どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
さて、今日の一之瀬は白のシャツブラウスに藍色のロングスカートとシンプルな格好だが元が文句をつけようのないほど良いから見栄えは冴えわたる。
一緒に来た葛城は俺と同じでポロシャツにジーンズで違いは、葛城が無地のベージュで俺が水色のストライプとシャツの柄だけ--それよりも持って来た手提げ鞄には何が入ってるのか気になるところだ。
二人は俺の部屋のテーブルに座っており、さっき沸かしたお湯を急須に居れて煎茶を入れて持って行く。
「夏なのにすまんな。客に出せるのはこれしかなくてな」
湯気の立つ湯呑茶碗をそれぞれに出すが二人は嫌な顔ひとつせずに口を付ける。
「突然来たのはこっちだ。寧ろ俺の方こそ申し出を受けてくれて礼を言う」
「そうそう、それに嬰児くんにこんな風に御もてなしされるのは新鮮で楽しいし」
この前みたいにいきなり来るんじゃないなら、腹がタプタプになるまで飲ませてやるぞ--と挨拶はこれくらいでいいだろうから、俺も座ると葛城が鞄の中からラッピングされた箱を取り出してた。
なんだお前も俺へのお土産か?
「単刀直入に言う。外出の際にこれを俺の妹に送って貰いたい」
「堂々と正面から来たのはお前が初めてだな」
素直な感想を言うと葛城は頭を下げて来た。
「こう言う話を受けたくないのは重々承知している--だがこの学校のルールではお前に頼むしか方法が無い。勿論、報酬は別に10万ポイントを支払う用意がある--引き受けて貰えないだろうか」
「私からもお願い--葛城くん、病弱な妹さんが居て祝ってあげられるの葛城くんしか居ないんだ」
いかにも一之瀬好みの話だな--葛城の性格からして嘘つくとも思えないし間違いなく本当のことだろう。
しかし、
「安いぞ。報酬も何もかも--それだけなら話は終わりだ。頭上げて帰ってくれ」
そう如何にも情に訴える…………いやホントにそうだとしても、それで流されるお人好しじゃない。
当然、これが不測の事態だと言うようなタマじゃあるまい--頭を上げた顔には一切動じてない。
鞄から紙きれを一枚取り出して言う。
「これは牛井嬰児に対しAクラスは、これ以降の物品送付は頼まないと言う誓約書だ」
差し出された内容はAクラスが頼むのは今回が最初で最後で、罰則として違反者は退学するとあり、葛城は勿論のこと坂柳も含めたAクラス全員の署名があった--確かにこれでAクラスに関しては気にすることはなくなるな。
「よく認めさせたな--坂柳派の反発もあったんじゃないのか?」
「その坂柳派が試験でミスを犯してな--30万ポイントを一之瀬に支払わなければならないのを俺個人が肩代わりすることで了承した」
葛城は目を一之瀬に向けるとシレっとした声で言った。
「そう言うこと、私も分割にして欲しいって持ち掛けられて色々聞かせれた。
尤も坂柳さんは葛城くんの提案は単なる口実で嬰児くんには元より何もしないようにするつもりだったみたいだけど」
「ああ、俺も罰則に退学まで盛り込まれるとは思ってなかった--関わりたくないのか、お前に同情してるのか、至極あっさりとしたものだった」
淡々と言ってるがその目には何があるのかと、ありありとした興味が見えるぞ--それは一之瀬も同様で坂柳が知ってるなら自分にも教えろと言ってるように見えてしまう。
…………本当に思ってたとしても言うつもりはないがな。
「
おお、有り難いことだ。
特例を利用するためにご機嫌取りするんじゃなくて、俺の機嫌を取るために特例による不自由を外すとするなら、Cクラスも待ったが掛かるだろうし、Ⅾも俺が出ていくことを恐れて自重が期待できる--と、こんな感じかな。
そして依頼料として10万ポイントなら上の学年のC、Ⅾクラスにはおいそれと頼んだりは出来ない。
「既に特異な存在として注目されているが、少なくともこの件に関しての影響は小さくなるだろう」
ひと通り語ったかな--と思ったんだが、なんだ改まった顔して?
