どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
朝になると漸く返信が来た--送った時刻はついさっき、やっぱり昨夜はお楽しみだったか?
そこは今日の放課後にと指定して来たからおいおい聞き出すとしよう。
了承すると送り、朝の準備を整えて教室に向かう--ただいつも通りとは違うことが起こった。
「おはよう、嬰児くん」
櫛田が元気いっぱいの笑顔で挨拶して来た--あの日以来、俺のことは極力避けてたのに。
一体、どういう風の吹き回しだ?
しかも事はそれだけじゃ終わらなかった。
「あのさ、よかったら一緒に行かない?」
「え、いいのか?」
こんなことは初めてだから思わず訊き返してしまった。
「うん。勿論だよ」
対して櫛田は満面の笑みのままで肯いた。
まぁ、断る理由もないからとそのまま一緒に教室まで行く--道中に何かしらあるかとも思ったが何もなく普通に歩いてただけ。
本当に訳が分からないな。
***
その日の授業も滞りなく終わり放課後となった。各々が勉強会に赴く中で違う行動を取るのが数人--人通りの無い海沿いの道に集まった。
「さながら吊し上げでも喰らうシチュエーションだな」
「嬰児くんさ、せめて告白とかロマンチックなのとかはないの?」
「ちなみにその場合ならオレは櫛田と嬰児のどっちの仲介役だろうな」
他愛のない会話を始めるが、日が沈み暗くなってくるにつれて
「また妙な場所を指定するな--誰にも聞かれたくないなら心配などせんでいいのに」
嬰児の言に櫛田は若干肩を震わせ、綾小路は冷ややかな目で周囲を見て言う。
「ここで始まった以上は、ここで蹴りを付けるのがいいと櫛田のリクエストでな--オレも意外といえば意外だったよ」
「なんと、そうなのか?」
「うん。ケジメをつけるならこの場所かなって」
そう言いながらも櫛田には冷や汗が見て取れ、まだ無理があるようだ--それでも嬰児からは目を逸らさずに続ける。
「今日の話の結果次第で私は退学することも考えてる--だから命は勘弁して欲しい。まずそれを約束してくれない」
「そうしないと話が進まないなら別にいいぞ--この場限りならな」
「十分だよ」
櫛田は綾小路を視界に居れると肯き、逃げる為の協定が結ばれてることを察せさせる。
「なるほど、どうやら相当な覚悟を持って来たようだな。で、あの日見たことを口止めするのが望みだろうが、その為に俺に退学しろとか言うなら―――――」
「言う訳ないでしょ!」
ぶり返した恐怖が限界を超えたか興奮して叫ぶ櫛田--それも直ぐに収まり呼吸を整えて改めて嬰児を見る。
その目はあらゆるものを取り払った暗く濁ったものだった。
「その事に関しては正直、もうどうでもよくなってきてる--嬰児くんが居る限り、気持ち良さなんかに酔えないからね」
自らが最も求めていた承認欲求も命の危機を前にしてはそれどころではない--全ては安心の上にこそ成り立つもの。
それ故に欲するものを根底から破壊する過去を知る堀北も退学にしたかった--嬰児が異常なれども多くに縛られ、そう易々と動くことが出来ない存在だと知った時は障らずに放置しておけば問題ないと希望に心が躍りもした。
だが甘かった--牛井嬰児には反骨精神があり、自分の命を粗末に扱うことにもそこまで躊躇いがないと体育祭にCの異常さを見て再び恐怖に襲われた。
否、当時はより大きな恐怖が起きると精神が生涯で極限まで追い詰められた--異常に能力が上がったCの相手をしていた時の愉しそうな顔にそう思わせる論拠を見た気がした。
「嬰児くんさ。無人島の時みたいに自由にやりたいんだよね?でもやったら思わぬ特例がわんさか出た--もう何もするなって言うみたいに。それが嫌なんでしょ?」
櫛田が出した結論--これは綾小路も同様であり、牛井嬰児に対して考察している者たちも二人ほど明確でないが辿り着いているものだ。
どう答えるのか--櫛田と綾小路は息を呑み緊張しながら待つ。
「お前ら、それ本気で言ってるのか?」
失望交じりのニュアンスに櫛田は慌てることなく冷静に返す。
「ははは。じゃ、やっぱり高円寺くんのも嬰児くんの仕業だったんだ」
