どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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数えて○○

 

 

 

 翌日の朝、ホームルーム後の時間--Ⅾクラスでは事件についての中間報告が行われていた。

 

「どうも諸藤さんが暫らく塞ぎ込んでたのは本当みたいだね」

「うん。真鍋さんが率先してあっちこっち連れて行ったり元気づけたりしてたって」

 

 不利な報告に淀んだ空気が漂って来る。

 

「でも証言としては曖昧だよ--それにCクラス全体はここ最近、期末試験前の不自然な行動が印象深くて、ハッキリとしたものは皆無って言えるよ」

 

 その新たな報告に光明が差すのを感じ、発言者である櫛田に賞賛の目が集まり、それにこたえるように更に続ける。

 

「加えて龍園くんがリーダーに名乗り出てからの評判の悪さは折り紙付き--クラスを掌握してるって言っても仕方なく賛同してるって人もいるみたい、時任って男子がよく愚痴ってたってのも聞いたよ」

 

「スゲェな、櫛田。俺なんか最初の話を聞きだすだけでも苦労知ったってのに」

 

「俺も須藤と同様だな--弓道部の知り合いに訊いても時間がたち過ぎてるわ、面倒臭そうだわで碌に話も出来なかった」

 

「それってみやっちの人望の無さが原因じゃないの」

 

「は、波瑠加ちゃん……それは言い過ぎ」

 

「愛里はホントに良い子だね」

 

 和やかになっていく遣り取り--そこにパン、パンと手を叩く音が鳴る。

 

「そこまでよ。話が逸れて来てるわ」

 

 壇上に立っている堀北が仕切り直して再び緊張感が出る。

 

「正直、櫛田さんの情報だけでも十分に戦えそうだけど--この程度を龍園くんが想定してないなんて思えない。他に何か情報はないかしら?」

 

 これに何人かが発言するが櫛田以上のものは出て来ず、またその内容も曖昧なものばかりだった。

 

「やっぱり流石に時間がたち過ぎてるわね--それでも決して順調じゃないと言えないのが返って不気味だわ」

 

「ちょっと堀北さん、不吉なこと言わないでよ」

 

 佐藤が声を上げ、それに共感して不安な顔を浮かべる者も少なくなかった。

 

「ごめんなさい。不安にさせるつもりはないの--ただ、この調子でいけば思わぬ反撃を喰らう予感もあるのよ」

 

「やっぱり不吉を煽ってるじゃん!」

 

「何が起こるか--いいえ、何をして来るか分からない相手だって言いたいのよ。みんなもそれを忘れないで引き続き情報を集めてちょうだい。審議の時までに私も出来る限り反撃の方法を用意するわ」

 

 堀北が話し合いを終わらせ、丁度良く授業時間になった。

 

 少なからず心にしこりがある者も普段通りに授業を受けている中で全く別の事に捉えられている例外も居た。

 

 綾小路は脳内で自ら(・・)の有事に対する対策を模索する。

 

(あの男が来るとしたら最短で今日--どんなに遅くとも明後日にはとした方がいいか)

 

 いつかは来ると確信していた者の来訪--嬰児により十分に心の準備が出来たことにより、かなりの余裕を持つことが出来た。

 

 だからこそホームルーム時に茶柱から向けた視線にも冷静に分析することが出来た。

 

 何も問題はなかった。

 

(この際だから嬰児にも情報を回してみるか?)

 

 嬰児の背後には確実に〝あの男〟を超える権力がある--その繋がりを思わせればハッタリととしては悪くない。

 

(仮に空振りだとしても逆に嬰児に対する何かが分かる可能性はあるな)

 

 寧ろその方が好都合でもある。

 

 だとすると嬰児が積極的に行きたいと思わせる餌が必要--綾小路は対面するとしてどんな形式になるかを想像し、どんな展開になっていくのかを予想する。

 

 生徒の身内とは言え、接触禁止のルールを破ってくる相手--特例が通ったとしても相手の完全な思い通りになるとは考え辛い。

 

 もしこれに嬰児が絡みであることを口実にして来たなら、責任者の立ち合いがある可能性は高い。

 

 であれば、最低でも校長--更に上の理事長が出て来たならば。

 

(嬰児が有栖に興味を持ったのは理事長の娘だから--ここは思い切るべきか?)

