どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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健康が・・・

 さて後半戦の開始--今から推薦競技だ。俺の出番はあと一回だから、少しはのんびりできるな。

 

「結局、堀北は間に合わなかったか」

 

 綾小路、心配は要らんぞとでも言って欲しいのか--目線を送らないようにしてても俺を意識してるのが分かるぞ。

 

「須藤くんの代理どうしようか?」

 

「最初は借り物競争だ。これは運が左右するから運動が出来るかは重要じゃない、それを踏まえて平田は誰がいいと思う?」

 

「池くんか山内くんだね--得られるメリットを考えるとこの二人かと思うんだけど」

 

 一位を取ればテストの点数が--須藤が参加するはずだったのもそれが理由だし妥当だな。

 

 しかし、こうして見ると綾小路(リーダー)平田(ほさ)が上手に機能していて、周りも邪魔することなくよく聞いてる--出来ればこの状態がもっと早くに、それももうちょっと別の形でなって欲しかったものだ。

 

 ……この場での即興だったらそう思ってたかな。

 

 ギリギリまで堀北を待ちたいと言う綾小路の希望汲んでと言うのと、少しでも士気を上げるとか言って提案した演出を呑ませた--平田も侮れないな、なんでⅮクラスなんだろ?

 

「だって、ほら二人ともじゃんけんでもして早く決めて」

 

 軽井沢も調子を合わせるように仕切り、池と山内も無駄な会話もなく従ってる。

 

「っしゃ!俺の勝ちだ--悪いな、山内」

 

「ちぇっ……仕方ねぇけど…………」

 

「そうがっくりすんなよ--お前や須藤の分まで頑張るからさ」

 

 うん、気合は十分のようだ--その調子で運も引き寄せるといいな。

 

 参加メンバーたちは集まり審判に説明を受けている--顔は少し渋さがあるがお構いなしにスタートした。

 他のクラスは運動神経のいいのを揃えたようだが、さっき綾小路が言ってた通り競技内容にはあまり関係ない--最後に物言うのは運だ。

 その運をどうやら池は引き当てたようだ--他が右往左往している間に一位を取りやがった。

 

 ちなみに二位がAで三位はBに終わり、Cは最下位--午後の出だしは良いとは言えなかったが十二分にリードしてるからか、どいつも涼しい顔だ。

 

 おっと、間を置かずして二組目--綾小路がスタートした。龍園も同じ組でクジの置いてある箱にはほぼ同時に到着した。

 だが問題は何が書いてあるかだ--悩む展開になるかと思っても居たが、予想に反して二人はそれぞれのテントへと駆け出した。

 

 う~ん、どうなって来るのかは流石に分からないから少し楽しみでもあるな。

 

 全力で来た勢いのまま、綾小路は手を差し出して言いやがった。

 

「有栖、直ぐに来てくれ」

 

「えっと……杖が必要とかですか?」

 

「いや、持って行くのはお前だ」

 

 見せた紙に記されたワードを認識した瞬間――

 

「「「きゃーーー!!!」」」

 

 と女子から黄色い悲鳴が上がり、

 

「「「オオオーーー!!!」」」

 

 と男子からは言い表せない感情による雄叫びが上がった。

 

 対して向うは辿り着くや最前列に居る順から十人を連れて行った--龍園には『手下を十人』とでも書いてあったか?

 

「時間がない。失礼するぞ」

 

 おお、リアルでのお姫様抱っこだ--坂柳もしっかり首に手を回してしがみ付いてるし、全く仲のいい夫婦だ。

 

 白組のテントの奴らもそうだが観戦してる客たちや教師陣--果ては参加選手も開いた口が塞がらない状態になって固まってる。

 

 何か言われてもこういう戦略だったとか言うかな?

