どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
続く玉入れでは今度は女子の方がCの異常さを肌で感じていた--もっとも直接ぶつかった訳ではないから消耗の度合いは男子ほどではなかったが、精神的なショックは大きい。
それ程までに結果は圧倒的であった。
「赤組合計54個、白組合計112個。よって白組の勝利です」
これで先の辛勝の分は帳消しとなった--しかし責めようとする者は誰も居ない。
「俺たちで取り返すぞ!」
須藤が元気を振り絞って叫ぶが、士気は全く上がる気配はない。
それでも時間は待ってくれず、綱引きの説明が始まる--内容は棒倒し同様にシンプルであり二本先取した方が勝ち。
純粋な力比べ--今のCクラスほど恐ろしく感じる場面は無い。
弱気になるのも無理はなく須藤の号令や先の綾小路の言でも気休めにしかならない。
「打ち合わせ通りに」
「うん。皆配置について」
葛城と平田が最小限の会話に留めるのもその表れか--始まる前に既に負けているとも言える状態だった。
それでも望みを捨てず作戦通りに身長順に並んで行き、一番後ろに須藤--そのひとつ前に嬰児が立つ。
「へっ、デカい奴を前に持ってくるとはBも分かってねぇな」
軽口を叩く須藤だが、連携を取れないゆえ--綱を引く位置を高くして僅かでも有利に運ぼうとする苦肉の策だろう。
客観的に見れば赤組有利だが、Bの後ろに居るCの自信に満ちた態度は簡単に霞ませる。
「行くぞ、お前ら!」
それでも檄を飛ばす須藤--同時に試合開始の合図となり互いに綱を引く。
「オーエス!オーエス!」
連携の取れた
手を抜いていたCが参戦したのだと誰もが思った。
「負けるか!お前ら死ぬ気で引け!!」
繰り返し叫ぶ須藤だが、綱は最初の位置まで戻され--そこから一気に持って行かれた。
「ハッ、楽勝だな」
「まったくもって、ザマァねぇな」
「Bはよかったなぁ、俺たちと組めて」
各々好き勝手に言うCの男子にBは嬉しくない顔だ--それ以上にここまで圧倒的な勝利に何かしら疑念が芽生えているようだ。
(だからってストレートに訊いて答える訳ないよな--龍園にしても嬰児と組んでる訳じゃなさそうだから、答えようもないだろうしな)
綾小路はさり気なく左腕を摩りながら、白組と後ろで嬰児の胸ぐらを掴んでいる須藤を交互に観察しながら、首謀者の意図を測ろうとする。
「
「だってもう諦めてたじゃん、それがクラスの総意みたいだから従っただけだ」
「ふざけんな、こっちは全勝するつもりなんだぞ!」
「ほう、そうなのか--だったら、皆をやる気にさせてみせろよ。リーダー」
まったく感情の籠ってない台詞に須藤の額に青筋が浮かんできたが、正論でもある為に乱暴に腕を放す。
そのまま血走った眼を前に向けて叫ぶ。
「おい、テメェら!今度手ぇ抜いたら死刑だからな!!死に物狂いで引け!!」
ただ怒りをぶつけただけ--敵味方問わず、そう聴こえた。
そんな状態で士気が上がる訳もなく、返って逆効果でしかない。
冷静に状況を見ている面々は完全に勝つ目が無くなったと悟った。
その内の一人である綾小路は更に思考する。
(嬰児が楽しむつもりなら、他なんて放っておいて一人で勝負するはず--もっともあんまり活躍しすぎると無人島の二の舞だから今回は自重した………………そんな訳がない、だったらそもそもこんなことはしない)
しかしそれ以上は見えてこない--情報が足りない、何か見落としは無いかともう少し没頭したかったが、二戦目の開始が始まってしまい集中できない。
「いくぞ!オーエス!!」
一番後ろで須藤が掛け声を発しているが、びくともしない状況に直ぐに諦めムードが訪れる。
「何やってんだ!死ぬ気で引け!!」
須藤が一人、気合を込めて全力を尽くす--しかし綱は白側にあっさりと持って行かれ、あっけなく幕切れとなった。
「よーし、よくやった、よくやった」
