どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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忘れた頃に来るもの。

 

 さて結局のところ、ペーパーシャッフルではどのクラスも退学者は出なかった--そこも気になるが、それ以上に珍しい事態になり話題が持ち切りだ。

 

「Bクラスと引き分けか--総合点が同じなんて偶然が起こるなんてな」

 

「ホント、ホント--偶然って恐ろしいよな」

 

 そう俺たちⅮクラスとBクラスは引き分けたのだ--これにより両クラスのポイントの変動はなくなった。

 

「でもいいんじゃねぇの。結果的に俺ら50のプラスになったんだし」

 

「そうそう、逆にBはAに負けてマイナス50だもんな。一歩前進だぜ」

 

 なんとも楽観……いや前向きな意見だ。出来ればそのまま過ぎて欲しいが、そうもいかんだろうな。

 

「一歩じゃなくて半歩だよ--ああ、あと一点取れたら」

 

「その通りね。Cへの昇格も微妙だし、歯痒いわね」

 

 櫛田と堀北--Ⅾクラスの主力の二人が出て来て、教室内に張り詰めた感覚が広がっていくのが分かる。

 

 あの妙な宣言は当然の如く学校中を駆け巡った……曰く、今度はⅮクラスの女子が男を巡って宣戦布告したと。

 

 これが普通の拗れた色恋とかなら二番煎じで印象も薄いんだろうが、櫛田が欲しいのは俺とセットになってる特例の出所--要するに欲得ずく、それもこれ以上ない程の明確な我欲だ。

 

 その余りの清々しさは新しいネタとしては十分であり、面白おかしく噂が回った……勿論、Ⅾクラスだって例外じゃない。

 

「く、櫛田さん……言いたいことは分かるけど、皆頑張ったんだし――――――」

 

「みーちゃん。そう言うのは、これからは平田くんに言ってもらえないかなぁ--その方がいいでしょ」

 

「え…あ……その…………」

 

 なんだか櫛田の妙なニュアンスに王が狼狽えだした--さて一体何だってんだ?

 

「なんなら私が見繕ってもいいよ--スッキリしたらモチベーションも上がるんじゃない」

 

「そそそそ、それはいいって!」

 

 思いっきり拒否した王の目には酷いと訴えが見える--相当弄られたくないようだが、既に手遅れだな。

 

「なら、いいけどさ。その気になったらいつでも言ってね--溜め込むのは良くないと思うからさ」

 

 言ってることは概ねまともなんだが、ニュアンスが何とも意地悪と言うか全く善意などなくも感じる--端的に言えば卑しい感じだ。

 

 完全にぶりっ子やめたか。

 

「ねぇ、櫛田さん……いくらなんでもらしく無さすぎるよ、どうしちゃったの?」

 

「ゴメンね。私にも綾小路くん同様にどうしても欲しいものが出来ちゃったの--その為には、それにはまだまだ色んなのが足りなくて今までのままじゃ駄目だって悟ったの。だよね、嬰児くん」

 

 そしてそれをさり気なく俺の所為にしてきやがった--更に周りからも櫛田を変えたのは俺なんだと責めるようで居ながら妙に納得感がある目で見られた。

 

「その通りよ--Aクラスで卒業出来るのは、ひとクラスだけ。

 幸いなことに向うのリーダーも私たちと戦うことを望んでる--その為にももっと向上していかなきゃいけないわ」

 

 俺の代わりに堀北が力強く答えやがった--それもさっき櫛田が触れた綾小路の事も絡めて…………ええい、この前と言い、なんでこんな時に肝心の奴が居ないんだよ。

 

 おかけでクラス中の注目が俺に集まっちまったじゃねぇか。

 

「でも、どうせなら一緒に笑いながら卒業したいよね」

 

 そこに軽井沢が入って来た--この絶妙な感じは助け舟のつもりか?