 

 流石に龍園は例外みたいだが、連れてる奴らの半数以上が足を止めてて、

 

「突っ立ってんじゃねぇ、走れ!」

 

 と怒鳴り散らしてる--それも空しく綾小路は悠然とゴールして文字通りのぶっちぎりの一位を取った。

 

「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 敵味方、観客も関係なくグラウンド全体からの絶叫と称賛の嵐が巻き起こった--紙吹雪でもあれば地面を真っ白に覆い隠しそうな勢いでまき散らしそうだ。

 間違いなく、今大会で一番盛り上がった瞬間だろう--きっと伝説として語り継がれるだろう。

 

 杖も置いて行っちまったから、お姫様抱っこをしたままでテントに戻って来る間も拍手と喝采が収まらない。

 

「ヒュー、ヒュー!」

「いいぞー、新婚夫婦」

「いや早くもおしどり夫婦だな」

「次の結婚式には呼んでくれよ」

「あ、わたしもわたしも」

 

 競技はまだ続いてるのにその認識が完全に消えてしまっている--注意すべき教師陣たちもまだ持ち直して無いみたいだし刺激が強すぎだな。

 これからの借り物競争では『好きな人』と言う項目は削除されてしまうか--いや逆にもっと大胆なのが用意されたりとかするかな。

 

「よ、お帰り。お二人さん」

「全く憎たらしい奴らだぜ」

 

 戻って来てからも興奮が止む訳もなく、すっかり揉みくちゃにされてるが、ずっとそうしてる訳にもいかない--特に綾小路の方は余韻を愉しみたいなんて余裕はないしな。

 

「はい、坂柳さん。杖」

 

「ありがとうございます。平田くん」

 

「どういたしまして、綾小路くん。早く待機場所に」

 

「ああ…………戻ってたのか、二人とも」

 

 坂柳を下ろして振り返った綾小路と同じ方を見ると堀北と須藤がバツの悪そうな顔しており、他の奴らもやっと気付いた……いや、気付いて貰ったと言った方がいいかな。

 

 実際には綾小路が坂柳を連れて行く時には戻ってたんだし--それこそ息を切らして駆けつけたのにこいつらも綾小路にまとめて持って行かれてしまったな。

 

「……こっちはいいから早く戻ったら、綾小路くん」

「そうだぜ--折角一位取ったんだし」

 

 ただ綾小路は無言のまま足を止めて行こうとはせず、微妙な空気の中で改めて須藤が言った。

 

「遅れて悪かった--便所が長引いちまってな」

 

 多くの白い目が向けられる中で、まず俺に向かって頭を下げた。

 

「悪かったな、嬰児。責任押し付けるようなこと言って、リーダーだって浮かれちまって調子に乗ってた」

 

「別に乗っても構わん--役割を全うしてくれるならな」

 

「なら尚更だ--俺が引っ張らなきゃいけなかったのに逆に士気も下げちまった。Ⅾが勝てなかったのは俺の責任だ」

 

 間違いを素直に認めるか--さっきまでの須藤じゃ考えられないな。

 堀北、一体どうやったんだ--みたいな目を向けるとクラスもつられて注目が集まった。

 堀北も呼応するように言った--それもさっきまでとは違い、晴れやかなそれでいて力強い声で。

 

「まだ負けてないわ--挽回は次の試験でするしかない。だからこそ、ここは踏ん張るべき場面よ」

 

 籠められた気持ちが違うからかニュアンスが全然違い自然と皆も耳を傾けていた--櫛田なんかは特に真剣に。

 

 それは堀北も意識してか、より力強く続ける。

 

「次の四方綱引きだけど、嬰児くん--さっき言った通り本気でやって貰えるかしら。それと綾小路くんは交代して貰える、左腕痛いんでよ--最後の1200リレーまで冷やして休んでちょうだい」

 

 ほう、堀北の口からそんな台詞が出るとはな--流石に綾小路も面食らってるよ。

 

「いいのか?」

 

「ええ、それが勝てる確率を上げる最善手だわ--同様に櫛田さん、私の代わりに二人三脚とリレーの代わりをお願いしたいのだけど」

 

「分かった。全力でやるよ」

 

 即答した櫛田も今までとは違う気迫が伝わって来るニュアンスだ--もっとも動機を解ってるのは俺ともう一人ぐらいだろうけど。

 

「みんな--無人島に続いて最後まで役に立てなくて、ごめんなさい。

 それでも私は、上を目指すのを諦めたくない--だから力を貸して貰えないかしら」

 

「俺からも頼む」

 

 言葉だけでなく深々と頭を下げて誠意を見せてる。性根の曲がった奴なら反発しそうだが--平田が肯き軽井沢も仕方ないみたいな顔してちゃ言える訳もない。

 

