どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

39 / 82
名誉が・・・

 

 

 

 さて、いよいよ明日は小テスト--六時間目のホームルームは始まって直ぐに茶柱先生は教室を出てしまい、代わりに平田と堀北が教壇に立った。

 

 クラスも遊び気分の奴は居らず、様になってきたな--素直に気持ちよく感じる。

 

 それは教団の二人も同じようで良い顔しながら話し出した。

 

「これから小テストに向けての作戦会議を行おうと思う--堀北さん、いいかな」

 

「ええ。ただその前に改めて謝罪させて--体育祭において私は成果と呼べるものは何ひとつ残せなかった。威勢のいいことを言っておいて、あの結果--本当に申し訳ないわ。

 特に軽井沢さん、あなたの言う通り私は満足な結果を出せなかった--あなたの方が余程評価さて然るべきね」

 

 頭を下げる姿に本気でドン引きしてる軽井沢--この前みたいな作為的なのは感じないから、これは本当にアドリブだな。

 

「あ、あたしは別に……って言うか、そのリベンジする為の話し合いでしょ。今度こそは勝つ為の」

 

「その通りよ--次の特別試験、私はクラス一丸にならなきゃ乗り越えられないと思っているわ。そして全力を持って勝ちに行きたい」

 

「言いたいことは分かるけど、ペアの決め方も分かんないのにどうすんの?」

 

「それについては既に見当が付いてるわ。平田くん」

 

 打ち合わせ通りにスムーズな進行だ--平田も活き活きとしながら法則を書き出していく。

 

 ペアの法則--小テストの成績トップと最下位が組む。続いて成績上位と下位から二番目、三番目同士が組む。

 

 例--100点と0点、99点と1点がペアになる。

 

「こんな感じのシンプルな仕組みよ。これは他クラスも当然気付いてることも想定していかなければならないわ。それにイレギュラーな事態だって起こりえる、その可能性も下げて行かないと」

 

 少し難しい話になっていく雰囲気にクラスの中には不安顔も出て来てやがる--これまでの堀北なら構わずに進めるだろうからな。

 

 それを助長するみたいに中間の成績下位の十名の名前を黒板に書いていく--書かれた連中の顔色の青さは僅かずつ増していく。

 

 一体何を言われるのか--まず悪いイメージが浮かんでるのは間違いないな。例えば、よりハードな勉強会をするから強制参加させられるとかかな?

 

 と言ってもそこまで心配は無い。

 

「この十人は次の小テストで名前を書くだけでいいわ」

 

 堀北の言ったことに完全に肩透かしを受けてか、当人たちだけでない多くが面食らってるな--そいつらにも分かるようにかみ砕いた戦略が説明されていく。

 

「0点でも成績に反映されないなら問題はないわ--逆に上位十人には85点以上は取って貰う。あとの二十人も同じように1点を取るのと80点を目指すのに振り分けることで、期末テストで理想的な組み合わせが成るわ--ただ詳細は煮詰めていくわ、もしもの可能性は無くしたい」

 

 もしも、ね--成績下位同士がペアになったらか。いや、それだけじゃなさそうだな。

 

「綾小路くんも今回は真面目に受けて貰うわ。異論は一切認めない」

 

「分かってるよ--そんなに突っかかるな」

 

「高円寺くん、あなたはどうかしら?」

 

「ナンセンスな質問だよ。私に高得点を期待してるようだが、それは内容次第だろう?」

 

「意図的に0点を取るような事になったらどうなるか、想像出来るわよね?」

 

 半ば脅しを含んだいい返しだ--クラスの戦略が成立しないことを指してるようにも聴こえるし、態と足を引っ張たなら容赦ない報復をとも取れる。

 

 そして高円寺が含みを理解できることも見越してる--無駄な反論はないだろうとも。実際にその通りのようだしな。

 

「じっくりと検討しておくよ。ガール」

 

 なんとも曖昧なことだが、恐らく心配は無いだろう--味方とも言えない奴だが、一年も終わってない時期に明確なクラスの敵になっても構わないなんて愚かな男でもあるまい。

 

 

 

 

 翌日の小テスト、始める前に茶柱先生からある報告が上がった。

 

「お前たちの希望したCクラスだが、Aクラスと被ることになった。よって代表者によるクジ引きを行う。小テスト終了後、代表者は私と一緒に来て貰う」

 

