どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
一之瀬と綾小路は船内の廊下を歩きながら会話を始める。
「これで兎は結果
「その通りだ--そっちも優待者の端末は猿の奴の物か?」
昨夜の早すぎる試験終了の顛末--予想は付いていただろうが裏切者はⅮ、答えがイエスならばBは優待者を当てられたことになる。
情報確認の段階から既に火花が散りかねない言葉の応酬--どちらも終了したグループであるが、客観的にはBも50のマイナスを受け、Ⅾは計100のポイントを取得したことになる。
一之瀬は顔には出さなかったがその可能性の高さを悟ったようで、綾小路が先手を取った形になった。
「いや~、この学校のルールってホント独特だよね--抜け穴有りが前提なんだから」
一之瀬は左ポケットから端末を出してメールを再び表示する。
「優待者に選ばれた--その文言はあるけど、どのグループかは載ってない。メールの偽造や転送は駄目なのに肝心な所が抜けてる--星乃宮先生から端末の紛失した時のこととか訊いたらあっさりと教えてくれたし、明らかに意図的だよね」
SIMカードのロックもポイントを支払えば可能--すなわち端末の入れ替えも出来る。
端末の交換は学校生活に限らず普段の生活でも行えるが、試験中と言う状況下で気付けるのか。
学校が謳う実力は本当に奥深く--逆に言えば意地が悪い。
「人に言えないようなことするのも黙認されている。尤も気付かれるような間抜けじゃ、そもそも話にならないだろうがな」
「私や葛城くんみたいなタイプじゃ不利だよね。それをどうにか出来ないようなら実力が足りない……世知辛い現実の縮図か」
前置きはこれぐらいでいいとかと一之瀬は本題に入る。
「ちなみにⅮがゲームに勝ち残った場合はどうしてたの?」
「掛け金を釣り上げてもうひと勝負--ポーカーとかでワザと役を揃わない様に組んで確実に負けるようにするな」
「もし私が自分の端末を見せて違うって言ったら?」
「それに関しては信じてた--お前は絶対に何か考えている。信頼に見事に答えてくれた」
「心の籠ってない誉め言葉は要らない--それとも駄目だった可能性を考えられないほど愚かだって私を失望させたいの?」
一之瀬は辛い言葉とは裏腹な温和なニュアンスと表情で綾小路を見る。
「お前と同じだ。実は軽井沢は嘘を付いていたと別の奴を優待者にしたてミスリード……お前なら気付いてると思うから言うが、その際には二重の保険を掛けていた」
「そのまま信じれば良し--誰かが出された端末に連絡入れたりして嘘が炙りされた瞬間に別の変わり身が暴かれれば誰もが真実だと思って疑わない。ざっとこんな所かな?」
「大正解だ。やっぱり優秀だよ、一之瀬は--ちなみに前のも含めて一切偽りなく、これは本心だ」
「にゃはははは、それは素直にありがとう。
でも前回は全く歯が立たなかった--これってⅮクラスには凄く
負け惜しみとも悔しさとも違う--純然たる事実を把握したと確信させるひと言だった。
綾小路は天井を仰ぎながら思った--その通りだ、そして一之瀬を選んだのは間違いじゃなかったと。
「耳が痛いな--確かにⅮクラスは嬰児の力を自分たちの力だと誤認している。しかもそれがもう易々と使えないことに気付いてるのは
「でも綾小路くん、クラスの為に身を削る気なんてないでしょ。心配してるのは嬰児くんの方かな?
