どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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モルモットが・・・

 

 

 なんとも程よい緊張感だ--クラスの皆が真剣に今日と言う日を待ちわび、茶柱先生が来るのを今か今かと待ちかねている。

 

 とても赤ちゃん状態だったⅮクラスとは思えない--これが本来の高校生としてのあるべき姿だ--こういうのを見ると学生生活が続いたのも無意味じゃなかったと思えるな。

 

 おっと、お待ちかねの時だな。

 

「席に着け--これから中間テストの結果を貼り出す。赤点を取ったものは覚悟を決めて貰うぞ」

 

 そう。この中間テストで赤点を取ったものは即退学--特に今回は体育祭での下位十名はペナルティ、マイナス10点があるから外村なんかは気が気じゃないだろうな。

 

 一方、須藤は入賞による加点があるとは言え、常に最下位だから同じく気を休めることも出来ない--しかし見方を変えれば、今回の最下位は回避できる可能性はある。

 

 その場合、同じ三バカである池か山内が候補筆頭だから、いつも以上に緊張が増しているのが分かる。

 

 ゆっくりと貼り出されていく試験結果に固唾を飲む生徒たち--ホントにこの先生は嫌味な演出が好きだな。

 

 結果は悪かった者から順番に記載されている--今回の最初に出て来たのは『山内春樹』で、次に『池寛治』、そこから井の頭、佐藤、外村と続いた。

 

「う、嘘だろ!?」

 

 山内よ、それは何に対してだ?

 

 自分が最下位なこと、それとも須藤が下から十二番目と言う大躍進を遂げたことか?

 

「よっしゃ!見たか!!一気に自己記録大幅更新!!!--平均60までもうひと息だ!」

 

 立ち上がり小躍りしそうな須藤--嬉しいのは分かるが後にしろよ。

 

「その程度で騒がない、みっともないわよ」

 

「お、おう……」

 

 堀北に窘められ座り直した--穿った見方すれば主従関係が成立してるな。

 ただ悪いものには見えない--それだけの信頼関係も感じる。

 双方の成長も見て取れる--茶柱先生もそう見えたかな。

 

「今回の結果は見ての通り退学者は無しに終わった--この三年間でこの時期まで退学者を出さなかったのは初めてだ。良くやった」

 

 などと珍しく褒めてるが山内などはギリギリの点数でもあり、それでいいのかとも思ってしまうな。

 何より今回の中間はこれまでに比べると難易度は低かった--須藤の点数が伸びたのは堀北主催の勉強会もあるだろうが、それが一番の要因なのは間違いない。

 

 このクラスはまだまだ成長途中--いや高校なんて卒業するまで成長過程なんだから、少しはご褒美があってもいいのかな。

 

 ちなみに綾小路の奴、60から5点ずつ80までにずらして平均70なんてことをやってのけた……ホントに癖になってんのかね?

 

「今度もまた面白いことをしてるみたいね--もっと真面目に取り組んで欲しいわ」

 

 堀北も気付いた--いや、ニュアンスからして知ってたのかな。尤もそれも今更だから反応するのも居たりする。

 

「堀北さん。言いたいことも分かるけど、清隆くんはこういうのじゃないとやる気が削がれちゃうから……その、大目に見て貰えないかな」

 

 佐倉が遠慮がちにフォローすると長谷部も直ぐに援護に回ってきた。

 

「そうそう、あんまり点数上げ過ぎて切られるのが出ても嫌だし」

 

 おいおい、そんな言い方だとフォローが台無しだぞ--そう感じたのか三宅と幸村が慌てて軌道修正に入った。

 

「いざって時になれば清隆だって本気を出すだろ」

 

「無理強いすると返って面倒が起こるぞ」

 

 特に幸村の言は実感がこもっている分、説得力がある--麗しい友情に堀北も押されたのもあるが、既に周知なのも驚いたようだ。

 

「そんなことまで話してたの?」

 

「……もう皆知ってるよ--オレの本意って訳じゃなかったけどな」

 

