どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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金が・・・

 

 ドアから嬰児の声がしたと同時に開いていく--そして嬰児の顔を見た瞬間に男の顔は、目に見えて険しく敵視したものになる。

 

「失礼します」

 

 堂々と入って来る嬰児--近づいて来る事は無く、以後は口を挟まないと扉の近くで待機した。

 

 分は弁えていると言うことか--男の敵意は若干薄れ、理事長も僅かだが安堵する。

 

「では役者も揃ったので本題に入ろう--俺が今日この学校に来たのは、管理体制に不備が生じた可能性が出て来たので、その確認と今後の対応についてどうして行くかを確かめる為だ」

 

 と言うのが表向きの口実何だろうと部屋に居た全員が思う--尤もそこから先はそれぞれで違ったが。

 

「この度は私の不徳と致すところ--本当に申し訳ございません」

 

 理事長は何ひとつ言い訳することなく頭を下げようとする。

 

「いいや、これはお前の責任ではない--特例を通させた側が負わなければならないことだ。お前が出しゃばること自体がおこがましい--分かっているだろう」

 

「………………」

 

「勿論、可能性の段階で処分を下すことはしない--ただ、これまで通りと言う訳にはいかん。そこで牛井嬰児には新たな特例を与えることになった」

 

 新たな特例--今までと違い、外部から直接来る形を取ることに意味合いの重さが段違いであることを示唆しており全員が身構えた。

 

 そして持ち込んだファイルから書面を差し出し説明する。

 

「今度からの長期休みは貴様には重要任務について貰うことに〝なっている〟--その分の報酬を前払いとし、この学校に組まれている予算とは別枠で限定的にだが使用できるようにする。無論、使用時には厳重な審査があり、好き勝手に使えるものではない--詳細は記してあるから目を通して置け」

 

 学校の指定しているポイントとは別の資金使用--これ以上ない程の特別扱いの様を呈しており、理事長を始め驚愕を隠せない。

 

「それはまた随分と大胆なものを課してくれますね」

 

「ふん。ただの生徒でないのはとっくにバレてるのだろう--今更この程度のものが増えたところで意外に思う者など居まい」

 

「内情も随分と把握されてるようですね」

 

「俺を誰だと思っている--本来なら清隆に関しても入学されることもないことも把握済みだ」

 

「流石は綾小路先生です」

 

 あっさりと肯定する理事長--ただ男の持つ権力に敬意はあっても畏怖はないニュアンスは頼もしさすら感じさせる。

 

 先生と呼び格上として接している男に対しても一切物怖じせずに毅然とした態度で話を続ける。

 

「おっしゃる通り、この学校では独自の教育方針により『当校に所属するに値する』と判断した生徒のみに入学を認めています。入試も面接も形式上のものでしかありません--されど今年に限ってはこちらとしても本意とは言えない『特例』を抱え込むことになりました」

 

 隠すことなく嬰児を見て来る仕草--これには黙ってることなく反論が返って来る。

 

「そちらがそう思うのも仕方ないでしょうが、この件は俺の所為ではないですよ。寧ろ落ち度があったのは〝あの方々〟の方--そうでしょ、綾小路先生」

 

「…………こっちだって被害者だ。奴らの介入でどれだけの騒動になったのか、お陰で俺の計画にまで支障をきたす結果になったんだ」

 

「それはそれは、ご愁傷様です」

 

(ここに居る全員が損失を被った被害者な訳か--オレ以外は)

 

 綾小路の予想通り、嬰児がこの学校に入学しなければならない〝何か〟がホワイトルーム停止の原因だと確信を得た遣り取り…………されど一体何がどうなって異能力者を学校に通わせなければならないのかが分からない。

 

「話が逸れたな--ともあれ牛井嬰児による外部からの圧力と言うポーズはこれで達した。貴様も長生きしたければ注意することだな」

 

「心にもない言葉、ありがとうございます。それともあの方々の伝書鳩なんてさせたことを詫びるべきですかな?」

 

 嬰児の含みを持たせた返答に再度緊張感が増した。

 

「なんだ。ここに来る口実を与えてくれて、ありがとうとでも言って欲しいのか?貴様のことなどなくても何も支障はなかったぞ」

 

「ほう。つまりそれだけご子息が重要だと?」

 

「ああ、それこそ、このまま連れて帰りたいくらいにな」

 

