どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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異常に○○

 ややしこりを残してテントに戻ると女子の組も順調に消化されているようで、今の組では最下位争いをしていた二人の女子がゴールした場面だった。

 

 ビデオ判定の結果--Ⅾクラスの佐倉が制した。

 

 息を切らしながら戻って来る佐倉に駆け寄るグループメンバー。

 

「はぁ、はぁ……やった、私初めてビリじゃなかったよっ」

 

「よく頑張ったよ、愛里」

「ほら、ちゃんと息を整えろ」

 

 健闘を称える幸村と三宅。

 

「あんまり無茶は駄目だよ。転んで怪我でもしたら大変なんだから」

 

 そして二人とは違い辛口な長谷部--そんなみんなに佐倉は目をキラキラさせながら笑顔で言った。

 

「う、うん。ありがとう」

 

 なんとも学生青春的でほのぼのとした光景だ。

 

 と朗らかになってもいる間もなく、女子の最後の組がスタートした。

 

 走っている中で頭抜けているのは堀北と伊吹--かなりの接戦だったが軍配は堀北に上がった。

 

 悔しくて仕方ないのか伊吹は地面を蹴っている--ただ走ることだけに集中してれば勝てただろうにな。堀北(あいて)を意識しすぎて集中力を欠いた、格闘技やってるようだし、その弊害が出たのかな。

 

 いずれにせよ、その悔しさは今後の競技には大きなモチベーションに繋がる--そう、本番はここらからだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 全学年の100m走が終了し集計に入る。

 

「予想通りに早かったな、お前の兄貴」

 

 休んでいる堀北に綾小路が声を掛けた。

 

「当然の結果よ。兄さんは完璧だもの」

 

 自慢とは違うニュアンス--言葉通り、堀北鈴音にとっては当たり前なのだろう。

 

「……本当にあれと勝負する気か?」

 

「ええ、私だって遊んでいた訳じゃない--成長してるのを見せたいの」

 

 そして認めて貰いたい、褒めて貰いたいと言う願望が見て取れる--しかし何かが違うと綾小路は『直感』した。

 

(もっとも何がどうとは言えないがな)

 

 だからこそ間違っているなど口に出来ず、かつてそれを言ってのけて嬰児の『直観』が気になって仕方なかった。

 

 堀北とも嬰児ともある程度の時間を過ごし、他にも坂柳を始め色々な面々と接してみてもやはり分からない。

 

(嬰児もそうだが、有栖もこう言うことが分かったりするのか?)

 

 寧ろこの手の心理的考察などが大の得意であり、その手腕でAクラスを纏めているのだから訊いてみれば教えてくれるかもしれない。

 

 嬰児の思考や論理を知る意味でも悪くない方法ではあると理屈では分かっている。

 

(だけど、それはやりたくない--何故か分からないがやったら負けな気がする)

 

 己自身の不可解な気持ちに唸らせるもそれが不快とは感じない--それもまた不可解で更に唸らされてしまう。

 

「……あなた、こんな所に居ないで坂柳さんの所に行った方がいいじゃない?」

 

「…………」

 

 突然の堀北の切り出しに一瞬、言葉が詰まってしまう。

 

「なんでそうなる?」

 

「だって心ここに在らずよ。坂柳さんの事、考えてたんでしょ?」

 

 一切の迷いなく断言された--言葉が詰まったのを図星と解釈したようだ。

 

 確信の籠った声で堀北はAクラスの方に目を向けて言った。

 

「私も恋だの愛だのを否定したり、下らないと言ったりする口じゃないわ。

 と言うか、馬に蹴られるのも嫌だし……もう少し女の子の気持ちを考えてあげた方がいいんじゃない?」

 

「お前からも説教されるとは思わなかったな……」

 

「からも--つまり少なくとも二回目ってことね。人の心配なんてしてないで自分の事をどうにかすべきじゃない?」

 

「有栖ならオレが何の話をしてるのか分かってる--だから単刀直入に言う。絶対にCクラスは仕掛けてくる、気を付けろ」

 

「……もっと分かるように言ってくれないかしら?」

 

「悪いが何をして来るか、オレにも分からないんでな」

 

「何それ?」

 

 訳が分からないままだが、それ以上の追及はせずにこの話は終わる。

 

