どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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季節は移る。

 明日で夏休みが明ける--普通なら最後の思い出や新学期への期待もしくは憂鬱などがあって然るべきだ。

 

 しかし今、この学校ではひとつの話題で学校中が盛り上がっている。

 

 曰く--坂柳と綾小路の結婚式をプロデュースすれば、長期休みの特例に選ばれる--学校の掲示板から個人の噂まで知れ渡り、色んな輩が様々な様式を論じ合い提案してくる。

 

 学校一のバカップルと公認された坂柳と綾小路の元に……。

 

 お陰で俺の方は静かな日々を過ごせている。

 

 サプライズ方式にして俺には当日までのお楽しみらしい--結構なことだな。

 

 しかし中には、やっぱり青春の思い出をと勤しむ健全(・・)な男子も居て、

 

「俺も青春が欲しい」

 

 と池を始めとした三バカどもから、一之瀬をプールに誘ってくれと頼まれた--目的が露骨に分かり易くて、突っ込む気も失せる。

 

 曰く〝結婚式ごっこの件に女子が夢中で誘えないから責任を取れ〟……知るかそんなもの。

 

「綾小路ばっかり贔屓するな」

「無人島じゃ、俺たちだって頑張っただろ」

「俺たちだってご褒美が欲しい」

 

 ゴチャゴチャ煩いから、自分で何とかしろと突き放した--がそれでも一之瀬や櫛田、それに堀北まで誘えとしつこく食い下がってくる。

 

 なんか善からぬ疑惑が湧いてきたな。

 

 だから、

 

「誰に頼まれた?」

 

「な、何のことだよ?」

 

 突然の問いかけに対して不自然さの無い反応--なのは予想通り、重要なのはここからだ。

 

「衆人環視を外したから、直接俺を監視しろって言われたんだろ--誰の指示だ、隠し立てするなら容赦せんぞ」

 

 言葉に少々威圧感を込めると、三バカどもに冷や汗が浮かぶ。

 訳が分からない--その反応に間違いなさそうだが、裏が無いようには思えない。

 もうひと押し必要だな。

 

「二度も言わすんじゃない--誰に頼まれた?」

 

「お、俺は池の話に乗っただけで……」

 

「おい、春樹!」

 

 山内があっさりと白状すると須藤が声を上げるが、時すでに遅し--俺の疑惑に捉えられた池の冷や汗が増していった。

 

「お……お、俺は……別に…………」

 

 勿論、俺だってこいつらに有力者(やつら)の唾が付いてるなんて思っちゃいない--しかし、やはり裏が無い訳じゃなさそうだ。

 

 それも相当に疚しい事柄で。

 

「口を割る気は無いか--つまり死ぬ覚悟は出来てるってことか?」

 

 威圧に殺意を込めるも本気は出さず、自我が残す程度で--なんとも匙加減が難しい。

 

「じょ、冗談よせよ……こ、このくらいで……さ…………殺人なんて」

 

 何も言えない池に代わって、須藤が入って来たのでそっちを向く--ちなみに山内はビビッて声も出ない様子だ。

 

「そうだな。尤もだ--罪なんて犯したくない」

 

 殺気を収めて落ち着いた声で言うと安堵の空気が流れて、三バカもホッとする--まだ早いぞ。

 

「だから犯罪なんてさせて欲しくは無いんだがな」

 

 再び殺気を込めて目を向ける。

 

「すみませんでした!!」

 

 大声で土下座する池--そして涙声でベラベラと語り始めた。

 

「と、盗撮なんてしません……計画も道具も全部捨てます!だから命だけはご勘弁を!!」

 

 概ね予想範囲内だが、覗きか--ただ一線を越えず未遂に終わった。

 

「やってもいない罪を問い質しはしない--妄想で終わった幸運に感謝しろ」

 

 完全に殺気を収めて言うと瞬く間に三バカは行ってしまった。

 