「分かってるよ--僕だってAクラスになりたくない訳じゃない。ここで引いちゃ、ホントに不良品だ」

「あたしも今回ポイント増えないのは残念だけど、減っちゃうのはもっと嫌だしね」

 

 そう--これでこそ、このクラスは強くなれる。

 坂柳は才能、一之瀬は友情、龍園は恐怖で纏めていても目指すべきゴールは同じ--Aクラスでの卒業による見返りだ。

 Ⅾクラスの殆どはとっくに諦めてる--この意識を変えるには確固たる指針が必要だ。

 

 何が何でもAクラスになると言う信念--それが一人一人の見返りに繋がると。

 

 それを抽象的なスローガンじゃなく、明確に体現している存在があってこそ、その気になれる--つまりはそいつを信じるに足る見返りがあるか。

 

 それがどんなに小さくても欲が刺激されるのとされないのとでは大違いだ--それが俺に合ってなくちゃ、それも困るがな。

 

 だけどいい流れは出来上がった--俺の意図を汲んでくれた綾小路にも感謝だな。

 

「平田、そう言うことなら代わってもいいか?」

 

「うん、分かった--その代わりと言っちゃなんだけど、最後は任せたよ」

 

「あたし、タオル冷やして来る--綾小路くんは少し待ってて」

 

 流れるが如きスムーズな遣り取り--さっきまで仕切ってた奴らが堀北の主導に対して見事な連携を見せたことで自然にチームワークを作り出した。

 

「丁度私が持ってるから、使って」

 

 早速、松下がタオルを差し出したのを皮切りに他の面々も続いていく。

 

「よし、四方綱引きの清隆の代わりは俺が出よう」

「わ、私、氷取って来る--清隆くんが直ぐに休めるように」

 

 綾小路グループの友情が一気に開花したか--みたいな演出も見事に嵌ってる。休憩時間を削ってまで検討を重ねた甲斐もあったか。

 

 これで尚も異を唱える様なのが要れば、俺が黙らせることになっているが出番はなさそうだ。いや、良き哉、良き哉。

 

「綾小路くん、早く戻って--それで今競技に出てる人たちにもここでのことを伝えてくれない」

 

「分かった」

 

 左手に冷えタオルを当てながら戻って行く綾小路--じゃ、俺も最後の出番に備えて力を温存でもしておくか。

 

 どうやら敵にも活が入ったみたいだしな。

 

「お前たち手順の最終確認をするぞ」

 

「はい、葛城さん」

 

「ったく仕切るなっての--なんて言ってもられなねぇか」

「……ああ」

 

 元より葛城に従順だった戸塚だけでなく、坂柳派の側近の橋本と鬼頭も今度ばかりは従う姿勢--ここに来て漸く体育祭らしくなってきたな。

 

「みんな活き活きしてますね--羨ましいです」

 

「坂柳よ--つい今しがたまで最高に幸せそうだった、お前が言うか?」

 

「仕方ないじゃありませんか--こればかりは生まれてから積もったものなんですから」

 

 少しだけ切なそうな顔なんぞ見せおってからに--俺に弱みを見せる意味もないだろうから本当にただの愚痴なんだろうが、そう言うのは亭主にでも言え。

 

 

 

 ***

 

 

(……なんだ、この妙な感覚は?)

 

 待機場所に戻る綾小路は首筋に怖気とも悪寒とも違う感覚が走り困惑していた。

 

「よう。色ボケ野郎」

 

 先に戻っていた龍園に声を掛けられて立ち止まる。

 

「鈴音共々あの筋肉バカも戻ったようだな--だが今更何したって後の祭りだぜ」

 

「そうだな--今回は()が何をどうやったって、どうにもならなかっただろう。ただ、いい汗なんてものを始めて流させて貰ったことはオレ的にはいい収穫だったぞ」

 

「お前もまた訳が分からねぇな--Ⅾクラスってのは、どいつもこいつもそんな感じなのか?」

 

 龍園の表情やニュアンスからして本当にただの問いかけだと判断し、綾小路は答えていいラインのギリギリで返す。

 

「訳が分からないのは一人だけだ--それに振り回されるのも少しはマシになりそうだ。それでも難儀なのが多いのは変わらないがな」

 

「やっぱ話すだけ時間の無駄だったな」

 

 龍園は会話を切り上げる--綾小路も無言のまま座り競技が終わるのを待つ。

 