 綾小路、一々俺を見ながら拗ねたポーズなんて取るな--堀北も妙に納得してる顔を向けても何も出はせんぞ。

 

「はは--なんか、春先の勉強会を思い出すな」

 

 山内が茶々を入れて来たら、池の奴も面白そうにしながら話に入る。

 

「確かにあの時とよく似てるな--な、桔梗ちゃん」

 

「え、あ……うん。そうだね…………」

 

 しかし話を振られた櫛田の歯切れは悪い--何の話か知らんが、つまり話の中に俺が居るからか。心配しなくても何もしないのに--と言ったところで信じる訳もないか。

 

 そこにパンパンと手を叩く音が鳴り、音源である茶柱先生に注目が集まる。

 

「そこまでだ--続きは休み時間にやれ」

 

 ホントに今日の先生は教師っぽくて珍しい--でも愉快さが混じるニュアンスは微妙だな、良くも悪くも。

 

 騒ぐのが収まって全員静かに席に着くと、茶柱先生は意味深な顔のまま教室内を歩き出す。

 どうやらここからが本番のようだ--そんな空気を教室中に巻いていき、途中で池の席の横で止まり言った。

 

「改めて訊くがこの学校はどうだ--忌憚のない意見を聴きたい」

 

「そりゃ……いい学校ですよ。上手く行けば沢山お小遣い貰えるし、何処の施設も文句もなく至れり尽くせりだし…………何よりリアルで学生恋愛ドラマなんて見れるし、マジで最高の年に入学できたなって……」

 

 最後のには当人(・・)を除いて皆が目を丸くした--そして直ぐにニヤニヤしながら、同感だと肯いている。

 

 その中には堀北も愉しそうな笑みを浮かべてるし--高円寺にしても笑みが増したのが分かる。

 

 このクラスメイト全員の祝福を受けた綾小路は--もう随分と慣れたものだな、すまし顔のままだ。

 

 このまま、ほんわかしたままで行って欲しいが、そう言う訳にもいかんか--茶柱先生は綾小路から俺に視線を移してきた。

 

「そうだな。今年は本当に面白い年になった--赴任してからもそうだが、在学中であっても見たことの無いことのオンパレードだ」

 

 身の上話を混ぜながら俺の席を素通りして、今度は平田の席に--俺にも訊きたくてウズウズしてるのを我慢してるって風に見えちゃうな。

 

「平田はどうだ、もう慣れたか?」

 

「はい。充実した学生生活を送れています--僕も最高の年に入学できた運命に感謝してます」

 

 迷いなく即答か--でも神でなく運命と言う辺りは何かしらの意地か?

 

「運命か。一度のミスで退学しても同じことが言えるか?」

 

「そのリスクをクラスの力を合わせて乗り越えます」

 

 文句の無い答えだが、ちょっと趣旨がずれてる気がしなくもないな。

 

 でも茶柱先生、満足そうに教壇に戻った--平田の言ったことがこれからの事に関わって来るのか?

 

 さて、どんなのが飛び出して来るのか。

 

「分かっていると思うが--来週、期末テストに向けて八科目の問題が出される小テストが実施される」

 

「げえっ!」

 

「ちなみに聴いてないは通用せん--私も含め各教科の担当がしっかりと伝えた」

 

 叫ぶ池を黙らせる--漸くいつもの茶柱先生になって来た、と思ったが浮かべてる笑みからするとそうでもないようだ。

 

「安心しろ。出題されるのは中学三年レベルが100問--基礎を再確認するもので、成績には一切影響しない。ただ結果は無意味なものではない--次の期末試験に大きく影響すると先に言っておく」

 

「先生よぉ……もっと分かり易く言ってくれねぇか」

 

「そうだな、須藤にも分かり易く言えると良いんだが--次回の小テストの結果を基に『二人ひと組』のペアを作る。このペアはそうだな--運命共同体とでも言おうか、双方の合計点で試験に挑むことになる。」

 

 ペアね--成程、それがさっきの平田が言っていた協力に繋がる訳か。あとは具体的にどう機能するかだな。

 