 

 なんであれこいつも主要メンバーだけに注目が逸れた。

 

「三年の終わりにクラスポイントが並ぶとかしてさ--それなら、みんなハッピーじゃない」

 

「残念ながらそれは無いみたいだよ」

 

 更に平田も入って来たか--もうさながら談笑じゃなくて非公式なクラス会議だな。

 

「部活の先輩が話してたけど、最後の試験で同率になったら順位決定の追加試験があるらしい」

 

「マジで?」

 

「あくまで噂だけどね。何分、前例がないことらしいけど……今回の件みたいになっても不思議じゃないと思うよ」

 

 言ってる平田の顔は愉快とは程遠いものだ--こいつの性格を思えばさっきの軽井沢が言った可能性が一番いいから、可能ならそっちを目指したいと思ってたのが妥当、本当に残念で仕方ないんだろう。

 

 しかしどうあっても勝つのは一人--いやこの場合は席がひとつだけと言うべきか。

 

 やはり大戦に通じるものがある。入学した時からずっと気になってたし、そろそろ学校の上の方にも訊いてみたいものだ。

 

 騒ぎにならないように龍園が普段通り且つ大人しくしてたから、ペーパーシャッフルは無難に過ぎたが、二学期も終わりに近づいている今日この頃なら何らかのアクションが起きても不思議じゃないはずだ。

 

 実際に当初は少なからずの退学者が出ると思うっていたCに関しても0人と意外な結果に落ち着いた。

 Aクラス、それも坂柳が問題作成に関わったなら、まず考え辛い結果だ--あいつが学校関係者の身内でなければな。

 

 そもそもにおいてCを攻撃に指名してきたことも彼女らしくはない--加えて直接出向いて引き当てたのもこうなった今思えば出来過ぎだと穿ちたくなる。

 

 見えない所で力が働いている--今回の場合はCから退学者を出さないよう手心……じゃなくて調整しろとでもされたか?

 

 そうだとするなら近々何かが起こるか、来るかする筈だ--望めるなら俺も直接関わることになって欲しいものだ。

 

「なんか凄く嬉しそうだね。嬰児くんもそうなったら遠慮なくやれるのかな?」

 

 櫛田の期待感満載の問いにまたもやクラス中の目が集まった--どうあっても俺も絡めたいみたいだな。

 

「それはそうなって見なきゃ分からんだろ」

 

「無難ね。それは本心からかしら?もういい加減、色々とバレてるんだし本音を言えるラインぐらいは教えてくれてもいいんじゃない」

 

「僕も堀北さんの言う通り、その方がお互いの為になると思うよ」

 

「あたしも賛成。また居なくなられちゃ嫌だよ」

 

「この国の法とこの学校のセオリー(・・・・)の範囲内ならだな」

 

 要望通り答えてやったぞ--これ以上は無しだからな。

 

「つまり疑わしきが無ければってことだね--じゃ、やっぱりサポートとかバックアップしか無理か」

 

「そうね。あくまで主体的に動くのは私たちじゃなきゃ」

 

 櫛田と堀北が上手いことまとめたか--実に良い感じなはずなんだが、やっぱりなんかズレてる気がするな。

 

「堀北さん。意気込むのは結構だけど、また空回りしちゃってない?」

 

「櫛田さんこそ、欲に目が眩んで酔っぱらってないかしら?」

 

 気がするじゃなくて、確実に主導権争いが勃発してる--それも俺を基点にして、すげぇ迷惑だな。

 

「ふ、二人とも……喧嘩はよそうよ」

 

「大丈夫だよ、平田くん。Aクラスみたいな足の引っ張り合いはするつもりはないから--ね、堀北さん」

 

「そうね。目的に差異はあっても目指すべき場所は同じ--それぞれが信念を持ってやっていくのがベストだわ」

 

 この回答に平田も安堵したが、どうにも望んでる形ではない為か複雑な顔してる--隣に居る軽井沢もな。

 

 しかし、そんな心配は直ぐしてる場合じゃなくなるぞ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日のホームルーム--Ⅾクラスの面々は唖然としていた。

 

 茶柱は冷めた目でそれを見ながら淡々と説明している。

 

「Cクラスから訴えが出た。女子生徒が精神的不調で出席できない状態になり……その原因はⅮクラスの女子にあるそうだ」

 

「な、なんだよ、それ……どうせ言い掛かりだろ」

「試験で負けた龍園が仕掛けて来たんだろうけど……流石にぶっ飛び過ぎだよな」

 

「私語は慎め--事実確認を今行っているところだ。詳細は追って知らせる」

 

 事務的に言って教室を出た直後、教室には当惑が広がったが直ぐに堀北が壇上に立った。

 

「落ち着いて、これはCクラスからの攻撃--言ってみれば場外乱闘のような物よ。冷静さを失ったら相手の思う壺よ」

 

 堀北の堂々とした態度に直ぐにクラスは落ち着いていく。

 

 それを見計らたって堀北は話を続ける。

 

「まずは確認するわ--先生が言っていたことに心当たりのある人は?」

 

 当然、誰も居ない……などと言うようなことにはならなかった。

 