 男が目を向けるが綾小路はポーカーフェイスの涼しい顔のまま--意向に沿って退学する気など全く無いのは明らかだ。

 

 それは理事長も同様のようで、

 

「私どもとしましてもご両親の意見を無碍にすることはしません--何でしたら三者面談を行い納得いくまで話し合うことも」

 

「生憎だが、そんな時間の無駄などするつもりはない--この学校はお前のテリトリーなのだから、お前の流儀に合わせてやる。それなら問題なかろう」

 

「はい。何も問題ありません--特別扱いはあくまで牛井嬰児くん、ただ一人だけです」

 

「いい答えだ--これで俺の仕事も終わった。ではこれで失礼させて貰う」

 

 男は立ち上がり嬰児の側まで来る。

 

「ここにはもう二度と来る事は無いだろう--門まで送れ」

 

「意外だな。嬰児が変な気を起こすとは考えないのか?アンタらしくもない」

 

「なにがなんでもコレの情報を得たいようだな--なら俺とこのまま来い。俺の敷いた道の先にこそ、答えはある」

 

「そうか、なら別にいい--取り敢えずは自力で足掻いてみるさ」

 

 男はこれに応えず応接室を去り、すぐ後ろを嬰児が付いていった。

 

 余りにも男らしくない展開に釈然としないものが残る綾小路に理事長が話しかける。

 

「気になるかい?」

 

 それは一体何に対してなのか--僅かに思案し答えを返す。

 

「はい。あちこちから恨みを買っているあの男が初対面の子供……いえ超能力者に護衛を任せるなんて。一体どんな絶対的根拠があるのか?」

 

「申し訳ないが何も答えることは出来ない--ただ君の言う通り、先生には絶対の安全を保障される。何事も起きることはないよ」

 

 これもまたきっぱりと言い切られ、余計に釈然としないものが増した。

 

(でも今は)

 

 綾小路は気を取り直して理事長に向かい頭を下げる。

 

「改めてはじめまして。入学の件ではお世話になりました--ずっとお会いしたいと思ってました」

 

「やはり僕の事は知ってるか--ただ君を昔から知っている僕としては何とも面映ゆいね」

 

 理事長の態度には言葉通りではないニュアンスが感じられ、綾小路はやや緊張した面持ちで頭を上げる。

 

「…………」

 

 そこには案の定、穏やかとは言い難い目を向けられている--その為に綾小路の顔に冷や汗がひとつ流れた。

 

「あの……その……」

 

 自然と出る言葉の歯切れが悪くなる--そんな様子を見ながらも理事長の目は少しも変わることなく、ゆっくりと口を開いた。

 

「有栖とのことは当然耳に入っているよ--随分と仲良くしてくれいているようだね」

 

「…………えっと……その……」

 

 綾小路は今までに味わったことの無い緊張感に言葉が言い淀む--と言うよりも何を言うべきかが本気で分からなかった。

 

(謝る、のもなんか違う気もするし……ただ認めるのも、なんだかちょっとな)

 

 心中で何かが引っ掛かってしまい、掛けられた言葉を肯定することも出来ない--と言うよりもどんどん委縮してしまっている。

 

(別に疚しい事なんて何もないのに)

 

 それでもやはりうまく言葉が出てこない綾小路に理事長は暖かい目を向けて穏やかな声で再び話して来た。

 

「ハハハ。そんなに気負わなくても大丈夫--別に責めている訳じゃないから」

 

 綾小路が落ち着けるように、そして改めて仕切り直す。

 

「有栖も昔から君の事を気に掛けていてね--念願を叶えてあげられたことは親として嬉しいものさ」

 

「いえ、まだ本当の意味では叶ってはいません--でも彼女の願いには最大限応えます」

 

 綾小路のひとつの揺らぎもない自信を持ったニュアンスに理事長は気を良くする--そして同じく自信を持って返す。

 

「本当に有栖に良くしてくれてる様だね--僕としてもエールを送りたいが、教育者としてアンフェアな事は出来ない。この学校のルールに則って生徒を育て守る--言っている意味は分かるね?」

 

「はい」

 

 ルール違反は見逃せない--それが例えどんな特殊な立場であろうとも。

 

(嬰児が退学する可能性は常にあるのもこれで確定だな--距離を置いた方が身の為だって忠告も含まれてるか)

 