龍園も上々の結果に満足しているのか声が揚々としている。
「この調子でガンガン行くぞ。
相手はワンマンで他は雑魚だ--ぶっ潰すのにこんなに楽なのはいねぇ」
呼応してクラスの士気も上がっていくのが伝わり、龍園の統率力を見せつけて来る。
同時に嬰児にも視線を向け、無言のまま勧誘している。
これには味方のBにも焦りが生まれる。
「まだ終わってない、最後まで全力を尽くして少しでも結果を上げるぞ」
特に神崎はこのままではいけないと仲間に発破を掛ける。
ただの偶然か見越しての事か--どちらにしてもBとC、それぞれは纏まっておりクラスとして機能している。
組としてもクラスとしても統率されていない差を見せつけられた形に流石に不満の声が上がる。
「葛城くんさぁ。このままで本当にいいのかなぁ?」
「……橋本、何が言いたい?」
「そのままの意味だよ--何かひとつでもあっちに勝てるものがなきゃ、不味いと思うんだけど」
橋本はそれとなく綾小路にも目を向ける。
「お前!俺たちにⅮの下に付けって言うのか?!」
これに戸塚が反応して声を上げる。
ただ橋本は綾小路の様子を見て、直ぐに顔を向け冷めた声で返す。
「誰もそんなこと言ってないだろう--このままじゃ勝てないって言ってるんだよ」
その様子は完全に投げており、更に士気を下げる。
「ふざけんな!この采配は
「それくらいにしておけ弥彦。
橋本、お前の言いたい事も分かる--分かるが、それは俺たちではどうしようないことだ」
「そうだよな--悪かったよ」
あっさりと引き下がったことでその場は収まり自陣に戻って行く。
Ⅾに対して負けたことへの追及が無かったが、それが返って責められていると感じてしまう。
それが須藤には特に気に入らないようだ。
「チッ、次は障害物競走だ。今度ふがいないことしたら、ただじゃおかねぇからな」
須藤なりには尻を叩いたつもりなのだろうが、完全に空回りしており、またひとつ不利になったと感じる者も少なくなかった。
***
さて障害物競走が始まった。
細い平均台、網くぐり、頭陀袋と、スピードダウンは免れないが決して難易度が高い訳じゃない。
実際に俺も一位を取れた--ただ同じくここまで一位を取ってた綾小路が今回は二位、左腕のダメージが抜けきってないのもあるだろうが、相応にセーブもしてる。
逆に同じレースに参加し一位と最後まで競って三位を取ったCの選手は全力でやっても余裕を見せている--それをすぐ近くからじっくりと観察してたって感じだ。
何か掴んだのか、ちょっと聞いてみたいな。
まぁ、ここまで来ればあいつじゃなくても何かあると思うのが普通--さっきのハードル走以上に調子が上がってるCは悪くても中間順位、四位以下を取る奴は一人もいない。
下位を多くとってるⅮの男子に我らがリーダーである須藤は豪くご立腹の様子だ。
「くそ……健の奴、四位とかになんねぇかな」
おやおや、池の奴からもそんな台詞が出るか。
しかし組み合わせを見るにその可能性は低そうだな--確か野村と鈴木、Cでも運動音痴と称される二人じゃ基本スペックが違い過ぎる、流石に負けるとは思えない。
あるとすればBから出てる柴田か。
Bクラスで一番の俊足称され、これまでもすべて一位--須藤と競って来るのは想像に難くない。
どうなるかと思いながらスタートしたが、やはり須藤と柴田が一気に駆け出した--その後ろにCの二人が食らい付いていく。
須藤を先頭に柴田とCの二人がほぼ同じの順番だが、最初の障害の平均台において差は開き始めた。
体格に似合わずバランスよく駆け抜け、僅かに柴田をリードする。Cの二人は最初の方はややもたついたが段々と速さを上げていったが、トップの二人とはかなり離された--それでも当人たちからすれば上出来だろう。
続く網くぐりも須藤が最初にクリアしたが、柴田も大差なく抜けて駆け抜ける。
まだリードしてるが、若干詰まって来たな。
最後の頭陀袋でも器用にこなす須藤だが、柴田が徐々に差を詰めていく。