 

 嬰児がいくら特異な存在だとしても一生徒であることには変わらない--いや寧ろ特異だからこそ易々と接触できず右往左往しているのだろう。

 

 直接対面できる機会があるなら大いに欲するはず--リスクが勝り見送ったとしても綾小路が仲介役になることでメリットを提示すれば、それはそれで大きな貸しに出来る。

 

 じっくりと考えを纏め、次に交渉する場所を何処にするかを考える。

 

(出来れば一対一での人気のない所がベストだが、悠長な事を言っている間に時間切れになったら話にならないな)

 

 今日来るとするなら時間的には放課後--話すとしたら昼休みが望ましく、その時間に余り人が居ない所。

 

 時間帯から屋上なども人が居る--人気のない目立たない所もありはするが、今のクラスの状況下で密会の形を取ればあらぬ期待を抱かせて望ましくない方向に行く可能性もある。

 

(諸々を考慮するとあそこがいいか--嬰児の欲しいものが手に入るかもとすれば断らないだろう)

 

 綾小路は授業が終わり直ぐにメールを送信し、予想通りに了承の返事を貰った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 昼休みになり、俺は綾小路との待ち合わせ場所である図書室に向かう。

 

 生意気にも俺の欲しいものとか綴ってたが、どんなカードが手に入ったのやら?

 

 ここ最近は素っ気なく軽井沢の件にしても偉く消極的だったのに、それでもしっかりと何か考えてたのかな?

 

 ま、行ってみれば分かるか。

 

 図書室に入ると昼飯時もあってか、今は数人程度しか居ない--じっくり話をするには問題ないが、聞かれたくない話をする場には適切とは言えないな。

 

 そこまで重要って訳じゃないのか、それとも余程急いでるのか。

 

 待っていた綾小路の元に行き隣に座る--振りかと思ったがしっかりと本を読んでる。

 

「それアガサクリスティーか?」

 

「以前、椎名に進められてな--この時間なら返すのも借りるも楽でいいんだ」

 

 なんとも回りくどいやり方をする--あくまで偶々かち合って本の話をしたって体裁、もといアリバイを作るとは。

 

「しかしあんまりのめり込み過ぎると昼めし食う時間が無くなるぞ」

 

「そうだな--ただ折角だからキリのいい所までは行きたい」

 

 念には念をってことなのか、それともただ焦らしてるだけなのか--兎に角、俺としてはとっとと本題に入って貰いたいんだが。

 

「嬰児はミステリーとか謎解きとかには興味はない方か?」

 

 引っ張るな--これは俺を焦らして会話の主導権を取ろうとかって目論見か?

 

 いや、そうじゃないな。

 

 視界の端に椎名の姿--綾小路も最初から気付いてたな。

 

 事を急いたのが仇になった--いや、最初から最後までこの場でのことは偶然で済ませたいのか。

 

 椎名はその為の証人ってことか--ちょうどCとのいざこざの最中だし、当たり障りのない会話しか出来ないって言い訳にもなる。

 

 そうするとここからは気を付けて会話しなきゃか……やっぱり面倒くさいし、行っちまおうかな。

 

「世の中には下手に深入りすると取り返しの付かないことになることも多いぞ」

 

「その通りだ--ただそれと知りたいとかの好奇心が湧くかは別だろ?」

 

 つまり俺の知りたいことが知るチャンスがやって来たと?

 

 一体何があってそんなことになる--その不自然に置いてある端末が関係あるのか?

 

 しかもこれ見よがしに俺が居れたアプリが起動中と来たものだ。

 

 しかしそれと俺の望みがどう繋がる?