 だとしても綾小路は手を引くつもりなど更々なく、理事長に会えた機会に出来るだけ情報を得たかった。

 

「あの男がやりそうなことは想像付きますが、そこに嬰児を入れて来ることは有りえますか?」

 

「綾小路先生ならやりかねないね--ただ下手を打てば、いくら先生でもどうにもならない。そこまでのリスクを負うようなことはしないだろう。僕がギリギリ言えるのはここまでだよ」

 

 綾小路の事情を出しにして嬰児の情報を引き出す--その意図を完全に見抜かれており、これ以上の会話はするつもりもないと逆に含みを持たせてきた。

 

 最早、これ以上は実りがないどころか有害になりかねない。

 

「分かりました。ではこれで失礼させて頂きます」

 

 綾小路も元より理事長を困らせたい訳でもないので素直に引き下がった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 普段は通ることの無い職員施設への廊下--綾小路の父上の背を追うように一緒に歩きながら、周囲も警戒する。

 

「誰かを探してるのか?」

 

 不意に前から声が掛かった--俺から喋らなきゃ何も言わないと思ったが、どうやら気にする必要はなさそうだ。

 

 お父上は振り向くことなく偉そうに続けて来た。

 

「出口までは直ぐだ--用件があるならさっさと言え」

 

 どうやら無駄は好みじゃないようだ--話しかけて来ながらも早く切り上げたいってのが透けて見える。

 

「それならば遠慮なく--ひとつ、知りたいことがあります」

 

「なんだ」

 

「この学校は過去の十二大戦の優勝者の願いで出来た物なんですか?」

 

「違う。この学校はあくまで坂柳の一族が奴らの理念に基づいて開かれたものだ--国の承認を得るのは当然いくつも骨を折ったが、その手腕とこれまでの実績で貴様の受け入れ先として選ばれた。何を期待してたのかは訊かんが、そんなものは捨てて大人しく飼われていろ」

 

 最後の台詞がなんとも強いニュアンス--もしかして本当はこの為に態々やって来たのか?

 

「今度は俺が訊く。時間が惜しいから簡潔に答えろ--清隆はお前にとって害になるんじゃないのか?」

 

 息子が何を考えてるのか想像が付いてるって訳ね--俺の事情を加味した上で客観的に見れば邪魔に思うって帰結は無難だ。

 

 う~ん……なんだかんだで、やっぱり親子だな。思考回路が本当によく似てる。

 

「手を組む気はありませんよ」

 

「劣化コピーでも頭は悪くないか--ならばいい、今の問答は忘れろ」

 

 そうなるならいいんだが、どうにも引っ掛かるものがあるんだが--なんて言っても時間の無駄だから飲み込む。

 

 そして無言のまま門まで行くと立派なリムジンに乗って行ってしまった。

 

 本当に無駄が嫌いなようだ。

 

 それにしても思わぬ形で知りたかったことを知れた--当初に抱いたこの学校に拘る理由が無くなってしまった。

 ここから先は無理に物事に関わっていく必要もなくなった--なんだか結局は有力者達(あいつら)の思い通りにされてるみたいだな。

 

 普段なら先々をじっくりと考えるべきなんだろうが、今は揉め事の真っ最中だ。しかも外側の思惑が関係ないのは確実--これは大事にしないといけないよな。

 

 その次にある冬休みも然り、新しい特例では大きな仕事をするみたいな言い回しだったが、実際にそんなことになるかは疑問だ。

 

 あれは体育祭時のように事が起これば、俺が自分で手を回してやったって言う体裁を取る為だろう。気に食わないが手早い対応だ--更に記してあった金額は700万、詳細を煮詰めてなきゃだが、益々俺を利用するか取り入ろうとしてくるものも増えてきそうだ。さてそれをどう捌くべきか…………なんだかんだ俺も相当に馴染んでるのを実感する。

 

 お前はどうだ、綾小路?

 

 

 

 

 夜になり静かな時間を過ごしたかったが、端末には裁判の進捗についての状況が列挙されてて休むどころではなかった。

 

 一回目の審議は明後日、もう直ぐ冬休みに入ることもあって早々に決着を付けたいってのもあったりもするかな?ズルズルともつれこんで休みが削られる、また丸々無くなるってもの考えられるし--ここから先はかなりのスピード勝負になるかも知れない。

 

 そうなるとC、いや龍園が何をして来るのか?