「それとも逆にポイントを稼ぐ手段として利用したいなら、上手く捌ける方法もある--ただその場合、必要ポイントが集まった際には、
「ちなみにこれは今すぐに返事して欲しい--直ぐに始めないと間に合わないから」
本題はこっちか、一之瀬の方も情だけで協力した訳じゃないのは少し驚いたが意外でもない。
「ああ、坂柳は受けるとは思えないと言っていたが、周りの連中もお前を味方に出来るのは魅力的に映ったようでどうにかなった」
「Bクラスの方でもね--こっちも一部では歓迎できない娘が居るけど、そこは頑張っていこう」
十中八九、白波のことだろうな。
名目的には助けたからイーブンだが、実質は俺の都合での芝居同然だから嫌われたとしても文句が言えない……気不味くなるのは目に見えてる。
のは差し引いても、と言うか答えはとっくに決まっている。
「断る」
俺がそう言うと短い間の後、葛城も一之瀬も仕方ないと言うような表情になり言った。
「そうか、分かった」
「うん、嬰児くんにその気が無いんじゃね」
面倒は御免だからな--大方、依頼料を吊り上げて、分割でもいいからと大々的に宣伝して、この夏と冬の二回に分けて百人近い依頼を受ける。普通なら捌き切れないから、効率よく送れるようこれからの三日間--更には冬休みに掛けて計画を練りにこの部屋に来るぞとなる。
上手く行けば夏と冬--駄目でも春があるから遅くとも来年には俺はAクラス行きに。
それを察した綾小路や堀北、Cの龍園も黙ってないだろうから誰かしら送ってきて妨害なりしてきて余計窮屈になりかねない。
「それじゃあ、荷物の送付先だが―――――」
「おい、そっちも受けるとは言ってないぞ」
勝手に話を進めようとするなっての--葛城、一之瀬ともに難しい顔になって見て俺に駄目な理由を求めてるな。
確かに嫌な注目を少なくするには十分な条件だが、どうせならまだ搾り取りたいんでな。
「話を聞く限りお前たちの提示した案は中々だ--だが、それでも反動で二、三年のABクラスが押し寄せてもやっぱり迷惑だ」
「牽制状態が好ましいと?ひとたび崩れると怒涛の如く流れ込みかねんぞ」
「そうだよ。確実に流れを断ち切る方策じゃないと結局、雁字搦めだよ」
建前に対しても真面目に答えてくるのは性分か?いや、それはいいとして。
「だからさ--もうひと押し欲しい」
俺は追加条件を話すと葛城は困惑し、一之瀬は目をキラキラさせて物凄い興奮した。
「うん、いいねぇ。全然いい!私、協力するよ!」
「お前達、いい趣味をしてるな。色んな意味で……」
ノリノリだな一之瀬--そんで葛城はそれを横目で見ながら呆れ声だ。
「こう言うのは乗り気になれないか、やっぱり」
「俺には縁のないことだと思ってた……が、妹の為だ。それで引き受けてくれるなら、その条件受けよう」
「よし、決まりだな--なら早速、生徒会の方に話を通しに行くか」
物品送付についての連絡を入れると予想通りに直ぐに返信が来て、今から来いとあった。
検分する教師の手配もあるから少しは--とか思ったが万全過ぎてと何とも言えない気分だな。
「制服に着替えて直ぐに来いだそうだ。お前たちも着替えて来い--ロビーは面倒になるかも知れないから、準備が出来たらまた来てくれ」
「うん、分かった--それにしても随分と早いね」
「全くだ。これなら最初から制服で来るべきだったな」
そう言うと二人は肯いて立ち上がり部屋を出て行った。
さてとお茶を片付けて、俺も準備しないとな。
数分後、依頼品を持って外に出る--相変わらず遠巻きに見られてくるが、いい壁があるから目的地まではスムーズに行けた。
生徒会室の改装工事はまだ少しかかるようで、前回同様に進路指導室だ--ドアの前まで来たところで葛城が遠慮がちに言った。
「いやはや全く知らなかったな--牛井が居なければ無駄足を運んでいたかも知れなかったな」
夏休みに制服着て学校を行ったり来たりか--それなりに目立つだろうし、変な誤解やからかいのネタになってたかな?