「いいのか、そんなことオレたちに喋っても」
無人島で連れ戻された原因は大凡の察しがついていたが、そこには触れないでおこうと言う二人なりの配慮だった--これはひょっとしたら異能を知る者だからこその信用かとも思ったが、
「そんな疑いが掛けれての処置だ--これがどういう意味かまで解説せにゃならんか?」
「大ぴらに被害が出たら、関係なくともしょっ引かれる--下手すりゃ、こっちも巻き添えにされるか」
「でもそれって表向きには被害が無きゃ--疑いを掛けることが出来なきゃってことでもあるんじゃない?」
嬰児の言いたいことを瞬時に理解し且つ、興味が出る方向へと誘って来る--ここで漸くと嬰児の顔にも面白さが出て来た。
「櫛田からそんな台詞が出るとはな--どういう心境の変化だ?」
「どんな約束したって嬰児くん自身に決定権が無いんじゃ無駄でしょ」
異常さに怯えながらも見えて来た背景--そして、先の綾小路との会話から見出した新たな希望を思い出しながら櫛田は意を決した。
「それを持ってる人たちは嬰児くんよりも凄いことが出来るんだよね?」
「だとしてお前らには縁のない話だぞ」
「だったら、その縁を作って欲しい」
思わぬ申し出に一瞬、言葉に詰まる嬰児--そして横で見ていた綾小路は正面から申し出たことに感心しながらも出遅れたとも言うような複雑な気分だった。
(あの時から考えなかった訳じゃない--ただ命を懸けることを本気で決意するとはな)
「……そうまでして何を願う?」
持ち直した嬰児が問う--この手の会話は初めてではない為、余裕があったが直ぐに斜め上の事態になった。
「そんなの叶えられる権利を得てから考えるよ。本当に何でも叶うんでしょ?」
聞き返された内容に含みが透けて見えた--ただその程度で動じるような男ではなく、あっさりとした口調で易々と返す。
「そうだよ。ただ繰り返すがお前には無理だ--何故ならそれを得るには俺よりもずっと強い
「随分とあっさりと白状するんだな」
綾小路の指摘--そのニュアンスは疑問よりも共感のようなものがあった。
言ったところで意味のない荒唐無稽な事情を抱えている者同士--されどお互いに知る由がない。だからこそ全てを暴き優位に立ちたいと好奇心が刺激させられる--この場に居るもう一人もまた。
「フフフフフ。そっか、そっか--嬰児くんよりも凄いのがそんなに沢山居るんだぁ。世の中って広いね。ね、綾小路くん」
「ああ、そのようだな」
心底愉快そうに言う櫛田に理解が追い付かないまでも綾小路は主張には同意であり、ぎこちなく肯いた。
「うん、分かった--嬰児くんが何も決められないんじゃ、これ以上言ったって困らせちゃうよね。だからその話はもう言わない」
「ほう。なんとも聞き分けがいいな」
嬰児はそう言ったがそれで話が終わるとは思ってもおらず。案の定、櫛田は心底愉快そうな顔で続けた。
「でも私は命が大事だし、欲しいものに妥協するのも嫌--だから、これからどうして行くかを決めたよ」
「退学する気は無さそうだし、俺に絡むのを止めるって訳でも無さそうだな」
「せっかちだね--その前に確認させて、嬰児くん。期末試験に関しては何かするつもりはないんだよね?」
「今回は学力向上の為に勉強するしかないからな」
「そう。何もクラスに協力する気もないみたいだけど、裏で何か助けになるようなってのもないの?あ、答えたくないなら別にいいよ」
「個人的な用件があるだけだと言っておく--クラスの有利にも不利にもなるようなことはしていない」
「じゃ、試験は形式通りに行って終わると見ていいんだよね?」
「他に動いてるのが居ないなら、そうなるな」
「そっか--じゃ、話すのは試験が終わるまで待って貰えないかな?一緒に言いたい人が居るんだ。それには試験が終わるタイミングがベストなの--駄目かな?」
「いいよ。別に急ぐ訳じゃないし」
「ありがとう」
嬰児の了承を得た櫛田は満足そうな顔で綾小路に向き直る。
「綾小路くん、堀北さん達の勉強会だけど、明日から積極的に参加するよ。勿論、要望通り指導役でね--ただ話をするのは同じく試験が終わるまで待って貰うから、これでお役御免。今まで面倒掛けてゴメンね」