 

 これまでの体裁上はギリギリまでは何も出来ない。動くなら仕掛けた後じゃなきゃ……ああ、改めて思うと難儀なものだ。

 

 軽く飯を済ませて片付けた後、一階から呼び出しが掛かった--さて、誰だろうか?

 

 そう思ってモニターを見ると堀北元会長の姿があった。

 

「はい」

 

『夜分にすまんな--少し時間を貰いたい』

 

「どうぞ」

 

 オートロックを解除して中に入れ、その間に出迎える準備もする。ポットから急須にお湯を注ぎ、湯呑に緑茶を注ぐ--全く慣れたものだな。

 

 部屋のチャイムが鳴り、部屋に入って貰うと出したばかりのお茶に目がいかれた。

 

「不意な来客にも対応できるようにしてましてね」

 

「新しい特例に対してか?」

 

「耳が早いですね」

 

 ま、前回と同じだし特に驚くようなことでもないが。

 

 既に生徒会を退いている元会長殿が知ってるなら、教職員だけでなく現生徒会も明日には全校生徒にも知れ渡ると見た方がいいな。

 

「それでまさか、そのことを言う為だけに来た訳ではないですよね?」

 

「関連はある--南雲は間違いなくお前への接触を増やして来る。そして来年以降は前代未聞の退学者で溢れかえるような仕組みを導入する--お前の特例はそれを円滑に進めるいい材料になる。そうして事が起これば、また新たな特例が増える。違うか?」

 

「新会長は命が惜しくないのか?それともそんなに沢山のスケープゴートを飼ってるのか?」

 

「奴は既に二年のほぼ全てを掌握している--やりようはいくらでも有るだろう」

 

「三年に残された時間はもう無く、対抗するには一年を使うしかないって訳か--そして俺はそちら側に着くと言うことで南雲政権の独さ……独走を防ぎたいと?それなら話すべき相手が違うんじゃないですか」

 

「綾小路には何度か生徒会入りを打診してみたが、その気が無いようでな--まず興味を抱かせるのが先決だ。奴は南雲に限らず、お前が他の誰かに使われるなど気に入らないからな」

 

「なんともハッキリと言い切るな--ただそれなら、もっと分かり易い手段がある筈では?」

 

「坂柳を危険に晒そうとする真似は逆鱗を踏むどころではあるまい--その結果、南雲以上に危険な存在になってしまっては元も子もない」

 

 元会長殿はひと息ついて、お茶を口に含む。

 

「それにそれを言うなら南雲は既に一之瀬にご執心だ--お前としては面白くはないのではないか?」

 

 まだその話が生きてたか……別に俺としては一之瀬が誰とどうなろうが思うところは無いんだがな。

 ただ余計な揉め事が増えることが歓迎できないのは、その通りだ。

 それでも事態はもう動き出してる--おそらく、時間も然程掛からない筈だ。

 

「まず言っておきますが、俺から生徒会に干渉することは出来ない--それが例えどんな形であっても。

 それでもそちらの要望を叶えようとするなら、取れる手段は限られる--先輩の在学中にそれは訪れるだろうから、その状況下で動けるなら何とか動いてみましょう」

 

「聞きしに勝る以上に訳の分からない返答だな--まだ俺の知らない何かが絡んでるようだが、聞くのは止しておこう」

 

 その方がいいと判断したんだろうが、俺としては別に隠す気は無いし、綾小路が関わって……と言うより奴が主体となってやってくることだから、より元会長殿の要望に近づくと思うんだがな。

 

「ご馳走になったな」

 

 立ち上がり部屋を去って行く。

 

 もう直ぐ卒業する人間がそこまで気に留める案件--それだけ厄介なのか、それとも堀北学にとっての痛恨の汚点だと思ってるのか?

 

 妹に伝えてやれば積極的に動きそうな気もしてきたが、その場合はどうして来るかな?

