どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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ダブルデート

 

 

「ああ、予定通りに頼む。それじゃ」

 

 通話を切って待ち合わせ場所に向かう。

 

「おっはよ~、嬰児くん」

 

 横から一之瀬が来た--ゆったりとしたベージュのブラウスにセンタープレスの白パンツと見ようによっては仕事帰りの女性と言った感じだ。

 

 一方、俺は紺のサマーニットに青のスキニージーンズと若干、どなたかを意識してしまった格好だったりする。

 

「おはよう。時間通りになりそうだな」

 

「にゃははは、もう居たりするのかなぁ、あの二人?」

 

「寮も一緒に出て待ってるはずだ。もう少しゆっくり行くのもいいと思うが」

 

「さんせ~」

 

 終始ニコニコしてる一之瀬と一緒にのんびり行くこと十二分--ジャスト時間通りに着いてみると、

 

「フフフ、ホントですか?」

 

「ああ、それでな」

 

 楽しそうに談笑している坂柳と綾小路の姿。

 

 綾小路の方が白のリンネシャツにデニムパンツと面白味に欠けるもそこそこの頑張りが見える。

 対して坂柳は白のリボンハットに似合う薄いピンク色のワンピースにケープを羽織りスカーフ柄のベルトもお洒落で気合の入り方が違う。

 

「なんかもう既に胸がいっぱいだね」

 

「おいおい、まだ始まってさえいないんだぞ」

 

 いつまでも突っ立ってる訳にも行かないし、手を引いて歩き出すとこっちに気付いた二人も手を振って来た。

 

「お、来たか--しかし、」

 

「時間通りですね。ええ、これは早速、見せつけてくれますね」

 

 綾小路と坂柳の視線が握ってる手に向けられるが、

 

「そっちには負けるよ」

 

「うん、ホントにね」

 

 一之瀬と一緒に苦笑しながら、

 

「改めて、おはようさん」

 

「おはよう、坂柳さん、綾小路くん」

 

 挨拶をかわして、ダブルデートが始まった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「すみません。歩くのが遅くて」

 

 海沿いの道をゆっくりと歩きながら坂柳は言った。

 

「全然、構わないよ。でもこうなると日傘も持ってくればよかったね」

 

 潮風に髪をなびかせながら一之瀬は照り付ける日差しに坂柳を心配そうに見る。

 

「重ね重ね、わがまま言ってすみません……どうしても最初はここに来たかったので」

 

「何かいい思い出でもあるの?」

 

「はい。ちょっとした冒険をしたことがありまして」

 

 笑顔で答える姿になんとなく一之瀬は察するものがあり綾小路にも視線を向けた。

 

「前に暑さに参ってる有栖を介抱したことがあってな--もうあんなことは駄目だぞ」

 

「…………はい、もう帽子を飛ばされないように気を付けます」

 

 この台詞に綾小路も一瞬言葉を詰まらせたような顔になる。

 

「だったら今気を付けた方がいい」

 

「あ――――」

 

 海を見ていた嬰児の言葉と同時に強めの風が吹いたが、既に反応していた綾小路が坂柳の後ろに立って頭を押さえる形で事なきを得る。

 

 そして突然の事態に坂柳の足がもつれてそのまま綾小路の懐に倒れ込み--背後から抱きしめているポーズになった。

 

「大丈夫か、有栖」

 

「ええ--それにしても流石ですね。牛井嬰児くん」

 

 風が来ることを読んだことを当然と言ったニュアンスに嬰児は肩をすくめた。

 

「波が荒れてたから適当に言っただけだよ」

 

 偶々だと主張するが、坂柳と綾小路にはあまりの出来過ぎに仕組まれた(・・・・・)疑いを持った。

 

 ましてや前科がある相手であるだけに余計に……。

 

「そっかぁ、でもお陰で早速いいもの見せて貰えたね」

 

 一之瀬が遠回しに抱き止めたままを指摘するとものの、当人たちは当たり前のことに今ひとつピンとこないようだった。

 

 これだけで既に胸一杯だったのが溢れかえり、このまま解散となっても肯いてしまう。

 

「出来ればもう少し潮風に当たっていたいのですがご迷惑になりかねませんし、予定を繰り上げましょう」

 

「別に構わんが、有栖がまだ物足りならオレは全然構わんぞ」

 