 綾小路の予測は外れたか--いやそれとも坂柳が逢いたいから被らせてきたのか、それとも…………。

 

「そしてⅮクラスに問題を出すのはCクラスに決定した。こちらは指名が被らなかった結果だ」

 

 つまりBはAを指名したのか、ここは綾小路の予測通りだな。そしてクジに勝てばAとB、CとⅮの一騎打ち--負ければ上手くばらけるが、俺たちが戦うのはBになり勝率は厳しいと言わざるをえないな。

 

「私たちが勝って、Aも勝てばCは100のマイナスよ--決して悪くないわ」

 

 本当に前向きになったな--堀北は。

 

 クラス内の空気が格段に軽くなるのが分かる--ただ、そのままって訳にはいかないようだな。

 

 茶柱先生、いつもの意味深な顔で水を差してきた。

 

「後で後悔だけはしないようにな」

 

「こ、後悔って……成績には影響しないんじゃ?」

 

「その通りだ--何か秘策があるようだが、自信はあるのか?」

 

 池や山内たちの成績下位組があっさりと呑まれた--が、それも問題は無いか。

 

「はい。私たちの計画に間違いはないと確信しています」

 

 言い切ったな、堀北--そして、それは不安を抱いて奴らに伝播していった。

 

「そうだぜ。鈴音を信じるぜ」

 

 須藤も冷静さを取り戻し、不安は完全に払拭されたか--以降は無駄な遣り取りもなくテストが開始された。

 

 ただ内容には驚いた--本当にレベルが低い。

 Ⅾクラスで退学者が出るってのも納得だな。何も知らないままなら、池たちでもかなりの点数を取れる、性質の悪い罠だ。

 

 

 

 結果として小テストは問題なく終わった--次はクジ引きだな。代表者には当然、綾小路になり、付く沿いに二人までが許されて俺と堀北が行くことになった。

 

「やっぱり坂柳さんが待ってるかしらね?」

 

「有栖が来るならオレたちの方が早いだろう」

 

 進路指導室までの道中に堀北が言い、綾小路は素っ気なく返す。そして言った通りに俺たちの方が先に着き、少し待つことになった。

 

「綾小路くんの予想は外れたけど、Aはどういった思惑なのかしらね?」

 

「この場を設けてオレに逢う為だとでも言わせたいのか?」

 

 全くギスギスしてるな--何があったってんだ?

 

「無いとも言い切れないんじゃない--嬰児くんはどう思うの?忌憚のない意見を聴かせて欲しいわ」

 

 俺まで巻き沿いにされた--ぶちゃけるなら堀北の言ってたことは俺も考えてたが、それだけで動くような娘だとは思えず、少し考えても見た。

 

 他も聞きたがってそうだし、相手もまだ来そうにないから、そのまま話すことにするか。

 

「利益を念頭に置けば、究極的にはポイントの独占かな。一騎討ち同士だと他にも100のプラスがあるが、バラけた上でAの総合が一番ならポイントを得られるのはAだけの場合はある」

 

「クジの結果、オレたちがBと戦い総合点で負けたならCの方で勝ったとしてもプラマイゼロ、攻撃したBに勝利すれば得をするのはAだけ--自信家の有栖らしいな、確かに」

 

「逆に私たちがBに勝つか、クジでAとB、CとⅮの一騎打ちのパターンでも勝てば得られるのは100ポイント。Aには損はないって訳ね」

 

 理解が早くて助かるな--堀北のCへの雪辱は坂柳も当然聴いてたし、それが無くても勝算の高いCを指名するのは自然な流れ、意図的に被せたのは間違いない。

 

 俺も動機としても尤もらしいのを言ってみたが、本当にそうなのかはちょっと引っ掛かる--と言ってもまったくの勘なんだが。

 

 この場で綾小路とちょっとしたお遊びを、とかじゃない個人的な動機があるとして--もしかしたら見えない力が働いたかな?