 

 俺を敵と定めて来るか--そうでなくとも言ってることと全く違う心持ち、ぶっちゃければ闘争心が向けられるのが伝わって来たぞ。

 

 そんなに俺と戦いたいかね--案外、南雲がアンタに対抗しようとしてきたのも必然だったのかも知れないね。

 

 

 

 ***

 

 

 

 審議まで翌日に迫った朝のホームルーム、進捗状況の確認が行われる。

 

「Cクラスの状況や諸藤さんの調査は集まったけど--どれも決定打に掛けるわね」

 

 壇上に立つ堀北が纏めた結論を出すが、言葉ほど悲観的な様子はない。

 

「でもそれはCも同じ--問題のあった日から諸藤さんが普通に生活してたのは証言があつまったし、今になって軽井沢さんの所為だと言い張るには説得力が乏しいわ」

 

「でもそうなるとやっぱり解せないよね--どうして今更蒸し返しに来たんだろ?龍園くんなら舌の根の乾かない内に使って来るような案件なのに?」

 

 櫛田が追随するように発言し、違う角度での思惑があるのかと緊張感が教室に走る。

 

「単純に考えるとやっぱり囮や目くらましか--この問題に集中させといて本命は他にあるとか?」

「その理論からすると狙いは俺たちじゃなくて他のクラスって可能性もあるな」

「ねぇ。嬰児くんは一之瀬さんから何か聞いてないの?」

 

「何も」

 

 話の流れが変わり、嬰児に注目が集まるがあっさりと終わる--訳もなく、追随が来る。

 

「なぁ、嬰児はずっと他のクラスの情報も集めてたんだろ。本当に何もねぇのか?」

 

 須藤のもたらした情報に注目が更に上がり、期待感が増した。

 

「え、そうなのか?」

 

「鈴音が言ってだぞ--前にもそれで龍園の罠を潰したって」

 

「え、マジで!やっぱズゲェじゃん!」

「流石だな」

「情報無くても何か意見とかはないの?」

 

 称賛の声が上がる中に今回の件に対する何かが無いかと期待の声も混じる--それに負けてか、嬰児はやれやれと言った感じで口を開いた。

 

「少なくとも俺が知ってる限りで、Cが他に対してやってることは何もない。

 狙いは間違いなくⅮだけだ--もっとも馬鹿正直に訴えを鵜呑みにするのはどうかってのは俺も賛成だ。

 何をして来るのかは分からない--それは念頭に置いておくべきだな」

 

 実に当たり障りのないことを言って流してきており、積極性は見られない--その態度に当然不満もある者も出る。

 

「そんなこと言うんだったらさ、やって来そうなこととか、その対策とかも言ってくれてもいいじゃない?」

 

「松下さん。これはクラス全体での問題よ--嬰児くん個人に頼り切るのはよくないわ」

 

「だからこそだよ、堀北さん。嬰児くんだってⅮクラスの一員でしょ--これまでみんなで情報集めたり対策練ってるのに何もして無いじゃん。

 いざって時が出番だって言うかもだけど、一番いいのはいざって時が来ないようにすることでしょ--寧ろ、その方が嬰児くんの事情(スタンス)にだってあってるんじゃないの?」

 

 いつになく饒舌に語り、それでいて的を射ている意見にその通りだと嬰児への注目が更に集まった。

 

「と言うか、今が正にそのいざって時だろ--試験でもない場外乱闘なんて仕掛けて来て、こっちも受けて立つんだ。何も遠慮することなんか無いんじゃないのか?」

 

 幸村が引き継ぐ形で釈然としない嬰児の態度に言及する--そこに櫛田が疑問を投げて来た。

 

「それとも私たちの知らない所で何かあったの--あの新しい特例以外にも?」

 

 櫛田の目にはありありとした興味があったが--動き辛くなったのならば言えと、心配の色も無い訳ではなかった。

 

「そうなの、嬰児くん?」

 

 壇上の堀北も呼応するように言う--新たなる特例の他にも我慢(かせ)があるなら、それに応じて対応を変えて行かなければならない。

 

 極めて強力だが同じくらい面倒な存在(カード)に辟易した目を向ける者も居たが、我関せずで何もしないよりかはマシだと別の誰かを非難する目を向ける者も居た。

 

 そんな視線を受けながらも高円寺はいつも通り無言でふんぞり返っており何もする気配はない。

 

「そんなのは無い--龍園の狙いが何なのかは皆目見当が付かん。今やってること以上の最善がないから出番は無いと判断しただけだ」

 

 尤もらしいことを言って再び口を紡ぐ嬰児--その消極的姿勢に更に更に文句が来そうにもなるが、

 

「龍園の狙いが見えてこないことについてはオレも同意だ--表向きの問題に目を行かせて罠を仕掛けてる可能性も。寧ろオレもそっちの方が高いと思う--なら仕掛けてくるとしたら審議の直前である今ぐらいだ」