だったらさ、嬰児くん私たちに頂戴--前にも使ってくれるなら歓迎みたいなこと言われたし--その時はそこまで深く考えなかったけど、今は違う」
「お前達なら仲間が不自由を強いられてるなら一緒に戦うか--嬰児はそんなこと望んで無いって言うと思うぞ」
「それでも--私はそう聴こえた。ううん、嬰児くんの言葉を借りるなら
綾小路の知らない所であった遣り取り--他にもあったり目を付けているのが居るかもしれない。
確かめる術はストレートに訊くぐらしかない……願いの為のハードルが上がってしまい面倒臭いと思いつつも同時に面白いとも思い、未知なる予感に心がくすぐられる。
「残念ながらお前の願いに沿うことは出来ない--嬰児の問題はオレが丸ごと片づける」
「……綾小路くんって、嬰児くんの何なの?」
余りにも自信満々に語る姿に一之瀬は訊いた--クラスよりも嬰児に固執する理由に興味が出たのもあるが、自信の源が何処から来るのか単純に知りたかった。
「相棒志願者かな--あいつの力があればオレの欲しいものが手に入る。ただそれを果たすには時間が掛かるし--その間に嬰児にもメリットを用意して置きたいな。
有栖と戦う時には全力で行かないと勝てないだろうし、あいつもそうなるのを望んでるから無碍する真似はしたくない」
「あー、結局坂柳さんか--御馳走様」
坂柳有栖が好戦的で、それ故に穏健派の葛城とは対立してAクラスが二つに割れているのは一之瀬も知っている。その状態を解消するために綾小路もそれとなく手を貸しているのは見たばかりだ。
先の結果からすると矛盾したように見えるが、坂柳が手心を加えられるのを良しとしないなら寧ろ本当に想い合っているとすら言えよう。
ⅮとAが戦えるようになるのはどんなに贔屓目に見てもずっと先であり、その為に
(自信満々に見えてのも坂柳さんの為なら弱いところなんて欠片だって見せたくないってことか)
一之瀬の中で納得のいく結論が出て、改めて自分に何を求めて来たのか--余り時間も掛けたくもないので次に進むことにした。
「それで--綾小路くんのメインって何なの?」
綾小路は制服から一枚の紙を取り出し、真剣な顔と声で切り出した。
「ここにⅮの残りの優待者と昨晩オレが建てた仮説--どのクラスの優待者がどのグループに居るかが書いてある」
「
ミスリードにおいて足並みをそろえたと言っても所詮はアドリブ--事前に示し合わせた訳でもなく信頼関係など全くない。その上、Bクラスは既にⅮクラスに優待者を当てられており現状はマイナスを食らっているのだ。
仮説を上乗せした程度では信じることなど出来ようはずもなく--増してや話を持って来た綾小路はこれ以上ないほど坂柳と繋がっている。自クラスを裏切ることはなくても他を罠に掛けるくらいはしても不思議ではない。
無論、綾小路とてそこまで虫のいい話を一之瀬が受けるとは思っていない--何よりメインには程遠い。
「いいや、これを渡すだけだ。勿論条件はある--まず、最初に約束して欲しい。Ⅾの優待者は当てにいかないと--それとこれはこっちも同じ、今回の試験でⅮクラスは優待者の回答はしないことにした」
「試験を放棄するって訳じゃないよね?」
「ある意味それに近い--確率をどれだけ絞っても外したリスクは計り知れないからな」
自虐的なニュアンスに綾小路が嬰児にこだわる理由がまたひとつ見えた気がした。
「綾小路くん--よく何人かで一緒にいるよね。その人たちに協力はしないの」
「グループのみんなは信用してるが、嬰児以外を頼りたいと思えないな--今はまだ」
綾小路にとってグループは協力して戦おうとではなく、心を落ち着ける休息の場--各々は決して頼れないではないが、嬰児と比較すると見劣りしてしまう……その力を独占したい身としてはクラスの体制が明確な形に定まるまでは関係を壊しかけないようなことを求める気にはなれなかった。
「ふ~ん。けどこれで優待者の法則を暴いて圧勝しちゃったら、今度こそ私たちがAクラス--坂柳さんだって黙ってないんじゃ…………いや、」
今回の試験は優待者も裏切者も匿名であり学校から確かめる術はない--先のように他クラスの目の前で裏切りをするなんて行為をする事態など普通はありえない。
最終的な結果だけ見据えれば全ては一之瀬の仕業とされ綾小路に疑いの目は向かず、Cクラスは後退してⅮとなり全クラスの位置が変わる。
「協力したのを黙ってるのが条件かな?こっちに火中の栗を拾わせて利益だけ得ようとするはちょっと虫が良すぎない?」
遠回しにもっと何かを寄こせと吹っ掛ける。
「Ⅾは優待者当てしないが揺さぶりや疑いをかけて、より確実にするようにサポートするよう手を回す準備は出来ている。