 

 と、どうやらお出ましのようだ--考えるのはまた後でだな。

 

「お待たせしました」

 

 扉が開いて坂柳と神室と橋本、それにAクラス担任の真嶋先生が来た。

 

「申し訳ありません、どうしても移動には時間が掛かってしまうもので」

 

 頭を下げる坂柳の横に居る神室の顔には〝だったら来なきゃいいのに〟とありありと書いてある--橋本はどうでもよさそうだが、真嶋先生は少々辟易した顔でこっちを見たが、それ以上はなく前に出て始めていく。

 

「これよりペーパーシャッフルの組み合わせを決めるクジ引きを行う。代表者は前に」

 

 Aからはすぐ横の坂柳が、これにより必然的にⅮの代表は決まった。

 

「綾小路くん、あなたに賭けるからお願いね」

 

「ただの運にどうしろって言うんだ」

 

 堀北の皮肉に悪態をつきながら綾小路も前に出る--そして用意された箱の中の紙をそれぞれが取り開いていく。

 

 結果はAの指名通りとなった--これでこちらはBに攻撃か、勝つハードルが上がってしまったな。

 

「ではこれにて終了とする--各自、健闘を祈る」

 

 真嶋先生があっさりと締めくくり、俺たちは教室に戻る--坂柳の方もとっとと行ってしまい、どうやらお遊び気分じゃなそう。さっきの仮説の可能性が上がったかな。

 

 

 

 

「坂柳さん--いえ、Aの理想的な組み合わせになったわ」

 

 堀北がクジの結果を伝えると残念な雰囲気が広がった--これには平田も例外じゃなくな。

 

「でも、やることは変わらないわ。この試験は学力を高めて行くしか方法はない--最悪、Aクラスと戦うことも想定しなきゃとも思っていたけど、こうなった以上はその方針のままで行くわ」

 

 しかし直ぐに切り替えて前向きな発言--Aと戦うことよりはマシだと、何人かは楽観が入り、僅かに気が軽くなったのも居るな。

 

「問題作成及び勉強会に関しては、明日の結果でペアが確定した時に話すわ。力を合わせて乗り越えていきましょう」

 

 これを以て解散となり、あとは明日の結果待ち--さて俺は誰とペアになるのかね、出来れば面倒の無い奴がいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、小テストの返却とペアの発表が貼りだされた。

 

 堀北と須藤、平田と山内、櫛田と池、幸村と井の頭--と理想的なペアが出来上がった。高円寺も今回は合わせたと言うより、いつも通りにやってか沖谷とペアになった。

 

 ちなみに綾小路は軽井沢--俺は外村と組むことになった。

 

「よろしくでござる、嬰児殿」

 

「言っとくけど俺が全部100点取ってもお前が全部0点なら意味ないからな--ふざけた点数取ったら、ただじゃ済まさんぞ」

 

「ひぇ~……い、命ばかりはご容赦を!」

 

 大仰なリアクションを取りおってからに皆も呆れてるぞ、一部の例外を除いてな。

 

「全くペアの法則を見抜いたと思い珍しく感心したら、先が思いやられるぞ」

 

 茶柱先生、いつも通りに振る舞ってるが何やら愉快そうなニュアンスが混じってるのが見て取れるぞ。

 

「先生の言う通り、はしゃいでばかりも居られないわ--私たちが攻撃するのはBクラス。総合点で負けたなら、例えCに勝ってもまたポイントが増えないままよ。しっかりと気を引き締めて行かないと」

 

 堀北の指摘に浮かれ気分は一気に吹き飛んだか--許可を取り、先日同様に平田と一緒に教壇に立ち、これからの方針を発表する。

 

 色んな意味で活き活きして見える--思った通り、これが堀北鈴音の本来のモチベーションなんだろう。最初からこの姿を見れたなら入学時の配属はAクラスだったろう--ただそうなってたら、第三の派閥を立ち上げるも葛城共々潰されてたか。

 

 となると無難なのはBクラスで一之瀬に代わるリーダーとして立ち--両腕に一之瀬と神崎を揃えて上を目指していくのが最高だったかもな。そうなると今の試験で戦ってたり、とか--それもそれで面白そうな気もする。

 

 ま、意味のない仮定だ--堀北がクラスを離れるとは思えんし、戦うことは無いだろう。もし、なんて場合があるとしたら……。

 

「嬰児くん、心ここに在らず見たいだけど、ちゃんと聴いてたかしら?」

 

「聴いたてよ。勉強会開くんだろ」

 

「時間帯は?」

 

「放課後直ぐの午後四時からの一部と、部活組の午後八時からの二部で両方とも二時間--堀北が一部を担当して平田が二部を担当する」

 