 借り物競争も着々と進んでいきⅮの他のメンバーも池や綾小路に続こうと張り切るが、幸運がそう何度も続く訳もなく、一位を取ることはなく幸村に至っては最下位になってしまった。

 

 しかし結果的には一位が二つ悪くない成績であった。

 

「すまん、清隆--折角の勢いを殺しちまって」

 

「気にするな。俺も次の競技は交代することになった--啓誠も次の試験で取り返せばいい」

 

 テントに戻りながら堀北と須藤が戻ってからのことを説明--幸村だけでなく聞いていたメンバー皆は息が吹き返したような表情となる。

 

「前は俺だったが、今回は明人が清隆の相棒枠だな」

 

「幸村くん、すねないすねない。堀北さんの言う通り次で頑張ればいいじゃん。ね、森さん」

 

「そうそう、前園さんの言う通り。もう私たちの出番は終わりなんだし、切り替えないとね」

 

「そうでござるよ。拙者たちはお役御免--後のことは信じて応援でござる」

 

「……外村、最下位になったフォロー期待してるんだったら、力になれないぞ」

 

「いや……成果を出せなかったのは運に見放されたからで」

 

 そんな会話をしている内にテントに辿り着くと須藤が待っており、外村は委縮してしまう。

 

 また怒鳴り声が来る--その予感は見事に外れた。

 

「お前らも済まなかったな--特に池、面倒を掛けた」

 

 勢いよく頭を下げられ困惑する一同--綾小路から話は聞いていても半信半疑だったが、今の須藤を見ると本当に反省したのは疑いようがない。

 

「頭を上げろよ、健。結果的には一位取れたんだし」

 

 池も友達が誠意を見せた以上は邪険にできないようだ。

 

「クラスが勝てなかったのはお前の責任じゃない--俺たちだって反省しなきゃいけない点はある」

 

 幸村も勝手に出て行ったことに思うところはあるが、須藤が体育祭で貢献してたのも十分理解しており、全く役に立てなかった自分を棚に上げるようなことはしない。

 

 わだかまりが消えていき、輪が広がっていく。

 

「お前らにも約束する残りの競技、俺は全力でやる--例え、どんな結果になってもな」

 

「全力で応援するでござるよ」

「うん」

「頑張ってね」

 

 須藤は頭を上げ、闘争心を宿した目を向けて力強く言った。

 

「任せとけ!」

 

 一連の流れを全て見ていた綾小路はポーカーフェイスを保ったまま、内心で笑みを浮かべる。

 

(予想以上に良い方向だ--ならオレもひと肌脱がなきゃ、格好悪いな)

 

 初めて体育祭を楽しいと思え、左腕の痛みも忘れてしまう。

 

 そして須藤に平田、自分の代わりに出る三宅と嬰児が行くのを見送りながら、最後の出番に備えることに専念するのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 さて、四方綱引きの始まりだ--クラスもいい感じだし、やっとまともにやれるか。

 

 内外の二つの円を四分割する十字線を引き、十文字の綱が用意され準備が完了--各クラスの代表がクジで自陣の位置を決める為に集まっている。

 

 ちなみに俺たちⅮからは平田の勧めで須藤--各クラスは葛城、神崎、龍園が俺を見ながら無言のまま粛々と行っていた。

 

「おう、位置が決まったぜ--Ⅾクラス(おれたち)は北側だ」

 

 つまり校舎を背にしてだな--その俺たちから見て正面の南にC、東がA、西がBの位置取りが決まった。

 それにしても須藤の奴、本当にちょっと前ならカッかしながら言いそうなのに、堀北のことが余程嬉しいのか--単純だが、前向きになって結構なことだ。

 

 指定位置について須藤を先頭に平田、三宅、俺の順に並んで綱を持つ--聴くところによるとこの四方綱引きは出雲発祥で、力だけでなく頭脳も勝負となる特徴とのふれこみだとか。

 

 綱を結んだ中心近くにある白い印(ホワイトーマーク)、が外円に到達し審判の旗が上がったら勝ち、先頭はホワイトマークより少し離れた青い印(ブルーマーク)の近くを握り、チームは円を四分割した自陣から出てはいけない。

 