何より口止めなんて要求するつもりはない--ここからがメインだ」
綾小路は一度言葉を切り、一之瀬も息を呑んで要求を待つ。
「この旅行が終わって学校に戻ったら嬰児とデートして貰いたい」
「……………………へ?」
内容が内容だけに理解するのに時間が掛かるが、構わず綾小路は続ける。
「ちなみにこれにはオレと有栖も一緒--つまりはダブルデートだな。
受けてくれるならこれは渡すし、日取りも含めて後日また話を―――――」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!勝手に話進めないで……そもそもどうしてそんな条件に--クラスとは全然関係ないじゃん…………これって綾小路くん個人のでしょ、そんなんでこんな大事なこと進めちゃっていいの?」
「なんだ、嫌なのか?」
綾小路は心底残念な顔で言った--対して一之瀬は力一杯に突っ込んだ。
「そうじゃないでしょ!」
勢いで大声を出した為に流石に周りから注目が集まり、笑って誤魔化しながら改めて声を小さくして訊いた。
「何処をどうしてそう言う話に行き着くのかな--是非に聞かせてくれない」
「嬰児はこれから更なる不自由を強いられる--いやもう強いられてるかも知れないか。兎に角、気晴らしに何かしてやりたくてな」
嬰児が一之瀬に好意があると言うのは綾小路の意趣返しでクラスには知られており、その辺りは納得されたものの--Bの利益の為に全面協力するのは消極的な意見も出た。
しかし平田や幸村も今のⅮクラスでは例え三分の一でも優待者を的中させることは困難--リスクを取らずにCに上がり、先々のことを見据えて嬰児のモチベーションを上げる為には必要だと説得してどうにか承諾を得た。
「それが私とデート……軽井沢さんが怒るんじゃ?」
「あいつは平田の彼女だ。文句を言う筋合いなんてないだろう」
ど真ん中の正論--流石に冗談でないと一之瀬もあたふたし始める。
「意外だな--この手の申し込みや経験は一之瀬なら引く手数多だと思ってたんだが」
「いや~、申し込みとかはあったけど……困ったやつとか…………」
綾小路の素直な感想に歯切れの悪い返答--その姿と言葉から全て断ってきたか、或いは高根の花すぎて逆に声がかからず、あっても一之瀬を困らせる--佐倉に付き纏っていたストーカーみたいなのかとか--浅はかな発言だったと反省する。
「済まない--有栖や嬰児が喜んでくれるかばかりで一之瀬の気持ちに配慮が足りなかった」
「ああ、別にそこのところは気にしなくていいから--それに別にそこまで嫌って訳でも……」
一之瀬はもじもじとしながらも深呼吸して、やがていつも通りの笑顔で言った。
「うん、分かった。ダブルデート、受けるよ--でもその際に嬰児くん取っちゃっても文句なしだよ」
「決まりだな--諸々の話はオレから通しておく。日にちに関しては最終日に話そう」
話が纏まったことで綾小路は用紙を渡す。
「了解。それじゃ私も戻るから--神崎くんたちと打ち合わせしないといけないし」
「期待してる」
一之瀬が手を振って去って行き、綾小路はデッキに出て電話を掛けた。
***
『そういう訳で一之瀬とデートして貰うことになった』
何がそういう訳なんだ。なんで本人に相談もなくそんなことを決めてんだよ--今日は中々にいい気分だったのに突然の通達で一辺に吹き飛んだぞ。
『ああ、これにはオレと有栖も一緒だからお前の望み通りになるようにフォローも考えてある--クラスが負けない為にもここはひとつ頼んだ』
クラスの協力にかこつけて坂柳と話したいと言う俺の望みを叶えるのに繋げる--相変わらず抜け目ないと言いたいが、ちょっと遅かったな。
「と言っとるが、お前はどうする--坂柳?」
俺は向かいに座っている坂柳に話を振る--ちなみに今俺たちが居るのはケヤキモールにあるカフェで端末はテーブルにはスピーカーモードにして置いていたので会話は全て彼女も聞いていた。
「勿論構いませんよ。清隆くんとのデート、とても楽しみです。一之瀬さんとも一度じっくりとお話もしてみたかったですし」
笑顔で了承してくれる姿は一見天使のようだが--何故か俺には全く別なものに見えた。
『……………………なんで有栖が?』
「偶々だよ--なんて訳じゃなく、今面倒臭い状況でな。虫よけになって貰ってるんだ」
ざっくりと説明したが納得はしないだろうな--ここで〝オレの女に手を出すな!〟とか怒鳴ったら彼女持ちの奴とかからは接触はなくなるかな。
『困ってることがあるならオレが力になるぞ』
いつもと同じ淡々としたニュアンスだが--電話の向こうではどんな顔してるのか?
