どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
試験三日目、最終日の早朝--開始時刻どころかまだ日が出てない時間帯に一之瀬と神崎はテーブルに並べたBクラスの優待者の情報と綾小路から提供されたⅮクラスの優待者、どのグループにどのクラスが振り分けられたかの仮説を記した用紙を照らし合わせていた。
「綾小路くんの仮説、見事に一致するねぇ」
「ああ--牛井だけに目が行きそうだが、同じくらいに侮れない奴だ」
仮説ではBの優待者は牛、猿、犬であり、それぞれに『小林夢』『南方こずえ』『米須春斗』がそうであった。
Ⅾは軽井沢、櫛田、南が兎、竜、馬であり、全グループの半数が判明--仮説が補強されAとCの優待者を絞り込める条件が一気に整った。
「まずAは鼠、鳥、猪とあるが参加してる奴らに、それと関連付けられそうなのは見当たらないな」
神崎は名前やクラスメイトに聞いた話から、それぞれの動物に合うものはないと判断する。
「うん。でもメールには厳選な抽選って書いてたからランダムじゃない--必ず何か意図がある筈だよ」
一之瀬も肯定するも干支であることには必ず意味があると改めて資料を見直す。
しかし、どのクラスも干支から連想できる要素は皆無--三分の一、四分の一に絞り込めても逆に三分の二、四分の三の確率で外れることから部の悪い賭けを実行することは出来ない。
「アプローチの仕方が間違ってる--何か他に見落としてるかも知れないね」
一之瀬は試験開始のメールの他に試験説明を受けた時のことを思い返し〝クラスの関係性を一旦無視すること〟が浮かぶが優待者に繋がる糸口を見いだせない。
神崎はド壺に嵌る姿に落ち着けと声を掛けようとも思ったが、考え込んでいる一之瀬の手が用紙の一部を隠し--子丑寅卯のABCDだけの部分を見て、ひとつの可能性が浮かび上がった。
「一之瀬、これってもしかして順番なんじゃないのか?」
「順番?」
「ああ」
神崎は優待者が判明している牛グループメンバーを新たに書き出して説明していく。
丑グループ
A:沢田恭美 清水直樹 西春香 吉田健太
B:小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
C:時任浩也 野村雄二 矢島麻里子
D:池寛治 佐倉愛理 須藤建 松下千秋
「アルファベット順は合わなそうだから、あいうえお順にしていくと--池、小橋、佐倉となって」
「丑は干支で二番目だから夢ちゃんになる訳だ!
それなら確かに兎も綾小路くん、私、伊吹さん、そして軽井沢さんになるね」
一之瀬は思い至ったことへの糸口と合致し、すっきりと通る答えに目を輝かせた。
「俺たちのグループも五番目に来るのは櫛田となって優待者--いざ分かってみると呆れるほど簡単だ」
神崎は法則を解いたものの素直には喜べなかった。
綾小路の仮説を見て思い付きはしたが、その仮説に引きずられクラスに注目が行ってしまい、全く見当違いの方向に時間を割いてしまった--これならば優待者の情報だけの方が、まだ良かったかもしれない。
複雑な心情と眠気も相俟って、残る優待者の確認作業で手応えを得るものの顔色は暗かった。
「にゃははは--元気出しなよ。時間内に割りだせたんだから、それで良しでいいじゃない」
「そうっちゃ、そうだな--情報提供の見返りとしてⅮは当てない。こっちは既にひとつ当てられてるみたいだが、残りを全て貰えばお釣りがくる」
「これで私たちはAクラス、あっちはリスクを取らずしてCクラスかぁ……やっぱり今度のデートで嬰児くん、誘惑しちゃおうかなぁ」
これに付いて神崎は否定も肯定もしない。
嬰児がクラスの主役になれないのは当然、一之瀬も察していることであり強力な戦力を欲するのはリーダーとして当然のこと。
初日の集まりで櫛田が匂わした危険性については報告しており一抹の不安があるが、自分の中では明確な答えが出ていない。
「それよりも試験を終わらせることが先だ。もう少し明るくなったら、各グループメンバーを集めよう」
「そうだね。私たちも少し仮眠を――――」
一之瀬が言い終わる前に端末が一斉に独自の音を奏でた--その音は途切れて直ぐ、次が鳴り六回目にして鳴りやんだ。
「これって、どういうこと?」