それに気付いたか焦りが生まれ、どうなるかと言った展開だったが僅かな差で須藤が勝利した。
中々に見応えのある接戦だったな。
肩で息してた須藤もどうにか一位を取りひと安心したようだが、戻ってきて直ぐ池に怒鳴る。
「見てたぞ寛治、てめぇ六位だったろ!」
「お、お前だって危なかったじゃん!それに俺だけじゃねぇだろうが!」
その言葉に手を伸ばしかけた--姿勢からして羽交い絞めにでもするつもりだな。
届く前に掴んで止めさせる--今日はこんなのばっかりだな。
邪魔されて益々不満を募らせたようだが、同じく一位を取ったからか、それとも暴力では勝てないからか、さっきまでみたいに強くは出ない。
「柴田には土を付けた--今度はてめぇの上を行ってやるからな」
声は落ち着いたものだが、ニュアンスも目も闘争心がぐつぐつ--競技って土俵でなら俺にも勝てると思ったか。
「そんなにトップが欲しいなら、譲ってやるけど」
「ふざけ――――」
流石に怒鳴りそうなのを掴んだ手に力を入れて黙らせる……何回同じことをさせる気だよ。
「
少々、語気を強くして言って、腕を放す。まだ何か言いたそうだが、訊きたくもないので次の準備に行くとするか。
***
(お前と、か)
そのやり取りは綾小路もしっかりと聞いており、嬰児の行動や言葉の端々も注意を払っていた。
ただ考えに没頭する訳にもいかない--次の二人三脚の準備、女子の障害物競走にも目を向ける。
一番手に堀北が出て、Cからは木下と矢島--先の競技と同じ組み合わせだった。
堀北も挽回しようと気負った顔をしており、スタートから全力で駆け出す。
結果は予想以上のものだった--堀北の足は遅くない、寧ろ早い部類に入る。
しかし一芸に特化した相手に勝てるほどではない。
そんなレベルでない程の圧倒的大差でCの二人は他を引き離した。
先のハードル走とは比にならない結果に他の選手たちは呆然自失、消化試合同然の内容となり、どうにも遅いペースで第一走が終了した。
自陣に戻って来ても顔色は酷く、誰一人例外なく掛ける言葉が見つからない。
特に調子を崩した堀北はBの選手--姫野ユキに抜かれ四位となり入賞を逃してしまった。
普通なら誰かしら責める声が上がりそうなものの一切無い--誰もが構っている余裕が無いからだ。
まだ戦意を保っている綾小路は嬰児に真意を訊きたいからか、遠回しに言った。
「只管に不味い展開だな」
「同感だね。ケアしたいけど……正直、気休めどころか逆効果になるよ、これは」
ただ反応したのは珍しく弱気になった平田だった。
「ああ、下手なことはしない方がいい」
こちらもかなり一杯一杯のようで自分のことに集中しろと言いたいが、平田自身の言葉を借りれば逆効果になりかねず、当たり障りのない返ししかできない。
綾小路は堀北の元に向かい話しかける。
「随分な様だな」
「……なに、わざわざ笑いに来た訳?」
「同情でもして欲しいのか」
神経を逆なでする言い方に睨みつけられる--まだ折れてはいないことは確認できたと、ひと安心する。
「何しに来たのよ?」
「お前の目から見て、Cはどう見える?」
「どうもこうも絶対に不正してるしか考えられないでしょ。いくらなんでも絶好調なんてレベルを遥かに超えてるわ」
(そんなことは分かってる--知りたいのはそれにどんなメリットが含まれるかなんだがな)
Cが得る利益に対して、嬰児が楽しむだけでは釣り合っているとは言えない。力を提供するには、それなりの利益や思惑がある筈--正にそれこそ綾小路が最も知りたいこと。
(嬰児の異能を出させるのに何が効果的なのか、その方向性が掴めることが出来れば……)
状況は一気に綾小路に有利になる。そうなるならⅮクラスがここで潰されたとしても全く構わない。
何処までもブレない優先事項--牛井嬰児を制御する。
その取っ掛かりがやっと見えて来たのだ。
どんな些細なことでもいいから情報を得たかった。
