どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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半日だけのアルバイト

 

 

 

 外出日の朝--予定の時間までには間があるが、これと言ってすることもないので俺は指定された作業着で正門前に待機していた。

 

 正直、部屋に居るままだとギリギリになってやっぱり頼むとか言うような輩が出てきかねない、とそんな不安もあった。

 不可能だと言っても諦めずに時間を食って遅れたなんてことになれば何を言われるか--と言う口実で俺は誰からも見られることなく行って戻ってくるつもりだったんだけどなぁ。

 

「無人島とは違い随分な張り切りようだな」

 

 なんでお前がここに居るんだ、綾小路。

 

「まさか徹夜で待ってたなんて言わないよな?」

 

「かなり早起きしたな--お前より早くじゃないと戻って来るまで見つけられないだろうからな」

 

 無人島でまいてやったみたいに知らない間に隠れられると読んだか--当たってるから何も言えないが……。

 

「見た限りオレ以外に見送りはいないし、ここに来るまで誰の目にも映らせなかったか」

 

「直ぐに戻って来るし、それでなくても余計ないざこざなんてご免だからな」

 

「そうだな。普通に考えれば葛城と一之瀬が来るのが当然だろうが昨日訊いたら、明日のデートの方を気にしろと来た--どんな条件を飲ませたのか、どうにも気になるんだよな」

 

 おいおい、それを今言っちゃ面白く無いじゃないか--だから教えてあげない。

 

 ここで見失っても時間一杯まで粘る気なんだろうが、待ち伏せする輩が居ることだって想定の範囲内だ--これを認めさせるのは骨だったな。

 

 俺は綾小路に構わずに歩き出して正門の前で足を止めることなく、そのまま進む。

 

「おい、まだ時間外だぞ。それに話はまだ―――――」

 

 俺の肩を掴んで止めようとしてきたが、半歩横にずれてその手はすかされて綾小路はそのまま敷地外に出そうなって…………全く世話が焼ける。

 

 綾小路の胸を押してどうにか敷地を越えないように押す--普通なら尻餅でも付きそうだがどうにか踏みとどまって無様を晒さないあたりは、やっぱり男の子だな。

 

「危なかったな、そのまま出たら重大な校則違反だったぞ」

 

「特例はもう発令済みか--見送りも話すのも駄目とは寂しい限りだな」

 

 正門を挟んでの俺の声に綾小路もすぐさまに状況を悟ったようだ--淡々とした声で返した来た。

 

 俺は塀に沿って歩きながら言った。

 

「悪いが余計なことを喋ると不味いんでな--それじゃ、また夜に」

 

 そう本来なら時間までは敷地内で待機して業者の車に乗って外に出るのがセオリーだが、当日に生徒が群がってしまっては業者にまで迷惑が掛かる--と言う口実を以て塀や通りの防犯カメラから絶対に外れないことを条件に俺は正門より外側、業者が通る道路の途中までの誰も来ることが出来ない辺りで待つことになった。

 

 あちらさんも途中で拾うのは手間だろうが、面倒を回避する為なら大したこともないとすんなりと了承された。

 

 しかし明朝とは言え夏に外で待つのは少々きつい--荷物から水筒を取り出して口に付ける。

 

 さて一体どの辺まで行けるかな?

 

 

 

 

 この事態も考えなかった訳じゃない--しかし真夏にコートを着込んで暑くないのかねぇ、ドゥデキャプル(このじいさん)は。

 

「本日はお日柄もよく、絶好の外出日和で何よりです」

 

「蝉の鳴き声が響いてよく聞こえないな」

 

 厭味ったらしく言ってみるが何も気にした風でもなく俺の側に立ち続ける--対して時間も経ってないはずなのにやたら長く感じる。

 待つのは犬の本懐--『戌』に倣ってみようと思ったがそれでも全然気が晴れない。

 