 逆に言えば自陣ないなら移動可能であり、隣によって二チームが同じ方向を引っ張るとかも可能--逆にそう見せて相手が油断した隙を付くみたいな駆け引きも必要とするらしい--つくづく綾小路が居ないのが残念だ。

 

 目下の注目はCクラス--アルベルトは勿論だが、石崎や小宮と言ったガタイのいいを引きつれ、龍園が指示を出すなら圧倒的有利と言える--葛城や神崎も引けは取らないだろうが、今日のCは普通じゃないからな。

 

 位置的に見てもある意味不利だな--両隣のAとBがCの側によってとかも大いにあり得る。奴らとて大勢が決してる以上はマイナスを減らそうとしてくるのは自明--そうなったらどれくらい力を出せるかな。

 

 色々と考えられるから始まるまでがやたら長く感じる。通常は三回だが時間の都合で一回勝負--これもまた残念だが、俺的には最後なんだし出来るなら全力でやりたいものだ。

 

 地面に置いた綱をしゃがみこんで握って合図を待つ--主審が四方に居る副審に確認を取ると笛を鳴らしスタートだ。

 

 全員が一斉に立ち上がり綱を引く--瞬時にピンと張り、拮抗状態になったが問題と言うか醍醐味はここからどう動くかだ。

 

「どうした葛城、こっちに来ないのか?」

 

 Cの先頭に居る龍園が高々とそれでいて卑しく言ってくる--愉しむだけの挑発か、葛城を試してるのか。兎に角、どう判断を下すか--ここまで来たら直感に任せるのもありだ。

 

 しかし葛城はそんなタイプじゃない--でも現状を見れば悪い手でもない。龍園に言われたことで板挟みになり思考が鈍る瞬間に陥る。

 

 それを見て、いや引きずられて神崎や平田なんかも即断できない状態になった--須藤も全力は尽くすと言ってもそれまでのプライドをすべて捨てられる訳じゃないしな。

 

 たったひと言で全てに致命的な隙を作ってみせた--その隙を見逃すような男じゃない龍園はBの方にギリギリまで寄って二対一対一の構図を作り上げた。

 

「おら、どうした!しっかり引っ張れ!一気に決めるぞ!!」

 

 後は気合の勝負と言わんばかりだ--白組としての勝利を優先したようで三対一になるのを回避して見せたか。

 

 面白い--これなら俺も遠慮無用だ。感謝するぞ、龍園。

 

「お前ら合わせろ、葛城来い!」

 

 そう言って俺はAに舵を切る様に移動し、今度は俺に声に掛けられた葛城は苦い顔しながらもこっちに来た--これで実質ただの綱引きになり、俺が言うまでもなく闘争心に火が付くの一人。

 

「よっしゃ、さっきのリベンジだ!全員しっかり引け!!」

 

 須藤の龍園にも勝る叫び声は皆を鼓舞するのは十分だ--向うはCが合わせただけでBと距離があり力を集中できるこっちが有利だ。

 

 Bも黙ってやられずに踏ん張りながら合流しようするだろうが、流石に俺もそこまでお人好しじゃない--勝負に情けは無用だから、一気に決めさせて貰う。

 

「おら!いくぞ!!」

 

 須藤の再びの通りのいい掛け声に合わせて全力(・・)で引き、ホワイトマークは外円に到達、主審と副審の旗が上がり決着はついた--問題はAとⅮどっちが先か、もしくは同時なのかだな。

 

 主審の判断を待つこと数秒--判定は俺たちⅮの勝利。

 

「よっしゃ!」

 

 須藤のガッツポーズに平田と三宅も駆け寄って喜んでいる。

 

 僅かに及ばなかったAと判定により最下位になったBは悔し顔--Cは全く気にすることなくテントに戻って行く。

 

 今回は何も無しか、それとも……。

 

 

 

 ***

 

 

 四方綱引きのメンバーが戻ると直ぐに次の競技、男女混合二人三脚の準備に入る。

 

 櫛田は既にウォームアップをしており、本来の出場予定の堀北は代わりに出ることへの謝意と激励を込めて声を掛けようとして止めた。

 

(頑張ってとか、申し訳ないとかは余計ね。これは)

 

 一人、精神を研ぎ澄ましている櫛田の顔に言葉は不要--既にしっかりと引き受けて貰えた以上は信じるのみと思い直した。

 

