どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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紳士的に○○

 俺はAクラス--正確には葛城と交わしたやり取りを子細隠さず話した。

 

「リーダー当てしない代わりに120ポイント」

「スポット占有がひとつ……ってことは、要はここだけってこと」

「結局マイナスのままじゃんか」

 

 懐疑的な意見がまずは出た。

 

「いやそうとも限らない」

 

 そこに平田が待ったをかけて一枚の用紙を出す。

 

「幸村くんと一緒に一週間乗り切る見積もりを作ってみた--結果、無理なく過ごすには180必要だと算出された。勿論これは水も食料もポイントで賄う前提だから工夫すればもっと少なくできる」

 

 川を見ながらの説明に希望が湧き上がるのが感じるな。

 

「嬰児くんの取引で120とスポットもひとつとは言え占有することが出来れば結果的にはマイナスは50以下で済む。安易にリーダー当てをしたり、スポット探しに躍起になってリーダーを晒すリスクを得るよりかは――――――」

 

 平田が上手く纏めようとしているが訂正すべき箇所がひとつあるな。

 

「平田、それは違うよ。マイナスは50じゃなくて80だ」

 

「ど、どういうこと?」

 

 事態が呑み込めてない中で軽井沢が訊いて来たので答えを教える。

 

「言ったままだ。既に一人、居なくなってるぞ」

 

「あ、高円寺君が居ない!」

「それなら探索に行くって志願していって」

「……ちょっと遅れてるだけだよね?」

 

 戻ってくると本気で思ってるのか?--流石に今までのことを考えてそんな奴はいないか。

 幸村が額に手を当てながら俺に問う。

 

「つまり嬰児がリーダー当てを選ばなかったのは、やったとしても結局マイナス10でプラスに転じないと読んだからか?」

 

 当初の様子を見て俺も逃げ出したいと思ったからな。他に居たとしても不思議じゃない--思っただけで実行するには相当な胆力がいるだろうが、それこそ奴には問うだけ無駄だろう。

 

「そ……それでも、どうにか工夫すれば200超には出来る可能性は十分にある。

 僕はAクラスとの取引に応じても--いや応じるべきだと強く思うよ。嬰児くん」

 

 最後に俺の名を出したのは淀んだ空気を払拭するためか単に俺を立ててくれたのか。

 

「うん、あたしも賛成。他所のポイントならトイレも気兼ねなく買えるし」

 

 軽井沢が平田の意見に真っ先に賛成すると。

 

「わ、私も」

 

 王が続き、散々トイレについて言っていた篠原たち軽井沢の取り巻きも続いていき女子たちの意見の大勢は決まった。

 

「俺も一票入れる--270から200になるのはちょっと思う所があるが、リスクを取らないで済むのは大きなメリットだ」

 

 幸村もどうにか持ち直し賛成に回る。

 

「異議なし」

「右に同じく、オレも嬰児の取引を受けるべきに一票入れる」

 

 グループを組んでいる三宅と綾小路も続いたが--綾小路よ、俺の手柄だと持ち上げても乗せられはせんぞ。

 

 ともあれ流れは出来上がり黙っていた奴らも次々に賛成していき残るのは三バカだけ。

 

「俺も別にいいぜ」

 

 と山内が流れに逆らうことなく言うと、

 

「ま、反対する理由はねぇよな」

 

 池も渋々ながらも賛成する--もっと活躍できるとか思ってるんだろうが埋め合わせはちゃんとするから心配するな。

 

「言った通りに男を見せたんだから、俺もケチをつける気はねえ」

 

 最後に須藤--恥かかされた恨みとかで反発すると思ってたが、結果的に堀北を助けたので借りがあるとか勝手に思ってるのか?