Cは明らかにⅮの参加表を得て都合よく合わせているが、それは嬰児とは別件のもうひとつの懸念事項の筈--ただどちらもⅮクラスを蹴落としにかかっているのは共通している。
ならば切り離して考えずにみると、裏切者の目的を潰すことか。逆に手を組んでより確実にⅮを潰しに来ているのか。
(後者だった場合、
まず思い浮かぶのは自分には出来ない--女であることを使っただが、
(嬰児が色仕掛けに引っ掛かるタイプとは思えん……いや、あいつだって男だ。そういう欲があるのは不思議じゃない)
だとしても嬰児ならもっと理知的なやり方をしそうなもの--学校の行事を利用して一個人の願いに肩入れするなど、リスクが全く釣り合っていない。
寧ろ、尤も避けなければならないことだろう。
(これは前者だった場合にも言える--クラスメイトの暴走を止める為にやったなんて、言い訳が通用するレベルじゃない)
やはり手を組んだなど考えられない。
どうにも解せないとドツボに嵌ってしまいかけた時、堀北から呆れ交じりの声が掛かった。
「あなたが何考えてるか、分かるわ」
綾小路は我に返り、堀北が何かしら感づいたのかと身構えてしまう。
「これが事実なら反則や退学どころじゃない学校の責任問題だものね……坂柳さんのお父さんにも責任を取らされちゃう」
話を聞き思い過ごしであることに安堵し、そして新たな視点から己の視野狭窄を反省させられた。
(迂闊だったな、嬰児の異能に固執しすぎて失念していた)
答えを知っているが故に主観的に考えてしまい、客観的に見れていなかった。
そして客観的に見たうえで嬰児の情報を照らし合わせて見ると、何がしたかったのかが漸くと見えて来た--同時に込められたメッセージにも。
「そう思うなら訴えるとかは少し待って貰えないか--事を荒立てないで済むようにオレも最善を尽くす」
「手を抜かないで好成績を取り続けてくれるなら考えてもいいわ」
上手く話を持って行き、一位を取りに行けと言外に焚き付けられた。
しかし綾小路は乗ることはせずにかわすことにした。
「すまんが、左腕が痛くてな--その要求は難しいから、他で何とかする」
「……這ってでも結果を出すくらいのことは言って欲しいわね」
「無理はするなとか期待したんだがな」
売り言葉に買い言葉になってきたが、時間が迫っており綾小路は二人三脚の準備に移る為に平田の元に戻って行く。
「堀北さん、どんな様子だった?」
心配そうに訊いてくる平田に対して綾小路は淡々と答えた。
「まだ大丈夫だ--ただこのままが続いていくと不味いだろうな」
「その不安を減らす為にも頑張るしかないか」
紐を結び終わりスタート位置に向かう。
***
さて今回の一番手は俺、本堂のペアだ。
「お手柔らかに頼むぜ」
「俺に合わせようとする必要はない。練習通りにお前の全力で行け」
「いや、だから…………」
無駄口はここまで、スタートだ。
出だしだけあって、そこそこの面子が揃ってるが、やはりCが頭抜けて前に出てる。
全員がそれを追う形になり、それは俺たちも例外ではない。
本堂も言われた通りに全力で走り、俺が合わせる形の序盤--そこから徐々に本堂が自然にスピードアップしていくように呼吸を合わせながらテンポを上げていき、終盤には限界まで力を発揮させるよう持って行く。
それが実を結び最後には逆転して……とはならずに惜しくも二位に終わった。
「はぁ、はぁ、はぁ―――――」
終わった途端に壮絶な息切れ--文句を言う余裕もないか。
この結果に不満があるのは須藤のようで、待機してる場所から怒気がありありと伝わって来る。
一応はお望み通りの展開だろ--これで最優秀賞にひとつ近づけたんだから。
テントに戻って残りを観戦していくが、Cの独走が兎に角目立つ--Aでは葛城や鬼頭なんかが食らい付き、Bでは神崎や柴田のペアが接戦の末に一位をもぎ取ってるが、それ以外はざるだ。
「どわあああ!」
