どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
修羅場になるかと思っていた--しかし軽井沢は昼飯だけ作るとさっさと帰ってしまい、本当に一体何しに来たのか?
しかし、その答えはすぐに分かった。
今、俺の部屋に来ている一之瀬帆波によって……何とも味な真似をしてくれるな、綾小路。
「へぇ~、結構片付いてるんだね。嬰児くんって綺麗好き?」
気さくに話しかける仕草は、白の半袖シャツに淡い青色のオーバーオールタイプのスカートの私服姿と相まって何とも新鮮な感じだ。
「元よりあまり弄ってないからな」
ちなみに今弄ってるのは端末で、学校掲示板の〝特例の男子に会いに行ったけど速攻で追い返された〟と題された書き込みを見ている。
内容をざっくり言うと手土産を持って俺の所に来てご飯もご馳走したけど、面倒だと冷たくあしらわれたとあった。
アップされてまださほど時間も経ってないのに随分と盛況のようで、コメントには〝ガードが堅い〟とか無難なものから始まり〝一之瀬じゃなきゃダメなのか〟など--何とも作為的臭いがする書き込みを皮切りに今までⅮクラスしか知らなかった内容が次々にアップされ盛り上がっていた。
特例のことは既に一年にも伝わっているのは想定内だが、必要のないことまで広めやがって……一之瀬から話を聞いた時には流石に焦ったぞ。
「にゃははは--ちょっと小耳に挟んだけど、坂柳さんとお茶してたんだって?」
「群がってくるだろう奴らへの虫よけにな」
「あー、そりゃ、綾小路くんもさぞ面白くないよね~」
しっかりと尤もらしい口実も用意してるか……しかも殊更に坂柳を絡めてこられては俺も強くは出にくい。元より疑われてるのは分かってたが、ここまで大胆に来るってことは確信を持ったか。直接文句を言いに来ず、綾小路好みの印象操作で雁字搦めにしてこようとは、しかも俺が反撃に出れない様にしながら--では新学期にはお前の望み通りにしてやろうじゃねぇか。
「で、その腹いせが曲解を更に拡大解釈しての言葉狩りと--これからは一之瀬が大変になるじゃないか?」
軽井沢がとっとと帰ったのは既成事実だと思わせる為--あれで見た目はいいから、それを追い返したとなった後で
「えー、心配してくれてるんだぁ」
それを利用しようとしてくる気満々のとびっきりの笑顔だ--面の皮が厚いと言うか肝が据わってるな。
「既にお前じゃなきゃって流れが出来上がってる--取り入ろうとしてくる輩も居れば、逆に嫉妬してくるのも出てきても不思議じゃない。それで事態が悪化したら笑い事じゃ済まないぞ」
「うん、そうだね。だからさ、色々と守ってくれると嬉しいんだけどなぁ」
笑顔のまま、甘えるような声で遠回しにBクラスに来ないかと誘ってやがる--もしここで、ウンと言っても直ぐにそうなることじゃない。
クラス移動が可能になるまでの間に提案を拒否する方法--手っ取り早いのはBを叩き潰すこと。
堀北を唆してクラスを纏め上げるように持って行くか、それとも他に算段でも付いているのか?