「……ええ、聴いてたなら問題ないわ。それで嬰児くんは指導役として両方に参加して欲しいのだけれど?」

 

「辞退する--言っただろ、俺のことは大丈夫だから気にしなくていい。存分にクラスを高めてくれればいい」

 

「あなたもクラスの一員でしょ、試験に向けての――――――」

 

「堀北、俺だって意志が無い訳じゃないんだが」

 

「だったら尚更、クラスの為に」

 

 しつこく食い下がって来るな--好き嫌いでやりたくないと言ってるようなもんだから、当然と言えばそうだが、先約がある以上は受ける訳にはいかない--しかも今回はそれを言う訳にはいかないから、さてどうするか……。

 

「堀北、オレからもひとついいか?」

 

 綾小路が入って来た--助け舟を出したつもりか?

 

「なにかしら?」

 

「勉強会だがオレのグループと軽井沢のグループを一括にして集中的に取り組みたい。指導役は啓誠--幸村とオレがする。これだけでもそっちの負担をかなり減らすことが出来ると思うがどうだ?」

 

 綾小路と軽井沢のグループでか--合わせたら九人、クラスの四分の一を受け持つことになる。

 

 俺と高円寺が自分で何とかするなら、勉強会は二十九人で指導役の堀北と平田の受け持ちは上手く分散され、成績下位の連中にも集中できる。

 

 単純に効率を考えるなら最適とも言えるが、言い出すタイミングが丸で堀北への反抗にも思えてしまう……こんなつもりはなかったんだがな。

 

「それは悪くない提案だね--それぞれの適した方法で成績を上げて行けるなら、それに越したことはないし、堀北さんも問題作成の為の余裕が出来るし」

 

 平田もそれを感じ取ってか、直ぐに話に入り仲裁を取りに来た--漸くって感じだったのに苦労が絶えないな。

 

「……確かにメリットのある提案ね。無理強いしたって良い結果になるとも思えないし、その案は採用でいいわ」

 

 冷静さを保ち、ムキになるのを踏みとどまったか--喧嘩になるのはどうにか回避されて、皆もホッとした。

 

「それじゃ、代わりと言っては何だけど--櫛田さんも私たちの勉強会に指導役として参加して貰えないかしら?」

 

 なんか俺の時とは違い、豪く意欲的で積極的で好意的だな--別にいいけど。

 

「え……あ、なに……ごめん、聞いてなかった」

 

「だから勉強会の指導役になって欲しいのだけど……ここのところ変よ、大丈夫?」

 

 更に櫛田は全く聴いてなかったのに心配までするとは……これ飴と鞭ってやつか?

 

 それとも予め仕組んでたのか--綾小路も素早く話に混ざってきた。

 

「櫛田--指導役がキツイならお前もこっちに来るか?個人で集中したいなら、そうなる様に調整するが」

 

「ハハハ……ごめんね、可笑しな気遣いさせちゃって…………でも大丈夫、クラスの為だもん、私だって――――」

 

「クラスの為なら、いい加減に話も付けたいと思ってる--せめて一回だけでいいから、こっちに来て貰いたいんだが」

 

「そうだよ、櫛田さん。いつまでもズルズル引きずってないで本当に仲直りしなよ、クラスだっていい感じになって来てるんだし」

 

 軽井沢もスラスラとよく出るな--これが初見だったら疑いが濃くなったが、まんまこの前言ってたのと同じだ。

 これで確信した--仕組んだんじゃなくてチャンスを窺ってたんだな。

 そうなると俺も同席した方が決着をつける上では最良だが、時間作れるかな?

 

「あー、邪魔になるなら初回は俺が一人で受け持つから、二人で話してても構わないぞ」

 

「私も幸村くんの負担にならないようにするから、とことんやっちゃいなよ」

 

 幸村の援護に松下も加わり、クラス中が綾小路と櫛田の和解を望んでいる雰囲気に包まれた。

 

「クラスの為--Aクラスを目指すのを思うなら、わだかまりなんて無くすべきだわ」

 

 堀北も流れに逆らうことなく、寧ろ積極的に話を進めて来る--この件が片付けば、次は自分だとか期待してるのかな?