 そこで丁度集計も終わり--赤組2011点、白組1891点と発表された。

 

 

 

 

 

 二種目目の競技--ハードル走。

 この競技にはハードル一個倒すごとに0.5秒追加、接触で0.3秒追加の二つのペナルティがあり、ただ速く走るだけでなく確実に飛び越えなければならない。

 

「拙者腹痛でござるよ……欠場しても」

「ハードル全部倒してもいいから完走しろ」

 

 これに練習でも満足に跳べなかった外村が逃げ出そうとするが、須藤が脅迫するように叱咤して、言った通りに全てのハードルを手で倒して最下位で完走した。

 

「ったく使えねぇな--それよりも柴田だな」

 

 須藤は二組目を走るBクラスの柴田に注目する。

 元よりサッカー部で活躍しており速さにも定評がある生徒だ--出場する面子からして一位を取ることは確実であり、目下最大のライバルとして警戒している。

 

 しかし難なく勝つと思われていた展開に異変が生じた。

 

 スタートダッシュで前に出たのはCクラスから出ている二人(・・)の男子。その勢いは衰えるどころか、どんどん上がっていく。

 

「どうなってんだよ、こりゃ?」

 

 結果的には柴田は一位を取った--三つ巴のギリギリで。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ………………」

 

 全力以上を出したのか柴田の息は極限まで上がっている。

 一方でCの男子二人は息を付くどころか汗ひとつかいておらず遠目からも余裕が窺えた。

 

「これが龍園の自信か?」

 

 綾小路が誰に言う訳でもなく呟く。

 

 その横を無言で通過する嬰児--三組目の選手としてスタート位置に付き、合図と同時に駆け出す。

 その様子は先の焼き直しであり、嬰児とCの二人が三つ巴の接戦を繰り広げ、僅差で嬰児が一位を獲得した。

 先ほどと違うのはCだけでなく、嬰児も余裕があったこと。戻って来る嬰児の足取りは軽く表情を含め意気揚々としている風であった。

 

(そう言うことか)

 

 綾小路は僅かずつではあるが訳が分かってきた。

 

「四組目、準備してください」

 

 審判に呼ばれコースに入る綾小路、ひとつ空いたコースには神崎が居た。

 

「早速当たるとはな」

 

「お手柔らかにと言いたいが、余裕を見せてる場合じゃなさそうだぞ」

 

「忠告なんて無用--と無碍にできないのが、もどかしいな」

 

 神崎はやって来るCの選手を見る--調子がいいのが顔色から態度まで見て取れる。

 

「同じ白組としては頼もしいんだが、素直に歓迎できない」

 

 二人の間のコースにCの一人が入り、それ以上の会話は無くなった。

 

 そしてスタートと同時にCの二人が抜け出たが、綾小路と神崎が食らいつき最後には四人同時に近いゴールでビデオ判定に持ち越された。

 

 結果は一位が綾小路、二位が神崎となり三位はCの二人の同着--しかし内容は学校の体育祭レベルではなく、観戦していた者も後ろを走っていた者も唖然とした様子だ。

 

(全力で望め--か)

 

 綾小路は嬰児に言われたことを思い出し、必要性を噛みしめながらも意図を測りかねていた。

 

(嬰児が楽しむ為だけにするとは考えにくい--龍園の策略を潰す訳でもなく、塩を送って何がしたいんだ?)

 

 考え事をしながらテントに戻ると、

 

「お疲れ様です」

 

 坂柳が笑顔で労いの言葉を掛け、その様を見て赤組のテント内では一気に毒気が抜かれた。

 

「随分と楽しそうですね。羨ましいです」

 

「ああ、中々にスリルのある大会になりそうだ--本気で行かなきゃ、一気に潰されるな」

 

 この会話は決して意図したものではない--しかし予期せぬ事態に圧倒されていた全員に活を入れるには効果的であり、それぞれが気持ちを新たに競技に臨むことに至った。

 

 それでも特効薬の如き効果がある訳もなく、競技を終えた幸村が俯きながら戻ってきた。

 

「すまん、清隆--今回も七位だった」

 

「切り替えろ。啓誠ならテストでも問題ないだろう」

 

「それでも成績は下がる--それにクラスや組に負担を強くのは」

 