綾小路の出方は読めねぇ--分からんものを気にしても仕方ないから、取り敢えずは目の前のことだな。
「ならお前がこっちに来るのはどうだ?」
「…………私にみんなを裏切れって言うの」
笑顔が消えてジト目になったが……それでも百人中百人が可愛いと思ってしまうこと間違いなしに魅力的だ。
「前の試験において負けはしなかったが、勝ったとは言えない結果だった--Aクラスになるんじゃなかったのか?」
「確かにAクラスにはなれなかったけど、差額は7ポイントのひと桁--二学期中にだって逆転できる可能性は十分だよ」
負け惜しみにしか聞こえないが別に喧嘩をしたい訳じゃないから、そこには触れないでおこう。
「勝てるのか?これからのAクラスは手強いぞ」
「
「それはそうだろうが……」
……それで満足してちゃ、勝ち上がるどころか生き残るのも難しいと思うぞ。もっとも敵に塩を送る気は無いからこれも黙っておこう。
必要になるのは一之瀬が負けたか、それに準ずるときかな。
「何よりⅮクラスに行ったって……言葉は悪いけど、沈む船に乗りたくはないよ」
確かに一之瀬にしては珍しい例えだ--要するにそれだけⅮの現状がヤバいと見ているってこと。
船上試験での結果から導き出される可能性からすると、その見解は正しい。下手したらⅮクラスはもう一勝も出来ずに負け続ける--普通ならな。
「じゃあ、その前に他の船を沈めるのはどうだ?そうなれば穴も塞げるだろうし」
「…………いつになく過激だね。そんなことして大丈夫なの?」
「かなり際どいが、打てる手はまだ残してる--ただそれでも駄目だったら、もうお手上げかな」
「それは……流石と言えばいいのか…………それともご愁傷様と言ってあげた方がいい?」
「おいおい、自分たちがターゲットかも知れないんだぜ--そんな呑気でいいのか?」
「私たちを倒してⅮも潰れちゃ、Cクラス--ううん、龍園くんが喜ぶだけでしょ。そんなことを良しに出来るなら、春先に情報を回すわけないじゃない。
正直、あれが無かったら一体いくらのポイントが引かれてたか」
ほほう、堀北同様に予備知識を上手く活用してくれたようだな。
六月終わりに須藤を嵌めようとしたのと同様、それまではBクラスに何かしら攻撃を仕掛けてたが不発に終わった--だからこそⅮに対して大胆な手に出ようとした訳か。
尤も一之瀬なら俺がお膳立てしなくても上手く流せたとも思うが、それでも50以上のマイナスはあったかもしれない--Cに関しちゃ、あちこちにちょっかいを出してなら、その倍近くはマイナスを喰らってたかな。
「休日も査定されてるかも知れないか--いつ休めばいいのやら」
「にゃははは--学生の本分さえ忘れなきゃ、そこまでにはならないと思うけど」
学生の本分と言うと勉強--休みも机にかじり付いてろってか、それとも部活に精を出すか、はたまた贅沢しないで清貧に励めば寧ろプラスになったりするのか……。
ああ、辛気臭い話はここまでにしよう--元よりデートの日取りを決めようって来てくれたんだ。
「それじゃ、学生の本分を肝に銘じて社会奉仕に尽力する--日取りはそれが終わってからでいいか?」
「うん、全然オッケーだよ。坂柳さんには私から伝えておく?」
「いや、俺から綾小路に言うからあいつからにした方がいいだろう--この前のこともきちんと説明するように頼んどいたからな」
「……いや、そんなことしなくても綾小路くんも分かってると思うけど」
俺としては、それでこの件は終わりとしたい……そう言うメッセージなんだが、既に一之瀬を送り込んでくる辺り、また次が来るだろうな。
そのまま一之瀬とは他愛無いやり取りを続けたが大して盛り上がることもなく程なくして帰っていった。
そこから先は当初想定したよりは静かに過ごせた--軽井沢を袖にして一之瀬を向かい入れた--その事実を(穿った形で)持ってⅮの連中も平田と軽井沢が上手く抑えて、それを広めることでその他の輩も俺への接触は簡単じゃないと言う認識が定着していってる。
……逆に一之瀬の方が俺に対してどうすれば機嫌を取ることが出来るのかだとか、代わりに頼まれて欲しいと言ったのが増えているようで、会ってみるだけでもとか言うのも偶にされる。
そして、その情報が更に堀北にも流れ--綾小路たちと一緒に対策会議を開いているから参加して欲しいと言うのが最近よく来る。
曲がりなりにも俺を守ってくれようと言う気持ちは有り難いが、応えたくもない下心が見え見えだぞ--せめてほんの少しだけでいいから、他にも目を向けてくれんかね。
***
「嬰児くん、やっぱり来る気は無いみたいね」
堀北のひと言に集まった綾小路、平田、軽井沢が然もあらんと顔になる。