本当ならこの状況--坂柳との話し合いの機会は綾小路の手によって成される筈でそれを焦らしながら値を釣り上げてたのに一気にパァになっちまった。
さぞかし心がかき乱されるだろう--少しでも取り返そうとしてくる辺りは健気だとでも思ってやればいいのか……。
「詳しいことは帰ってから話そう。それとデートの件は了承した--ただ予定に関しては少し待って貰うことになる」
『--分かった。じゃあ、また』
通話が切れた。
しつこく聞くのは俺に悪い印象しか与えないと判断したか。なんとも冷静だな--向かいに座ってニコニコしている幼馴染共々に。
「安心して下さい。清隆くんには私からもよく訳を話しておきますから」
それは助かるが、俺に言いたいのはそんなことじゃないだろうに--綾小路から電話を受けてから、言葉や態度とは裏腹なプレッシャーを感じるぞ。
しかし、この言ってることと思ってることがチグハグなところ--誰かさんによく似てるな。
「含むところも主観もなく、字義通りに頼むよ--余計な騒動は沢山だからな」
「……どの口が言うんですか?」
おお、一気に笑みが消えて呆れ顔になった。
「そもそもあなたがここに居るのだって余計なことをしたからでは?
と、こう言って欲しかったのでしょう--何が訊きたかったんですか?」
「へぇ~、なんとも話が早いね--何も答えてくれないんじゃないか、まずは知るところからとか思ってたんだがな」
しかしそれを鵜呑みにすることは出来ない--相手は理事長の娘、俺を監視するとは言わないまでも不利に仕向けるぐらいのことはしても不思議じゃない。
「常に何かを警戒されている--噂になっている特例の件と言い、本当に奇妙なお方ですね」
話を切り出さない俺に対して和やかに接しようとしてくれてるが、味方であることは100%ありえない。
さて、どうするか……最初から綾小路を引き合いに出すと何処で地雷や逆鱗を踏むか分からないし、当たり障りのない世間話や身の上話も出だしから潰されてしまった。
単刀直入に訊いてくるのをお望みだが、話していい線引きが掴めない--下手に言質を与えてしまったら取り返しがつかないからな。
ならば--
「もしもひとつだけ願いが叶おうとしたら何を願う?」
色々な意味を含めて問うてみたが、言ったと同時にキョトンとした顔になって思案し始めた--なんとも予想外で、どうかしたのか?と更に訊きたくなってしまう。
時間にしてみれば五秒も経ってないのに偉く長く感じる間にやっぱり訊いてみようかと迷っていると、凄く嬉しそうな顔を向けてきた--う~ん、訳が分からない。
「その願いなら既に叶いました--そして改めてお久しぶりです。入学式の日以来ですね、牛井嬰児くん」
「覚えていた……いや、俺のこと気付いていたのか」
なんだ。記憶を想起してただけか--しかし坂柳の願いって結局なんなんだろうな。
「ええ、今思い出しました--そして、ありがとうございます。貴方のその言葉が無ければ、私の願いがこうも早く叶うことはなかったでしょう」
「話がさっぱり分からないが--なんであれ、どういたしまして。
それで今のフレーズを聞いて思い当たるのは無いかな?」
「貴方の言葉をそのまま返します--さっぱり分かりません」
あ、坂柳から笑みが消えた。
「貴方が何かしら特異な方であるのは解り切ってます--今日、話しかけたのもそれが何なのかを知りたかったからです。
どうやら貴方は私の父のことも御存知で、その警戒心も娘だから来てるようですが、お父様はそのようなエコ贔屓をする人ではありません。
だからこそ改めて訊きます--貴方は何を訊きたいんですか?ちゃんと言って貰わないと答えようがありませんよ」
誤解を解く為か自分の立場を明確に一気に説明--そして真面目な顔で問い返してきた。
ここまで誠意を見せたならば、こっちもこれ以上は失礼にあたるか--もしこれが計算ずくだったとしてもな。
「君は救国の英雄を知っているか?」
「現代の英雄と謳われる女性ですよね--数々の戦争を和平に導き、この時代において彼女よりも多くの人間を救っている者はいないとされる平和主義者の戦士」
「ああ、隔絶した力を持ちながらもそれを使わず言葉の力で争いを止めたい--みんなで仲良くしたいって言う綺麗事を貫き通す--正に聖人だ」
「なるほど。あなたもそちら側の--でも解せませんね。
特例による外出許可--社会奉仕がそう言うことだとしてもこの学校とは相性が最悪のはず、何か悪いことでもしたんですか?」