「それを言うなら私など完全なお荷物です--幸村くんも不得手なら、得意なことで取り返すしかありません」

 

 坂柳からの励ましに僅かに気が軽くなる。

 

「だからって胡坐をかく訳にもいかない。参加する以上は全力で取り組まないとな」

 

 しかし幸村もまた誰よりもAクラスに上がることを欲している一人。Aクラス(もくひょう)に弱みは見せないし、まして甘んじることはしない。

 

(中々にいい流れだな)

 

(そうですね。私もせめて全力で応援します)

 

 これ以上は野暮になると無言になるもアイコンタクトで意志相通を測る綾小路と坂柳は競技に目を向ける。

 

 男子は最終組でⅮクラスからは須藤が出場しており、当初の予想では余裕で一位を取る筈だったが、この組でもCが競ってきておりギリギリで逃げ切る形となった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ―――――」

 

 やっと勝ったのが見ていて分かる様子であり、異常な事態にさっき抜かれた毒気が再び注入されてしまった。

 

 それでも時間は待ってくれず直ぐに女子の競技に移る。

 

 一番手の堀北と佐倉がスタート位置に着く。

 

 プレッシャーにも似た警戒心と疑惑の目でCに注目する堀北と先の綾小路の言葉を聞き肩の力が抜けている佐倉を見て綾小路は思う。

 

(普段を思えば逆の展開になりそうなものだが、何が起こるのか分からないものだ)

 

 そうなった元凶を視界に収めつつ、競技が始まるのを待っていると隣にいる坂柳が組み合わせを見ながら言った。

 

「堀北さん、相当に嫌われているようですね」

 

「よくないのか?」

 

「Cの選手は陸上部の矢島さんと木下さん--クラスの最高戦力と言えるカードです」

 

「なるほどな」

 

 傍から聞いている分には堀北の対戦相手が悪く、神や運と言った類のことを言っている--特にⅮクラスでは綾小路が神を信じているのを知っているために余計に。

 

 しかし実態においては全く別のことであり、この一戦において大凡のことを二人は悟った。

 

 注目が集まる中、スタートし堀北が駆け出す--しかしCの二人がその前を走りチャンスが訪れるどころか差が広がるばかりの展開で終わってしまった。

 

 堀北は三位となったが、一位と二位との圧倒的大差による結果に敗北感を通り越して違和感さえも超えた異常性を感じずには入れれない内容だった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ようやく最初の団体戦である『棒倒し』だ--相手の調子も絶好調で今はエンジンも限界まで温まってるから、相当に楽しめそうで腕が鳴るよ。

 

「おまえら絶対勝つぜ。気合い入れろ!」

 

 須藤が前に出て赤組を鼓舞してるが、効果は今ひとつって感じだな。

 

 龍園の率いるCクラス全員が凄まじい覇気を漲らせてるのが伝わり、気持ちの上で既に負けてると言ってもいい。

 

 出来る限り多くぶつかり合いたいものだ。

 

「楽しそうだな」

 

 綾小路が静かに言ってくる--様子からして事態を把握してるようだな、この短い間に大したものだ。

 

 ただここで話せることは限られてるから返答も無難にするしかない--悪いな。

 

「この学校のルール内なら遠慮は無用だからな」

 

「学校のルールか……」

 

 もっと言いたそうだが、事前の打ち合わせによるフォーメーションでは須藤を前にして、綾小路と指示を出す平田は真ん中の位置付けで、俺は二回とも守りに回るから話すのはここまで。

 

 それぞれの配置に付き、試合開始の合図が鳴ると同時に須藤が先陣を切って突っ込んでいく。

 

「続くぞ!」

 

 お、一応の流れは作れたようだな。

 

 ただ相手も然る者--守備に入ったBクラス神崎の指揮のもと気圧されることなく、どっしりと構えて冷静に対処している。

 

「須藤を止めろ!」

 

 号令と共に三、四人が須藤を押し返そうと取り囲み、流石に分が悪いか凌がれそうだ。

 

 須藤に続いた奴らも決め手に欠けるのか突破できない。

 

 対してこっちは中々にピンチなようだ--攻撃を請け負うCの奴らが信じられないような速さで突っ込んできた。

 

「蹴散らせ!アルベルト!!」

 