 

 俺が知りたいことを訊きたい相手はこの学校の理事長。

 

 もしかして〝接触してくる誰か〟を条件に坂柳を通して話を付けたのか--それは無いな。娘である彼女自身がその手の依怙贔屓とは無縁だとハッキリと言っていた。

 

 いくら娘の恋人だからって融通を利かすとは思えん。

 

「坂柳なんかが諸にそう言うタイプっぽいな--子供のころからそんな感じだったのか?」

 

 それでも一応、話を振ってみる。

 

「ああ。ただ有栖の場合は身体がな--好奇心旺盛でも危ないことはさせられないから、親御さんも苦労してたな」

 

 ほう、坂柳の親が関わってるのは間違いないか。

 

 そして俺に会わせてくれる……いや、この場合は勝手に会いに来いってことか?

 

「お前らってやっぱ親同士からの付き合いなのか?」

 

「その縁で会えたのは間違いないな--ひょっとしたら嬰児の親とも知り合いなのかも知れんぞ」

 

 よくもまぁ、そんな尤もらしいデマがスラスラと出て来るものだ--これが意味するのはやはり親が国家権力に関わってることぐらいだが、それが俺の望みとどう繋がると?

 

 ん?

 

 綾小路の親もかなりの権威を持っていて俺の事を知っている--なら俺の知りたいことも知っている可能性は高い。

 

 そして敢えてこのタイミングで言ったってことは、ひょっとして。

 

「俺とお前が会うことも少なからず必然があったってか。坂柳と同じ--いや、あっちの場合は運命って言った方がロマンチックかな」

 

「運命か--そんなものが本当にあるんだとして、一体誰が仕組んでるんだろうな」

 

「そりゃ、神様なんじゃねぇの」

 

「そうだな。短い間に二つも大きな転機が訪れた--こんな偶然は神の思し召しとしか考えられないよな」

 

 何をしみじみと語ってやがる--臭すぎて突っ込む気も失せるぞ。

 

「だからこそ大事にしたいよな--余計な茶々なんて無いに越したことはない。そうだよな、嬰児」

 

「その通りとしか言えないが、災難がこっちに合わせてくれる訳もなかろう--どうにかして欲しいにしても、もっとストレートに言ってくれ」

 

「出来ないからこんな風に話してるんだろ--分かり切ったことを一々言わせないでくれ」

 

 ハハハ、回りくどいのを椎名の所為にしやがった--お陰でちょっと委縮してるぞ。

 

「詳しくはまた話そう--放課後にでもオレの所(・・・・)にでも来てくれ」

 

 お前の所か、態々探しに来いってか……な訳ないよな、あくまで俺が勝手に来たってことにしたい訳か。

 

 そんな体裁が必要な事態が綾小路個人(・・)に差し迫ってる--それは俺にとって有益なものであると。

 

 互いのメリットを提示した上での取引--とそんなつもりか?

 

「気が向いたらな」

 

「……そうか。じゃ」

 

 綾小路は本に栞を挟んで閉じ、行ってしまう--提示はしても強制はしない、引き際や踏み込んでいいラインはしっかりと心得てる訳だ。

 

 仮に行かなかったとしてもまた次が来るな--しかも行かなかったことを後悔させるようなのを引っ提げて。

 

 さて、どうしようかね。

 

「すみません。お邪魔でしたか」

 

「ここは皆の図書室なんだ--椎名が謝る必要なんてないさ」

 

「それもそうですね。ところで嬰児くんはお昼に行かないのですか?」

 

「なんだ、そっちもそっちで敵情視察か?」

 

「いいえ、私はそもそも争いごとには興味はありません。ただ単に気になっただけです」

 

 主語を省いてくる辺りは決してお花畑じゃないか--相変わらずよく見てる娘だ。

 

「そんなに気になるなら綾小路を追いかけたらどうだ?多分、学食に居るぞ」

 

「それなら嬰児くんも一緒にどうですか?行きなれてないのでどうも足が重くて。出来ればお勧めとかも教えてくれれば嬉しいです」

 

「なんだ、向うで食べたことがないのか?」

 

 俺の記憶が確かなら学食には言ったことがあると言ってたはずだが。

 

「はい。以前に足を運んだこともあったのですが……その後で色々ありまして」

 

 ああ、そう言うことか--無礼者(とつか)を黙らせた場面を見て食う気が失せた。そしてそのまま足が遠のいてしまったと。

 

 要するに俺の所為だから責任を取れと?