そして我らがⅮのエースである須藤と池のペア--池を半ば持ち上げて力任せに爆走、反則スレスレの戦法で勝利した。
Cの奴らも流石にびっくりしたようで、それなりに差のついての一位だ。
この調子で続く綾小路と平田のペアもとかになれば良いんだろうが、そう簡単に流れは変わらない。
あの二人は相性の良さもあって、かなりいい調子だが……ここでもCのペアが競り合ってきてかなりギリギリの白熱した勝負になった。
「平田くん頑張って!」
不安そうにしている女子たちの中で王が一人大声を張り、その甲斐なのか一位を取ってみせた--う~ん、役者が違う筈なのにミスマッチにも感じない、何とも不可思議なことだ。
戻って来てからも複数の女子たちからキャーキャーと歓声を受けてる直ぐ近くで、たった一人の女の子から労いを掛けられ自然に返してる全く正反対のペア--う~ん、どっちが羨ましいのか微妙な光景だな。
その騒がしい女子たちも出番が回ってきて、堀北と櫛田のペアがスタートした。
出だしは好調のようだが、あっという間にCの矢島と木下ペアが前に出て引き離していく。
最早、定番となった展開だけに他は二位争いにシフト--堀北たちとAのペアが接戦に入り、これは最後まで分からなくなりそうだ。
「いけ鈴音!」
「山村さん、ファイトです」
須藤が声を上げてるのを見て、坂柳も同級生にエールを送る。結果、終盤ではAの山村のペアが抜き去って堀北たちは三位に終わった。
まぁ、実際に声が届いてたとも思えないから関係ないだろうが、それでも須藤が悔しそうに坂柳に目を向け、綾小路が前に出て……ひょっとしてだが計算済みとか?
***
十分間の休憩時間に入った。
白組陣地では正々堂々と戦うBクラスは体育祭を楽しんでいる……とは言えず快進撃を続けるCクラスから距離を取っている。
女子たちは一之瀬の周りに集まり次の競技である騎馬戦の打ち合わせ--男子は水分補給やトイレと休めるだけ休もうと兎に角必死なのが窺える。
一方でCクラスは龍園を中心に付き従っている男子たちは余裕を見せつけるように談笑しており、異常なほど高いテンションが離れた赤組陣地まで伝わって来る。
その赤組陣地では少々奇異な光景が出来上がっている。
須藤や堀北と言った勝つつもりで居たⅮクラスの面々は、全く予想外の展開に苦々しく暗い雰囲気を出しており、それは既に
それ以外のⅮの殆どとAの坂柳派は集まって陽気な会話や笑顔が絶えない--その中心には綾小路清隆と坂柳有栖が隣り合っており、二人に近いメンバーはしっかりと休憩を満喫しているようだ。
そのどれにも加わらず一人無言でいる牛井嬰児--その彼の元に近づいて来る女子が一人。
「嬰児くん、随分と楽しそうだね」
「ん。櫛田にはそう見えるか?」
振り向きもしない嬰児に対して櫛田はずっと笑顔のまま--顔を合わせないまま会話は続く。
「だって出る競技、本当に伸び伸びしてたよね--特に棒倒しの時なんて一人でCクラスから守りきっちゃって」
「そうだな。今回は加減をあんまり考えなくていいから気が楽だ」
「あんまりって……まぁ、意外でも何でもないけど」
「うんうん、やっぱり気兼ねなく話せるのもいいものだ--綾小路相手だとどうしても探り合いになっちまうからな」
この台詞に櫛田の笑顔に僅かな歪みが生じた。
「…………嬰児くんさ、何か嫌な事でもあった?」
やっとのことで絞り出した台詞--若干の震えが混じってもいた。
「安心しろ、別に自棄を起こしてる訳じゃない。
以前に言ったプランを実行する気はない--あくまで学校の流儀に合わせて参加してるだけだ」
「へぇ、そっか……それでも一応言っとくけど、私は嬰児くんに何かしようなんて気はこれっぽっちも無いから」
言い終わると同時に去って行く櫛田--どうやら本当に言いたいのはそれだけだったようだ。
休憩は終わり競技順がここからは一時逆転して女子騎馬戦が始まる。
三分の制限時間内に四人一組の騎馬を各クラス四つ選出(残りは予備扱い)し八対八で戦う。