 龍園の号令と共に黒人ハーフの大男が突っ込んできて、守りに回ってるAの奴らは全く歯が立たずに突破されていく。

 

 正直、アルベルトって奴一人いれば事足りそうな勢いだ--このままなら難なく先制を許してしまう、このままならな。

 

「!?」

 

 手を伸ばしてきたアルベルトを正面から受けた--左手一本だけで止められたことに流石に驚愕してやがる。

 

 持って生まれた恵まれた体躯に鍛え抜かれた筋肉、普通の学生が敵うとは思えない相手--いいねぇ、俺もそれなら〝相手に合わせて〟でやれる。

 

 頬が緩みそうになる前に受けている左手をいなして懐に入り、投げ飛ばす要領で棒から遠ざける。

 

 その際に攻めて来た数名を巻き沿いになり勢いが削がれた。

 

 ……それは全体にも行き渡ったようで、攻撃に回った奴らも呆けてやがる。

 

「攻めろ!!」

 

 向う側にも聞こえるように怒鳴り声を散らすと真っ先に綾小路が反応したのが見えたが、突撃するようなことはせずに相手の陣形を見定めにかかった--どこまでも己を保つか。やはり、よく訓練されてやがるな。

 

「うらぁ!行くぜ!!」

 

 一方での野生児(すどう)はワンテンポ遅れて反応して、本能のままに再突撃していきやがった。

 が、神崎もやるな--透かさずに四人がかりで抑えに回らせた。冷静な判断だ、龍園(こっち)同様にな。

 

「Aの雑魚どもは放っておけ!数を活かせ、牛野郎を囲め!」

 

 俺さえ封じ込めればやれると判断したか。非常に適切な指揮だ--しかしだ、人海戦術による面包囲なんて、それこそ絵空事だよ。

 

 固まって向かってくる奴らの中から僅かながらにも嚙み合ってない奴を見定めて押しのける。

 直ぐに空いた穴を埋めようと、うじゃうじゃとやって来るが直ぐ近くの奴に掌底を放った--に見せかけたフェイントで誘導し壁になって貰った。

 結果、味方同士でもつれ合いながら玉突き事故のように集まってきた奴らは地面に倒れていく。

 

「牛井に後れを取るな!」

 

 葛城が持ち直して棒を守りに檄を飛ばすが、気合で何とかなるほど甘くないんだよなぁ。

 

 Cを押し戻そうとしてあっさりと返り討ち--怪我するから下がってた方が身の為だぞ。

 

 そのまま棒を倒しにかかるのを手近に居た奴を払いのけながら回り込み、間一髪のタイミングで阻止した。

 

 下がり切った場所を起点に四方八方から来るのを全て撃退--怪我をさせないような力加減も今の(・・)Cには大して気にしなくていいから、かなり楽だ。

 

 それでも急所には当てないようにはしないとな。

 

 

 ***

 

 

 

 嬰児による絶対防衛線が出来たことを見た綾小路は興奮を抑えるのに必死だった。

 

 傍から見れば闇雲に手を振り回しているだけだが、そのひとつひとつは確実に相手を撃退し時には空振りも見えたが、それもフェイントによって動きを制限するものだった。

 

 明瞭な実力差が見て取れる光景--嬰児が際立っているようであるが、決して有利とは言えない。

 

 倒された男子生徒たちもすぐさまに立ち上がり向かって行く--その速さ、力強さはやはり普通とは思えないものだった。

 

 このままではジリ貧--誰もがそう思う中、綾小路はある確信を得ていた。

 

(嬰児とまともにやりやえるなんてありえない)

 

 かつて一度、嬰児の一撃を受けたことのある身として並の奴が直ぐに立ち上がれる訳がない。

 それでも現実に起きていると言うことは嬰児が相当な手加減をしているとするのが妥当--実際に本気など出していないだろうが、楽しそうにしている姿からは面倒臭い労力を割いている風には見えない。

 消去法かつ総合的に考えられるのはCの全員の能力が底上げされている--これしか考えられない。

 

(っとあっちばかり見てもいられないか)

 

 もう少しじっくりと見ていたい気持ちを抑えて、膠着状態にあるⅮの攻撃陣とBの守備陣に目を向ける。

 

 須藤が数人がかり、他の積極組もギリギリの瀬戸際で防がれており決め手に欠ける。

 