 堀北は教室全体を見渡し、大半が知らないと言った態度の中で目を泳がせるか、当初とは違う困惑を示した生徒たちを見定め、ゆっくりと言う。

 

「佐藤さん、篠原さん--貴女たちがそうなの?」

 

「ち、違うよ!」

「私たちはそんなことしてない!」

 

「私たちは、ね」

 

 しっかりと肝心なことを聞き逃さなかった堀北--それを敢えて口に出したことで大凡の共通認識が教室に広がった。

 

「改めて訊くわ--心当たりはあるの?」

 

 再びゆっくりとした、ニュアンスも怒りや憤りも含まない淡々としたものだ--それ故に平田や彼女たちに近い者たちも何も言えず、クラス全体からプレッシャーがかかった。

 

 ただそれでも彼女たちの口は重く、何かしらの葛藤が見て取れた。

 

 それを察した者が小さく息をついて声を出す。

 

「言いにくいようなら俺が言おう--軽井沢がCの女子を突き飛ばした話だろ」

 

「え、ゆ、幸村くん、なんでそれを?」

「佐藤さん、ちょっと!」

 

 二人の反応は図星だと白状したも同然であり、幸村は構わずに経緯を説明する。

 

「船上試験の時に話題に上ってな--その時は清隆が有耶無耶にしたんだが、まさか今になって来るとはな」

 

 この発言に軽井沢--そして綾小路にも注目が行ったが、

 

「ああ、確かに言ってな」

 

 綾小路は興味がなさげ肯定するだけであり、そちらの目も軽井沢に向いた。

 

「それで軽井沢さん。本当なのかしら?」

 

「そんなずっと前の事なんか覚えてないわよ」

 

 軽井沢はいつも通りの強気に即答--のようでいて若干の焦りが混じっており事実が確定したと堀北は確信する。

 

 同時に綾小路の態度にも解せない者を感じたが、今考えるべきことでないので心の中に留めておこうとも。

 

「そう。でも佐藤さんたちは覚えてる様だから訊くわ--詳しい経緯を話してくれないかしら」

 

 

「そ、その春先にカフェで順番待ちしてたらCの娘と揉めちゃって、それで」

 

「で、でもさ--別に大けがさせたとかじゃないよ」

 

「でも突き飛ばされたことでずっと気落ちしてたって話だったぞ」

 

 歯切れが悪く言い淀んでる佐藤と篠原に代わり幸村が要点を説明し、事態の全体像は把握できた。

 

「聞いてる限りだと丸っきり軽井沢さんに非があるようだけど--今になってが、ちょっと解せないわね」

 

「堀北さん。時間がたてば冷めるのも有れば、逆に溜まっていくのもあるんだよ--嬰児くんはどう思う」

 

 櫛田の明らかに意図的な振り--嬰児はただ言う。

 

「俺は精神だのその手の事に専門的知識はないぞ。よって分からん」

 

「え、だけどこの前、高円寺のことをじょうちゅう……えっと…………」

 

「須藤くん、情緒不安定だよ」

 

「わりぃ、平田。そう言ってたじゃなぇか」

 

 この否定的証言にクラス内からは、今度こそはと言う様な期待感が湧く。

 

「それだけ分かり易かったってことだ」

 

 それでも返答は素っ気なく、肩透かしな気分に場が白けてしまう--この消極的態度は関わる気は無いと言わんばかりであり、軽井沢にも冷や汗が出た。

 

 もっと穿った見方をすれば〝軽井沢恵を切れ〟とも言っているようにも取れ、少なくとも助ける気は無いと見えた。

 

 軽井沢はそれとなく綾小路を視界に居れたが、こちらも消極的で何もする気配はない。

 

(ちょっと、話が違うじゃない!)

 

 船上試験の際には助けるように動き、嬰児にも口添えすると言っていたにも関わらず、全くそうならない--この調子でいけばクラス中から吊し上げをくらうと、悪い方向に想像が膨らんでいき、内心の焦りが加速していく。

 

 一方で嬰児の態度に一部(・・)納得している者も居た--壇上に立つ堀北である。

 

(ここまでの話からすれば彼女を断罪すべきって言うのが〝正しいこと〟なんでしょうね)

 

 以前、立ち聞きした嬰児の親らしき者からの言葉--それを真摯に成していると取るのが自然な見方であり、相手の女子に無礼を働き傷つけたなら謝罪すべきだとするのが普通だ。

 

 しかし納得しきれない部分もある。

 