「試験は八科目100点、各科目50問の400問--赤点も二種類あり、全科目60点のボーダーが定められ、ペアの総合が各科目60点を下回れば二人とも退学。もうひとつはペアの総合点が定められた赤点に届かなかった場合だ--こちらに関しては正確な数字はまだだが、例年では700点前後となっている」

 

「先生、体調不良で当日欠席してしまった場合は?」

 

 堀北が勢いよく質問した--流石に二回も特別試験を全うできなかったんだから神経質にもなるか。

 

「その場合、欠席の正当性を確認し、やむを得ない事情が認められれば過去の試験から概算された見込み点が与えられる--認められなければ全教科0点だ。順番が前後したが試験は四科目ずつ二日間で行われる」

 

 内容を把握した堀北は深く肯いている--あとはペアの選定方法がどういったものかだな。

 

「ペアの決定方法は小テストの結果が出た後に伝える--例年この特別試験、通称『ペーパーシャッフル』ではひと組か二組の退学者が出る。その大半はⅮクラスだ」

 

「最後に脅しですか?」

 

 堀北が挑むように言うと茶柱先生は不敵な顔で返してきた。

 

「単なる事実だ。疑うなら上級生にでも聞いてみろ--コネのある者ぐらい居るだろう」

 

 それはそれは、何とも回りくどいヒントだ--ストレートに言えないにしてももう少しソフトに出来んのかね、

 

 組み合わせ次第によっては大量の退学者が出てもおかしくないのにその程度の数で済んでいる。しかも上級生に確認を取っても良しなら……。

 

 含みに気付いたのは目に付く限り綾小路と堀北、高円寺や平田あたりもか--櫛田もどうかと思ったが、まだ引きずってるみたいだな。

 

「最後にもうひとつ--お前たちには別の形で試験に挑んで貰う」

 

「別の形ですか?」

 

 僅かに動揺するクラスを平田が絶妙にフォローする。

 

「そうだ。まず期末試験の問題はお前たちに作って貰う--その問題は他の三クラスの内ひとつに割り当てられる、言わば『攻撃』する訳だ。割り当てられたクラスは『防御』する形となり、自クラスと相手クラスとの総合点を比べ、負けたクラスから勝ったクラスへ50のポイントが移動する」

 

「組み合わせによってはフェアになりえないんじゃ」

 

 平田の指摘通りだ。

 

 AがB、ⅮがAを攻撃して、Aの総合点が攻撃した側と防御された側を上回ったら得られるのは100、AとⅮがお互いを攻撃しあったら、どっちが勝っても50--それも考慮しなきゃとかなら流石に難易度が高すぎる。

 

 

「心配するな。直接対決になったら一度に100ポイント変動する--滅多にないが引き分けの場合は当然変動することはない」

 

「最後にひとつ訊かせて下さい--自分たちでの問題作成と言いましたが、難易度は何処までが許されるのですか?」

 

「問題内容に関しては私たち教師が公正にチェックする--指導要領を超えていたり、明らかに答えられない問題は修正して貰う。そして間に合わなかったら学校側の用意した問題を使用して貰う--但し、この問題の難易度は低めだと思っておけ」

 

 それは実質、不戦敗ってことか。

 

 戦いは既に始まっている、今この瞬間から--そんな気概を発するのも何人か居る。

 

「問題作成に関しては方法に制限はなく自由だ--他クラスと相談しながらでも構わない。学校側が認められる内容なら難易度の高い低いも問わない。

 そして何処のクラスと戦うかは、小テストの前日に私に報告しろ。希望する相手が被った場合は代表者によるクジで決める」

 

 説明を終えて今日の授業は終わった--ただ早速の新しい本番の始まりだ、ずっと待ってたチャンスに堀北は意欲満々に立ち上がった。

 

「これから作戦会議を始めるわ--嬰児くんも出て貰えるかしら?」

 

「居るだけでいいならな。俺は何も意見は言わないし、言ったとしても余り実のあるのは無いぞ」

 

「説明の手間が省けるだけでも十分よ」

 