 

 なんにせよ、もう結論は固められてる--櫛田に選択肢などある訳なく、困った顔のままで肯いた。

 

「そ、そうだよね……いつまでも今のままじゃ駄目だよね。

 うん、分かった。ちゃんと話をしよう、綾小路くん--二人だけでね」

 

 最後に真剣さを装いながら俺の同席を拒んだ--心配ないとは言ったのに、やっぱり信用無しか。

 

「決まりだな--早速、放課後にでも始めるか。くれぐれも言うが、誰も来ないでくれよ」

 

「きよぽん。坂柳さんの手前、女子の一人くらいは同席した方がいいんじゃ?」

 

「波瑠加ちゃん、ここは信用しようよ」

 

 堂々と水を差して来る長谷部に佐倉が遠慮がちに苦言を呈してる--こっちはこっちで固い友情が育まれてるんだねぇ。

 

 しかしお陰で教室の空気が格段に軽くなった--もう他に余計な茶々も入りそうもない。

 

 案外狙ってやったのか--もしそうなら誰の影響なのかね。

 

 

 

 ***

 

 

 放課後、綾小路は櫛田を連れて寮の自室に戻った--櫛田も流石に遠慮がちになったが、誰にも聞かれたくない話である為、重い足取りを動かし部屋に入った。

 

「女の子を部屋に連れ込んで一対一……あとのフォローは自分で何とかしてね」

 

「開口一番にそれか」

 

「当たり前でしょ--痛くもない腹を探られるなんてゴメンだよ」

 

「……有栖も嬰児の事は把握してるから、説明は容易い。誤解される心配は無用だ、なんなら有栖も呼んで一緒に話すか?」

 

「いや、そこまで言うなら問題ないよね」

 

 櫛田はあっさりと引いた--この様子をつぶさに観察しながら綾小路は思考を展開する。

 

(学校側が知ってるなら有栖も知ってると繋げるのは容易だ--表向きの問題には有栖も関わってるなら同席しても何も問題ない。寧ろ、助けを求めるならオレよりも理事長の娘である有栖の方がいい筈--どうやら気にしてるのは命だけじゃないみたいだな)

 

「あー、駄目だよ。坂柳さんを差し置いて私の事なんて考えちゃ」

 

「オレが何を考えてるのか、分かるのか?」

 

「まさか、そんな芸当なんて持ってないし--何より私は超能力者でもない普通(・・)の女の子なんだから」

 

 櫛田は笑いながら言った--ただその目には愉快さなど微塵もなく、そのまま続ける。

 

「嬰児くんが何かするつもりがないのは、私だってもう分かってるよ--と言うか、私たちのことなんて二の次でしかないのもね」

 

「予想以上に正気は保っていたようだな--その通りだ。あれ(・・)は嬰児がオレにこの学校を潰すぐらいの大きなものと戦うことになりかねないと忠告……いや牽制を出しに来たんだ、Cクラスを生贄にしてな」

 

「向うの様子、それとなく探ってみたけど--どいつもこいつもガタガタで今度の試験もまともに受けるのも駄目なんじゃない。終わったら半分くらいは退学かもね」

 

 櫛田としてはそれで龍園も消えてくれれば、不都合な証拠もなくなるのだが……あの時(・・・)はこんな事になるなど知る由もなかった為に自ら墓穴を掘る失態を犯してしまった。

 

「まず最初に確認したい--Cと組んでまで堀北を退学させたいのは、中学の一件が原因だからか?」

 

「……そうだよね、もう知っててもおかしくないよね。あいつさえ居なければ今頃は」

 

 櫛田の口調に苛立ちが表れ、無意識からの怒りで身体も震えていた。

 

「いつ堀北の口から暴露されるか、それがお前の最近の悩みの種か」

 

「ちなみに訊くけど、綾小路くんは何処まで聞いたの?」

 

「堀北が知ってると言った事だけだ--あいつも噂だけと言ってたがお前のクラスが中学卒業間近に学級崩壊した。その原因がお前だと……堀北自身、聞いた時は半信半疑だったとも」

 

「へぇ……」

 

 櫛田の目は完全に座っており、話の核心であることを隠しもしない--綾小路はゆっくり話をするのは逆効果だと判断して伝えるべきことを言うことにした。

 

「ちなみに堀北はその事の発端はクラスの方にあって、お前は被害者だと思ってる--何をしたのかは知らんが随分と惚れ込まれてるな」

 

「全然嬉しくもないね。自分で自分の首を絞めるどころか、喉元に突き付けられたナイフを皮一枚まで押し付けた気分だよ」

 