通知された内容に動揺を隠せず、画面をただ凝視する。
まだ薄暗い時間帯にも関わらず叩き起こされた生徒たちは、送信された内容に一気に目が覚めたようで、あちこちで大騒ぎだった。
それは当然、Ⅾクラスでも同様であり綾小路は--鼠、牛、馬、鳥、犬、猪--の終了通知の速さとCが含まれていないことから目論見が外れたことを悟った。
(嬰児に言ったのに、これじゃ格好付かないな……)
寝起きの頭で思いながら居ると、忙しく電話している平田が落ち着いたのか、現状を報告して来る。
「男子の方は裏切りのメールは送ってない--今日の話し合いでのことは了承して貰ってたから信用できると思うよ」
優待者のクラスに疑いやカマかけで揺さぶりを掛けて反応を確かめる--それだけに留めて後はBに任せる。
外した際のリスクを念押しすることで不用意な行動を抑えるつもりだったが、欲に釣られ調子に乗った奴が居ないとも限らない……その可能性が高い
「須藤や池の牛--山内の鳥は、本当に大丈夫だったのか?」
「あ、うん--山内くんは送ろうか迷ってたみたいだけど、その間に試験が終わっちゃったって。
須藤くんたちの方は堀北さんに相談してたみたいだけど、不用意なことがするなって逆に釘を刺されたって……これとは別に堀北さんが何か言ってくるかもだけど」
「そんなのは、どうでもいい--女子の方は?」
『そっちはあたしが確認した。誰も送ってないって』
軽井沢の声が平田の端末から発せられ、やや驚くもそのハッキリした声は疑う余地がなさそうであり、女子を統括する彼女を引き込んだのは正解だったようだ。
必要な情報が早く集まるのは重畳であった。
(あとはこの体制を活かせる司令塔がどうなるかだな?)
「……平田、繋がってるならひと言、言ってくれ」
「ハハハ、ごめんごめん。それにしてもこの一斉のタイミング--力を誇示したいって意図が透けて見えるね」
「ああ、それと
『嬰児くんには、
「それもあるが、前回は不戦敗--それも嬰児に負けたんであって、あいつが居なければ敵じゃない。そんなメッセージでもあると受け取るのも居るだろうな」
綾小路は話している最中も気に掛けていた相手--堀北からに着信が入った。
「もしもし、妙なことになったな」
『……今回のは、あなたの仕業じゃないの?』
「残念ながらな--用意してた計画は間に合わなかった」
『そう……さっきの通知、馬が入ってたわね。見破られたかどうかは未知数として……他の通知、Ⅾクラスの誰かの可能性は無いでいいの?』
「今、平田と軽井沢に確認を取ったところだ。ある程度は信用していいだろう」
クラスの情報も把握し現状確認は既に終わらせている--綾小路の脳裏には憮然としている堀北が浮かび、丁度いいので更に一石を投じることにした。
「折角、嬰児にやる気になって貰おうと思って、一之瀬とのデートも取り付けたんがな」
『…………ちょっと、それどういうこと?なんでそんなことを勝手に―――」
抑えているがかなりの怒気が通話越しにも伝わってくる--堀北にとって一番手に入れたい駒にちょっかいを出されたのだからと、予想通りの反応に淡々と語る。
「既に嬰児は不自由を強いられてるのは想像に難くない--気分転換なりモチベーションアップのご褒美には最適だろ--それともお前が付き合って、あいつを楽しませる自信があるのか?」
『論点をすり替えないで!Aクラスになるのに嬰児くんの力がどれだけ重要か、分からない訳じゃないでしょ!!彼が敵に回ったらどうなるか……私への嫌がらせにしても性質が悪すぎるわよ』
そんな気持ちが全く無い訳でもないが、それはあくまで〝ついで〟であり本筋とは程遠い。
「そこまで分かってるなら、Aクラスに上がるのに何が必要なのか自覚しないと--今のままじゃ、見限られるなんて時間の問題だ」
『何を偉そうに――――――』
一方的に通話を切る--そのやり取りに平田を始め起きていた面々は何とも言えない顔だった。
綾小路も何も言わない--そして日が昇り明るくなり更なる通知が届いた。
(今度は三回--虎、蛇、羊か。一之瀬の奴、もう少し早かったら)
再度の連続終了にまた騒がしくなるが、室内ではCが狙い打たれたと悟り、先ほどよりは静かであった。
「清隆--これって」
また鳴り始めた端末の対応に追われる平田に代わって幸村が声を掛ける。