「そうか、それは何よりだが……ここでの事は結局どうするんだ?勿論、オレは言いふらす気は無いが」
「右に同じくな」
櫛田は二人に向かい、いつもクラスで見せている笑顔で言った。
「うん、信じるよ。二人のこと--それも含めてどうするかも今決めたから、気にしなくていいよ」
「じゃ、楽しみは後に取っておくってことでいいか?」
「そうして下さい--じゃ、また明日」
揚々と去って行く櫛田の背を見送りながら、嬰児は釈然としないままに言う。
「これって仲直りしたでいいのか、それとも保留か、どっちなんだ?」
「オレにも分からん--ただクラスにとっては良い方向に行ったんじゃないのか」
「う~ん……そう思うことにすれば悪くない会合だったかな」
やはり釈然としないのが抜けきらず、綾小路としても何を言うべきかが分からないので、それ以上の会話もなく寮に戻った。
***
何事もなく日々が過ぎていく--何よりも結構なことだが、少々気味が悪くも感じるな。
あれから櫛田は以前の明るさ……いや前以上に明るくなって勉強会にも積極的になってると聞いた。
「ねぇ、櫛田さん。今度さ新作の映画が公開されるんだけど気晴らしに行かない?」
「いいよ。でもその前に今日、仮の試験問題作ったから、ちゃんとやってからね」
櫛田と仲良しの王が誘うと笑顔で肯いてる--その笑顔のまま続いた言葉に聴いてた殆どの奴らから冷や汗が出たな。
「う、うん。それは勿論だけど……なんだか、かなり厳し……張り切ってるね」
「厳しいでいいよ--でもそれも当然でしょ。本当に倒さなきゃいけないのはBクラスなんだから、そこに勝たなきゃCに勝ったって意味がない。ちなみに仮問題は堀北さんたちと一緒に作ったやつだから、しっかりとやってね」
堀北の奴も無言のまま意味深な、それでいて凄く嬉しそうな笑みで肯いてやがる--そして二人して俺にさり気なく目線を向けて来る。
何かしらのご褒美……じゃない好条件を引き出す気なのは分かるが、どうにもまだ認識がそれぞれズレてそうな気がするんだよな。
「ホントに凄い気合いの入りようだよね--櫛田さんってあんなキャラだっけ?」
軽井沢がさり気なく俺に話しかけて来た--普通のように見せてるが若干の焦りが垣間見える。
「クラスの中心があの二人にシフトしていくのがそんなに不満か」
「そ、そう言う訳じゃないし--た、ただあたしは付いていけなのも出て来るんじゃないかって――――」
ズバリ言って見たら目に見えて慌てて取って付けたようなのを並べる--なんか胡散臭いな。
ただ丸っきり嘘だとも思えず、それなりの本心も混じってるようにも感じる--何がしたいのかは分からんが、兎に角目立つから他所でやって貰えんか。
「あはは、軽井沢さんの言いたいことも分かるけど、こればっかは勉強するしか--頑張るしかないから。厳しくても心を鬼にするのも必要だと思うの」
「その通りよ--増してや戦うべき相手がBクラスなら尚更正々堂々とやるしかないわ」
櫛田と堀北の物凄~く息の合った連携に軽井沢だけでなくクラス中が圧倒されるのが分かる--もうちょっと陽気な感じのことなら拍手でもありそうだ。
「わ、分かってるけど……一応の目標はCとの差を縮めることでしょ?」
「それで満足しちゃ駄目だよ。本当に倒さなきゃいけないのはAクラス--軽井沢さんだって早く見たくないの、あの二人が戦うのを?」
「た、確かに……」
「ずっと言ってるもんな」
「イチャイチャもいいけど……やっぱ見たいよな」
勢いを殺すことなく櫛田が更に巻き込んだ--この場に綾小路が居ないのが残念だな。
「あたしは櫛田さんがなんだか変わったみたいだなって--嬰児くんはどう思う?」
「変わったのかどうかは分からんが、少なくとも上を目指す気概が強くなったのは間違いないな」
問題は俺の迷惑な方向にあるかどうかだが……。
「当然よ」
釈然としない俺と違い、堀北は力強く肯いている--さながら生涯のパートナーとでも言うような様だ。
どうせなら、それがそのまま本当になって欲しいものだ--お前もそう思わないか、綾小路?