 無理を通した以上、それに対して何かして来るのは仕方ない--だけど他に誰か居ないもんかね。

 

 取り立てて会話するようなこともなく長ったらしく時間が過ぎていき、漸くと俺を向かいに車が来た。

 それと同時に煙のように消えるドゥデキャプル--位置と角度からして車に乗ってる奴らからも見えてるはずなのに何事もないようにドアを開けて向かい入れられた。

 

 全く持って訳が分からない存在だ。

 

 しかし、いつまでも奴のことなど考えてる訳にもいかない。

 

 今日の仕事の説明を受け、それからは無言のまま窓の外の景色を見る--前とは違う道なので新たな街並みに少しばかり心が湧く。

 

 運転手や同乗者たちはそんな俺を見ながら何か言いたそうにしてるが、事務的な説明の後は一切の世間話もなく静かなものだ。

 俺に関わりたくないのか、何もするなと指示されているのか--有力者(うんえい)関係者じゃなさそうだが絶対にそうだとも言い切れるわけでもないし、このままが無難だな。

 

 三十分ほどで今日の職場である倉庫に着き、直ぐに指定された場所に向かう。

 

 ケヤキモールの量販店に納品される品物が収まっている段ボールがズラリと並んでると思っていたが、僅か十二箱か。

 

 中が詰まってるのかと思い箱を開けてみると大きめの雑貨がひとつだけ、こんなの直ぐに終わっちまうじゃねか。

 裏に回ってみるも狩るべき雑草も大してなく--おまけにこれ見よがしに裏口が中途半端に開いていた。

 

 逃げるならご自由にってか--そのまま逃亡したら学校には堂々と規定違反で退学と報告出来て、俺は消されて全ての面倒が片付く。

 

 なんてことを俺が考えるのは想定内のはず--つまりは試してるな。

 

 俺が逃げるのか、留まるのか、それとも……。

 

 振り返り『地の善導』を使ってみるが監視の目はない。倉庫内に戻って、仕事場周辺を見渡しても巡回をやってる様子は見受けられない。

 つまりは俺を信用してくれているんだとセンチな気持ちになる訳もなく、誰も見てないときに逃げたと言うことにして、退学の口実作りを使用してるんじゃないかと勘繰ってしまうな。

 

 だとしたらこのまま大人しくしていても意味は無いな--と思いながら箱を全部開け、目を皿のようにして問題が無いことを確認。

 裏の雑草も用具入れから小さな鉈を『丑』の剣捌きで狩り『申』の仙術による気体操作でとっと集めて終わらせる。

 

 どっちにしても同じなら楽しまなきゃな--折角の夏休みだし。

 

 

 

 ***

 

 

 

 予想以上に早い--葛城がその着信を受けたのは、まだまだ午前中だった。

 

 嬰児からの配達手続きが終わった旨のメール--御丁寧に差出人控えの画像も添付されており、送り先の住所や名前もしっかりと明記されており現物は戻ったら渡すとあった。

 

 そして最後に〝依頼は果たした。そっちも報酬の準備を〟とあり、これには仕方が無いとは言え葛城も苦い顔になる。

 

 そこに今度は一之瀬からの着信が入って来た。

 

「もしもし」

 

『あ、おはよう。いきなりだけど嬰児くんからのメール見た?』

 

「たった今な。昼過ぎまで待つと思っていたんだが、なんとも仕事が早い」

 

『にゃはははは--それだけ気合が入ってるってことでしょ。

 ああ、ホント楽しみだなぁ~~。段取りの確認したんだけど、いいかな?』

 

「断る理由は無い。ただ人目に付く訳にもいかんから、俺の部屋まで来てもらいたいんだが」

 

『おお、大胆だね』

 

「どうせ直ぐに解ける誤解だ」

 

『それもそっか。じゃ、今から行くから』

 

 元気な声のまま通話が切られた。

 

「さて」

 

 葛城もひと息ついて嬰児への約束の為に用意した一冊の本を手に取る。

 

(何の因果でこうなるんだ?)

