どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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勝ちが・・・

 

 

 放課後になり、それそれが帰ろうとしている中で平田は軽井沢に声を掛ける。

 

「軽井沢さん--少し話したいことがあるから残って貰えないかな」

 

 かなり真剣な様子に軽井沢は一緒に帰ろうとしていた佐藤と篠原に言った。

 

「……ごめん、先に行っといて貰える」

 

「うん、わかった」

「じゃ、お先に」

 

 素直に従い帰っていく女子二人--先の話し合いで波風を立てたことを注意するつもりだと、巻き込まれたくないとばかりに他の面々も次々に教室から去って行った。

 

 そんな中でゆっくりと帰り支度をしている堀北--最後に出ていく生徒も不安顔であったが、何も言わずに帰る。

 

「ふぅ……なんとか上手く行ったね」

 

 平田は緊張の糸が切れたのか、息をついて苦笑いする。

 

「ええ、これでクラスの方針は固まった--後は成果を出すだけね」

 

 堀北も一段落を終えたことに安堵している様子だ。

 

「出してくれなきゃ困るって--こんな嫌われ役を引き受けたんだから」

 

 軽井沢も愚痴ってはいるが予想されたような険悪な状況とは程遠く、全ては予定通りだったことを物語っている。

 

 Aクラスを目指すには堀北が立つのが最適である--しかし、実績もない彼女がどれだけクラスに良い提案をしたところで反発する者は出て来るのは目に見えている。

 

 ならばその反発を軽井沢が引き受け、その上で堀北の提案を呑めば不満は最小限に抑えられる。

 

「大凡のことは夏休み中に決めていたとは言え、殆ど即興で上手に話を持ってきて来れたのは見事だと言っておくわ、軽井沢さん」

 

「堀北さん……褒めてるんだろうけど、もう少し言い方無いの?」

 

「今更、私が優しい口調になったって気持ち悪がられるだけでしょ--今まで通りの調子でやって、取りこぼしをあなたたちが担ってくれるのが最適よ」

 

 聞きようによっては貧乏くじを引けと言っているようで、流石に不快さが込み上げて文句を言いたくなってくる。

 

「それがクラスの為になるなら、僕は構わない」

 

 そこに平田が仲裁に入る。

 

「ちょっと洋介くん--嫌われ役やってんのあたしなんだけどぉ」

 

「勿論、無理をさせるつもりはない--と言うか生じる無理を嬰児くんが引き受けてくれれば」

 

 さり気なく軽井沢の意向を酌む平田--同時のこの場に居ない協力者に期待を寄せる。

 

「その辺は綾小路くんに頑張って貰うしかない--Aクラスとの連携も含めてね」

 

 その肝心の綾小路は嬰児へのアプローチを行う訳でもなく、Aクラスに打ち合わせの打診をすることもなく、グループメンバーと呑気のカフェで寛いでいるのだった。

 

 

 

 ****

 

 

 

 翌日の体育の時間、体育祭に向けての自由時間が多く割り当てられ本格的な練習と競技種目の選別が行われている。

 

 特に男子は文字通りの力を必要とする協議が少なくないので、堀北の提案で能力を測って優先的に決めようとなった。

 

「うらぁ!!」

 

 須藤が握力測定器を握り、82.4を出した。

 

「へっ。普段から鍛えてるからな--ほらよ、嬰児もやってみろよ」

 

 俺は無言のまま受け取り握ると86ジャストになり、途端に悔しそうにする須藤--そんなに俺に勝ちたかったか、ご愁傷様。

 

 次いで綾小路が72.6……もっと行くかと思ってたが、須藤を立てたのかね?

