どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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才能が・・・

 

 

 

 日も完全に暮れ、腹も空いたし何か飯でもとか思ってたらチャイムが鳴った--出て見ると深刻そうな顔した軽井沢の姿が。

 

『ごめん。ちょっと話したいんだけどいいかな?』

 

「悪いけど、まず飯を食いたいんだ。一時間、いや三十分したらまた来てくれ」

 

『そ、それならさ、あたしがご飯作ってあげるから--材料ないなら今から一緒に買いに行かない?』

 

「傍から見て、物凄く不味いシチュエーションだな--丁重にお断りするから、時間を改めてくれ」

 

『お願い!どうしても直ぐじゃなきゃいけないの!平田くんには誤解されないように言っとくから』

 

 何が何でも部屋に入って来るつもりか--このまま騒がるのも嫌だし仕方ないか。

 

 軽井沢は入って来るなり部屋を見渡して冷蔵庫に目を止めた。

 

「開けて見て言い?」

 

「ホントに作る気か--何か話があるんじゃないのか?」

 

「いや、それはそうだけど……お腹空いてるんでしょ。迷惑だったら止めとくけど」

 

 無理を通してる自覚はまだ(・・)ある訳か--なら下手に拒絶するのは良く無さそうだ。

 

「好きにしてくれていい--ただ、そんな凝ったものじゃなくていいんで」

 

「うん。分かった」

 

 許可した途端に軽井沢は冷蔵庫を開けて中を吟味する。

 

「結構揃ってるね--嬰児くんって料理してるの?」

 

「そこそこな」

 

「へぇ~」

 

 軽井沢は中から食材を取り出し調理していき、その姿はすごく様になっている--俺に言わせればお前が料理してる方が意外だな。

 

 程なくして軽めの食事が出て来た--見た目も臭いも良く、味も素朴だが、それだけにどんどんと箸が進んでいった。

 

「ふぅ~、ごちそうさま」

 

「そ。じゃ、片付けるね」

 

「それは自分でやる--それよりも話ってなんだ?」

 

 嬉しそうに弾んだニュアンスで食器に手を伸ばすのを止めて、用件を尋ねると一転して余裕がなくなった。

 

「嬰児くんさ--櫛田さんのこと、どう思う?期末が終わってからすっかり変っちゃったし、今日のことだって……」

 

「変わったんじゃなくて、あれが本音なんだろ--欲深くて、自分の利にならないのには容赦ない。実に人間味が溢れてるし、何より堀北と二人でクラスをどうして行くのか--やらせてみたら結構面白くなりそうだな」

 

 思った通りのことを返したが、軽井沢の表情は益々曇っていく--そして今言った中で特に反応したフレーズで、何しに来たのかも察しが付いた。

 

「……やっぱりあたしとは全然違うね。この前も思ったけど、なんでそんなに強いのに自分の人生諦めちゃってる訳?」

 

「その為に存在してるからだ--寧ろ俺如きにそんな労を割くぐらいなら、別の奴ら(・・)に使って貰いたいぐらいだ」

 

「答えになってないよ--あたしが訊きたいのは、あんたがどう思ってるかよ」

 

 なんとも切実な顔をするな--相当思い悩んでここに来たと考えてもいいか。ならば黙って続きを待つか。

 

「…………不安だの怒りだの、そんなのは無い訳?」

 

「握られてること自体にはないな--ただ当初課せられたルールは順守してるんだから、それ以上は止して欲しいってのはある」

 

「結局、不満はあるんじゃん……一体何して、そんな目に合ってる訳?」

 

「俺は何も--強いていうなら身内の責任を取らされただけ」

 

 取り敢えずは内実に触れないようギリギリを見て返してみたが、軽井沢が意外な表情を隠しきれていない--何も答えないか、適当にはぐらかして来ると思ってたのかな。

 

「尚更理解できない--結局あんたは悪くないじゃん」

 

「お前が理解する必要はない。そもそも身の上話なんてする気はない--だからお前の方もいらん。同情でも惹きたくて来たなら出直して来い」

 