長期休みが戦場に送られると解釈したか。
「俺じゃなくて生みの親と呼ぶべき奴らがな。俺はその後始末の一環--体裁を整える為にいるだけさ」
「やっぱり、よく解りませんね--彼女と連絡を取る手段を探しているのですか?」
そして『申』が死んだことも知らない--どうやら本当に知らないと見ていいようだな。
「残念ながら既に落命してるよ--最近行われた大きな戦争でな」
「大きな戦争--それも最近に--全くもって聞いたことがありませんね」
思案しながらも確信的なニュアンス--国に関わってる一家の娘だ。その自分が知らないのが答え--って結論に達すれば俺の言いたいことも見えてくるはず。
……ただ、これも知らないなら期待外れ。
パッと思いつく次の手段は彼女の父である理事長に訊いてみるしかない--このことで綾小路に借りを作ることになるのは些か本意とは言えないから外れて欲しくないものだ。
「あの--そんな風に見つめられてしまうと、物凄く困ってしまうんですが」
それはすまんな--しかし俺はお前の答えを待つしかないんだ。
そんな気持ちを込めてジッと待つ俺--傍から見てるは勿論、直接向けられた坂柳にはさぞ気分の良いものじゃないのは理解できる。
「はぁ~」
溜息を付いた坂柳は呆れた目のままで待っていた答えを言った。
「噂--と言うか名前だけしか聞いたことがありませんが、十二年に一度--大きな催しがあると--確か、その名の通り『十二大戦』と」
それは正に俺の望んだ答えだった--やっとまともに話が出来るな。
「それだけ聴ければ十分だ--ちなみにさっきの質問は優勝賞品だったりもする」
「……その様なことを私に教えても?」
「興味を覚えて参加資格を得ようとするなら、それはそれで面白そうだしな」
一般人だろうが大統領だろうが王様だろうが、知ったところでどうなるものでもない--本来はそうなる筈なんだったんだがなぁ。
それにどうにかなることの出来る立場にあるなら--寧ろそれが本当に訊きたい事だったりもするしな。
「残念ながら、そのご期待には沿えませんね。
私ごときの家柄--ましてやこんなひ弱な小娘には生涯縁のない世界での出来事でしかありません」
「謙遜することはなかろう。国家運営の施設を任せれてるんだ--何より俺がここに通うことになったのだって、ここなら大丈夫って信用があるからじゃないか」
「だとしてもそれはお父様--ひいてはお爺様たちが築いてきた実績です」
少なくともこの学校は二世代前ぐらいからか--時期的には十回目ぐらいの願いかな?
「それでもこの学校の設備やシステム--認可を取るのは物凄く大変だったんじゃないか?」
「そうでしょうけど、私のような若輩の小娘では詳しくは--父の跡を継ぐかどうかもまだ決めてませんですし」
おいおい、いきなり話を切ろうとしないでくれよ--そっちはもう訊きたいこと聴けていいかも知れないけど、こっちはまだ全然なんだから。
「そうか。なら君のお父さんに話ができるように綾小路に手を貸して貰おうかな」
「――――――――――――」
ホント、分かり易いほどに一瞬で余裕がなくなったな--どこまで大好きなんだかね。
「そうですか--清隆くんが執着してるのは貴方ですか。確かに色々と謎が解けますね--清隆くんほど凄い方が負けるなんて、かの大戦に連なる方なら肯けます」
それでいながら明確な敵意を感じる--こうしていると、やはり平和主義者の大親友みたいだな。
「……なにか可笑しなこと言いましたか?」
指摘されて初めて笑みを浮かべてたのに気付いた--なんかもう、これだけで俺の目的も果たされたとも言ってもいいかな。
「いやいや、すまんな。彼女の大親友--いや戦友みたいだなって思ってな」
「彼女の戦友--平和主義者であっても戦士、
「それも間違ってはない--出逢う戦場が違えば殺し合いになるのが普通だからな」
陽気な声で言う俺に坂柳は何とも言えない顔だ--平和な日本ではなら比喩表現による遣り取りだろうが、俺が言ってるのは比喩でも何でもない字義通りの意味だからな--事情を知ってる奴からすれば、こんな風に話す俺はさぞかし奇妙に見えることだろう。
ただどんなに奇妙でも坂柳は俺の言うことを正しく理解してくれている--相手にちゃんと話が通じてると分かるのは、とても胸がすく。
「昨日の敵は今日の友なんていいますが、そんなに簡単に折り合いが付くものなのですか?」