 これは個人間での遣り取りでなくクラスを巻き込んでの話--Cクラスもとい龍園からの攻撃であり、女子の一件は口実に過ぎないことは明白だ。

 安易に引く姿勢を見せたら付け込まれて際限なく追及してくる可能性は低くない--その事に考えが及ばない男でないことも知っている。

 

(つまりこの件は私になんとかして見せろってことね)

 

 あくまで動くべきはクラスであり、嬰児はその中の要因のひとつ、そしてクラスを率いていくべきはリーダーの仕事--現在、龍園がそうして攻めて来た様に受けて立つべきは堀北でなければならない。

 

 考えを整理し結論付けた堀北は小さく深呼吸して改めて仕切り直すことにする。

 

「相手の娘の状態をここで議論したところで分かる訳ではないわ--本当にしろ、そうでないにしろ龍園くんのことだから深刻な状態に仕立ててると想定しなくちゃいけないわ」

 

「そうだよ。これは個人的な喧嘩じゃなくてクラスでの戦いなんだから--これでクラスポイントが減っちゃったら、更に調子付かせることになるよ」

 

 堀北の言を櫛田が補足して問題の要点が明文化させる。

 

 上に上がり始める兆しが見えて来たのが後退し、逆にCクラスが上に上がる--危機感と対抗心を煽るには十分だった。

 

「負ける訳にはいかないな」

「けどさ、具体的にどうすんだ?」

「そうだよね。聞いてる限り圧倒的に不利じゃん」

「俺らが聴いてても軽井沢が一方的に悪いって感じだしな」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 慌てる軽井沢を尻目に堀北は要点がブレないよう修正する。

 

「今出てる事実だけを見ればそうね--でも気を病んだ原因かどうかは話が別よ」

 

「原因は軽井沢さんじゃないってこと?」

 

「そうだとしても不思議じゃないのがCクラスでしょ」

 

 堀北の指摘により反撃の糸口が見えた。

 

「つまり今回の事は龍園くんの独裁体制が招いた結果だと?でもそれだって証明が難しいんじゃ?」

 

「ええ、その事をピンポイントではね--でも事の発端から今までかなりの時間が経ってるわ。問題の女子がどういう状態だったのかは調べられるわ」

 

 本当に軽井沢とのトラブルが原因で気を病んだのか、それ以降の様子を提示することで信憑性を薄くする--勿論、先の櫛田の指摘のように気丈に振る舞っていただけだと言われるのは想像が付く。されどそれを証明することも困難であり、水掛け論に持って行くことは可能だ。

 

「それと並行して龍園くんがどんな風にクラスを纏めて来たかも出来る限り詳しく調べていかなきゃならないわ」

 

 その上でどちらの言い分が信用に値するか--正式に学校に持ち上がった以上は公正な判断をする者が出て来る。その者たちが白黒つけることが出来ないなら、この件での処分は成立しない。

 

 堀北が戦うべき方針を明確にしたことによりクラス内で盛り上がりを見せる。

 

「よっしゃ。じゃ、まずは聞き込みだな」

「俺、部活の知り合いとかに訊いてみるぜ」

「私もSNSとかしてないか調べてみるよ」

 

「ええ、よろしくお願いするわ--情報はどんな些細なことでも私に上げてちょうだい」

 

 堀北は言いながらクラス内を見て頼もしいを思う反面に危うさも感じ、敢えて水を差すことを決める。

 

「でも今回の事はこちら側に非が無い訳じゃない--軽井沢さん、これはあなたが軽率な行動の結果だと言うのも忘れないで」

 

「な、なによ……そんなの只の口実でしょ!」

 

「その口実を与えることが問題なのよ--それ以前にその身勝手な言動は改めるべきことだわ。万が一、向う側の言い分が全て本当だったとしたら私は庇うことは出来ないわ」

 

 決して甘い訳ではない--今回の件はクラス全体での戦いを要している故に力を貸すことになっただけ。

 軽井沢恵が女子を纏めクラスに益をもたらす存在であることも手伝っている。

 しかしそれがなければ、或いは不利益が上回るような事態になったなら、容赦なく切る--堀北の態度からはそんな含みを感じさせる。

 

「……もうそんなことはしないって約束する。悪い所があるなら直すようにする」

 

 慄きながら反省の意を示す軽井沢--それは彼女だけでなく上がり調子で気が緩んでいた者たちにも引き締める効果を生んだ。

 

 このひと幕により堀北が完全にⅮクラスのリーダーとして確立した……とはならなかった。

 