 

 三位に平田が57.9となり団体競技のひとつ、四方綱引きのメンバーが確定し他の競技でも参加者が決まっていく--ちなみに俺は予定通りに全ての団体競技の出場は前提になっており、選別の際には意見を求められもしたが適当に流した。

 

「平田、陣形や作戦での采配はオレ達が思うように出来るなら色々と試していきたいんだが」

 

「うん、分かってる。Aクラスとの連携も軽視する訳にもいかない--折角、有利な条件で望めるなら、より優位にいきたいしね」

 

 俺の言ったことを意識してるようだが、傍目には早くAクラスとの話し合いに行きたいってしか見えないよな--平田の奴も真面目に受け答えてるもののニヤニヤが隠しきれてないし、盛り上がりは他にも見える。

 

「清隆、同じグループだし俺と騎馬組もうぜ!」

 

 三宅が名乗りを上げると、どんどん続こうと流れて来る。

 

「きよぽん、こっちでもチーム組んでみようと思うんだけど」

 

 それは女子も同じで長谷部を始め、一緒に行きたいのがアピールしまくって--ここだけ見てるとモテモテなんだよなぁ。

 

 そして、そんな様子を面白くないと思う輩も当然いたりもするんだよな--例えば自分が全部仕切るつもりでいただろう須藤とか。

 

「ったく、どいつもこいつも馴れ合い上がって……こんなんじゃ、先が思いやられるぜ」

 

 堂々と口にするのは中々だが、誰も聞いてないぞ。

 

っと思ったがそうでもないか、気配り上手がⅮクラスには居たんだった。

 

「Aクラスのことは綾小路くんに任せておけば大丈夫だね。だったらⅮクラスのリーダーはやっぱり須藤くんだよね」

 

「櫛田さんに僕も一票入れる--体育祭には強いリーダーが求められる。須藤くんなら十分に資格はある」

 

「いや平田……俺、リーダーなんて柄じゃ」

 

 おいおい、言ってることとは裏腹な期待感が見えるんだが--よろしい、ここはひと肌抜いてあげよう。

 

「いいんじゃないの」

 

 俺も適当に肯定する--思った通りに堀北も出て来る。

 

「私も反対しないわ。クラスを牽引するには時に強引さも必要だわ」

 

「……分かった。俺がⅮクラスを勝たせて見せる」

 

 惚れた女に言われてはか--非常に分かり易いな。

 まぁ、心意気は結構だが一体どこまで持つだろうかね。

 

 他の連中も俺が認めたからか、異論はないようだ--この辺りはまだいい流れとは言えないな。

 

 

 

 

 

 

 次のホームルームからの本格的な練習で早速、須藤はリーダーとして行動していた。

 

「パワーも重要だけどな。腕だけじゃなくて、こういうのは腰を使うんだよ」

 

 綱引きのコツを始めとして本格的な指導を丁寧にやる姿は、思いの外に好感が持てて女子からも教えを請われている--それには須藤も意気揚々だ。

 

 ちなみに俺の方に来る奴は平田が受け持ってくれてるから、基本的には何もしないで黙々と自主練しながら偵察に来てる連中にも目を配る。

 

「BクラスとAクラス、しっかりと見られてるな」

 

 そりゃ、そうだろとでも言って欲しいのか、綾小路。

 それともCクラスが何もしてこないことに話を広げたいのかな?

 

「関係ないな」

 

「……策を立ててるのは龍園だけじゃないか。もっともお前の場合は丸で読めないが」

 

 龍園の方は既に見当が付いてるってことか。

 だが何かしてる様子は無いのは、俺の邪魔をしないようにって気配り……な訳ねぇよな、ホントに欲望に忠実な奴だ。

 

 でもまだお預けだよ。

 

 それに今見るのは俺でいいのか?