 

 まぁ、話は纏まったので約束の時間までに必要な品をリストアップして同時に俺以外にクラスの代表として赴くメンバーとして平田と綾小路が決まった。

 

 

 ***

 

 

「取引の内容はこれでいいとして、僕たちの方も早く決めないといけないことがある」

 

 平田の言葉に櫛田が反応する。

 

「リーダーをどうするかだよね」

 

「うん。ここを占有するしないに関わらず絶対に決めなきゃいけないルールだし、誰に任せるか--どこに目があるのか分からないし慎重に行かないと」

 

 前例を見せられただけに皆の表情も硬くなる--その責任の重さに立候補を名乗り出るものは皆無であった。

 

 嬰児のようなのが早々居るとは思えないが絶対とは言い切れない。

 それでなくとも何の拍子でミスを犯すかもしれない不安。

 いっそのこと自分たちで決めずに時間切れで学校側のランダムに任せた方が--それなら諦めもつくと平田が考えをまとめたが、

 

「ねぇ、平田くん。それも大事だけど、あたしたちもポイント使わなきゃいけないならトイレ早く設置してほしいんだけど」

 

 軽井沢の声に女子も肯き、結論が少し先に延びた。

 

「ああ、そうだね。じゃあ申請をすぐに―――」

 

「それとさ、節約して浮いた分--ちょっとでいいから使っちゃダメかな」

 

「何を言ってる!ただでさえ二人もリタイアしてるんだ。必要な物が嬰児のお陰でうまく切り抜けられるようになったからって、必要のない物に使うなんて――――――」

 

「いいんじゃないの」

 

 幸村が捲し立てたのを遮って嬰児が肯定する。一番の大手柄を上げただけに発言には力があり黙らざるを得ない。

 

「え、ホントに!」

 

「ただし、条件がある。

 リーダーをお前のグループから決めること。それがバレない様に責任を持つことだ」

 

 しかし甘い訳もなく嬰児の意図に幸村も反対だった者たちも納得して成り行きを見守る。

 

「もしバレて50とボーナスを失うことになったら、相応の責任を取って貰う。それを約束するなら--そうだな、責任の重さを考慮して12までは許す」

 

「分かった。約束する」

 

 この即答に周りも持ち掛けた嬰児も面食らう。

 

「そうか--じゃ、早速決めてくれ」

 

「じゃあ、松下さん。お願いできる」

 

「え、私?」

 

 軽井沢に指名された松下千秋は自分を指さし困惑した。

 

「あたしじゃ、どうしても目立っちゃうし--あたしたちの中じゃ松下さんが一番しっかりしてるから適役だと思ったんだけど、駄目かな?」

 

「い、いや私なんかじゃ……」

 

「バレない様にあたしたちもちゃんと守るから、だからお願い!」

 

 ただの勢いで決めた訳ではないようであり、そして嬰児に任せられた役割を真面目に果たそうとしている姿は見かけと普段の彼女からしてギャップしかなく--そんなに欲しい物があるのかと興味を湧かせた。

 

「はぁ~。分かった、引き受けるよ。ちゃんと守ってね--嬰児くんたちもね」

 

 さり気なく嬰児を巻き込み共通認識が全員に行き渡った。

 

「兎に角、これで主だった問題はクリアしたから--あとの日常の問題は臨機応変に、いや起こさないように注意していこう」

 

 平田が締めて解散となり、軽井沢たちは茶柱のもとに松下千秋をリーダーに申請しに行き、Aクラスに赴くメンバーは待機し、それ以外は食料探しや薪拾いに駆り出した。

 

 

 嬰児は少し離れた木陰に座って特に何もしてないが文句を言える訳もなく--ただ静かに目を瞑っていた。

 

 そこに近づいて行く綾小路--表情はいつも通りだが内心は不可解が占めていた。

 

(徐々に焚き付けていくつもりが、いきなりとんでもない成果--これ以上は何も言えないのを狙ったのか?)