 まったく余計な仕事を増やすんじゃねぇよ--ましてや犯罪の片棒を担ぐなんて退学でも文句は言えない。

 

 今は(・・)どんな些細な事でも目を付けられる訳にはいかん……やっぱり誰かの差し金なのかな。

 

 ただの思い過ごしだといいんだが。

 

 

 

 

 そんな悶々とした気持ちを抱えながらも夏休み最終日は何事もなく終わり、新学期が始まった。

 

 

 

 ***

 

 

 午前の始業式が終わり、午後は二時間ホームルームとなっておりⅮの教室では茶柱が淡々と説明する。

 

「二学期は九月から十月初めまでの一か月は、体育祭に向けて体育の授業が増えることになる」

 

 新しい時間割と体育祭の資料が配られていき、一部からは悲鳴が上がる。

 

「詳細は学校のホームページにも載っているから必要なら参照しろ」

 

「先生、これも特別試験の一環ですか?」

 

 平田が挙手して質問する--これにクラス全員が内心で〝そうだ〟と返って来ると思っていた。

 

「どう捉えるかは自由だ--ただ各クラスに大きな影響を与えるのは間違いない」

 

 ハッキリとしない返答--しかしクラスの命運を左右するとあって苦手意識を持っていた者たちは更なる悲鳴を上げた。

 

 逆に運動に自信のある者たちのテンションは上がる。そんな中で、

 

「おいおい、これって」

「学校側のお膳立てとか」

「そうじゃなきゃ運命とかかな」

 

 資料に記載されている内容を読んでいた者たちは好奇の目で綾小路を見る。

 

 そこには全学年をAとⅮによる赤組、BとCによる白組の二つに分けて勝負する方法を採用するとあった。

 

「二学期が始まってすぐに夫婦共同作業って……」

「無人島での続きって感じもするよな」

「いや、あの時よりもスマートにいけるんじゃね」

「葛城も完全に失脚したって言うしね」

 

 場の空気が一転して色恋に染まっていきそうになる。

 

「お前ら私語は慎め--今から体育祭の結果を説明するから、しっかり聞くように」

 

 茶柱が注意して軌道修正--資料に目を通しながらのルールを確認する。

 

・体育祭におけるルール及び組分け

 全学年を赤組と白組の2組に分け行われる対戦方式の体育祭。

 内訳は赤組がAクラスとDクラス。白組がBクラスとCクラス。

 

・全員参加競技の点数配分

 結果に応じて1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる。

 5位以下は1点ずつ下がっていく。団体戦の場合は勝利した組に500点が与えられる。

 

・推薦参加競技の点数配分

 結果に応じて1位50点、2位30点、3位20点、4位10点が組に与えられる。

 5位以下は2点ずつ下がっていく(最終競技のリレーは3倍の点数が与えられる)

 

・赤組対白組の結果が与える影響

 全学年の総合点で負けた組は全学年等しくクラスポイントが100引かれる。

 

・学年別順位が与える影響

 総合点で1位を取ったクラスにはクラスポイントが50与えられる。

 総合点で2位を取ったクラスにはクラスポイントは変動されない。

 総合点で3位を取ったクラスにはクラスポイントが50引かれる。

 総合点で4位を取ったクラスにはクラスポイントが100引かれる。

 

「当然ながら全ての競技には全力で望め、負けた時のペナルティは軽くないからな。

 それと先に言っておくが、勝った組はクラスがマイナスにならないだけで、何もない」

 

「うげ、マジかよ」

 

「しかし、だからと言って他を当てしようなどとは考えないことだ。赤組が勝ってもクラスの総合点が最下位なら結局はマイナス--これで赤組が負けたなら」

 

 マイナスは200--意味するところは『全力で戦い、手を抜くことは許さない』を前提に自クラスだけでなく連携も重視しなければならない、今まで以上に厳しい試験だ。

 

 それでも無報酬と言う訳でない。

 

 

・個人競技報酬(次回中間試験にて使用可能)