 

 佐倉が走り終え、フラフラしながらこっちを見る。

 

「あ……綾小路く、ん…………あっち……手ぇ」

 

「愛里、ちょっと呼吸を整えろ」

 

「い、いや……私よりも、坂柳、さん」

 

 息を切らしながら指させした先には窓から手を振って微笑んでいる坂柳の姿。

 

「ああ」

 

 冷めた反応のままで振り返すと周りからはヒューヒュー、キャーキャーと冷やかしなのか祝福なのか、綾小路もすっかり慣れたものだな。

 

「よーし、清隆。この後でAクラスと打ち合わせ行こうぜ」

 

 三宅が肩を回して陽気に言ってくると男女関係なく自分も一緒にと盛り上がって来る。

 

 趣旨が完全にズレてるが、やっぱり良いもんだな。

 

 

 

 ***

 

 体育祭まで二週間を切った休日の土曜日。

 

 綾小路はいつも通りに坂柳と一緒に居る--しかし普段と違うのは、どうでもいい世間話でも誰かが聞いていたら何かを思う恋バナでもなく、団体競技での打ち合わせであることだった。

 

「棒倒しと綱引きの配置はこんな感じが妥当だと思う」

 

「騎馬戦に関しても回避ルートやフォーメーション、場合によっては捨て駒役の投入--もう少し煮詰める必要性がありますね」

 

 二人ともどんな場合(・・・・・)になっても負けないよう綿密に練っている。

 

 それは時間を忘れてしまうほど没頭しており、気が付くと日が傾いている時間帯に差し掛かっていた。

 

「そろそろ、お暇しよう--長々となっちまって済まなかったな」

 

「いいえ、お気になさらずに……と言いたいところですが、今日のこれが水泡に帰すかも知れないとなれば、何とも歯痒いですね」

 

「あらゆる状況を想定して組んでみたが、気がかりが二つもあると……流石にな」

 

 その内のひとつは嬰児の不可解な言動--嬰児自身が動くことが出来ないとしても代わりに立てるべき堀北にも何もしないばかりか、綾小路に発破を掛けたのは何かしらの企みがあることは想像に難くない。

 

 それも異能を使った方法で--正に綾小路の理想的な展開だ。

 

「清隆くん、言っていることと表情が一致してませんよ」

 

 坂柳が不満顔で言う。

 

「彼が何をして来るのか興味を持つなとは言いません--でも入れ込み過ぎると貴方の欲するものとは真逆の方向に行きかねませんよ」

 

「嬰児のこと、知ってる--いや夏休み(あのとき)に知らされたんだな?」

 

「申し訳ありません。私の口からは何も言うことは出来ません」

 

「別に構わない。それは、おいおい知っていった方が面白いだろうからな」

 

「フフ、好奇心に素直なのは好きですよ」

 

 屈託ない笑顔で称賛されて綾小路も少し頬を掻く。

 

「それに懸念すべきは、もうひとつありますよね?」

 

「ああ、嬰児のことが無ければ、堀北に忠告するつもりだったんだが」

 

 そうした所で無意味に終わる可能性は高く、そもそもどこまで成果が得られるかも未知数--それでも知っているのといないのでは大違いではあるが、結果として嬰児の妨害になってしまえば(綾小路的に)元も子もない。

 

「Ⅾクラスが浮上できないとなれば、別の方法も模索した方が?」

 

 心配そうに訊いてくる坂柳--願いが叶わなくなる可能性が出てのことだと打算的な部分で考えるも、それとは違う心配をされていると分かってしまう。

 

(少し前なら戸惑ってたが、そうならない分はオレも変わったのかな?)

 

 己自身を分析しながら、いつも通りに答える。

 

「いざとなれば排除する--そこから再起を図っていくさ」

 

「う~ん、なんだか先延ばしにされてしまい、もどかしいですね」

 

「それなら条件を変えるか--なんなら今、ここででもオレは構わないぞ?」

 

「それもちょっと格好が付かないので、ちょっと嫌ですね」

 

 不敵な笑みを浮かべてきっぱりと否定する--のでなく、悩まし気に自然に本音を出してくる姿は決して綾小路以外の前では見れない。

 

 そんな珍妙な優越感を感じていると綾小路の方も自然と笑みがこぼれた。

 

 

 ***

 

 

 各々のクラスが練習を積み作戦を練っている--だが一寸先は闇、誰もが予想だにしないことが起こった時はどうするのか?