「!?あたしだって、そんなのするつもりなんて無いわよ!」

 

 どうだかな--ここに来た時には何が何でも擦り寄って俺を後ろ盾にしたいって顔に書いてあったぞ。

 

 しかし、そこまで言うなら取り敢えずは話を合わせてやるか。

 

「やっぱりクラスの女王様に返り咲きたいか?Aクラスを目指さないんじゃ、俺は一切力添え出来んぞ」

 

「別にあたしだって、堀北さんがクラスを引っ張って行くのに反対な訳じゃないわよ--ただAクラスになりたいってのと櫛田さんとのことが、ごっちゃになってる気がしてて」

 

「それだけ惚れ込んでるってことだろ--実際問題、堀北のパートナーとしては申し分ないし何も問題ないだろ」

 

「けど……櫛田さん、クラスを裏切ってたんだよ。それに邪魔な奴は切るって…………」

 

「騒動の結果次第で自分が切られるかも知れない--それが不安な訳か」

 

 そして櫛田はAクラス以上に俺に固執してる--退学届を出すことで覚悟のほどを示し、俺の意志を優先するとまで言って来た。

 

 裏返せば、俺がやるなと言えば安泰な訳だ--だから再び俺に擦り寄りを見せ来たと、なんとも分かり易いな。

 

 ただ俺も特定の個人に固執する訳にはいかない--クラスも然ることながら学校全体のシステムに従っているポーズはどうしても通さきゃいけない--それを承知で無茶をする為には相応の理由が必要だ。

 

「それともあんまり嗅ぎ回られると不都合なことでも出てきたりするのか?」

 

「……………………」

 軽井沢は無言のまま何も答えないで僅かに目を逸らす--ポーカーフェイスを装っているが、安心と不安が入り混じってる。

 

 この前、綾小路から何も聞いてないかと訊かれたが、それを確信したか--知られたくないことが広まってないのと強力な後ろ盾を得られてない複雑な面持ちってところか。

 

「まぁ、無理に聞き出す気は無い--あくまでお前の問題なんだから」

 

「!?……なによそれ、あたしなんか別にどうなってもいいて言うの?」

 

 ここで尤もらしい言葉でも与えてやり落ち着かせるのがセオリーだろうが、

 

「軽井沢、俺は平田の様な平和主義者じゃない--物語に出て来るような正義の味方でもない。ただ命令が許す範囲で戦うことしか出来ない--お前の問題に踏み込み過ぎて、その範囲を超えたら俺の方が困るんだよ」

 

「……自分が一番可愛いって訳ね。でも泣き寝入りはしない--結局は戦ってさえいられればそれでいい訳ね」

 

「ぶっちゃけ言えば、その通りだな--そして折角巡ってきた戦いだ。大事に使いたい」

 

 今は偽ることなく本心を言うべきだと心が言っている--さて、これは誰の影響何だかな。

 

 軽井沢の目には前の時以上に失望の色が濃くなっていき、やっぱり俺に頼ろうとしたのが間違いだった思いが擦り寄って頼ろうとする思いを上回って……はなさそうだな。

 

「だったら、あたしと付き合ってよ--あたしがアンタの敵を連れて来てあげるから」

 

「……平田はどうすんだよ?」

 

「あんなのもういいよ--嬰児くんがやりたいことをあたしがして、裏で仕切ればいいじゃん」

 

 自分が独裁者として表に立って、俺に陰の支配者にでもなれってか--無礼な言い回しだが、一応論理立てつつ、俺にもメリットを用意している。

 

「使い古されてるが有効な手段ではあるな」

 

「じゃあ!」

 

「却下だ。お前のおもりの為にそこまでするメリットが足りない--そもそもにおいて、お前は何が欲しいんだ?」

 

 強い力を求めてるのは分かるが、それでどうしたいのか?