 各個人競技で1位を取った生徒には5000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で3点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は認められない)

 

 各個人競技で2位を取った生徒には3000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で2点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は認められない)

 

 各個人競技で3位を取った生徒には1000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で1点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は認められない)

 

 各個人競技で最下位を取った生徒にはマイナス1000プライベートポイント(所持するプライベートポイントが1000未満になった場合には筆記試験でマイナス1点を受ける)

 

・反則事項について

 各競技のルールを熟読の上遵守すること。違反した者は失格同様の扱いを受ける。

 悪質な者については退場処分にする場合有。それまでの獲得点数の剥奪も検討される。

 

・最優秀生徒報酬

 全競技でもっとも高得点を得た生徒には10万プライベートポイントを贈与。

 

・クラス別最優秀生徒報酬

 全競技でもっとも高得点を得た学年別生徒三名には各1万プライベートポイントを贈与。

 

「先生先生!この入賞者の特典!筆記試験の点数って!?」

 

「そのままの意味だ、池。競技で上位に入れば次の中間試験での加点を得られる--どの教科に使うのも自由だ」

 

 三バカを初め学力に不安のある者には大きな恩恵であり、そうでない者もプライベートポイントを得られる報酬だが、いいこと尽くめである訳もない。

 

・体育祭終了後、全競技で獲得した点数を学年別で集計し、下位十名にはペナルティを課す。ペナルティの内容は学年ごとで異なる場合があるため、各自担任に確認すること。

 

「せ、先生、このペナルティって……」

 

「一年に課されるペナルティは筆記試験での減点。総合成績下位の十名は10点の減点だ。どのような形で減点されるかについての質問はここでは受け付けない。下位十名の発表も試験説明時に通告する」

 

 仮に池や山内が入れば赤点ラインから10点多く取らなければ退学であり、厳しい試験になる--実際に不安のある者たちからは悲鳴が上がった。

 

 説明は次に移り、競技の確認に入る。

 

 種目は『全員参加』と『推薦参加』の二つに分けられ、前者は文字通りにクラス全員の参加が義務付けられ、後者はクラスから選抜された生徒が参加--自推や複数参加も可能。

 

「競技種目はプリントに記載されている通りだ」

 

 全員参加競技

・100m走

・ハードル競争

・棒倒し(男子)

・玉入れ(女子)

・男女別綱引き

・障害物競走

・二人三脚

・騎馬戦

・200m走

 

 

 推薦参加競技

・借り物競走

・四方綱引き

・男女混合二人三脚

・三学年合同1200mリレー

 

「一日じゃ無理でしょ」

 

「当然の疑問だな、故に当然の答えで返そう。

 応援合戦やダンス等は一切存在しない--競技のみに終始する」

 

 そして茶柱は一枚の用紙を取り出し、次の説明に入る。

 

「ここに参加表と言うものがある--これは非常に重要だから、よく聞くように。

 ここには全ての種目の詳細があり、お前たちは自分たちでどの種目にどの順番で参加するかを記入して担任である私に提出して貰う。

 これはどの中学校でもないだろうから間違えないよう注意するように」

 

「自分たちで記入とはどの範囲までですか?」

 

 平田の問い--茶柱はこれにも当然のように答えた。

 

「全てだ--競技の全てに誰が何組目になるかも話し合って貰う。

 締め切りが過ぎれば変更は不可能--これが重要なルールだ。

 期限は体育祭の一週間前から前日の午後五時まで、それを過ぎればランダムに振り分ける」

 

「先生、質問が当日に欠席者が出た場合はどうなりますか?