「ああ、一之瀬だろうな--問題はこれが龍園の予想範囲かどうか」
一回目の連続通知が示す可能性--それが当たっていた場合の深刻さは計り知れず、
(この絶望的状況を覆すこと--嬰児の異能を引き出すのに使えるかも知れないな)
巡ってきた危機をどう使おうか--その時、一体何が出てくのか興味が湧いてくるのを止められなかった。
ただひとつ残っている竜グループ--最終日、一回目の話し合いが終わり堀北はカフェに居た綾小路を強引にデッキに連れ出した。
「あなた、私の知らない所で何をしたの?」
「開口一番からキツイな--Bクラスから何かフォローでもされたか」
「ええ、詳細は伏せるけど同調して話を合わせてくれたり--いつの間に協力を取り付けたのかしら?」
優待者である櫛田を守り切ること、何度となく来る探りを乗り切り手堅く勝利を得る。
上手く行っている自負があったのか--余計な事をして勝手に助けを回されことが腹立たしいようだ。
例えそれが既に徒労になってしまったとしても……。
「今回限りだ--さっき一之瀬からも暫らくは組めないと言われた。ただ嬰児とのデートは楽しみしてると」
一之瀬も今朝の一件について何かしらの見解があるようで、その要因が払拭されない限りは一緒には戦えないと割と真面目な顔で言われた。
尤もなだけに何も言えなかった--その事には安堵されたが、それを向けられるべき相手が違ってなければならないことに少々複雑でもあった。
「そのことよ、一体何を考えてるの?一之瀬さんはあなたの幼馴染と違って競い合うことを楽しむタイプじゃないでしょ--もしも彼がその気になっちゃったら、損失は計り知れないわ」
「繋ぎ止めたいなら、その気とやらを上回るものを嬰児に示すしかない。平田と軽井沢もその為に協力することは取り付けた--あとは堀北、お前次第だ」
お膳立てはした、だから結果を出して見せろ--と普通に考えればそう言うことだろうが、堀北が望んでいたこととは全くかけ離れた道を勝手に用意され、素直に受け取れるはずもなかった。
「私を担ぎ上げて陰で実権でも握るつもり?」
「勘違いするな--嬰児が望んでるからやってるんだ。
クラスの一員としてAクラスを目指してじゃなきゃ、あいつは進んで協力できない。
そして嬰児の力を欲してるのはオレやお前だけじゃない--悠長なことはしてられない」
「面白くもない説法で煙に巻きたいんでしょうけど、私だってそこまでバカじゃないわ。面倒を押し付けて自由に動きたいだけでしょ--嬰児くんと一緒にね。
坂柳さんも誘ってのダブルデートらしいけど、他クラスの勧誘をかわす手立てはあるのよね」
既に裏取りを済ませていたことに驚きつつも感心し、さっきまでの問答も綾小路から本当のことを言うかを待っていただけ--信用されてないのと綾小路のメリットを測り、堀北の方も信用できないと返してきた。
既に業を煮やしている状態であり、綾小路は率直に言う。
「堀北、お前一人でAクラスになることは不可能だ。一人でやれることには限界がある」
「言われるまでもないわ。だからこそ、この試験で結果を出して嬰児くんに協力に値すると思わせるだけの実力を示すつもりだったわ--その結果が分からない段階で勝手に動くのは気に入らないわね」
(基本的にはオレと同じ考えか--だが嬰児の激が見事に空回りしてるな)
しかしそれを言っても聞き入れるとは思えず黙っていると、堀北は更に捲し立てる。
「あなたは坂柳さんと戦いたいんでしょ--それを否定する気は無いけど、私には私の目標がある。邪魔してるつもりは無いんでしょうけど、余計なお世話はしないで--これ以上、私にも関わることを私抜きで勝手に進めないでちょうだい」
「それは然りだな、すまなかった。なら試験が終わったら、みんなで話をしよう--学校に戻ったら嬰児ともな」
元よりそのつもりだったのか、スムーズに出る台詞にやはり気に入らない堀北だったが、これ以上は精神衛生上良くないと思い話は一旦終わらせることにした。
六回目の最後の話し合い--されど竜以外の全グループで裏切者が出て、一足早く試験終了となり船内最後の日はバカンスを満喫する者たちばかりだった。
それは綾小路グループも例外ではなく思わぬ一日の休みを過ごし、今は空が見れるカフェテラスにいた。
「堀北さん達、どうしてるかな--きよぽん、何か聞いてる?」