 

 溜息が付きたくなるのを飲み込みながら立ち上がり、もうひとつ用意したものに目を向け、

 

「はぁ~」

 

 やはり溜息が出てしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 さて葛城の依頼も無事に完了した。

 これで本当にやるべきことは終わったので、ちょっくら町を散策する--と言っても金が無いから散歩しかできない。

 

 依頼の為に用意された電子マネーは送料分しかないが『湯水のごとく』を使えば限界までチャージできる……直ぐに足が付くから止めておこう。

 

 幸い行きたい所は徒歩で何とかなるしな。

 

 振り返り百五十はある塔のようなデザインをした高層ビルに目を向ける。

 

「廃ビルにするには、ちょっと勿体ない気もするな」

 

 誰に聞かせるでもなく口に出てしまう--ああ、やっぱり興奮が抑えきれない。

 

 そんな気持ちを抱えているからか、周りの雑音よりも自分の足音の方が大きく感じてしまう。

 

 コツ、コツと歩を進めながら周りの風景を見る。

 

 カフェでコーヒーを飲みながら談笑している客たちケヤキモールでは学生だけだがこっちでは親子連れやビジネスマンと言ったのも見受けられる。

 

 道路ではスピード違反か、白バイに止められた派手なバイクが切符を切られ、パーキングエリアに停まる車から降りたり乗り込んだりの光景--通りにある店には当たり前の如き人の賑わいがある。

 

 ただでさえ暑いのに道路を走る車の熱気が空気を歪め、広い筈の道を人が埋め尽くすように流れる。

 

 五十万人も居る都市だ--これが一夜で消される筈だったんだよな、本来なら。

 

 誰もいない町(ゴーストタウン)の道路のど真ん中を歩いていく姿をイメージし、その後に待っている最高にぶっ飛んだ奴らとの殺し合い(じゅうにたいせん)を思うと--途端に虚しさが押し寄せてくる。

 

 ビルの前の噴水場に腰かけながら、

 

「ハハハハハ」

 

 と渇いた笑いが出てしまう--有力者(やつら)にやり直すつもりがない以上は無意味な妄想に過ぎない。

 

 今ここに俺が居るのが何よりの証明、逃げ場など何処にもない--こんなことを知らしめる為にこんな手の込んだことしたのか?

 

 端末を取り出して時間を確認すると、もう正午を回っており『子』の学校に行くことや『申』の住んでるマンションに居るかもしれない婚約者の男と話す時間は取れない。

 

 昼飯時だし適当にコンビニに入って電子マネーの残高を確認したが0のまま、このまま待機してればいいのか、倉庫に戻ればいいのか、それとも適当に歩いていれば--さて、どれが正解かな。

 

 おそらくどの選択肢でも最後に行き着くのは一緒、この町に来た時から試されてると悟った時から分かっていたことだ。

 

 俺は歩き出す--明確な意図もなく、直感でもなく、ただなんとなく目に入る道を。

 

 

 ***

 

 

 

「ふ~ん♪ふ~ん♪ふふ~ん♪♪」

 

 冷房の利いた寮の自室の鏡の前で洋服を合わせている坂柳有栖--その鼻歌からして恋をしてルンルンであった。

 見る者が見れば恐ろしく、何も知らない者が見れば可愛らしく、特定(・・)の者が見ればはしゃぎ振りに呆れつつも苦笑することだろう。

 

 

 

 

 一方で彼女のお相手とされている綾小路清隆は何をするでもなく、自室のベッドの上で寝そべっていた。

 

(明日のことがあるんだ。上の意図がどうであろうとも嬰児は戻って来る--筈だ)

 

 手っ取り早い理由を付けて嬰児を退学にしようとしている--と言うことを考えなかった訳ではない。

 ただそうなったとして、どう助ければいいのか。

 はっきりとした背景は分からないが、政治・権力的な拘束を受けたなら学生が騒いだところで何もならない。

 