 個人で出るものは欠席扱いだとして、団体競技の場合はどのように?」

 

 ここで堀北が挙手した--これまでの事から質問し疑問を解消できるのは今しかないのもそうだが、自身の前例があるだけにどうしてもハッキリさせて置きたいのだろう。

 

「『全員参加』の競技は必要人数に達しなければ失格だ。

 『推薦参加』の場合は代役を立てることが許可されている--その際には10万prが必要だ」

 

 

「不正防止の為ですね。

 ちなみのそれは本人の意思が優先されるのですか、それとも無理だと判断されればドクターストップがかかりますか?」

 

 堀北は僅かに嬰児に視線を移しながら続ける。

 

「基本的には自主性に任せる--止めざるえないのが明らかにされた場合は、言うまでもないな」

 

 茶柱の目も嬰児を向く--嬰児の目が誤魔化せると思う者は居らず、もしもの場合は問答無用に止めさせられる。

 

 これは一般論的には正しいが、クラスにとってはメリットとは言い切れない複雑な要因だ。

 

「他に質問が無いなら終わりだ--次の時間は第一体育館に移動しての顔合わせになる。以上だ」

 

 説明が終わり時間も余ってるのでクラス内では体育祭に向けて、それぞれのグループの話し合い…………

 

「なあ、綾小路。坂柳ちゃんと話すんだろ、俺も一緒に行っていいか?」

「私も--出来れば司城くんとかと一緒に出られるようにして欲しいんだけど」

「あ、ずるい!」

「なに、どさくさに紛れて―――――」

 

 とは余り関係ないことで盛り上がりを見せていた。

 

「あなたたち……勝つつもりはないのかしら?」

 

 隣の席の堀北が溜息を付きながら言う。

 

「それなら確実な方法があるぜ」

 

 そこに須藤が自信満々に乗り込んで来る。

 

「俺が全部の推薦競技に出りゃ、それで勝ちだ」

 

 運動に自信のある須藤ならではの発言--しかし不満が無い訳ではなかった。

 

「それなら嬰児くんが出た方がいいじゃないの」

「だよな--つーか、全員参加の方でも嬰児が決めてくれれば」

「話し合いとかもしないで、練習に回せて有利だよな」

 

 嬰児が全て決めればいい--との流れになりそうになるが、

 

「嬰児くんだけに負担を強いるのは駄目だよ」

「話し合いで全員が納得しなきゃ、面倒になるだけだしね」

 

 平田と軽井沢が出て来て上手く流れを遮った。

 

「兎に角今は時間が足りないし、次のホームルームに持ち越しましょう--意見が出そろわなきゃ、埒が明かないわ」

 

 更に堀北が強引に話を締めた。

 

 これに不満を感じる生徒も少なからずいたが、そうでもない生徒もいた。

 

「だな。ⅮクラスだけじゃなくてAクラスの方針も聞いた方がいいだろうし」

「ってか、坂柳さん。今回も出られないだろうし、こっちがサポートしなきゃかもだし」

「その辺の調整も神室や橋本としなかきゃだな」

「清隆くんも頑張らなきゃね」

 

 幸村、長谷部、三宅、佐倉の綾小路グループが最初に同調。

 

「堀北さんの言う通り、話し合いは必須だしね。今決めちゃうのは早計だよね」

「……私たちもチャンスが欲しくない訳じゃないし」

 

 軽井沢のグループ--松下と篠原も続き、この場での話し合いは完全にお開きとなった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 さっきは平田と軽井沢がフォローしてくれたお陰でやり過ごせた。理想としては、このままの感じで本番まで向かいえて貰いたいものだ。

 

 

 二限目のホームルーム--体育館に集まっての顔話合わせ。

 

「赤組の総指揮を執ることになった。三年Aクラスの藤巻だ。

 一年にはアドバイスをと思っていたが、早めに話し合いに移りたいようなので要点だけ言う。

 学年合同は最後の1200メートルリレーのみ、やるからには勝ちに行くのを肝に銘じておけ」

 

 なんとも話の分かる先輩だな--と思ったが、目下の注目は皆同じみたいだな。

 

 話が済んだ途端にAクラスがやってきて坂柳に椅子を出し、Ⅾクラスでは綾小路をせっついて隣に立たせる。

 