 

「何やら穿ったことを考えてるようですが、この事は私個人の問題ですから気にする必要はないですよ。ただもう少しお話がしたいと」

 

 誓って裏はないってニュアンスだな--ま、実際にその通りなんだろう。

 

 椎名に限らずCが俺から何かを引き出すなんて考えてるのは居ない--この申し出は綾小路の不可解な行動を心配してのもの。

 

 Cクラスのイメージに似合わずお人好しな娘だな。

 

 俺は、ふうと息をついた。

 

「分かった、分かった--綾小路の事は気に掛けとく。あいつの言う通り今の情勢下で余計な問題が入って来るのは好ましくないからな」

 

「それは良かったです--本好きの知り合いが困っているのは、どうにも見過ごせません。事が済んだなら、またお話ししたいですし」

 

 俺の返事に満足したのか、椎名も笑顔で言ってしまう--もしかして、これもあいつの狙いか?

 

 いや椎名のことをそこまで読み切れるほどの関係とも思えん--これは本当に運が綾小路の味方をしたってことか。

 

 もしくはこのタイミングで来る誰か--比喩でもなく俺の所為だったりもするかも知れんな。

 

 

 

 ***

 

 

 

 学食に移動した綾小路は発券機の前に立ちメニューを選びながら考える。

 

(嬰児がオレの狙いに乗るかは五分五分ってとこだが、もし乗ってきた場合なら今日ある方が都合はいい………………あの男が来ることを望むなんてな)

 

 嬰児と知り合う前なら考えもしなかった展開に自嘲しながら、日替わり定食のボタンを押そうとする。

 

「すみません。まだ掛かったりしますか?」

 

 その時、背後から声が掛かる--昼休みが始まって二十分、並んでいる生徒は居ないと思っていたので気が緩んでしまった。

 

 と赤の他人なら素直に謝るのが普通だが、声を掛けた相手が相手だけに内心で小さく息を吐き振り返り言う。

 

「なんならお前の分も一緒にやろうか--有栖」

 

 

 対して坂柳は笑みを浮かべながら答える。

 

「では同じものをお願いします」

 

「分かった。一緒に持って行くから適当な所に座っててくれ」

 

「すみません」

 

 坂柳は近くを見るとお誂え向きに数人分が開いている--もとい、たった今空いた席があり、周囲の配慮(好奇心)がありありと見えた。

 

 やや苦笑しながら席に座り、直ぐに両手にお盆を乗せた綾小路が来て隣に座る。

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして。じゃ、食べようか」

 

「はい。いただきます」

 

 坂柳は箸を取り行儀よく綺麗に食事する--それを横目で見ていた綾小路に微笑みながら坂柳が言う。

 

「何か?」

 

「いや、よく考えたら箸で食事するのを初めて見たなと思ってな--なんとも上品なものだと」

 

「そうですか--私はただ見られてるだけなのだと思っていたのですが」

 

 その台詞に周囲からはクスクスと小さな笑い声がしたが、当の二人は気にした風でもなく食事を続け、それがまた壺にはまった者(主に女子)たちはニヤニヤしたり、うっとりした表情を浮かべており、あっと言う間に学食をピンク色に染めた。

 

「こうしてゆっくりお食事するのも久し振りです」

 

 坂柳の何気ないひと言--綾小路の心に妙に引っ掛かるが表には出さず自然な会話を心掛ける。

 

「なんだかずっと忙しそうだったが何かあったのか?」

 

「いえ、少々面倒臭い小言を聞かせられまして--全く持って迷惑な事です」

 

「それってもしかしてアイツの所為か?それともオレとのことでか?」

 

 期末テストも終わり冬休みが近づくにつれ、二回目の大イベントに向けて学校中が騒ぎ出している……などと言う様な事でなく、綾小路自身に面倒が近づいていることを解っているから来る問い。

 

 それを直ぐに察してか坂柳も内心で気を引き締めて慎重に言葉を返す。

 

「断じて清隆くんの所為ではありません--〝あの方〟が余計なちょっかいを招き入れに来たの…………いいえ、大した話ではありません。忘れてください」

 