ケヤキモールのカフェ『パレット』の一番奥の比較的目立たない席--日中、それも夏休みとあって混雑しており、人が見たら違和感を覚えるようなメンバーでも何でもない場面として溶け込んでいる。
「あたしたちが居れば変なのも寄ってこないってのに」
軽井沢は少々不満そうに愚痴る。
しかし嬰児からすれば不用意に外に出たくない気持ちも分からない訳でもない為、それ以上のものは湧いてこない。
「誰かさんが嫉妬で軽率な企みをしなければ、違っていたかもしれないわね」
堀北が綾小路に呆れの籠った視線を向ける--怒りがないのは、それなりに理解を示していることなのかもしれない。
「僕としてはその事も含めて話し合いの場が持てて嬉しく思うよ」
「長くても十分で頼むぞ。この後で有栖と買い物に行く予定なんだ」
平田の絶妙な仲裁に対して間髪入れずに綾小路は和を乱すことを言う。
「…………綾小路くんさ、ホントに嬰児くんの力になる気あるの?」
「勿論だ、軽井沢。今更聞くまでもないだろう」
その発言に対して本当なのかと一同は思うが、綾小路が坂柳有栖と牛井嬰児のどちらが大切かなどそれこそ聞くまでもない。
全くもってブレない姿勢は分かり易くて、追及する気も失せてくる--そんな心情に駆られて堀北が溜息を付く。
「ハァ、時間が惜しいから兎に角話を進めましょう。今は一之瀬さんに注意を逸らしてるから、幾分かはマシになってるけど--いつまでもこの状態に甘んじてる訳にはいかないわ」
「だね。クラス全体で嬰児くんをフォローしていける状態がベストだけど、ひとつ間違えると我慢の枷が余計に増えることになりかねない」
平田の指摘に軽井沢は船上試験中にした電話で言われた言葉を思い出す。
「嬰児くんの力を欲するなら〝クラスが団結していく必要がある〟って言ってたし、当てにすること自体がダメってことだよね」
「ええ、Aクラスを目指すセオリーの範囲内--それを嬰児くんがフォローする形でならと思ってたけど、甘かったわね」
「本当ならもっと自由にやりたいだろうにな」
堀北に同調するように綾小路も言葉を漏らす--これに誰よりも嬰児の力に魅入られていた軽井沢が不満をぶちまけた。
「それにしたってさ、たった一回活躍しただけでここまでする?たかが学校の試験でしょ……多少、ぶっ飛んでるけどさ」
「それだけ嬰児を取り巻いてる事情が重いってことだろ--訊いたってどうせ言わないだろうが」
「ねぇ、坂柳さんって理事長の娘さんなんでしょ。綾小路くん頼んで直訴とか出来ないの?」
「無理だ--あくまで学校のルールに則ってじゃないと困らせることになりかねん。そんな真似は出来ん」
「ホントに好き嫌いがハッキリしてるね」
「誉め言葉と受け取っておこう」
直接話した訳ではないが、綾小路がこの学校に入学できたもの理事長の力添えがあってのこと迷惑は掛けられない--それを知らない者から見れば、
「ちょっと話がそれてるわ--ついでに言えば言い分が詰まらないわよ。嬰児くんの事情がその程度で覆せる訳がないなんて、分かり切ってることでしょう」
二人のやり取りをバッサリと切る堀北--綾小路はいつものポーカーフェイスで軽井沢は不満顔のまま黙らされる。
「かと言って一気に状況を打開できる手立てがある訳でもない--少なくとも嬰児くん自信が協力してくれないと」
平田が上手く軌道修正して険悪になりそうなのを避ける。
「だからこそ提案なんだけど、この集まりに櫛田さんも入れたいんだ。僕ら補いきれない部分--男子の意見を纏めるのにも適してるし、嬰児くんの為にも選択肢は多いに越したことは無いと思うんだ」
平田は綾小路を見ながら言う姿は、いい加減に仲直りしろと語っている。
船上試験からのリーダー擁立から粘り強く和解を求めてくる姿には根負け……
「櫛田は嬰児の為には何もしない--あいつは嬰児の敵に回るようなバカじゃないが、味方になることは絶対にない」
する訳もなく、寧ろきっぱりとこの話し合いには合わないと断言した。
「だったら尚更、一之瀬さんに嬰児くんを持って行かれかねないこの状況は不味いんじゃないかしら」
堀北がどう責任を取るつもりだと言いたげに責め立てる。
「嬰児が力を遺憾なく発揮には、あいつが望んでるものを提示するのがベストだ--今度の有栖と一緒のデートでその辺りには切り込むつもりだ」
具体的な考えを訊かされ沈黙が訪れる。
「それ以降のこともオレに任せて貰う--だからお前たちはクラスをどう持って行くかに集中しろ。じゃなきゃ本当に嬰児は他所に持っていかれるぞ」
そのまま立ち上がる綾小路--どうやら本意でこの場に来た訳ではないようで端末を操作して平田に注文分のポイントを送り去って行く。
目で追っていく堀北達は店の入り口で坂柳と合流するのを見て、何とも言えない気分になり程なくして解散した。