 すっかり名物になってしまったなぁ……しかしそれでも実に絵になるわ。

 

「先に謝罪します--私は完全な戦力外で全ての競技に不戦敗となり、赤組にはご迷惑をおかけします」

「気にするな。最初から解りきってたことだ」

 

 間髪入れずに坂柳を庇う綾小路--夫婦仲は順調のようだ。

 

 一方でいきなり険悪な空気を出してるな、あっちは……。

 

「話し合いする気は無いってことかな?」

 

 去ろうとしているCクラスに対しての一之瀬の発言--これに答えるのは当然、一人しかない。

 

「時間の無駄は省くべきだろ--こっちが何言ったって信じるとは思えねぇしな」

 

 龍園は笑いながらもそのニュアンスには絶対的な自信を感じさせる。

 

 それは一之瀬も同様のようだ。

 

「協力なしで試験に勝てるの?」

 

「ククッ、さぁな」

 

 笑ったままで龍園はクラスを率いて行ってしまった--そうでなくてはな。

 

 疑問を抱えている一之瀬と目が合い、こっちに手を振りそうになるが軽井沢が前に出てシャットアウトする。

 

「嬰児くん、洋介くんたちのとこ行こ」

 

 心配しなくても明確な敵になったんだ、馴れ合いなんてしないさ。

 

「既に戦略は出来ていると言うことでしょうか?」

「そうだろうな--勝つために思考を放棄するような男じゃない」

 

 ひそひそと情報を確かめってホントに仲のいい夫婦だ--注意深く耳を澄ませてなきゃ、俺でも聞こえなかったぞ。

 

 そして、そこに行き着く辺り大したものだが他に共有できるのはどの程度かな?

 

「お披露目はそこまでにして実務的な話に移りたいんだが」

 

 葛城が指摘するが、やはり発言力は風前の灯火みたいだな--Aクラスの大半は邪魔するなと言いたげな目で邪険している。

 

「それもそうだね--折角共闘するんだから協力して勝利を目指そう」

 それを見かねたように平田も前に出て来た--俺も軽井沢に促らされる形で合流すると話を進めていく。

 

「団体競技に限らず、ある程度は気の知れた者同士で白組を抑える形がベストだと思うんだけど、どうかな?」

 

「それが理想ではあるが、もし情報が洩れれば互いに疑心暗鬼になり収拾は困難になる--対等に協力し合い対等に戦う、この前提の下でのギブアンドテイク。これが妥当だと思うが」

 

「つまりはお互いに邪魔しないレベルに留めて、双方メリットを提示しようってことかな?」

 

「その通りだ--こちらが求めるのは団体競技での、牛井嬰児によるバックアップだ」

 

 俺を見ながらの名指しでの要求。

 それ以外は要らないってか、不快な顔があちこちに出てくる。

 特に須藤の奴、絶対に見返してやると顔に書いてある…………出来たらいいな。

 

「じゃあ、こちらからは嬰児くんが出る競技には、こっちの希望を汲んで貰いたい」

 

 対して平田は何も思う所は無いとばかりにスムーズに言葉が出る--打ち合わせしていたとも思えんから、ここに来ることなった時点でこうなることを想定していたか。

 

 俺への配慮をしつつもクラスにプラスになるように持って行く--あいつも、いやあいつら(・・・・)もちゃんと分かってるんだな。

 

「いいだろう。後日また話し合う機会を設けて煮詰めていこうと思うが」

 

「うん。その方向でみんなと話し合ってみるよ」

 

 無駄もなく話は纏まって、この場はそのまま解散となった。

 

 

 

 授業も終わり帰ろうと思ったが、綾小路から話があると言われ適当に歩きながら話す。

 

「それで何の用だ?」

 

「分かっているとは思うが、今のまま手を打たなければⅮクラスは負ける」

 

 いきなりか--つまりは使えそうな異能があるなら話せか、どうにか出来る算段があるのかの確認か。

 