***
「…………?」
「どうしたの、清隆くん?」
「いや、なんか--妙な感覚がな」
「清隆くん--ひょっとして坂柳さんに何かあったとか?」
「いや怖気とか悪寒とかの類じゃないぞ。愛理」
速攻で否定する綾小路に佐倉は困った顔になり、長谷部がやれやれと言うように話に加わって来る。
「いや、きよぽん--愛里は寂しいんじゃないかってことをね」
「それも違うだろ。これは何かしらの中毒が起こってるんじゃ」
「あり得るな。こんだけ疎遠になるのなんて夏の旅行以来だもんな」
幸村と三宅も面白おかしく分析され、綾小路としては面白くなかったが……。
(……言い返したいと思えない。何故だ?)
と自身の不可解な感情が先走り無言になってしまう。
そして誕生日に届いた上等なニットセーターを思い出す--プレゼントを貰ったこともさることながら、服のブランドもセンスも分からないからか、シンプルなデザインでこれからの季節に合わせての暖かかそうでもあり、その時もまた不可解な感情に心が戸惑った。
「あー、きよぽん。やっぱり図星?」
無言のままでいる事に長谷部がニヤニヤしながら訊いて来る--他も同様の顔であり、心底面白そうだった。
「……有栖は心配するような事は何も無い--オレが気にしてるのは試験がどんな決着になるかだ」
「ゆきむー、どう思う?」
「前半は兎も角、後半は取って付けた言い訳だな」
これに負けじと三宅と佐倉も参戦してくる。
「けど坂柳のことを言い切るあたり、俺らの知らない所でこっそり会ってたりとか?」
「だったら水臭いよね--冬休みに二人きりになり辛いのは分かるけど」
面白そうに語りながらも冷静に要点を抑えてくる辺り性質が悪い--特に佐倉が指摘した二人きりになれないは、綾小路としては余り歓迎できない話題だ。
「そんな先のことなんか考えてない。第一にオレが考えても仕方ないことだ--なるようになるしかないだろう」
「もうダメだよ--坂柳さんは物凄く楽しみにしてるんだから」
半ば本気で諦めてるかのニュアンスに佐倉がいち早く反応する--恋する乙女を応援する乙女、そんなキャラが固まってきている。
次の
(どうしてこんな事になるんだ?なぁ、嬰児--
全ての元凶であったアクシデントを思い出し……不快さと同時に胸の高鳴りが襲う。
最近は後者が勝ってきており--益々持っての不可解さに更に戸惑う。
「もう清隆くん。照れちゃって--そう言うのは坂柳さんと一緒の時でなきゃ」
その戸惑いを自分好みに解釈した佐倉が笑顔のまま言う--周りも同じ顔で肯いている。
そんな佐倉たちを見ながら綾小路は思った。
(やはり人は見たいように見る生き物なんだな--こっちはまだいいとして、あっちの方はどうなることか?)
流石に慣れたのか持ち直しも早く、直ぐに肝心なことに思考を切り替える--全ては試験が終わってから、良くも悪くも早くなって欲しいと思う今日この頃だった。
***
長いようで短い日々が過ぎて今日から十二月、試験まであと三日だ。
そして今日は問題提出の日--今回、
「よう鈴音--こうして話すのも久しぶりだな」
不敵にそれでいて
「偶々なのか、そうでないのか--どっちにしても嬰児くんに来て貰って正解だったわね」
言いながら俺を壁にするような位置に移動してくる--警戒するのは尤もだが、これだけでいいんだよな?