しかし流石に試験終了時間近になると結果が気になるようで、他の面々も昼に堀北に連れ出され不発になったとは言え、試験攻略の発案者に注目が集まる。
(こう言うのは遠慮したかったんだがな……この分もしっかりと取り戻させて貰うぞ。嬰児)
綾小路の心の中で何度となく思った愚痴を浮かべながら答える。
「優待者への追及は上手くかわしてるみたいだから、それなりに信用してもいいと思うぞ」
「それなりに……清隆くんには何か不安があるの?」
「やっぱり今朝の一回目か」
「仮説通りなら十中八九、やったのはCクラス--既に知られてる可能性があるなら堀北たちが頑張ったって……」
兎での優待者外しと高円寺の独断専行が相殺され得られるポイントは0……高円寺が外れていた場合は50のマイナスとなる。
最悪を想定するとどうしても気分が沈む--そうしている間にも時は過ぎ、午後九時を回った。
解答時間は三十分後、結果発表は二時間後--ただ待つだけでは途方もなく長く、と言って気晴らしに何かをしようにもカフェには人が集まってきており、一見すると大盛況だが皆が試験結果を待ち何とも言えない空気だった。
待ち合わせもあり、男女に分かれてテーブルを二つ確保する。
「すみません。相席良いですか?」
そこに椎名ひよりがやって来た--女子の方でなく面識がある綾小路の居るテーブルに。
綾小路は記憶を辿り、無人島の浜辺で龍園にホステス役を命じられ同席させた女子だと思い出す。
「確か、ひよりだったか--すまんが他が来る予定なんだ」
「そうですか、残念です--龍園くんから嬰児くんの話が聞きたがってると訊いたものですから」
平田に頼んだ一件--今朝の件でそれどころではなくなると思っていたが、ちゃんと果たしていたようだ。
向うからやって来たのは龍園の差し金か、椎名自身が気を使ってくれたのか。
「それを最初に言ってくれ、それならOKだ」
「おい、いいのかよ。清隆」
「Cクラスだろ、堀北が来たらまたうるさいぞ」
幸村と三宅は歓迎できないようで、椎名は座るか迷いを見せる。
「その堀北も聞きたいことを今から聞く--まだ時間はあるから、それまでなら」
「はい、ありがとうございます」
椎名が座ると朗らかな笑顔で綾小路と向かい合う。
「注文してもいいでしょうか?」
「どうぞ」
暖かい紅茶を注文し口を付けると話始める。
「ふう。嬰児くんと話した時もこんな感じでしたね」
「いきなりだな」
「長々と話すのはお好みじゃなさそうなので--改めましてCクラスの椎名ひよりです」
綾小路達も名乗り、漸くと会話が始まる。
「龍園が嬰児とただならぬ問答をしたと言っていたと平田から聞いたんだが?」
「はい。冤罪を掛けてこようものなら私を殺すと仰ってました--それもバレない様に服毒自殺に見せかけて」
「ちょ、ちょっとなんの話よ、これ?」
余りにも物騒で長谷部を始め皆がドン引きする--しかし嬰児ならやっても不思議じゃないと知っている綾小路は淡々と他にも情報が無いかと話を続ける。
「椎名はどう思った--ハッタリや脅しの類か、それとも実際に何かされたのか?」
「いいえ、何も--そうなったら、どうなるかを話してただけなので私の方でも何もしてはいません。
ただお茶を飲んで〝願いがひとつだけ叶うなら〟どうするかで話が弾みましたね」
「それって思考ゲームの話か?」
幸村が眉を潜めながら問う--物騒なことから話を逸らしたいのか殺人の話はよしてくれと顔に書いてあった。
それは皆も同じで特に佐倉は冷や汗をかき狼狽えており、椎名も話すべき場ではなかったと反省しそれに乗った。
「それは嬰児くんに訊いて貰うしかないですね--ちなみに嬰児くんは一之瀬さんによく似た人を生き返らせたいそうですよ」
「……啓誠、訊くのはよしといたほうが」
「明人、俺だってそこまで無神経じゃない」
三宅も意を酌み遠慮がちに言い、幸村も肯くことでこの話は終わりだと言うのが広がった。
「ハハハハ--だから嬰児くん、一之瀬さんのことを……清隆くんは知ってた?」
佐倉の問いに綾小路は小さく肯く。
「ああ、一度だけと言うか初めて一之瀬にあった時、平和主義者の知り合いに似てるって言ってたが--すでに故人だったのは初耳だな」
(しかも生き返らせたいなんて--前に〝どんな願いでも〟は無理だと言ってたが、あれは自分にも言い聞かせたのか?)