 

 その辺りがどうにも見えてこない--今クラスはいい感じに纏まりつつあり、今回の騒動に関しても力を合わせて戦おうとなっている。負い目があったとしても焦って覆さなきゃいけない理由なんて無い筈だ。

 

 櫛田の切ると言う発言に関しても軽井沢は纏め役としてよくやっている。もっと自信を持っても……いや寧ろ普段のコイツなら逆に脅し返しそうなものなんだがな。

 

「何が欲しい…………」

 

 おやおや、やたら神妙な顔になって--ならば久しぶりに。

 

「もしも、どんな願いでもひとつだけ叶うとしたら何を願う?」

 

「嬰児くんと同じくらい強く……ううん、あんたの飼い主と同じくらいに力が欲しい」

 

 櫛田と同じようなことを瞬く間に即答--だがあっちは飽くなき欲望(あこがれ)って感じだが、こっちは至極切実なニュアンスに聴こえる。

 

 全く持って余裕がない--庇護者(おや)を求めてとかの状の類でも言うと思ったが、純粋に力が欲しいとはな。

 

「その力で何をしたい?」

 

「あたしの邪魔になる奴、皆まとめて叩きのめしてやりたい--それこそ二度と向かってこないくらいに」

 

「なんと、まぁ」

 

 途轍もなく浅はかで美しくも面白くもないことだ--ただふざけてる様には見えない。寧ろ、より真剣なニュアンスであり深い怒りを感じさせた。

 

 流さずに考え突き詰めていくと過去に相当なことがあったのは想像が付く--確信があった訳じゃないが、死にそうな目にあったって言うのはいよいよ本当なのかもしれない。

 

 目を『魚』モードにして軽井沢恵をよく観てみる--少なくとも目立った後遺症みたいなのはない。

 

「な、なによ。突然、ジロジロと……」

 

 気持ち悪いと感じたか身じろぎするが、それが返って仇になったな--腕を組んだ際に脇腹、特に左側を強く押した。

 

 無意識であろうが、それだけ心に刻まれた何かがある証明だ。

 

「腹が痛いのか--特に左側?」

 

「?!そ、そんな訳ないでしょ!?……なんなのよ、いきなり!」

 

 おうおう、あっという間に青ざめて立ち上がった--更にそのまま化け物を見るような目を向けて来て怯え切ってる。

 

「なんだったら、今診てやろうか?」

 

「!!?」

 

 あら~、更に顔が引きつってしまった--ついでに左脇腹に当てたままの手をより強く押し付けてる。

 

 これじゃ、注視するなってのが無理な注文だよな。

 

「い……いいか、いい加減にしなさいよ、この変態!」

 

 たどたどしくもなんとか絞り出したが、完全に余裕がなくなってて呂律も思考も回り切ってないな--これじゃ何を言っても無駄そうだから無言で待つ。

 

 しかし軽井沢の顔色は良くなる気配はない--どんなことが頭の中で駆け巡ってるのやら。

 

「い、言っとくけど無理矢理とかするなら大声出すわよ……押し倒されて乱暴されたって叫び散らすから」

 

 成程、こいつの中で俺はすっかり暴漢認定されてるか--いつ襲い掛かって来るんじゃないかって恐怖で一杯だと。

 

「何もしやしないから安心しろ--それも信じられないなら、早く帰れ。やせ我慢も限界だろ」

 

「?!い、言われなくったって……もう二度と来ないわよ!」

 

 叫ぶと同時に勢いよく部屋から出ていく--全く本当に何しに来たんだかな。

 

 無人島では止めといたが、今回は少し考えてみるか。

 

 まず第一に俺の後ろ盾を得たいのは確かだ--それは何故か?

 

 最初はアクセサリー感覚でスペックの高いのに目移りしてるだけかと思ったが、接してて感じたのは親を求めるものだった。

 だから優しいお兄さんみたいな平田に擦り寄り、我儘して構って欲しい。少々困った、それでもありふれた思春期の子供--実際に船上試験で離れていた際はやたらと俺に電話して纏わりついてきた。

 戻って来たから少しは落ち着いたから、飽きたのかと思ったが、どうもそう言う訳でもないか。

 

 あの切羽詰まった顔は尋常ならざるものがあった--あれは間違いなく死の恐怖を味わった奴の顔だ。

 