 そう言って箸を動かすのを再開するも明らかに不自然な言い回しは綾小路として察するものがあった。

 

(〝あの男〟が今何かしてきてるのは間違いないか--嬰児の異能はやっぱり本物だな)

 

 本来なら知りえる筈の無いことも易々とやってのける--その凄さを再認識しつつも今はそれだけにかまける訳にはいかない。

 

 綾小路はどうしても確かめて置かなければならないことを遠回しに訊く。

 

「有栖。今日の放課後なんだが――――――」

 

「申し訳ありません。どうしても外せない重要な用事が来てまして(・・・・・)

 

「そうか。それは残念だな」

 

 お互いに言いたい事を察し、それ以上の問答はなく食事を進めながら他愛無い話をする。

 

「そう言えば――――」

 

 いつも通りに当たり前になった事柄--食べ終わり学食を後にした後も昼休みの終わりまで、ずっと。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ああ、待ってると時間が長い--やっと放課後になった。

 

 綾小路曰く、この後で何かあるかも知れないとのことだが--どうやら当たりみたいだな。

 

 授業中もだが終わってからも茶柱先生がそれとなく綾小路を気にした素振りが多い--今もそうで何か言いたそうだが踏み出せないでいるって感じだ。

 

「ふう」

 

 一方の綾小路も気付いているのか、なんとも重い溜息を付いてる--それって誰に向けてのものだ?

 

「どうしたの、きよぽん。元気ないね?」

 

「有栖が最近忙しそうなんでな」

 

「ははぁ、誘ったけど振られちゃったんだ」

 

「は、波瑠加ちゃん、そんな言い方は……」

 

「愛里、気遣いは無用だ--実際その通りだしな」

 

「ハハハハハ」

 

 佐倉も最早笑うしかないか--傍から見てあれだけレベルの高い美少女二人に気に掛けて貰いながら、なんとも贅沢なこと言ってる。

 

 それだけ仲睦まじい夫婦ってことだが流石に新鮮味に欠ける為か、辟易したり面白くない視線を向けてる奴も居たりする。

 

「あーあ、リア充の気持ちはさっぱり解らないから寂しいもんだな」

「ホント、こっちにもその幸せちょっとでいいから分けて貰いたぜ」

 

 なんとも分かり易い僻みだこと……それ故か女子から反応したのが出て来やがる。

 

「そんなんじゃ一生縁がないんじゃない」

「そうそう。幼馴染だったとしても恋人には無理よね」

 

 おやおや、ちょっとばかり気まずい空気になってきた--いつもなら平田が宥めるが、動きたくとも動けないようだ。

 

 ま、そうだよな、綾小路に次ぐクラスでのリア充だけに出て来たら火に油だ。

 

 何よりその彼女が現在進行形でクラスに迷惑かけてるからな--色々と板挟みで表情が硬い。

 

 そんな中でこの事態を引き起こした張本人が立ち上がった。

 

「どしたの、きよぽん?」

 

「今日はもう帰る。騒がせて悪かったな」

 

 でそのまま行ってしまう--必然的に注目が行ってしまうが、その中でも一番だったのが茶柱先生だ。

 

 これはいよいよ持って何かあるかな。

 

 取り敢えずはギリギリまで『地の善導』で位置を把握しておくか。

 

「ねぇ、嬰児くん。今日って暇?」

 

 佐藤が遠慮がちに来たがニュアンスからして色っぽい話じゃ無さそうだ--となると誰の差し金かな?