 

 無難な推測を立てつつも想像の域をでないため直接訊くつもりなのだが、何処まで答えてくるのか--考えても仕方ないので声を掛ける。

 

「随分とご活躍だな。嬰児」

 

「お前の言った通りの展開だろ。口にした言葉を守ったまでさ」

 

「それはそうだが--ここまで攻撃的にやるとは思ってなかったな」

 

 それにしても早すぎるし手際もよすぎることから異能を使ったのだろうが--反則気味と言った後ろめたさは声や態度からは感じ取れない。

 

(持っているものを使っただけだから、当然と言えば当然か)

 

 実際にそんなことは綾小路にもどうでもよく知りたいのはその経緯--どういった能力を駆使したのかだ。

 

 しかし何処に耳があるかも分からず気に掛けてはいるが、異能の無い常人を自覚している綾小路はストレートに訊く訳にはいかず遠回しであるも適切な話題を投げかける。

 

「Aクラスじゃ今は魔女裁判になっているかな?」

 

「さあね。もうあっちには興味はないが--綾小路なら俺の攻撃をどう凌ぐ?」

 

 この問い返しに少なくともAクラスの耳は近くに無いと判断しつつ、他に耳があった場合の意図を考察しつつ、綾小路の対応策を語る。

 

「結論から言えばリーダーを入れ替える」

 

「ほう、どうやって?」

 

「ルールに明記されている。正当な理由なくリーダーの交代は出来ないと」

 

「なるほどね。正当な理由を作り上げるのか」

 

「そのままリーダーを誤認させて全クラスのリーダー当ては外して50のマイナスに誘導、敗残を装いながら他のリーダーを探れば更に50、ボーナスポイントも無効にできて150ポイントと絶対にバレない自陣のスポットで20弱のポイントを得る--そんな様子はあるのか?」

 

「ない。吊し上げ食らって正常に頭が回らないんじゃないか--あってもそんな裏技に辿りつく柔軟性はないと思うぞ」

 

「確かに優秀な男だが頭は固そうだからな」

 

 正攻法で自らを高めてきた故に誇り高いのだろうが、それ故に背後からの--見えにくい攻撃への想定が甘くて脆弱である--それが綾小路の下した結論だった。

 

「嬰児だったら、そもそも(・・・・)どう試験に挑んでいた?」

 

「そもそも、か--試験そのものを放棄して坂柳派に丸投げするな」

 

「有栖が居ないのに丸投げ?」

 

「今回の葛城の敗因はAクラスの利益とリーダーの座を一緒に欲したことだ」

 

「別に矛盾はしてないと思うが」

 

「矛盾してなくとも二つは別物だ--真っ二つに割れてる状態で集団による戦いを挑もうなど愚の骨頂。まずは内部の憂いを断つべきだ」

 

「だから、ぐぅの音でも出ない結果を出そうとしてたんだろ」

 

「それが甘いんだよ--何よりこれは俺だったらって前提だろ。俺なら分かり易い弱点を徹底的に突く、そして坂柳の弱点は身体にハンデを抱えてることだ。

 こういう試験もそうだが体を使うかもしれない試験があと何回あるのか?その都度頼ることの出来ないリーダーでいいのかって思いを抱かせる。それで損失を出しても責任は坂柳が取るべきだとすれば彼女に付いてる連中も寝返る可能性は大いにある」

 

「仮に大丈夫でAクラスが利益を出したなら?」

 

「Aクラスの為を思うなら負けを認め、結果を出すうちは従うと発破を掛けて働かせる。

 クラスの利益よりリーダーの座を求めるなら--直接的な妨害を好まないとしても手下どもにプレッシャーをがんがん与えて失敗を誘発させるな」

 

 二兎追う者は一兎も得ず--今回の件も嬰児でなく坂柳派の裏切りで目論見が大いに崩れていた可能背は高い。彼女なら例えクラスの不利益になったとしても女王(トップ)の座を欲して許容し、しかる後に盤石の態勢を持って事に当たることを選んだだろう。

 同じクラスだから裏切りはないという甘い考え--否、坂柳不在でトップに立てる状況に目がくらみ目的(よく)をひとつに絞らなかった。

 