 言いながら綾小路は嬰児と一之瀬を見て確認を取って来る--しかし雰囲気的に否といえるものでなく、無自覚(てんねん)なのか確信犯なのかと(割とどうでもいいことを)勘繰ってしまう。

 

「おう、気遣いは無用だ」

「そうそう。迷惑だなんて思ってないし、みんなで楽しまなきゃ」

 

 しかし満更な訳でもなく、意気揚々と坂柳のリクエストが継続の流れに落ち着いた。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 心底嬉しそうに言いながら坂柳は杖を突いて綾小路の腕から再び歩き出そうとするも、

 

「……あっ」

 

 転ばないようにそれとなく介助する綾小路に更に嬉しそうになった。

 

(うわ~~~)

 

 その滅多に見ることは出来ないであろう顔に一之瀬も満面の笑みを浮かべ、この日の出だしは最高のものとなったのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ひとしきり海岸を歩いた俺たちはケヤキモールでショッピングに洒落こんでいる。

 

「坂柳さん、これなんか似合うんじゃない--ああでも、こっちのもいいかな~?」

 

 アクセサリーショップでは一之瀬が大いにはしゃぎながら坂柳にあれこれ進め、

 

「いや有栖にはもっと落ち着いた色がいい。だからこっち方にしよう」

 

 綾小路がことごとく却下しながら自分もお勧めするふりしながら、彼女をよせてそれ以上近づけさせないようにしている……文字通りに傍から見てると、独占欲の強いバカップルだな。

 

 しかしこれって逆効果なんじゃないのか?

 

「ええ~、そうかな~。もっとキラキラしたのもいいと思うんだけどなぁ」

 

 ほら一之瀬の奴、益々目をキラキラさせながらグイグイ来てるじゃん……ここは助け舟を出すべきだな。

 

「どうせならお揃いにした方がいいじゃないか?」

 

「うんうん、私も嬰児くんに賛成。だったらこのペアリングとか、どうかな?」

 

 俺の援護を受けて更に調子に乗る一之瀬--綾小路の目にも流石に非難の色が見えるが、今日に備えて借金までしてるんだ、手が届かないこともないだろ。

 ポイントを貸した軽井沢なんかもどんな感じになるか訊きたいって言ってたし、色っぽい話は多いに越したことはない。

 

「おお、いいな。ネックレスに通すとかすれば、普段でも身に付けられるし」

 

 すぐそばにある棚からシンプルで飾りのないネックレスも指してみると、坂柳の方は食指が動いたようで表情に明らかな迷いが見て取れた。

 

 それは綾小路も同様と言うか、寧ろ俺よりも早くてさり気なく値段を見ている。

 

 価格は二千もないし高校生が身に付けても違和感もないデザインだ--余り迷うならもうひと押しか。

 

「あのすみません――――」

 

 どうするのかと思ったが店員に話しかけて飾られてるネックレスを手渡される--坂柳にも同じ物を。

 

 余計なお世話をしなくて済みそうだな。

 

「あ、こっちもいいですか?」

 

 一之瀬も陽気な声で店員の許可を取り、さっきのペアリングを手に取ってそれぞれに翳して……俺にもやらしてくれんかねぇ。

 

「うん、良く似合ってるよ。二人とも」

 

 この誉め言葉に坂柳は満面の笑みを浮かべた--やっぱり俺にもやらして、正面から見たい。

 

「はい、ありがとうございます。私も清隆くんによくお似合いだと思います」

「そうかな?」

 

 これを受けて綾小路はよく分からないと言ったニュアンスで応じてるが、有り体には照れてるってしか見えない。

 

 うん、この位置も悪くは無いかも知れない--そんな俺の目に気付いてか、指輪とネックレスを持って会計に向かう。

 

 綾小路も甲斐性見せるじゃないか、こうなると俺も何かしら買った方がいいかなと思い装飾品を見て回るが一之瀬(あいて)の質が高すぎるからか似合いそうだと思うのも必然的に値の張る物ばかりになってしまう。

 

 そんな中で目を引いたのは、猫をモチーフにしたキーホルダー。

 

 普段の猫語からして嫌いではないと思うが、それでも種類が多いな。

 

 一度、一之瀬に目を向けてどれを買うかを決めた--あまり愚図ついてられないから俺もとっとと会計しよう。

 

 なんであれ始まってからここまでデートは順調だ--さて次は服を見に行くんだったか、更に張り切る一之瀬帆波の姿が目に浮かぶな。

 

 

 

 ***

 