「ククク--なんだ牛野郎に盗らせる気か?そんなことしても結果は変わらないと思うぜ」
その通りだが、胸張って言うことか?今回のような場合に。
「ええ、そうね。碌に勉強した様子の無い貴方たちなんて敵じゃないわ--私たちが倒さなきゃいけないのは、あくまで一之瀬さんたちだもの」
知りえた事実を基に強気に言う堀北--例えハッタリでも一切の油断はしないか、良い傾向だ。
これ以上の問答は無用と職員室まで足を進めていき、その横を龍園も歩く--傍から見ても仲良しとは映らず、戦いの場に赴く戦士の様だ。
これで本当にフェアが成り立ってたら盛り上がるんだがな……。
職員室前に着くと双方の担任を呼び、まず坂上先生がやって来たので龍園が封筒を渡す。
「それじゃ、後は頼むぜ」
「確かに受理した」
無駄のない遣り取りの後で入れ替わる様に茶柱先生が。
「持って来たようだな」
同じく手早く封筒を渡す堀北--龍園を警戒してても全く何も起きない。要するにこの場で鉢合わせたのも偶然だってことかな。
「確かに受理した」
そう言って戻って行く茶柱先生と同時に堀北が言う。
「用件は済んだわ。帰りましょう」
「ところで鈴音。桔梗の奴は元気にしてるか?」
「なんであなたがそんなことを?それに馴れ馴れしいわよ」
そこに龍園が笑いながら訊いてきた--対して堀北は即答で返した、かなりの苛立ちを籠めて。
「おお、怖--そんなんじゃ嫌われてても無理ねぇよな」
「質問の答えになってないわよ……ちなみにあの問題は櫛田さんも一緒に作成した物よ。私たちの間に問題なんてないわ」
「くっはははは--こりゃ傑作だ。何も知らねぇんだな」
ああ、そう言うことか--龍園の意図が見えて来たな、それは綾小路も同様のようだ。
このまま聞かせていいのかと迷ってるのが分かる--ま、いいんじゃねぇの。
俺は成り行きを見守ることにして、そんな俺の態度から綾小路も龍園と堀北の会話には無言のままでいる。
それとなく『地の善導』で辺りを探るが誰も聞き耳を立ててはいない--茶柱先生なら聞いてるかなと思ったんだがな。
「なら教えてやる。船上試験の時に、桔梗からオメエを退学させたいって相談されてな。色々と連んでやったのは楽しかったぜ--今はもう力不足で振られちまったんだが、それでも気が変わったんなら一緒にやりてぇもんだ」
この場に来て船上試験圧勝のからくりを暴露か。しかもそれが今でも続いてるかも知れないというニュアンス--体育祭は兎も角、このペーパーシャッフルはって揺さぶりにはなるか。
「その話、何か信じるに足る証拠でもあるのかしら?」
「俺が一方的に言うのはフェアじゃねぇから桔梗に直接聞いてみろよ--しらばっくれるなら、俺が後で証拠を届けてやる。そう言えば喋るんじゃねぇか」
ああ、こりゃ確実にあるな--ここまで自信満々だと疑う余地が無い。
言いたいことを言って行ってしまう龍園を見ながら堀北はジッと考えてる--さて何か飛び出して来るか、来ないままになるのか。
「……試験が終わったら櫛田さんと話す場を設けるって約束、忘れてないわよね?」
「ああ」
「なら何も問題ないわね。行きましょう」
振り向きもしないで言う堀北に綾小路は肯定したが、どうにも嫌な感じが漂いなんとも不気味だ。
ただ反面、どんな思考展開がされてのか興味もあるな--この前の櫛田も何だか想像の付かない結論を得たようだし、ホントどうなるもんかな?