 全体的に見てBは平均より上の力を持った生徒が多く、ここに綾小路が入っていっても勝機は望めない。

 

 勝つ為には策が必要--それは瞬時に成った。

 

 綾小路は平田が居るところに駆け出し、苦戦している中に割り込んで下がらせる。

 

「平田、一旦下がれ」

 

「え?」

 

 突然の指示に思考が追い付かないようだが、綾小路は構わずに続ける。

 

「味方を集めて須藤を援護しに行ってくれ」

 

「了解--みんな、バラバラに戦っちゃ駄目だ!須藤くんの壁をどかすんだ!!」

 

 しかし直ぐに持ち直して意図を測り、号令を掛けながら味方を率いて須藤の元に戦力を集中、一点突破を図る--しかしBもとい神崎もそれを易々と許す訳もなく同じく防御陣を集中させる。

 

 双方、陣形を組み替える瞬間に生まれる僅かな隙、手薄になった部分に突撃を掛けるひとつの影、三宅が王手を掛け--もう一つの影、神崎がそれを阻む。

 

「舐めるな、この程度で出し抜けると思ったか」

 

 神崎に止められる三宅だが全く焦りがなく、寧ろそのまま力で押し込んでいく。

 

「いけ清隆!」

 

「しまっ――――」

 

 止められたのは神崎の方であり、主戦力が全て無くなった隙を綾小路は全力で駆け抜けて棒を倒しにかかる。

 それを見たBの男子たちが虚を突かれ、須藤たちに押し切られる。

 その勢いのまま、棒は倒されホイッスルが鳴った。

 

「っしゃ!やったな清隆!」

 

 三宅が嬉しそうに綾小路に駆け寄りハイタッチする。

 しかしその様子を苦々しく見る目もあり、綾小路は冷めた声で言った。

 

「まだ終わってない。次に備えるぞ」

 

「そうだ!次こそは俺がやってやる!」

 

 須藤の更なる気合を込めた叫び--なし崩し的に引き立て役になってしまったことが相当に気に入らないようだ。

 

 一本目を取ったにもかかわらず士気も纏まりもバラバラに近い状態--外側、特に(しろ)側から見れば、さぞ呆れる光景だろう。

 

 このような時は平田がフォローに入るのが常だが、直ぐに二本目に入る為に時間がない。

 

 攻撃側に嬰児が居れば何かしら変わったかもしれないが、事前の取り決めで一本目の攻撃が成功した場合、そのままのフォーメーションを継続することになっているので声掛けもない。

 

 最悪とまではいかないまだも、際どい状態で待機に入った。

 

 ちなみに白組は攻守を入れ替えるようでCが守備に就いている。

 

「へっ、今度は俺が蹴散らしてやるぜ!」

 

 須藤が一人やる気になっているが、大半は不安を覚える--その中で綾小路は次の策を練り三宅と幸村に、クラスの状態を気にしている平田にも近づき小声で伝える。

 

「じゃ、頼んだぞ」

 

「待って、そう言うことはちゃんと力を合わせて――――」

 

 連携を軽視するやり方に異を唱えようとするが、試合開始の合図が鳴ってしまった。

 

 須藤が先陣を切って突撃し他も続いていく--しかしCの全員は余裕があった。

 

 迫って来るⅮの先陣達をものともせず、誰一人倒れることなくあっさりと押し返してきた。

 

 アルベルトや石崎のような屈強な武闘派や運動部でもない者達も含めてどう攻めても全く綻ぶことがない。

 

「ちくしょう--舐めんな!」

 

 須藤も闇雲に突撃するだけではなくフェイントを織り交ぜた動きで突破を図るが、完全に動きを見切られたとしか思えない動作で瞬時に押し倒された。

 

「――――――?!」

 

 これには流石に須藤もありえないと言った顔で倒れていく--その陰から綾小路が出てきた。意表を突いたかに見えたが、石崎がカバーする形で掌底を繰り出した。

 左腕で防御するも勢いは削がれた--かに見えたが綾小路は相手の勢いを利用して引き剝がした。

 だが今度はCクラス一の巨漢であるアルベルトが立ちはだかり、襟をつかみ引き倒してきた。

 

「!!?」

 