 

 

「折角ですから秋物も見ておきたいですね」

 

 夏物には目もくれず、坂柳はそう言って出始めたばかりの品々のコーナーに足を向ける。

 

 さしずめ何かを察しているようで、逆に目を輝かせて清純な柄の服の数々と坂柳を見比べていた一之瀬は残念そうにしながらも歩く。

 

 新作のタグが付いている物も多く、お洒落に拘りのある者からすれば選り取り見取りであるものの--それに見合うだけの値も張っていた。

 

(予算はまだいけるか……)

 

 綾小路は顔には出さないようにしながらも内心では少々焦りが湧いてきた。

 

「一之瀬、このコートとかどうだ?」

 

 一方で嬰児はキャラメル色のチェスターコートを進めていた。

 

 彼女のストロベリーブロンドと今の格好からしてキャリアウーマンさが際立たせる。

 

「おいおい、一之瀬にはもっと明るい色の方がいいと思うが」

 

 突然の第三者の声に振り返ると南雲雅と数人の取り巻きたちが居た。

 

「これは南雲先輩--奇遇ですね?」

 

 嬰児が返すと一同は一斉に注目し、セミロングの女子が口を開く。

 

「この一年、例の特例の生徒よね--雅、知り合いのなの?」

 

「手続きの際にちょっと話しただけだ」

 

「あー、そうなんだ。あ、私、朝比奈なずな--ねぇ、連絡先交換しない?色々とお話ししたいんだけど」

 

「申し訳ありません先輩--今は私が先約なんで」

 

 下心見え見えで迫って来る朝比奈の前に一之瀬が出て牽制する。

 嬰児に頼むには一之瀬を通さなければいけないと暗黙の了解が広がっているのも事実であり、その了解に基づいて話すべき相手を変えようとするも、

 

「そうだぜ、こいつにお願いしたいならそんな方法じゃ無理だ」

 

 南雲がその方法は駄目だと援護してあっさりと引き下がった。そして得意げに坂柳と綾小路に目を向ける。

 

「お前たちとは初めましてになるか--二年、生徒会副会長の南雲雅だ。

ああ、そっちは知ってるから自己紹介はいい。特に綾小路--堀北先輩に目を掛けられてるんだってな?」

 

「別にそういう訳では――――」

 

「謙遜することないのでは、清隆くんなら何も不思議ではありません。寧ろ、僅かな期間で見抜いた堀北先輩には敬服します」

 

「その通りだ、堀北先輩が買っているなら間違いないはずだ」

 

 堀北学に対して並々ならぬ執着を垣間見せるが、それも直ぐに抜けて笑みを浮かべる。

 

「尤も俺たちと絡むことになるのはまだ先の話だ--今日はただ挨拶して置きたかっただけ」

 

「それで清隆くんは南雲先輩の眼鏡に適いましたか?」

 

 坂柳が前に出て挑戦的な目で訊く。

 

 その大胆な行動に取り巻きたちは若干驚くも肝心の南雲は面白そうにじっくりと値踏みする様に--する前に綾小路が庇うように出てくる。

 

「用があるのはオレでしょう?」

 

「ほう。噂通り、そいつの為でしか動かないか」

 

 南雲が愉快そうに言うと綾小路は不愉快な目になり、少々不味い空気になる。

 

「そう怖い顔するな--お前の女を取ったりはしない」

 

 あっさりと引き下がる南雲に一同は安堵するもあまり面白くない綾小路は訊く。

 

「先輩は何しにここに?」

 

「ちょっと面白いイベントがあるって耳に挟んでな」

 

「それはよく当たるっていう占い師が来ると言う--でもそれは明日からのはずじゃ?」

 

 坂柳が不思議そうに言うと南雲は嬰児と一之瀬に目を向けて笑いながら返した。

 

「俺たち生徒会役員みたいな一部(・・)しかしらないことだ--興味があるなら夕方ぐらいまで居るといい、きっと特等席で楽しめるぜ」

 

 訳が分からないと共通の思いが綾小路たちだけでなく取り巻きたちにも湧いた。

 

 そもそも娯楽も含めた生活設備が充実しているとは言え限定的なもの、テーマパークなどのレジャー施設は無いのは勿論のこと規則上からアイドルなどの著名人を招くことも不可能。

 

 もとよりそこまで広い場所ではない、新しいイベントがあるなら噂はすぐに回る。

 