 おお、如才ない--ならお手並み拝見と行こうかな。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 ケヤキモールにあるカフェのひとつ『パレット』--女子を中心に活気があふれる中でⅮクラスの主要メンバーが集まる。

 

「櫛田さんは……やっぱり来ないみたいね」

 

 堀北が心底残念そうに言うと平田が謝ってきた。

 

「ごめん。本当に調子が悪そうで……とても声が掛けられなくて…………」

 

「よっぽどここに来たくないんでしょ。ってかさ、いつまでこんなことしてる訳?」

 

 軽井沢が平田をフォローするように綾小路に辟易した問いを投げる--この一件の原因だと決め付け、責めるように。

 

「断っておくが、オレが櫛田に何かした訳じゃない--そうだろ、嬰児」

 

「その通りだ。それは俺が証人になる--綾小路に落ち度はない、あくまで櫛田の過失だ」

 

「…………いや……でも、だからって……櫛田さんだって、うっかりくらいするでしょ。このままにしてても良いことないじゃん」

 

 嬰児に断言されてしまい、僅かに怯む軽井沢だがそれでもいい加減に許せと言外に抗議してくる--何かしら彼女の中にも思うところがあるようだ。

 

 そんな軽井沢に綾小路は更に続ける。

 

「確かに含むところはあるが、オレはそこまで気にしてない--気にしてるのは櫛田自身だ。話をしようとは言ってるが、あいつの気持ちの整理がまだついてないみたいでな--もう少しだけ時間が欲しい」

 

 ほったらかしにするつもりはない--問題への取り組みは行うと示されて軽井沢も引いた。

 

 しかし、そのままで終わらせられないのも居た--堀北は嫌味な目を向けて、綾小路に言う。

 

「時間は有限よ--出来ればこの試験が終わるまでには何とかして欲しいのだけれど」

 

「堀北さん、言いたいことは分かるけど--これかなりデリケートなことだし焦っても――――」

 

「平田、フォローは有り難いが大丈夫だ。櫛田の不安は必ず取り除くから、そうだよな--嬰児」

 

「ああ、何も心配することはない」

 

 説得には嬰児も付き合う--既に相棒のような遣り取りに綾小路が夏休みに言っていた仕事をきっちりとこなしているのが分かる。

 

 嬰児の問題がどうなったかは分からないが、少なからずの信頼は得たようだ--ならば櫛田にしてもまだ様子を見るべきだと話は終わる。

 

 そこから注文した飲み物に口を付けたり、端末をいじるなどしながら少しの時間が過ぎると最後のメンバーである須藤がやって来た。

 

「おーい、待たせたな。わりぃ、わりぃ」

 

 須藤が席付いたところで準備は整い、本題が切り出される。

 

「それじゃ、次回行われる小テストについてから始めましょうか」

 

「ペアの選定の法則を見つけ出すんだな」

 

 堀北が仕切りだした瞬間に綾小路が一気に確信を言い出す--ただ結論をいきなり出されても理解できない者もおり、透かさず平田が補足する。

 

「小テストは期末試験のペアを決める為にやるのが目的って訳だね」

 

「その通りよ--その法則性を見つけ出すことが勝つ為の必須条件よ」

 

 早速、話し合いに熱が入り始めた--これにまず軽井沢と須藤もあてられ意見を言う。

 

「点数が近い者同士が組むとか?」

「正解や不正解が似てるとかもあるんじゃねぇの?」

 

「否定はできないけど--それだと茶柱先生の言っていたことと矛盾するわ」

 

「え、どういうこと、洋介くん分かる?」

 

「茶柱先生はこの試験での例年の退学者は多くて二組って言ってたよね--二人の言った通りなら少な過ぎないかな」

 

 ついさっき発表された成績下位のメンバー同士や須藤が組めば退学は間違いない状態だ--例年のⅮクラスとそこまでの差があるとも思えない。にも関わらず退学者が二組程度--須藤も軽井沢も事のおかしさに気付き始める。

 