聞き流しながら俺はドアをノック、入れの声にドアを開くと堀北生徒会長と橘書記、それに初めて見る金髪の長身の男が居た。
他には真嶋先生と60代ほどの男性--確か校長先生だったな、あと一人は茶柱先生か。規定では三名の教師の立ち合いが必要とあるが理事長らしき人が居るかと思ったが居ないようだ。
ドゥデキャプルが何処かに潜んで無いかと室内に気を配るがその気配もない--もっともあいつがその気になれば分かるかも怪しいがな。
「牛井嬰児--物品送付申請の為、出頭しました」
用件を言って手にしてる箱を差し出すと会長殿が受け取り中身を改める。
「これを何処に送るつもりだ?」
この質問に葛城が俺の横に来て話す。
「私の双子の妹にです--妹は病弱で両親も居らず、祝ってあげられるのは私しかいません。外への物品送付は牛井氏の特例を持ってでしか対応できない為、お願いした所存です」
俺に注目が集まる--受けるとは思ってなかったんだろうが、与えられた権限だ。使ったところでどうこう言われる筋合いはない。
あとは立会人達がどうするか--それは葛城も分かっているのか深々と頭を下げた。
「何卒よろしくお願い申し上げます」
生徒会メンバーだけでなく教師連中も確かめてるが品物であるチョコレートも箱もメッセージカードも何も問題はないのは既に確かめてあるから、物そのものには問題ないだろう。
「これを送ることで君の外での自由時間は削られるが本当にいいのかな?」
「構いません」
校長が暗に断れと言ってるようなので即行で返す--そこに堀北会長の横に居た金髪男が俺を見て言った。
「ちなみに幾らで引き受けたんだ?倍だすから、こっちのも頼まれてくれねぇか」
「丁重にお断りさせていただきます。ええっと…………」
「二年Aクラスの南雲雅--生徒会副会長だ。倍じゃ足りなら三倍だすぜ」
やたらしつこいな--それでいて申し出にそこまでの拘りがあるようにも感じない。ついでに言えば俺を見てるようでいて、直ぐ側の一之瀬にもチラチラと視線を向けている。
「どれだけポイントを積まれようと引き受けるつもりはありません。一応、言っときますが葛城の事情に同情したからでもありませんから」
横目で葛城を見ると僅かに目尻を引きつらせた--可愛い妹の為だ、しっかりと頼むぞ、お兄ちゃん。
「そうなのか--ではなんで引き受けた?」
この場に居るもう一人のお兄ちゃん--堀北学生徒会長が訊いてきて南雲副会長が不服そうに引き下がった。
どうにも良好とは言えない仲のようだな、どうでもいいけど。
「その事ですが--出来れば他言無用でお願いします」
そう前置きして俺は引き受けた条件を話した--最初は緊張した不穏な空気だったが、話し終えたら一気に気が抜けてしまう表情に誰もがなっていた。
「と言う訳で少しばかり騒ぎになるかも知れないので、何卒ご了承ください」
一方で俺は至極真面目に言うと、微妙な顔したままの葛城とニコニコしながら一之瀬も一緒に頭を下げる。
あっけらかんとした間が流れ、その中で南雲副会長が口に手を当てると、
「ブッ、ハハハハハ――――」
大笑いしだして腹を抱え部屋中に笑い声が響いた。
うん、結構な手応えだ--これなら大丈夫だろう。
「いやはや、面白れぇなお前--どうだ生徒会に入る気ねぇか?」
何やら勧誘された。
「特に牛井。俺は来年、生徒会長になる--副会長として俺の右腕になるつもりはないか?俺の今までのノウハウとお前の特権とが合わされば、結構面白いことが出来る」
「それはいいな。何なら今からでも入る気は無いか--もうひとつの副会長の席も空いているしな」
堀北会長の台詞に南雲だけでなく全員が驚き、特に橘書記の驚愕具合は相当なものだ。
いや会長殿よ、そんなこと出来る訳がないのは分かってるだろう……一体なんのつもりだ?