ケヤキモールの街道を並んで歩く綾小路と坂柳--足が不自由な彼女に合わせて、ゆっくりと段差のあるところでは自然と手を貸して。
「気を付けろよ」
「畏れ入ります」
過保護にも見える遣り取りだが、二人の仲睦まじい姿は互いを大事にしているのがありありと伝わってくる。
「今しがた嬰児から連絡が来た。デートは外出が済んでからにして欲しいそうだ」
「そうですか--他にも何かありませんでしたか?」
誤解を解くように頼まれたのをしっかりと覚えていながらも愉しそうに訊く。
「特に何も」
綾小路もそのわざとらしさに内心引っ掛かるものがあるが呑み込んで答える。
「そう言えば葛城君からある相談されまして、船上試験では一之瀬さんと組んで愉快なことをしてくれたとか。
ああ、別に手心をとか言うつもりじゃありません。ただそのことでちょっとした提案を受けまして―――――」
そこから綾小路が目を細めるような内容が話されるが、特に気にする必要は無いと思ったのか、
「そうか」
と短く言うだけだった。
この前の嬰児との会合も含め喰い付いてくるかもと思っていた坂柳だが、見事に空振りとなった。
「やはりこの前に言っていた通り私とはもうお話しすることは無いようですね」
自分を嬰児に会わせたがっていたことはもう分かり切っており、勝負を受ける対価はもう果たされている。それはもう坂柳は用済みを意味する……ことにはならないと確信の籠ったニュアンスだった。
「嬰児と接触したことは今更どうでもいいし、お前との勝負も反故にするつもりない--だがその為にもオレが動き易いよう改めて協力して貰いたい」
綾小路が執着している相手--その取り巻く不自由は当人が望んでいるものではない。破棄させることは不可能だとしても可能な限り緩和させることは可能--学校のルールに則りクラスで競い合うのであれば、坂柳と戦う為にとの認知は打ってつけのカムフラージュである。
嬰児が動いても文句を言われないようにするには、Aクラスは高い壁であることが望ましく、強大な敵は団結を生み出し、嬰児の力を否応なしに必要だと思わせる--しかし事情を考慮すると調整役が必要だ。
「Aクラスの為とすると齟齬が生じてしまいますか」
「ああ、オレはAクラスには興味が無いのは本心だ。あくまで個人的なことで動いてるとする方がやり易い」
「ふふ、約束さえ果たしてくれれば構いませよ」
建前上とは言え坂柳の為にと言うのは非常に嬉しくて、今こうしても歩いているのも含めてこれから先も堂々と一緒に居られることは至福の喜びだった。
坂柳有栖の声も表情も仕草も嬉々としており、何処から見ても恋する乙女の姿は元から良い容姿も相俟って魅力だらけであった。
その魅力は普段のクールな姿を知っている身にはギャップが凄くあり、とても破壊的で綾小路の目を一瞬奪った。
「どうされました?」
「……なんでもない。気にするな」
微笑みながら尋ねてくる姿に一瞬声を出すのが遅れ、顔を見上げて空を見る--夏の真っただ中で照り付ける陽光は暑いのひと言であり、丁度良く日陰になっているベンチを見つけたので言う。
「みんなと合流するまで少し時間があるし休まないか?」
「ではエスコートをお願いできますでしょうか」
笑顔のまま嬉しそうに甘えてくる姿は反応に困る綾小路だが、手を差し伸べると坂柳は空いている左手を乗せてベンチまで歩いていく。
「ゆっくりとな」
「はい。ありがとうございます」
坂柳の身体を支えながら、そっと座らせ綾小路も隣に座る。
その光景は彼女を大事にしている彼氏--ラブラブのカップルそのもの。
また夏休みで人通りがそれなりあるにも関わらず注目するものは一人も居ない。
既にこの光景は当たり前のものとしており、しかし本人たちに自覚は無く日陰で涼む。
そしていつも通りに取り留めない会話を始める--ありふれた日常の話を取り留めのない普段の生活の話を飽きることなく。
***
ああ、くそ。暑いしまた『天の抑留』で上空に涼みに行きたいが、少し外に出るとあちこちから注目を受けて、それもままならない。
有力者かドゥデキャプルかの狙いは見事に嵌っている--なんとも動き辛い限りだ。
端末でポイントの残高を確認すると五千は切っており、餌代もバカにならないから『鵜の目鷹の目』による穴場探しも出来ない。
もうこの際、開き直って一之瀬に同伴して貰おうか……堀北が癇癪起こすかも知れないが背に腹は代えられないとのことで。
連絡を入れようか、どうしようかと思ってたら通知が届いた--開くと外出日は二十日で、仕事内容はケヤキモールに配送する商品の検品で午前八時から午後八時までの十二時間ね。
三日後か、これが過ぎれば冬休みまでは落ち着くかな?