 つまりは最初から間違えており、そのまま突き進んだ必然的な敗北。

 綾小路は嬰児の考えを聞きながら、その心を垣間見られたことに今はこれで十分だとした。

 

「さて、そろそろ時間だ。行こうか」

 

 嬰児が立ち上がると近くに平田が来ており綾小路も立ち上がった。

 

 

 ***

 

 

「よう綾小路。待ってたぜ」

 

 Aクラスの洞窟に行くと葛城でなく、見覚えのある金髪が出迎えてくれた--佐倉の一件で見届け人を務めた坂柳の取り巻きの一人だったな。両隣に強面とサイドテールの女子、確か神室とかいったか。

 

「橋本、すまんが挨拶は抜きにしてくれ」

 

 律義に教えてくれてありがとうよ。

 

「おお、そうか。それじゃ」

 

 橋本も嫌な顔せずに用紙を差し出してきた。

 内容は俺の提示した条件をそのままであり、脚色や拡大解釈できる表現は見当たらない。

 葛城が後ろの隅に立たされ戸塚が悔しそうに俯いているところを見るに坂柳派が完全に主導権を取り彼女の代行としてこの三人が取り仕切ってるようだ。

 

「確認した。それじゃこちらも」

 

 綾小路に促されカードキーを返すと橋本は笑みを浮かべなら戸塚に投げ渡す。

 

「ほらよ。今度はなくすんじゃねぇぞ--これからは大変なんだから」

 

 愉快なニュアンス--スポット確保に手を貸す気はないみたいだな。

 

 その様子に平田は複雑そうな顔するがこれも勝負の結果だ。無用な情けは掛けようものなら即座に引っ込めるぞ。

 

「Ⅾクラスの要求するものはリストアップしておいた。今日中に頼むよ」

 

「直ぐに手配する--それとそんな顔をするな。同情なんてして貰いたくねぇし、これは相手を舐めてた馬鹿な奴の不始末だ」

 

 通りの良い声に黙っていた葛城も若干肩を震わせるが我慢している。

 

「それに俺としてはⅮクラスが戦うに値するって証明されたのはある意味で行幸だ。いくらボスの幼馴染が居るって言っても--やっぱりどっか懐疑的だったからな」

 

 橋本の声が嬉しそうなのから挑戦的なものに変わり綾小路を見据える--同時に何故か平田の目にも光が宿ったが、どうしたっていうんだ?

 

「次はこうは行かないぜ。二学期からは完全な一党体制、もう死角なんてねぇ」

 

「知ってるよ。有栖は(キング)を取るためなら女王(クイーン)も躊躇なく棄てる指し手だからな」

 

 

 さっきの俺の見解も入ってないか--それとも皮肉でも込められてるのか?

 

「こっちも望むところだよ。Ⅾクラス(ぼくたち)も全力でサポートする」

 

 平田のニュアンスにも熱がある--お前らいつ共闘関係を結んだんだよ?

 俺が主導したのに置いてけぼりを食らったみたいで話は進んでいき、聞きたいけど聞きたくない気持ちで俺はベースキャンプに戻った。

 

 

 ***

 

 

「高円寺は体調不良でリタイアした。現在は船内で療養と待機を義務付けられている」

 

 既に分かり切っていたとは言え、クラスは怒り心頭であった。

 

「クソったれ……ちょっとでも期待したのに」

 

 幸村が吐き捨てるが、届いた物資に怒りを収めつつ確認作業に入った。

 

 他のメンバーも焚火を熾そうと苦慮していたり、集めた果物を並べ検討したりとしていたが俄然、経験者が居らず正しい判断を下すことが出来ない。

 

 こんな時に頼りになる平田も物資の確認で空いておらず、嬰児に白羽の矢が立ちそうなるが、

 

「お前ら何やってんの?」

 

 池が戻ってきて手際よく焚火を熾し、果物の説明をしながら子供のようにはしゃいだ。

 