「と言うことは堀北の見立ては間違ってるのか?」

 

「……ううん、ある意味ではその通りだよ。原因は私だけど発端--切っ掛けは向うから来た」

 

 余程忌々しい過去なのは一目瞭然であるが、櫛田の中ではすでに整理が付いてるようで淡々とした口調だ--それが返って不気味であり、綾小路の警戒心を上げさせる。

 

「安心しなよ。襲われたとか騒ぐ気なんて無いから--そんなことした日には今度は泥棒猫のレッテル貼られちゃうしね」

 

「……随分と信用されてる様だな--逆にそれを利用するとかは思わないのか?」

 

「全く」

 

 瞬く間の即答--確信をも通り越したニュアンスに綾小路は言葉が詰まってしまった--そんな様子を呆れながらもニヤニヤしながら見ながら櫛田は続ける。

 

「仮に女の子を押し倒すとかするなら綾小路くん、坂柳さんにしかしないでしょ--もしくは完全に骨抜きしにした娘とかかな。

 どちらにしても無理矢理なんて坂柳さんしかしない--そうしてでも頼りたい人なんて他にいないんだから」

 

「櫛田……それは――――」

 

「ちなみに嬰児くんが、ってのは通じないよ--それは興味でしょ、そして自分の思うように使いたいって好奇心」

 

 櫛田は笑みを消して、暗い輝きを宿した目を向ける。

 

「あの化け物を飼い馴らして何したいの?」

 

「オレの邪魔になるのを排除したいだけだ」

 

「なら私が邪魔になるなら今直ぐに排除するの?」

 

「邪魔になるならな」

 

「ってことは、今は邪魔じゃないってことだよね--ねぇ、改めて協力しない。私が堀北の代わりに立ってAクラスを目指す。その上で綾小路くんの意向に沿って動くから--そっちの方が願ったりじゃない?」

 

「オレがお前を裏切るとは思わないのか?」

 

「その時は速攻で逃げるよ--但し、色々な置き土産もつけてね」

 

「中学でやったことを再演すると--オレは兎も角、嬰児なら上手く抑え込むことが出来るかもだぞ」

 

「出来ないよ」

 

 即答で言い切った櫛田に綾小路の好奇心が刺激された--そして、このことを見越した上で持ちかけたことも悟った。

 

「これから話すのは何割か贖罪も含んでる--綾小路くんを売ったことへのね」

 

「オレ的には今更どうでもいいがな」

 

「けど知りたいでしょ--牛井嬰児でもどうにも出来ない『真実』を」

 

 櫛田の顔から完全に普段の優しさや柔らかさが消えた--いつかの夜に見た、あの時の顔だ。

 

「それが本当の櫛田か--自分から見せたってことは相当の覚悟を決めたか」

 

「決めさせたのは綾小路くんでしょ。もう私たちには仲直りしたって結果しか認められない--それに私だってズルズルと怯えて暮らすなんて嫌だよ」

 

 結局のところ、櫛田も既に限界を向かえていたのだろう--退学するのか、安心して卒業できる保証を得るのか、自分の中で解を出したいとそんな意図を感じさせた。

 

「オレは堀北の退学は望んでいない--お前が上に立つ資質があったとしても、有効な武器を手放すメリットなんてない。

 そして今の堀北を更に高めるには櫛田桔梗の存在が不可欠だと思ってる--オレじゃなくて堀北と手を組む選択肢は無いか?」

 

「それが綾小路くんの要求なんだね--あいつが居なきゃ、突っぱねて消えて欲しいって思ったけど……私に十分なメリットを提示してくれるなら考えるよ。勿論、身の安全は保障して貰った上でね」

 

 

 綾小路の中でメリットになるかは分からない--しかし櫛田には絶対の自信があった、嬰児に対するカードになるかもしれないと己の中で納得させながら、自分の知らない未知への好奇心を抑えきれず迷いなく乗った。

 

「オレに出来る範囲でならって条件なら考える--事実として嬰児に力で来られたら、どうしようもない」

 

「だから、そうならないように頑張ってて言ってるの--それでダメなら、まず私が逃げ延びるまでの時間稼ぎはして貰う、否が応でもね」

 

 徹底掉尾に我が身が大事--普段の天使のような櫛田から全くかけ離れた姿に初めて人間らしさを見せた。

 