 しかし既に気付いており、丁寧に説明する時間を惜しむ者も居た。

 

「つまり見抜けなくても大して問題ない法則ってことだな--この前提で考えて自然なのは『高得点と低得点でのペア』だな」

 

 ここで嬰児も話に加わった--些か驚きながら堀北が肯き、嬰児の意図を考察し直ぐに結論を出した。

 

「ええ、100点と0点を取ったペアになるなら、先生の言っていたことにも腑に落ちるわ--そこで嬰児くんに確認したいのだけど、テストの点数まで気にしなくちゃいけないってことはないかしら?勿論、答えられないならいいけど」

 

「俺のことは気にしなくていいぞ」

 

「そう--なら、そうさせて貰うわ。

 そうなると気掛かりは平均点に近い同士のペアね--あとは何処のクラスを狙うかね」

 

「そりゃ、当然Cクラスだろ!借りを返す時じゃねぇか」

 

 須藤が気合の籠った声で言う--ただ感情論を抜きにしても学力の面において有利に持っていける。クラスポイントから見ても差を一気に縮められる点からして理に適ってもいる。

 

「僕もそれが最適だと思うけど、考えてるのはAやBも同じじゃないかな?指名が被ってクジになったら、Aクラスと対決することもあるんじゃ」

 

「有栖の性格なら今回はBを攻撃した方が面白そうだと思うがな--BもAとのポイント差から考えて直接対決による100で今度こそ逆転したいって思うんじゃないか」

 

 綾小路の指摘は説得力があり、Ⅾクラスの狙いが上手くいく可能性が上がった--そんな期待感が行き渡る。

 

「と言っても断言はできないがな--私情や目先の利益より確実性を取ることだって考えられる」

 

 それを綾小路本人が軌道修正する--最悪のケースであるAクラスとの対決を外されて話が進むのは望ましくないからだ。

 

(オレが有栖にそうするように頼めとか……他の連中が言い出されたら堪らん)

 

 それとなく須藤を視界に入れながら、この場での話が池や山内に伝わり楽観論が流れたなら相手がCクラスであっても敗ける可能性が上がってしまう。

 

「つってもよ。クジになったら何処と当たるなんて運任せだろ--バスケの試合でも強豪といきなり当たることだってあるんだぜ」

 

 須藤の意見--その余りの尤もさに皆が衝撃を受けて無言になる。中でも堀北が最も衝撃を受けたようで、嬉しそうに言った。

 

「思いがけなくも良いこと言うわね--確かにそうなったらなったで戦うしかないわ。そうなるとCクラスを指名するのはそうだけど、想定はAクラスにして対策を練るべきね」

 

「だね。僕らの狙い通りになってもその方が勝率も上がる--他がCの相手になる場合もポイントを減らしてくれるなら文句はないよ」

 

「いっそのことさ。Aと一緒に狙って、もし直接対決になったら問題見せ合って引き分けにするとかは?」

 

「軽井沢、それは流石に図々しいぞ。もしそんな提案した日には有栖なら笑いながら、後ろから刺してくるぞ」

 

「ちょ、ちょっとした冗談じゃない……あたしだってそこまでお花畑じゃないし」

 

 綾小路の脅しめいた表現に平田でなく、嬰児に助けを求めるように目を向かわせる軽井沢--そんな視線を受けて嬰児が仕方ないと言わんばかりに言う。

 

「クラスの方針は確定でいいな--それで他の奴らにはどう伝えるんだ、ここでのをそのままか、それともギリギリまではAと戦うことにするのか?」

 

「本当にあなたが居ると、さっさと話が進むわね」

 

 堀北が呆れたような声で言い、少し考えて改めて仕切り直す。

 

「緊張感を持たせる意味でも後者は有効かもしれないけど、良い方向に転がるかは未知数--逆にモチベーションが下がる人も出て来るかもしれないわ。小テストまで日取りもないし、ここは正直に伝えましょう--ただし少し含みを持たせてね」

 

「Aと戦う可能性はあるのを強調するんだね--Cを狙うからって気が緩むのを無くす為に」

 