 そして〝受け継いだ〟記憶を辿っていく中で該当するのは、心が折れてしまった類--ある意味で、挫折したかつての『寅』を想起させる。

 

 まぁ、もっともあっちはそれでも自力で立っていられるだけの下地があったが、軽井沢にはそれはない--だからこそ、より強い存在に縋りつきたいのか。

 

 普段の強気が去勢なのは分かっていた、今の考察を根底において導き出されるのは〝トラウマ〟を負った事件の被害者。

 

 身体以上に心に大きな傷を負ってて、それは未だに治っていないか。

 

 さて、どうしたものかな。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 荒い足取りで寮の廊下を歩いて行く軽井沢--その頭の中は数分前とは比にならない程に乱れまくっていた。

 

(ああ。なんなのよ、なんなのよ、なんなのよ!)

 

 つい先程の嬰児から向けられた目が脳裏を過ぎり、混乱は加速していく。

 

 焦ってはいたが過去を気取られないよう注意は払っていた--それなのに、ただ見ただけで最も隠したかったものを気取られた。

 

 色々な意味で只者じゃないのは解り切っていたが、いざ自分が体験してみるとやはり化け物だった。

 

 一体、どんな経験をしてくれば、あんな洞察が身に付けられるのか。

 

(だいたい綾小路の奴も話が違うじゃない--守ってくれるって口添えするって言ってじゃん!)

 

 そう言う約束だからこそ協力することになった--そうして来た時間は悪いものではなかったからか、すっかりと約束の事が抜け落ちていた。

 

(ああ、もうなんでこんなことになるのよ)

 

 そもそも、船上でこの件が話題に上った際は綾小路の介入により話は流れた--相手側は大事になることに慄いており、もう触れられる事は無いと思った。

 

 なのに今更になってぶり返し、クラスどころか学校を巻き込んでの事態に発展--クラスメイトが味方になってくれてはいるが、それはあくまでCクラスと戦うことが主目的であり、軽井沢の事は口実に過ぎない些事でしかない。

 

 そのこと自体は別にいい--問題は状況次第によっては軽井沢自身への探りが始まるかも知れないこと。

 

 下手を打てば最も知られたくない過去のイジメまで暴かれる可能性もある--今の状況下でそんなことになったら、軽井沢恵は終わりだ。

 

 嫌な想像ばかりが浮かび、ストレスも高まっていく。

 

 軽井沢は端末を取り出して綾小路の番号にかける--今すぐにでも問い質さなければ本当に気が狂ってしまいそうだった。

 

『もしもし』

 

 綾小路は直ぐに出たが、その淡々とした声は軽井沢の昂った精神を諸に刺激した。

 

「……今何処に居るの?直ぐに会って話したいんだけど!」

 

 それでもどうにか声を抑えて言う。

 

『直ぐにか--悪いが少しでいいから時間を置けないか?』

 

「今直ぐよ!早くすっ飛んで来なさいよ!!」

 

『………………』 

 

 完全に切れて怒鳴り散らす--間違いなく電話の向こうで綾小路は絶句しているだろう。

 

 

 

 そんな綾小路の向かいには残念そうな顔をしている坂柳が居た。

 

 ケヤキモールのカフェのひとつ--夕食を終え、他愛ない談笑をしていたカップルの様相だが予期せぬ終わりに不快を抱かずにはいられない。ただ、

 

「清隆くん。私の事は気にしなくていいですから、行ってあげてください--何やら余程の事のようです」

 

 坂柳はしっかりと相手を立てて、笑顔で送りだそうとする--実に献身的な姿に余計に申し訳なさが湧いてくる。

 

『……なに、坂柳さんも一緒な訳?』 

 

 電話の向こうで軽井沢の不機嫌な声がして、それは増していく。

 

「まぁな。ともあれ直ぐに行くから適当な所で落ち合おう」

 

 綾小路は場所を指定して通話を切る--それを見ていた坂柳は笑顔だが、綾小路には残念がっているのがよく分かった。

 

「本当にすまんな。少しはゆっくり出来ると思ってたんだが、バタついて」

 