大将騎は100点、他の三騎は各50点の配分であり、機種のハチマキを奪って倒せば相手に生き残れば自分たちに点数が入る仕組みとなっている。
Ⅾクラスからは堀北、櫛田、軽井沢、森が騎手に選出されおり、大将である森を後ろに下げて守り重視のフォーメーションを組むこととなっていた。
試合開始の合図とともにCクラスから伊吹を騎手とした騎馬が堀北に向かって行った。
騎手である伊吹の気迫も然ることながら、騎馬になっている女子たちも力強い走りを見せている--それを真正面から浴びせられた堀北の騎馬は意表を突かれた以上に気後れしてしまい僅かに後ずさる。
「早速勝負ありか」
観戦していた綾小路の諦めたような声に間髪入れず、
「ふざけんな!鈴音、負けるな!!」
須藤が反応して声を張り上げて声援を送る。
しかし何の効果もなく、伊吹の繰り出した手を堀北は避け切れず体制が崩される--騎馬の面々も逃げようとするもすぐに先回りされ、再度繰り出された攻撃にあっさりとハチマキを奪われ、倒される勢いのまま騎馬も崩れて堀北は落馬した。
リーダー格が倒されたことで戦線が崩壊する--と思いきや伊吹たちの側面から軽井沢の騎馬が突撃、しかしそれも反応され回避された。
「伊吹さん、後ろ!」
Bの大将騎である一之瀬が声を上げる--そこにAの騎馬、神室と山村が待ち構えていた。
軽井沢も追撃して三対一の体制に持っていく。
窮地になった味方をフォローしようとする一之瀬たちBには他の
「ここで伊吹さんを獲れば流れはまだ分からないね」
観戦していた平田が期待を込めて言う。
「ああ、軽井沢には頑張って貰いたいな」
綾小路が応え、隣に居る坂柳の手を握る。
「しかし頭を狙ってくるのは予想内でしたが、思っていた以上の威力ですね」
二人でフォーメーションを立案した際には膠着状態となり、最低でも五分の乱戦に持って行くつもりだった。
しかし堀北は早々に討ち取られ、形勢は不利と言わざるを得ない。
そしてそれは更に最悪な方向に転がった。
「嘘だろ……」
それは一体誰の呟きだったのか……その目で見た光景が信じられない、そんなニュアンスであった。
三騎に囲まれ同時に攻められる伊吹--その全てに身体を反らす、払いのける、更にはカウンターを合わせ逆に神室のハチマキを取ると互角どころか優勢に持って行った。
そして穴が開いた瞬間に騎馬になっている女子たちは走り抜けて包囲から脱して体制を立て直した。
これによりフォーメーションは一気に崩れてしまい、圧倒的に不利となってしまった。
観戦している側もそうだが、実際に戦っている女子たちは輪をかけて信じられないと言った表情であり、隙が生じてしまった。
その隙を見逃さず伊吹を筆頭にCが攻めてBも続いていき、軽井沢と山村を残して一気に撃沈されてしまう。
軽井沢は自爆覚悟で突撃してBの一騎と相打ち、山村はそれをフォローしようしたBからハチマキを奪うも直後に伊吹に撃沈させられた。
終了までの時間は一分にも満たず、名実ともに圧倒的大敗であった。
皆が自陣に戻ろうとしていく中で地面に倒れたまま、ぐったりとして起き上がらない。
「おい--鈴音の奴、大丈夫か?」
須藤が人一倍、心配な声を上げる--ただそこには既に嬰児が行っており、堀北の上半身を起こすとゆっくりと数度揺らし最後に僅かに持ち上げる。
「……うぅ…………」
堀北の意識は戻り、僅かに視線を彷徨わせるも直ぐに事態を理解する。
悔しさを噛みしめ立ち上がる堀北に嬰児が言う。
「大丈夫そうだが、一応念の為に保険医に診て貰え」
「問題ないわ--でも、ありがとう。助けてくれて」
珍しく素直な堀北だが、嬰児は冷ややかな言葉を返す。
「これで二回目だが、あと何回お前を助ければいい?」
クラスメイトだから、心配だから助けた訳でない--残念も発破も何ひとつ感情の籠ってないニュアンスに堀北が睨みつけるが、返す言葉が出てこずに自陣に戻って行った。