そうして迎えた期末テスト初日--教室に着くとこれまでは違う場面が見れた。
慌てながら問題を暗記したりする三バカも粛々と最後の確認に勤しんでる--この学校ならではとも言えるな。
四月では考えられない……あの苛立ちが過去になった瞬間でもある。
と言うか、あの頃と比べたら俺も変わったかな。
「おはよ、嬰児くん。いよいよ始まるね」
そうだが、声を掛けるべきは俺じゃないだろ--軽井沢。
「今回はかなり自信がありそうだな?」
ただ俺を気に掛けるのは分からないでもない--接触がかなり減ったから忘れがちだったが、擦り寄りたいってのは健在のようだ。
「うん。問題傾向も幸村くんが予想してたし、合わせて綾小路くんにも鍛えられたからね」
ほう。今回は関わらないでいたが、漫然と勉強を積み重ねて来ただけじゃない--律義に教えてくれるのもそうだが、クラス全体が成長してると。
それは比例して俺もそれなりにやれることに繋がる--こいつの期待も高まってる訳か。
「なら俺も頑張りに応えないとな--クラスメイトとして」
「期待してもいいよ--きっと嬰児くんが望んでるようなことになるから」
少し
自信の程についても積み重ねた物の裏打ちがあるのは間違いない--だがそれは本来倒さなきゃいけない
それに事と次第によっては波乱が起きる可能性も捨てきれない。
パートナーである外村にも最後に一喝しとくかとも思ったが、あいつにしても今回は余計なことか--いつになく真面目に真面目に取り組んでるし、あの調子なら大丈夫か。
俺も静かに待ち、予鈴が成った。
茶柱先生が入ってきて机上には筆記用具だけを残してあとはロッカーに--全員の準備が済み茶柱先生が口を開いた。
「これより期末テストを行う。一時限目は現代文だ」
そのまま一人一人の机に問題用紙を置いていく--配り終わると注意事項の伝達が始まる。
「試験時間は五十分。トイレや体調不良等どうしても我慢できない場合は挙手して申請しろ--それ以外は一切認めない」
伝え終わるとまた少し静かになったが直ぐにチャイムが鳴り、
「始め」
同時に茶柱先生の合図で一斉に問題用紙をひっ切り返す--難度は絶妙と言っていい内容だな。
あの
しかし今回その形跡は全くなく、授業範囲内で難易度の高そうなのを片っ端から並べたって感じだ--Cクラスにも勉強の出来る奴はいるのは分かってたが、その適正を十二分に発揮している。
これは何を褒めるべきか判断に迷うものだ。
されど現状ではⅮクラスもそれは同じだ--Cの問題担当が金田だと予想して、作成すると予測した仮問題も回ってきた。
成果は上々と言える--ピンポイントでかなりの問題が出ていた。
落ち着いてやれば勝てると確信した--何故ならクラスでは誰一人例外なくそうしてるから。
この一か月弱でどれだけの物を積み重ねてきたのかが窺い知れる--皆が頑張って結果を出そうとしてるなら、俺も応えなきゃ失礼だよな。
***
「よっしゃー!やっと終わったー」
二日間に渡る期末テスト--特別試験ペーパーシャッフルが終わった。
多くがやり切った顔をしており、かなりの手応えを覚えたようだが全員とは言い難かったようだ。
「すまねぇ、鈴音。前より点数取るつもりだったのに……確実に下がっちまった」
心底申し訳なさそうにする須藤--ただ中間試験よりも平均点が下がったのは彼一人と言う訳でもなかった。
「俺も大丈夫かな?」
「結構難しいのもあったよね」
次々と不安を口にするのが表れるが、