「そちらが今、面倒事になっているのは存じてます--さっきの怒鳴り声からしても相手の方も相当に心細いみたいですしね」

 

 一定の理解を示す態度に心が少し軽くなる--ただそれでも完全に割り切っている訳でもないようで、

 

「一件が片付いたら、しっかりと埋め合わせはして貰いますから。特にもう直ぐ冬休み--今度は私たちが主導でアレ(・・)に当たるようにしましょう」

 

「あ、ああ」

 

 執念にも似たものを出してきて、思わず気後れしてしまった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 ああ、なんとも目が冴えてしまうな--審議はもう直ぐ、場外乱闘によるクラス同士の一騎打ち。

 

 龍園()堀北()も本腰を入れて遣り合う展開だし、過程も結果も揃ってどるなるか今から楽しみで仕方ない。

 

 ただ肝心の主役であるべき軽井沢がどうにも揺らいでいるのは頂けないな--もっと毅然とした態度で臨んで堀北に負けじと張り合いながら、盛り上げて欲しかったのが理想だったんだが……。

 

 ここはもうひとつダメ押しが必要かな。

 

 そう思うが、冬休み間近とあって俺に接触して来ようする輩が後を絶たず、やっぱり動き辛い--審議の事で忙しいと何とか躱しているが、それならばと何とも怪しい情報をチラつかせて来るのも居たりしてマジで鬱陶しい限りだ。

 

 『地の善導』を駆使して無暗な接触は避けてるが、動きが妙な感じに阻害されてしまう--僅かな隙でもあれば『天の抑留』を使ってまた遥か上空に逃げることも出来るのだが広範囲での視線がある以上は下手な事は出来ない。

 

 必然的に使えるのは『鵜の目鷹の目』になるが、やっぱり餌代がネックだ--徹底管理されている敷地内では海に出て自力で魚を調達するのも出来ず、どうしてもポイントで買うしかない。

 

 ああ、考えてるとまたストレスが増して来る--春頃みたいにまた酒でも飲みたいぐらいだ。

 

 ま、流石にもう無理だけど……と益体の無いことにいつまでも時間を割いてはいられない。

 

 さっきの態度からすると命に関わることに遭遇したのはもう間違いない--そしてそれは左腹に明確に刻まれてるだろう事も確信した。

 

 その事を自分から話すこともありえないこともな--長年によって苦しんでるのが一朝一夕で覆せるわけもない。それなりに時間が掛かるのは明白だが、俺はそこまで悠長に付き合ってやる訳にもいかないし、その気もない。

 

 それをやるべきは、あいつの親友になれるような思いを持った者とじっくりやっていくしかない--そうなると現時点での有力候補はあいつだな。

 

 端末を取り出して話すべき番号に連絡を入れる--予想通りに直ぐに喰い付いたから、必要な情報も渡す。あとは吉と出るか凶と出るか、それとも出ないままに終わるか、その場合は…………仕方ないよな。

 

 

 

 ***

 

 

 すっかり暗くなり、人目の付かない一角に軽井沢は一人、綾小路を待っていた。

 

 端末を取り出し時間を潰そうとも思ったが、どうにもそんな気分になれずポケットにしまい直す。

 

 軽井沢の脳内には先の嬰児の関心の無い態度だけでなく、訴えられた直後に行われた聞き取り調査で問題はなかったか--今はCクラスに向かっている関心がいつ自身に転じるかも知れない等の悪い方向への想像が次から次へと湧き上がっていた。

 

(早く来なさいよっ--全く!)

 

 時間が過ぎていくのが異常に長く感じながら待つこと数分--漸く来た人の気配に無意識に声を上げた。

 

「遅い!一体、何してたのよ!?」

 

「え、なに?」

「どうしたの、軽井沢さん?」

 

 ただその相手は綾小路ではなく、自身が所属しているグループの佐藤麻耶と松下千秋だった。

 

「え、あ……その……えっと…………」

 

 全く予想外の展開に呂律が回らずに動揺する軽井沢--そんな彼女を困惑顔で見ながら松下が声を掛ける。

 

「なんだか、凄い顔色悪いけど……嬰児くんと何かあった?」

 