(かなり……いや相当強引な手段を用いないと太刀打ちできないだろうな)

 

 ただその為に〝あの男〟に頼るようなことになっては本末転倒--逆にそれを利用して徹底的に叩き潰すことが出来なたらば……。

 

 嬰児の身を案じているのか、災難が起きるのを期待しているのか--本人でさえ定かでない思考展開がなされていく中で、綾小路の冷めた目にはいつぞやと同じ暗く輝く光が潜め居ていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 だだっ広い公園に付いた。水筒の水も無くなったから補充して少し休もうかと思ったが、何故か見るとこすべてにベンチのひとつも見つけられない。

 

 町に着いてからざっと三時間--いよいよ事態が動き出すってことか。

 

 大通りに戻って信号が青の道を向かうが足を向けた途端に点滅して赤に変わる--こっちじゃないってことか。

 

 端末を確認するが指示はおろか、何もない状態のままで全く持ってじれったい。

 

 赤信号に異常なまでに引っ掛かりながら進路を変えて行き、行き止まりや通り抜けできない私道に出くわして引き返すことも何度あったか。

 

 塀を飛び越えたり、まともの指示を出せと大声で叫んだりしたいが、ここまで面倒な手段を取ることはあくまで偶然たどり着いたと言う体裁が必要ってこと--何が待ってるんだよ、一体?

 

 そんなこんなでやっとのことでたどり着いた場所では中年のおっさんに向かって出刃包丁を持った男が突っ込んでいく場面だった。

 

 間に合わなかったらどうしてたんだ…………いや、このギリギリのタイミングを調整したのか。

 

 すかさず水筒を取り出して『射手』モードとなり投擲、

 

「ガッ!?」

 

 男の手に命中して出刃包丁が宙を舞う。

 

 モードを解いて俺は二人の間に割って入り、そこに丁度落ちて来た包丁をキャッチして手を抑えている男に向ける。

 背後に居るおっさんは訳が分からないと言った顔で尻もちをついていながらも鞄を後生大事に抱えていた--その中身がここに俺が、いや外に出された理由かな。

 

 とそれは後だ、まずはまだ殺気を収めていない目の前の奴だな。

 

「大人しく捕まったらどうだ?痛い目にあいたくない無いだろう」

 

「き、貴様……な、何者だ?!」

 

「ただの通りすがりの学生だ」

 

「ふざけてるのか!」

 

 興奮が増して目が血走って来たな--それに対して俺の後ろのおっさんは恐怖こそあれども驚きはあまり感じないようで鞄を更に強く抱きしめている。

 

 命を狙われるだけの覚えがあるってことか。俺に対しても何も言わないってことは助けが来るのを知っていたか、もしくは詮索するのは不味いとしてるのか。

 

 さて一体何者なのかな?

 なんであれ無防備に逃げようとしてくれないのは有り難い。

 どの角度からでも護れる様に足取りを選びながらも周囲を警戒するが狙撃可能なポイントはない。

 

 つまり目の前の男さえ撃退すれば良しってことか。

 

 その男の方は抑えてる手を懐に留めてジッとこっちを見ている--明らかに殺すことを諦めていないな。

 

 こうなってくると些か俺にも欲が出てくる--出刃包丁を構えるのをそのままに背後に目を向け、それとなく隙を見せる。

 

「……ッ!!」

 

 上手く釣れたな。予想通りに隠し持っていた小型拳銃(デリンジャー)を抜いて発砲--バァン!--と発砲音が響き弾は俺の腕に当たったが『午』の防御術『鐙』の前には意味は無い。

 

 それでも不自然に映らないよう包丁を振り切り、弾をはじいた演出を見せる--そして人間相手に使うことの無いと思っていた『丑』モードとなり、皆殺しの天才に倣った剣技を以て暴漢に向かい踏み込んだ。