「堀北は龍園の手札に気付いていない--セオリー通りの方法のみで体育祭に臨む」

 

「だろうな」

 

「……今のあいつにはそれも止む無しだが、尻拭いする準備は――――」

 

「必要ない」

 

 そう断言すると綾小路の目に好奇が宿った--まだ見ぬ異能が出てくる期待しかないだろうが、ちゃんと後で(・・)応えてやるから安心しろ。だからその為にも、

 

「他のことは気にしないで、お前は出る競技には全力で望め。そうでなきゃ戦いにすらならないぞ」

 

「どういう意味だ?」

 

「誰が何をどうしようが関係ない。全ては水泡に帰す」

 

 訳が分からないか。まぁ、そういう風に言ったんだしな--それは本番までお預けだよ。

 

 追及が来るかとも思ったが、俺に話す気は無いと悟ったのか何も言ってはこない。

 

 しかしそれも束の間、代わりにホースを水道に繋いでいる茶柱先生が目に入ると話を投げてくる。

 

「当番かな?大人ってのも大変だな」

 

 慣れた手つきで水撒きを始めようとすると先生もこっちに気付いた。

 

「久しぶりに見る光景だな--今日は坂柳と一緒じゃないのか?」

 

 先生もミーハーか…………と言う訳でも無さそうだな?

 

「今度の体育祭、結果次第でお前たちの約束は遠のくぞ--しっかりやれよ」

 

 激励、のようでいて勝利を求めての発破--綾小路は心底不愉快そうだ。

 

「言われるまでもありません」

 

「そうか--牛井も好きに動きたいなら、微力ながら力を尽くすぞ」

 

「有難いお言葉ですが、それで先生の立場を危うくするかも知れないのは本意ではありませんので」

 

 丁重にお断りしてみる。

 まず間違いなく既に釘は刺されている筈、余計な横槍は返って面倒になる。

 頼むから、これ以上ややこしくはしないでくれ。

 

「いい心掛けだ。しかし事あるごとに特例を持ち出されては敵わん--何かあったら直ぐに言え」

 

 面倒になる前にとも面倒を引き受けるとも取れる曖昧な言い回し、それがそちらのギリギリですか。

 

「そうならないように気を付けます」

 

 ならばこちらも無難に返すのみ--僅かとは言え慮ってるんだから、少しは汲んでくれよ。

 

「そうか、では気を付けて帰るんだぞ」

 

「嬰児、行こう」

 

 綾小路もこれ以上は実りが無いとしたようだ--ではとっとと退散しようか。

 

 

 

 ***

 

 

 一か月後に控えた体育祭に向けての週一で設けられた二時間のホームルーム。

 

 平田を進行役とした話し合いが行われる。

 

「今度の体育祭、嬰児くんはバックアップを比重において配置、メインは競技ごとに調整していくのがベストだ」

 

「どうして?推薦競技にしろ、全員参加でも嬰児くんが出張ってくれた方が確実じゃん」

 

「体力だって無尽蔵じゃないのよ。彼の頭抜けた能力を満遍なく活かすには、この方法が最善だわ」

 

 反対意見を透かさず切る堀北--嬰児の背景を理解していない輩は不満だが、そうしなければ直前になって再び特例として参加できない可能性もあり、それでは勝率は大幅に下がってしまう。

 

 リスクを可能な限り下げる方策だが、それも大ぴらに言えばどうなるか--歯痒さを覚える状況だ。

 

 それは平田も同様であり、ぶり返さないうちに話を進めていく。

 

「そう言うこと--それで競技の参加者だけど、挙手なんかの希望と能力別に配置を決めるか?」

 

「断然、能力で決めるべきだろ」

 

 須藤が言い切る--自分の身体能力に絶対的な自信に裏打ちされて力強い。

 

「俺が推薦競技に全部参加して勝てば、クラスの勝つ可能性が上がる--悪いが嬰児の出番はないぜ」

 