 

「僕も同意するよ--今日まで軽井沢さんの周りには全く何も無かった。狙いを定めてるにして不自然過ぎる。

 堀北さん言った通り、これはクラス全体の問題だ--慎重に越した事は無いと思うよ」

 

 綾小路が意見を述べて嬰児への注目を逸らす--それに乗る形で平田も入って来る。

 

 しかもしっかりと堀北を立てるようにして--リーダー格全員の意見が揃ったことで反論は完全に封じられた。

 

「話を戻しましょう。指摘された通り龍園くんが何か仕掛けて来るなら今日であるのが濃厚--新しく大々的にしてくるのか、個人に狙いを絞って来るのかは分からない以上は各々で警戒していくしかないわ」

 

 堀北の言ったことに緊張感が増し、気の弱いものは息を呑む。

 

「だから何か可笑しな兆候があったなら隠さずに直ぐに報告して、審議は目前である以上は手をこまねている時間は一遍もないの。絶対にCクラスの思い通りにはさせられないわ」

 

「おう。その通りだぜ、鈴音!もうあんな奴らに負けてたまるかってんだ!」

 

 須藤の気合いの籠った前向きな言葉に教室が明るくなる。

 

 そこでちょうどホームルームも終わり、話し合いは上手くまとまった体裁で終わった。

 

 

 

 ***

 

 

 今朝の事があっただけにいつも以上に緊張感が増した授業風景が続いてる--ただ皆が思ってるのは龍園が何をして来るかなのかは明らか。

 

 授業が終わると廊下に目を向けたり端末で掲示板を見たりと何とも落ち着かない様子だが、特に何も起きることなく昼休みを迎えた--そして遂に来た。

 

 教室の外には龍園がCの生徒を引き連れてやって来た。

 

「何の用だ?ここはⅮクラスだぞ」

 

 須藤が警戒感むき出しで威圧するように言う--尤も気にしてるのは堀北の方で、自分が守るとかって思いがありそうだ。

 

 ただそれを言うなら一番気にしなきゃいけないのは軽井沢であり、何故か平田(かれし)でなく俺の方に目を向けてる……おいおい、それはどうなんだ?

 

 そして平田の方もまったく気にした素振りもなく、それでも庇うように前に出る。

 

「審議はまだ先だよ--こんな真似は不利になるんじゃないかい?」

 

「安心しな。特に何かする気はねぇ--ちょっと喋ったら直ぐに帰る」

 

 にべもなく言いきりやがる龍園はさり気なく俺を視界に居れ、連れてる連中の中には俺を意識してるのが隠しきれないのも居た。

 

 何が目当てでやって来たのか、誰の目にもなんとも分かり易いシチュエーションだ。

 

「今回は随分と大人しいじゃねぇか、牛井。もっとやりやえると思って色々と期待してたんだがな」

 

「そんなに俺と戦いたいか?」

 

「それはそっちもそうだろ--俺の下に来れば存分にその力、存分に使えるようにしやるぜ」

 

 なんとも見え見えの挑発だ--それが分かってて乗っかるのも癪って感じで堀北が出て来た。

 

「もう勝った気でいるのかしら、気が早いんじゃない?」

 

 しかも挑発を挑発で返してやがる。

 

「ククク--そっちこそ可笑しなこと言うな。少なくとも俺はお前らに負けたことなんてねぇ筈だがな」

 

「そうだぜ。俺たちが負けたのは牛井にだ--それ以外はザルじゃねぇか」

 

 連れて来た取り巻きの一人の発言に教室に居る何人かは気が立ったようだが、

 

「そうね--嬰児くんの前にして貴方たちは戦う前に尻尾を巻いたものね」

 

 堀北が上手く立ち回って抑えた。

 

「あの時は時間の無駄だったからな--有意義な時間を満喫しておまけに稼ぎにもなった」

 

 不戦敗とは言え、得るものはあったってか--実際にその通りだが、過ぎた話をしに態々来るほど暇じゃないだろうに。

 

 龍園は再び俺に目を向けながら言った。

 

「動けねぇのはやっぱ新しい特例があるからか?そうだって言うなら儲けの出る方法を一緒に考えてやってもいいぜ」

 

「それはどうも御親切に、とでも言えばいいのかな--ただ使い道に関して考えが無い訳でもないぞ」

 