 ひと通りのレクチャーが済んだ後、篠原に向かい真面目な顔で言った。

 

「篠原、さっきは悪かった」

 

「え、なによ突然……」

 

「初めてキャンプした日を思い出してさ--汚れ放題の酷いトイレで使うのが嫌でスゲェ帰りたかった。

 …………やったこともないのにいきなりサバイバルなんて嫌なのが普通だ。ましてや女子だもんな、独り善がりが過ぎた。悪かった」

 

 冷静に客観的に反省し謝罪する--口にするのは容易いが実行するには勇気が要る。

 池の出来た姿に篠原も矛を収めることが出来たようでバツの悪い顔となり返した。

 

「私も……ごめん。かなり意固地になってた……そうだよね、私だってポイントを残したく無い訳じゃないし頑張らないとね」

 

 相手の主張も認め譲歩を示す--二人の和解が成立しクラス内の結束はより高まったかに思わせた。

 

 その期を見計らい平田が声を上げる。

 

「みんな、物資の確認が済んだ。予定通りⅮクラスは一週間を無理なくいける。

 だけどそれに胡坐をかいてちゃ駄目だ。1ポイントでも多く残すためには一人ひとりの頑張りが必要だ--でも決して楽しめない状態でもない、寧ろ困難を楽しみで補う方法を模索していけば、それは更に良い結果を残すことが出来る」

 

 平田の言う良い結果とは単純なポイント残高だけではないだろう--クラスそのものの結束と絆、言葉に熱の入りようが違う。

 

「幸い僕たちには可能性を示してくれる知恵袋が二人もいるし、Aクラスの関係も綾小路くんのお陰で思っていたほどに険悪にならずに済みそうだ」

 

 この説明で話の主役の一人に引き出された綾小路も注目される。

 

「僕たちは戦えない訳じゃない--戦うべきAクラス(もくひょう)は憎む敵じゃなくて、その先を良い思い出にできる好敵手と呼べるのを僕はさっき確信した。

 その為にみんなの力を合わせて戦って欲しい--そして、最後には笑って卒業して行きたい」

 

 平田の演説が終わると佐倉が真っ先に拍手した--続いて綾小路グループに櫛田、軽井沢のグループ、含みを持たない男子たちも。

 

「ありがとう」

 

 平田は感嘆極まり、なし崩しに利用された綾小路は頬をかいた。

 

 

 ***

 

 

 皆が寝静まり、空を見上げると綺麗な月が目に入る。

 

 しかし俺が起きたのは詩人を気取るためじゃない--島を大きく移動して山を挟んで船の反対側に向かう。

 

 手には『申』の仙術で作った絶妙な硬度の汚れた氷塊。

 

 ふう--と息を吐いて『酉』と『射手』を併用して目標をロック。

 

 力いっぱいに空に向かって投擲--山を越えて高度一万を超えていき、放物線を描きながら落下していく。

 

 

 ***

 

 

 船上デッキに佇む体調不良でリタイアしたはずの高円寺。

 

「フフフ--月が綺麗だ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら空の月に向かい仰々しいポーズをとる姿は健康そのもの。

 

「――――?!」

 

 直後に落ちてきた冷たい何かが額を直撃して砕け散った--全く予想外で不可解な事態に思考を巡らせない。

 

 混乱しているからではない--砕けたとは言え硬度があり落下速度も加わった一撃は額を割り派手な血を飛び散らせ高円寺の意識を奪ったのだ。

 

 大の字で仰向けに倒れたが直ぐにスタッフが駆けつけて大事には至らなかった。

 

 しかし精密検査と暫らくの静養を余儀なくされ、奇しくも本当の脱落者となったのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 よしよし--見事に命中だな。

 

 命に別状はないように調整しといたから、出来るなら少し放置されてて欲しかったが仕方ないか。

 