 

 ああ、なんだろう--瞬きするほどの時間も無い筈なのにスローモーションに感じる。

 

 コンマ一秒で刃は男--刺客に届き、一撃か多くても二撃で絶命させられるだろう。

 

 銃を向けられた、撃たれた、正当防衛は成り立つ。

 

 なのに--自分でない他の誰かに染み付いている習性だからか、身体とは別に心が切り離され妙な思考が巡る。

 

 決着は一撃で着いた。

 

 振るった出刃包丁は正確に急所を殴打(・・)し、刺客……いや暴漢として置こう。暴漢はあっさりと気絶した。

 

 時の流れが戻っていくとセンチな感傷に僅かに浸りながら振り返ると、おっさんは俺を見て警戒心をむき出しにして後ずさっている--それでも鞄を放そうとしないのが印象的で余程の物が入っているのは明白。

 

「逃げるなら早くした方がいい」

 

「……!?」

 

 そう告げると立ち上がり、大急ぎで車に乗り込みエンジンを吹かせて去って行く。

 

 ひと言も会話は無かったがこれで良かったはず……伸びてる男は警察が来るまで見張ってるのがいいかとも思ったが、

 

「お見事です」

 

 いつの間にか現れたドゥデキャプルの声に持っていた出刃包丁を放り出す。

 

 心なしかさっきまで静かに感じていたのに今は蝉の鳴き声が兎に角うるさくて堪らない。

 

「後の処理は任せていいってことか?」

 

「はい。どうぞこのままお戻りになられて結構です」

 

 あっそう。ならとっとと行かせて貰う、こんな所に一秒だって居たくない。

 

「ああ、ですが折角の夏休みですのでじっくりと町を観光されてはいかかでしょう。

 本日の報酬分はもう振り込んでありますので、外に居る間に使い切ってくださると助かるのですが」

 

 仕事はまだ終わりじゃないってことか--偶々夏休みを謳歌している学生が、偶々通りかかって、偶々通り魔から見ず知らずのおっさんを助ける。

 

 あくまで偶々が重なった偶然の産物であると、そんな体裁が必要ってことか--だったら少しだけ踏み込んでみるか。

 

「そこまで念入りにアリバイ作りが必要か--あの鞄の中身って相当なものなんだな」

 

「曰くこれを提出すれば〝この国をひっくり返すことが出来る〟とのことですが、お聞きになりたいですか」

 

「そんなこと俺が知る必要などないだろう」

 

 俺がこう答えるしかないと分かって返しやがって、嫌味な奴だ。

 

 しかし法治国家で暗殺か--どんなに時代が進み文明的になろうとも人間の性は変わらないってことか。

 そして、それを防ぐための力が働いていることも公けにはしない--全ては藪の中、権力闘争は常に見えない所で繰り広げられる。

 そこにあらゆる倫理も道徳もない--『子』や『寅』程じゃないが、一体何を守るために戦わなきゃならんのかねぇ。

 

 あのおっさん、今の話からすると相当に高い地位に居る政治家か官僚--おそらく前者だろうが、命を狙われるほどのこととなれば、より良き世の為ぐらいの期待ぐらいはしたいものだ。

 

「アルバイトがもう終わったなら、俺も好きにさせて貰う--制限時間(もんげん)に迎えに来てくれるのを希望する」

 

「この町を出ないなら何処ででも可能ですので、ごゆるりと」

 

 紳士的にお辞儀をしながら再び煙のように消えた--学校に戻るときも背後からとかは勘弁してくれよ。

 

 なんであれ言質も取ったし、腹も減ったし取り敢えずは飯だな。

 

 コンビニで金額を確認すると入っているのは五千未満、あくまで公式のアルバイト代って訳ね--さっきのいざこざは偶々の出来事、不服を申し出たなら今度こそかな。

 