 このひと言に空気がガラリと変わった--特に綾小路の目が暗く光ってるな。

 

「くくく、そうか。それは無駄な気をまわしちまったな」

 

 

 対して龍園はすこぶる愉しそうに笑う--実際にそうなんだろうな。その調子のままに軽井沢を一瞥しながら言う。

 

「審議の場では徹底的に遣りやおうぜ--余人を交えずに戦うのはオメェの望みでもあるだろう?」

 

 俺もお前も同じ穴の狢だと言いたげだな--ただ俺が存分に戦うことが出来るのかどうかは未知数。

 

 そっちこと俺の期待を裏切るんじゃねぇぞ。

 

「ふん、邪魔したな」

 

 無言でそんな目を向けていると龍園も悟ったのか、意味深な笑みを浮かべ去って行った--と思いきや連れて来ていた女子の一人が不満そうな顔してたのであっさりした口調で言った。

 

「言いたいことがあるなら言っときな--真鍋」

 

「――――」

 

 許しを得た真鍋が一瞬驚きながらも意を込めて軽井沢に向かいきつい顔を向ける。

 

 その様子に軽井沢は身構えることも驚く様子も無いから初対面でも意外って訳でも無いようだ。

 

「いつかのアンタが言った通りになったわね--リカにしてくれた分の報いはきっちり受けて貰うから」

 

「そうやって因縁付けて際限なくタカってくるわけだ」

 

 軽井沢も前に出て強気に言い返した--アイツもアイツで憤りみたいのを感じてるみたいだな。

 

 なんとも不満のぶち明け合いをしてる様だ。

 

「前に謝ってくれればいいとか言ってたわよね--それで済ます気なんて更々ないくせに正義面するなんて反吐が出るわよ」

 

「逆ギレしてんじゃないわよ!」

 

「おい。止めろ」

 

 一触即発しそうだったのを龍園が静かに、それでいながらドスの入った声で止めた。

 

「戦うのは今じゃねぇ--余計なことはするんじゃねぇ」

 

 そう言って黙らせた--品の無い光景だが、統率力の確かさを思わされ教室内には僅かに憧れみたいな目を無得る奴もいる。

 

「それで格好つけててるつもりかしら?」

 

 それを察してかは分からないが、堀北が再び前に出た--カリスマを比較すると少し物足りない気もするが、その分は品位でカバーしてるから引けを取るものじゃない。

 

「堀北さん、一々引き留める真似は止そうよ。折角、帰ってくれるって言うんだから」

 

 櫛田もそれに張り合おうとしてるのも一緒に出て来た--そして出て来た櫛田に対して龍園は下品な笑みを浮かべた。

 

「随分な優等生ぶりだな、桔梗。船上での時は鈴音を退学させたいって手を組んだのに」

 

「あの時は嬰児くんにちょっかい掛けられちゃ堪らないって思ったからね--彼の持ってるものは全部私の物したいのは今も変わらないよ」

 

 突然のカミングアウトにあっさりと即答したことにⅮだけでなくCの奴らも目を丸くした。

 

「もう隠れながらコソコソするのは止めたの--そちらさん達はこの学校での一番に固執してる様だけど、私はもっと上に行くよ」

 

 そして堂々と野心を隠さなくなった--裏切りの暴露など霞んでしまうほどに。

 

「……この間、龍園くんに聴いた時は半信半疑だったけど、本当だったのね」

 

「あははは、私の事嫌いになった--堀北さん?」

 

「いいえ、当時の私が不甲斐なかったのは事実よ--何よりも大きくなったあなたの欲は分かり易くて、返って信じるに値するわ」

 

「誉め言葉と受け取っとくけど、使えないと判断したら容赦なく切るよ」

 

 この前から間を置かずに再びの宣言--大半が付いていけなくて唖然として、俺を含めそうでないのは清々しさを感じてるな。

 

「くくくくくく--予想以上にいいもの見せて貰えたな」

 

 そして龍園はひと際面白そうに笑う--裏切りを暴露して掻き回すつもりだったが空振りになった格好なのにな。

 

 そんな面白そうな顔を改めて俺に目を向けた。

 

「改めて審議の場では楽しみにしてるぜ。存分に遣り合おうぜ」

 

「ああ、望み通りにな」

 

 無難風に返すと満足したのか、去って行った。

 