 さて次は『射手』を解かずに適当な小石を数個握り、『水瓶』を使用--海に手を入れて海流を操作し魚を空中に打ち上げる。

 即座に狙いを定めて小石を投げると魚は気絶し海面に浮く--頑張った報酬だ、遠慮なく食べてくれ鳥たちよ。

 

 おおっと魚を啄んでいる鳥たちを眺めてばかりはおれんな--誰か、綾小路が追いかけて来たようだ。

 

 夜更かししたくないし、とっとと退散しよう。

 

 俺はそのまま島を一周する形でキャンプに戻り、一時間近くして綾小路戻ってきたが疲れたのかそのまま寝た。

 

 

 

 朝が来た。

 

 男子たちの目覚めは悪くはなかったがいいとも言えず目が胡乱なのが殆どだった。

 

 一方、女子の方は許した12ポイントで快適な環境を整えておりストレスは格段に軽かろう--その分の責任を負わせているが軽井沢が取り仕切って見張りを立て周囲の警戒を徹底させており松下(リーダー)を囲み数人とまぎれさせるのも櫛田グループも混ぜており、働きぶりには文句はない。

 

 従っている女子たちも軽井沢個人でなく女子全体の為の出費であり、昨日の篠原と池のやり取り、平田の演説が上手く機能しているのか真面目にこなしている。

 

 Ⅾの方針は決まり、ひとつのスポットを守り通して創意工夫を持って楽しみながら過ごす。

 Aとの話は付いたが反撃の可能性はあり、BとCはどうしてくのか?

 そう言えば今朝がた誰かが来てたな--行き帰りの方向からするとBクラス、かすかにだが無線の音もしたしまず偵察だろうな。

 Cクラスは考える必要はないか--少なくともこの試験では。

 

 点呼が終わり更新時間も大分あることから魚釣りや森の散策を志願するのが行ったが、俺は待機を選択した。

 

 ただ妙に使命感に燃えている軽井沢が俺の目の前で見せつけるように迂闊な行動をするなとか仕切りを発揮しているが何のつもりだ?

 

 っと、それは後にして客が来た。

 

「な、なんだよお前ら?!」

 

「あ、てめぇ!」

 

 釣りをしていた池の叫び声に注目が集まると二人の男子を引き連れた龍園--須藤はデッキで笑われたのを思い出したのか見た瞬間に顔が険しくなった。

 

 愉快そうにベースキャンプを軽く見回すと俺に近づいて来る。

 

「よう。もっと派手にやってると思ったが割と質素だな--牛井」

 

 間違いなくワザとだな--俺は睨みながら返す。

 

「まずは名乗れ--誰だ。貴様ら?」

 

「俺のことが分からねぇってか--まぁいい。俺はCクラスの龍園だ」

「小宮だ」

「近藤……」

 

 名乗りを終えたので、

 

「一応は初対面だし、俺は牛井―――」

 

「それだけで十分だ。う・し・い」

 

 名乗りを遮り苗字を強調してくる--喧嘩を売っているようでその実、試してるな。

 

「おい!いい加減しろよ!人のクラスに勝手に入ってきやがて!!」

 

 同じく近づいて来た須藤が威嚇するが--人が話してるんだから勝手に割り込んでくるな。

 

 龍園も興味がないようで無視して俺を見たまま話を続ける。

 

「まさか初日にして葛城を叩き潰すとはな--俺も獲物に定めて作戦考えてたんだが全部パァだぜ」

 

「それはご愁傷様--それで?」

 

 挑発に対して挑発で返すと愉快そうに言った。

 

「今日来たのはただの挨拶だ--だが出来れば、どうやって潰したのか教えてくれねぇか?」

 

「こうやってだ」

 

「!!?」

 

 既に『蠍』は発動済み--気配を殺して立ち上がり龍園の胸に手を添える。

 意識を完全に外された不意打ちだったが、龍園は半歩後ずさるだけで踏みとどまった――ちなみに小宮と近藤は大幅に一歩下がって驚愕してる。

 

「大したもんだな。誰かさんはあっさり尻もち付いたのに」

 

「嬰児!てめぇ!!」

 

 須藤が俺に手を伸ばすが、それより早く顔面の頬ギリギリに俺の拳が届く--頭が冷えたか?