 そんな形跡が無いことからして南雲が冗談を言って、からかっていると疑いの目を向けらる。

 

 しかし当人は涼しい顔のままで、

 

「じゃ、デートの邪魔して悪かったな--また会おうぜ」

 

 何も答えることなく行ってしまった。

 

「何だったんだ、一体?」

「さあ?」

 

 綾小路と坂柳が呆けている横で嬰児と一之瀬は困ったような顔を見合わせていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 まったく予期せぬ南雲の登場にはヤキモキさせられたが何事もなくてよかった。

 

 新しい服を買うのもまたの機会にしようってことになりかけたけど、

 

「ええ~、折角来たんだしもっと見て行こうよ。色々試着とかもしたいし」

 

「いえ、そう言うのはちょっと……」

 

 一之瀬が粘り説得するも生来身体が不自由な坂柳には流石に遠慮したい提案のようだ。

 

「大丈夫、私も手伝うし。ね、行こ!」

 

「ああ!?」

 

 押し切られる形で二人の美少女は試着室に消えた--綾小路(やろう)と残された俺はなんとなく声を掛ける。

 

「占いか--お前も将来のこととか見て貰いたいとかあったりするのか?」

 

「少し前なら非現実的な事なんてとか思ってたが--今はな」

 

 おやおや興味津々でこっちを見て--何に(・・)期待してるんだか?

 

「嬰児は神のお告げでも降りてくる口か?」

 

「誰かの未来を見るなんて出来ないよ」

 

「〝誰か〟はか」

 

 言葉の端々も見逃さないってか--どこのクレーマーだよ、鬱陶しい。

 

「無論、俺自身についてもだ--ただ考えなかった訳じゃない、百の未来を見ることが出来たならと」

 

 受け継ぐことが出来なかった『子』の能力、同時に百通りの行動を分岐し実行できる干渉力『ねずみさん(ハンドレッド・クリック)』--それがあれば有力者(やつら)のいいなりにならないという選択肢も選べた。

 

 例えそれでダメだったとしても元より保証される身分もない紛い物--最も嫌がらせになる終わり方を確定して派手に散るのも悪くは無い。

 

 と、こんな妄想が出来ていたらなんて軽く考えられるのと実際に百通り全てが無駄だと実感するのは天と地の差だろう。

 

 ささやかな使い方で俺が好きに動く選択とこれまでのように動かない選択を同時進行すると言うのも考えたが、好きに動いた結果を常に消さなければならないのは想像を絶するストレスだろうから今頃は爆発してるか、もう居なくなってるかもしれないな。

 

 一縷の望みとしては綾小路が俺以上の結果を出してくれる展開なら諦めもつけられるが、これもまた意味のない仮定でしかない。

 

「百の未来を、か?」

 

 おや、これまでにないほどに興味津々のようだし、もう少し続けるか。

 

「綾小路ならどうする?百通りの選択肢中から良いものだけを選出しづけられるなら?」

 

「それは逆に言うと悪い選択を消していくってことか?」

 

 ほう、いきなり本質を突いて来たか--大抵は便利だと飛びつきそうなのにねぇ。

 

「それが99となると色んな意味でエネルギーが要りそうだな--ちなみにその未来はどの位の的中率なんだ?」

 

100%だ--なんせ実体験なんだからな。

 

 素直にそう答えても良かったが--丁度その時にカーテンが開いて、

 

「ジャーン、どう?」

 

 と一之瀬が着替えさせた坂柳を披露した。

 

 花柄のレース仕立てのワンピースドレスで一之瀬に握って貰っている右手とは別に左手でスカートの端を摘まんで優雅に会釈する。

 

「どうでしょうか?」

 

「ああ、綺麗だ。よく似合ってる」

 

 ストレートな感想に満面の笑み……一之瀬の心に火が付いたようだな。

 

「じゃあ、次はこっちね」

 

「え、あ……」

 

 再びお着替えが始まった--こっちも再びの間に今度は綾小路から声が来た。

 

「100の未来を選べるなら有栖にこの店のある服を手当たり次第に着て貰いたいな」

 

 なんとも返答に困るな。

 

 その後も白の無地やらカラフルな柄など兎に角ドレス(・・・)風のゆったりとした服を好んで着せていき、最終的にはシンプルな白のワンピースドレスが一番だと本人と幼馴染君の好評もあって落ち着いた。

 

 そして折角だからとその格好のまま引っ張って行き、一之瀬の調子いい感じで--

 

「綾小路くんの方もさ--もうちょっとお洒落しようよ」

「私が見繕いましょうか、清隆くん?」

「そうとなれば善は急げだな」

 

 提案し同調した坂柳と俺に背中を押されながら紳士服のコーナーにと--なんだかんだと秋物の黒いテーラードジャケットを買うことになった。

 

 うん、全ては順調だ--ただもう少しゆっくりでも良かったんじゃないか?