 

「すまんが用事がある--聞き込みとかなら他をあたってくれ」

 

「え、そ、そう--うん、分かった。ゴメンね」

 

 しっかり見て……いや聞いていた軽井沢が目に見えて落胆し、一緒に居た松下も態度には出さないようにしてるもがっかりしている。

 

 ただそれは後回し--今は綾小路を追いかけて行った茶柱先生の方が重要だ。

 

 感知出来るギリギリまでだと不味そうだし、ある程度行った所で俺も教室を出て二人の後を追う。

 

 態々遠回りして人気のない場所に……事前情報がなきゃ密会、それも教師と生徒の禁断のなんて連想してしまうぞ。

 

 まぁ、その可能性もなくは無いか--近頃は坂柳に構って貰えないのは本当のようだし。

 

 それも考慮して会話を訊くのは止しておこう。

 

 二人からは完全に気取られない位置で様子を窺おうと思ったが、思った以上に短い話のようで揃って直ぐに移動する。

 

 向かった先に辿り着いたのは応接室--茶柱先生と校長先生は直ぐに出て来た。

 

 なんだか逃げるよう仕草--その後も二人は少し話して茶柱先生は少し離れた所で待機した。

 

 さて中の様子は流石に窺い知れない--綾小路に用のある誰かが居るのは間違いなさそうだが、それが俺の会いたい人かどうかは分からない。

 

 曖昧な話で俺を釣って綾小路の優位を確保って算段も考えなかった訳じゃない--と言うか寧ろその可能性も高くなってきてる気がする。

 

 椎名は後で何か言いそうだが、どうにも綾小路個人の問題って感じだしな。少なくとも文句を言われる筋合いではない。

 

 このまま帰ろうか、それとも茶柱先生と話してみるか……妙な借りを作るようで気が進まない。

 

 ただこうしててもドゥデキャプルが来る気配はない--と言うことは、これは首を突っ込んで行っても問題はないってことかな?

 

 少なくとも学校や他の奴らには。

 

 そんな事を考えていたら、また誰かがやって来た--茶柱先生と少し話してそのまま応接室に入った。

 

 茶柱先生の態度からするとかなりのお偉いさんだな--俺の直感が何やら喚きだす。

 

 よし、どうするか決めた。

 

 

 

 ***

 

 

 時は少しだけ戻り、綾小路清隆が茶柱佐枝に連れられて応接室まで来た。

 

 ここに来るまで二人は終始無言であり、茶柱は淡々としながら扉をノックする。

 

(いよいよか--来るのは分かってたが、問題は嬰児が釣れたかどうか?)

 

 そしてもうひとつ、目当ての人物が現れるかどうか--もしかした既に部屋のいるのではと期待が掛かり僅かに緊張する。

 

「校長先生。綾小路清隆くんをお連れしました」

 

「入ってください」

 

 何度か集会で聞いたことのある声だが、焦りや余裕の無さが混じるニュアンスだった。

 

 ただその原因は直ぐに分かった--校長の向かいに座る四十代の男。

 

「ではあとはお二人でお話されると言うことで」

 

「無論です」

 

 二人が部屋を後にする--その時に外の様子を見たが目当てのものはなかった。

 

「単刀直入に訊く--お前と同じクラスに居る牛井嬰児だが、今現在に何かを起こす気はあるのか?」

 

「…………いいや、今は大人しいものだが」

 

 最初に出て来た言葉が意外過ぎて綾小路の反応も一瞬遅れてしまった。

 

「では次の問いだ--確か体育祭だったか、その時の様子は?何かそいつに影響する何かはあったか?善し悪しは問わん」

 

「嬰児が何を思ったかなんてオレに分かる訳がないだろう--アイツはそれだけ規格外だ」

 

「そんなことは分かっている。俺が聴きたいのは周囲に関することだ」

 

「さっきと同じだ--オレに分かる訳がない」

 

「ふん。嘘だな--アレの側にいて状況の観察を怠るなどあり得る訳なかろう」

 

 完全に確信しきっている男の様子だが、淡々と事務的に訊いて来ることに綾小路は直ぐに意図を測った。

 

「嬰児の様子を見てくるように命令されたのか?」

 

「俺の方から買って出た--この学校に縁がある分、あっさりとしたものだったよ」

 

 この即答も綾小路からすれば意外なものだった。

 

「どうした。半年以上も側にいてこの程度の事も解らない程に錆びついたか?」

 

「いいや、嬰児がアンタよりも上の権力の息が掛かってることは予想していた--それをプライドの高いアンタがあっさりと認めるってことは、俺の予想を遥かに超えているようだな。いい収穫だ」

 