「い、いや、ちょっと待ってください……彼は、その…………何分前例のないことですし」
校長がオドオドしながら駄目だと遠回しに言ってるが、仮にもアンタこの場で一番偉いんだろうに、もっと威厳を以て却下して貰わないと俺が困るんだが。
「えー、でも制度上は問題ないですよね--私も嬰児くんと一緒なら色々と心強いし、大歓迎ですよ」
一之瀬がノリノリで話に混ざってきたが、はて春先に葛城共々生徒会入りを断られたって話じゃなかったか?
「と冗談はこのくらいにして」
言い出しっぺである南雲が強引に話を終わらせてきた--成程ね、こいつが一之瀬を採用した訳か。
「いや、この提案は一考に値すると思うぞ」
「堀北君!そう言うことは別の機会にするべきだよ」
「ですが校長。何分前例のないことですから、そのまま流されてしまうかもしれません。牛井が入るのが無理なら同じクラスの綾小路を副会長枠で入れたいのですが?」
ここで綾小路か--思わぬ流れに再び驚きの間が訪れた。
特に茶柱先生なんか余程発言の真意が気になるのか、会長を見つめる目の熱量が半端ない。
「堀北先輩、知り合いなんですか?」
南雲も今更誰だとは言わないあたり、この学校で知らない奴はもう居ないか--覚え方は色々とアレだけど。
「一度だけ会ったことがある--中々に面白い奴だった。
その後もなんとなく気になっていたんだが、試験の時も牛井が居ない後の代理として上手く立ち回ってたそうだ」
実際に無人島では坂柳派との調整を担い、船上ではあいつのグループは逃げ切ってAに打撃を与えたからな。
でも綾小路を買っているのは、それだけじゃない--勘なのかは分からないが、並々ならぬ確信の籠ったニュアンスだ。
そう言えば前に〝堀北から何か聞いたのか?〟と訊かれたし、やっぱり見えづらい所で何かしら面白いことでもしてたのかな。
会長自身や周りからの態度から相当に実力があり信頼されているのは疑いようがないし、学校の運営に関することも少しは知れてもあまり不思議じゃなさそうだ。
そうなると佐倉のストーカーの件も綾小路が関わってるのに気付いてたりとか--こっちもあまり騒ぎになってないから、もしそうだとしたら本当に大した男だな。
「へぇ~、先輩にそこまで言わせるなんてね。俺も一度、会ってみたいものですね」
「南雲、それに堀北。そう言うことは本人を交えてやることだ」
ここで真嶋先生が出て大人の対応を以て話を収めた--正直、校長なんかよりもよっぽど頼りになるな。
「話を戻そう。今回の特例による物品送付だが、荷を確認して規約違反は見当たらない。よって承認で問題ないと思われますが」
「私も異議はありません」
「生徒会としても承認します」
「では荷物は当日までこちらで預かります。外出日に牛井くんに渡しますので、それまでに必要な手続きを済ませておくように」
教師と生徒会の許可も得たことで、あとはつつがなくいった。問題は当日に何かしらやれる隙を作っていること--捏造で陥れようものなら俺も容赦しないからな。
「本日は私の我儘の為にご足労頂き、本当にありがとうございました」
最後に葛城は頭を下げて俺たちは退室を言い渡された--そして部屋を出て直ぐに俺にも頭を下げた。
「牛井にも感謝する。この恩は決して忘れない」
「約束さえ守ってくれれば俺は構わんよ--寧ろそっちをしっかりと頼むよ」
そう、俺にとって重要なのはそっちだ。
だからこそ先払いの形を取ったんだ--
決意を新たに俺たちは校舎を出て行った。
***
「随分と珍しい組み合わせ--それに格好ですね」
「ああ、夏休みに制服とはな」
学生寮に戻る途中、坂柳と綾小路は人だかりに出くわし見てみると嬰児と一緒に一之瀬と葛城が居た。
二人は嬰児たちが歩いてきた方向から逆算して何処に言っていたのか、少し前に話ていた情報と制服姿から何をしていたのかを類推した。
そして直ぐに端末を操作して学校掲示板を確認、〝特例的処置が許可された〟と題されたスレッドが立ち上がっていた--相変わらず情報が回るのが早すぎる。
「葛城の依頼の話が出たのは昨日だよな--行動力があったにしてもやっぱり早すぎやしないか」