 

 

 

 ***

 

 

 買いたい物を買った後、昼食を取り適当にウインドウショッピングをしながら時間を潰す。

 

「特に目的を定めず、ただ歩く--思ってたほど退屈じゃなかったな」

 

「はい、お店も商品も一杯あって、とても楽しかったです」

 

 綾小路と坂柳は終始変わらないまま、一日の殆どにも及ぶデートを満喫したようだ。

 

 それは時間を忘れるほどの楽しい思い出と言えるが、流石に日が傾いてきている時間になり、もうお開きにするべきかと綾小路が言いだそうと思った。

 

「ねぇ、最後にもうひとつだけ行きたい所があるんだけどいいかな?」

 

 一之瀬の提案、それもそれまでにないとびっきりの笑顔で--とてもではないが断れることができない。

 

「そうだな、このまま適当に解散じゃ締めも悪いしな」

 

 嬰児も気前よく乗って来ており、話は決まった。

 

 

 

 

 嬰児たちが来たのは噴水広場であった。

 

 美しく幻想的に整備された空間はロマンティックであり、偶々ではあるが時間帯や背景に並んでいる木々は二人の再会した場を思い出し、デートの締めくくりの場には最良と言えた。

 

「折角ですから近くで夕食にしますか?」

 

「そうだな、いっそ何かテイクアウトしてここで食べるのも良いと思うんだが?」

 

 気分が高揚している坂柳と綾小路からの提案だったが、

 

「ご飯もいいけど、その前に写真撮らない?今の時間帯だとすっごく絵になるんだけど」

 

「ただ綾小路はそのままじゃ素っ気ないから、丁度いいから着飾ろうぜ」

 

「まぁ、別にいいが」

 

 嬰児は昼間に買ったジャケットを指してせっついて、綾小路も断る理由もないことからなし崩しにジャケットを着て噴水の前に行く。

 

「さ。坂柳さんも」

 

 一之瀬に手を引かれながら坂柳も困ったような--しかし満更でもない顔で綾小路の隣に並ぶ。

 

「う~ん、なんだかそうしてると結婚式の写真撮るみたいだね」

 

 綾小路のジャケット姿がタキシード、坂柳の白のワンピースはウエディングを連想させる。

 

 そう言われて初めて意識した二人は、やや反応に困ると言った仕草で--有り体に言えば照れている様子だ。

 

 そんな二人をニヤニヤしながら一之瀬は更に調子に乗る。

 

「う~ん、その帽子もいいけど--どうせならやっぱりヴェールとかがいいよねぇ」

 

「一之瀬さん--流石にそんなものが―――――」

 

 坂柳が窘めようとしたが、

 

「あ、何故かこんな所にこんな物が」

 

 なんともわざとらしいニュアンスで一之瀬が鞄から、シンプルな花飾りのついたヴェールカチューシャを取り出した。

 

「おー、なんと準備がいい--こうなると後は花束があれば」

 

 同じく嬰児がわざとらしく言うと、

 

「そう言うことなら、こんなのがあるぞ」

 

 予期せぬところから声がして見てみると、取り巻きたちを連れた南雲が小さめの造花の花束を持ってやって来た。

 

 ここまで来れば綾小路と坂柳も事の次第を把握した。

 

「えらく気の利いたサプライズだな」

 

 綾小路が嬰児を見ながら言うが、このデート自体が嬰児抜きで勝手に進めただけに強くは出られない。

 

(味な真似を……)

 

「南雲先輩まで乗るのは、まぁ、分からなくはないですけど--そこまで仲良しでしたか?」

 

 坂柳が花束を受け取りながら綾小路に身を寄せる。

 

「この学校、ホントに娯楽が乏しいからな--話を聞いた時にはちょっと驚いたが、この先を考えると悪くないイベントだと思ってな」

 

 その姿を面白そうに見ながら南雲は答えた--しかし中途半端な解答に眉を潜める綾小路と坂柳(しんろうしんぷ)、そこに端末を取り出す。

 