 須藤の場合は意図した訳ではないが、都合のいい流れが出来上がった。

 

「それは結構だけど、補足があるわ」

 

 堀北はそのまま一気に進めていく。

 

「須藤くんだけじゃなく他にも運動神経のいい人は全員競技でも勝てる配置で臨むべきだわ。勿論、私も多くの競技には参加する」

 

「ちょっと待ってよ、それって弱者切り捨てってことでしょ。

納得いかないよ、3位まで特典あるのに可能性を捨てるなんて」

 

 ここで軽井沢が反対意見を出す--これに続く形で篠原も声を上げる。

 

「そうだよ、クラスの為だからって私たちが泣きを見なきゃいけないなんて……」

「堀北さんの言ってることも分かるけど、チャンスは公平にあるべきだよ」

「運動が出来る人たちだけが得をするってのは、納得できないなぁ」

 

 軽井沢一派を皮切りに女子たちが次々と反対する--それを須藤が更に反対する。

 

「いい加減にしろよ。それで負けたら責任取れんのかよ、あ?」

 

「これは試験なのよ、効率的に勝つために戦略を立てるのは当然--他クラスに後れを取る訳にはいかないのよ」

 

 堀北の切実な言葉には心に来るものがあり、こちらにも同調する者が出る。

 

「俺も運動が苦手だから、得意な奴が担ってくれるなら賛成してもいい」

「私もみんなの役に立てそうもないし……堀北さんに賛成かな」

 

 幸村と佐倉が堀北に着き、更に同著する者たちも続く。

 

 クラス内では対立する構図が出来上がる。

 

 こうなると仲裁する平田も今回は様子見しており、緊迫した空気の中で軽井沢が言った。

 

「じゃあ、逆に訊くけどさ--堀北さんの言う通りにして負けちゃったら、責任取れんの?」

 

「軽井沢……おめぇ、俺や鈴音が負けるって言いたいのか?」

 

 須藤が苛立ち交じりの声で迫るが軽井沢は動じることなく言い返す。

 

「そうだよ。この際、ハッキリ言うけど--堀北さんの言う通りにしてもどうしても勝てる気しないんだよね」

 

「テメェ!鈴音をバカに―――――」

 

「勝手に名前で呼ばないで貰えるからしら」

 

 堀北は須藤を押しのけて軽井沢を睨みつける。

 

「随分と言ってくれるけど、何か根拠があるのかしら?」

 

「実際にこれまで何も結果なんて出して無いじゃん」

 

「そうね--それについてはそう言われても仕方ないわね」

 

 堀北は一定の理解を示したのか、態度が軟化する。

 

「さっきの答えだけど、他クラスだって戦略は練って来る、勝負である以上は絶対なんて言い切れない。

 それでも私は負けたくないし、勝つための可能性を上げる手立ては全てやって置きたいの」

 

 勝ちたいと言う意思を明確に語る--それ自体は特別でも何でもない、だからこそ心に染み渡るものがあり軽井沢も落ち着いてきた。

 

「絶対に勝つなんて粋がるんだったら、潰そうと思ってた。

 でも捨て駒にされるだけで泣きを見るのは、どうかと思うけど」

 

「それについても考えがあるわ。上位が得たポイントと最下位で失ったポイントを相殺すれば」

 

 明確な妥協案が提示されたことで反対派の中にも納得感が生じる。

 

「ふう、分かった。今回は折れてあげる」

 

「理解が得られて何よりだわ--改めて協力して勝ちに行きましょう」

 

 二人の意見は合意した--それは必然的にⅮクラスの方針が確定したこととなり、その後の話し合いもより順調に進んでいくのだった。

 

 須藤は全ての競技に参加を申し入れ、嬰児は棒倒しや綱引きに騎馬戦など複数参加の競技でバックアップを主に堀北や平田を始め櫛田や小野寺、三宅などの運動神経のいい生徒の割り当ても決まったが全ては埋まらず、この日の話し合いは終わった。

 

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