「彼の問題は最優先で処理しないといけないでしょうから--学校側も大変です」
綾小路も今更驚きはしないが、それ以上に当然であると言う坂柳の態度にあからさまな意図を感じさせて目を細めて見つめる。
「フフフ、申し訳ありませんが私の口からは何も言えません--でも先を見据えて彼を味方に付けたいと言うのは、ひょっとしたら清隆くんの意に沿わないかもしれませんよ」
表情も口調も笑っていながらも内容には何ひとつ愉快な要素が無い。
しかし綾小路は何も気にしない。
嬰児が大きな力に縛れているのは自明、それを本人が不服としているなら目的が重なり返ってやり易いと打算を働かせる。
「別に構わない--なるように調整すればいいだけの話だ」
「その身に付けた凄さに裏打ちされた自信、早く壊してしまいたいものです」
坂柳は変わらず笑顔のまま、いつも通りの好戦的な台詞--もはや完全に慣れてしまい綾小路の心には何の感情も湧かない。
「悪いが嬰児以外に負ける気はしない--嬰児にも二度と負けないがな」
何故なら戦わないから--そんな意図を悟ったのか笑顔から一転して不機嫌になる坂柳。
「次は勝って見せるぐらい言って欲しいですね」
「今のオレじゃ、どうやったって嬰児に勝てない--どうすれば、どう強くなれば勝てるのかも皆目見当が付かん」
「……………………」
対して坂柳は綾小路から出た〝強く〟の言葉に最近の嬰児とのやり取りを思い出してしまい思考が固まってしまった。
「どうした?」
「な、なんでもありません…………ホントになんでも……」
「そうは見えない--顔も赤いし、熱でもあるのか?」
怪訝そうな目で顔を近づけてくる綾小路に頬の赤みが増していくのを自覚していく坂柳だが、ただ黙って見ているしか出来なかった。
「おお、相変わらず仲がいいねぇ~」
そこに陽気な声がして二人が目を向けると嬰児が一之瀬と葛城と一緒に近づいて来た。
「牛井--邪魔しないほうが良かったんじゃ」
「にゃははは、私もそう思うよ。嬰児くん」
「別に構わない--オレ達も話がしたいと思ってたし」
「ええ、清隆くんの言う通りお気になさらずに……本当に」
それぞれが言葉を交わす中で、坂柳が安堵している姿は愛らしさが際立っていた。
「葛城の頼み、引き受けたんだな。ちょっと意外だったぞ、嬰児」
そんな姿を見せたくないとも取れるように綾小路は話を進めてくる--その意を酌むように嬰児は応じる。
「ああ、ついさっき受理された」
話が回るのが早すぎると言うのも今更であり、
「有栖から聞いたが10万と一回きりで手を打ったのか?」
「いいや、もうひとつ条件を付けた--値段に釣り合うようにな」
同じ頼みごとをしたい衆人たちに聞かせるように話を進めていく。
「どういったものかお伺いしても?」
「言う訳ないだろう」
「そうですか」
坂柳も残念な顔になり見ていた面々も散っていったが、また直ぐに条件のことも広まってしまうのは予想が付く。
彼女からしてもイレギュラーな事態など歓迎できる物でなく早くどうにかしてほしかった。
そうでなければ
そんな心情などお構いなく嬰児は本題を伝える。
「ああ、約束のデートの日取りだが外出日に翌日--21日にしたいんだが、二人はどうだろうか?」
「オレも有栖も予定は要れてないから大丈夫だ。ただ――――」
「ええ、随分と忙しないですね。もう少し余裕を持ってからでも私たちは全然構いませんよ」
二人の息のあった気遣いに嬰児ばかりか一之瀬や葛城までも苦笑してしまう。
「ハハハ、配慮は有り難いが俺としては、楽しみは早く来て欲しいんでな」
「うん、私もすっごく楽しみだし」
こちらもこちらで意気投合しており、それとなく葛城に視線を送ると呆れたような困ったような顔をしており、水を差すのもどうかと言うような雰囲気であった。
「ま、そう言うことなら別にいいが」
「では21日と言うことで」
「よし決まりだな--待ち合わせ場所は寮のロビーでいいよな」
綾小路が勝手に決めたにも関わらずのノリノリ嬰児--違和感を覚える展開だが異論はなく、ダブルデートは21日の九時に待ち合わせが決まった。