 

 言い含めていたのは綾小路だけ……と言うか、あいつのリクエストに答える為にやるのも理由のひとつだ。

 

 そして当日になれば、獅子身中の虫も気付くだろう。

 

 己の目論見が完全に狂ってしまえば、どうするか?

 

 諦めずに次を狙うか、ビビッて暫らくは大人しくするのか--どっちでもいいがな。

 

 その辺のことは俺に直接聞きに来るとも思えんから、あとで綾小路から聞くとしよう。

 

 兎に角、待ち遠しいものだ。

 

 

 

 

 そんなこんなと皆が練習に励み、勝つ為にはどうするかの話し合いも重ねて本番まで一週間--参加選手を決めるところまで来た。

 

 壇上では平田が立って、これまでのデータとAクラスとの協議も含めた組み合わせを発表--の前に俺が手を上げる。

 

 出だしから水を差したが、悪く思うのは後にしてくれ。

「100mの一組目に入りたい」

 

「え、いや……そりゃ、嬰児くんなら心強いけど…………」

 

 ペースを乱された--と普通なら見えるだろうが、俺を余り前に出さないよう調整してたのは解りきってた。

 俺の事情を汲んでの配慮なんだろうが、すまないがそれでも我儘を通させて貰う。

 

「絶対に一位を取る--その最初の結果から流れを作るのがベターだろ」

 

「ちょっと待てよ!それなら俺でもいいだろ!」

 

 須藤が声を荒げてしゃしゃり出て来た--ま、予想通りだな。

 

「最初は俺で一位を取る--嬰児は最後(とり)がいいに決まってんだろうが」

 

 いつ出て来るか分からないとプレッシャー役になる--成程、理に適っているが、須藤が考えたのとは思えない。

 

 にも関わらずスラスラと出てくる辺り、そう持って行く段取りだったんだろうな。

 

「その通りだよ。嬰児くんは存在そのものが力なんだ--個人的に思うところはあるかも知れないけど、クラスの為にここは……引いてくれないかな」

 

 実際この援護に平田も調子を取り戻して俺に意見してきた。

 最後に言い淀んだのは、我慢しろと言いそうなのを直したのかな?

 細かい気配りだが、その程度のことでキレたりするような短気じゃないぞ。

 

 ただ、その程度で丸め込まれるほど短慮でもない。

 

「だったら尚更だろう。俺が居ればなんて甘えは、とっとと無くなった方が必死になるだろう--それこそ死に物狂いでやらなきゃ勝ちに行けない」

 

 クラス全体にプレッシャーがかかる様に少し語気を強める。

 

「負けてもいいってなら、それこそ先に済ませたいんだが」

「バカにしないでよ!」

 

 ほう、ここで軽井沢が声を上げるとは意外だな。

 

「無人島の時は嬰児くんが一番成果を出したけど、あたしや綾小路くんだって果たしたことは小さくない--凄いのは認めるけど、一人で勝ったなんて思わないでよね」

 

 更にここで平田じゃなくて、俺に着いたのもな……。

 

「あたしたちだって、ずっと頑張って来たんだから--そんな志の低いのなんて居る訳ないでしょ!」

 

「俺たちだって勝ちたいに決まってる!」

「そうだぜ!」

「私も一位取る自信はあるもん!」

 

 堂々と言い切る姿に同調する輩も出て来る。

 

 うん、いい流れだ。

 

 前回と言い、噛みついている様で反対意見を封殺する--流れを作ると言うか、人の機微を見極めれる資質は大したものだ。

 

「みんな、落ち着こう」

 

 ここで平田が宥めて仕切り直す。

 

「クラスの勝率を上げるには最善だと思ったけど、嬰児くんの言う通り先々を考えると良いとは言い難いね」

 

 平田は俺を一瞥して小さく息を付いた--なんか、もう少しうまくやれよとか言われてるみたいで少々面白くないな。

 

「分かった。嬰児くんを一番手に--クラスの一員として、みんな(・・・)で力を合わせて行こう」

 

 どうにか希望は通って話は纏まったな。

 

 ただ、その言葉--もっと深みを持たせないと駄目だよ。

 