(私もこれぐらいのを身に付けなきゃね--そして絶対にAクラスに)

 

 堀北は決意を新たにして、体育祭が終わったら櫛田と話をしようと決めた。

 

 一方の櫛田は何も話さないで言ってしまう堀北を視界に収めながら、恐怖で思考がフル回転していた。

 

(堀北の奴、いい感じに皆を纏めてる……あいつもさっきの競技は本当に清々してたし、これが私のお陰だって知れば…………いやもう知ってるかな……ううん、そんなの関係なくアピールすべきか)

 

 出番を終えて座っている嬰児にそれとなく見てみるも直視し続けることは出来ない--必然的に思いを解ってくれるだろう綾小路と話したいが、隣には坂柳がしっかり陣取り周りにも余計なのが居るから話すに話せない。

 

(あああ……どうしてこうなるのよ?!)

 

 頭を掻きむしり叫びたくなる衝動を必死で抑え込み、表情には一ミリも出さないよう保つ--ストレスは既に限界に迫っているが鍛え上げた自制心で何とか我慢する。

 

(大体、堀北もなんでこんなに早く戻って来るのよ?)

 

 櫛田の予想では堀北が説得しても須藤は聞く耳を持たず、折れるには最低でも午後の競技の半分を過ぎてから--必然的に男女二人三脚は丸ごと代役であり、そこで綾小路とのペアになるように持って行って、この最悪な状況について話をするつもりだった。

 

 だが予想に反して早すぎる手際に一体どんな手を使ったのか、何を持って須藤の心を掴んで見せたのか全く想像が付かない。

 

(須藤が惚れてるのに気づいて色仕掛けでも……いや、堀北が気付いてるようには見えない)

 

 まさか今の自分に触発されてなど--須藤の惚れた堀北(おんな)の為のように堀北も(人として)櫛田に惚れたからなど夢にも思っていない。

 

 本来なら体育祭を利用して徹底的に痛めつけ心身ボロボロにして退学に追い込むつもりだった--しかし蓋を開けてみれば活を入れ自分も指揮下に入る形で必死にならざるえない状況。

 

(それもこれも全部アイツが居るから……)

 

 殺してやりたいほどの憎しみが湧くも殺されるかも知れない恐怖が勝り視線を向けることすら出来ない。

 

 全く動くことの出来ない状況にストレスが増す--それを抑え込むために更にエネルギーが使われ思考が上手く回らない。

 完全に悪循環に陥ってしまい、いっそ何もかもぶちまけて本当に逃げてしまおうかとも思っていく。

 

「ちょっと根を詰めすぎじゃないか、櫛田」

 

「…………綾小路くん?」

 

 今どうしても話したい相手から声を掛けられ、されど話しかけることが出来なかった--相手の方から来るとは全く思っていなかっただけに完全に意表を突かれてしまった。

 

「え、えっと……いいの、私と話してて?」

 

「大事な話があると--今のこの機に話を付けたいって、言ったら納得してくれたよ」

 

 大方、仲直りする話を付けに言ったと思われたのだと--急速に冷めた思考が回っていく。

 

 ともあれ望んでいた展開に漸くと心を落ち着けることが出来た為、いつも通りの笑顔で言った。

 

「それでどうしたの?」

 

「なに、お前もいい加減に話がしたいんじゃないかと思ってな」

 

 無用な前置きは置かなくていいようで、単刀直入にそれでいて周りに人がいる事も踏まえて訊いた。

 

「綾小路くん、こう(・・)なったことに何か思い当たることあるの?」

 

「ああ--こう(・・)なったのは、幾分かはオレの責任だ。

 オレが何かと焚き付けたから、それに対しての返事ってとこだ」

 

 周りが聴けば全く訳が分からない問答--しかし、前提となる情報を共有している二人には何に対しての事かは言うまでもない。と言うよりも言える訳もない、特に櫛田に関しては命が懸かっている状況だ--何がきっかけで引き金になるのかが分からない以上は下手なことは口に出来ない。

 

 そんな内心で戦々恐々している櫛田を冷ややかな目で見ながら、ちょうど嬰児から櫛田を見えなくなるように立って綾小路は断言した。

 

「だから心配するな--お前が恐れていることは起きない。オレが全力でフォローしてやる。嬰児と一緒にな」

 

 

 

 

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