「そこら辺はケースバイケースとしか言えないな。
ただ、あの二人に関して言えば最早ぶっ飛んでるとしか言えないな--何せお互いに二十回以上、相手を裏切っておきながらも戦場でなければ平然とカフェで寛ぐような間柄だからな」
「……………………」
あー、完全に言葉が出ないか。まぁ、それはいい--俺が本当に訊いて欲しい話はここからだし。
「ちなみにその戦友さんは、連綿と続く戦士の一族でありながら由緒正しきお嬢様でもあってな。
願いが叶うなら〝歴史ある名家の淑女として--」
坂柳の目に期待した風になったので一度言葉を切る--余り焦らし過ぎると怒られそうだから、少し力を籠めるように振る舞って言う。
「三十五億人のイケメンと愛し愛され暮らす〟そんなハーレムが欲しいそうだ」
おお、どうやら見事に期待を超えたようだ--比喩ではなく開いた口が塞がらなくなってる。
「…………一体どのあたりが私に似ているのですか?説明していただけませんか?」
「大好きな戦友の為なら--彼女が生きていてくれるなら、そんな我欲なんて躊躇なく捨てられるところとかかな。
そういう意味では本当の願いは〝彼女は自分だけを見ていればいい〟って風な感じかな」
結局のところ『亥』どんな愛が欲しかったのかねぇ--口で何と言おうが『申』が大好きなのは今更だし、『申』からすればそんな重たい愛はちょっと困ってただろうな--それでも
なんとなくだが、やっぱり似てるわ。目の前に座って顔を赤くしてる彼女とその幼馴染君は。
「私は別に……そこまでは…………」
照れてる姿は何とも--と言うか初めて可愛らしいと思える姿だ。しかし目の保養がしたくてこんな話をしてるんじゃない。
彼女に訊くことはもうないから、言うべきことはここで全部言っておきたい。
「詳しい経緯は知らないが、あいつ……綾小路は何かに怯えてる--君は知ってるんじゃないか?」
「ええ--ですがそれは私の口からお話しすることは出来ません」
無理もないって顔だな--彼女だけが一方的に知ってるだけの関係って言ってたが、どんな過去なのやら。
「構わない。俺がどうこう出来る問題じゃないし、力を貸す気もないからな」
「筋違いじゃないとは言え冷たいですね--なんだかいつぞやの季節外れの雪を思い出します」
「済まんな--故意じゃなかったとは言え、迷惑をかけた」
ようやく言えた。
言うと同時に頭を下げた俺に坂柳はまた言葉に詰まったようだ--十二大戦も名前だけだって言ってたし異能に付いても噂レベルでカマかけたのか?
ともあれ俺が認めたことで、相応の得心はいっただろう--それになんだか怒ってもないようだし……。
「……それは私ではなく清隆くんに言うべきでは?彼は間違いなく注目など求めてなかった筈ですから」
俺は頭を上げて坂柳の言葉に首を横に振る。
「それで話が終わるなら俺もそうするが--そうもいかなくてな。
迷惑料だの慰謝料だので、何を要求されるか分からんからな--俺自身は責任取る分には構わないんだが」
「それを許して貰えない--その事情も話せない。
清隆くんが求めてることはそう言うことですか--厄介ですね」
そうなんだよなぁ--だから何とか諦めて貰いたい--その為にも、
「だからさ、綾小路と結婚してくれないか」
「……………………ど、どうすれば、そんな話に行き着くのですか?」
妙に間があったな--つっかえてたし--どうにもからかいたくなってしまうがここは我慢だ。
「いや、綾小路の心が完全に君に行けば、俺のことなんか入る余地もないと思ってな」
「そんなふざけた理由で人の一生を勝手に決めないでくれますか」
尤もな言い分だけにキツイね--でも怒ってるとも違うニュアンスに聞こえる。
つまりは、ふざけてなきゃいいとも取れちゃうな。
「
「――――――………………」
結構真面目に言ってみたら、さっき以上に顔を赤くして再び何も言えない様子--出来るならもっと見ていたいが、それは流石に悪いだろうな。
俺は伝票を取って立ち上がり--赤い顔したままの坂柳に繰り返す。
「今の君を見たら、綾小路はもっと強くなれる--じゃなきゃ格好悪い、そんな男じゃあるまい」
「な、なにを―――」
やっと口を開いた坂柳だが、俺の言いたい事は済んだのでとっとと退散しよう。
「愚痴はダブルデートの時にでも聴くから、また今度な」
もう何度目か--坂柳の口を塞ぎ、オレは会計を済ませ寮に帰った。