 そこから先は順調に埋まっていき、最後の合同リレーのアンカーのみ堀北の個人的要望で揉めそうになったが、どうにか落ち着いた。

 

 のはいいが、今のお前じゃ、あの兄貴の眼鏡に適うとは思えないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして迎えた体育祭当日、入場行進に開会式の挨拶と滞りなく進んでいく中で早速、不愉快なものが目に入った。

 

 閉鎖的な学校だ。だから親族などの応援に来ることなど無く、見物客も学校関係の施設で働く大人がチラホラみられるだけなのは分かるが……そこに交じってドゥデキャプルが忌々しい不敵な笑顔で手を振って、紳士的にお辞儀をしている。

 

 どうにも異様で目に付きそうでもあるが、大半の奴らは競技に気を取られ、さとい奴らは最初の競技である100m走の判定カメラに目が行って、誰も気に留めない。

 

 なら周りの奴らは?

 

 どうにも浮くような風体だぞ、何かから奇異な目で見るのが一人ぐらい居ても--とか思ってたら、いつの間にか消えていた。

 

 なんだったんだ、一体?

 

 監視はしっかりとしているぞって意味の警告と勘がるのが妥当だろうが、今日に限っては甘いと言わざるえないぞ。

 

 赤組と白組が設置されているテントはトラックを挟んで向かい合う形になっており、競技中しか接触は出来ない--好都合だ、態々希望を通した甲斐があったな。

 

 100m走--いの一番からの出番だ。

 

 俺と同じく一組目の選手がスタートラインに集まって来る。

 

 メンバーの中には見知った者はいない、体格的に見てもスポーツをやってる奴も皆無だ。

 

「これは牛井殿の楽勝でござるな」

 

「そうだな」

 

 Ⅾクラスで一緒に走るメンバー、外村が言って来るが軽く流してCクラスの奴らに近づく。

 外村と同じく肥満体形--見た通りの捨て駒要員だな。

 それでいて気も弱いのか、俺が近づいて行くと目に脅えが生じた。

 

 すぅ~、はぁ~と小さく深呼吸して、ひと言。

 

「お互い、頑張ろうな」

 

「え……」

「あ、ああ」

 

 訳が分からんか--明らかに戸惑ってやがる。

 

「激励だ--龍園たちにも伝えといてくれ」

 

 それで去ると一応の納得はしたようで、気を取り直してスタート位置に着く。

 

 合図が鳴り一斉に走り出す--そのまま速さを上げることはせずに周りとペースを合わせて先導する形を取り、最後までそのままの状態で一位を取った。

 

 程なくして外村も最下位でゴールした。

 

 直ぐに次が走るから背を押しながら、とっとと退散してテントに戻ると後組の奴らが話しかけてくる。

 

「なんかギリギリだったな」

「もっと余裕で勝つと思ってた」

「もしかしなくても遊んでるのか?」

 

 実際は余裕だし、そう見えるわな--その通りだし。

 

「まだ始まったばかりだぞ」

 

 そう答えて白組テントに戻っていくCの奴らに目を向ける--ペースを調整して限界まで引っ張った甲斐もあり、半端にない息の上がり方だ。

 

 そして当初からの通りBとも連携などしておらず、目に見えての区切りが分かる。

 

 龍園は見向きもしないが、椎名なんかは水を差し出して労ってるようだが呼吸が落ち着く様子は無い。

 

 ああ、悪く思うなとは言わない--その代わり容赦はしない。

 

「お、須藤もやったぜ!」

 

 競技に目を戻すと二組目である須藤がぶっちぎりで一位……こっちを見て、何やらドヤ顔だがいつまで余裕ぶっこいてられるかな?