 教室内では緊張の糸が切れた感じになり殆どが安堵の息を付いたが、そうもいかないのも居たりする。

 

「ね、ねぇ……ちょっと……今の話って本当なの、櫛田さん?」

 

「龍園くんと組んで堀北さんを嵌めようとしたことはね--でももうその気はないから安心して、ってのは無理な注文だよね」

 

 軽井沢が動揺気味に尋ねてきたが櫛田は平然と、いや最早開き直ってる--そしてさり気なく俺との距離も詰めて来てる。

 

 と言うか軽井沢が看過できないのは寧ろそっちの様だな--僅かだが焦りが濃くなってやがる。

 

「嬰児くんはどう?クラスを後ろから刺すのなんか要らないって言うなら、今直ぐに言ってくれれば今からでも出ていくけど」

 

 そしてゆっくりとブレザーのボタンを外していき、内ポケットから『退学届』と書かれた封筒を見せて来た。

 

 誰もかれもが唖然とする--いきなり色っぽい事を始めて少し興奮気味だった奴らなんかの期待外れを大いに吹っ飛ばしていた。

 

 そんなクラスメイト全員に向かい櫛田は笑顔のまま言った。

 

「みんなも私の事が信用できないってのも仕方ないよね。これは私自身のした事の結果なんだから--だから私なんか要らないって言うなら、嬰児くんを説得してね。嬰児くんが〝うん〟と言ったら喜んで退学するし、勿論誰も恨んだりしないよ」

 

 捨て身で来たか--何より命の危険に怯えながらずっと考えてたのは間違いない。言い回しに一切の淀みがなかった。

 

「ど、どうして……そこまでして嬰児くんに拘るんだい?」

 

 平田がやっとの思いって感じで櫛田に訊いた。

 

「言ったでしょ--Aクラスよりももっと上に行くって。そしてその為に何かを諦める気は無い、私って結構欲深いんだよ」

 

 完全にキャラが変わった--いや棄ててしまった櫛田だが、前以上に活き活きして見える。何より本当に笑みも言葉のニュアンスも何ひとつ含みを感じさせない本心であると実感させられる。

 

「ハハハハハハ」

 

 だからか、俺も自然と笑ってしまった。

 

「ど、どうしたの?」

 

 軽井沢が冷や汗かきながら尋ねて来た--当然、他の奴らも注目して、妙な緊張感が広がった。

 

「面白い--ただ口で言うほど容易い道じゃないぜ。寧ろ険しいどころじゃない、命懸けの道だよ」

 

「そうじゃなきゃ、登り甲斐がないじゃん」

 

 とことん挑戦的に返すか--どこまで行けるか見てみたいって衝動が湧いて止まらない。

 

 それは殆ど(・・)が同じようで、疑心に駆られてた奴も今は好意的に近い感情を向けていた。

 

「それじゃ、手始めに今度の戦い(しんぎ)で龍園たちをギャフンと言わせてみよう」

 

 それを見逃さずに即座に仕切り始める--この辺りは流石と行ってやるべきだな。

 

「言われるまでもないわ--でも櫛田さん、一人で勝手に動くなんてのは認められないわよ」

 

 堀北が呼応するようでいながら、しっかりと釘を刺して来る--こいつもクラスでの主導権を譲るつもりはないようだな。

 

 協調してるとは言い難い--でも反目しあってる訳でも無い。

 

 堀北と櫛田--二人が初めて噛み合った、いやこの二人がⅮクラスの主役になった瞬間とも言うべきかな。

 

「勿論だよ。Aクラスを--上を目指して行こうってクラスである限り、私も全力は尽くす」

 

「十分ね。私は私、貴方は貴方--目的は違えど目指す所は一緒。そっちも異存はないでしょ--嬰児くん、綾小路くん」

 

 さり気なく俺たちまで巻き込んでも来た--全く随分とまぁ、肝が据わって来たものだ。

 

「オレも目的が果たせるなら異存はないぞ」

 

「もう、きよぽん。そこは坂柳さんの為ならでしょ」

 

 長谷部の言う事に佐倉を始めとしたグループメンバーも肯いてやがる--もうすっかり馴染みな光景だが、教室内は朗らかになり龍園がバラまいた事実は返って結束を固めた形に見えた……でもなんだか取り残されてる節のあるのも居たりするよな。

 

 ただ出しゃばって来る事は無く、今日はこのまま解散となった。

 

 

 

 

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