「でもあとであたし一人が謝りに行くってのは嫌だよ--あいつら一回引けばどこまでもつけ上がるタイプだもん。謝るとしても絶対に終わりって形でなきゃ、あたしは行かないよ」

 

「……勿論、ケジメを付けることは大事だわ。既に公になっている以上、その機会もあるでしょうから、そこを最終的な着地点としましょう」

 

 軽井沢の要望を汲む形で堀北が話を纏める--決して独裁(ワンマン)体制ではないと、ある意味で理想的な形だが、どうにも心に引っ掛かりを感じる堀北であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 さて昨日の話し合いからⅮクラスはあちらこちらで聞き込み--問題の女子に関しても『諸藤リカ』と名前が判明し、そいつの様子について情報を集めている。

 

 これがより詳細である必要があるなら時間がたち過ぎてる分、苦労するだろうが如何せん日常生活が遅れていたかどうかで何も無かったことを確認するだけだから、手間は掛かるが困難でもない。

 

 並行して龍園の日頃の行いについての詳細も集めており、堀北の示した対抗策は順調にいっている。

 

 ただそれでも安心できないのか面倒なのにも遭遇する。

 

「ねぇ、嬰児くん。少し時間あるかな?」

 

「一人とは珍しいな、軽井沢」

 

 とは言ったものの、そこまで意外って訳でもないがな。

 

 気丈に振る舞ってるようだが、どうにも焦りが隠しきれてない--簡単に言えば怯えている。

 

「あのさ……綾小路くんから何か来たりしてないかな、あたしのこと?」

 

「堀北の補佐役に平田と一緒になったことか?」

 

「ああ、いや、そうじゃなくて……でもないかな、まぁそれでもいいや--それでさ、今って中々にいい感じじゃん。でもこのままの状態でズルズルいくのは不味いと思うんだけど」

 

「だから皆で一緒に戦おうとしてるんだろ--そもそもこれはお前が蒔いた種だろ」

 

「だからそれは……あたしだって別に…………」

 

「悪意があった訳じゃないと、なら尚更謝るのが普通だが--それだけじゃ済まないと、そんなタイプだったのか、諸藤って奴は?それだとなんだか、この件とは矛盾するように思えるが」

 

「そういう奴だったのは真鍋って奴--その娘の他にも取り巻き連れててさ、一度舐められたら調子に乗ってくるよ、絶対に」

 

 言い切った--それも偉く実感がこもってるな。

 

「それなら徹底的に遣り合えばいいじゃねぇか。屈服させるには割に合わないってなれば、関わらないのが道理だろ」

 

「直ぐにその結論がでるのは、やっぱり凄いね。同時にちょっと怖いくらい……」

 

 おやおや、更になびいて来るかと思ったが若干引き気味--これはちょっと予想外の反応だな。

 

「あくまで一方的じゃなきゃ駄目ってことか?相手が逆らう気も起きないような絶対的な強者なのを見せつけなきゃ安心できないと?」

 

「うん、そう。ちょっかい出したら退学になる――――」

 

「それどころか本人はおろか関係者諸共に命がないぐらい徹底的にして欲しい訳か」

 

「だ、誰もそこまで言って無いじゃん!」

 

 俺の出した結論にドン引きしてるあたり、軽井沢もまだ思考はぶっ飛んでないか。

 

「お前の方こそ聴いてないのか、俺がどういう奴だってことを?」

 

「……自分が罠にかかったら殺人も厭わないんだっけ…………話には聞いてたけどマジなんだ」

 

「俺は最初からギリギリの状態で生かされてるからな。あくまで最後の手段だ--だからこそ、あんまり下手なことは出来ん」

 

「それならさ、この際もっとオープンにしちゃわない。そしたら大抵はビビッて近づいてこないし、あたしも綾小路くんみたいに嬰児くんの力になれるように周りとのこと取り持つとかするから」

 

 中々に大胆な提案だな--俺にもメリットがある様に見せかけながら、しっかりと自分の強みを売り込んでくる。

 

 恐らくだが無人島でのような活躍が出来ないと分かった時からずっと考えていたな。

 

 俺の力と背後にある見えない威光を得る為に。

 

「命の危険だって減るし、もっと気軽に動けるのが居た方が嬰児くんもやり易いでしょ。あたしのことだって、それなりに役に立てるってもう知ってるし」

 

「そんなに堀北の補佐では満足できないのか?」

 

「いいリーダーになったとは思うよ。でも嬰児くんだって満足のいくって訳じゃないでしょ」

 