「負け惜しみは止せ--アレは今のお前如きがどうこう出来るものじゃない。関わりたいなら、退学して戻ってこい--そうすれば1%ぐらいの可能性は見えて来るかも知れんぞ」

 

「アンタにそこまで言わせるなら尚更退学する訳にはいかないな--まだオレは嬰児の全てを暴いていない。この貴重な体験を棒に振ることなど出来ん」

 

「ふん、何も解っていないな。どんなに関わり知ったところで全ては無駄だ--アレはそう言うものだ」

 

 男の口調に忌々しさが混じって来る--それを見逃さなかった綾小路は兼ねてからの疑問を口にすることにした。

 

「やっぱり嬰児なのか--ホワイトルームが停止することになった要因は?」

 

「お前が知る必要など無いし知る資格もない--繰り返すが知りたいというなら戻ってこい」

 

「いつまでも平行線だな」

 

 男は無言であったが、この話題での話は実りが無いことを認識したのは間違いなく、用意されたお茶に口を付け仕切り直しを図る。

 

「松尾も余計なことを吹き込んでくれたな--やはり徹底的に叩き潰して正解だった」

 

「殺したのか?」

 

「そんなことはしないさ。ただ雇い主に逆らったのだ、報いを受けさせた--自慢の息子共々な」

 

 綾小路は想像することもおぞましい事になった事を悟った。

 

「そしてアレも飼い主に噛みつく傾向が出始めた--今戻れば巻き添えにならずに済むぞ」

 

「救いの手を差し伸べてるつもりか?アンタらしくもない--そんなにオレに固執するならご自慢の力で圧力でも掛けたらどうだ」

 

 この綾小路の言葉に男は小さく鼻を鳴らした。

 

「成程、予想通りに毒されてるようだな--それでいながらアレからは何も聞いていないか。ならば悪い報告をしなくてもよさそうだな」

 

 心底安心したようなニュアンスに綾小路は驚きを隠せなかった。

 

(こいつにここまで言わせるほどの大物なのか、嬰児のバックに居るのは?)

 

 この国を動かす存在となれ--そう言われ続けて来た。

 

 その為のホワイトルームであり、男自身の野心を叶える人材を生み出す為に厳しくも最高の教育を課され続けて来た……そのやり方が世の明るみに出せないものでも長い期間、やり続けられるだけの力は嫌と言うほどに分からされている。

 

 だからこそ当初は、学校を去ることになれば逃げることは出来ないと諦めてもいた。

 

 しかし今、男とのやり取りと反応からしてそれを遥かに超える力が存在し動いているのは疑いようがない。

 

(考えなかった訳じゃない--だが再認識させられるな。一体何があるんだ、嬰児には?)

 

 かつてこの国を背負って立つ程度では足りない、その三倍--更に十倍は必要と言っていた。

 

 ハッタリだとは思っていた訳ではないが、いよいよ持って実感が湧いてきた。

 

 それがどの程度の沈黙の時間だったか、長いのか短いのかも分からない中でノックの音が響いた。

 

「失礼します」

 

 ゆっくりと扉が開く坂柳理事長が姿を現す。

 

「久しぶりだな。待っていたぞ、坂柳」

 

「お待たせして申し訳ありません。綾小路先生」

 

 頭を下げようとする理事長を男が手で制す。

 

「そう言うのはいい--余り時間も掛けたくないから、早速本題に入ろう」

 

「はい」

 

(どうやらオレの事はついでみたいだな……もっともコイツにとってはどうだか知らんが)

 

 綾小路は予想していた展開でもある為、冷静に物事を見ることが出来た。

 

 そして、この場にもう一人が来る--もしくは既に居ないか部屋の中をそれとなく見て回る。

 

「君とは初めましてだね--綾小路清隆くん」

 

「はい。ずっとお会いしたいと思ってました」

 

 丁寧に接する綾小路--ただその言葉には額面通りではない意味も含まれており、再度部屋の中を探る。

 

「ふん。居るなら出て来ても構わんぞ、牛井嬰児」

 

 それは男も同様だったようで堂々と声を上げた--理事長も意外と言う様子はなく、全員の共通認識のようだ。

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 

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