 安売りのおにぎりを二個買って店を出て、歩きながら食べる。

 

 目的地は町の中心部に建つ高層ビルの最上階--要するに元の場所にだが、来た時同様な回り道はしない。

 把握した道の中での最短の距離、最短の時間で戻った。

 今度は遠慮する必要はない--堂々と正面玄関から入り、人があふれるホールの中で上に行く手段、エレベーターと階段を見比べる。

 

 幾人かは逃げ場のない移動手段なんて使わず百五十階だろうと自分の足で登っていき、また階下なりに仕掛けを施そうしてくる輩も居たりするだろうな。

 

 戦いは既に始まっている--そんな緊張感など全くない()の光景を目に俺はエレベーターで最上階に行く。

 

 フロアでは何かしらのパーティーが催されてるようだが……こんなこと本当なら出来たかどうか?

 会場どころかフロアそのものが吹っ飛んでもおかしくない。いや、数回前の大戦同様に僅かな時間で決着が付いてしまえば--『蟹』と同じような事が出来るとしたら直ぐに思いつくのは皆殺しの天才である『丑』か老獪な『未』あたりが妥当。

 可能と言う意味では『申』もだがやるとは思えないし、そうしたとしてもそれは逆の意味でだろうかな。

 

 無意味な過程、無意味な感傷ばっかりだが今日くらいはどっぷりと浸っていたい。

 そしてこうしてると『子』の異能を受け継げなかったのがつくづく惜しく思えてしまう。

 

 そう思いながら外に出るドアを開けて見晴らしのいい所まで移動する。

 

 予想以上に早く片付いたし、ある程度の自由も認められた。

 ここからなら『辰』いや『乙女』の飛行能力も持ってそこそこ遠い所にも行ける。

 ドゥデキャプルは制限時間にこの町に居ろと言ってたから戻ってくる時間も充分だ。

 

 う~ん、どうしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろお時間です」

 

 背後からドゥデキャプル--すっかり日が暮れて暗くなったとは言え、声を掛けられるまでまるで気付かなかった。

 こうなることも考えて警戒は怠ってないかったと言うのに……。

 

「あれからずっと此方に?なんとも物分かりが良くてとても助かります」

 

「時間的、時期的なことを言うならもっと暗い方が俺的には良かったりするんだがな」

 

「おやおや、冬に向けてのリクエストですか--お伝えはしますが、ご期待に添えるかどうかは保証しかねますが、それでもよろしいですか?」

 

「望めるだけは出来るのか--なら、まだまだ一杯あるんだが」

 

 振り返りながらみたドゥデキャプルは不敵な笑みがあり、なんとも嫌な感じだ。

 

「フフフ、いかにも斬りたそうにしてましたし--やはりあそこで殺さなかったのはストレスでしたか。

 でしたら別に構いませんでしたのに、警告をした上に発砲--100%、正当防衛で通りまいたよ」

 

「普通ならな、俺なら過剰防衛にされても不思議じゃないだろうが」

 

「ほほう、それは本音ですか?

 ああ勿論、殺すのが怖かったなどとは思ってはおりません。

 しかし手を汚したくない理由は他にあるのではありませんか?」

 

 何もかもお見通しってか、腹立たしい。

 

「これ以上は良し解いた方が精神衛生上よさそうだな」

 

「そうですか、では迎えが待っていますのでお早く」

 

 紳士的にお辞儀しながら腕を伸ばして帰るの促してくる--乗せられたのは明らかだが、ごねたところで時間の無駄だ。

 

 立ち上がりビルの中に戻る

 

 

 ***

 

 

 嬰児がドアを閉じた際にドゥデキャプルは帽子を手に取って再び深々とお辞儀をした。

 

 そのまま待機していた車に乗って嬰児は何事もなく学校に戻り、翌日に控えたダブルデートに胸を高鳴らせる--今回の仕事で報酬を受け取ると瞬間を。

 

 

 

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