それともその間にも媚び売ってくるのは出てくるか……いや、適当な理由をでっち上げるなりして戻って来れないようにするのも考えられるか。
まぁ、これは考えてもしょうがない--問題はこの情報がどの程度の早さで広がっているかだ。
一之瀬もそうだが俺の所に直接来るのも居ると考えた方がいいだろうし、何処かに隠れるか?
何処にだ……匿って貰うにしても綾小路や堀北は論外だし、平田も軽井沢のことがあるから頼みたくない。
っと、一之瀬から電話だ。
「もしもし」
『もしもし嬰児くん。話があるから明日、そっちに行きたいんだけど』
「ちなみに誰と一緒なんだ?」
『ニャハハハ、何とも察しが良いね』
予想の中でも最悪--いや、ひょっとしたら俺への通知が後で情報が回った方が先だったりするのかな。
「ちなみにお涙ちょうだいの理由で受ける気は更々ないぞ」
そんなんで引き受けた日には際限なく押し寄せてきそうだ--中には作り話を盛って内緒で手紙もとか言ってくるのもな。
当然、すぐバレルだろうし俺の責任問題として退学になる……そんなショボい終わりなんて真っ平だ。
『それは相手も分かってるよ。私もそうじゃなきゃ、こんなことしないし』
相応の報酬を払う気はあるか。だがその条件も直ぐに広がるだろうし、他が出来ない条件だとも考えられないから、どのみち同じだ。
「悪いけど――――――」
『それにこの話断ったって、次々来るよ。私がそっちに行けば色々とシャットアウト出来るし、提示してる報酬にはそのことも含まれてる』
「俺の悩みを解決してくれる案があると?」
『流石に頼みごとを0にするのは無理だけど、大幅に少なくする方法があるんだ。どう?無理強いは絶対しないし、ちゃんと現物の報酬も払うって約束してる』
一之瀬がここまで食い下がるからには余程の事情か、或いは人情に訴えるようなのか、どちらにしても興味はない。
しかし、ここで断って一之瀬でも駄目だったなんて話が広がったら、それこそチャイムや電話、メールは鳴りっぱなしになる--なんだよ、結局は選択の余地が無いじゃねぇか。
「…………割り込まれても面倒だから今日中で頼む。明日じゃ遅すぎる、明日出なきゃだめならその方法を今提示して貰いたい」
『うん、分かった!じゃあ、そう伝えておくね』
せめてもと思って、きつめの条件を提示してみたが即答で快諾した--それも相手に確認も取らず、つまりはそれだけ相手にとっても真剣であるってことか。
「ああ、それで相手は誰だ?」
少なくとも綾小路では無い。
あいつなら俺が引っ張りダコになるのを待ってから話を持ち掛けてくだろう……報酬を高く吊り上げる為に。
『ああ、ごめんごめん。Aクラスの葛城くんだよ』
おやBクラスの誰かと思ってたが、それにしても意外な名前が出たな。
『詳しいことは本人が話すから--それじゃ、直ぐに行くから』
通話が切れた……う~ん、思いもよらぬ客が来るか。
部屋を片付けなきゃいけないこともないし、取り敢えずお茶の用意か……こんなことなら菓子も買っとけばよかったな。