 

 俺は寸止めの状態のまま冷ややかな声で問う。

 

「問題。俺とお前、粋がってるのはどっち?」

 

 須藤は顔をひきつらせたまま何も答えない。

 その様子を見ていた面々は固唾を飲み。

 唯一の例外が大笑いしながら手を叩いた。

 

「ハハハハハッ--いやおもしれえな。気に入ったぜ、暇してるんなら浜辺に来いよ。面白い物見せてやるよ」

 

 愉快な声でそう言うと龍園は笑いながら去って行く--さて、あいつの中でどんな思考が展開されたのかな。

 

 手を下ろすと須藤は悔し顔で行き、同情なのか恐怖か誰も声を掛けない。

 そんな中で須藤じゃなくて俺を見ている二つの視線--ひとつは綾小路で目に好奇心の光が灯っており、もうひとつは軽井沢だがその目には妙な期待感を感じた。

 

 それが何かは後にして、暇してるのも事実だし俺は浜辺に行くとするか。

 

「待て、オレも一緒に行く」

「あ、あたしもついていっていいかな?」

 

 綾小路と軽井沢がほぼ同時に言って来た--顔を合わせた後に二人はそれぞれ言う。

 

「オレはどうも気になってな。確かめたい」

「あたしも次の更新まで暇だし……ダメかな?」

 

「別に構わんが」

 

 俺はな--だが彼氏(ひらた)を差し置いて別の男と行動するとは、しかもそれを堂々と公言してんのに平田は何も言わないし--こいつら、どうなってんだ?

 

 

 ***

 

 

 白い砂浜、青い海、照り付ける陽光の中で嬰児たちは立ち尽くす。

 

「うそ……でしょ……」

 

 目の前の光景が信じられないのか軽井沢はありありと戸惑っている--綾小路も信じられないようで呆然としている。

 

 Cクラスはまさしく南の島のバカンスを満喫していた。

 仮設トイレやシャワーが設置されているのはまだ理解するが、それ以外は理解できない。

 日光対策のタープにバーベキューセット。

 チェアーにパラソル。スナック菓子とドリンクと娯楽に必要なありとあらゆる設備。

 肉を焦がす煙と笑い声。

 沖合では水上バイクが駆け抜け、海を満喫する生徒が悲鳴をあげながら楽しんでいる。

 ざっと見渡すだけでも150ポイントは吐き出していることが伺えた。

 

「0ポイント作戦か--面白い」

 

 綾小路は全容を把握したようだが軽井沢には理解が出来ず、嬰児は興味もないようで龍園のもとにまっすぐ向かう。

 

「よう、どうだ中々だろう--歓迎するからゆっくりしていきな」

 

 水着でチェアーに寝そべっている龍園が愉快に白い歯を見せる。

 

「肉を食おうが水上スキーを楽しもうが好きなだけしていけ--どうせ俺たちは今日中に船に戻る」

 

 龍園の台詞に綾小路と嬰児は驚きはないが、軽井沢は付いていけず動揺する。

 

「え、え……どういうこと?」

 

 その様子を見て笑いながら龍園は続けた。

 

「使えねぇ女連れて来たな――なんだったらもっといい女でもつけてやろうか。おい伊吹!」

 

「ちょ、ちょっと勝手に決めるな!」

 

 近くに控えていた伊吹が抗議する--スレンダーな体つきだが髪の色に合わせた淡い翠色の水着(ビキニ)は誰もがよく似合うと褒めること間違いなしだろう。

 

 その姿に触発された軽井沢が大声を上げようとした。

 

「駄目に決まってるでしょ!」

 

 と、嬰児の前に出て言おうとした--しかしその前に嬰児は手を前に出して言った。

 

「悪いが遠慮する」

 