異能を持っていても出来ないことは当然ある--傲慢や慢心とは縁遠い男だとは思っていたが、思っていた以上に過酷な挫折や無力感を味わっていたのか……。
(……いや、嬰児にはと言っていたな。つまりそれが出来る輩が居ると言うことか?)
それこそが嬰児を縛っているなら……〝あの男〟を上回る権力との繋がりが想像でき、取り入るにしても反逆を唆すにしても対抗策としては申し分なく、それ以上に心がくすぐられた予感の実現に改めて『面白い』と思った。
そこから先は取り留めのない世間話や趣味に関する話で、椎名の趣味である読書--ミステリーの話に綾小路は盛り上がった。
「浜辺でも『さらば愛しき女よ』を読んでたし、本当に本好きなんだな」
「綾小路くんも興味が?」
「オレも結構ミステリーは好きだ」
「そうなんですか--実は私物で往年の傑作を持ってるんですが、今度どうですか?」
「いいのか」
綾小路の喰い付きの良さに椎名は嬉しそうに笑って手を合わせる。
「はい。クラスには小説を好む人が居なくて、いつか同じ趣味の人に会えたら貸したいと思っていたんです」
屈託なく話す姿に最初に抱いた警戒が解けていく綾小路を始めとした面々だが、唯一佐倉だけがジト目で二人のやり取りを見ていた。
「清隆くん--趣味もいいけど乙女心も大切にね」
このひと言で全員の脳裏に凍り付いた笑みの坂柳有栖が浮かび--夏にも関わらず背筋が凍り付く。
「あ、いたいた」
その時、平田と軽井沢がやって来た--時間を見てみると結果発表まで五分を切っており、随分と長居していたようだった。
「君はCクラスの--座っていいかな?」
平田は状況を大凡察したようだが、直ぐに気を取り直して断りを入れて席に着く。
「あ、堀北さんも来たよ」
軽井沢の声に顔を向けると堀北と何故か、その後ろに付いて須藤が一緒にやって来た。
堀北の邪険にしている表情からして無理に付いてきたようだ。
「いい加減、邪魔だから消えて」
「そりゃないぜ--俺だって試験には全力で挑んで結果だってだすつもりだったんだから」
堀北の辛辣な言い様に須藤は平田を見ながら言い訳する--またひとつ、与り知らない動きがあったことを悟り、
尤も須藤の牛グループはBの優待者を守る為、外した際のリスクを強調して回答は絶対にしないように言い含めただけだが……具体的な指示は軽井沢を通して松下にしており、佐倉も同調するように言っておいたが遅かった。
堀北が女子の方の席に着くが、須藤は男子の方に空いている席がなく立ちつくし、
「どうやら、これ以上はお邪魔みたいですね」
「待てよ、ひより。折角だからまだ居ろ」
椎名が気を利かせたのか立ち去ろうとしたが、新たな人物が引き留めた。
「龍園!」
須藤が威嚇するように声を上げるが、元より誘い出すためにカフェに陣取っていたので他は予定通りであり、開けていた席--堀北の隣に座り込んだ。
「あ、テメェ!」
「もう直ぐ結果発表だな--手応えはどうだ。鈴音」
「テメェ……堀北に馴れ馴れしくしてんじゃ―――――」
「須藤くん、煩いわよ--話の邪魔はしないでくれる」
「……おぅ…………」
堀北に止められ、須藤は近くのテーブルの空席を探し座る。
「ハハッ--話すのは二度目だな。オメェが坂柳の男か、今朝の二回目のやつ--仕組んだのはオメェだな」
龍園はその様子をせせら笑いながら、綾小路に顔を向けた--そして確信めいたニュアンスに誤魔化すのは無意味だと悟る。
「実行したのは一之瀬だがな--ちなみにそっちはいつ法則性に気付いたんだ?」
「昨日の晩だな--全くギリギリだったぜ。伊吹から一之瀬と組んでる報告を受けて