 平田が言いたいことを直ぐにかみ砕いた為、須藤と軽井沢にもすんなりと伝わった。

 

 これで方針は纏まり、時間も頃合いを向かえそうなので解散し須藤と平田は部活に向かおうとする。

 

「それじゃ、先輩に試験の話を聞いたら報告するぜ。鈴音」

「僕も他に何か情報が無いか、それとなく聞いてみるよ」

「洋介くん、早くしないと遅れるよ」

 

 軽井沢が平田を急かしながら一緒にグラウンドに行った--残った堀北、綾小路、嬰児はまだ帰る気配はない。

 

「それで櫛田さんだけど、出来れば私が直接伝えたいから、今直ぐに連れて来て欲しいのだけど」

 

 先日に言っていた通り、遠慮なく急かして来る--ただ今回の試験に関しての方針については櫛田が絶対に必要と言う訳ではない。

 

 100パーセントで堀北鈴音の私情から来ているものだ--これについては綾小路も人のことなど断じて言えないので文句を言う訳にもいかない。

 

「試験の終わりまでは待ってくれるんじゃなかったのか?」

 

 こう言うのが精一杯であった--ただそれで引き下がる訳もなく、強烈な釘を刺される。

 

「そう言って、ギリギリまで何もしないんじゃ本当に手遅れになるかも知れない--もしもそうなって櫛田さんが退学したら、どう責任を取るのかしら?」

 

「分かった--猶予があるからって胡坐はかかない。試験の調整だけじゃなくて、櫛田の件もちゃんと取り組む」

 

「明日からじゃ駄目よ、今日からよ」

 

「ああ」

 

 最後まで妥協を許さずに約束させれた--してやられた形になり解散となったが綾小路の心にはある種の納得感があった。

 

(あれが堀北の本来のモチベーションか?嬰児の言う所の本当に強くなったのをまざまざと感じたな)

 

 その嬰児も〝それでいい〟と言った目を向けていたのにも流石だと再認識させられた。

 

 しかし櫛田を説得するプランは煮詰まっておらず、嬰児を今連れて行っても逆効果になりかねないので、まずは綾小路一人で試みるしかない--嬰児もそれが分かっていて無言のまま、任せたと行ってしまい今更になって溜息を付きたかった。

 

 

 

 

 同じ頃、Ⅾクラスに標的にされたCクラスでは一人の例外もなく絶不調であり、とてもじゃないが特別試験どころではなかった。

 

 それでもCクラスの独裁者(リーダー)である龍園は最低限の日常生活--授業を受けて帰る、を徹底させていた。

 

「あ……あの、龍園さん……一日だけでいいから休んじゃ駄目ですか?」

 

「却下だ」

 

 弱音を吐く者を威圧して黙らせる--その龍園自身も無理が表れているが、眼光の鋭さは全く衰えていない。

 

 不屈の精神力などの安っぽいものでない反撃への決意を持って、モチベーションを維持どころか、逆に高めている--ただそれでも今回の特別試験は捨てざるえないと屈辱に更に怒りを燃やしていた。

 

「そんなに休みてぇなら、とっとと帰れ--部活もいくな、土日も外に出るな。何もしないで寝てろ」

 

有無を言わせずに帰らせる--無意味な問答に時間を割くのも勿体なかった。

 

 ひと通りが出払った後、龍園の側近とCの頭脳班による打ち合わせが始まる--その全員の顔色も悪く、自分たちも早く帰りたい気持ちから、とんとん拍子に進む。

 

「金田、ひより。試験の法則性の見当は?」

 

「成績上位と下位からペアを組んでいくのではと、龍園氏」

「私も同意見です。試験の説明からしてまず間違いないかと」

 

「よし、アルベルトと石崎。直ぐに上級生に確認を取れ。結果はメールして終わったら帰れ」

 

「オーケー、ボス」

「はい。龍園さん」

 

「で、もう終わりなら帰ってもいい?」

 

 仕事が割り当てられなかった伊吹が、調子が悪いながらもいつも通りの棘のある口調で訊く。

 