「え、平田くんじゃないの?」

 

 松下の質問が解せずに佐藤が至極真っ当な疑問を口にする--軽井沢も同様のようで無言のまま〝なんで〟と顔に書いてあった。

 

「いや、この際だから言うけど……軽井沢さん、平田くんから嬰児くんに乗り換えたがってるでしょ」

 

 この説明に軽井沢はかつて平田に言われた『見る人が見れば分かる』の台詞が思い出され動揺から絶句に変わった。

 

 そして直ぐにそんな観察眼を披露した松下に疑念の目を向ける--今まで猫を被っていたのかと。

 

「あー、実はかく言う私も嬰児くんいいなって、かなり前から思っててさ--色々と興味が尽きないんだよね」

 

 それを直ぐに察したのか、自分も同じだからと一応の納得が出来る説明をする。

 

「この前の新しい特例もそうだけど--もう直ぐ冬休みじゃん、外との唯一の窓口なら頼みたい事もあるし」

 

「ああ、分かるな。どうしたらあんな特別扱いされるのか--謎を隠そうともしないのも不気味さを通り越して余裕すら感じるよねぇ」

 

 嬰児の訳の分からなさの話題に盛り上がりを見せ始めたが、

 

「待たせてすまんな、軽井沢」

 

 本来の待ち人である綾小路がやって来た。

 その余りの絶妙なタイミングに話を中断させる為--要するに少し前から居て訊いていたことを示唆させる。

 

「え、こんな所で密会……大丈夫なの、綾小路くん?」

 

 佐藤が不安交じりに綾小路と軽井沢を交互に見ながら訊く--この素での反応に新たな緊張感が走ったが、当の綾小路の反応はあっさりしたものだった。

 

「有栖と一緒だった時に呼び出されたから何も問題ない--オレの事より、お前らまで一緒だったのは驚いたな」

 

「ああ、私たちは偶々だよ--軽井沢さんが真っ青な顔してたから思わず後付けちゃって」

「うん……審議も近いし、不安ならやっぱり話して欲しいなって」

 

 友情を感じさせる言葉は本来なら有り難いものだが、絶対に訊かれたくない話をするつもりだった為にまるで喜べない軽井沢--そんな彼女にお構いなく綾小路はあっさりとした態度のまま切り出した。

 

「それで一体何の用だ?」

 

「そ、その……」

 

 軽井沢はさり気なく松下と佐藤を見て言い辛そうにする--聞かれたくない話をするから行って欲しいと無言のポーズだが、二人(特に松下)は引き下がる気は無いようで覚悟を決めた目で言う。

 

「嬰児くんが動いてくれないことの愚痴でも言いたかった?」

 

「これはクラス全体の問題だぞ--嬰児に固執するのはどうかと思うぞ」

 

 いきなり確信を突かれ、冷や汗が出る軽井沢に対して綾小路は透かさず返す。嬰児の話題--それも本人が積極的に動けばと言う流れは歓迎できるものではない。直ぐにでも断ち切り別の話題に移ろうと試みようとした。

 

 されど綾小路の回答は想定内だったのか、松下もまた即座に言って来た。

 

「でも嬰児くんもⅮクラスの一員でしょ」

 

 この話題から移るつもりは絶対にないようで、どうやら覚悟の程も相当なようだ--この場から離れるつもりも皆無らしい。

 

 その姿に今の状況は本当に偶然なのかと疑問が浮かぶ綾小路--そんな視線を受けた松下は受けて立つと言った表情だ。

 

「嬰児くんもさ、もっと動き易くなれば上に行けるのも捗るでしょ--だから軽井沢さんが嬰児くんの彼女になるのも応援したいんだぁ」

 

「そうだよね。綾小路くんみたく好きな娘の為ならモチベーションだって上がりそうだし」

 

 松下の意見に佐藤が同調して来るが、趣旨が若干ズレており微妙な間が出来る。

 

「クラスを率いるべきは堀北であるべきだ--それが嬰児の為にもなるから、余計な茶々は止して欲しいんだが」

 