 その対応に軽井沢は安堵し、伊吹は複雑な顔だ。

 

 龍園の愉快そうな声はまだ続き、

 

「はは--振られちまったな。じゃあ別なのでどうだ。ひより、来い!」

 

「はい。なんでしょう?」

 

 近くのビーチパラソルの影で本を読んでいた椎名が立ちあり近づいて来る。髪を結い白いワンピースの水着姿から覗かせる体つきもまた魅力的だった。

 

「客が来たからホステス役やれ」

 

「はぁ、ご指名とあらば」

 

「悪いが遊びたい気分じゃないで、またにしてくれ」

 

 本を閉じて命令を受けたが嬰児にその気はなく丁重に断った。

 

「そうですか。残念です」

 

「待て。まだ少し居ろ」

 

 用は済んだと椎名はパラソルに戻ろうとするが龍園が引き留るーーどうやら彼女にも聴かせたいようだ。

 意図を察しながら嬰児は淡々と龍園の判断への感想を言った。

 

「勝ち目がない戦いはしないか--意外に殊勝だな」

 

「この戦場(フィールド)じゃ、テメェの独壇場なのはさっき確かめたからな。

 俺たちに限らず全クラスは圧倒的に不利、不本意だが不戦敗とさせて貰うぜ--今回は」

 

「なにそれ--負け惜しみ?」

 

「軽井沢、静かにしてろ」

 

「ご、ごめん」

 

 軽口を叩く軽井沢を嬰児は強い口調で騙させる。

 やや怯えながらあっさり引き下がるのを横目で見て、再び龍園に目を向ける。

 完全に飼い馴らされている姿は龍園には受けて声が更に陽気なる。

 

「そう言えばⅮは二人もリタイアしてるんだってな。言伝でもあれば引き受けてやるぜ」

 

「申し出はありがたいが、そう言うのは試験が終わってからするつもりだ」

 

「そうか--じゃあ精々その時を楽しみしてるぜ。今夜からはまた豪華客船で贅沢三昧だが、後の楽しみが出来たのは嬉しい限りだぜ」

 

「それはよかったな--じゃあ、他にも行くところがあるんで。六日後に会おう」

 

 嬰児たちが去って行き見えなくなる--龍園は左手を上げ人差し指を向かった方向に数回振って行き先を推測する。

 

「ひより、奴ら何処に向かった?」

 

「あの先にあるのはBクラスのキャンプでは」

 

 自分と同じ答えに満足し立ち上がる。

 

「テメェら、よく聞け!予定変更だ。夕方まで遊ぶつもりだったが、日が高いうちに船に戻る。余ってるポイントも今使ってる遊び道具も全力で使いきれ!」

 

「おやおや、撤退を早めるのですか。龍園氏?」

 

 眼鏡をしたおかっぱの男子が訊く。

 

「そうだ、金田。あの牛野郎、間違いなく素人じゃねぇ--それも趣味でキャンプしたとかいうレベルじゃねぇほどにな」

 

「確かに明らかに慣れてる感じはありましたね」

 

 金田と呼ばれた生徒も肯定する。

 さっきの話し合いでも龍園を冷静に分析しており、それ以前に堀北をリタイアさせた場面は彼も見ており、学生の域に無い知識と技量、経験を垣間見せた。

 門外漢が束になっても勝ち目が薄い--暴力を用いるだけでなく冷静に引くことの出来る度量、改めて龍園(リーダー)の実力に敬意を表す。

 

 何よりも転んでもただで起きるような男でないことはもう十分に知っている(・・・・・)

 

「納得したようだな--俺は日光浴の場所を変える。戻る準備が出来たら呼びに来い--それまでは存分に楽しみな。俺が許す」

 

 龍園は手ごろな岩場に寝そべり天然のチェアーに背中を焦がしながらどっぷりと陽光を浴びる。

 

 一方、許しを得たCクラスはそれまで以上に大いにはしゃいで遊びつくすのだった。

 

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