「心配ない--お前たちの分もこっちがフォロー出来たと確信してる」
「そうだね。Cの作った問題も簡単じゃなかったけど、それでも自信がある--Ⅾクラスで退学者は出ない」
幸村と平田の成績優秀者が揃って宣言し、淀みを一気に払拭する。
「その通りよ--ペアで取るべき692点をあのテスト内容で大幅に上回ったなら上出来な部類よ」
最後に堀北が余裕を持ったニュアンスで言い切って締めた--ただ心なしか、彼女が上機嫌なのはそれだけではないようだ。
「櫛田さん。今後のことも含めて話したいと思うのだけれど、いいかしら?」
それは堀北鈴音にとって待ちに待った時だった--提示された条件を呑み、試験においても自信を含めて最善を尽くしたと言える状態であり、堀北の人生で最もテンションが上がっている。
(初めて目的を共にできる人が出来る--それがこんなに嬉しいものだなんてね)
僅かではあるが綾小路と坂柳の気持ちが分かったような--そんな感想まで湧いてくるほどに嬉しさに満ちていた。
「うん、いいけど。ただ場所を移さない、嬰児くんもその方がいいよね?」
「ああ、まぁ……」
嬰児にしては珍しく歯切れの悪い返事だ。
「なら早く行きましょう--ちょうど私も言いたいことがあるの」
連れだって教室を出る三人--ペーパーシャッフルを牽引して来た堀北と櫛田、今回は手を貸さなかった嬰児。
普通に考えればひと悶着ありそうだが、嬰児の特異性と体育祭終わりでのやり取りを考えれば、この後の展開--そしてこれからの展望には大いなる期待感が湧き上がる。
「嬰児くんが言ってた堀北さんの信頼したい相手って」
「もう間違いなく櫛田ちゃんだろう--さっきの様子だと」
「ああ、今から握手してAクラスを、ってことだよな」
「ちぇっ、水くせぇな……そんなのここでやりゃいいのに」
「ホント、ホント」
皆の前でやらないことに愚痴も出てきたが不満はなく、寧ろ楽しみが増えたと言った感じが蔓延する。
「みんな、浮かれてばかりはいられないよ--堀北さんも本気でAクラスを目指す為に腹を括って櫛田さんも認めた。嬰児くんも力を出せるようになるなら、本番はこれからなんだから」
それを感じ取った平田は厳しい現実を突きつけることを言った--ただ、その声も表情も嬉しそうであり、クラスの中で一番期待しているのが分かる。
「なんだよ、平田--見せ場が少なくなるのがそんなにいいのか?」
「正直、肩の荷が下りたって気分かな--それに僕の出番は寧ろ増えると思うしね」
その最後の台詞に浮かれ気分の半分は飛び、全てはこれからである--そんな緊張感が湧き上がった。
ただクラスの空気に一切酔うことのない例外も居た。
(本当にそうだと良いんだがな……)
綾小路は盛り上がりに水を差すそうなので何も言わなかったが、どうにも奇妙な胸騒ぎがして仕方がなかった。
しかし直ぐにそんな気分は吹き飛んだ--端末が震え〝あのアプリ〟が起動していたからだ。
(ついに来たか……)
***
もっと人気のない所に行くと思ったんだがな。
俺たちが今居るのは人通りの激しいケヤキモールのカフェ--テストが終わった打ち上げとあちらこちら盛り上がってて、とても落ち着いて話をするような場所じゃない。何よりこの店は……。
「櫛田さん、打ち上げも兼ねてならカラオケとかに――――」
「そんなんじゃない、こういう場所じゃなきゃダメなの」
他に行きたい堀北の提案をばっさりと切りながら、しきりに時間と入り口を見てるのは他の『誰か』を待ってるのが妥当だろうが、さて誰が来る?