「うわぁ、キツイね。綾小路くん」

 

「ねぇ、松下さん--あたし別に嬰児くんにそう言うの持ってないから、期待してるみたいで悪いけど」

 

 軽井沢は提案を呑めないと暗に断り、多少強引にでも話を終わらせようとする--そこに綾小路も追従するように妥協案を提示する。

 

「クラスの体制に言いたいことがあるなら、嬰児本人や堀北も交えて日を改めて話をしないか--ここで勝手に話を進めても意味はない」

 

「そうかな--軽井沢さんの意志を固めるのは、少なくとも私たちにとっては大事なことだよ」

 

 松下は改めて軽井沢を見据え、その真剣な仕草に軽井沢は息を飲んだ。

 

「ずっと一緒に居たんだもん。困ってたり不安なら力になりたい--それが嬰児くんでなきゃ嫌だってなら応援したい」

 

 再び友情を押し出して来る--佐藤も追従して力になりたいと言う思いを目に込める。

 

(どうやら相当の準備をしてきたようだな)

 

 綾小路は半ば感心し、生半可な誤魔化しは無理だと悟った。

 

「済まないがその点に関しては余り力になれない--軽井沢とは嬰児の意に沿う形でのクラス作りで協力してるだけで、色恋に関しちゃノータッチなんでな」

 

「えー、坂柳さんとはあんなにラブラブなんだからアドバイスのひとつぐらい――――」

 

「佐藤--オレと有栖とをそのまま当てはめても役に立つことじゃない」

 

 ハッキリと言い切る姿は想いの強さを物語っており、女子ならではの羨ましさと憧れが込み上がる。

 

「ホントに格好いいねぇ--坂柳さんが居なきゃ、私が告白してたよ」

 

「……それは、どうもありがとう」

 

 思いがけない言葉に一瞬、言葉に詰まる綾小路--そして場の空気は僅かに和やかなものに変わっていく。

 

「いいよねぇ、こんな風に和気あいあいと盛り上がれるのは青春の醍醐味だよねぇ--特にこの学校じゃ貴重だよ」

 

「だよねぇ、松下さんの言う通りだよ--だからこそ、もうモヤモヤしたままのはどうにかしなきゃね」

 

 直ぐに一転して真剣な雰囲気を醸し出す佐藤は松下を見ながら肯き、切り出した。

 

「ここに来る前に話してたの--今回の件の発端、Cの娘との事は私たちにも責任があるって」

 

「そう。あの時、有耶無耶に流さないでキチンと謝っとくべきだったって」

 

「ちょ、ちょっと―――」

 

 軽井沢は望まぬ流れに声を荒げるが、二人は引く気配はない。

 

「最初に非があったのはこっちなのは間違いないでしょ」

 

 正論ではある--ただ軽井沢は過去の経験から弱みを見せられず、またそれを見せたなら際限なくやり続けると直感し、事実として今窮地に陥っており他に選択肢がなかった。

 

 そんな軽井沢の不安を見て取った佐藤は、しっかりと向き合って言った。

 

「もしその後で言い掛かりをつけて来たなら、その時こそ出るとこ出て白黒ハッキリさせる--そうすべきだったって」

 

 その姿は紛れもなく佐藤麻耶の本心だと思わされる--真正面からぶつかって来るのは美しさすら感じさせる。

 

「嬰児くんや綾小路くんに比べたら、私たちなんて微々たる力しかないのは分かってる--でも友達が困ってるなら、やっぱり力になりたい」

 

 更にその姿勢は軽井沢の心をざわつかせた--それと同時に逃げ道を塞がれ追い込んでもいた。

 

 気圧されてる顔に冷や汗が滲み出るの見て、松下が冷静にフォローを入れる。

 

「別に今直ぐに信用して全部を曝け出してなんて言わないよ--絶対に守り切れる自信なんてないしね」

 

 この状況に綾小路はどうしたものかと思案する。

 

 既に流れは隠し事を止めて全てを話せとなっている。綾小路としても軽井沢の過去や内面に関してもさわり程度しか知らないので強く出ようと言う気が起こらない--このまま流れに乗って、全てを話させるのも悪手ではない。