「寧ろここからがメインなんだよな」

 

 操作してかざすと美しいメロディが流れてくる--曲は結婚式ではポピュラーな『真夏の夜の夢』の結婚行進曲だ。

 

 この益々ベタな演出に乗って、意外な人物が登場して来た。

 

「葛城くん……」

「……なんだ、その格好は?」

 

 坂柳と綾小路は神父服(・・・)を着て、手に分厚い本を抱えた葛城の登場に流石に目を丸くした。

 

「これで役者が揃ったな」

 

 嬰児の言葉に二人は事情を把握した。

 

「特例の頼みを引き受けた条件ってのがこれか」

「こんなコスプレ姿をさせられるなんて、どんな羞恥プレイですか?」

 

「それは、これからだよ」

 

 一之瀬が坂柳の帽子を取ってヴェールカチューシャを乗せて離れると丁度メロディが終わり葛城は二人の前に立ち言った。

 

「坂柳有栖、綾小路清隆。

 本日お二人は ここに集まった皆様に見守られて 晴れて夫婦となることができました。

 この喜びを忘れることなく--力を合わせて明るく幸せな家庭を築くことを誓いますか」

 

「誓います」

 

 真っ先に坂柳が、とびっきりの笑顔で言う。

 心なしか、その目はキラキラと輝いて見える。

 

 そしてもう一人の主役の綾小路は出来上がってしまった流れに逆らえることが出来ない--と内心で思いながらも満更でもない己の心持ちで、

 

「誓おう」

 

 淡々と言った。

 

 しかし周りの反応は正反対であり、

 

「よ!憎いね、ご両人」

「このままキスしちゃいなよ」

「間違いなく、この学校の歴史に残る瞬間だ」

 

 と大いに盛り上がっていた--主に南雲の取り巻きたちが。

 

 そして南雲は結婚式ごっこから、首謀者(えいじ)に向かって言う。

 

「次の冬休みにはもっと盛大なのをやってみようか?それこそ学校のイベントでだ」

 

「見返りに何を願いますか?」

 

「俺の部下になれ……は釣り合わないだろうから、次の特例を誰にするかを俺に決めさせろ」

 

「中々に強かですな」

 

「だが悪い話じゃないだろ」

 

 特例を行使する際の決定権を他人に譲れば嬰児自身に群がってくる輩は無くなると言ってもいい。

 更にその条件が今回以上の結婚式ごっこのプロデュースとなれば、娯楽的イベントが皆無なこの学校なら大に盛り上がり、手段と目的が逆転して上の目論見をかわすことにもなる。

 

 何より双方の娯楽として利害は一致している。

 

 しかし、ダシにされた綾小路(とうじしゃ)からすれば聞き捨てならない会話だ。

 

(オレを身代わりにする算段に便乗しようって腹か--だがそうはさせないぞ)

 

 眉間にしわを寄せながら話に割って入ろうとしたが、隣の坂柳がギュッと腕を絡めてきて引き留めた。

 

(心配しなくても大丈夫ですよ)

 

 そんな視線を送り、

 

(何故そう言い切れる?)

 

 と視線で返す--そんな二人を見ていた一之瀬が不愉快そうに言った。

 

「も~、綾小路くん--顔が怖いよ」

 

 そして、それは嬰児と南雲にも及ぶ。

 

「そっちもムードを壊す辛気臭い話は無しにしてくれないかなぁ」

 

「ごもっとも」

「それもそうだな。悪かった、牛井も今は忘れてくれ」

 

 このダメ出しにより、話は打ち切られ--そのまま一之瀬は流れに乗ってどんどん進めていく。

 

「さ、いよいよ記念写真だよ--笑って、笑って」

 

(ほら)

(見事だ)

 

 促されながらも意志を確かめ合い、

 

「はい、チーズ」

 

 柔らかな笑顔の写真が出来上がった--そして言うまでもなく、この一件は瞬く間に広がり日付が変わる前に学校中で持ちきりになるのだった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 そんな予測をしながら、次は指輪の交換だと一之瀬を筆頭に盛り上がり、もみくちゃにされてる綾小路に俺も視線にメッセージを込めた。

 

 

 もっと強くなれ。

 

 

 その為に必要なのは本当に俺かな?

 

 

 




 坂柳有栖×綾小路清隆が方針です。

 どんな感じでしょうか?

 次はもっと盛り上げたいですね。



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