「はい。詳細は伏せますが金田くんと三人で、厳選なる調整--その根幹に辿り着くのは本当に大変でした」
「ハッタリだわ--現に竜には裏切者は出なかった」
「気付いていたなら、なんでメールを送らなかったんだい?」
堀北は守り通した自信があるのだろう声も態度も毅然としたもので、平田もミスは無いと自負しているようだが、今朝の一件が気がかりで訊いた。
「そこは俺の慈悲だな--と、丁度時間だな」
午後11時となり、一斉に届くメール--結果を知るべく全員が視線を落とし、そして驚愕する。
子(鼠)──裏切り者の正解により結果3とする
丑(牛)――裏切り者の正解により結果3とする
寅(虎)――裏切り者の正解により結果3とする
卯(兎)――裏切り者の回答ミスにより結果4とする
辰(竜)――試験終了後の全員の正解により結果1とする
巳(蛇)――裏切り者の正解により結果3とする
午(馬)――裏切り者の正解により結果3とする
未(羊)――裏切り者の正解により結果3とする
申(猿)――裏切り者の正解により結果3とする
酉(鳥)――裏切り者の正解により結果3とする
戌(犬)――裏切り者の正解により結果3とする
亥(猪)――裏切り者の正解により結果3とする
以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。
Aクラス……マイナス200cl プラス200万pr
Bクラス……変動なし プラス300万pr
Cクラス……プラス 150cl プラス500万pr
Dクラス……プラス 50cl プラス300万pr
「Cクラスがトップ……」
愕然とする堀北たち--優待者である櫛田を見破られたのが余程信じられないようだ。
「ククク--これで全クラスに大金が手に入った。本当はまだ稼ぎたかったが、別の楽しみが出来たから良しにしとくぜ」
龍園は綾小路を見ながら続ける。
「竜は櫛田桔梗で、兎は軽井沢恵--だが実際には一之瀬が優待者に偽装されてAクラスを嵌めた。
いや、運が悪ければマイナスを食らってたのは
「訊いたときは流石に焦りましたね--二クラスの情報があれば法則に気が付くのも時間の問題です」
無茶をしたのか、椎名の声は少し疲れているようだった。
「だが結果として俺たちが勝った--牛井にも伝えな、こっちに来るならいつでも歓迎するってな」
龍園は満足げに立ち上がると椎名も続き、一緒に去って行った。
***
夜が明けて皆が戻ってきた。
やっと本当の意味での夏休みに入って浮かれているのが大半で、バスから降りて寮の自室じゃなくて俺の部屋に押しかけてくるのも居た。
「空いてるから入れ」
ドアが開き、綾小路がいつもの気の抜けた顔で現れた--内心は驚いてるって訳でもなさそうに見えるし慣れて来たのかな。
「久しぶりだな。嬰児」
「挨拶はいい--試験結果はどうなったんだ?」
「……ダメだった。Cクラス--龍園と椎名に先を越された。二学期からもⅮのままだ」
「そうか」
ここで椎名の名前を出てくるか--俺のことは何でも知ってるとか気色の悪いのはよしてくれよな。
「奴らは優待者の法則を見破り--龍園に関しては不可能だと思われた結果1をやってのけた。一之瀬に確認を取ったら、試験終了して直ぐに櫛田が優待者だとメールが回って来て、外してもリスクがないなら試してみたくなる内容だったそうだ。どうも気に入らない予感がするんだが」
リスクが無い賭けなら、物は試しにやってみたくなるのが人の性。それなら葛城もやるだろうな--しかし賭けじゃなく〝絶対の根拠〟がもしもあったとしたら……。
「早急な対策が必要だな--綾小路」