 なんとも尤もらしく語るからそのまま聞くことにする。

 

「Aクラスを目指すってのは結構だけど、どうしてもクラスが纏まり切れてる気がしないし--この前だってポイントは増えたけどまた引き分けでしょ。やっぱり嬰児くんが力を発揮できるようにするのが一番だと思うんだよね」

 

「要するにお前も櫛田と同じく、俺の飼い主と同じになりたいと?」

 

「い、いや、そこまで大それたことは……って言うか、櫛田さんのそれだって嬰児くんには迷惑なんじゃないの?どうせもう普通じゃないっての分かってるんだし、開き直っちゃえばいいかなって―――――」

 

 調子よく語ってるが、どうにも言ってること程に余裕があるようには感じられない--正に命懸けとも言える必死さが見え隠れしている。

 

 ただ櫛田の場合はたっぷりと恐怖を味合わせてやったが、軽井沢に関しては何かした覚えはない。知っている限り、死にそうな目にあったなんてこともない--知ってる限りではな。

 

 無人島の時も露骨な擦り寄りを見せたし、その後の試験でも俺が居ないにもかかわらず何かにつけて絡もうとしてきた。戻って来たからは少し落ち着いてたのにここに来てまたぶり返して--いや、あの時以上に俺の力を求めている。

 

「軽井沢、ひとつ訊きたい」

 

「なに?なんでも聞いて」

 

「じゃ、遠慮なく。お前、死にそうな目にあったことがあるのか、比喩的な意味じゃなくて文字通りの意味で生死をさまようみたいの事が?」

 

「ちょ、ある訳ないじゃん!なんでそんな話になる訳!?」

 

「俺が知っている知識と照らし合わせた結果だな--お前のなりふり構わないに近い様子は命が懸かってる輩のそれに通じるものが見えた」

 

 まどろっこしいのは好ましくないのでストレートに言ってみたら絶句してしまった--さてどう出るか、観念して本当の事を話し始めるなら場所を変える必要があるかな。

 

「……ほ、ホント、普通じゃないのを通り越して異常だよね。死ぬかもしれないってのを見ただけで分かるなんて…………どんな人生送ってきたらそうなる訳?」

 

 ほう、まだ粘るか--この往生際が悪さは根っからなのか、それともそれだけ知られたくないのか、おそらく両方かな。

 

「ご想像に任せる--そして俺と関わるってことはそんな異常じゃないことを抱え込むリスクが生じるってことだ。その覚悟がお前にはあるのか?」

 

「な、なによ……脅し?」

 

「警告だ--ちなみに綾小路と櫛田はその事を十二分に分からせた上で俺と関わりを持とうしている。最悪の場合、この学校どころじゃないものを敵に回すかも知れない--それでも俺と一緒に戦えるか?」

 

 ここまで言えば普通はビビッて逃げ出すんだが--軽井沢はドン引きしながらもまだ完全には逃げ出そうとはしていない。

 

 これはいよいよ持って命が懸かってるのが本当かも知れないな--勿論、軽井沢の中限定だが。

 

「ホントに殺されるかもってこと……嬰児くんは死ぬのが怖くないの?」

 

「元より無くして惜しい命じゃない--だからこそ生に未練を残すようなことはしたくないな」

 

「……あんたも諦めてるんだね…………それでも自分の足で立ってられる強さがあるのは羨ましいよ」

 

 目に暗い輝きが宿り始めた--軽井沢の中で俺に対する心証がブレ始めたか。いや、

 

「あんたもって、お前も諦めたのか己と言う存在を?」

 

 ふと思ったことをそのまま言ってみる。すると顔をそむけた……予想以上に琴線に触れちまったかな。

 

「そんな訳ないじゃん--あんたとあたしは違う、何もかもね。ごめんね、あたしから話しかけといてなんだけど、今の話は忘れて」

 

 そのまま顔を合わせえることなく行っちまった--う~ん、予想してた(・・・・・)中で最も可能性の低い展開になったか。

 

 クラスを味方に付けた今なら積極的にそれこそ皆を煽って行こうってことになるかとも思ってたが……。

 

 まぁ、それはそれでいいか--折角、俺と関係ない所で起きた戦いだ。概ね全容が把握できたからには、クラスメイトとしてしっかりと力を貸して行かなきゃな。

 

 ただどの辺りから出番となるかは未知数--その調整を期待してた奴も予想外の消極的態度だ。

 

 本当に世の中はままならないものだ。

 

 

 

 

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