 

(ただ、ここに居る全員と嬰児を天秤に掛けてなら……やっぱり嬰児の方に傾くだろうな)

 

 それと同じ結論を得ているのか、戸惑っている軽井沢を必要以上に追い詰めないようにしてきた松下--何が彼女にここまでさせたのか、今まで手を抜いていた状態を脱却しようと思ったのか。

 

(まず確かめるべきはそこか)

 

 考えを纏めた綾小路は松下に向かい言った。

 

「いつにも増して積極的だな--何かあったのか?」

 

「私さ--この前、嬰児くんに聞いたんだよね。本気で戦いたくないのって」

 

 特におかしなこともない話だが、松下はスッと軽井沢に視線を移して続ける。

 

「その時は透かさずに軽井沢さんが話を逸らして流れちゃったけど……思い返せば、そう言う事って初めてじゃなかったよね」

 

「偶々だよ……仮にワザとだとして、どうだって言うのよ?」

 

「別に何も--ただ、軽井沢さんが嬰児くんに尽くそうとしてるのって、Aクラスになる為になるなら、何ひとつ力を貸さない理由はないじゃない。私だってAクラスで卒業したいから」

 

 松下が語ったその理由は誰もが考えなかった訳はなく納得のいくものだった--しかし綾小路は今ひとつ納得しきれない顔で訊いた。

 

「本当にそれだけか?」

 

「ぶっちゃけると、ずっと前から気になってたんだよね。嬰児くんの事--本当に何者なんだろうって?」

 

 色恋とは全く違う好奇心が透けて見える発言--彼女もまた、櫛田に影響を受けたかと綾小路は悟った。

 

(全く持って余計なことをしてくれたな--それとも異能のことまでは知られてないのを安心すべきか)

 

 綾小路が本当に欲っしてるものとは被らない為に焦りはなく、既に学校中から好奇な存在として認識されているだけに冷静に構えることは出来た。

 

「お前も嬰児を暴くのに軽井沢を使いたいってことか?」

 

「そう言う言い方は人聞きが悪いな--友達として恋心を応援したいって気持ちに嘘はないよ」

 

「櫛田だけじゃなくて堀北にも感化されたか……それとも逆か?」

 

 少し前にあった堀北とのやり取りを彷彿させられ綾小路は疑問を投げたが、全く予想外に松下は嬉しそうな顔をする。

 

「見てて面白いと思った--正直言ってAクラスに上がるのはそこまで積極的にはなれない。なれなくたってなんとか出来る自信はあるし……でも嬰児くんの事はこの学校に居る間しか関わることの出来ないレアな事柄だって」

 

 松下は聞き入っていた軽井沢に目を移す。

 

「軽井沢さんはどうなの?」

 

「え、あたし?」

 

「嬰児くんのこと好きなの?それとも私や櫛田さんみたいに特別扱いされる背景に興味があるの?」

 

 話の流れが色恋からミステリアスな方向になり、それは問題の本質を突いている分だけに相当のプレッシャーが圧し掛かる。

 

「嬰児くん、格好良いし頼りになるし、本気で惚れてるなら全力で応援するよ--約束する」

 

「私も同じく」

 

 佐藤も追随し、女同士の空気に綾小路は割り込み切れず成り行きを見守るしかなかった。

 

(ここが正念場って感じだな--返答次第ではオレも色々と考えなきゃだな)

 

 一同の注目が集まり冷や汗をかく軽井沢はどう答えていいかが分からず、だからと言って誤魔化すことも出来ない状況にたどたどしく口を開くも、

 

「え……あの…………その……」

 

「うわっ!」

 

 その時に冷たい風が吹いて、佐藤が咄嗟に手を抑えた--ずっと話し込んでいた所為か、随分と時間が経っていたようだ。すっかり手が凍えており、薄っすらと赤みが浮き出ていた。

 

「取り敢えず場所を変えるか?」

 

「そ、そうだね」

 

 綾小路が淡々と提案したのを受け、一同は綾小路の部屋に行くことになった。

 

 

 

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