「嬰児くん。テストはどんな感じだった?ちなみに私は、平均80点はいけたと思ってるんだけど」
いつもの櫛田らしくない粛々とした……いや、ぶっきらぼうな言い方…………いかにも適当な話題をって感じだ。
「書き間違いとかがなきゃ問題ないかな。外村も大丈夫そうだし」
俺と組むことに胡坐をかかないよう最初に尻を叩いた甲斐もあったな--テスト中の様子を窺う限り平均点はクリアしてるだろ。
「それは重畳ね--あの難度でそう言い切れるなら確実に勝てるわ」
堀北がしっかりと話に混ざって来た--いい加減に自分の話を進めたくて仕方ないって感じか……。
気持ちは察するが、とっとと進めていいものか判断に迷うんだよな--今回は。
「Cクラス、勉強してる様子あんまりなかったもんね。精々、一夜漬けレベルかな--そうなるとやっぱり退学するのも居たりするかな?」
「それは終わってみるまでは分からんだろ」
「あはは、先の事は神様でもなきゃ分からないよね」
櫛田と目の色と声のニュアンスが分かり易く変わった--この話題を振るのが最初から決めたか。
で、何がしたいのか、やっと教えてくれるか。
「これは独り言なんだけど、嬰児くんが神様を信じてるのってさ--嬰児くんに特例を出す偉い人たちより上が居ないから、つまり嬰児くんの上に居るのって文字通り本当の世界のてっ辺に居る人たちってことでいいかな?」
「櫛田さん、あんまり詮索するのは――――」
「ただの独り言だよ--何も答えなくていい」
そう言った櫛田の目には好奇心……いや欲望を隠そうともしていない--そこに丁度待ってのが来たみたいで視線を追うと、
「……ああ、なんだか間の悪い時に来ちゃったかな?」
一之瀬がバツの悪そうに居た。
「テストの結果の事で呼ばれたと思ってたけど……思いっきり違うみたいだね」
「そうだよ--どうせだから帆波ちゃんにも一緒に聴いてもらいたくてね」
櫛田の態度は揚々としたものだが、反対に堀北と一之瀬はただならぬ雰囲気に冷や汗が出てる--かく言う俺も何が起こるのか、どうにも嫌や予感がするんだよな。
「まず堀北さん、Aクラスに上がる為に力を貸すのに私も異存はないよ--ただ手を取り合って訳にはいかない。何故なら私の願いはAクラスになったって叶うとは思えないから」
「Aの特権じゃ足りない……櫛田さん、貴女まさか」
おや、堀北も櫛田の言いたいことを察したか--ま、ずっと俺を見据えて言ってるし、さっきの独り言を加味すれば不思議じゃないよな。
「私は嬰児くんのバックと同じ所に立ちたい--Aクラスはその為の踏み台にしかならないでしょう。私の目的の為に貴女を利用させて貰う--それが私の出来る最大の譲歩だよ」
「あの、櫛田さん……なんかキャラ変わってない?」
一之瀬が慄きながらも仲裁に入って来たが、完全に圧倒されててタジタジだ--それでも何とか言葉を捻りだして来たのは褒めてやるべきか。
「ってかさ、そもそもなんで私も呼ばれたのかな?Ⅾクラスの中の話でしょ、これって」
「嬰児くんと一番近いのって帆波ちゃんって認識でしょ--それも今ここで終わりにしたくてね」
そう言いながら櫛田は一之瀬を見据えた--その目に込められた感情は闘争心がしっかりと込められており……同時に俺には濁った我欲が込められてるようにも見えた。
ああ、本当に世の中は何が起こるのか分からないもんだねぇ……。
「嬰児くんの隣に立つのは貴方じゃない--この私よ。
そして私は手に入れて見せる--Aクラスも更に先にある栄光も全部!」
言いながらの櫛田の顔が普段の天使から、どんどん〝あの時〟のものへと変わっていく--最早開き直ったを通り越してるな。
面と向かって言われた一之瀬もそうだが側で見ていた堀北--それどころか店中の奴らが見てドン引きしてるぞ。
「だから嬰児くんは渡さないよ--堀北さんも不甲斐ないのを見せたら遠慮なく刺すから、その覚悟を持ってよね」
やれやれ、これまた強烈な宣言……いや宣戦布告でいいのかな?
しかもテストの終わりにこの店を選んだのも
ま、二度目だもんな。
「またⅮクラスか」
「この店で派手なことするのが好きなのかな?」
「でも
「いやいや男を巡っての四角関係とか、修羅場感あるじゃん」
「でもあいつ、特例の奴でしょ--なんか今更じゃない」
「そうそう、熱烈なラブシーンの方が上だよ」
「今じゃもうラブラブの夫婦だもんな」
そう。この店は坂柳と綾小路との
幸いなのは前の方が断然インパクトが高かったことだが……それでもやはり複雑な気分だ。