 しかし綾小路は地面に背を付きながら蹴り足を放ち、アルベルトの腹を持ち上げるように投げ飛ばした。

 

 

 

***

 

 

 

 おお、柔道の巴投げだ--タイミングも完璧でありアルベルトは密集している棒の周りに飛来して巻き添えを出しながら棒もろとも倒されそうになる。普通ならこのまま決まりだが、そうは上手くはいかんだろうな。

 

 Cの連中、踏ん張って持ち堪えて見せた。

 

 万事休すに思えたが、三宅を先頭とした第二陣がアルベルトを押し込みにかかった。

 

 スムーズな入り方からすると事前に言ってあったな。

 

「勝機はここしかない、押し倒せ!!」

 

 怒号と共に幸村や外村の非力連中から平田と言った冷静な戦力も加わり、更に流れるように起き上がった綾小路も加わった。

 

 う~ん、赤の守備陣ではAとBが入り乱れてじっくりと見れない。

 

 流石に今回のは俺が居なくても大丈夫そうだから、出来れば棒の上にでも立って見物したいな。

 

 棒は傾いていき形勢はⅮが有利、投げ飛ばした衝撃が無くなれば終わりだ。

 それが分かっているのか、それぞれが必死なのが背中越しにも伝わる。

 その甲斐があってか、砂塵を巻き上げて棒が倒れ勝敗は決した。

 

 やっとのことで勝って見せたが、Ⅾは俺を除いてボロボロみたいで、Cは余裕満々--勝者の姿が完全に逆になってるな。

 

 陣地に戻ってからも殆ど出し切ったみたいで皆が座り肩で息したり、水を一気に飲んだりと先行きは明るく無さそうな感じだ。

 

 俺以外に余裕があるのは須藤と綾小路くらいだが、須藤は棒が倒れた際にC共々巻き添えになり文句を言いたそうだが我慢しており、綾小路は防御した左にダメージが残ってるっぽいが気取られないようにしている。

 

 俺じゃなきゃと思ったが、あの娘も気付いか--流石だね。

 

「清隆くん―――――?!」

 

 坂柳が綾小路の左腕に手を伸ばそうとしたら、思いっきり抱きしめた--とことん人目を憚らなくなったな。

 

 突然のことに周りも一斉に固まってるし……。

 

 ええい、小声で何をひそひそと話してる?

 

 

 

 ***

 

 

 

 綾小路は腕の中にいる坂柳の耳元で囁く。

 

「左腕は大丈夫だ」

 

「と言うことはワザと?」

 

 結果、普通でない底上げがCにされていることを確信した。

 

「ああ、だから騒ぎになるから」

 

「余計な事は言うなと」

 

「次からは少し力の配分を変えてやる」

 

「分かりました。でも無理は禁物ですよ」

 

 話が付き、綾小路は坂柳を開放する--瞬間に文句が飛んできた。

 

「あのね。仲が良いのは結構だけど、時と場所を弁えて貰えるかしら」

 

 苛立つ堀北に綾小路は平然と返す。

 

「少しふらついたから支えて貰っただけだ」

 

「つまり……偶々だと?」

 

「お陰で少し元気が出た」

 

「少しですか?」

 

 坂柳が声をきつくしながら背中を抓る。

 

「いや、かなり--思いっきり元気が出た」

 

 このやり取りに大半は毒気を抜かれたが、数割の男子からは嫉妬の眼差しを向けられる。

 

 逆に二人の気に当てられて興奮する女子も出た。

 

「それにしても清隆くん凄かったね」

「そうそう、あんな大きい人を投げ飛ばすなんて」

 

 佐倉と長谷部が褒め称え、益々嫉妬の目がきつくなる。

 

「倒れそうになったら足が滑ったんだよ」

 

「つまりあれも偶々だと?」

 

 謙遜してるかCから文句が来た時の言い訳なのか--どちらにしても信じる者など居らず淀んだ空気が漂う。

 

「そう思ってなきゃ、気持ちが折れる--どんな形であれ、気は緩められん」

 

 ただ続く言葉で一辺に吹き飛んだ。

 

 Cの異常さを肌で実感した男子も観戦していた女子も綾小路の一連の行動が腑に落ち、同時に絶妙な緊張感が行き渡った。

 

 

 

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