水源、暑さを遮る日陰、地面も地ならしされてて申し分ない。

 スポットも兼ねていて拠点としては最適だ--池も予想通りに使えそうだ。

 

「それで嬰児は何か見つけたのか?」

 

 嫌味でなく単純に聞いただけみたいだから何もなしでも流されて終わり--そもそもニュアンスからして特に期待もしてなさそうだ。

 

 俺はさっき拝借したカードを差し出す。

 

「なんだこれ?トツカヤヒコって誰だ?」

 

「それキーカードだよ!そんなバカな!?」

 

 平田が慌てて荷物を確認するがカードはちゃんとあって胸を撫で下ろす。だが名前のない状態を見て、状況を正確に把握して驚きの目で俺を見てきた--ちなみにそれは平田だけじゃなく他にも数人いたりした。

 

「Aクラスが落としたのを拾ってな」

 

 適当な岩に腰を下ろしながら周囲を見渡すと驚きはクラス中に広がった。

 

「拾ったって……マ、マジかよ!?」

「けどこれでプラス50ポイント……」

「リタイア分もチャラどころか、お釣りがでるぞ」

 

 突然舞い込んできたさっき以上の朗報に喜びの声が、

 

「だ、だけどこんな大事なのを落とすなんて」

「………まさか、無理矢理奪って来たとか?」

「ちょっと、それヤバくない……私たちまとめて失格じゃん」

 

 中には冷静な意見も出てきており、平田がぎこちない仕草で尋ねてきた。

 

「一体どう言うことなのか説明してくれるかな?」

 

「勿論だ」

 

 

 

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