 

 三組目で出場する高円寺の姿はない--予想通りの展開だがこれで不戦敗だ。

 

 Aクラスでは葛城、Bクラスでは神崎が出ており、奴も真面目に参加してれば中々にいい勝負が見れたんだろうにな。

 

 しかし結局は欠席扱いで競技は進んでいく。結果は神崎が一位で葛城が三位--高円寺が全競技不参加となると坂柳を含めて赤組は大きなハンデ、少しでも取り返して置きたかったんだろうが一歩及ばなかったか。

 

 それでも着々と次が始まり四組目--今度は綾小路だ。一瞬だけ俺の方を見てきたが、この前に言ったのがよほど気になるのか。

 

 もう直ぐ分かるぞ。

 

 スタートして接戦を繰り広げてるが、俺の見立てでは余裕満々で勝負になるようなのはいない。

 最後にダッシュすることもなく、俺と同じように僅差で一位を取った。

 

 この結果に戻ってきて直ぐに、

 

「お疲れ様です」

 

 特別に椅子に座っている坂柳が労いの言葉を掛ける。

その様子に周りはニヤニヤしながら隣に押しやっていく……ちょっと前なら申し訳なさもあったが、今は満更でも無いみたいだし、良しとしときたいな。

 

 五組目は龍園、六組目はBクラスの柴田、七組目は平田がそれぞれ一位を取り順調に男子の部は消化された。

 

 出来ればそのまま行って欲しかったが、須藤がコテージに居る高円寺の元に向かい息を荒げている。

 平田と綾小路も向かって窘めてるようだが止まる様子はない--まったく余計な騒動を起こすなよな。

 

 拳を振り上げる須藤と余裕満々で受け止める気でいる高円寺の間に入り、両方の手を取り固定する。

 

「何のつもりだよ!放せ、嬰児!」

 

「珍しく私も同意見だね--男と手を取り合う趣味は無いので放して貰えないかね」

 

 ぎゃあぎゃあ、煩いから少し力を籠める--いい加減に頭を冷やせ。

 

「粋がるのも大概にしろ。お前ら二人で掛かっても叩きのめされるのがオチだぞ」

 

「え、嬰児くん。暴力は――――」

 

 平田が冷や汗きながら言ってくるが、綾小路が肩に手を置いて下がらせる。

 

 そして数秒の沈黙の後、須藤と高円寺も引く姿勢を見せたので手を緩める。

 

「なんだよ、悪いのはこいつじゃねぇか」

 

 解放された須藤が恨みがましく言った。

 

「もう何度目かになるが、私は体調不良で辞退しただけさ」

 

「嘘つきやがれ!嬰児、お前なら分かるんじゃねえのか?!」

 

 仕方ないから高円寺の額に手を当ててやる--と、勢いよく飛び退いた。

 

「見やがれ、どう見ても健康そのものじゃねぇか!」

 

「……いや、情緒不安定が見て取れる。これは精神的な不調だな」

 

 俺の肯定的意見に意外な顔をする面々--しかし実際に高円寺は異様な警戒心で俺を見ている。

 

「デカい図体に似合わず、気が小さくて臆病なんだろう--ここは大目に見てやろう」

 

「ハッ、そうかそうか。肝っ玉が小さいならしょうがねぇなぁ」

 

 折角だから言いたいこと言ったら、須藤も気をよくして留飲を下げた--単純な奴だ。

 

 平田は釈然としない顔してるがそれ以上は何か言う様子はなく、綾小路はどうにか落ち着いたことに安堵してるようだ。

 

 あとはこのまま戻れれば良かったんだが……。

 

「フッ、君子は危うきに近寄らないのだよ」

 

「なんだよ、負け惜しみかよ」

 

「そう取って貰っても結構--彼と肩を並べようなど、とんでもない話だ」

 

 ほう。自惚れが強いのは間違いないが、客観的に物を見れるようだな--それでいて負け惜しみに見せてクラスメイトに遠回しな警告か。

 

 ならばこちらも、

 

「いい判断だ。お前は将来この国を背負って立つそうだが、俺に何か言いたいならその三倍、どうにかしたいなら更に十倍は必要--そうなれたら相手してやる」

 

 遠回しにアドバイスを送る--ま、それまでには俺はもう消えてなくなってるだろうがな。

 

 


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