「言うべき相手はオレじゃないだろ」
「俺的にはそうは思わない。黙ってる方がいいな」
「堀北が自分で気付くのを待つのか--手遅れになるかも知れないぞ」
前みたいに回りくどくても俺から堀北に伝えろって--違うよな、言ってるのとは裏腹な期待感を感じるぞ。
既に具体案はある。それも異能を使って--そう言わせて、更にそれを発展させる話に持って行きたいんだよな。
だが物事は早々お前の思う通りには行かないのは、もう分かってるだろ。
「ならその忠告はお前がしといてくれ--知っての通り俺は余り動けないんでな」
「そうだな。朝っぱらから邪魔したな--動けないなら今後はオレから足を運ぶことにする」
実りが無いと判断すれば潔く引く--のはいいとして、溜まり場にされるのもちょっと困るぞ。
そうしてまた誰が来るのかと思いながら漫然と時間が過ぎていき、誰も来ないまま昼に--なった途端にインターンが鳴って開けてみると…………仕組んだのかどうかは知らんが、そうだとして何のつもりだ?
「久しぶりだな--軽井沢」
「うん。あ、これお土産--船のお店のだけど」
行きも帰りも豪華客船を楽しめなかったから、せめてものってか。
「気が利くな--ありがとよ」
素直に受け取って適当な所に置く--中身は後にして、先に確かめなきゃいけ居ないのは、
「綾小路に何か言われたのか?」
「ち、違うよ。これはあたしが……綾小路くん、またの話は日を改めてって」
メールでも済むことを伝書鳩替わりにされたか--従ってる辺り
黙って続きを待つとソワソワしながら何か言おうとしてるが中々出てこない。
聞き耳立ててる奴が居ないか『地の善導』で確かめるが誰も居ない--頃合いを見計らってる訳じゃないか。
「そ、その--嬰児くん、ご飯食べた?」
やっと出てきた言葉がそれか。
「昼を一緒にってなら遠慮する--今、外に出ると面倒なんでな」
「じゃあさ、あたしが何か作るから--何がいい?」
おいおい、押しかけ女房になる気か?
綾小路いや、平田が来て修羅場でも演出するつもりとか…………そうだとすると証人たる目撃者は誰になるのか?
堀北か綾小路のグループの誰か--いや、この手の色恋沙汰なら軽井沢の連れの佐藤あたりが喰い付きそうだな。
そうなるとここは、
「かつ丼かな--事情聴取には出なかったし、この場合はやはり」
「…………取り調べにかつ丼って、いつの時代のドラマよ」
「さぁね--で作れるのか?」
「お安い御用だけど--材料あるの?無いから買ってこないと」
ポイントの節約しなきゃだから、やっぱいいや--と繋いで断わろう。
「ちょうど、一杯ポイント入ったから御馳走する--ちょっと待っててね」
忙しなく行ってしまう。あ、どうせなら味噌汁も一緒に作ってくれるとありがたいんだが……。
公式では7月初め時点でBクラスは663ポイント、Cクラスは492ポイントとありました。
順調に纏まっただろうBが13ポイント、曲がりなりにも纏まっているCが僅か2ポイントの増加は違和感があり、綾小路が語った全クラス100近い増加にも合わないと思ったので勝手ながら改変する事にしました。
この確率世界での中間試験のクラスポイントの増加はAが64でDが86であることから間を取って、Bが73でCが77として、
7月時点 (特別試験前)
Aクラス――1004
Bクラス―― 723
Cクラス―― 567
Dクラス―― 86
特別試験での増減は以下の通りとします。
無人島 優待者
Aクラス――1100 → 900
Bクラス―― 893 → 893
Cクラス―― 567 → 717
Dクラス―― 390 → 440