 優しさなど微塵もない我欲にまみれた姿、あらゆる偽善を取っ払い本心を明かそうとしている。

 

「なんか、初めてお前って人間が理解できた気がするな--なんで普段は真逆の自分を演じてるのかは益々解らなくなったがな。

 誰一人、本心を打ち明けることも出来なくて苦痛じゃないのか?愚痴を言うのだって容易じゃないだろ?」

 

「そうだよね……綾小路くんみたいに大好きな娘さえ居ればいいってタイプには解らない気持ちだよね」

 

 この発言には一切の含みを感じない--言葉通りにそう思っているのが伝わって来る。

 

 あの事故()から何度となく味わって来たことだが、どうしても慣れることがなく綾小路は言葉を詰まらせてしまう--それでもやっとのことで絞り出す。

 

「……どうでもいい他人なんかに認められて何が得られるんだ?」

 

「そんなの気持ちよさに決まってるじゃない。誰もかれもから求められて、頼りにされて、褒められて、チヤホヤされて--堪らなく甘美で最高の瞬間じゃない。

 特に私はその欲求が強くてね--誰にも真似できない、自分だけの一番でなきゃ満足できないの」

 

「それが優しい櫛田ってキャラによるブランドか」

 

「他にも方法はって顔だね。そりゃ、私だって最初の内は頑張ったよ--でも直ぐに限界を知った、勉強でもスポーツでも上が居たし、可愛さに関してもそう。

 誰かの『信頼』を数多く得るのが、大勢に好きになって貰うのが辿り着いた結論--その果てにその人が抱える『秘密』を打ち明けた時なんか、ただの羨望なんかよりも代えがたい美酒なの」

 

 櫛田の顔は語っていくにつれ歓喜が表れ、うっとりしたものになっていく--ただそれも一瞬だった。

 

「でもそれも嘘の上に成り立ってたものだった--崩れるのは本当に一瞬だったよ」

 

「中学の事件に繋がる訳だ--ミスして本性がバレたか?」

 

「まぁね。綾小路くんの言う通り、私には本心を打ち明けられる人が居ない--だからブログでストレスぶちまけてた。

 私だって分からないよう注意してたつもりだったけど、偶然クラスメイトが見つけちゃってね--内容から私だって気付かれて、あとはもうぐちゃぐちゃ」

 

「クラス全員を敵に回したって訳か」

 

「勝手だよね。こっちは散々我慢して付き合って助けてあげてたてのに、あっさり手のひら返して--生涯で三番目(・・・)に身の危険を感じた瞬間だったよ」

 

 更に上の二つの恐怖は言うまでもない--ただその二つは元凶である嬰児の気まぐれで事なきを得たが、三番目に関してはどう凌いだのか。

 

 五体満足の身体、極限状態でも正気を保っていられる精神性--櫛田自身に何かされたとは見受けられない。

 何より崩壊したのはクラスであり、何処まで行っても普通の女子である櫛田がどうやったのか。

 

(皆目見当が付かない--それが嬰児でもどうにも出来ないと言い切るなら、どんな手段が?)

 

 

 いよいよ話の核心がと綾小路の目に好奇が宿る--それを見た櫛田は勝ち誇ったような余裕を浮かべる。

 

「話を続けてもいいけど、それでもタダって言うのは良くないんじゃないかな?」

 

「口約束でいいなら結んでもいいが、それじゃ駄目だよな。何をして欲しい?」

 

「そんなに身構えなくてもいいよ--牛井嬰児について何処まで調べたのか、ひとつだけ教えて。具体的には私を殺そうとした能力以外に危険なのがあるのかどうか--何かまでは綾小路くんの任意でいいよ」

 

 嬰児の異能が複数あること、更に綾小路が調べ上げていることが前提の問い--確実に試されている。はぐらかすか、適当に答えるか、はたまた嘘だと判断されれば、手を組む価値は無いと櫛田は話を切り上げる。

 

 そして綾小路とはどうしても仲直り出来ないと、誠意を見せたのに嘘で返されたと〝端的な事実〟を以て悪者に仕立て上げて綾小路の居場所を無くしにかかるだろう。

 

 綾小路は選択肢が無いことを悟り、櫛田の要求する内容に沿ったものを思い浮かべ、その中で自分が一番驚いた異能を話すことにした。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。