「おめぇはこいつをある奴に渡しに行け、直接でも寮のポストでもいい--済んだら、そのまま帰って寝ろ。余計なことは済んなよ」

 

「誰が、こっちだって早く休みたいんだよ」

 

 龍園は封筒を渡すと悪態をつきながらも伊吹は教室を去って行く--その足取りは重そうであり、言うまでもなく他の事などすることは無さそうだった。

 

「金田、率直に言え。問題作成するのはお前以外居ない、やれそうか?」

 

「出来なくはありません--申し訳ないですが、これが精一杯です」

 

「なら出来る可能性を上げろ。もう帰れ」

 

「はい」

 

 金田も素直に帰宅していく--彼には言うまでもなく、何もしないで回復に努めると残った龍園と椎名は無言で見送る。

 

 そして二人だけになったことで龍園は本題を切り出した。

 

「ひより、お前にも単刀直入に訊く。今回……いや体育祭でのことからのは牛野郎の仕業だと思うか?」

 

「十中八九、そうかと--ただ確信とは言えません。嬰児くんは恐ろしい人だと知ってましたが……ここまでするのか」

 

「過小評価だったな--俺も常識が通じない奴と思ってたが、想像を遥かに超えてやがった」

 

「龍園くん」

 

「皆まで言うな--分かってる。牛野郎の標的は俺らじゃない」

 

 この返答に椎名は安心し、それに構わずに龍園は推理を続ける。

 

「俺たちは体育祭で計画を立てた--勿論、クラスの能力を前提においてだ。ただ当日になってその数値が超絶に跳ね上がった--何かそうなるようなのを盛られたのが妥当だな、その副作用が今も続いてる状態って訳だ」

 

「はい。しかし私たちには全く身に覚えがありません--誰一人、気付かれないうちにこれを完遂するなんて普通では考えられません」

 

「それこそが正に答えだ--やりかねないのも含めてな」

 

「でも龍園くんの計画を潰すだけにしてはやり過ぎです--公けになれば学生の諍いじゃ済まされないレベルになるなんて想像に難くありません--それが彼の動機なのでしょう」

 

「特例って優遇処置に見せかけ、その実に我慢ばっか強いて来る学校のバックへの攻撃--俺らはその為の捨て駒に使われた訳だ」

 

 龍園は忌々しいと怒りが表れるが、椎名はそのままに落ち着くのを待つ--この肝の座りようが認められ重宝されてもいるだろう。

 

 龍園は落ち着きを取り戻して話を先に進める。

 

「それは見方を変えれば、野郎は俺らに含むものはないってことだ--なら付け入る隙はある」

 

「毒を以て毒を治めると--この件で騒ぐと脅しても効果などないでしょうし、やるならAクラスの方とするのが妥当では?」

 

「坂柳の親父の進退に関わるならとそれも最初は考えたが、どうにもリスクとメリットが釣り合わねぇ、逆に丸ごと潰しに来る可能性も低くねぇからな」

 

「と言うと何か別の思惑、いえ切り口があると?」

 

「ホントに話が早いな--奴が欲しがってるものをくれてやるのさ、この件の要求を受けなきゃ成立しないようなのをな」

 

「嬰児くんの欲しいものですか、しかも私たちに手を貸さなくてはいけないような?」

 

 椎名の興味が刺激されて思案を始める--ただそれは直ぐに終わらせられた。

 

「詳しくは牛野郎との交渉の際に聴かせてやる--ここで無為にエネルギーを使うな。最短なら今夜には分かる」

 

「私も同席しろと--あまり意味があるようには?」

 

「オメェを殺すと言ったんだろ--俺が知ってるのも耳に入ってるかも知れねぇが、実際に訊いた本人がいるだけでも心証は段違いだ。失敗できねぇ以上は打てる手は打つ」

 

「そうですか、承知しました」

 

 話は纏まり二人も帰宅する--そして日が完全に暮れた時間となった頃、龍園の予想通りに色よい返事のメールが届くのだった。

 

 

 

 

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